バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第67話 それぞれのチューナー

「ふぁ…ふぁぁぁぁ…。今日は暇だな…」

 

俺は大きな欠伸をして、今日は暇ですよアピールをしてみた。

うん、本当に今日は暇だ。

 

こんな日はジャズでも聴きながら、ゆっくりコーヒーを飲んでボーっと過ごすのも悪くない。

 

そう思った俺はコーヒーを淹れ、ちょっと古めのレコードプレイヤーで、ジャズをかけてみた。

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

うん、悪くない。

俺はコーヒーの薫りを嗅ぎながら、レコードから流れる古めかしい音に耳を傾け、ゆっくり目を閉じた。

 

「働かないなら帰れー!!!!」

 

「ちょっと初音。帰れは言い過ぎじゃ…」

 

「確かに今日は暇だよね~。こんな暇な日にあたしも美緒もシフト入ってて大丈夫なのかなぁ?」

 

ゆっくりボーっとした午後を過ごしたかったのに、我がファントムの従業員達のけたたましい声で、一気に現実に帰ってきてしまった。

 

俺の名前は中原 英治。

かつてBREEZEというバンドでドラマーとして活躍し、今はライブハウス兼カフェテリアファントムのオーナーである。

 

「大体お父さんは何でファントムに居るの!?

今日は美緒も盛夏もシフト入ってくれてるし、私も居るから従業員は足りてるのに!」

 

「ああ、今日、三咲はArtemisの奴らと女子会らしいし、タカもトシキもつかまんなくてよ?拓斗は仕事らしいしな。だからたまには働こうかと思ったんだが…」

 

「だったら働こうよ!カフェは私達で足りてるんだし、ライブハウスの方の掃除とか機材のチェックとか色々あるじゃん!」

 

「俺も最初はそう思ってたんだぞ?でもライブハウスの機材チェックとか掃除もろもろはSCARLETの人らがやってくれてんじゃん?」

 

「う…た、確かにそうだけど…」

 

そう。SCARLETと提携してからというもの、ステージや機材のチェックから、楽屋の掃除などもろもろまで、日奈子と手塚さんの指示の元、SCARLETの従業員の方々がやってくれているのだ。

 

カフェは初音と盛夏ちゃんと美緒ちゃんと時々三咲。

ライブハウスはSCARLETの従業員の方々。

 

俺はファントムを建てるまで、仕事を掛け持ちしながらめちゃくちゃ頑張っていた。

今はその時頑張ってたボーナスタイムなのだ。

 

そう思い日々だらだらと過ごしていた。

もちろんやる時にはやるべき事はやってるけどな。

 

「働いて欲しいなら仕事振ってくれよ。やるから」

 

「チッ」

 

今、俺の娘に舌打ちされた?

 

「ハァ…まぁいいか。お父さんだし。盛夏、美緒、このおっさんは居ないものとして今日も頑張ろうね」

 

「居ないものとしてって…」

 

「ん~、でも今日はヒマヒマだしなぁ~。いつもならファントムのバンドのみんなでいっぱいなのに~」

 

確かに盛夏ちゃんの言う通り今日は暇過ぎるな。

 

「あ、お父さん。そのコーヒー代はお小遣いから引いとくから」

 

な、なん…だと…。

 

 

 

 

あれからどれくらいの時間が経っただろう?

そろそろファントムのバンドメンバーの誰かが来てもいい時間だろうに、誰もやってくる気配がない。

それどころか一般のお客様も全然来ない。

うちの経営大丈夫かな?

 

俺は相変わらずボーっと過ごしていた。

美緒ちゃんと盛夏ちゃんはたまに初音に料理を教わりながら、店の掃除やらをしていたが、それでもかなり暇そうにしていた。

 

しょうがない。少し仕事を振ってやるか。

 

「あ、盛夏ちゃん。悪い、コーヒーのおかわり頼めるかな?」

 

「ふぇぇぇぇぇぇ……」

 

何で嫌そうなの?

 

それから少しして盛夏ちゃんが俺にコーヒーのおかわりを持って来てくれた。すごく嫌そうで面倒くさそうな顔をしながら。

 

「は~い。コーヒーのおかわりで~す。おかわりのついでにカレーはどうですか~?今なら大盛りもお安くなっております~」

 

そのカレーを頼んだとしたら、また小遣いから引かれるんだろうな。

 

「あ、そうだ盛夏ちゃん」

 

「ほえ~?」

 

「初音とは練習とかしてんのか?」

 

「初音と練習?お料理の練習ならたまに~?」

 

「いや、料理じゃなくて…」

 

「ならチューナーの事かなぁ?ん~…チューナーとしての練習はやってないかも~。スタジオ練の時は初音も一緒の事もあるけど、基本的には初音はあたし達の演奏を聴いてるだけだし~」

 

盛夏ちゃん達の演奏を聴いてるだけ?

なるほどな。そういや三咲も俺達の演奏を近くでよく聴いてたからBREEZEのチューナーとして開花した訳だしな。

まずはBlaze Futureの曲を初音に馴染ませようとしてんのかな。

 

「初音もチューナーの練習してるの?」

 

「美緒?うーん…私もBlaze Futureのチューナーとしてしっかりやりたいってのはあるんだけど、私自身チューナーの役割ってあんまりわかってなくて…タカにお母さんの方が良かったとか思われたくないんだけだね」

 

安心しろ初音。

タカなら絶対にそう思う事はないだろうから。

むしろ三咲じゃくて良かったとまで思うはずだ。

 

「Blaze Futureもそんな感じか。お姉ちゃんとはあんまりそういう話はしないし」

 

「Blaze Futureも?あれ?美緒達も…Glitter Melodyもチューナー決まったの?」

 

「ん?あれ?知らなかった?」

 

あ、そういや初音にはまだGlitter Melodyのチューナーが決まった話ってしてなかったな。

 

「ええええええ!?知らなかったよ!」

 

「ほえ~、Glitter Melodyもチューナー決まったんだ~?それはそれは~」

 

「え?盛夏さんも知らなかったんですか?お兄さんもうちのチューナーとは会った事ありますし、お姉ちゃんにもチューナーが決まったって事は話してのに…」

 

ああ、確かにタカも俺もGlitter Melodyのチューナーは紹介されたな。

 

「へぇー、どんな人?私も話しやすい人なら色々チューナーの話とかしたいんだけど」

 

「人…なのかな?」

 

「お~いおいおいおい(涙)。タカちゃんもGlitter Melodyのチューナーに会った事あるのに…。奈緒もあたしとよく遊ぶのに、ああ、それなのにそれなのに、Blaze FutureのあたしにはGlitter Melodyのチューナーの事を話してもらえてなかったのでした~(涙)」

 

「(涙)って…。初音もあんまりチューナーの練習してないみたいですし、盛夏さんってお兄さんとかお姉ちゃんとそういうお話ってしたりするのですか?」

 

「ううん。全然~。

タカちゃんとはご近所の大盛りとか爆盛りのご飯屋さんの話とかだし、奈緒とはソシャゲとかアニメの話ばっかりかな~?」

 

「お、お兄さんが…ラーメン屋以外のご飯屋さんの話を!?」

 

美緒ちゃんもどこに驚いてんだ?

まぁ、タカはファントム(うち)とそよ風以外ではラーメンしか食わないイメージだし、ラーメン屋以外の飯屋の話すんのは俺も少しびっくりだけど…。

 

「おい、初音」

 

「お父さん?何?今はお父さんなんかに構ってる場合じゃないんだけど。

で、それで美緒。Glitter Melodyのチューナーの人って…」

 

「俺もGlitter Melodyのチューナーには会ったぞ」

 

「ふぅん。

美緒!お願い!私もチューナーのやるべき事ってよくわかってなくて焦ってるんだよ…!紹介してくれないかな?」

 

初音!?

パパもGlitter Melodyのチューナーには会った事あるって言ってるんですけど!?

 

「いや、紹介くらいならしてもいいんだけど…、私達のチューナーって喋れないし…うぅ~ん」

 

「え?喋れない…?それって…」

 

「あ、えっと、ごめん。言い方が悪かったよね。

写真見てもらった方が早いかな。えっと……この人?」

 

この人?って…。

まぁ、人かどうかも怪しいしな。

 

「え?こ、この着ぐるみ?…が、Glitter Melodyのチューナーさんなの?」

 

「うん。一応。

Glitter Melodyはマスコットキャラでグリメロちゃんってのを作る事になって…。そのグリメロちゃんが私達のチューナーなんだよ。中の人?は日奈子さんのお墨付きですごいミュージシャンらしいんだけど、私達もグリメロちゃんにしか会った事なくて…」

 

「あ、そうなんだ…。それで喋れないってのと、この写真の端っこに写ってる血塗れのタカとお父さんが気になるんだけど?」

 

「ああ、グリメロちゃんは着ぐるみだから喋れなくて、会話はフリップでやってる感じかな?フリップに文字を書くのが早いから、私達的には不自由してないし、練習中も的確に色々助言してくれてるから助かってるくらいだし。あ、それでお兄さんと英治さんが血塗れなのは、何故か顔合わせの時に、グリメロちゃんが暴走モードになってお兄さんと英治さんに襲い掛かってね」

 

そうだよそうだよ。あん時はマジで死んだかと思ったわ。

いきなりグリメロちゃんの爪が伸びて牙が生えて…。

『グォォォォォォォォ!!』って叫びながら、俺とタカに襲い掛かってきたもんな。

爪で切り裂かれ鋭い牙で噛みつかれ、そして壁に叩きつけられたり、馬乗りになって殴られたりしたもんな。

何で俺とタカだけ…。

 

ああ、でもタカのやつが…。

 

『うぅん…あのグリメロちゃん。何となく知り合いな気がするんだよな…』

 

『は?まじでか?俺の知り合いに着ぐるみなんかいないぞ?』

 

『いや、中の人だよ中の人。ってかな、日奈子の知り合いって話しだし、美緒ちゃんの話では音楽にかなり精通してるみたいだし、俺とお前に初対面であんな容赦ない暴力奮うとか知り合いしかありえなくね?』

 

『はぁん、なるほどな。……俺らの知り合いってんなら中身は男か。誰だろ?』

 

『あ?男?何で?力が強かったから?力強い女の人も俺らの周りに多くない?梓を筆頭に渚とか理奈とか奈緒とか』

 

『いや、お前、澄香がセバスチャンの時に『1度会った女は忘れねぇ』って言ってたろ?お前がアレの中身がわかんないなら女じゃないって事じゃないのか?』

 

『あ?あれは澄香だからわかったってだけで…』

 

『え?お前、澄香だったからわかったの?』

 

『……グリメロちゃんか。一体何者なんだ』

 

『いや、話反らすなよ。本当はセバスチャンの正体が澄香だったから気付けたってだけで…』

 

そういやあの後に俺はタカに何故かボコられたんだよな。気付いたら家だったし。

何でタカは澄香だからってわかったんだろ?あいつが強くなかったら、この話題で弄れたんだけどなぁ。

痛いのは嫌だしこの事は忘れた方がいいな。

 

「それにグリメロちゃんもチューナーってなるとあんまりよくわかってはいないみたいで…。手塚さんに鍛えられてはいたみたいなんだけど…」

 

「そっかぁ…残念…」

 

「あ、でも一応紹介はしようか?次にグリメロちゃんに会った時に都合のいい日を聞いとくよ」

 

「わ!ありがとう美緒!」

 

「なるほどねぇ~。って事はぁ?

Ailes Flammeはさっちちゃん~。

Blaze Future(あたしたち)は初音で~。

Canoro Feliceが綾小路さんで、Divalは来夢ちゃん。

そんでGlitter Melodyはそのグリメロちゃん?

evokeとNoble FateとFABULOUS PERFUMEとLazy Windかがまだチューナー決まってないって感じかなぁ?」

 

ああ、確かにそうだな。

evokeもチューナーは探してるみたいだし、Lazy Windもヒデのヤツが架純ちゃんのメロディーに合いそうな人の心当たりがあるとか言ってたけどな。

 

FABULOUS PERFUMEはみんな面接で落としてるみたいだし(主に沙織が)、綾乃達Noble Fateはまだチューナーは早いとかで探してもないみたいだが…。

 

「でもこのグリメロちゃんって大丈夫なの?お父さんとタカをしばいちゃうようなマスコットなんだよね?」

 

「え?いや、大丈夫って言うか、まだチューナーとして…」

 

「あ、いや、チューナーとしてじゃなくて、Glitter Melodyのマスコットとしてね。凶暴だとまぁロックな感じがするかもだけどイメージは良くないんじゃないかな?って思って」

 

「ああ、そういう事なら大丈夫だよ。

えっとこっちの写真がいいかな。ほらこれ。グリメロちゃんの通常形態はこっちの姿だから」

 

「わぁ♪すごい可愛い~!!めちゃくちゃ可愛いマスコットじゃん!………どうやって着ぐるみが牙や爪を生やしたりするんだろう?」

 

「さぁ?何か日奈子さんの話じゃ、通常形態の他に暴走モード、フライトモード、マリンモード、ラブリーモードやセクシーモードなどなど、色んなモードがあるらしくて…何か日奈子さんの技術で搭乗者の意思による可変型の開発に成功したとかで…」

 

何で俺とタカが会いに行った時は暴走モードだったの?

セクシーモードでいいじゃん!!

搭乗者って何だよ搭乗者って!!

 

……しかしまぁ。

あのグリメロちゃんの中身が誰にしろ、Glitter Melodyのチューナーになってくれるってのはありがたいよな。

 

日奈子の話じゃ中の人の希望でGlitter Melodyのチューナーになったって話だし、何かどういう訳か美緒ちゃんに合わせる為に訓練もしてきたらしいから、美緒ちゃん達にとっては、グリメロちゃん以上のチューナーなんか居ないだろうな。

 

本当にタカの言うように俺らの知り合いなのかな?

俺らの知り合いでGlitter Melodyに共通した知り合いなんか居ないと思うんだが…。

 

「あ、そうだ。お父さん」

 

「ん?何だ?」

 

「BREEZEのチューナーはお母さんだったでしょ?Artemisのチューナーは誰だったの?」

 

「あん?Artemisのチューナー?」

 

「そういえば翔子先生に観せてもらうライブのDVDは対バンとか普通のライブばっかりで、エンカウンターデュエルの演奏とかは観せてもらった事ないかも」

 

「あー、あたしもそれ気になる~。美しい堕天使シャイニング梓お姉様には、あんまりそういうの聞いた事ないし~」

 

「は?盛夏ちゃんも聞いてないのか?」

 

「ほえ~?あたしの知ってる人なの?」

 

いや、知ってるも何も…。

 

「Artemisのチューナーは聖羅。盛夏ちゃんのお母さんだぞ」

 

「「「は?」」」

 

え?何この反応。

俺の予想だとこんな風に……。

 

初音『えぇ!?盛夏のお母さんがArtemisだっの!?すごい!今度、盛夏のお母さんともお話させてよ!』

 

美緒『そうだったんですね。さすが聖羅さん、伊達に梓さんのお姉さんも盛夏さんのお母さんもやってないという訳ですね』

 

盛夏『ほえ~?お母さんがぁ~?あたしは聞いた事ないなぁ~』

 

……なると思ってたのに。

あれ?俺、意外とみんなの特徴掴むの上手くね?

今度タカ達と晩飯を賭け…じゃない。晩飯を食いに行く時はファントムのメンバーの物真似勝負とかにしてみよう。これなら勝てるかもしれねぇ。

 

「「「……」」」

 

ん?てか何で初音も盛夏ちゃんも美緒ちゃんも黙って俺を見てるの?あ、俺がかっこいいから?

 

「あの…とてつもなく言いにくいんですけど」

 

そしてやっと美緒ちゃんが口を開いた。

 

「美緒ちゃん?どした?」

 

「わ、私も言いにくいんだけどね。盛夏のお母さんって…」

 

初音?聖羅がどうかしたのか?

 

「お母さんって当時はクリムゾンエンターテイメントの大幹部様だよね~?それなのにArtemisのチューナーをやってクリムゾンと戦ってたの?」

 

「え?そうだけど?」

 

「そ、そうだけどって…軽っ…」

 

「それでよく聖羅のお母さん無事だったよね。あれ?もしかして私達がクリムゾンとの戦いを重く考えすぎ?」

 

「世の中不思議な事もあるもんですな~」

 

まぁ、聖羅はArtemisのチューナーやってる時は、こないだの周年記念の時のAiles Flammeみたいに仮面付けて、クリムゾンの奴らには正体を隠しながらやってたからな。

 

…初音も美緒ちゃんも盛夏ちゃんも、クリムゾンとのこれからの事を重く考えてるみたいだし、少しは肩の力を抜けるようにこの事は黙っておくか。

 

そもそも俺達BREEZEも何であんな仮面付けてるだけで、クリムゾンの奴らを欺けてたのか本当にわからないし。

思い返してみると本当に不思議だわ。

 

 

 

 

 

「ったく、どいつもこいつも…」

 

「ん?どしたの手塚?何か悩み事?しょうがないなぁ。明日から会社来なくていいよ。お疲れ様でした」

 

「何でだよ!俺が悩んでんなら社長として、何か相談乗るとか飲みに行こうとかそういう気遣いねぇのかよ!何で会社来なくていいってなるんだよ!」

 

「…え?やだ…飲みに誘えとかそれってパワハラ?」

 

「あああ!もう!お前と話してても疲れるなぁ!」

 

「ボス。手塚は飲みに行って酔い潰れたボスをなんやかんやするつもりかも知れない。これはパワハラ案件ではなくセクハラ案件だな。よし、然るべき場所に訴えに行こう」

 

「えぇ!?お、お父さんサイテー!」

 

「てか何で有希も亜美も社長室で仕事してんだよ!お前らは自分の部署で仕事しろよ!そして亜美は俺の事はSCARLET(しょくば)ではパパと呼ぶなと言ってんだろうが!」

 

「え?手塚も自分の部署で仕事すればいいじゃん。何で社長室に要るの?」

 

「愚問だな手塚。もう秋だというのにまだ世の中は暑い。エアコンが快適に効いている社長室の方が色々と捗るというものさ」

 

「いや、あたしパパとか呼んだ事ないし。てか、有希ちゃんも仕事してる訳じゃないよ。さっきからスマホのゲームやってる」

 

何だと?有希のヤツ、仕事をやってる振りしてスマホのゲームやってやがるってのか。

さすがタカの遺伝子だけの事はあるぜ。

 

俺の名前は手塚 智史。

元天才的ギタリストでありクリムゾンエンターテイメントの四天王と呼ばれた男だ。

 

「それでお父さんは何をさっきから悩んでるの?」

 

亜美…。こいつ俺のモノローグの途中で…。

 

チ、まぁいい。このままじゃ話も終わらねぇしな。

 

「…お前らを含めてファントムのヤツらのチューナーの事だ。evokeとNoble Fate、FABULOUS PERFUME、そしてLazy Windはチューナーがまだ決まっていねぇ」

 

「何を言っているんだ手塚は。やはりお前はアホだな。今すぐ辞表を出して還るといい。土に」

 

「有希…お前は本当に…本当にな!」

 

「そもそもあたしと有希ちゃんにはチューナーはいらないよ。あたしら最強だし、今までも何とかって事はあったけどクリムゾンに負けた事もないし」

 

「亜美の言う通りだ。わかったなら早く還るんだな。土に」

 

「……今までは何とかなってたかも知れねぇ。いや、お前らなら何とか出来るだろうとは思って、俺もチューナーの育成には力を入れても、お前らに合う合わないでは育成してこなかった」

 

「え?ならお父さんは何の為にチューナーを育成してたの?」

 

「だが今は状況が大きく変わった。海原が日本に帰ってくるし、足立の野郎も何か企んでんのかも知れねぇ。今までアホの二胴とバカの九頭竜が指揮を取ってきたクリムゾンとは違う」

 

足立は出鱈目だからな。チューナーが居ようが居まいがこっちに合わせたデュエルで、完膚なきに心を折りにかかってきそうだが、海原は違う。

あいつは用意周到に必ず"負けない"ように刺客を送り込んでくるはずだ。必ず"勝つ"ように仕込んで来ないから余計に厄介なんだが…。

 

「手塚。それでも私達にはチューナーなんて…」

 

「有希ちゃん、亜美ちゃんも。一応15年前にArtemisとして海原達と戦ったあたしとしては、チューナーは必要だと思う。聖羅が居なかったら、普通のデュエルや対バンは大丈夫だったとしても、もしかしたらエンカウンターデュエルじゃ負けてた事もあったかも知れない」

 

「ボス…」

 

「まぁそれでも?一応あたし達はBREEZE以外には負けなしだったし、実際はわかんないけど。海原は…あいつは本当にヤバいよ」

 

「ボスがそう言うなら私は従うまでさ。亜美、私達もチューナーを本格的に探すとしよう」

 

「うん!そうだね有希ちゃん!」

 

こいつら!本当にこいつら!!

チ、まぁいい。どうであれ有希と亜美もチューナー探しを本格的にやるんなら、それはそれでいい事だからな。

 

しかし、一応俺が育てて来たチューナーも、evoke達にはもちろん有希達にも合わないかも知れねぇ。

そもそも俺の育てて来たチューナーのヤツらは、音色(トーン)を可視化出来る訳じゃねぇしな。

モンブラン栗田のじいさんの音色を擬似化するアイテムと相性が良いヤツらってだけだしな。

 

これからの戦いは15年前どころの騒ぎじゃ済まねぇかも知れねぇ。

それこそレガリア戦争みたいな戦いになるかも?

 

チ、俺ら先人はどうしてやれるんだろうな。

なぁ?大神、氷川、観月、松本…。

 

 

 

 

「お!今日は英治にーちゃんも居るんだな!」

 

「おっちゃん!ちょうど良かったよ!フルーツパフェ奢って!」

 

「初音ちゃんと盛夏さんと美緒は今日もバイトか」

 

「初音ちゃんも盛夏さんも美緒ちゃんもお疲れ様だね」

 

俺が相変わらずコーヒーを飲みながら、ファントムでボーッとしているとAiles Flammeの連中がやって来た。

 

そしてそれから続々とファントムにやって来るバンドマンの面々。

 

「ふふ、さっきまで暇だったのに…。皆さんがやって来てやっと日常が来たって感じがしますね」

 

「そうですなぁ~。これはあたしと初音の新メニューの実験にちょうどいいかもだ~」

 

「うん!やっと忙しくなるね!さ、みんなにお水出して注文聞かなくちゃ」

 

やっと日常が来たって感じか。

そうだな。タカがまたバンドを始めて、遊太もバンドをやるようになって。

ちょっと前まではこんな日常が当たり前に来るなんて思ってもなかったのにな。

 

「よし、注文は俺が取りに行くわ。たまには俺も働かないとな」

 

「はーい、お父さんよろしく~」

 

壊したり失くしたりしたくねぇな。この日常を。

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