バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第6章 ステージから見える景色

俺の名前は葉川 貴。

 

昔…BREEZEというバンドをやっていた。

メジャーデビューはしていなかったが、仲間達と楽しくバンド活動を経て、強敵と書いてトモと呼ぶようなバンドマン達と知り合い…。俺は、俺達はクリムゾンと…。

 

だが、俺達はやむを得ない理由があり、ドリーミン・ギグという最高のライブを前に解散した。

まぁ、やむを得ない理由って俺が喉やらかしただけだけどな…。

 

そして何の因果か15年という長い月日を経て、また俺はバンドをやる事になった。

 

明日、俺達はデビューライブをやる。

 

なのに…。

 

仕事が終わって帰宅した俺に待っていたのは非情な現実だった。

 

 

「何で親父もお袋も弟家族んとこに行ってるかなぁぁぁぁ!!?俺の晩飯は!?」

 

 

そう、俺の晩飯が無かったのだ。

 

英治んとこに飯食いに行くにも今日はライブやってるみたいだしな。

 

ああ、帰宅してからまたお外出るのダルい。もう寝ちゃおうかな?いや、こんな時間に絶対寝れないよ。

 

しゃあねぇ…ラーメンでも食いに行くか…。

 

 

 

 

 

俺は行き付けのラーメン屋に入り、テーブル席へと案内された。明日はライブだしビールは我慢するか…。

 

「あ、すんません、味噌ラーメン大盛に煮たまごトッピングで」

 

注文を終えスマホを取り出すと店員さんが話し掛けて来た。早いな。

 

「すみません。大変申し訳ありませんが相席でもよろしいですか?」

 

ああ、ラーメンが出来たんじゃないのね。まぁ、こんな時間だしお客も多いよな。

 

「あ、大丈夫ですよ」

 

そして案内されて来たのは可愛らしい女子高生だった。え?JKって一人でラーメン食いにくんの?あ、一人だからこそラーメンか…。

 

その子は無言で俺の正面に座り、肩から提げていたベースを隣のイスに立て掛けていた。この子ベースやってんのか。

あんま見てると通報されても怖いしスマホでも弄っとくか。

 

「あ、すみません。味噌トンコツの大盛麺固めで、ニンニク増し増し。ニラとニンニクチップをトッピングでお願いします」

 

は!?華のJKがニンニク増し増しにニンニクチップとニラのトッピング!?しかも大盛!?いや、美味いけども!最高だけどもね?

 

取り合えず俺はスマホ弄っておこう…。

 

しばらくして俺のラーメンと目の前の子のラーメンが運ばれて来た。なんで同じタイミングなのん?あ、麺固めだからか?

 

そんな事を考えつつも目の前のラーメンに箸をつける。その時俺は驚愕した。

 

目の前の女の子はテーブルに備え付けられたガーリックパウダーをラーメンに振りかけている。

 

「あの…?何か?」

 

うお、見てるのバレちゃったよ。

 

「あ、いえ、何でもないです」

 

目の前のラーメンに集中しよう。

 

「いただきます」

 

俺はズルズルとラーメンを食べ始めた。

 

--チュルチュル…チュルン

 

--ズルズルズル…ズズ…

 

--チュルチュル…チュルン

 

--ズルズルズル…ズズ…

 

--チュルチュル…チュルン

 

ちょっと待ってちょっと待って!

チュルチュルチュルンって何!?これラーメン食べてる音なのん!?

 

--チュルチュル…

 

「すみません。替玉お願いします。固めで」

 

え!?もう食ったの!?あの音で!?俺まだ半分くらい残ってるよ!?

 

俺はソッと女の子方を見てみた。

 

めちゃ目が合った。

 

「何か?」

 

ヤバい通報される…。

 

「ああ!なるほど。顔を写さないのであれば、写真いいですよ?彼女とラーメンデートなうとか呟きたいのでしょう?相席のお礼にそれくらいの恥辱なら我慢します」

 

「は?いや、違うからね?ないですよそんなの」

 

「そうでしたか。おじさん、見た感じ薄幸そうなので、ネット上だけでもそんな見栄を張りたいのかと思いまして」

 

「いやいや、確かに幸薄いですけどね?そんな事全然考えてないですから。あとおじさんじゃないんで」

 

「そうでしたか。それは大変失礼しました」

 

そして女の子に替玉が運ばれてきた。

 

--チュルチュル…チュルン

 

いや、まじその音何なのん?もういいや。さっさと食っちまおう。

 

「すみません、お会計お願いします」

 

「ブホッ。ゲホッゲホッ…」

 

「おや?どうしました?大丈夫ですか?」

 

何でもう食べ終わってんのこの子?その子のラーメンの器を見るとスープすらなくなっていた。まじかよ…。

 

「1,200円になります。伝票を持ってレジまでお願いしますね」

 

「はい」

 

そして女の子はスクールバッグをごそごそし始めた。

 

なんか一緒に店出るのもあれだし、ゆっくり食うか…。

 

「おや?あれ?あれ?」

 

ん?女の子はスマホを取り出すと電話し始めた。

 

「お姉ちゃん……出ない……。うっ、どうしよう……。お姉ちゃん…お願い出て…」

 

はぁ…まじでか…。俺は一気にラーメンを食い干した。うふ、美味しかったぁ。

 

「あ、すんません。お会計お願いします」

 

「はい。870円になります。伝票を持って…」

 

「あ、この子俺の知り合いなんで。伝票一緒にしてもらっていいすか?」

 

「え?」

 

「はい。かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

「あ、あのお兄さん…」

 

「今度から店入る時は財布の確認しような。じゃ」

 

「待って下さい!このまま借りを作りっぱなしは嫌です!ちゃんと今度お返しします!」

 

「めんどくさいからいいわ」

 

早くこの場から逃げたい。俺はそんなつもりで出したわけじゃない。ただ、見て見ぬ振りをするのは気持ちが悪い。だから俺の為だ。そして俺はその子に背を向けて帰ろうとした。

 

「そうはいかないです」

 

なにぃ!?いつの間に回り込まれた!?時間を吹き飛ばされた!?時を止められた!?ば…ばかな…。

 

「ちゃんとお返ししますので、明日……は、忙しいので明後日ここでまた会いましょう」

 

「だが、断る」

 

そして俺はまたその子に背を…

 

「何でですか?」

 

な、なにぃ!?また、また回り込まれただと…!?間違いない…こいつ…新手のスタンド使いだ…!

 

「ハッ!?まさかあれですか?お金とかいいから身体で返せって事ですか!?ヒィ!お姉ちゃん助けて…!」

 

「いや、お金も身体もいいから。帰らせてくんない?」

 

さっきからずっと思ってたけど…この子って…。もしかして…。俺の超直感が働いた。

 

「あのさ。もしかしてなんだけどな?」

 

「何でしょう?」

 

「キミ、このバンドのボーカルの子の声に似てるって言われない?」

 

俺はあるガールズバンドの写真を目の前の女の子に見せた。

 

「は?あ、あ~、このバンドの子ですか?」

 

「いや、なんとなく。なんだけど…」

 

「まぁ…たまに…似てると言われますね」

 

「よし、こうしよう。その声で『おにいちゃん大好き』って言ってくれ。それでラーメン代チャラな」

 

「え?まじきもいんだけど…」

 

バ…バカな…。奈緒や渚や理奈や初音ちゃん、さらにはまどかや盛夏や志保に罵られても何とも思わないのに…何だこの破壊力は…。いやん、Mに目覚めちゃいそう。

 

いや、待って。それより何で俺のまわりの女の子みんな俺を罵ってくるの?

 

「あ、ありがとうな…。もう十分だ。ラーメン代以上の物を俺は貰った、渉。亮。今ならお前らの気持ちがわかりそうだぜ…」

 

「は?あ、あの…」

 

ハッ!?いかん!俺には、俺にはマイリーがいるのにっ!!

 

「くっ、すまん!マイリー!こんな俺を許してくれ!」

 

そして俺は家までダッシュした。

 

「は!?あの!ちょっ……行っちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ただいま~」

 

「あ、お帰り美緒」

 

「あ、お姉ちゃん。帰ってたんだ?何で電話出てくれなかったの?」

 

「電話?明日ライブだし、早目に休もうと思ってお風呂入ってたからさ?その時かな?」

 

「あー、そっか」

 

「って美緒くっさ!めちゃニンニクくっさ!またニンニクいっぱい入れたラーメン食べて来たの!?」

 

「明日はお姉ちゃんの大事な初ライブだからね。験担ぎ」

 

「もう……!ってあれ?美緒の財布、リビングに置いてあったよ?あんたお金どうしたの?」

 

「ん…。なんか優しい変態なお兄さんに借りた」

 

「は?」

 

「すごく気持ち悪かった…。あ、お風呂入って来よ。身体綺麗に洗わなきゃ…」

 

「ちょっ!?変態なお兄さんとか気持ち悪かったとか身体綺麗に洗わなきゃとか何!?お姉ちゃん超心配なんだけど!?」

 

「じゃあ、お姉ちゃん明日頑張ってね。おやすみ」

 

「おやすめないよ!ちょっ!ちゃんと話しなさい!何があったの!?」

 

 

 

 

 

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ふぅ、ラーメン食べに行っただけなのに疲れた。明日はライブだってのにな…。

帰宅後、俺は風呂に入り、ベッドで横になっていた。

 

うん…明日はとうとうライブか…。

 

明日は対バン形式のライブだ。

デュエルじゃない。だからみんなで楽しんでライブやれりゃいい。

 

『カラオケとライブは違う。お前が一番わかってんだろ』

 

いつだったか英治に言われた言葉を思い出す。もしまた、俺の声が出なくなったら…。また、歌えなくなったら…。

 

ライブはそれなりにやって来たからな。

嘲笑も浴びた事もあるし、ライブ中に帰られた事もある。

そんな経験もあるからライブをする事自体は怖くない。むしろ、オーディエンスの前で思いっきり歌うという最高の時間。それが楽しみなまである。

 

ただ、奈緒やまどかや盛夏の前で…。トシキと英治の前でまた声が出なくなったら…。それだけは怖かった。

 

「あかん。寝れん…。もっとポジティブに考えな……」

 

よし、明日のライブにマイリーが観に来てたと仮定してイメージしよう。

 

『すごい!あのBlaze Futureってバンドのボーカルかっこいい!結婚したい!』

 

ヤバい。余計寝れん。興奮する。

 

明日はなるようになるしかないか…。

歌えなくなったら…。その時はその時だな。

 

 

 

 

 

 

「眠い…」

 

結局あまり眠れないまま、ファントムの外の喫煙所でタバコを吸っている。

カフェでゆっくりしようと思ってたのに、何で物販やってるのん?Divalって何かグッズ作ったの?

 

「あれ?変態のお兄さん?」

 

「え?」

 

「何でこんな所にいるのですか?」

 

「いや、それを言ったら何でJKがこんなとこにいんの?ここ喫煙所だよ?」

 

昨日、ラーメン屋で会った女の子が、何故こんな所に…。やはりスタンド使い同士は引かれ合うのか…?

 

「今日はここでやるライブを観に来たのです。それよりちょうど良かったです。昨日のお金お返しします」

 

誰かの関係者か?志保かな?

まぁ、もっかい会うのが面倒だっただけだしな。ここは素直に返してもらっておくか。

 

「1,200円です。どうぞ」

 

「はい。どうも」

 

本気で俺に返すつもりだったんだろう。そのお金は『おにいさん』と書かれた可愛らしいポチ袋に入れられていた。

 

「あら?貴さんじゃない。おはよう。この暑いのによく外に居れるわね?」

 

「おう、理奈か。おはよう」

 

「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

そう叫んでその女の子は突然仰向けに倒れた。びっくりした!

それよりミニなスカートでそんな風に倒れると見えちゃうよ?何がとは言わないけど。

 

「このロリコンは一体どこを見ているのかしら?」

 

いや!見てないからっ!ちょっと目がいっちゃっただけだから、だって男の子だもん仕方ないじゃん。いや、ほんと見てないからそのスマホをしまって下さい。お願いします。

 

「それよりこの子大丈夫かしら?ものすごい倒れ方したわよ?まさか貴さんと数秒間同じ空間に居たせいで…?」

 

俺と数秒同じ空間に居たらどうなるの?

 

「お、おい、大丈夫か?生きてる?」

 

「り、り、り…」

 

「「り?」」

 

そしてその女の子が起き上がり、理奈に詰め寄った。

 

「Rinaさんですか!?元charm symphonyの!」

 

「え、ええ…。まぁ…」

 

「わ、私!Rinaさんの大ファンでしてっ!ろ、路上ライブしてた時から大ファンでしてっ!!」

 

「そ、そうなのね。ありがとう」

 

俺と話す時とは全然声の高さが違いますね。ってか、この声どっかで聞いた事あるような?

 

「わ、私もRinaさんに憧れてベースをやり始めまして!バンドも組むようになって…あ、あの、えっと…その…」

 

「サインでも書いてあげれば?」

 

「ぴゃ!?」

 

「それくらい構わないけれど…私、色紙とか持って来てないわよ?」

 

「ベースケースに書くとか?」

 

「ぴゃ!?」

 

「いくらなんでもそれは…」

 

「白のペン、英治に借りてくるわ。ちょっと待ってろ」

 

「ぴゃ!?」

 

「あの?あなた大丈夫?」

 

 

 

 

 

 

 

「これでいいかしら?」

 

「あ、ありがとうございます…!これはもう一生の……いえ、末代までの家宝にします」

 

「あの?本当にあなたの名前は書かなくて良かったの?」

 

「私如きの名前がRinaさんの名前に並ぶとか恐れ多くて……」

 

「そうなの?でも、私に憧れているというのなら、いつか私に追い付いてらっしゃい。そして、いつか私を追い越すように頑張りなさい。待ってるわ」

 

「は、はい!!!」

 

「おーおー、随分上から目線。さすが理奈だな」

 

「別にそんなつもりはないわよ。もしかしたらこの子の方がベースも上手いかもしれないじゃない。でも、憧れられるって事は、貴さんもよくわかるんじゃないかしら?」

 

憧れられる……。そうだな。憧れの対象でいないと。……か。

 

「あ、それより何故Rinaさんはこちらに?」

 

「ああ、そうね。私、またバンドを始めたのよ。Divalってバンドでベースをやっているの。ボーカルではないけれどね」

 

「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

そう叫んでその女の子は突然仰向けに倒れた。またかよ!?ほんっっと大丈夫か!?

 

「何て事でしょう…」

 

そして女の子は起き上がった。

 

「私とした事が迂闊でした…。まさかRinaさんが活動を再開していたとは…」

 

「もう私はcharm symphonyではないのだし、理奈でいいわよ。Rina表記だと読みにくいし」

 

理奈は何を言ってるの?

 

「でも困りました。まさかDivalのベースが理奈さんとは…。お姉ちゃんとどっちを応援すれば…」

 

「お姉ちゃん?あなたのお姉さんってもしかして…」

 

「ああ、言われてみたら似てるな。奈緒に」

 

そうか。さっきの理奈に対しての声。どっかで聞いた感じすると思ったら奈緒に似てるんだわ。

 

「変態のお兄さん、お姉ちゃんを知っているのですか?まさかお姉ちゃんが可愛すぎて天使過ぎるからファンに?…あ、理奈さんはもっと素敵です」

 

「聞いたかしら?可愛すぎて天使過ぎるお姉ちゃんより、私は素敵らしいわよ?」

 

「すまん、聞き流した。変態のってとこも含め」

 

「貴ー!ヤバいですヤバいですヤバいですー!!」

 

ん?奈緒?渚も?

 

「あら、奈緒、渚も。おはよう」

 

「理奈、おはよう!」

 

「それより聞いてよ!なんか物販とかやってるからさ。何が売ってるんだろう?って思ったら、なんとBREEZEのグッズがいっぱい売ってたんですよ!!」

 

は?BREEZEのグッズ!?

あいつ、英治。何やってんの?アホなの?

 

「しこたま買おうと端から端まで注文したんですけど、英治さんが『あ、奈緒ちゃん欲しいの?全部あげるから貰って』って言われて全種類貰えました!もうこれは家宝です。末代まで大事にします」

 

おーおー、佐倉家は今日一日で随分家宝が増えましたね。

 

「あ、そだ。先輩見て下さいよ。これ。TAKAのブロマイド。私はTAKAのファンじゃないけど3枚貰いました」

 

あいつ何やってんの!?ほんっっっと何やってんの!?そして渚は仕事中じゃないのに先輩呼び!?

 

「渚…そのブロマイドはまだ残っているのかしら?」

 

「まだ腐るほどあったよ」

 

そりゃそうでしょうね。

 

「……ちょっと物販に行ってくるわ」

 

「あ?お前TAKAのブロマイド欲しいの?」

 

「あなただけ私の写真集を持ってるとか不公平じゃない」

 

「あ?あれか?そのブロマイドを見ながら毎晩毎晩如何わしい事を……」

 

「そうね。毎晩毎晩ブロマイドに釘でも刺していきましょうか(ニコッ」

 

なんでそれをそんな笑顔で言えるの?

 

「あ、お姉ちゃん」

 

「え?あれ?美緒?何でこんな所にいるの?」

 

「お姉ちゃんこそ、このお兄さんの知り合いなの?」

 

「え?そだよ?私のバンドのボーカルの貴さんだよ?」

 

「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

またかよ!?何!?俺が奈緒とバンドやってるのそんなショックなの!?

 

「わ!?この子大丈夫!?」

 

「あ、渚、気にしなくて大丈夫だよ。いつものこの子の発作みたいなもんだから」

 

え?いつもこうなの?

 

「くっ…まさか昨日の変態お兄さんがBREEZEのTAKAだったとは…。やられました」

 

「「「「え?」」」」

 

俺がBREEZEのTAKAって知ってる?え?奈緒の妹が……?

 

「ななななな、何を言ってるの美緒ったら!貴は貴だよ!TAKAじゃないよ!」

 

「え?お姉ちゃん何を言ってるの?」

 

「そうだよ!美緒ちゃんだっけ?先輩はBlaze Futureの貴だよ!BREEZEのTAKAじゃないよ!」

 

「は?はぁ…?」

 

「そうね!貴さんがもしBREEZEのTAKAだったら大変よ?」

 

「何がですか?」

 

はぁ…めんどくせぇな。

 

「奈緒…お前気付いてたの?」

 

「ふぇ?何を?何の事ですか?知らないです」

 

「俺がBRE…」

 

「知らないです!って言ってるじゃないですか!!」

 

「奈緒…」

 

「奈緒……」

 

そんな泣きそうな顔をすんなよ…。

うぐっ、胸が痛くなる……。

 

「あ、すみません。わからないです。知らないです。私には何の事かさっぱり…」

 

奈緒…

 

「ご、ごめん…なさ…い」

 

「お姉ちゃん!?」

 

奈緒はそう言って走って行った。

 

「悪い、渚、理奈。美緒ちゃんには事情を説明しててくれ。俺は奈緒を追いかける」

 

「先輩…!あの…!!」

 

「大丈夫だ」

 

「は、はい!」

 

俺は奈緒を追い掛けた。

 

が、あっさりと追い付いて腕を掴む。大量のBREEZEのグッズとギター持ってるもんね。早く走れないよね。

 

「な、何ですか?いきなり腕なんか掴んで来て……通報しますよ」

 

「いつから気付いてたんだ?」

 

「……何の事ですか?」

 

「別に怒ったりしてねぇよ。そもそもその可能性もあるとは思ってたし、あのメンツでいつもいるのに気付かない方が……まぁおかしいだろ…」

 

「ゲーセンで…」

 

「ん?」

 

「バンやりのイベントの時…」

 

「え?始めからやん…!?」

 

「BREEZEのTAKAさんだ。と思って声を掛けました」

 

「そか…俺の素晴らしいオーラは隠しきれていなかったという事か…さすが俺だな」

 

「は?何を言ってるんですか?」

 

そう言ってこっちを向いた奈緒の目は真っ赤で、頬は涙に濡れていた…。

 

「何泣いてんの…」

 

「泣いてなんかないです」

 

「はぁ……」

 

「あの…ごめんなさい…」

 

「なんも謝るような事ないだろ。俺自身も言わなかったわけだし、隠してたようなもんだしな。俺が…」

 

「違います」

 

「ん?」

 

「これだけは本当です。私は貴がBREEZEのTAKAだったから、一緒にバンドをやりたかったわけではないです!」

 

「あのな、今更…」

 

「本当です!本当にちが…ちがいま…す。いまさ…らとか……ちが……」

 

「ち!違う違う!そっちの意味じゃないっての!」

 

「グスッ」

 

「今更そんな事言われなくても、ちゃんとわかってるって事だ」

 

「ぼん…と…でずか?」

 

「今まで一緒に居て話もして…奈緒が俺に向けてる目はBREEZEのTAKAにじゃないってわかるよ。まぁ、だから俺もバレないようにしなきゃとか思ってたのもあるが……」

 

「グスッ…たか……」

 

「おう」

 

「バンド…止めない…です…か」

 

「止めない」

 

「ずっと…いっじょに居でぐれ…ますか…」

 

「おう。俺はずっとBlaze Futureのボーカルだ」

 

「やくそく…」

 

「約束する」

 

「貴…うぅ……」

 

〈〈〈ギュッ〉〉〉

 

は!?え!!?は!?なっ!?

 

奈緒に抱きつかれた!?待って…!?最近女の子に抱きつかれ率高くない!?

勘違いしちゃう!ほんと勘違いしちゃうからっ!

 

「ごめん…なさい……」

 

「はぁ……」

 

俺はそのまま奈緒の頭を撫でた。

 

「大丈夫だ」

 

「いつも捻くれてて、変な事ばっかり言って、いつも文句ばっかり言って来て……。それでもいつも優しくて。いつも一緒に居てくれて…。そんな貴が、大好きです」

 

ふぁ、ふぁっ!?

 

そして奈緒は離れた。

 

「だからって勘違いしないで下さいね?恋とかそんなのではないので、彼氏面とかされたら若干どころかかなりドン引きします。ごめんなさい」

 

「いや、あっそ…」

 

「大好きなお兄ちゃんとかお父さんって感じです」

 

「お父さんは止めてね?まだ若いんで」

 

「ハッ!?今後の人生お父さんになれる事がないであろう貴に!?私はなんて酷いことを……」

 

いや。そっちの方が酷いよ?さっきとは別の意味で胸が痛いわ…。

 

「はぁ…もう大丈夫か?」

 

「はい…ご迷惑おかけしました…」

 

「あのな。第6章はライブやる話なの。こんな事やってる場合じゃないの。だからもう…これからは俺がバンド止めるとか抜けるとか、そんな事は心配せんでいい」

 

「また何をわけのわからない事を言ってるんですか?でも、わかりました。もう心配しないです」

 

そして俺達は喫煙所付近まで戻った。

出来ればこのままダッシュして逃げ出したい。だって、ここからあそこ見えてるもの。

 

「お姉ちゃん…私…ぐすっ」

 

「美緒…何を泣いてるの」

 

「知らなくて…内緒なの…お姉ちゃんが…BREEZEのTAKAを…」

 

「大丈夫だよ。だから泣かないの。ね?」

 

ええ話やなー

 

「あ、それより貴が美緒にラーメン代貸してくれたんですね。ありがとうございました」

 

「いや、別に」

 

「先輩」

 

「ん?」

 

「大丈夫でしたか?」

 

「おう。まぁな」

 

渚にも心配かけちまったな。

俺も、もっとしっかりしないとな…。

 

「そっか。良かった!ね!理奈!」

 

「ええ、本当に。これで心置き無くライブの反省会は3人で出来るわね」

 

「へ?」

 

「うん。明日が日曜日で良かったよね。今夜はゆっくり反省会しようね?私の家で」

 

「え?あの…渚?理奈?」

 

「先週の飲み会の後の二次会!楽しかったもんね!私が白目剥くくらい!」

 

「そうね」

 

「あ、あの、ほら。やっぱ反省会ってバンド同士でやった方がいいじゃん?ね?」

 

「打ち上げと反省会は別よ?」

 

今日のライブ終わったら3人で反省会すんのか。仲良くてほっこりしますな。

さっきまでのやり取りが嘘みたい。うふ。

 

「さすが同い年同士だな。仲がいいな」

 

俺らもBREEZEん時そうだったな~。

懐かしいな~。

 

「はい!」

 

「ええ。羨ましいかしら?」

 

「あわわわわわ……」

 

「あ、みんなこんな所に居たんだ?そろそろリハやれるみたいだよ」

 

俺達がそんなのほほんとした一時を過ごしていると志保がやってきた。

 

「あ、志保。もう来てたんだ?」

 

「うん、初音が忙しそうだったしね。ちょっと早目に手伝いに来てたんだ」

 

「じゃあ私達もそろそろ……あ、先に行っててちょうだい。私は物販に寄ってから行くわ」

 

え?理奈?ほんまにブロマイド買いに行くの?

 

「お義兄さん…」

 

「ん?てか、なんか漢字違わない?気のせい?」

 

「お姉ちゃんの事よろしくお願いします」

 

「そんな心配そうな顔すんな。大丈夫だから」

 

「あの…頭……」

 

え、あ、つい頭撫でちゃってたか…。

 

「す、すまん」

 

「なるほど…これで難攻不落のお姉ちゃんを落としたのか(ボソッ」

 

「ん?どした?」

 

「いえ、何でも。では客席から応援してます。お姉ちゃんと理奈さんと渚さんを」

 

「え?俺は?」

 

そして俺は美緒ちゃんと別れた。

 

「たーか!」

 

「ん?志保、どした?」

 

「見てたよ~。毎週毎週とっかえひっかえ女の子抱いちゃうとかやるね?さすがだね?」

 

「見てたのかよ。人聞きの悪い言い方すんな…」

 

「来週は理奈かあたしあたりかなぁ?」

 

「アホか…」

 

「あ、貴…」

 

そんなバカ話をしていると奈緒に話し掛けられた。

志保は何も言わずそのまま楽屋へと向かって行った。俺らに気を使ってくれたのかな?

 

「ん?」

 

「美緒と何話してたんですか?」

 

「ああ、お姉ちゃんをよろしくってよ」

 

「そうですか…」

 

「奈緒」

 

「はい?」

 

「今日はめちゃ楽しいライブにしような。俺達のデビューライブだからな」

 

「はい!」

 

「んじゃ、リハ行くか」

 

「あ、貴待って下さい」

 

「ん?」

 

「昨日、美緒に貴の好きなバンドのボーカルちゃんの物真似しろとか気持ち悪い事言ったのってマジですか?まじキモいです」

 

「ええ、まぁ…はい…」

 

まじキモいですのくだりいりますか?

 

「そうですか。そりゃ美緒も変態のお兄さんって呼ぶはずですよね~」

 

「すみませんねぇ」

 

「じゃあ、よく聞いてて下さいね!んん…!!」

 

「あ?」

 

そして奈緒は頬を赤らめて目線をそらして……

 

「お兄ちゃん…今日のライブ…頑張ろうね?」

 

「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

俺は叫びながら仰向けに倒れてしまった。に……似すぎだろ……なんなのこの破壊力…。

 

「わ!?え?え!?貴!貴…ちょっと…!!」

 

我が生涯に一片の悔い無し…

 

 

 

 

 

 

 

そして滞りなくリハは終わり、もうすぐ開演時間だ。

 

「やっと。やっとだ…やっとあたしが登場出来た…感動だ~」

 

「え?盛夏どうしたの?」

 

「奈緒、あんたにはわからないんだよ。私達もBlaze Futureなのにやっと出番なんだよ?」

 

「まどか先輩まで何言ってるんですか?」

 

はいはい、メタメタ。

 

まぁ、奈緒も大丈夫そうだし良かったか。

 

「よし、行くか」

 

「「わぁぁぁぁぁ!!」」

 

「ん?」

 

俺が声のする方向に目を向けるとステージ衣装に着替えたDivalが居た。まじかよ…。

 

「せ、先輩…ど、どうですかね?この衣装…」

 

「まぁ、いいんじゃねぇの?」

 

ヤバい。可愛い。マジでヤバい。

 

「わ、私はどうかしら…?その…あんまりこういうのは私には似合わないと思うのだけれど…」

 

「いや、似合ってると思うぞ」

 

いや、うん。超似合ってるよ。可愛いよ。

 

「たか兄!あたしはどうよ?」

 

「ああ、香菜もいいと思うぞ」

 

はい。堪りませんね。ありがとうございます。

 

「貴!あたしは!?あたしは!?」

 

「はい。可愛いです。ヤバいです。ちょべやばです」

 

志保もなかなか似合ってるぞ。

 

「え、あ、うん、か、可愛いって……あ、ありがとう…」

 

え?は?ヤバい。思ってた事と台詞逆になってたよ…。ちょべやばってなんだよ。超ベリーヤバいだよ。今まさに俺がちょべやばだよ。

 

「へ、へぇ…志保には可愛いって言うんだ?」

 

「さ、さすがロリコンね……しまったわ。スマホはバッグの中だわ…」

 

「貴が…あたしだけ…可愛いって…」

 

「まどか姉まどか姉!この衣装どうよ!?」

 

「香菜、静かに。今面白いところだから」

 

面白いところって何ですかね?

 

「貴!Divalだけずるいです!私達もステージ衣装欲しいです!」

 

「あたしも欲しいー!」

 

あー、衣装とかほんとめんどくせぇ……。

Blaze Futureで衣装って俺も合わせなきゃだよ?わかってるの?あ、もしかして俺だけ私服で奈緒達だけ衣装?うわ~ハブられてる感半端ねぇ~。

 

「あ、そろそろ時間だよ~?」

 

「うし、まぁ、ライブ前に円陣でも組むか懐かしいなこの感じ」

 

そして俺は拳を前に出した。

 

「ほら、ここに拳出して…気合い入れんぞ!Blaze Future!!」

 

「は、はい!」

 

奈緒が拳を合わせてくる。

 

「よ~し!頑張るよー!」

 

盛夏が拳を合わせてくる。

 

「熱いね~。この感じ」

 

まどかが拳を合わせてくる。

 

「う、私、緊張してきました」

 

渚が拳を合わせてきた。何で?

 

「あはは、あたしもライブとか初めてだしね…」

 

志保が拳を合わせてきた。俺さっきBlaze Futureって言ったよね?

 

「charm symphonyの時はこういうのしなかったわね」

 

理奈が拳を合わせてきた。だから何で?

 

「あたし達の初めてのライブ……。あたしも柄にもなく緊張してるよ」

 

香菜が拳を合わせてきた。お前もなの?

 

「あの……なんでDivalの皆様も拳を合わせて来てるんですかね?」

 

「へ?先輩が気合いを入れようって」

 

いや、それは言ったけどね?

 

「ほら、たか兄!時間ないよ!?」

 

「あ、ああ、もういっか…。んん…!

今日が俺達の初ライブだ。泣いても笑っても初ライブってのはもう2度とやる事は出来ない。だからな。初ライブってのを楽しもうぜ。俺達が思いっきり楽しかったってライブを。失敗したってそれもいつか楽しかった思い出になる。と、まぁ、初ライブが2回目の俺が言うんだから間違いねぇよ」

 

「私も2回目ね」

 

そういや理奈も2回目か。

 

「もう!途中までいい感じだったのに!」

 

志保。あんまり真面目にやると余計緊張しちゃうんだよ?

 

「あはは、タカらしいけどね」

 

「まぁ、確かに先輩らしいかな?」

 

「貴ちゃんが真面目だとかえって変だもんね」

 

まどかも渚も盛夏もよく俺をわかってらっしゃいますね!

 

「タカ兄はこの方がいいね」

 

「あはは。確かに貴はこれくらいがちょうどいいです」

 

香菜も奈緒も今日は楽しんでライブやろうな…。

 

「だから、今日は楽しんでライブをやろう。行くぜ!Blaze Future!Dival!!」

 

「「「「「「「おぉー!!!」」」」」」」

 

 

 

 

―The next story is chapter6 of Dival

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやいやいや、続かないよ?

第6章でライブやる言うたやん。

 

「おう。お前ら来たか」

 

「タカ!あたしも準備頑張ったよ!褒めて!」

 

「おう、ありがとうな」

 

そう言って初音ちゃんの頭を撫でる。初音ちゃん見るのなんか久しぶりな感じするな~。

 

「思ってた以上に客入りいいぞ?」

 

「まじでか。俺らん時なんて20人いなかったのにな。俺ら友達居なかったし」

 

「お、おい、お前…それ」

 

「ああ、奈緒にも俺がBREEZEってのはもう話してある。大丈夫だ」

 

「へー、そうなのかつまらんな」

 

チッ、やっぱ英治も奈緒が俺がBREEZEのTAKAだと知ってる事を知ってやがったか…。

 

「え?マジで?奈緒さんの事とうとう倒さなきゃいけなくなった?」

 

「初音ちゃんは何を言ってるの?」

 

みんながステージ袖から客席を見てる。

 

「お~。ほんとにいっぱいお客さんいる~」

 

「あ、盛夏!大学のみんな来てくれてるね!」

 

「え?あなた達、大学のみんなにチケット渡してたの?」

 

「そだよ~。もち有料で」

 

「まぁ、一応商売だしね?理奈は大学の友達には売らなかったの?」

 

盛夏も香菜もしっかりしてるな…。

 

「大学の友達なんてあなた達しかいないもの…でも、前の…charm symphonyのみんなは来てくれてるみたいだわ…」

 

「あ、江口達も来てくれてる。さっちもだ!」

 

「は?まじかよ」

 

俺が客席を覗くと渉達が来てるのを確認出来た。

 

「え?貴は江口達に来て欲しくなかった?」

 

「ちげぇよ。今度のイベの事もあるし、色々あったし、もうあいつらは俺の関係者だからな。だから関係者席に来いって誘ってたんだよ…」

 

「あ、そうなんだ?貴ってそういうとこマメだよね」

 

「あれ?遊……シフォンと一緒にいるの綾乃姉じゃない?」

 

「あは、あたしが呼んじゃった」

 

「まどか…お前、綾乃にも売ったの?」

 

「わっ!?美緒と一緒にいるのお母さんだ…」

 

みんなが思い思いに客席を見てキャッキャしてした。懐かしいなぁ。俺らもそうだったなぁ。数人しか友達居なかったけどね?

 

「あ、そういや氷川さんも来てたぞ?」

 

「え?お父さんが?」

 

「やっぱ娘の晴れ姿は気になるんだろ」

 

「そう、あの男、やっと帰ってきたのね」

 

「は?」

 

「あの男この間の飲み会の夜から行方をくらませていたのよ」

 

旅に出るってマジだったのか…。

 

「う~ん、私の友達は来てくれてないかぁ…」

 

「は?お前会社のやつらに話したの?てか、お前友達居たっけ?」

 

「いえ、会社の人には言ってないですよ。地元の友達とか」

 

「いや、さすがに来れなくね?」

 

「む!そんな先輩こそ友達来てくれてるんですか?」

 

「ばっか。俺にはお前らが居れば十分だから誰も呼んでないまであるな」

 

「「「「「「「うっ」」」」」」」

 

「ん?どしたん?」

 

「なるほど。たか兄はさすがだね」

 

「ラノベとかギャルゲの主人公っぽいね~」

 

「何が?それぼっちっぷりを褒めてんの?」

 

「ねぇねぇ、奈緒さん、理奈さん、渚さん、志保」

 

「ん?初音ちゃんどしたの?」

 

「みんなタカのただの友達だって」

 

「「「うっ」」」

 

「ちょ、ちょっと待って、初音。そこにあたしが入るのはおかしい」

 

「チ、マイリーは来ていないか…いや、だが既に俺と結婚していて関係者席にいる可能性も……」

 

「お前やっぱりバカだよな?」

 

「あたしの親父も…来てないか…」

 

「おし、準備はオッケーか?そろそろ時間だ。照明落とすぞ?」

 

「タカもすごいよね。ステージの上にいるの男の人ってタカだけだもんね。ハーレムかよって思っちゃうよね」

 

「えっ?」

 

は?ふぁ!?初音ちゃんに言われてハッとした。

考えてみたらそうじゃん!?ステージ上の男って俺だけじゃん!?今更何に気付いてんの俺!?

 

ヤバい。かつてない程に緊張してきた…。

むしろ今すぐ帰りたいまである。

 

そうだよな。BREEZEやってた時のノリでいたから気楽だったけど、ライブ前の煽りとか下ネタとかぶち込めねぇじゃん。

 

奈緒のお母さんとか氷川さんなら昔の俺ライブを知ってるからいいとしても、盛夏の友達とか、志保の友達とかの前で下ネタぶち込むとか無理ゲーじゃね?ステージ上に8人中1人しか男いないのに下ネタとかただの変態やん?

 

あ、ヤバい。下ネタなかったら俺MCとか出来ないよ?泣きそうになってきた。

 

「ほぇ?貴どうしました?顔が真っ青ですよ?もしかして緊張してきましたかぁ?」

 

「うん。めっちゃ緊張してきた。もうダメ。僕お家帰りたい」

 

「へ?は!?まじですか?今頃!?」

 

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……

 

「え?タカほんとどしたん?」

 

「照明落とすぞー」

 

そして会場の照明が落とされ、SEが鳴り響く。ヤバい、もう逃げられない…。

 

『先輩…。私、超緊張してます。上手くMCやれるかな?喋れるかな?』

 

『んな不安そうな顔すんな。大丈夫だ。今日は俺も居る。任せろ(キリッ』

 

『は、はい!』

 

任せろ(キリッって何だよ。カッコつけすぎだよ。僕もう無理です。

 

そして俺達はステージに上がる。

俺達Blaze Futureが下手側、Divalが上手側。俺と渚が並んでステージ中央にと、それぞれが定位置に着き、SEが止み、ステージに照明が当たる。

 

〈〈〈わぁぁぁぁぁ!〉〉〉

 

そしてオーディエンスの歓声。

 

「香菜ー!」「盛夏ちゃーん!」「にーちゃーん!」「蓮見さーん!」「雨宮ー!」「雪ちゃーん!」「ぴぎぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

大学の友達が多いからか香菜と盛夏を呼ぶ声が多いな。最後のぴぎぁって美緒ちゃんだよね?理奈の衣装見て倒れちゃった?

 

帰ってきたんだな、俺は。ステージに。

ここから見える景色に…。

 

本来なら俺がここで挨拶をする予定だったが……

 

俺は左手を高々と上げ、まどかに目で合図した。

そして左手を思いっきり降り下ろし、その反動で体を回転させる。それと同時にまどかのドラムが鳴り響く。

 

「行くぜ!Blaze Future!!」

 

あ、曲名言わないと奈緒と盛夏は対応しきれないか。悪い…。

 

Re:start(リスタート)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈〈〈わぁぁぁぁぁ!〉〉〉

 

ハァ…ハァ…やっぱり楽しいな。バンドは。

 

「ありがとう。Blaze FutureでRe:startでした」

 

奈緒も盛夏もバッチリだったな。練習頑張ったんだな。

 

「さて、自己紹介が遅れてしまったけど、俺達が!Blaze Futureだぁぁぁ!!」

 

〈〈〈わぁぁぁぁぁ!〉〉〉

 

「今日は短い時間だけど、俺達Blaze FutureとDivalのデビューライブです。みんなの思い出に残るような最高のライブに……」

 

いや、違うな…。

 

「ここにいるみんなと俺達で最高の1日にしたいです。俺達が失敗したら盛大に笑って下さい。俺達がかっこいいと思ったら盛大に歓声を下さい。みんな1人1人が家に帰って、今日1日を思い出して楽しかったって1日にして下さい」

 

「にーちゃーん!俺は今、最高に楽しいぞー!」

 

「おう!ありがとうな!」

 

渉。ありがとうな。

 

「じゃあ、みんなでどんどんぶち上がっていこう!次はDivalだ!!」

 

〈〈〈わぁぁぁぁぁ!〉〉〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、Blaze FutureとDivalのデビューライブが終わった。

 

みんな1人1人に最高の1日になってたらいいな。

 

 

 

 

 

 

 

「貴!お疲れ様でした!」

 

「おう、奈緒もお疲れ様」

 

「ほんとですよ…まさか志保とユニゾンやらされたり……最後に……みんなでBREEZEのFutureを演奏するとか…聞いてなかったです…」

 

「ああ、俺らもDivalも3曲ずつしかないし、時間もたないからな。色々考えてみたけど、みんなよくついてきてくれたな。Futureは盛夏から奈緒と練習してたって聞いてたからな。出来るだろうと思ってたし」

 

「ありがとうございます」

 

「ん?何が?」

 

「私達を信じてくれて」

 

「……そんなの当たり前だろ。さて、ロビー行って、みんなに挨拶して回るか」

 

「はい!」

 

俺達がロビーに着くともう人・人・人でごった返していた。特に盛夏と香菜の回りが。まじかよ……。

 

「たか兄!」

 

「おう、シフォン。今日も可愛いな。ライブ熱かったろ?その火照った身体を冷ましに一緒にお風呂でも行こうか」

 

「た…貴…?」

 

「その人たか兄のバンドの人じゃないの?いいの?そんな事言って」

 

「貴兄。お久しぶりです」

 

「おう、綾乃も久しぶりだな。今日はありがとうな」

 

この子の名前は北条 綾乃(ほうじょう あやの)

まどかの幼馴染で、まどか、綾乃、香菜、遊太と、もう一人栞って子がいるんだが、その5人で英治のドラムの弟子である。

 

「あ、そういや、シフォンと綾乃が一緒なのに栞はいないのな?」

 

「栞ちゃんもさっきまで居たのですがもうお帰りになりました。明日、ライブやるようで忙しいみたいです。貴兄やみんなによろしくと」

 

「そか」

 

「それにボクも元々は渉くん達と来たんだけど、綾乃姉が一人だったから声掛けたんだよ」

 

ああ、だからシフォンの格好なのか…。

 

「たか兄達見てたら、ボク達もライブやりたくなってきたよ!」

 

「私も、バンドやりないな~。って思っちゃいました」

 

「綾乃もバンドやりゃいいのに。ドラムもう辞めたのか?」

 

「まだ、たまに叩いてますけど…う~ん」

 

「あ、綾乃、シフォン」

 

「まどか、お疲れ様」

 

綾乃とシフォンはまどかの所に走って行った。

 

「葉川さん、ちわす」

 

「あれ?松岡くんも来てくれたのか?」

 

「は、はい。明日の参考にでもなればと…」

 

この子は今度のイベントに参加したいと言ってくれている松岡冬馬くん。

先日、英治に紹介されて知り合う事が出来た。

 

「ライブ自体はヘルプでやった事あんだろ?」

 

「ええ、まぁ…」

 

「なら大丈夫だろ。明日は俺も見に来るからな。思いっきり楽しんでな」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「にーちゃん!」

 

「おう、渉」

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------------

 

 

 

「あー、ライブ良かったなぁ。タカ見てると俺もバンドやりたくなってくるわ」

 

「あはは、えーちゃんならまだ今からでもやれるんじゃない?」

 

「いや、メンバーもいないしな。なぁ、トシキ」

 

「ごめん。無理」

 

「お父さんもちゃんと掃除してよ。それが嫌ならタカ呼んできて」

 

「なんでだよ…」

 

「あれ?ピックが落ちてる。今日は誰もピック投げてないよね?」

 

「あ?落し物か?」

 

「お父さんちゃんと掃除した?」

 

「俺はしてないが、朝から志保もお前も掃除してくれてたろ?」

 

「なら落し物かなぁ。あれ?」

 

「どした?」

 

「このピック…BREEZEって書いてある」

 

「初音、見せろ」

 

「白いピックだね…これって宮ちゃんの…」

 

「……今日はタカ目当ての客もいただろうしな。BREEZEのファンが来てても不思議じゃないだろ」

 

「うん…、その可能性もあるよね」

 

「そうそう、それに拓斗がマジで来てたなら誰かが気付くだろ。俺もお前もタカも居たんだし。さ、掃除の続きするか」

 

「うん、そうだね」

 

 

------------------------------------

 

 

 

「貴!」

 

「おう、奈緒。もう帰るのか?」

 

「はい。貴も気を付けて帰ってくださいね」

 

「あー、結局奈緒のお袋さんに会えず終いだな。挨拶をと思ったが…」

 

「は!?何ですか!?いきなりお母さんに娘さんをくださいとか挨拶するつもりでしたか!?」

 

「うっわぁ、めんどくせぇ~…」

 

「な、何ですかそれ…もう!」

 

「じゃあな、俺も帰るわ。渚と理奈によろしくな」

 

「はい?」

 

「あ?なんかお前ら今日お泊まり会なんだろ?志保もなんか邪魔しちゃ悪いしとか言って実家に帰るみたいだぞ。百合百合しいですね」

 

「はわ!?あわわわわわ…忘れてた…」

 

「な~お!」

 

「ヒィ!」

 

「貴さん、お疲れ様。今日は楽しかったわ」

 

「先輩も気をつけて帰って下さいね!」

 

「おう、ありがとうな。俺も楽しかったわ。お前らも疲れもあるだろうし、程々にな」

 

「あは、ありがとうございます!センパァイ…」ズズ…

 

ん?

 

「何ならあなたも来るかしら?楽しいわよ…きっと…」ズズズ…

 

ん?あれ?

 

「いや、いいわ。なんか疲れてるみたいだし」

 

「なら、今日は早く寝なくちゃですね!」

 

「ああ、そうするわ。じゃあな」

 

やっぱり疲れてんのかな?何か渚と理奈に黒い影みたいなんが…。

 

ソッと振り返ってみる。

 

奈緒を真ん中にして3人肩を組んで仲良く歩いている。やっぱり気のせいか。

 

声が出なくなる事もなく、俺はライブを楽しめた。バンドをやって良かったって改めて思う。

 

このまま…みんなで楽しいライブを…

今度こそやれればいいな。

 

なぁ、ユーゼス……。


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