バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第2話 運命の再会

「はぁ…とうとうこの日が来てしまったか」

 

「もう!タカくんは文句ばっかりだね!せっかくだから楽しもうよ~♪」

 

「喋り方が昔に戻ってんぞ」

 

「…せっかくなんだもの。昔を思い出して楽しみましょうよ」

 

私の名前は中原 三咲。

旧姓桜井 三咲。

 

私はタカくんと一緒にAiles Flammeの遊くんやDivalの志保ちゃん達の通う学校の文化祭に来ていた。

 

「何で俺が三咲と一緒なんだよ…」

 

「私とじゃ嫌だった?それとも一緒に来たい子が居たりした?奈緒ちゃんとか」

 

「何でそこで奈緒が出てくんの?」

 

「私とタカくんは幼馴染みだ。昔から割と一緒の事が多い。

だけどいつの頃からか私達は一緒に居ないという事が当たり前になっていた。そう。いつの頃からかは今でも思い出せる。私と英治くんが付き合い始めてからタカくんは私から離れていった。きっと…英治くんに私を取られたと思って…」

 

「妄想はそれくらいにしたらどうですかね?英治と付き合ってからも、結婚してからも初音ちゃんが生まれてからも割と一緒に居ましたけど?そもそも英治と付き合ってた頃からお前BREEZE(おれら)のチューナーだったし」

 

「わ、私の心を読むなんて…!」

 

「いや、普通に喋ってましたけどね。それより行くぞ。ライブ予選始まる前に渉達のクラスの催し物観ておきたいし」

 

「わ、待ってよタカくん」

 

そう言ってスタスタと歩いて行くタカくん。

…まぁ、タカくんも私も昔馴染み過ぎて、お互いに異性としては意識してないから、さっきの台詞みたいな事はないんだけど…。

やっぱり学校っていうシチュエーションと、最近まではタカくんもファントムに来るのは稀だった事もあるし、2人っきりになるのは久しぶりだからかな。ちょっと緊張しちゃうな。

 

……違いますね。

猫被ってるからだよ!ちょっとまわり(学生さん達)に大人の女に見られたいからタカくんへの接し方が難しいだけで!昔みたいにっていうか素を出せたら楽なのに!

初音達が近くに居ないとつい素が出ちゃいそうになる!

いつもの私ってどんな感じだったっけ?いやいやどんな感じかわかんないのは大人の女の在り方だよ!

 

「三咲。何やってんだ?早く来ないと俺1人で行っちゃうぞ」

 

私が1人妄想している間にタカくんとだいぶ離れていた。

 

「ちょ、ちょっと待って…」

 

私がタカくんの元へと走り出そうとした時、

 

 

-ドンッ

 

 

「きゃっ!」

 

「わっ!?」

 

相手も急いでいたのか走っている女の子とぶつかってしまった。

女の子は少し後ろによろけて尻餅をつき、私は微動だにしなかった。

しまったなぁ。ここは私もよろけて転ぶべきだったかなぁ。

 

と、そんな事考えてる場合じゃないや。

 

「あ、あの。ごめんなさい。ちょっと周り見てなくて…」

 

「いえ、私こそ…。ちょっと…急いでまし…え?三咲さん…?」

 

私は名前を呼ばれて驚いた。

そして、そのぶつかった女の子の顔を見てさらに驚いた。

 

「え?天音ちゃん…?」

 

私がぶつかった女の子は天音ちゃん。

私が2年前に『射手座のレガリア』を託した女の子だった。

 

「な、何で三咲さんが学校(ここ)に?あ、ここAiles Flammeの皆さんの学校だっけ…」

 

「天音ちゃんこそ何で…その制服この学校のじゃないよね?」

 

「いや、それを言ったら何で三咲さんは制服着てるんですか?…どこでその制服を手に入れたんですか?」

 

「そんな事は些細な事だよ!天音ちゃんがこの学校じゃない制服を着てるって事は…ライブ大会に出るの?」

 

「……!?ご、ごめんなさい!」

 

そう。言って天音ちゃんは走って去ってしまった。

 

「おい三咲!何やってんだよ。JKとぶつかるとかうらやまけしからん。何なの?その歳で運命の出会いとか狙ってんの?英治と初音ちゃんにチクっちゃうよ?」

 

「逃げた?…逃がさないよ!」

 

取り敢えずタカくんの頬をぶん殴り、逃げる者は追わなくてはならないという私の中の本能が…狩人の血が騒いだのだった。

 

「ふふふ。2年前はサンダルを履いていたせいで私は転んでしまった。だけど今日はローファーを履いている!転ぶ事はないよ!」

 

私は逃げた天音ちゃんとの距離をグングンと縮めていた。

もう少しで追い付く事が出来る。そう思った時、天音ちゃんは校舎の角を曲がったのだ。

もちろん天音ちゃんを追う私も校舎の角を曲がる。

 

「な、何ぃ…バ、バカな…!」

 

校舎の角を曲がったその先には天音ちゃんの姿はなかった。

 

「な、何で?確かにここを曲がったはずなのに…。ハッ!上か!?」

 

当然天音ちゃんは上には居ない。

 

何でだろう?いくら曲がり角で死角になっているとはいえ、私と天音ちゃんの差は姿を見失う程の差はなかった。

どこかに隠れた?

今日は文化祭。ここにはたくさんの学生さんが居る。

 

でも天音ちゃんは美緒ちゃんと同じ学校の制服だったし、この学校の生徒に紛れても余計目立つと思うんだけど…。

 

ダメだ。ここで考えていても時間を消費するだけ。言わばタイムロスだ。

 

「必ず…必ず捕まえるからね!天音ちゃん!!」

 

私はそう叫んで走ったのだった?

 

 

 

 

---------------------------------

 

 

 

 

「良かった…。三咲さん行ってくれた」

 

私の名前は本城 天音(ほんじょう あまね)

人前で歌う事が嫌いだった私も、三咲さんから射手座のレガリアを託されて、歌う事を頑張ろうと思った。

 

だけど、中学2年の3学期。

私達の先輩。当時の中学3年生の卒業を送る歌唱曲の時、私は緊張から失敗してしまった。

 

歌う事を頑張ろうと思ってたのに、その失敗は私の中で大きな痕になって、それからも人前で歌う事はしなかった。

 

好きな歌を好きな時に好きに歌う。

これまでそうだったように、私はこれでいいと思ってしまった。

 

私はこれでいい。だけど、私が託された射手座のレガリアは誰かに託さないといけない。

それは誰でもいい訳ではなく、初代の矢沢さんや二代目の大神さん、そして三代目のタカさん。

彼らの想いや闘いや、レガリアを求めた人、レガリアを守って来た人、私にレガリアを託してくれ三咲さん。

 

もっともっとたくさんの人達の想いも一緒に受け継いでくれる人じゃないといけない。

そう思ってレガリアはずっと私が持ったままでいた。

 

本当はこの人ならレガリアを託してもいいかも。って思う人も1人だけ居たけど、何だかんだと渡す事が躊躇われて渡せずにいた。すごく身勝手だと思う。

 

高校生になってからもずっと思い悩んでいて、レガリアを託してもいいかもって思った人は別の学校に通う事になって、結局私は歌わないままで…。

 

だけど高校生になって少し経った頃、私はクラスメートからバンドに誘われた。

最初は断っていたけれど、色んな事があってBlaze FutureとDivalの対バンを観て、私はもう一度歌う事を、そしてバンドをやる事を決めた。

 

最初はバンドメンバーみんなバラバラだったけど、一緒に練習したり遊んだりする事で結束し、今日とうとう合同文化祭で私達のバンドはデビューする事になった。

 

だけど…当日になって私は上級生を送る日の失敗や、昔お父さんにスパルタされた事をフラッシュバックして、逃げてしまった。

 

これじゃダメなのに。

もしまた失敗してしまったらという考えが、どうしても拭いきれないでいた。

 

「でもどうしよう…。このまま逃げてる訳にもいかないし。みんなも私を探してるだろうし…。私が弱いせいで…みんなにも迷惑を…」

 

「ったく、三咲のヤツどこに行ったんだ?アホなのか?そういやアホだったな。うっかりしてたぜ」

 

「えっ?」

 

急に三咲さんの名前が聞こえたから、俯いていた顔を上げるとそこにはタカさんが居た。

私が最も尊敬するミュージシャンで、私の理想のボーカリスト。正直MCは何を言っているのか時々わかんない時があるけど…。

 

って、ええええええええ…!?

タカさんも何で学校(こんなところ)に居るの!?

今日は平日だよ!?お仕事は!?

 

「ハァ…めんどくせぇ…。俺だけで渉達のクラスに挨拶に行くか…。いや、待てよ。俺1人で校内をうろついてたらJKを狙う変質者とかで通報されかねないよな。冤罪なのに。いや、今日は文化祭だし父兄の方々もいるしワンチャン大丈夫か?いや、でもなぁ…」

 

ど、どうしよう?逃げる?え?

で、でも私が急に走って逃げたりしたら…。

 

『え?今のJK逃げた?俺から逃げたの?やべぇ。これは本格的にやべぇ。変質者と思われて逃げられたんじゃねぇか俺』

 

とか考えちゃいそうだし…。

うぅ…どうしよう…。

 

「ま、ここでうだうだ考えててもどうしようもないか。なるようになるだろ。もし捕まりそうになったら渉達に連絡しまくって冤罪を証明してみせよう」

 

私がどうしようか考えているとタカさんはその場から引き返して行った。

 

そっか。そうだよね。

私はタカさんの事を知っているけど、タカさんは私の事なんか知ってる訳がないし。

このままタカさんを見送る事にした。

 

私が追い付きたかった背中を見ながら…。

何かライブの時と違って猫背だけど…。

 

「あ、あの…す、すみません」

 

「え?はい?何ですか?」

 

って何やってんの私ぃぃぃぃぃぃ!!!

 

私はこの場から去ろうとするタカさんを呼び止めてしまったのだった。

え?え?ほ、本当にどうしよう?

 

「どうしました?僕に何か用ですか?」

 

いや、あの、本当にすみません。ごめんなさい。

もし会える事があったら色々お話を伺わせてほしいとか色々ありましたけど、今この場では何もありませんし、何も言葉が浮かびません。

 

うぅ、どうしよう…。何か、何か言わないと。

言い訳、言い訳考えなきゃ…。

 

「あれ?もしかして俺に話し掛けた訳じゃなかった?あ、あれかな?

あの、俺は変質者じゃありませんので。この学校には知り合いがいて、今日は仕事というか何というか…。あれ?これなんか言い訳くさくね?」

 

えっと…えっと…

 

「つ、通報だけは勘弁して下さい!本当にアレなので!本当に違うんで!いや、アレって何だよ…」

 

「あ、あの…」

 

「は、はい!?何ですか!?」

 

「歌っている時ってどんな気持ちですか?

ライブの時、失敗したらとか…そんな事考えてしまったりしないですか?」

 

「へ?歌?」

 

あっ…わ、私…何を聞いちゃってるんだろ…。

 

「あ、そか。この学校の制服じゃないし、今日はライブ大会でこの学校に来てる感じかな?そういやその制服、美緒ちゃん達と同じ学校か。見馴れてるから違和感無かったわ」

 

美緒ちゃん…?

あ、gamutの…。今はGlitter Melodyか。

佐倉先輩の事だよね。きっと。

そういや何でタカさんも制服を着てるの?

父兄の人って私服でもいいはずなのに…。

 

「んー。もしかして俺がバンドやってるって知ってる感じ?」

 

「は、はい。まぁ…」

 

も、もちろんBlaze FutureもBREEZEも知ってます!

 

「そっか。失敗したら…か」

 

「今日、私、デビューの予定だったんですけど、失敗したらって怖くなっちゃって…つい、みんなから逃げちゃって…」

 

「そっか。デビューライブか。なら最初はビビっちゃうよな。でもまぁ何だ。失敗はしたらしたでいいんじゃないの?」

 

「え?そ、それって…」

 

「まぁ、失敗の定義って人それぞれなんだけどね。上手く歌えた演奏出来たってなっても、周りの人やオーディエンスが盛り上がらなかったりつまらなそうにしてたら俺はそれはライブとして失敗だと思ってるし、歌詞を間違えたり楽器の演奏を間違えたとしても、自分達にとって思い出になったり、周りやオーディエンスが楽しんで盛り上がってくれたら、俺は大成功だって思うよ」

 

「自分達の思い出や、周りのみんなが楽しんで盛り上がってくれたら…」

 

「うん。だから、後悔しないように今やれる精一杯で、歌って盛り上げたらいいんじゃないかな?歌詞を間違えたりしても、今日だけのライブバージョンですとか言ったり?」

 

ははは、そっか。

後悔しないように。今やれる精一杯を…。

 

上級生を送る歌の時。

私は緊張して声が出なくなって、恥ずかしさと怖さで歌うのを止めてしまった。

あの時、声が出なくても、無理矢理に絞り出した変な声でも…歌うのを止めずに最後まで頑張っていたら、今みたいに後悔してなかったかもしれない。

 

「怖いとか不安とかあると思うけど、キミが楽しんで歌うのが一番の成功だと思うよ」

 

「あ、あり…」

 

「蟻?」

 

「ありがとう…ございます。私、精一杯楽しんで歌おうと思います。昔にそう決めてたのに。そうなろうと決めてたのに、結局逃げちゃってた」

 

三咲さんにタカさんや大神さんの話を聞かせてもらった時もそう思ってたのに。

 

「今日、私、精一杯歌いますから、よ、良かったら…その…私の…」

 

「うん。ライブ大会は観させてもらう予定だから、キミのバンドも楽しみにしてるよ」

 

 

 

 

それから少しだけお話をさせて頂いて私とタカさんは別れた。

もう迷わない。もう逃げない。

私は改めてそう決意した。

 

だけどしまったなぁ。

お話に夢中でタカさんに自己紹介するの失念してたよ…。

失礼なヤツって思われてたらどうしよう…。

 

「やっと見つけた!」

 

「天音!」

 

「すずちゃん…真凛ちゃん…」

 

私が逃げ出してからずっと私を探してくれていたんだろう。

私と同じバンドのキーボード鶴木 涼風(つるき すずか)、すずちゃんと、ギタリストの大沢 真凛(おおさわ まりん)、真凛ちゃんが、私の元へと駆け寄って来てくれた。

 

「ハァ…ハァ、やっと見つけましたわ」

 

「ごめんね、すずちゃん…」

 

「はぁー、良かったぁ。一時はどうなるかと思ったぁ。あまねる逃げ足は早いんだからなぁ~」

 

「ら、真凛ちゃんもごめんね。でもその…あまねるってあだ名は止めてって…ほら、色々あるしアレがアレだし…」

 

「いつも言うけど何で?可愛いじゃん」

 

「天音。歌いたいって、わたくしにバンドをやりたいって言ったのは貴女ですのよ!それを…」

 

そうだ。

元々すずちゃんもバンドに入るのは嫌がっていた。

それを私が無理にお願いして、すずちゃんにバンドに入ってもらったのに…。

本当に私は自分勝手だった。ごめんなさい…。

そんな私が言える言葉は…

 

「すずちゃん、本当にごめん。私はもう大丈夫」

 

これだけだ。

私はすずちゃんの眼を真っ直ぐ見て言った。

 

「天音…。いい眼をしてますわ。心配しましたがもう大丈夫そうですわね」

 

「良かったね、スズ。せっかく首輪持って来たのに無駄になっちゃったね」

 

「首輪!?その首輪をどうするつもりだったの!?」

 

「まぁ、いいですわ。それより輝美と蘭にも天音を見つけた事を連絡しませんと」

 

「そっだねー。 ランランはともかくてるみんは必死になって探してそだし」

 

そう言って真凛ちゃんは輝美ちゃんか蘭ちゃんに電話を掛けていた。

輝美ちゃんというのは椎名 輝美(しいな てるみ)。私達のバンドでドラムを担当している。

そして蘭ちゃんというのは燈田 蘭(とうだ らん)。私達のバンドのベーシストだ。

 

「天音!」

 

「え?ゆ、結月ちゃん?何で!?」

 

「良かった。真凛と涼風が見つけてくれたんだ?」

 

この子は寺川 結月(てらかわ ゆづき)

私達とは違うバンドでギターボーカルをやっている。

私が失敗した上級生を送る歌の時に私を助けてくれて、そして私がレガリアを託すなら…と思っていた女の子。

 

「天音が"また"逃げたって連絡もらったから…」

 

「ゆ、結月ちゃんも今日はライブ大会じゃ…それも結月ちゃん達の会場の学校はここから遠かったような…」

 

「うん。だからタクシー飛ばして来た。片道で2,000円くらいかかっちゃった…どうしよう…」

 

タクシーで2,000円!?

 

「ご、ごめんね。わ、私はもう大丈夫だから…あの、そのタクシー代も月賦で払うし…」

 

「…もう大丈夫ならタクシー代はいいよ。天音も見つかった事だしあたしはもう行くね。時間もないし…」

 

「あの…本当にごめんなさい…」

 

「別にいいって。

それより、ちゃんと今日と明日の予選を勝ち抜いて土曜の決勝大会まで生き残って」

 

「今日と明日の予選を勝ち抜いてって、あたしらがライブやるの今日だけだし」

 

「真凛はうるさいなぁ。ニュアンスだよニュアンス。

今日と明日の参加バンドの中で、投票数上位2位に入らなきゃいけないんだし」

 

そうだよね。上位2位までしか。

各学校の会場2バンドしか決勝大会に出れないんだし。

でも、それでも…。

 

「うん。約束する。私達は必ず土曜日の決勝大会に出場してみせる。そして、決勝大会では結月ちゃん達にも勝ってみせるよ」

 

「ふふ、天音がそんな事を言うなんてね。オッケ。あたし達も必ず決勝大会に出場する。そして天音達も倒して、射手座のレガリアはあたしが貰う」

 

結月ちゃん…。

ちょっと前までは結月ちゃんになら、レガリアを託してもいいと思ってたんだけど、やっぱりごめんね。

レガリアはもう誰にも渡さない。私が本当に歌を歌いきるまで。

 

「うん、レガリアは絶対に渡さない」

 

「うん、その意気だよ。天音」

 

 

 

---------------------------------

 

 

 

「あ~あ、結局見つけられなかったなぁ」

 

「は?何が?俺はお前を見つけて安心したけど」

 

「あれ?私とはぐれて心配しちゃった?あ、そっか。1人で居る私が誰かにナンパされちゃったりしないか心配だったんだね?」

 

「は?何言ってんだこのおばさん」

 

 

 

 

 

 

「ずびまぜん…ずびまぜん…ごとばがずぎました。もう殴らないでくだざい…ごべんなばい…しくしくしく」

 

やっと私のモノローグに戻ってきましたよ。

私は三咲!

結局、あの後天音ちゃんを見つける事は出来なかったけど、無事にタカくんと合流する事が出来た。

 

この学校という特殊な環境と、タカくんと一緒に居る事、そして天音ちゃんと再会して眠りについていたの野生の血が、私が被っていた猫を追い剥ぎしていった。

おかげで暴言を吐くタカくんをスムーズに殴る事が出来たのであった。

 

「でも渉くん達居なくて残念だったよね。どこに行っちゃったんだろう?」

 

タカくんと合流した後、渉くん達のクラスや遊くんのクラスの催し物を見に行ったんだけど、残念ながら知り合いは誰も居なかった。

 

志保ちゃんや明日香ちゃん、栞ちゃんと双葉ちゃんはライブ大会に参加予定だから、今日と明日は居なくてもしょうがないと思うんだけど…。

そもそもライブ大会はガールズバンドしか参加出来ないハズだし…。もしかして大穴で姫咲ちゃんの学校で演劇参加してるとか?いや、さすがにないかな。

 

「まぁ、今日は何で居なかったのかわからないけど、そろそろ時間だし気を取り直してライブ大会観に行こっか」

 

「しくしく…そうですね。あ、口の中切れてる。しくしく」

 

そして私達はライブ大会の予選が行われる体育館に入り、運営のスタッフの人。

と、いうかこの学校の先生さんかな?その方から今日この学校で予選をするバンド名が書かれたリストを受け取った。

 

この学校の会場で予選に参加するのは今日と明日で18バンド。

曲はオリジナルでもコピーでもいいらしい。

 

このリストから自分がもう1度聞きたい。と思うバンドを3バンド選び、3点、2点、1点と点数を付けて投票する。今日参加のバンドだけで決めてもいいし、明日参加のバンドだけで決めてもいい。

私達は今日も明日も観る予定だけど、今日だけ観に来たとか、明日だけ観に来るってオーディエンスも多いだろうし、どっちが有利とかもないよね。

 

そして明後日から運営側で集計し、得点の高かった各学校から2バンドが決勝大会に参加出来る。

 

このリストにはGlitter Melodyのバンド名は無いから美緒ちゃん達は他の会場かな?

志保ちゃん達は何ていうバンド名で参加してるんだろ?

天音ちゃんのバンドはきっとこのリストの中にあるんだよね。

 

このリストにあるバンドのメンバーはみんなバンドをやりたいと思って、精一杯練習してきた子達がほとんどだろう。

私もチューナーとはいえ、15年前に闘っていた猛者だ。

志保ちゃん!天音ちゃん!身内贔屓はしないからね!

でも、頑張って!

 

「18バンドか。思ったより多いな。明日もあるし今日は9バンド出んのかな?」

 

「音楽の事だしタカくんは身内贔屓なんかしないと思うけど、メンバーの女の子が自分好みとか顔とかで選んで投票するのはやめなよ?」

 

「お前は俺を何だと思ってんだ?」

 

 

 

 

ライブ大会の予選は予定の時間通り開始された。

4バンドの演奏が終わり、次は5バンドめの演奏の準備をしている。

 

「すげぇな。みんなしっかり演奏出来てるし。BREEZE(おれら)も高校ん時からバンドやってたけど、ここまでちゃんと演奏やれてたっけ?」

 

「あはは、悶えちゃうよね。BREEZEってボーカルは歌詞間違えるし、ギターはたまに自信なさそうに演奏してたし、ベースはコード間違い多かったし、ドラムなんてオーディエンスの女の子ナンパしたりしてたもんね」

 

「そのBREEZEってバンドの女の子ナンパしてたドラマーがお前の今の旦那ですよ?わかってる?」

 

お、そろそろ次のバンドが出てくるかな?

 

「次のバンドは志保達か。どんな演奏すんのか楽しみだな」

 

「え?次って志保ちゃん達?タカくん志保ちゃん達のバンド名聞いてたの?」

 

「いや、バンド名が『PASTEL BEAT-Vo+Ba』って書いてあるし。企画バンドのPASTEL BEATから美緒ちゃんいないからマイナスボーカルで、双葉が入ったからプラスベースじゃえねぇの?捻りも何もなくそのまんまじゃん」

 

わっ!本当だ!

志保ちゃん達!さすがにこのバンド名はどうかと思うよ!?

 

そんな事を考えていると、タカくんの予想通り志保ちゃん達がステージに上がった。

 

『こんにちは!パスビマイボプラベです!』

 

あ、そんな略し方なんだ?

志保ちゃんの挨拶からステージは始まった。

 

『まずは1曲聞いて下さい!あたし達のオリジナル曲!『青春!(せいしゅん!)』』

 

「は!?あいつらオリジナル曲作ったの!?」

 

「わぁ。即興バンドなのに気合い入ってるねー」

 

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

 

『どうもありがとうございました!』

 

\\ワァー!//

 

『今日は2曲だけでしたが、私達まだまだ演奏し足りないので。土曜の決勝大会でも演奏したいです!また私達の曲を聞きたいと思って下さったら、是非私達に投票して下さい!』

 

\\ワァー!投票するよー!//

 

最後に双葉ちゃんが締めて、志保ちゃん達はステージを下りて行った。

さすが双葉ちゃんだね。ステージ馴れしてるだけあって最後の締めも完璧だ。

 

 

 

 

そして1日目のライブ大会予選は滞りなく進行し、今日の8バンド目が次の演奏だ。

今日は8バンドで明日が10バンドかな?

結局まだ天音ちゃんのバンドは出て来ていない。

 

「あの子のバンドまだ出てねぇな…。もしかして明日とか?いや、今日デビューって言ってたと思うんだが…」

 

あの子のバンド?

タカくんが知っている子のバンドが出るの?

いや、タカくんに限ってファントム以外の女子高生と知り合いなんて事無いと思うのに…。

どうしよう…ポリスメンに通報した方がいいかな?

 

「何お前のその顔。なんて眼で俺の事見てんの?」

 

少ししてから8バンド目の女の子達がステージへと上がって来た。

ステージに上がって来たのは…。

 

「お、あの子のバンドが今日のトリか」

 

「天音ちゃん!」

 

私とタカくんはほぼ同時に声を出した。

あの子ってもしかして天音ちゃんの事?

 

「お、おい三咲。今あの子の事、天音ちゃんって…」

 

「タカくんこそ…。天音ちゃんの事知ってるの?」

 

『こ、こ、こんにち…は。あ、あま…Amaterasu(アマテラス)です』

 

「天音ちゃんのバンド名…アマテラスっていうんだ?

太陽の女神様だっけ?タカくんの夜の太陽と梓ちゃん達のArtemisって女神様の名前を雰囲気合体させたような感じだね」

 

「あ?夜の太陽とか久しぶりに聞いたわ。ってか5人編成のバンドか…あ、聞き逃しそうだったけど雰囲気合体って何?新語?」

 

アマテラスか。

天音ちゃん達がどういう気持ちで、そのバンド名を付けたのかわからないけど、タカくんの太陽とArtemisを意識して名付けてくれてたんなら、何となく嬉しいな。

 

『えっ…と。ごめんなさい。私達、今日が初めてのライブで…。MCとか…その…。と、取り敢えず聞いて下さい!『巡り愛(めぐりあい)』』

 

『…?(え?え?巡り愛?あれ?あまねる『巡り愛』って決勝大会でやろうって言ってなかったっけ?えっと…コードどれだっけ?)』

 

『…!(へぇ、この土壇場でセトリ変更しちゃうんだ?いいよ。あまね。こういう展開面白い)』

 

『…!?(あ、やっぱり真凛さんは困っちゃってる!?蘭さんはやる気満々だけど…私はどうしよ…。あ、涼風さん!涼風さんは!?)』

 

『…(天音、もしかして緊張して間違えた?いえ、違いますわね。先ほど逃げていた時、何かありましたのね。だったら、わたくしがやる事は1つですわ!)』

 

♪~

♪♪~……

 

 

『(良かった。すずちゃんが上手く対応してくれた。ごめんね、みんな。今日も私は我が儘ばっかりで…)』

 

『(えっと…スズがもう演奏始めちゃってるし、あ、あたしの入りってもう過ぎちゃってね?ど、どうしよ…)』

 

『(おーおー、まりんは困ってるね。よし、すずかは大丈夫だろうし、あたしがこうしたらまりんは入りやすくなるかな?てるみもサポートよろしく~)』

 

『(わわわ…蘭さんちょっとアレンジ入れちゃってるし…あ、でもこれ…私が合わせたら真凛さんも入りやすくなるかも)』

 

『(真凛が下手こくから一時はどうなるかと思いましたが…。蘭も輝美もさすがですわね。さぁ、天音。準備は整いましてよ)』

 

『(みんなありがとう…よし!)出逢いは偶然も必然も~♪』

 

「!?…マジか。最初の入りはどうしたんだって思ったけど、この天音ちゃんだっけ?この子の歌って」

 

「うん!ゾクゾクするね!タカくんに似てるけど梓ちゃんにも似てる。奈緒ちゃんの歌もタカくんに似てたけど、また奈緒ちゃんとは別の凄さがあるね!」

 

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

 

『ハァ…ふぅ…あ、ありがとうございました』

 

\\ワァー!//

 

天音ちゃんの歌は凄かった。

本当にデビューなの?って思うくらいの完成度だ。

 

「どっかのBREEZEと全然違う…」

 

「それわざわざ口に出して言う必要ありました?」

 

『えっと…つ、次の曲で今日は最後になっちゃうんですけど…次はカバー曲を歌わせていただきます』

 

『(うぇ!?カバー!?ちょっ…聞いてないけど?)』

 

『(うわぁ、『春日ノ道(かすがのみち)』じゃないんだ?カバーって何やるんだろ。あまねの事だからBREEZE?か、Artemis?)』

 

『(天音さん今日は無茶振りが過ぎない!?でも、天音さんがやるって言うんだから、きっとやりきっちゃうよね。私も頑張らなきゃ!)』

 

『(カバーですって?天音…先程タカさんにお会いしたと言っておりましたが…BREEZEの曲をやる気ですのね。おのれ忌々しい…!)』

 

「カバーかぁ。何歌うんだろ?BREEZEのカバーだったらどうする?」

 

「あ?いやいやいや、いくら何でも有名でもないBREEZEのカバーした所で会場の人誰もわからんだろ。てか、オリジナルって思われなくもないし」

 

「ふぅん。で?射手座のレガリア三代目様は、四代目ちゃん達の演奏ってどう思った?」

 

「何その振り。

まぁ、天音ちゃんの歌は正直すげぇな。心に直接響くって言うか、頭にメロディーが残るっていうか。ギターの子は技術的にはまだまだだけど、パフォーマンスはしっかりして…」

 

「しっ!タカくん静かに!せっかく天音ちゃんがMC頑張ってるのに!」

 

「え!?話し掛けて来たのお前の方からですけど!?」

 

『…って訳で。あはは、な、長くなっちゃってごめんなさい。では聞いて下さい。BREEZEのカバーで『Future』』

 

『(おっしゃ!ナイスあまねる!Futureなら結月ちゃんにギター教えてもらいながら散々練習させられたし、あたしでもいける!)』

 

『(やっぱりBREEZE。Futureなら全然余裕。もっと難しい曲でも良かったのに)』

 

『(良かったぁ。Futureなら結月さんに真凛さんとのセッションに協力してって言われて一緒に練習したし)』

 

『(クッ…やはりBREEZEの曲…。まぁいいですわ。天音のやりたい事なら、わたくしは全力で応えるのみ!)』

 

「本当にBREEZE(おれたち)の曲かよ…」

 

「キーボードがいるってのもあるのかもしれないけど、BREEZEより完成度高いね」

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

そしてライブの予選大会1日目は終わり、明日の10組の演奏を聞いて投票が行われる。

明日来れないって人は今日投票しちゃうのかもだけど。

 

その日、私とタカくんはもう1度天音ちゃんに会おうと思ったけど、志保ちゃん達の話じゃ私達と入れ違いで帰っちゃったらしい。

志保ちゃん達も天音ちゃんがBREEZEの曲をカバーしたという事で興味を持って、少しお話をしたようだった。

 

 

2日目の予選大会も滞りなく終わり、私達はもう1度聞きたいと思うバンドに投票した。

決勝大会に出場出来るバンドは金曜日の夕方に発表されるらしい。

 

志保ちゃん達のバンドと天音ちゃん達のバンドが決勝大会に出て欲しいと思ってはいるけど、決勝大会に出たら志保ちゃん達と天音ちゃん達は闘う事になるから少し複雑かな。

 

「天音ちゃん、レガリアのチカラは使ってなかったね。使えなかったってのが正しいのかもしれないけど」

 

「ああ、あれでレガリアまで使いこなしたらどうなるんだろうな」

 

「使い方。教えてあげたら?」

 

「アホか。アレは使い方教わって使えたからって、本当のチカラとは言えねぇだろ。自分らしさを見つけねぇと」

 

「そっか」

 

「それよりもあのキーボードの女の子だ」

 

「あの子がどうかしたの?あ、もしかして好みのタイプ?捕まらないでね?」

 

「アホだなお前は。いや、あのキーボードの子な。俺と美緒ちゃんがよく行くラーメン屋の店員さんだなと思ってな…。レガリアの使い方を教えてあげたらラーメン少しサービスしてくれないかな?」

 

「タカくんが相変わらずしょーもない人間で私は嬉しいよ」

 

そうして私とタカくんの視察は終わりを告げるのであった。

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