バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第3話 面影

俺の名前は宮野 拓斗。

今日は合同文化祭とやらに駆り出されている。

 

ライブ大会の予選大会を観れるってのは楽しみではあるが、その為に文化祭をまわるってのはめんどくせぇなと思っていた。

そう。Canoro Feliceの姫咲が、文化祭をまわる組決めをするまでは…。

 

「拓斗くん、ごめんね。せっかくの文化祭なのに車イス押してもらっちゃって」

 

俺は梓と一緒にライブの予選を観る事になっていた。

ありがとう姫咲。本当にありがとう。

 

しかし、何で梓は制服を着てるんだ。

俺も高校ん時の制服を引っ張り出して来たら良かったぜ。

 

「気にすんな。それより梓は残念だったな。タカとまわれなくて」

 

「え?あ、う~ん…文化祭は今週いっぱいあるし別に…って感じかな?それより拓斗くんと2人ってのも久しぶりだよね。今日と明日はライブの予選大会しっかり楽しもうよ」

 

梓…何て素敵な言葉を掛けてくれるんだ。

ああ、結婚したい。いや、ダメだ。梓はタカに惚れてるんだ。決意しただろう。タカと結び付けて梓に幸せになってもらおうと。

だからタカ。早く梓の気持ちに気付いてやってくれ。

 

…気付かないなら早く恋人でも嫁でも貰ってくれ。それから改めて梓を狙うから。

 

「でも懐かしいね」

 

「え?あ?な、何だ?」

 

「ここってタカくんとトシキくんと三咲ちゃんの母校でしょ?2、3回しか来た事ないからちょっと記憶も曖昧だけど、あんまり変わらないなぁって思って」

 

「ん、ああ。そうだな。俺もよくこの学校には遊びに来てたしな」

 

「あはは。拓斗くんと英治くんは違う高校なのに、何でかいつもここに居たよね」

 

「ああ。ホントあの頃の俺らって自分の学校も行かずに何でこの学校に忍び込んでたんだか…」

 

懐かしいな。

俺も高校はちゃんと卒業出来てるし、出席日数は大丈夫だったが、いつもこの学校に居るって感じだったし、この学校の方が馴染み深いな。

…自分の学校には友達居なかったし。

 

-ブゥ

 

……何だ今の"ブゥ"って音は。

梓の方から聞こえたんだがまさか…いや、そんなはずはねぇ。梓は天使なんだ…英治じゃあるまいしこんな公共の場で…。

 

「あ、あははは。も、もしかして拓斗くん、聞こちゃった?」

 

マジで梓なの!?

え!?この場合は何って言うのが正解!?

タカ、トシキ、英治…いや、英治はいいか。

頼むタカ、トシキ!助けてくれ!俺はどうすればいい!?

 

『は?変態らしく"素敵なスメイルだ"とか言っとけばいいんじゃねぇの?』

 

『ダメだよはーちゃん。そんな事言ったら宮ちゃんは梓ちゃんに殴り○されちゃうよ。でも聞こえちゃったもんはしょうがないし、覚悟を決めるしかないかな』

 

『俺はいいってどういう事?一応俺はお前らの中で唯一妻帯者なんだけど?』

 

くそっ!こういう時に限ってあいつらを頼る俺も俺だが、本当にこういう時のBREEZE(あいつら)はクソの役にも立たねぇ!

 

-プゥ~

 

まただと!?もう1発いっちゃったというのか!?

 

「や、やっぱり…聞こえたよね?」

 

『もう言っとけって。"ああ。薔薇の香りだ"とか。あいつアホだから褒めときゃ悪いようにはならないって』

 

『いや~、こういうのは普段から梓ちゃんの前でかっこつけてる宮ちゃんにはハードル高いんじゃないかな?』

 

『あははは。俺をハブった罰だぜ!梓に殴られちまえ!』

 

くそっ!もういいから。頼った俺がバカだったから!

ちょっと黙ってろお前ら!

 

「せっかくの文化祭だから美味しい食べ物の出店とかあるかな?って期待して朝から何も食べずに来たからお腹が鳴っちゃったよ…恥ずかしい…」

 

そう言って赤面する梓。

 

-プゥ…プリッ

 

…確かにお腹から音が鳴ってやがる。

そうか。腹の音だったのか。そうだよな、梓が粗相する訳ないよな。

 

『おい、拓斗。"え?今のって屁じゃなかったの?"って言っとけ!』

 

『いや、はーちゃん。それはないでしょ。女の子相手なんだから、屁じゃなくておならって言った方がいいよ』

 

『ブハハハハハ!おい、拓斗!タカの言う通りに言ってみろって!そんでボコられちまえ!』

 

あいつら…。もういいから!俺の中から消えろ!!

 

「どしたの拓斗くん?」

 

「いやタカとトシキと英治が…」

 

「へ?タカくん達が?」

 

「あっ!いや、すまん。何でもねぇ!

昼にはちょっと早いが、ライブの予選大会もあるし先に何か食ってた方がいいかなって思ってな」

 

「うん!いいね!お腹空いちゃってるし、何か食べに行こう!」

 

危なかったぜ。すまん、梓。

もうあいつらの幻影に惑わされりしないから。

 

俺は俺の中にいるあいつらの妄想を払拭し、梓と文化祭を楽しみながら腹を満たす事にした。

 

 

 

 

「今の学生さん達の料理の腕ってすごいね!めちゃくちゃ美味しかったよ!」

 

「ああ。結構本格的な料理もあったしなかなか良かったな。さっきのクラスの催し物も面白かったしな」

 

俺と梓は適当にブラブラしながら文化祭を楽しんでいた。腹も満たされし、なかなか面白い催し物もあって結構満足している。

 

そんな時だった。

 

「宮野。お前、宮野 拓斗じゃないか?」

 

俺の名を呼ぶ初老の男がいた。

久しぶりに見た顔はあの頃の面影はあるが、やはり年月を感じさせていた。まだ定年してなかったとは。

 

「久しぶりだな鬼先(おにせん)

 

「お前は学校は違ったし、直接教鞭を取った訳じゃないが…懐かしいな」

 

「この学校の先生?」

 

「ああ。こいつは 鬼島(きじま)、通称 鬼先(おにせん)

タカ達の先公で生徒達に厳しかった男だ。タカもトシキも英治も俺も随分と絞られたもんだ」

 

「あ、鬼先って聞いた事あるかも。あ!ご、ごめんなさい!ご本人を前に!」

 

「ハッハッハ。構いませんよ」

 

「てか学校が違うのに拓斗くんと英治くんも絞られてたの?」

 

「こいつらはよくこの学校に忍び込んでましたからな。佐藤はまだ品行方正だったし、さほど絞ってはいませんが」

 

懐かしいって言うか、顔見ちまうと説教受けてた嫌な思い出が甦ってくるぜ。

でも、まぁ、生徒に厳しかった分、生徒をちゃんと見てくれてたってのもわかっていたし、俺達BREEZEにとっちゃ、ちょっとした恩人でもあるしな。

 

「今日は葉川や佐藤、中原…桜井は今はもう中原か。あいつらは来てないのか?木原さんと宮野だけか?」

 

「え?あたしの名前を知ってる?初対面…ですよね?」

 

「ええ。こうやって顔を合わせるのは初めてですな。何度か葉川達に会いに来ていた事は知っていますが」

 

「あ?それだけで梓ってわかったのか?」

 

「佐藤から話を聞いてましたし。実は私は今はこの学校の軽音部の顧問をしておりましてな。それでArtemisさんの事も」

 

鬼先が軽音部の顧問だと?

鬼先は確か剣道部の顧問じゃなかったか?いつも竹刀を振り回してたし。

 

あ、そういや軽音部…。

この学校って確か軽音部はなかったはずだ。

軽音部がなかったし、軽音とかロックとかやるヤツは不良だとかぬかしてやがったから、当時タカ達は苦労したんだしな。

 

「そういや失念してたぜ。この学校にゃ軽音部はなかったよな?軽音部のある学校で予選大会っていっても、今の時代じゃ違和感なく受け入れちまってたけどよ」

 

「はぁ…相変わらずお前も葉川も年配の…しかも恩師に向かってタメ口とはな。佐藤を見習ってほしいもんだ」

 

「あ?それってトシキとは最近でも会ったって事か?」

 

「ああ、佐藤とはたまにな。あいつは私の趣味の盆栽展覧会にも足しげく見に来てくれとるしな。葉川とは…軽音部をこの学校に作るちょっと前に…あの時に会った以来か…」

 

そして鬼先はどこか遠い目をしながら語り始めた。

 

「私ももう2年程で定年という歳なのだが、数年前にな…もう腰が痛いわ反応は遅れてしまうわでな。教職を取ってからずっと続けてきた剣道部の顧問としての限界を感じておった」

 

竹刀を振り回しては俺らを追っかけてしばき倒して来てたのにな。鬼先…。なんか感慨深くなっちまうぜ。

 

「定年より少し早いがもう教職を辞して、妻とのんびり過ごそうかと考えていたんだが…」

 

 

 

 

『おう、先生』

 

『ん?お前…葉川?葉川か』

 

『久し振りだな』

 

『おうおうおう!本当に久し振りだな!ちょっと太ったかお前』

 

『ほっとけ』

 

『本当に懐かしいな。何年振りだ?佐藤とはたまに会っておるが…』

 

『おう、そのトシキに聞いてよ。ちょっと顔見ようと思ってな』

 

『佐藤に?何だ』

 

『俺らを竹刀で散々しばき倒してた鬼島先生様がよ。どうも足腰弱らせて剣道部どころか先生も辞めちまうつもりらしいって聞いてな』

 

『そうか。佐藤からなぁ。あいつも余計な事を…』

 

『鬼先って呼ばれてたくせに、ちょっと足腰弱くなって剣道部の学生さん達についていけなくなったからって、定年前に辞めちまうつもりとはな。情けねぇ』

 

『ム…!何だキサマは。儂をバカにしにきたのか?』

 

『おーそうだよ。教師が生涯の仕事だとかのたまわってやがったくせにな!足腰弱くなってんなら丁度いいしついでにお礼参りでもしてやろうと思ってよ』

 

『お前に何がわかる…!儂はこれまでな…』

 

『これでもくらいやがれ!』

 

 

 

 

「葉川のヤツはあろうことか私に泥団子を投げつけてきましてな。そしてお尻ペンペンしながら逃げていきました」

 

「あ、あいつはアホか…」

 

「うわぁ…いい歳した大人が定年間近の人に泥団子投げてお礼参りとか…」

 

しかしタカらしくねぇ行動だな。

あいつもいつも鬼先にしばかれていたが、いつも感謝してやがったし、高3になる頃には鬼先とは呼ばず"先生"って呼んでやがったのにな。

 

「葉川の行動に憤慨した私は持ち歩いていた竹刀を取り出して…」

 

 

 

 

『は、葉川!キサマ!いい歳して何て事を!キサマは本当に昔から変わらんな!』

 

『いやー、過去の因縁に終止符を打てたようでスッキリしたわ……って!?鬼先、足腰弱ってんじゃねぇのかよ!何で走って追っかけて来てんの!?』

 

『キサマに遅れを取る程まだ弱ってはおらんわ!』

 

『痛っ!イテェ!マジで痛い!ちょっ、竹刀はタンマ!』

 

『うるさい!キサマは今日ここで再教育してやるわ!』

 

『んだよ!もう先生辞めんじゃねーのかよ!』

 

『キサマみたいなバカを世に送り出した責任を取るまで教師を辞められるか!』

 

-パシッ

 

『ム!葉川。お前竹刀を…』

 

『あー、マジで痛かったわ。でもま、こんだけ元気あんなら大丈夫だろ』

 

『お前、何を…』

 

『先生よ。辞めんなよ、今はゆとりだとか、なんだかんだとあるし、体罰はダメだとか熱血教育は流行らないとか今は色々あるだろうけどよ。先生みたいに真っ直ぐ生徒にぶつかってくる人も必要なんだとは思うぜ?まだこんな元気なんじゃんか。定年まで頑張ってみろって』

 

『お前まさかそんな事を言う為に…』

 

 

 

 

「それで教師を辞めるつもりだったのを、定年まで後少し頑張ろうと思いましてな。剣道部の方は体力的にもう無理なもので、他の道を見つけようと思い葉川達のやっていた音楽。バンドの事を思い出して必死に勉強して軽音部を作ったという訳だ」

 

タカの野郎。

やっぱりあいつは最高だな。

 

「で、でもやっぱり泥団子を投げつけるのはやり過ぎなような…」

 

「ハッハッハ。それもその日帰宅してから妻に聞いた事ですが、葉川と佐藤で妻にあの作戦の事を了解を得ていたみたいでですな。その日妻には古くなって傷んでいる服装を着て行くよう言われてたのですよ。元から汚れても良いようにしくまれてたのです」

 

「そ、そうだったんですか。さすがタカくんだなぁ。考える事が…もうアレだね」

 

ああ。確かに最高だとは思うが、そんな芝居じみた事せずに素直に説得すりゃ良かったものを…。

ってか、あいつの性格上素直にってのは無理か。

 

「私はやはり歳の取り過ぎで朦朧してました。葉川のそんな計らいに気付かず竹刀を振り回したんですから」

 

「まぁ、そこは気にしなくていいんじゃねぇか?あいつがバカってのは変わってねぇしな」

 

「うん。それに色々としばかれ馴れてるだろうし。多分痛いとか言ってたのもブラフだよ」

 

いや、それはさすがにないんじゃない?

しばかれ馴れてるって何?

 

「だからこの学校の軽音部で、いつかBREEZEを越えるようなバンドを生み出したいと思うようになりました。それが私の葉川に出来る最大の恩返しと思うてな」

 

「ほう。俺達を越えるバンドか。それはなかなか大変だな」

 

「ぶっちゃけちゃうとBREEZEを越える程度のバンドなら簡単な気もするけど、デュエルで1度も勝ててないあたしは大きな声じゃ言えないかな」

 

聞こえてる。

梓、その台詞俺にも鬼先にも聞こえちゃってるよ。

 

「そういう思いでこの数年、軽音部を頑張ってきた甲斐があってな。とうとう今年の入学…」

 

-ピンポンパンポーン

-鬼島先生、鬼島先生。いらっしゃいましたら今すぐ職員室に

 

「お、呼び出しですかな?すみません、私はこれで…。2人共、我が校の文化祭を是非楽しんで下され」

 

「おい、待て鬼先!さっき言い掛けてたのは何だ?とうとう今年って」

 

「ああ。とうとう今年の入学生にな。お前達BREEZEをいずれは越えていきそうな逸材を見つけたんだ。その子達もかつてのお前達をリスペクトしておっての」

 

「なんだと!?」

 

「そのバンドをBREEZEのベーシストだった宮野に見てもらえる。この合同文化祭には感謝しとるよ」

 

そう言って鬼先は職員室へと向かって行った。

俺達BREEZEを越えるバンドだと?それも今年入学して来たって事は1年生か?

"いずれは"とも言っていたが、そんなバンドが今日この文化祭で観れるとはな。

 

「楽しみだね、拓斗くん」

 

「ああ。本当に楽しみだ」

 

 

 

 

それから少しして、ライブの予選大会が行われる特設会場へと俺達は向かった。

どうやらこの学校では野外ステージで予選が行われるらしい。

仮設のステージだからか見た目は小さいが、今日と明日の予選では計15組のバンドが参加するらしい。

予選に出るバンド数は各学校で、行事や何だのの関係で数の上下はあるらしい。

 

その辺は数の少ない会場になったバンドの方が有利ではあるんだろうが、その辺は運も実力のうちという事だそうだ。

 

ま、対戦バンドの数がいくつだろうが、最終的に1番になるんなら対戦バンドの数とか関係ねぇからな。

ようは1番最高の音楽をやるだけなんだからな。

 

「今日は10バンドで明日は朝からで5バンドだけなんだね」

 

「ああ。この学校は仮設ステージでダンス大会もやるらしくてな。明日の昼からはダンス大会に使うそうだ」

 

「ふふふ。姫咲ちゃんの学校は演劇大会だし、美緒ちゃんの学校は木曜日までの期間は吹奏楽の大会みたいだしね。みんな青春してるねぇ」

 

「綾乃達の行く学校はファッションショーがあるとか言ってたっけな」

 

今は色々と文化部も豊富だな。

奈緒達の行く学校は大食い大会があるとか言ってたし、トシキ達の行く学校はDJ大会があるとか言ってたよな。何か『奈緒達のソロ曲の時は俺はDJやるからDJ大会見たいんですけど!』とかタカのヤツが言っていたが、あいつ本気か?

 

「あ、1組目のバンド出てきたよ」

 

「おお。楽しみだな」

 

俺がちょっと考え事をしている間に1組目のバンドの準備が終わり、メンバーがステージへと上がって来た。

 

観せてもらうとするか。

今の世代の音楽ってやつを。

 

 

 

『ありがとうございました!』

 

\\ワァー!パチパチパチ//

 

「みんな凄いねぇ。音楽の未来も明るそうだよ♪」

 

「フッ、まぁまぁだな」

 

「拓斗くんは厳しいなぁ。そりゃ拓斗くん達に比べたら…って、拓斗くんどしたの?すごい汗だよ?」

 

ま、マジか…。こいつらまだ高校生だろ!?

え、何?何でみんなこんなに上手いの!?

そりゃクリムゾンのヤツらや、今の俺からしたら敵じゃねぇとは思うが、まだ高校生だよ!?

ってそういやAiles FlammeもGlitter Melodyも姫咲も冬馬も明日香も考えてみたら高校生じゃん!

 

え?やば。どうしよ。俺らBREEZEって高校の時からこんな凄い演奏出来てたっけ?

 

ライブの予選大会は順調に進み、もう6組の演奏が終了していた。

 

 

-ピンポンパンポーン

『ライブ大会をお楽しみの所申し訳ありません。予定を変更しまして次の出場バンドはBREEZE ASPECT(ブリーズ アスペクト)。BREEZE ASPECTとなります』

 

 

BREEZE ASPECTだと!?

 

「ね、ねぇ。拓斗くん…」

 

「ああ…」

 

梓もこのバンド名を聞いてピンと思ったんだろう。

BREEZE ASPECT、直訳したら"そよ風の側面"?いや、"そよ風の様相"か?

どっちにしろBREEZE(おれたち)を意識して名付けたに違いない。

 

鬼先の言っていた俺達を越えそうなバンドか…。

正直、これまで出場したバンド各々が俺達を越えてもおかしくないとは思ってはいたが、鬼先お墨付きのバンド。

お前らの実力を見せてもらうぜ。

 

 

『いやー、すみません。本当は私達の出場は次の予定だったんですが…。諸事情で今からが私達の時間だ!

……お前ら!しっかり私達の演奏を楽しめよ!』

 

私達の演奏を楽しめ…か。

面白い。昔のタカを思い出させるようなMCじゃねぇか。

見せてみろ!BREEZE ASPECT(おまえら)の演奏を!

 

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

 

\\ワァー!//

 

『ありがとうございました!』

 

確かに今の奴らの演奏は凄かったが…。

 

「た、拓斗くん…今の子達って」

 

やはり梓も気付いたか。

 

「ああ。2曲ともカバーだったし。カバーもクリムゾンの曲だったよな」

 

「だ、だよね?確かinterludeの曲だよね。さっきの」

 

「鬼先の言ってた俺達を越えそうってバンドじゃなさそうだな」

 

「うん、確か歌も演奏も上手かったけどね。

それに鬼島先生の話じゃ今年の新入生って事だったけど、あの子達この学校の制服じゃないし」

 

ああ、そういやそうだな。

さすが学生の文化祭って事で、出場するバンドはみんな自分達の制服だもんな。

 

 

『続きましてのバンドも順番が入れ替わりまして、T・A・K・A(ティーエーケーエー)なります』

 

 

T・A・K・Aだと!?

そのまんまタカじゃん!

BREEZEをリスペクトって鬼先は言ってたけど、結局タカだけなのかよ!?

 

「……って思ったけど、あいつらも鬼先の言ってたバンドとは違うみたいだな」

 

「ん?拓斗くんは何を思ったの?

この学校の生徒さんじゃなさそうだし、みんな楽器も持ってないし…8人も出てきたけど」

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

「まさかの全員ボーカルだったな」

 

「姫咲ちゃんが、ちゃんとバンドかどうかも審査してるって言ってたけど、この子達どうやって審査を通過したんだろうね?」

 

全員ボーカルではバンドとしてダメって事はないんだが、演奏もないしこれは本当にバンドとして良かったんだろうか?

 

 

 

『次が本日最後のバンドの演奏となります』

 

結局、あの後はこの学校の制服を着たバンドは登場しなかった。

って事は次のバンドが、鬼先の言っていたバンドか。

 

『次は『Break Bell(ブレイク ベル)』の予定なんですけど…えっと、大丈夫ですか?』

 

ん?大丈夫ですか?って何だ?

 

『は、はいはーい!大丈夫です、大丈夫です!』

 

そう言ってステージに上がって来た3人の女の子。

3人はこの学校の制服を着ていた。

って事は鬼先の言っていたバンドってのは、きっとこいつらの事なんだろうな。

 

3人は特に急ぐような様子もなく、ゆっくりと楽器のセッティングをしていた。

ギターとドラムとベースのバンドか?

と、思っていたが、ステージの中央にもう1本のギターがソッとセッティングされた。どういう事だ?

 

『あ、あはは。準備に時間が掛けちゃって、本当にごめんなさい』

 

ギターの女の子が前に出てみんなに謝っている。

 

『じ、実はうちらのボーカルの子が友達のピンチだからって飛び出して行っちゃって…』

 

『出場時間までには戻るって言ってたけど、それで自分らが今度はピンチになってたら世話ないってのに…』

 

ギターの女の子の言葉にベースの女の子が割って入った。

 

『で、でもさ?それがあの子のいい所じゃん』

 

『ま、そうだけど…さ』

 

『ってそんな訳で~。皆さんちょっとだけ時間稼ぎに付き合って下さい♪』

 

時間稼ぎって言ったぞあの子。

 

『あ、あはは…。あ、そうだ!私達のバンド名!Break Bellっていうんですけど、おかしくありません?直訳すると"鐘を壊す"って言うか…』

 

『それって結月がやる予定のMCじゃ?』

 

ドラムの女の子がギターの女の子に対して声を掛けた。

ボーカルの子の名前は結月っていうのか。

 

『ま、まぁそうだけどさ?あ、そ、それでですね。私達のボーカルってお寺の子なんですけど、昔から鐘の音が好きでして。

それで"あたし達のバンド名はBreak Bellにするよ。Breakって活発なって意味の英語みたい。活発な鐘の音って意味を込めてBreak Bell!"とか言い出して~』

 

『私はその時にも"Breakは壊すって意味よ。活発なって意味にしたいのならBreakではなくBrisk(ブリスク)ね"と、言ったのに…』

 

『そうそう。なのに結月はこないだのデビューライブの時もBriskじゃなくてBreakで登録しちゃうし、MCの時もBreak Bellって力強く言っちゃうし…あのバカの子は本当に…』

 

『で、でもさ?そこがあの子のいい所じゃん?』

 

『『いや、そこはダメな所でしょ』』

 

英単語のミスだと…。

そこはタカとは全然違うな。

 

「ふぅん、そういう所はタカくんとは似てないなぁ。タカくんなら、え?神経質過ぎない?ってくらい英語調べまくるし」

 

そうだな。むしろそういう所はタカより梓に…。

いや、ダメだ俺。これ以上考えるな。

 

…それからしばらくの間、ボーカルが現れる事はなくMCが続いた。

時折会場にも笑いが起こったり、盛り上がったりもするMCではあったが、そろそろ飽きてくる観客も出てきている。

 

「すごいねあのギターの子。MCを観客が飽きないように試行錯誤して、場を盛り上げて」

 

「ああ。タカに振り回されてた時が懐かしいぜ。俺かトシキか英治、俺らん中にあの子くらい機転の利いたMC出来るヤツがいたら良かったのにって思うぜ。あのベースの子とドラムの子のツッコミも絶妙だしな」

 

「うん。だけど…」

 

「ああ。ちっと長すぎるな。会場の中には飽きてきちまってる奴らもいる」

 

「MCだけで伸ばすのは、そろそろ限界だね」

 

そうだな。

確かにこれ以上MCを延長しても、観客の心を繋ぐ事は無理だろう。

MCは見事だが俺達ん時ならセッションやソロやったりと色々と手段もあったんだがな。

 

タカは遅刻ってのはなかったけど演出の為とか言って、わざと遅れて来てやがったからな。

そのおかげで変なスキルばっかり身に付いてしまったな。

 

『って訳でして~。あは、あはは…(うぅ…もう限界だよ…早く来て結月…)』

 

『ほら、もう観客も飽きちゃってるって(あのバカ…早く来なさいよ)』

 

『……(そろそろ限界ね)』

 

さぁ、てめぇらこっからどうする?

そう思っている時だった。

ドラムの女の子がステージの前に出てきて俺達観客に向けて頭を下げた。

 

『皆様、ここまでお待ちいただいて申し訳ございません。…諸事情でボーカルが遅刻してまして、このまま待っていても時間が経つばかりでライブをする事は叶わないかと思われます』

 

『ちょ、ちょっと…もうちょ…』

 

『確かに…もう引き際ね…』

 

なるほどな。確かに引き際か。

これ以上オーディエンスを待たせてライブをやっても盛り上がる保証もねぇ。

いや、下手な演奏になっちまったらブーイングの嵐だろう。

リタイヤするのが得策だろうな。

 

「拓斗くん…」

 

「ああ…残念だな」

 

『私達Break Bellは残念ですが、このライブ大会を棄権させて…』

 

「棄権はしないよ!!」

 

俺達の後方。

ステージ側から反対の校門側から大きな声が聞こえた。

 

「ハァ…ハァ…棄権はしない!!演奏始めて!!」

 

『『『結月!』』』

 

『ど、どうする?結月、演奏しろって』

 

『やるしかないわよ!やるわよ!』

 

『そうね。あとは結月に任せるわ』

 

-ドンドンドンシャン…ギューン…

 

ステージに居る3人が演奏を開始し、それを確認した結月と呼ばれる女の子が観客席の中をステージに向かって走り出した。

 

その結月と呼ばれる女の子が俺達の橫を通り過ぎる時、俺はその顔を見て驚いた。

 

「ま、真奈美!?」

 

「え?」

 

俺に真奈美と呼ばれた女の子は一瞬立ち止まり、俺の方へと顔を向けた。

 

『結月!』

 

『結月!早く来なさいよ!』

 

「う?え?…あ」

 

ステージの上から結月と呼ばれる女の子。

その子は目の合った俺に一瞬頭を下げて、再びステージへと走って向かった。

 

「拓斗くん…今の子の事…真奈美って」

 

「あ、ああ。真奈美に…似てたから…ついな」

 

と、梓にそこまで返事してハッとした。

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!

俺とした事が梓の前でうっかり真奈美の名前を…!

 

「ヘェ、アノ女ノ子。真奈美チャンッテ子二似テルンダ?」

 

三咲にも命が…いや、地球が滅んで欲しくないなら梓と澄香の前では真奈美の事はタブーだと言われていたのに…。

 

 

真奈美…。

タカ達と同中じゃなかった俺は親しい訳じゃないが、俺達BREEZEのライブにたまに来てくれていた。

本当にたまにしか来てやがったなかったけど。

 

タカとトシキ、三咲と小学校からの仲で、タカの初恋の女の子。

ってもタカはチキンだから告る事もなく、高校も別だった事もあるからか疎遠になって…。

BREEZEの初ライブに招待したら彼氏と来たという面白エピソードの立役者だな。

 

だが梓と澄香にとっては…って事だな。

 

「ふぅん、タカくんのタイプはあんな感じか。確かに可愛い。

いや、でもあたしも澄香もまだ負けては…いや、確かにあの子可愛いな」

 

あ?あれ?

もっと怒り狂ってこの学校くらいなら一瞬で焼け野原にしちまうと思ったんだが…。

 

「どしたの?拓斗くん」

 

「あ、いや…真奈美の事…梓も知ってんだなって思ってな」

 

「あ~…まぁね。タカくんにもトシキくんにも英治くんにも三咲ちゃんや晴香ちゃんからも聞いた事あるしね」

 

いや、それ俺以外の真奈美を知ってる人全員じゃねぇか。何やってんのあの人達。

それより俺に注意してきた三咲にも聞いた事あるの?

 

「まぁタカくんの初恋の人ってので、ちょっとジェラッちゃう事もあったけど別に付き合ってたとかじゃないし。あたし達と出会った頃にタカくんが好きだった人は香保さんだったし?」

 

ああ、確かにな。真奈美が彼氏を連れて来たライブの後、タカは泣きながら旅に出ちゃった逸話もあるにはあるが…。

その後もタカのファンとかカッコいいとか言ってきて、その気になりかけてたタカを見事にフッてタカを女性不信にした女の子達もたくさん居るしな。

 

てか、タカが実は香保さんに惚れてた時期がある事をこんな所でバラしちゃうの?

 

「でもあたしにとっても澄香にとっても本当の敵は、多分未だにタカくんの心に残ってるあの子だし」

 

タカの心に残ってるあの子?

ああ…あいつの事か?梓に言われるまですっかり忘れちまってたぜ。

確かに女性不信に陥ってたタカを惚れさせ…。

 

いや、待て…誰だその女?

確かに記憶にはある。

だが顔も声もエピソードも何も思い出せねぇ…。

 

「あはは。って言っても、あたしも澄香も会った事あるハズなのに、その子の名前どころか顔も声も…どんな子だったのかも全然思い出せないんだけど。やっぱり歳かなぁ?昔の事だから思い出せない事いっぱいあるよ」

 

梓もなのか?

確かにタカが惚れて…そいつを守る為になんなかんややったって記憶はある。そいつも確か音楽やってて…本人は否定してたが、俺達まわりから見たらあからさまにタカの事が大好きで…。なのに何故タカと結ばれなかった?何で思い出せねぇ…トシキや英治なら覚えてやがるかな?

 

「あ、そだ。こないだなっちゃんに昔の事話してる時も、どうしても思い出せない事があったんだよね。

拓斗くんは覚えてる?香保さんって雨宮さんの事嫌いだったじゃん?香保さんって何で雨宮さんと結婚したんだっけ?」

 

あ?香保さんが雨宮さんと結婚した理由?

確かあの2人は昔からのライバル同士でって感じだったが、香保さんも本当は嫌いって言って振り回して…振り回されてる雨宮さんの事を好きって言って…。

 

確かに何でだ?

そんな香保さんが何故、折れて雨宮さんと付き合う事にして結婚した?

俺もクリムゾンとの戦いが長いせいで色々忘れちまってる事が多いって事か?

 

「香保さんが雨宮さんの気持ちに応えたきっかけがあったハズなんだけど、どうしても思い出せないんだよね~」

 

『す、すみません!皆さん!お待たせしました!タクシー飛ばしたんですけど、途中でお金足りなくなりそうで走って来たから…』

 

「あ、始まるみたいだね」

 

いつの間にか結月と呼ばれる女の子はギターを提げてステージに立っていた。

 

『だけど待たせちゃった分、しっかりと盛り上げてみせるから、あたし達のステージ、楽しんで!』

 

そう言ってギターを弾く結月とやら。

その結月と呼ばれる女の子の音に合わせて、まわりの演奏も激しくなった。

 

『聴いて下さい!『 Ring a Bell(リング ア ベル)』!』

 

-ドン!ドン!ドンシャン!

 

タイトルコールの後、さらに演奏が激しくなり、ボーカルの子の歌が始まった。

 

 

-ビリビリビリッ

 

 

身体中に電気が走ったような感覚。

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

演奏も高校生とは思えないくらいのレベルだが、この子の歌声はそれ以上に…。

鬼先の言っていた BREEZE(おれたち)を越えるってのも納得しちまいそうになるぜ。

 

「凄いねこの子の歌声。まるで…」

 

「ああ。タカや…大神さんを思い出させられるな」

 

「うん。周りの楽しい雰囲気ごとズドンと心に入り込んでくる感じ。あはは、拓斗くん変なの。泣いちゃってるし」

 

「あ?な、泣いてねぇし!そ、それにタカや大神さんの歌声思い出すってもまだまだだ。演奏も俺らの方がまだ上手かったしな!って…梓も涙出してんじゃねぇか」

 

「え?…あれ?本当だ。変なのあはは」

 

別に俺も梓もこのBreak Bellの演奏に感動した訳じゃねぇ。いや、少しは凄いと思ったし感動もしたにはしたが。

 

この子の歌声を聴いて、俺も梓もタカと大神さんを思い出して感極まっただけだ。

いや、待って。タカも大神さんも元気だから。

タカに至ってはまだアホみたいに元気に歌ってるし。

 

しかし、あの頃を思い出すような歌声に俺も梓も酔いしれていた。

 

 

♪~

♪♪~

♪♪♪~

 

 

「どのバンドの子達も凄かったね。これからの音楽の世界も楽しみだよ!うんうん!」

 

「ああ。そうだな」

 

「あの子達の未来の為にも、やれる事なんて些細な事だけど…お父さん達のクリムゾンエンターテイメントだけは何とかしなきゃ。今度こそ…」

 

「ああ…そう…だな」

 

お父さん達のクリムゾンエンターテイメント…か。

お前もタカ達も本当はクリムゾンエンターテイメントとは関わらせたくないんだけどな。

 

「拓斗くん。もしかしてさっきのBreak Bellの子達を探してる?」

 

「ん?あ、ああ。まぁな。鬼先の事もあるしちょっと声を掛けておきたかったんだが…」

 

ライブ大会の予選の後、しばらく帰らずにBreak Bellの子らを探してみたが、残念ながら見つけることは出来なかった。

 

「やっぱりね。でもまさか2曲目にBREEZEのヴァンパイアを歌うとはね」

 

「ああ。俺も驚いたよ」

 

さすがに俺も驚いた。

いや、あの子のバンドメンバーも驚いてたけどな。

 

 

 

 

『ありがとうございました!Break Bellで"Ring a Bell"でした!』

 

\\ワァー!//

 

『ほら、結月。チャチャっと次の曲いくわよ』

 

『待ってよ。せっかくMCも考えてきたんだし。えっと、あたし達のバンド名って実は…』

 

『ごめん、結月。それ私がやっちゃった』

 

『…え?何で?』

 

『何でって、結月が遅れて来るからでしょう』

 

『あ、そっか…ごめん。あ、それじゃ、あたしって実はお寺の子なんですけど、メンバーのみんなは昔からの檀家さんの子で…』

 

『結月。それもやった』

 

『私達が幼馴染みでーって所までやっちゃった』

 

『…え?何で?』

 

『あなたが遅れてくるからよ』

 

『ちなみに当初予定してたMC全部やったから』

 

『ご、ごめんね結月』

 

『遅れてくるからよ。次の曲に入りましょう』

 

『…だ、だったら、つ、次の曲いきます…』

 

\\ワァー!//

 

『ほら、結月。タイトルコール』

 

『わ、わかってるよ。次の曲はカバー曲です!』

 

『『へ?カバー曲?』』

 

『どういう事?』

 

『聴いて下さい!BREEZEでヴァンパイア!』

 

『『は!?ヴァンパイア!?』』

 

『?本当にどういう事?』

 

 

 

 

あんな感じだったのにまさか見事にやりきるとはな。

 

「あたしも会って話してみたかったけどね」

 

「ま、こんだけ待っても見つからないんじゃしょうがねぇ。あいつら学生だしライブの後は文化祭を楽しんでるかもしれねぇしな」

 

「そうだね。あの子達がバンドを続けてたら…ううん。きっと予選突破して決勝大会でまた会えるよ」

 

「俺もそう思う。明日も他のバンドの予選はあるが、あいつらならきっと予選突破するだろうな」

 

「うん!」

 

梓の言う通りまた近いうちに会う事になるだろう。

そうして俺と梓は明日に備えて帰る事にした。

 

 

 

 

 

 

「って!結月それマジ!?」

 

「うん、間違いないよ。観客席に拓斗さんと梓さんが居た」

 

「そんな事より、貴女達も手を動かしなさい。遅れて来た責任で今日の片付けは私達がやる事になったんだから。早く帰りたいでしょう」

 

「そんな事よりって何よそんな事よりって!あたしの最推しの拓斗さんが居たのよ!?あああああ!まさかあたしのまだ下手くそなベースの演奏を拓斗さんに聞かれてしまうとは!!」

 

「きっとまた会えるよ、決勝大会で。ね、結月」

 

「うん。今日は遅れちゃったけど、最高の演奏がやれた。決勝大会にいけるよ、あたし達はきっと。

それより拓斗さん…あたしを見てお母さんの名前を呼んだよね?お母さんの事…覚えてるのかな?」

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