バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第6話 海原の目的

「あー、せっかくの文化祭編でライブ大会もあるし、ガチで青春×バンドやれると思ってたのに、何で俺は梓と文化祭を回ってんだろ…」

 

「あたしも昔はバンドバンドで全然文化祭とか楽しめなかったしね。何かこういう雰囲気いいよね♪」

 

「お前は何を思って『こういう雰囲気いいよね♪』とか言ってんだ?今の状況わかってる?てか、俺の話聞いてた?」

 

あたしの名前は木原 梓。

今日は前回の話からの続きのような形で、お父さん…クリムゾンエンターテイメントの創始者である海原 神人に会って話を聞く為に、タカくんと一緒に文化祭をまわっている。

 

「てか、何でお前はこの学校を選んだんだ?娘の勘とか言ってたけど、ここって今日はライブ大会の予選もねぇだろ?昨日で出場参加バンドの予選は終わったみたいだし」

 

「うん、でも…お父さんはきっとここに現れるよ」

 

何てちっとも思っていません。

ごめんね、タカくん。

 

長年お父さんと戦ってきたあたしとしてはこう思うの。

お父さんの行動はいつも的確にクリムゾンエンターテイメントの利益を得るように考えられている。

もし仮にバンド大会に興味があるなら、予選ではなく決勝大会だけを観にくるはず。

 

どうして予選大会に来ていたのかって気になるには気になるんだけど、あたしとタカくんに会う事自体がお父さんの計画なんだろうと思う。

いや、元々は他の計画があったんだろうけど、トシキくんと英治くんと会った事で、この計画に変えたんだろうと思う。

 

だから今はあたしもタカくんもお父さんに会う訳にはいかない。それがきっとお父さんの利益になるから。

あたしとしてはお父さんは近いうちにあたしが倒せばいいと思っているし、今、Blaze Futureを頑張ってるタカくんにお父さんを会わせる訳にはいかない。

 

そこであたしはライブ大会が今日行われないこの学校を、お父さんが来る事はないだろうと思う学校を選んだ。

 

ふふふ。長々と語っていたけど、これでお父さんからタカくんを守れるし、タカくんとの文化祭デートを1日かけて楽しむ事が出来る。

グッジョブやであたし!

 

「さすがだな、梓」

 

「ふぇ?な、何が?」

 

車イスを押してくれていたタカくんが急に立ち止まり、あたしに声を掛けてきた。

って、何がさすがなの?タカくんもあたしと文化祭デート楽しみたいとかチラッと思ってくれてたとか?

 

それ以降何も言わないタカくんの目線の先を見てみる。

 

 

 

そんなアホな…。

 

 

 

「さすがだね、タカ、梓。

まさか私がこの学校を選ぶ事を見破るとは。キミ達の裏をかいたつもりだったが…。いや、本当に驚いたよ」

 

驚いたのはあたしの方だよー!!!

何で!?何でお父さんがこの学校に居るの!?

おかしいじゃん!あり得ないじゃん!

今日はこの学校ではライブ大会ないんだよ!?

何で居るの!?

 

「俺はお前なんかと会いたくなんかなかったんだけどな。まぁ、色々とめんどくせぇ事をしてくれるよなお前は」

 

「ふふふ。それは褒め言葉として受け取っておこうか。…しかし、今日この学校ではライブ大会が行われないと聞いてこの学校を選んだのだが、この学校に私が来ると見破ったのはタカかね?それとも梓かな?」

 

そうだよそうだよ!今日はこの学校でライブ大会がないってのお父さんも知ってるんじゃん!

なのにどうしてこの学校に来てんの!?アホなの?

一応音楽事務所の社長でしょ!?

ちゃんと仕事しようよ仕事!!

 

「梓だよ。なんか娘の勘らしいぜ?」

 

「ほう。さすが私の娘といったところだな」

 

違うよ違うよ!お父さんが行くだろうなぁ。って思ってた学校は本当は別の学校だよ!

ここには来る訳ないって思ってたんだよもん!

だよもんって何やねん!

 

「ってな訳でよ。俺と梓がせっかくお前を見つけてやったんだ。これはバンドや音楽の話でよ。お前なんかに構って文字数無駄にしてる場合じゃねぇんだわ。さっさと話せよ、お前の目的っやつを」

 

「いやいや、なかなかせっかちだね、タカ。

こうやって15年振りに父と娘が再会したんだ。もうちょっと情緒というものを汲んでくれてもいいんじゃないかな?」

 

「情緒だぁ…」

 

「ふふふ。実際梓にとっては感動の再会なんかではなく、ただ私を警戒して喋らないだけかも知れないけどね」

 

「梓…」

 

お父さんは!何で!ここに来たの!!

くっはー!タカくん達にあたしと聖羅のSNSアカウントがバレちゃってて、いつもあたしらの会話見られてるってのは聞いてたけどさ!

どんだけ暇やねんあのおっさん!アホなの?仕事しなよ!

てか、ほんまに何でこの学校選ぶねん!

 

「おい、梓!」

 

「ん?え?タカくん?」

 

いけないいけない。

自分の中で色々文句言ってる場合じゃないよ。

もう会ってしまったんだから、お父さんの目的ってやつを聞き出さなきゃだよね。

 

「お前な。一応ここに海原が来るって予想してたんだろ?それが正にビンゴだったんじゃねぇか。今更警戒なんかしてもよ」

 

あ、そうだそうだ。

一応タカくんには"この学校にお父さんが来る"ってあたしの予想話してたんだもんね。

黙り込んでる訳にはいかないわ。

 

「…久しぶりだね、お父さん」

 

「ああ、本当に久しぶりだ。しばらく見ない間にまた遙那に似てきたな」

 

お母さんに…か。

 

「お父さんがここに来るのは予想通りだよ。…お父さんの目的話してくれるよね?」

 

はい。あたし今嘘つきましたー。

 

「ふふふ、予想通りか。本当にそうなのかね?

本当は私に会いたくないと思い、いや、違うな。今私とタカを会わせる訳にはいかないと思い、『ライブ大会が行われないこの学校ならお父さんは現れないはず。だから、この学校を指定すればタカくんと文化祭デートが楽しめるじゃん。わぁ、お父さんとタカくんを会わせる事を回避出来るし、タカくんと1日中デートが楽しめる。グッジョブやであたし!』とか思ってこの学校を選らんだのではないかな?」

 

お父さんはエスパーなの?

 

「は?俺とデート?何言ってんだこのおっさん」

 

わぁ耳が痛いったらないよ。

 

「まぁ、それは今となってはどうでもいいかな」

 

どうでもいいなら言わないでよ!

 

「さて、私も忙しい身だ。この後すぐにまた日本を発たねばならんからね。約束通り私の目的を話してやろう」

 

「あん?やけに素直だなこの野郎」

 

あたしも拍子抜けだ。

あのお父さんがこんなに素直にあたし達に話すなんて。

その目的と何か関係してる?考え過ぎかな?

 

「私が高校生達によるライブ大会を観賞した理由は3つ。

まず1つ目は音楽に携わる者として、このクリムゾンミュージックが世に憚る世界でどんな音楽をやるのか。その興味があっただけだ」

 

「…」

 

ただ興味があっただけ?

なるほど、確かにお父さんらしい理由だ。

お父さんは余裕があるのかいつもそんな感じで高見から眺めている。次の策や動き方を見計るためなんだろうけど。あたし達の時もそうだった。

だからタカくんも黙って聞いているんだろう。

 

「そして2つ目これが私の最大の目的だった訳だが…」

 

最大の目的?

 

「今回のライブ大会にAmaterasuというバンドが出ると聞いてね。彼女達にとても興味があったのだよ」

 

「なん…だと…?」

 

Amaterasu?

それって昨日タカくんと三咲ちゃんが見たったいう…。

射手座のレガリア後継者の…。

 

「彼女達の噂は以前から聞いていてね。私の手駒に、我がクリムゾンエンターテイメントのミュージシャンとして是非欲しいと思っていたのだよ」

 

何で…。

Amaterasuって昨日がデビューライブだったって話なのに何でお父さんがあの子達の事を…。

ううん、それよりあの子達をクリムゾンエンターテイメントの、お父さんの手駒にするなんて…。

 

「残念ながら私が昨日出向いた学校とは違う所で演奏をやったようでね。是非観てみたかったのだが、私の当てがハズレたという訳だ。まぁ、それでもそこそこ面白いバンドは居たのだがね」

 

ど、どうしよう…。

お父さんに何か言った方がいいのかな?

お父さんは今日この後日本からまた出て行くとしても、まだクリムゾンエンターテイメントには二胴も九頭竜も居る。

あいつらにAmaterasuの子達が狙われちゃったりしたら…。

 

「…海原、お前何でアマテラスを?あの子らは昨日がデビューライブだったはずだぞ?」

 

「ほう。さすがだね、タカ。まさかAmaterasuを知っているとは」

 

「残念だったな。お前らファントムのバンドには手を出さないんだろ?アマテラスのボーカルの子には俺のレガリアを託しててよ」

 

「何?あの子にお前のレガリアを…?」

 

え!?タカくん、お父さんにレガリアの事話しちゃうの!?

 

「ああ、本当はお前らクリムゾンにはレガリアは失くしたって事にしときたかったんだけどな。あの子らが狙われんなら話は別だ。アマテラスは俺のレガリアの後継者。実質ファントムのバンドみてぇなもんだ。手を出されっと困るんだよ」

 

あ、そ、そうか。

お父さん達はファントムのバンドには手を出せない。

だからレガリアの在りかを話しちゃうリスクより、Amaterasuを守る為に話しておいた方が安全なんだね。

 

「それは本当なのかね?」

 

「あ?そんな嘘付く方がリスキーだろうが」

 

「ふふ…ふふふふ」

 

お父さん?

 

「ふふ、ふは、ふははははは!まさかタカのレガリアをあの子達に託しているとは!ふははははは、これは面白い!さすがタカだ。いやぁ、キミはいつも私を愉快な気持ちにさせてくれるね!」

 

「あ?愉快だ?」

 

「いやぁ、こんなに愉快な気分になったのはいつ以来だろう?ふふふふ、確かにあの子達が射手座のレガリアの後継者なら、ファントムの関係者みたいなものだ。我々クリムゾンエンターテイメントが手を出す訳にはいかないだろう」

 

何?お父さんはどういうつもり?

 

「あっそ。まぁ何が愉快なのかわかんねぇけど、それはどうでもいいわ。お前らがあの子らに手を出さないってんならよ」

 

「ふふふ。約束は必ず守るとも。もちろんキミ達が我々の邪魔をしないなら…という約束の前提はあるがね」

 

「誰が好きこのんでお前らに関わるかよ。めんどくせぇ」

 

「まぁそうだろうね。いやぁ、本当に愉快だ。安心したまえ。我々はAmaterasuには一切手を出さない。小暮くんは元々タカと梓のレガリアには手を出さないつもりでいたようだし、二胴くんと九頭竜くんにもくれぐれもAmaterasuには手を出さないよう伝えておこう。もちろん他の者にもね」

 

「あっそ。至れり尽くせりでうっかり感謝の言葉でも述べそうになったぜ」

 

さっぱりわからない。

お父さんは元々Amaterasuを自分の手駒にしたくて、この文化祭に視察に来てたんでしょ?

それが何でこんなにも簡単に…。

 

タカくんの後継者だからファントムのバンドともいえるけど、実際にあの子達がファントムに所属している訳でもない。それはお父さんもわかってるはずなのに。

まぁ、お父さんが何を言ってきても、タカくんの口八丁手八丁で納得せざるを得ない状況にはなってただろうけど。

 

「ふむ。久しぶりに愉快な気持ちになったよ。今日はキミ達に会えて良かった」

 

「俺は別に会いたくなかったけどな」

 

「では、私はこの愉快な気持ちのまま帰らせてもらうか。小暮くんと九頭竜くんは何とかなるとしても、二胴くんには特にキツく言っておかねばならないからね」

 

え?帰る?本当にそれだけで?

……って、ちょっと待ってよ!

 

「ちょっと待ってよ、お父さん!」

 

「うん?梓、どうかしたかね?」

 

「お父さんの目的…。まだ3つ目の目的を聞かせてもらってないよ」

 

もしかしたらその3つ目の目的が本命って可能性もあるんだし。

 

「3つ目の目的…か」

 

-ドキッ!

 

ヤバい…ドキッとしちゃった。

時折見せるお父さんの優しい目。

相手を愛おしく想うような、そして悲しい目。

 

あたしに対してだけじゃなく、聖羅や翔子や澄香や日奈子、タカくん達BREEZEのみんなにも、たまにお父さんはそんな目を向けていた。

 

「3つ目の目的は些細な事だ。昨日、英治とトシキに会った時にふと思った些細な目的。生きて元気にしている(おまえ)の顔を一目見たかっただけだ」

 

この目をしている時のお父さんの言葉は、本当に本心なんだろう。昔からそうだった。

 

お父さんは究極の二重人格だ。

楽しい音楽や自由な音楽を愛し、そういうミュージシャンを愛する人格と、自分の利にならない音楽は排除し、邪魔なミュージシャンは徹底的に潰す人格。

 

 

お母さんが亡くなる間際に、なっちゃんのお父さんにも話してない事と言って話してくれた。

 

 

 

---------------------------------------------

 

 

 

あれはお母さんの入院先の病院で、勝手にやった雨の日のライブから数日が経った頃。

病室であたしと2人の時に話してくれたお父さんの事。

 

あ、本当はこの時のお母さんは弱っていたし、喋りもゆっくりで聞きづらい声だったけど、ここでは普通に喋ってたように語るね。

 

「梓、聞いて欲しい事があるの」

 

「え?何?あんま喋らない方が…」

 

「もう、お母さん長くないと思うから。だから、今の内に話しておきたいの」

 

「あんま長くないって…止めてよそんなの。聞きたないよ…」

 

「ごめんね、梓。でも梓もわかってるやろ?だから、ちゃんと聞いて欲しいの」

 

「ちゃんとって…うぅ…わかった。…何?」

 

「梓のお父さんの事」

 

「クソ親父の事?いや、そんなつまらない事より他に話す事あるやろ」

 

「他の事は、龍ちゃんに頼んでるし。これは龍ちゃんにも言ってない事だから、梓にちゃんと知っててほしい」

 

「…わかった。おもんないと思ったら、あたし部屋出るから」

 

「いや、面白い話ではないんやけど…ギャグ要素もないし」

 

「そういう意味ちゃうから!ギャグ要素なんかいらんし!」

 

「前に梓にお父さんの事聞かれた時、私のレガリアを狙って近付いて来てたっていうのは話したよね」

 

「ああ。うん、まぁ、それでなんで結婚したのかとか色々疑問はあったけど…」

 

「タカちゃんに出会って恋を知った梓ならわかるでしょ?そういうのって理屈とかそんなんちゃうから」

 

「わかりまくります」

 

「私がね、梓と聖羅、あなたのお姉さんを連れて、お父さんの元から逃げたのはね。お父さんの計画なの」

 

「…は?ちょ、ちょっと待ってよ。お父さんの計画って何?お父さんって結局、そのお姉さんを連れて帰ったし、お母さんには手榴弾投げつけてくるくらいやったんやろ!?」

 

「そうね。お父さんにはね、2つの人格があるの。

私も最初に聞いた時は信じられなかったけど、あの人と過ごす内に信じられた」

 

「どういう事?」

 

「お父さんは元々貧乏な作曲家でね。聖羅のお母さん、つまり前妻の人と、貧乏でも音楽に囲まれながら幸せな日々を過ごしていた。

だけど、聖羅のお母さんが大病を患ってね。手術には大金が必要になった」

 

「お姉さんのお母さんが…」

 

「援助してくれる人も何も居ないまま時は流れ、その時からお父さんは人が変わったように、お金の為だけに音楽をやるようになった。自分の邪魔になる者は無慈悲に排除しながらね」

 

「自分の奥さんを助ける為に…か。その為に邪魔者はってのは気分悪いけど、気持ちはわからなくもないかな…」

 

「お父さんは音楽プロデューサーとしての才能があったから、瞬く間に自分の会社を大きくして、クリムゾンミュージックの傘下に入る事も出来た」

 

「クリムゾンミュージック…か。そんな時からあったんやなぁ?あれ?これ公式で否定されたらどうしよう」

 

「でも、聖羅のお母さんを助けるのは間に合わなかった。聖羅のお母さんは結局、その病気のせいで亡くなってしまった」

 

「…そうなんや」

 

「それからのお父さんは余計にお金に執着するようになり、利だけを求める人になった。そんな時に私とお父さんが出会ったの」

 

「お母さんのレガリアを狙って…か」

 

「でもお父さんの中で、音楽を愛する気持ちはまだ完全に消えてなかった。音楽を愛する気持ち、その気持ちでは大切な人を守れない。そういった葛藤で毎日を苦しんでいた」

 

「音楽を愛する気持ちと、気持ちだけじゃ守れないって事と…。まるでラクスがキラにフリーダム託した時の想いだけでも力だけでもって感じやな」

 

「それタカちゃんに言ったら喜びそうやね」

 

「うん。いつか言おうとチャンスは伺ってる」

 

「だけどタカちゃんはキララク派じゃなくて、キラアス派やしなぁ」

 

「そやねんなぁ。あたしはアスキラ派やし。って何でお母さんがそんな用語知ってんの?ちょっと怖いんやけど」

 

「話が脱線しちゃったけど、お父さんはその葛藤の中で人格が分かれてしまったの」

 

「あ、良かった。話戻った。けどあたしの疑問は無視なんや?」

 

「お父さんにそれを聞いた時にね。お父さんは本当は愛が深くてそして寂しい人なんだと思って…その…つい…ね?」

 

「つい…ね?とか娘に言われても…。それであたしが出来ちゃった訳ね」

 

「ちゃうよ」

 

「ちゃうの!?」

 

「そんな1回でとか…。何度も何度も…そして梓がやっと出来てくれたんやから」

 

「何度も何度も…って」

 

「そうよ。何度も何度も…なの。だから梓は私とお父さんがちゃんと愛し合って産まれて来てくれた子なの」

 

「お母さん…」

 

「お父さんはね。本当の音楽を愛していたお父さんは、梓も聖羅も聖羅のお母さんも私も、愛してくれていた人なの」

 

「そしてその人格の時のお父さんが、お母さんとあたし達をクリムゾンから逃がそうとして、利を求める人格の時のお父さんが、お母さんからあたしとお姉さんを奪い返そうと…」

 

「うん。きっとそうなの。だから梓、いつかお父さんと出会ったらお父さんを悪夢から救ってあげて。私には出来なかったから」

 

「…あたしには無理だよ。お父さんに思い入れもないし。まだまだお母さんにも敵えへんし。だから、お母さんが…ちゃんと元気になってお父さんを…」

 

「ふふ、そうやね。まだタカちゃんにも勝ててへんねやもんね。お母さん、せめて梓がタカちゃんに勝つまでもは梓を見ていたいなぁ」

 

「か、勝てないのは翔子がトシキくんの前で倒れるからやし!Artemisの実力ちゃうしな!」

 

「梓もタカちゃんに見惚れてるやん…」

 

 

 

 

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と、いう事をお母さんに聞かされていた。

お母さんの葬儀の時に来たお父さんは、すごく最低だと思ったし、Artemisとしてライブを繰り返す中で、あたし達の邪魔や、まわりのバンドへの仕打ちを見て、お母さんの言ってた事が信じられないと思ってたけど、何度もお父さんと対峙する内に見えてきたもう1つの人格のお父さん。

 

あの優しい目をしている時には、ほんの一瞬だけかも知れないけど、本当のお父さんが出て来ているんだと思っている。

 

………待って。

え?あれ?

何であたしとお母さんはタカくんや、BREEZEとの事を話してるの?

 

あたしは今、昔の事を思い出している。だから、さっきのお母さんとの会話は"あった事"のハズだ。

妄想とか記憶違いなんかじゃない。

さっきのはお母さんと最期にした会話だ。だからはっきりと今でも覚えている。

 

なのに何で?

何でお母さんからタカくんの話が出てきたの?

お母さんの病院でライブをした時はあたしはArtemisだ。だからあたしとタカくんは出会っている。

 

なっちゃんに話をしてあげた事も、ちゃんとあたしの思い出の話だし、変に盛ったり…した事も多少あるかも知れないけど、間違いなくあたしの記憶通りに話してあげている。

 

なっちゃんに話してあげた時、お母さんの病院でライブをやったのは、あたし達がまだBREEZEと対バンやデュエルギグをする前のハズだった。

 

お母さんがタカくんを知っているハズがないし、ましてや、Artemis(あたしたち)BREEZE(たかくんたち)に勝ててないなんて、お母さんがタカくんとの事を知っているなんてあり得ないハズなのに。

 

なっちゃんに話した事も、さっきのお母さんとの会話も、"あたしの記憶の中"にある。

何で?どういう事なの?

そういえば…他にも所々あたしの記憶の中や、みんなの話の中で矛盾している事があったりしてる。

何なのこの違和感は…。

 

「それでは私は行かせてもらうよ。しばらくはキミ達と会う事もないだろう」

 

ハッ、そうだ。

今は変な違和感より、お父さんと…。

あたしの違和感の事は澄香達やタカくん達に聞いたらいいし。

 

「俺もお前とはしばらく会いたくねぇわ」

 

「ではな、タカ。くれぐれもAmaterasuの事は頼むよ。フフフフ」

 

お父さんはそれだけを言って帰ろうとした。

あたしも何か言った方がいいんだろうか?

でも一体何を言えばいいだろう?

 

「おっと、そうだそうだ。

タカ、梓。今日の私は愉快な気持ちでいっぱいだから。特別サービスだ。1つ面白い事を教えておいてあげよう」

 

「あ?面白い事だ?」

 

「特別サービス…?」

 

「クリムゾンカンパニー。この名前は知っているね?彼らは私達クリムゾンエンターテイメントの傘下として復活する事になったのだが、キミ達BREEZEとArtemisに未だに恨みを持っているようでね。私の命令を無視してキミ達に復讐するつもりらしい。せいぜい気を付けたまえよ」

 

「何!?クリムゾンカンパニーだと!?」

 

「く、クリムゾンカンパニー…やて…!?あたし達に復讐!?」

 

「フフフ、2人のそんな驚きの顔を拝める事になるとはな。いやぁ、たまにはサービスをしてみるものだね。

タカ、梓。私達クリムゾンエンターテイメントがせっかくお前達を見逃してやるんだ。クリムゾンカンパニーにヤられるなんて詰まらない結果にはならないでくれよ」

 

お父さんはそう言って、あたし達の前から去って行った。

お父さんも居なくなってせっかく2人きりになれたから、お母さんとタカくんは会った事があるかとか、色々聞きたい事があったけど…。

それよりも…まさかクリムゾンカンパニーなんて…。

 

「ね、ねぇ、タカくん」

 

「クリムゾン…カンパニー…」

 

タカくんは物凄く思い詰めたような、怒りを押し殺しているような…とても真剣な顔で考え事をしているようだった。

 

そんなタカくんを見て、あ、やっぱ真面目な顔してる時はめちゃくちゃカッコいい!好き!とか思ったけど、この気持ちは取り敢えずあたしの中に閉まっておく事にした。

今何か言ったら空気読めない女とか思われそうやし。

そして無言のままあたしとタカくんもその場をあとにした。

 

それからタカくんとあたしは一切会話もしないまま、タカくんの会社の仕事をチャチャっと終わらせて、どっちが何かを言う事もなく、ファントムへと今日の報告に向かった。

 

今日の事をみんなに報告する前に、あたしはタカくんに聞いておきたい事がある。今のうちに…2人の内に聞いておかないと…。

 

あたしがそう思っていた時、タカくんはあたしの車イスを押してくれている足を止めた。

 

「…タカくん?」

 

「梓、海原の言っていたクリムゾンカンパニーの事だけどよ」

 

タカくん…、ずっと喋らないと思ってたけど、やっぱりクリムゾンカンパニーの事を考えていたんだね。

あたし達Artemisとタカくん達BREEZEに復讐って言ってたもんね。そうなったらファントムのみんなも…。

 

「すまん…。クリムゾンカンパニーって何?俺達の知り合い?」

 

驚いた。

本当にびっくりした。

 

え?さっきまで真剣な顔して考え事してた風なのは何だったの?

あ、もしかして『クリムゾンカンパニーって何?』とか思いながら一生懸命思い出そうとしてただけなの?

でも、少し安心したかも。

 

「タカくん…。もしかしてさ?クリムゾンカンパニーの事覚えてない感じ?」

 

「知らん」

 

「知らんって…マジでか…」

 

「何か海原の野郎が、俺達やお前らに恨みあるとか言ってたし、俺達と何かあったんだろうなぁ~とは、思うんだが、さっぱりこれっぽっちも思い出せない」

 

「お父さんに『何!?クリムゾンカンパニーだと!?』とか言ってたくせに」

 

「だってよ!海原に『クリムゾンカンパニー?何それ?』とか聞くの恥ずかしいじゃん!だからな!仕事しながらここまで歩きながら一生懸命思い出そうとしたんだよ?」

 

「で?結局思い出せないからあたしに聞こうと?」

 

「はい。そうです、すみません…。

でもよ!このままファントムに行ってみんなに今日の事を報告してよ?俺だけクリムゾンカンパニー思い出せないとかめちゃくちゃカッコ悪いじゃん!?」

 

「ハァ…」

 

「す、すみません。タメ息つきたい気持ちはとてもとてもわかります。ですが、このままファントムに行ってみんなにバカにされるのは嫌なんです。なんならここで土下座もしますから…何卒、何卒教えて下さいませ」

 

「タメ息ついたのはそういう意味ちゃうよ。それに土下座も必要ないよ」

 

「ありがとうございます!教えていただけますか!?」

 

「あたしも…正直思い出せないんだよね…。あたしもファントムに着く前にタカくんに聞こと思ってたんだよね…」

 

あたしがさっき、タカくんに2人の内に聞いておきたいと言っていたのはこの事である。

お母さんとの事を聞いておきたいってのももちろんあるけど、やっぱりあたしも澄香や日奈子にバカにされる訳にはいかないし、きれいさっぱり思い出せないクリムゾンカンパニーの事を聞いておきたいと思っていたのだ。

 

「は?お前もクリムゾンカンパニーの事思い出せないの?」

 

「しゃ、しゃーないやんか…。あの頃ってクリムゾンなんちゃらってのに狙われまくってたし、いちいちクリムゾン○○ですね~。クリムゾン△△ですね~。とか確認しながら闘ってなかったし…」

 

「ってもそうだよなぁ。あの頃はクリムゾンの名前を勝手に使ってた奴らもいたし…」

 

「うん、そ、そうだよね」

 

「だよな?だから」

 

「「俺(あたし)達悪くないよな」」

 

そうお互いに庇い合って、重い足を引きずりながら、あたしとタカくんは諦めてファントムへ向かう事にした。

重い足を引きずりながらと言っても、あたしはタカくんに車イス押してもらってるだけだけど。

 

 

 

 

「「「「「「「クリムゾンカンパニー!?」」」」」」」

 

ファントムに着いて一息ついた後、みんなが集まったのを見計らって、あたしとタカくんは今日お父さんと会った時の事を話した。

 

「クリムゾンカンパニー?私はさすがに知らないなぁ。奈緒も知らないだろうし…。理奈はクリムゾンカンパニーって知ってる?」

 

「いえ、正直聞いた事もないわね。でも、海原の話ではBREEZEとArtemisに恨みを持っている。過去の闘いでおそらくは…」

 

「クリムゾンカンパニー…。私も聞いた事ありませんわね。澄香さん、クリムゾンカンパニーとはいったいどのような…?」

 

フフフ、グッジョブやで姫咲ちゃん。

あたしとタカくんの計画通りだ。

 

みんなが集まった頃を見計らってこの話をすれば、あたし達から何か言わなくても、ファントムのメンバーの誰かが、クリムゾンカンパニーの事をあたし達に質問するだろう。

その時にうまい事あたしとタカくん以外に質問するような人物に『○○ちゃんはクリムゾンカンパニーって聞いた事ある?』など言って、他の仲の良いメンバーに質問させようと策を練ったのである。

 

今回は上手い事、あたし達が誘導する事なく姫咲が澄香に質問してくれて助かったよ。

 

「クリムゾンカンパニー…。いや、すみません、姫咲お嬢様。正直覚えてません。てか、聞いた覚えもないです」

 

澄香?え?澄香も覚えてないの?

 

「拓斗さん、その…クリムゾンカンパニーって、BREEZEやArtemisと何があったんですか?」

 

「拓実…。お前があの頃の事も気になるって気持ちはわかる。だが、今の俺はお前らをあの頃みたいなつまらねぇ音楽の争いをやらせなくねぇって思ってる。明日香達を巻き込みながら今更なに言ってんだ?って感じだけどな」

 

「拓斗…そんな、私達は巻き込まれたなんて…」

 

「拓斗さん、すみません。変な事聞いてしまって」

 

「いや、待て。別にそういうつもりじゃねぇ。それでも、お前が、お前らがあの頃の事が気になるなら、出来る限りの事は伝えて、教えてやりたいとも思ってんだ」

 

「拓斗さん、それじゃ…」

 

「ああ。クリムゾンカンパニーって奴らの事、お前も気になるってんなら教えてやりたいとは思う。だがな、問題は俺がクリムゾンカンパニーって奴らの事を何も覚えていないって事だ。だから教えてやれねぇ」

 

「拓斗さん…」

 

って拓斗くんも覚えてないの!?

てか長いよ?覚えてないって拓実くんに伝える為にどんだけ文字数使ってんの?

最初の方はさすが拓斗くん、カッコいい事言うな~。って思ってたのに!

 

「ねえ、お母さん」

 

「ごめんなさい、初音。

私も全然覚えていないわ。ねえ、あなた…」

 

「あん?俺も知らんぞ?」

 

三咲ちゃんと英治くんまで!?

 

「まさかとは思いますが…あの、翔子先生」

 

「佐倉?心配すんな。そのまさかだ」

 

「つまり…翔子先生も覚えていないと…」

 

翔子もか…。

 

「ねぇ、本当に海原はクリムゾンカンパニーって言ったの?タカちゃんと梓ちゃんの聞き間違いじゃない?」

 

日奈子ですら覚えてない…だと…?それどころかあたし達の聞き間違い説を出してきただと!?

ってなるとあたし達唯一の良心だったトシキくんだけか。

 

「う~ん、あの頃は結構クリムゾンなんたらってのと闘ってはいたけど、クリムゾンカンパニーは俺も聞いた事ないや。はーちゃんと梓ちゃんは知ってるの?そのクリムゾンカンパニーってやつ」

 

ああ、やっぱりトシキくんもBREEZEだもんね。

安心したよ。あたしは何を期待してたんだろう。

 

「大の大人がこんだけ居て誰も覚えていないとはな。やっぱ日奈子の言う通りかな?俺と梓の聞き間違いなのかな?」

 

タカくん!?

 

「まったく…BREEZEは昔からみんなバカだったけど、まさか可愛い妹もそのバンドメンバーもアホだったとはね」

 

「あ、おかーさんだぁ~」

 

聖羅!?

何で今日ここに聖羅が!?

でも、聖羅はクリムゾンの内情にはあたし達より詳しいはず!聖羅ならきっとクリムゾンカンパニーの事を…。

でも、何で可愛い妹のあたしもアホのカテゴリーに入れられたんだろう?

あたしはここに来てから一切、クリムゾンカンパニーを知らないなんて言っていないのに…。

 

「クリムゾンカンパニー。彼らは元は手塚の管轄の会社だったのだけど、BREEZEに倒され、手塚が改心した後もBREEZEと梓達Artemisに嫌がらせをしてきた嫌な奴らよ」

 

そうして聖羅の話が始まった。

文字数がアレだからね!また次回に続いちゃうよ!

文化祭編とは?

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