クソッ、やられた。
この小暮って女。まだ若いと思って甘く見てたが、なかなかやり手のようだな。
俺の名前は宮野 拓斗。
ファントムでタカとトシキ、英治と今夜の飲み会は誰が払うのかを決め……じゃない。賭け事なんかしてないよ。
久しぶりに麻雀を楽しんでいたら、かつての敵であり仲間となった羽山 秀が俺達の前にあらわれた。
こいつとタカは昔からアレだからな。
なんやかんやあってヒデとタカのせいで、ファントムはボロボロになってしまった。
その片付けをしている最中に、クリムゾンエンターテイメントの幹部、小暮 麗香とinterludeのベーシスト、朱坂 雲雀がファントムにやってきた。
恐らく今のクリムゾンエンターテイメントとして、英治の娘でありファントム内の絶対権力者(自称)の初音に宣戦布告のようなものでもしに来たんだろうと思っていたが、意外な事に小暮の口からでた言葉は"レガリア"だった。
初音をサポートするつもりで、小暮にけしかけてしまったが、レガリアの言葉に俺自身が動揺してしまった。
いや、レガリアの言葉に動揺したのは俺だけじゃなかった。今ファントムに居るメンバーの中では…。
「う~ん!今日もファントムのカレーはデリシャス~」
クッ、盛夏のやつめ!俺のモノローグの邪魔をしただと!?
しかもこいつまだ賄いのカレーを食ってやがったのか!ってか横に置いてある空っぽのカレー皿は何?もしかしてカレー2杯目なの?
「盛夏さん、いつもはもっと食べますのに今日はまだカレー2杯目じゃないですか。今日は少食ですね」
「うぅ~ん…近くで拓斗さんのモノローグが長いしうるさいから食欲がなくて~…」
「なるほど」
何でだよ!何で俺のモノローグが長いとかうるさいとかわかるんだよ!モノローグだよ!?
しかもやっぱりカレー2杯目なの!?ファントムの賄いってどうなってんの!?
それに美緒も『なるほど』じゃねぇ!!
「ほらうるさい~」
「なるほど」
本当にどうなってんの!?
「さて。ま、それはそれでいいとして。早速私の本題に入らせてもらいましょうかね」
本題だと?
チ、どうも近くに盛夏が居ると色々とやり辛ぇ。
聖羅の娘であり、梓の姪というのはわかってはいたが、海原の孫という事もある。
以前の俺はクリムゾンとの長い戦いのせいで、不信感を募らせていた。
そのせいか南国で俺は、タカの仲間である盛夏に対して厳しくあたってしまった負い目があるからな。
まぁ、それは奈緒や香菜にも同じ気持ちだけどな。
「ほらうるさい~」
「なるほど」
いや、だからな…。ああ、俺が悪かったよ。俺が悪い。
もう小暮の話を聞くから勘弁してくれ。
そして俺は困惑している初音をチラッと見て、目で合図を送った。
「うぅぅん…その…レガリアってのは私にはわからないんですけど、小暮さんの本題って何ですか?」
よし、上手いぞ初音。
本当に英治と三咲の娘か?って疑うレベルの聡明さだぜ。
………何で三咲は俺を睨んでるの?
「そうね。あんまりゆっくりしている時間もないしね。さっき私はレガリアを集めるのが目的ってな感じの事を言ったわよね?」
ああ、そうだな。
それでレガリア戦争をまた起こすとか言い出すから俺達は…。
「本当にそれだけよ。私の目的はレガリアの回収。そして私のバンドマン達をレガリアを使える最強のバンドにしたいだけ。
私達がレガリアを持っていればレガリア戦争も起こる事はないじゃない?ほら。あなた達にとってもこれって最善じゃないかしら?」
レガリアの回収か。
それが出来てたらレガリア戦争なんか起こってないだろうし。大神さんも、タカもまだ歌えてたんだと思うぜ。
あ、タカは今でも歌ってたわ。
「それでこれは貴方達にも朗報よ。私達クリムゾンエンターテイメントは、貴方達ファントムのバンドには手を出さない。これは海原さんの命令だから絶対よ。安心していいと思うわ」
あ?クリムゾンエンターテイメントは俺達に手を出さないだと?それも海原の命令で?
何でだ?小暮にしても何故、俺達にそんな事を言いに来た?
いや、待て。そういやタカが足立とやり合った後にも梓が言ってたっけな。海原は何故かArtemisに手を出さないように命令を出してたと…。
クソッ、海原は危険なヤツだ。それは間違いねぇ。
だが何故そんな命令を出したんだ?あの時も今も。
…タカ!?
タカなら何かわかるかも知れねぇ。あいつは俺が最も尊敬するミュージシャンだ。
タカ。お前なら海原や小暮の意図が読めるか?
俺はタカの方に目をやった。
……あいつ鼻くそほじりながら掃除をしてやがる。
そうだな。お前は音楽以外はアレだしただのアホだったよな。俺は何を期待していたんだ…(ギリッ
「ほらうるさい~」
「なるほど」
うん、俺のモノローグ長かったね。
ごめんね、盛夏も美緒も。
「なるほど。私達ファントムにはクリムゾンエンターテイメントはノータッチって訳ですね。
わお!やった!私達ファントムは自由な音楽やりたい放題じゃないですか♪」
初音?
「でもそれを何で私達に伝えに来たんです?そういうのって内緒にしていた方が私達の牽制にもなりますし、クリムゾンエンターテイメントの方達にとっては、その方が都合か良いのでは?」
んん?初音?
お前、前回の話では小暮とのこの状況にビビってなかった?何でそんな的確な質問出来てんの?
「そうね。その方が私達にとっては良かったかも知れないわ。でも前に言ったでしょ?敵が居ないとつまらないって…」
「敵?ああ、そういえば真希さんとシグレさん、美緒にも言ってましたっけ?」
「ええ。もちろん初音ちゃんに対してもよ?」
「その時に私も言いましたけど…」
「そうね。私が貴女達を敵だと思うのは私の勝手。でもね?貴女達にも私の事を敵だと認識して欲しいのよね~」
ファントムのヤツらを…。もう明日香にもつまらない音楽なんかさせたくねぇ気持ちはあるが、今はまだそうは言ってられねぇ。クリムゾンは敵だと、俺達は覚悟してるってんだ。今さら何を…。
「でも海原さんにファントムに手を出さないように言われちゃったでしょ?それじゃつまらないから私一生懸命考えてみたんだよ」
「考えた?」
「そ。海原さんはファントムに手を出さないように言った時にこうも仰ったわ。『我々の邪魔をするのであればその限りではない』とね」
クリムゾンエンターテイメントの邪魔だと?
「私達が…クリムゾンエンターテイメントの邪魔…ですか?やだなぁ、小暮さんはー。私達がそんな事する訳ないじゃないですかぁ」
「そうよね~、私もそう思ったのよ~。だから考えて考えて考えて。レガリアを回収するって答えに辿り着いたの。レガリア戦争を起こさないにしても、私達クリムゾンエンターテイメントがレガリアを持っているのは不安じゃない?何か善くない事をしそうだし」
善くない事をしそうだしって…。
クソッ、確かにこいつらクリムゾンエンターテイメントがレガリアを手に入れたら、何をしでかすかわからねぇ。
15年前の闘いでは海原は、タカのレガリアも梓のレガリアを狙ってくる事はなかったが、元々梓のお袋さんに近付いたのはレガリアを狙ってだったって聞いているしな。
「私の話に興味ない振りをしていても、タカさんと梓さんには気になる内容じゃないかしら?」
小暮のその言葉を聞き、俺も初音もつられるようにタカと梓に目をやった。
タカは嫌そうな顔しながら三咲の横で掃除してるし、梓は……あいつ何やってんだ?
「フ、なかなか…興味ない振りが上手じゃない。さすがと言った所ね」
いや、レガリアの事だし興味ない事はないと思うが、本当に話を聞いてないんじゃないか?
「まぁいいわ。ここには拓斗さんもトシキさんも居るし。ねぇ、私達はファントムには手を出さない。だから、射手座のレガリアも魚座のレガリアも狙う事はないわ。蠍座のレガリアも足立が持っているとなると、色々と面倒だからパスかしらね~」
なるほどな。こいつがファントムに来た目的は…。
「他の9つのレガリア。今、レガリアが何処にあるのか知らないかしら?それを教えて欲しいのよ」
他のレガリアの在りかだと…。
「それ。もし俺達が知ってたとして、教えると思いますか?」
トシキ?
ああ、お前もタカに次いでレガリアには厳しい気持ちを持ってるよな。お前は反応しざるを得ないよな。
「そうね。他のレガリアの事とはいえ、
タカもトシキも英治も三咲も、梓達も無反応を貫いたか。小暮も俺達の動揺を誘いたかったのかも知れねぇが残念だったな。
・
・
・
それから小暮はレガリアについては語る事はなく、初音と世間話をしながら目の前のコーヒーを飲んでいた。たまにクッキーもつまみつつ。
「さて、そろそろ私達は帰りましょうかね。雲雀ちゃん、行きましょうか」
「いいんですか?」
「いいも悪いも。どうせ知っててもレガリアの在りかは教えてくれないでしょうし?
今日の目的は初音ちゃんとお喋りしながら、コーヒーを頂く事だったしね~」
「小暮さんがそれでいいなら僕もいいよ。帰ろうか」
そう言って小暮と朱坂は席を立ち、支払いを済ませて帰ろうとした。
「じゃね~、初音ちゃん。また面白い情報があったら教えてあげるね。次は初音ちゃんからも面白い情報とか聞きたい気もするけど」
「あはは、次はきっと私も面白い情報仕入れときますよ」
「期待してるわね」
小暮がまさにファントムを出ようとした時、
「そうだ。江口 渉」
これまで小暮としか話をしなかった朱坂が、渉に向かって話し掛けてきた。
「今、虎次郎はあるかどうかもわからないレガリアを探して旅をしているんだ」
「ん?虎次郎がレガリアを?」
「レガリアを手に入れて、君を完全に倒すつもりらしい。元々は君がタカさんから、レガリアを受け継ぐと懸念しての事だったけどね」
「いや、俺もにーちゃんの後継者になれるなら、なりたかったけど…。へぇ~、虎次郎がレガリアをなぁ」
「え?渉、俺の後継者になりたかったの?可愛いやつめ」
タカは何言ってんだ…。
「さっき小暮さんが言ったように、僕達はファントムに手を出す訳にはいかないんだ。だから悪いけど、レガリアを虎次郎が見つけてきても、デュエルを挑んできても、虎次郎とのデュエルは断ってくれるかな?」
「あん?何で俺が断らないといけないんだ?虎次郎がデュエル挑んでくるなら返り討ちにしてやるぜ!」
「今の虎次郎とやっても勝てる訳ないのに、レガリアを手に入れた虎次郎とは勝負にもならないでしょ?」
「なっ!?」
「僕の用事はそれだけさ」
そう言って今度こそ小暮と朱坂は帰っていった。
・
・
・
「くっそぉぉぉ!ヒバリの野郎ムカつくなぁ!!」
「まぁ、実際今の
「えぇぇぇぇ!?拓実くん本気!?ボクらじゃinterludeに勝てないと思ってるの!?」
「え?じゃあゆーちゃんは勝てると思ってるの?」
「自信満々のシフォン。推せるぜ」
「姉が…本当に迷惑をかけるわね」
「いや、レイの場合は迷惑っていうか、面倒事を作って楽しんでるっていうか…。でも、レイも何で今頃になってレガリアを…」
「あれ?もしかして真希さんもレガリアってのを知っている感じですか?」
「そういや美来ちゃんってレガリアの話が出てから汗がものすごいですね?大丈夫ですか?」
「ななな、何を言ってるの?私はレガリアなんて知らない。ほらアレがアレでアレだし。アミアミもおかしな事を言う。サム、妹の教育がなってないんじゃない?」
「私をサムと呼ぶなと言っているだろう。それに亜美の言う通り。もう10月だというのに美来の汗は尋常じゃなくないかね?」
「レガリア…。私も詳しくは知らないけれど、父も関係しているのよね」
「今日、渚に梓さんのレガリアの話を聞かせてもらった所だったのにね。何かタイムリーだね?」
「うぅ…梓お姉ちゃんのレガリアは私が受け継ぎたかった。何でそんな大事な物失くしちゃうんだろう…。梓お姉ちゃんも英治さんも…」
みんな想い想いの事を話してるみたいだな。
しかし、南国でも思ったが、さすがファントムのバンドマン達だ。
いきなりクリムゾンエンターテイメントの大幹部がやって来て、レガリアだとか訳のわかんねぇ事を言ってきたのにパニックにもならず、落ち着いてやがる。
フッ、昔の俺は情けねぇな。
こいつらくらいの頃はクリムゾンにビビっちまってたしな。
「「ジー」」
悪かったよ!モノローグ長くて悪かったよ!
だから盛夏も美緒も俺を見てくんの止めてくんない!?
よし、さっきの小暮とのやり取りで俺にも聞きたい事は出来たしな。
やる事をさっさとやっちまうか。
「初音。ちょっと来い」
「え?わ、拓斗さん?」
俺は初音の手を掴み、タカに聞きたい事を聞いておく為に、初音を連れてタカの元へと向かった。
……って説明してんじゃん!
初音の手を掴みはしたけど、タカの元へと連れて行く為じゃん!なのに何なのこいつら!
「美緒~。気を付けなよ~?拓斗さんはああやって幼女を狙っているのかも~?」
「ロリコンはお兄さんだけだと思っていたのに…。これからは拓斗さんにも気を付ける事にします」
「明日香!ほんまやな?ほんまに拓斗くんには何もされてないんやな!?」
「いや、拓斗にはって言うか誰にも何もされた事なんかないけど…。拓斗、私の罠を潜り抜けていたというのはそういう事だったのね…」
「あかん!やっぱり拓斗は危険なヤツや!」
「えぇ~…拓斗くんはいい人だと思うんやけど…」
「梓ちゃんは危機管理能力が足りないよ!あたしも昔、拓斗ちゃんの目って怖かったもん!(笑)」
よし、盛夏と美緒については諦めよう。
盛夏にはやらかしちまってるし、美緒に至っては姉の奈緒の事もあるもんな。
しかし、聡美はホント俺の事をどういう目で見てんの?
仲間だよね、俺達。
明日香、お前はわかってくれてると信じてたのにな。
いや、違うな。お前、彼女出来ない俺の事を、BLかロリコンかどっちかだと思ってたんだっけ?
そしてあの頃から15年経ってよくわかったよ、澄香。
やっぱりお前は俺の事が嫌いだったのな。そうだよな、俺はタカと梓をくっつけようとしてたし。
梓、お前が俺の事をいい人と思ってくれてただけで、今の俺は幸せいっぱいだ。これからも何とかタカと幸せになれるように頑張ってみるぜ。…本音はタカを忘れて俺を好きになってくれた方が嬉しいが…。
日奈子。お前が何を言ってるのかさっぱりわからねぇ。
お前は早くお家に帰って寝なさい。まだ幼女なんだし。
フッ、英治、三咲。心配するな。
俺はロリコンじゃないから。だから、そんな憎しみを込めた目で俺を睨むなよ。マジで怖いんだけど。
俺は周りの目を気にする事はなく、ホントは少し気にはしたけど、気に留めず、タカの元へ初音を連れてきて話した。
「タカ。てめぇはどうするつもりだ?」
「は?拓斗?どしたの?」
「小暮の話を聞いて、てめぇはどうすんのかと思ってな。
初音はあんまレガリアの事については知らねぇみたいだったし、話してやった方がいいんじゃねぇか?」
…うん、俺はタカに言いたい事言ったよ?
なのに何でまだみんなの目は冷たいの?泣きそうになってきた。
「た、拓斗さん、レガリアとか私は別に…」
「…タカ。お前が今の世代に昔の事で巻き込んだりしたくないってのは俺もわかるぜ。俺もBlue Tearの時はそうしてたしな。でも、今はクリムゾンエンターテイメントに目を付けられちまってんだ。お前らの話を聞いてどうするか決めさせてやるのが、今の俺達にやれる事じゃないか?」
……驚いたな。まさかヒデからこんな助け船が来るとはよ。
「めんどくせぇ…」
あ?
「いつかは…昔話みたいな感じで、今の世代のヤツらにも、レガリアや15年前の事とか話してやりたいとは思ってた。アレら"あった事"は俺達の背景の話だ。
けどな、今、奈緒や渉、渚に振りかかってきてやがる。あいつらが当事者になっちまうって所まで来てる。音楽ってのはそういうのじゃねぇよ」
タカ。
やっぱりお前は俺達の大将だな。
いつもアホな事ばっかり言ってるが、大事な事だけはしっかり考えてやがる。
「あいつらにはよ。バカみてぇに楽しんで音楽やって欲しかったんだけどな。こんな小さなライブハウスででもよ。そういう音楽だけをやってて欲しかった」
「タカ。さすがだな。お前もしっかり考えてんだな。でもな、こんな小さなライブハウスでもっては、もしかして
英治。気持ちはわかるが落ち着け。
「それではーちゃんはどうするの?」
「ん~…マジでどうすっかなぁ…。射手座のレガリアと魚座のレガリアは狙わないとは言ってたし、俺らには直接は関係ないとは思うけど、結局レガリアってなるとBREEZEとArtemis的にはなぁ~…とは思うし。あのばぁさんならまだ持ってても不思議じゃねぇけど。うぅぅぅぅぅん…お家に帰りたい…」
まぁ確かにな。
ファントムの俺達からすりゃレガリアは関係ねぇ。
射手座のレガリアも狙われる訳じゃねぇなら、三咲がレガリアを託した天音って女の子か?
その子も探し出す必要もねぇしな。
しかしあのばぁさんか。
やっぱりタカもレガリアの所在となると、あのばぁさんを思い出すか。
……思い出したくねぇな。あのばぁさん怖いし。
おっと、自分の世界に入ってる場合じゃねぇ。
問題だってんなら、俺達は大神さんのレガリアを託されたBREEZEではあるし、梓達は梓のお袋さんからレガリアを託されたArtemisではある。
俺達にはレガリアを託された責任があるからな。
「ね、ねぇ、タカ…ちょっといい?その…レガリアの事なんだけど…」
ん?初音?
レガリアの事をタカがどうするつもりなのか、考えを聞いて初音にこれからの事を決めさせる為にタカの元へと連れて来たんだが。
フッ、さすがは英治と三咲の娘であり、今はタカのBlaze Futureのチューナーだな。
迷っているタカに意見を言うつもりか。
「ん?初音ちゃん?どした?」
「えっとね。小暮さんは射手座と魚座?
その2つのレガリアは狙わないって言って、他のレガリアの在りかを私達に聞き出そうとしていたんだと思うんだけど」
「ああ、そうだろうな。ったく、俺らは楽しんでバンドやりたいだけだってのに、クソめんどくせぇ話だよな」
「タカ達は他のレガリアが何処にあるのか知ってるの?だから守るべきかとかそういうので悩んでるのかな?って思って…」
「……」
……ん?あれ?え?
他のレガリアの在りか?
そういや今は何処にあるんだ?そもそもBREEZE解散してから15年も経ってるし、俺らがあん時に会った先輩方もレガリアを他のヤツに託したり失くしたりしてたよな?
「おい、英…」
「いや、知らんぞ?そもそも15年前もレガリアの全部は見てないだろ?」
「……トシ」
「ごめん、はーちゃん。俺も知らない」
「拓…」
「俺は日本中放浪はしてたがレガリアの話は耳にした事ねぇな」
まぁ、放浪中は梓のmakarios biosや明日香の両親、大神さんの事を探すのが目的だったしな。
タカはその後、Artemisのメンバーの方へと目をやったが、みんな首を振っていた。
「……初音ちゃん。そういう事だ」
「そういう事だ……って。
だ、だったら小暮さんのさっきの話も誤魔化す必要もなかったし、警戒するにしてもどうしようもなかったんじゃ…」
「あ、あは…あはははは!そ、そうだよな!俺らにはどうしようもないし、どうも出来ないじゃん!え?ちょっと待って!今めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!ファントムのメンバーみんな居る前で『レガリア戦争は繰り返す訳にはいかねぇ。俺はどうすればいいんだ』みたいなノリでかっこつけちゃってたけど、何も出来ないじゃん!恥ずかしい!数分前の俺を殴りたい…!」
あ、あはは…。ヤバい。俺もめちゃくちゃ恥ずかしい。
モノローグの中でめちゃくちゃ語ってのに、俺も何も出来ないじゃん。
え?これ俺の羞恥心を煽るお話なの?
このモノローグって盛夏と美緒には何故か読まれてそうだよね?
俺がそんな事を葛藤している時だった。
「やれやれ、どうせそんな事だろうと思ったわ」
理奈がタカの元へとやって来た。
こんなタイミングでどういうつもりだ?
「ちょっと…顔を貸してもらえるかしら?あ、言っておくけれど拒否権はないわよ?しばかれたくなかったら素直に着いて来なさい」
「え?あ、あの…俺、何かしばかれるような事しちゃいましたかね?ど、土下座しましょうか?それで何とか許していただけませんか?」
タカも同じ事を思っていたか。
タカのヤツ何か理奈にしばかれるような事したかな?
さっきのヒデとのやり取りは確かにやり過ぎだったとはいえ、呼び出してボコられるような案件じゃねぇとは思うんだが…。
「素直に着いて来たらしばかないわよ?」
「本当か?本当にか?嘘だったら泣くぞ?いや、しばかれても結局泣く事になるよな。あれ?俺どうしたらいいの?もう泣きそうなんだけど?」
「いいから来なさい」
そう言ってタカは理奈に引き摺られて行った。
その間タカは助けてとか死にたくないとか言っていたが、誰もタカを助ける事はなかった。
・
・
・
「うぅ~ん、ここじゃちょっと聞こえ辛いかも」
「でも理奈は黙って立ってるだけだし…」
「愛の告白…って訳じゃなさそうだね」
「みんな安心して。私ならここでも会話は聞こえるから」
「澄香が人間離れしててくれて助かるぅ~」
…俺も人の事を言えた訳じゃないが、理奈に引き摺られて行くタカを助けなかったのに、陰からみんなこっそりタカと理奈を覗いていた。
俺の居るこの場には、渚と奈緒、志保と澄香と梓が居る。そしてここから見える場所には架純と結衣と渉達Ailes Flamme、そして三咲と英治とトシキ。
ちょっと離れた所には美緒と初音と盛夏と香菜。何で盛夏はまだカレーを食ってんだ?
そしてファントムの割れた窓からは、Canoro FeliceとGlitter Melody、Noble Fateと双葉とまどかが覗いていた。みんなどんな野次馬根性なの?
「そろそろ…かしらね」
「そろそろ?そろそろって何ですか?そろそろ僕しばかれちゃうんですか?」
理奈とタカの会話が少し聞こえてきた。
そしてその直後、タカと理奈の元へと1人の男がやって来た。あの人は…。
「氷川…さん?え?何で?」
「久しぶりね、父さん」
タカと理奈の元へとやって来たのは氷川さん。
理奈の父親であり、先代の射手座のレガリア使い手である大神さんと同じバンドをやっていて、タカにレガリアを託した人だ。
タカと理奈、そして氷川さんはそこで少しの会話をしていた。所々しか聞こえて来なかったが、会話の全てが聞こえていた澄香から俺達は話を聞いた。
理奈はどういった経緯からかは知らないが、ここ数ヶ月父親である氷川さんと会えていなかったらしい。
そして今回、小暮から出たレガリアの話を聞き、かつてレガリアの使い手である大神さんと同じバンドメンバーだった氷川さんなら、今のレガリアの所在を知っているかもと思い、呼び出そうとしたそうだ。
だが何故か氷川さんは理奈からの呼び出しを全て無視していた。そういった事から『父さん、恥ずかしいのだけれどタカさんと私…。あ、タカさんが父さんにちゃんと挨拶したいと言っているのだけれど…今からファントムに来てくれないかしら?』などと思わせ振りなメールを母親に送り、それを氷川さんに転送してもらって呼び出しに成功したらしい。
氷川さんはよくも騙したな!などと怒っていたが、理奈に『黙りなさい。◯すわよ』と言われ、静かに小暮との経緯を聞いたそうだ。
氷川さんもかつてのレガリア使いや、レガリア使いと同じバンドのメンバーと連絡を取る事は出来るが、結果的には俺達と同じ。
現在のレガリアの所在はわからないし、連絡網が完全に断たれたレガリア使いも居るようだった。
・
・
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「役に立たない父親で申し訳ないわね」
「いや、別にしょうがないんじゃない?氷川さんがバンドを辞めたのはBREEZE解散よりも前の話だし」
「それでもよ。一応父さんも当事者ではあったんだし」
「それに次は文化祭編の予定だしな。その後は修学旅行編も控えてるし、レガリア捜索編とかにならなくて良かったんじゃねぇの?」
「あなた…本当に訳のわからない事をよく言うわよね」
「これって完結するのかな?ハロウィンライブとかファントムギグっていつやれるんだろ?」
タカが何か訳のわからない事を言っているが、現状俺達にはレガリアの所在はわからないし、クリムゾンエンターテイメントの奴らがファントムに手を出さないってんなら、今はそれでもいいのかも知れねぇな。
今の所は…だけどな。
そういやタカには内緒だが今のファントムの連中に話してやるBREEZEの過去編もあるしな。
いつになったら完結するだろうか…。
その後はファントム内の片付けを何故か氷川さんも巻き込んで早急に終わらせ、ありがたい事にヒデの奢りでそよ風で親睦会という名の飲み会が開催された。
晴香は大儲け出来たと喜んでいた…。
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「ね、ねぇ、美来ちゃん」
「お母さん?何?あ、この冷奴?
何故かあたしはお母さんの大好物のお豆腐よりタカくんの大好物であるラーメンが好きだし、お母さんにあげても構わない。
でも何でだろね?有希はタカくんの大好物であるラーメンをちょっと脂っぽいとか言って好きじゃないのに、何故かお母さんの好きなお豆腐マニアだし」
「あ、それね。それはあたしも不思議には思ってたんだけど…makarios biosって言っても趣味嗜好までは一緒じゃないのかな?有希ちゃんはアニメとかゲームも興味無さそうだし」
「お母さんの目はたまに節穴だよね?」
「え?何で?」
あたしの名前は木原 梓。
そよ風での飲み会のタイミングで、モノローグを拓斗くんから譲ってもらったのだ。
美来ちゃんに聞きたい事があったから。
「まぁ、冷奴はありがたく頂いちゃうけど、美来ちゃんはあたしのあげたお守り大事にしてくれてるよね」
「うん。お母さんから最初に貰ったモノだし。いつも肌身離さず持っている。あたしの大切な宝物」
「うん。ありがとう~♪」
「お、お礼を言われるような事じゃないし…」
さぁ、どう切りだそうか。
あたしが美来ちゃんにあげたお守り。
かつて日奈子の神社で買った割りと巨大な恋愛成就のお守り。
その中にあたしのレガリア。魚座のレガリアは入っている。……はず。
美来ちゃんはお守りの中を見たんだろうか?
美来ちゃんは魚座のレガリアの存在を知っているのだろうか?
また、魚座のレガリアと一緒に入れていたBREEZEのサイン入りチェキや、タカくんと初めて会った時に拾ったタカくんがバイクの油で汚れた手を拭いたフライヤーは見てしまったんだろうか?
いつも美来ちゃんに聞かなきゃいけないとは思いつつも、美来ちゃんの可愛さと楽しいヲタ話のせいで、うっかり聞き忘れていた。
だけど今日、こんないい機会を手に入れる事が出来た。
今日こそは美来ちゃんに聞かなきゃいけない。
・
・
・
って思ってたのに話を切り出せずにもう1時間以上経っちゃったよ。
うぅ、どうやって切り出せば…。
「お母さん今日はあんまり飲んでないね?なっちゃんとか他のメンバー居るから醜態を晒せないから、飲むの控えてるとか?」
「え?あたしいつも美来ちゃんの前で醜態晒してるの?具体的にどんな感じに?あ、待って。やっぱり聞きたくない」
美来ちゃんはあたしと同じチカラを持っているはず。
あたしのmakarios biosなんだし。
でも美来ちゃんはピアスを開けていない。
アレがレガリアとわかっていなくても、あたしの遺伝子なら『わぉ。お母さんから貰ったお守りの中にピアス入ってんじゃん。ラッキー。これを機にピアス開けちゃお!』と思っても不思議はない。
でも『わぉ。お母さんから貰ったお守りにピアス入ってんじゃん。うぅん。ピアス開けるの怖いしね。ポイしちゃお!』と思って捨てても不思議はない。
うぅぅん…、どっちなんだろう?
いや、どっちっていうかお守りの中を見てない可能性もあるし…。わかんないわかんない!お家帰りたい!
「お母さん?どうしたの?」
「あ、あはは。な、何でもないよ」
あたしは結局美来ちゃんにレガリアの事を聞く事は出来なかった。
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ふぅ。今日は奢りとはいえ遅くなってしまった。
そよ風の飲み会の後に、まさかデザートにラーメンを食べに行く事になろうとは。
さすがタカくんだ。女子力が高い。
あたしはクリムゾンエンターテイメントに造られた生命体、makarios biosの39番。
今は…一応、美来という名前をいただいている。
あたしは今日たまたまファントムに出向いていた。
いや、本当にたまたまだから。うん。
そこであたしはレイレイに会ったりなんだかんだあって、ファントムの飲み会に潜入する事に成功した。
これはあくまでもスパイ活動である。ほぼ隔週でファントムかSCARLETの関係者との飲み会をしているが、あたしはファントムの動向を探る為に嫌々飲み会に参加しているのだ。
しかし今日も楽しかった。
門限過ぎちゃってるし、海原とか九頭竜とかに文句言われたらどうしよう。小夜もうるさいだろうなぁ。言い訳考えとかなきゃ。
けどお母さんの様子。
飲み会の前半は妙だったな。後半はいつものようにへべれけってたけど。
…きっとレガリアの事だよね。
あたしはお守りにしては、やたら大きいしやたらゴツゴツしているし。そういうのが気になって、ある日こっそりとお守りの中を見てみた。
お守りの中に入っていた綺麗なピアス。
それを見た時、『これはレガリアだ』と気付いた。
makarios biosはクローン体だ。
あたし達makarios biosはクローン元の記憶は共有出来ていないらしい。
だから、あたしはレガリアの事なんか知らないはず。
それなのにあたしはそれがレガリアという大切な物だと気付いたのだ。
でもまぁ、記憶の共有はないとはいえ、あたしとお母さんの推しは同じだし、服の好みとかも似ていると思う。
そして、お守りの中に入っていたBREEZE時代のタカくんのサイン入りチェキは、こっそりと額縁に入れてあたしの部屋に飾っている。
おっと、勘違いされても困るので先に言っておこう。
タカくんのサイン入りチェキを飾っているのは、当然あたしがタカくんの事を好きだからという理由ではない。
元BREEZEであり現Blaze Futureのタカくんは、あたし達クリムゾンエンターテイメントの敵だからだ。
あくまでも憎い敵を目の前にして、闘争本能を燃やす為に飾っているのだ。
ちなみにお母さんのお守りに入っていたチェキには、タカくん以外のBREEZEのメンバーも写ってはいるのだが、あたしにとっては眼中にない。だってあたしボーカルだし。
まぁ、そんな訳で。
中に入っていたピアスをレガリアと気付いたあたしは、まだお守りの中にレガリアを封印していた。
他にも小汚ないフライヤーも入っていたけど、それも一緒に。
…お母さんの今日の反応を見ると、レガリアはきっとあたしに託した訳じゃないんだろう。
お守りに入れてたのを忘れてただけかな?
ただ、レガリアはあたしが持っているという事実だけは把握しているんだろう。
レガリアがクリムゾンエンターテイメントであるあたしの手にあると、澄香達に知られるとバカにされるわ怒られるわで、どうしようもないから失くした事にしたんだろうな。
…あたしにレガリアの事を聞いて、あたしがレガリアを持っていると言ったらどうしただろう?
そのままあたしに託してくれる?
いや、あたしはクリムゾンエンターテイメント。それはないだろう。
お母さんに今、レガリアを返したら誰に託したんだろう?もしかしたら自分で使う道も選べてたのかな?
クリムゾンエンターテイメントの39番としては、レイレイか海原にレガリアを渡すのが正解だと思う。
でも、美来としてはお母さんにレガリアを返すのが正解だと思う。
でもね、あたしという"個人"が許されるなら、お母さんのレガリアはあたしが継承したい。
あたしはどうするのがいいんだろう?