「と、言う訳でAmaterasuの方々とBreak Bellの方々には、短期の留学生という体で番組に参加していただき、各々自己紹介をしていただいて、志保さん達に質問形式で皆様のアピールをしていただく。という形でいきましょうか」
「あー、やっっっと長い会議が終わってくれたか…」
「ねぇ…長かったよね…私もうお腹ペコペコだよ…」
「わ、私も報告書を届けに来ただけなのに…」
俺の名前は一瀬 春太。
Canoro Feliceのダンスボーカルだ。
前回、せっかく楽しみにしていた地域の高校による合同文化祭を反故にされ、Canoro Feliceのベーシストであり独裁者である秋月 姫咲の手によって訳のわからない会議に参加させられた。
姫咲の言い分だと会議の前は、かつて15年前にクリムゾンミュージックの子会社であるクリムゾンエンターテイメントと戦いを繰り広げていたBREEZE。
そのBREEZEのボーカルが持っていたボーカリストの宝具と言われる、12個のレガリアの内の1つを受け継いだボーカリスト本城 天音さんの居るAmaterasuというバンドと、BREEZEに憧れて音楽を始め、そのBREEZEの果たせなかった夢を叶えてBREEZEを越えるという目標を持つBreak Bellに、俺達Canoro Feliceが出番を奪われない為の会議だと言われていたけど、会議が始まってみると何という事はなかった。
今回の会議はAmaterasuやBreak Bellが俺達が所属する音楽事務所ファントムの…いや、その親会社であるSCARLETに馴染めるようにと、各々に自己紹介や自己アピールをさせる為の、企画バンドの台本作りだったからだ。
おそらく自他共に認めるドS女王、姫咲の照れ隠しの為に、対策会議だとか言ったんだろうな。と、今になっては思う。
そして、何で俺はモノローグでこんな前回までのあらすじみたいな事を語っているのか、冬馬や結衣、綾小路さんがやっと会議という名の台本作りが終わったと思って安堵しているのに、澄香さんと架純さんが難しい顔をしながら、調査報告書を凝視しているのが不思議だった。
「ねぇねぇ架純!これで私達も解放されるだろうし、そろそろ何か食べに行こうよ!」
「……まだよ、結衣」
「え?まだ?」
「はぁ…。こんな会議ってまだ馴れねぇな。肩が凝った感じがするぜ。俺もそろそろ自分の教室に帰らせてもらうか」
「冬馬くん、それはまだ早計です。先程より一層気を引き締めて下さい」
「どういう事ッスか?まだ何かあるんスか?」
「四季。貴女もです」
「え!?私もですか!?そろそろ本当に生徒会の方がヤバそうなんですけど!?」
澄香さんと架純さんはいつになく真面目な顔で、出来上がった台本と調査書、そして姫咲を見ていた。
確かにこの台本作りには、俺達Canoro Feliceはほぼ絡んでもいないし、AmaterasuやBreak Bellへの対策というのなら何もしていないに等しい。
俺達Canoro Feliceも明日の公開収録の観客として、参加せざるを得ないから、本当にヤバいのは明日のバイトを休まされる俺の給料の方だ。
澄香さんと架純さんは姫咲のこの台本作りを怪しいと見抜いて他の事もあるんじゃないかと警戒している?
それとも、バンドやアイドルとして経験の多い2人は、この台本にはまだ穴があってそれを懸念している?
どっちにしろ今の状況じゃ俺にはわからないし、姫咲か澄香さんか架純さんが発言するのを待った方がいいか。
ザーザー
しばらくの無言。
この教室内には外はいい天気なのに、何故か音楽プレイヤーで流している雨の音だけが響いていた。
「あら?皆様まだ戻られないんですの?」
誰も席を立とうとしない俺達を見て姫咲が口を開いた。
「まぁ多少強引ではありましたが、明日の撮影用の台本は完成しましたし、私の目的の大半はこれで片付きました。後は澄香さんの私設部隊の方々にも、この台本を閲覧いただき、AmaterasuとBreak Bellの方々に台本を渡していただいて、明日の本番を迎えるのみですわ」
ああ、そうか。
AmaterasuとBreak Bellのメンバーにも台本渡さないといけないよね。
っていうか、みんな明日の公開収録の撮影はOKしたんだろうか?
「姫咲お嬢様。この調査報告書は大変素晴らしい物です。本当によく調べてあります。さすが私の私設部隊と言いたい所ですが、正直、私の調査能力を上回っている…そう思います」
「え?あ、ああ。そうですわね。確かによく調べて下さっています。生年月日や趣味、食べ物の好き嫌いだけでなく、バンドを始めたきっかけやお1人を除いて家族構成や住所や電話番号、SNSのアカウントまでしっかりと調べられていますわ。正直個人情報保護ってどうなってますの?と心配になるレベルです」
確かに。
1人を除いてよく調べてある。
その1人というのがAmaterasuのキーボード担当の鶴木 涼風さん。
さっき台本を書いている時の話では、昔に秋月グループと肩を並べていた鶴木グループのご息女で、姫咲とも仲が良く、澄香さんも会った事があるという話だった。
秋月グループがクリムゾングループに対抗する為に計画したモビルスーツ量産化計画。
鶴木グループはそのモビルスーツ量産化計画とは別に、ゲッター線や超合金Zを用いたスーパーロボット計画を推して、各々別の道を行く事になったからそれっきりという話だった。
正直秋月グループも鶴木グループも何やってんの?って思った。
だけど、澄香さんと架純さんが気になっているのは、この詳細を調べられなかった鶴木さんの事だろうか?
それともタカさんのレガリアを受け継いだ本城さんの事?
「私が気になっているのは…Amaterasuのボーカリスト、本城 天音様の事です」
本城 天音さん。
やっぱりレガリアを受け継いだという事もあって気になるんだろうな。
澄香さんもレガリア使いのバンドメンバーだった訳だし。
「本城さんの…事ですか?もしやレガリアの事で?」
「いえ、レガリアの事もありますが、それはまた別の話です」
レガリアの事じゃない?
「ケホッ、この調査報告書だと、本城さんはお父さんはお母さんの再婚相手ってなってますよね?
まぁ、そういった事情も各ご家庭にはあるとは思うんですけど…ケホッ」
「はい。架純さんも同じ所が気になったのでしょう」
「本城さんと本城さんのお母さんが再婚前に住んでいたという住所…ですよね、ケホッ」
……本城さんの住んでいた住所?
何でそんなのが気になるんだ?
「あの…澄香さんちょっといいスか?」
「冬馬くん?何ですか?」
「住所とかってめちゃくちゃプライベートな事ですし、ましてや今住んでる所じゃなくて、昔住んでたってだけでしょ?何がそんな気になるんスか?」
そうだよね。
俺も子供の頃に引っ越しは経験した事あるし。
「ええ。普段なら気にはならないんですけどね。ただこの住所は…」
「ケホッ…クリムゾンエンターテイメントの本社の近く…社宅の住所だよ」
「「「「クリムゾンエンターテイメントの社宅!?」」」」
「ケホッ、だから私と澄香さんはすぐに気付いたんだと思う」
クリムゾンエンターテイメントの社宅?
社宅って事はクリムゾンエンターテイメントの社員の…?
本来なら報告書の方を疑うべきなんだろうけど、澄香さんの私設部隊の方達が作った報告書だ。
恐らくこの住所は本当の事なんだろうな。
「そ、それってつまり、もしかしたら本城って元クリムゾンエンターテイメントかも知れないって事スか?」
本城さんが元とはいえ、クリムゾンエンターテイメントの関係者の可能性がある?
…確かにクリムゾンエンターテイメントの社宅に住んでいたという事だからそう受け取れもするけど。
「なるほど。確かに元とはいえ、クリムゾンエンターテイメントのミュージシャンの関係者だったと読み取れますものね。それで?澄香さんと架純さんが気になっているのはその点ですか?」
「「いえ、違いますけど?松岡(さん)は何を言ってるんですか?」」
「え!?」
ち、違うのか?
良かった…思い切って発言しなくて…。
「ち、違うんスか?だったら澄香さんと御堂さんは何を気にして…」
「冬馬くん!」
「す、澄香さん、な、何ッスか?」
「本城 天音様のお母様が再婚されたのは、この年表を見る感じ4歳か5歳頃の話だと思われます」
ああ確かに。
今が高校1年生だし、逆算したらそんなものかな。
でもだったら澄香さんと架純さんは何を気にしているんだろう?
そんな俺の疑問を察したのか結衣が質問してくれた。
「うーん…?だったら何で架純とすみちゃんは、あまねるちゃんの昔の住所がクリムゾンエンターテイメントの社宅だって気にしてるの?確かにその年齢ならクリムゾンエンターテイメントのミュージシャンって事はないだろうし?」
「そうですね。私がクリムゾンエンターテイメントの社宅といっても、クリムゾンエンターテイメントの社員にはミュージシャンはもちろん、事務員とか清掃員…色々といますしね」
それが何なんだろう?気になる点が?
「私もその社宅に住んでたんだよ。ケホッケホッ、まぁ一時的にはあるんだけど。だから住所見てすぐにわかったんだけどね。ケホッ」
そりゃ架純さんもクリムゾンエンターテイメントに取り込まれたって事もあるし、架純さんが社宅に住んでたと言っても不思議はないんだけどね。
「でも社宅には普通のクリムゾンエンターテイメントの社員しか住めないの。デュエルギグ戦闘員とか暗殺者は社宅には住めないから…」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!架純さんの話なら本城の住んでいた社宅ってのは凄い人しか住めないんじゃ!?」
「ケホッ、それはそう思うけど、元クリムゾンエンターテイメントってだけで、本城さんが何者でクリムゾンエンターテイメントとどんな関係だったのかは、住所からじゃわからないよ。澄香さんも言ってたけど、事務員達も居たし。名前が許されてるか許されてないかって違いなだけで」
「あ…そっか。で、でも本城の家族が元クリムゾンエンターテイメントの関係者だって可能性も…」
「ケホッ、それを言ったら私も元クリムゾンエンターテイメントだし、クリムゾンエンターテイメントの関係者だよ?」
「それにアホの手塚や、秦野くんのご両親も元クリムゾンエンターテイメントではありますし。あ、それで言えば結衣ちゃん達Blue Tearの事務所の元社長もアホですけどクリムゾンエンターテイメントの手の者ですよ?」
「あ…そうか。す、すみません。ちょっと…いや、自分の浅はかな考えで御堂さんにも失礼な事を…」
「いやいや~。気にしてないから大丈夫だよ~」
優しいな架純さんは。
でも、何であんな遠回しな言い方を?
冬馬が早とちりしちゃってもしょうがないんじゃ…。
俺もそう思ってたし。
「頭の下げ方が足りませんわね。頭が高いですわ」
「まっちゃん、すっごく酷い事言うよね!架純だって好きでクリムゾンエンターテイメントに居たんじゃないのに!」
それに比べてうちの女性陣はいつの間にこんな怖い人達になったの?
他に思う所ないの?
「あの~…それでお姉様と御堂さんは何を気にされているんですか?本当にそろそろ生徒会の仕事に戻りたいんですけど」
とうとう痺れを切らしたのか綾小路さんが澄香さんと架純さんに質問してくれた。
「四季。正直貴女には失望しました。このまま報告書を読み、先程までの会議に参加していながらも、本題と言っても良い程の議題をスルーしてしまうとは」
「私も…あのArtemisの澄香さんが鍛えた私設部隊。そんな中でもエリートである綾小路さんから、あの議題が出ないのは正直残念です。ケホッケホッ」
「え?私そんな大事な事を見落としてます?」
澄香さんと架純さんの返答を聞いた綾小路さんは、再度じっくりと調査報告書を読み始めた。
いや、綾小路さんだけじゃない。
姫咲も結衣も冬馬も調査報告書をパラパラと捲り始めた。もちろん俺もだけど。
その間、澄香さんは『ふぅ、やれやれ』といったような顔で俺達を見て、架純さんは『え?本当にみんな気付いてないの?』というような不思議そうな目を俺達に向けていた。
…読み返してみたけど俺にはさっぱりわからない。
15年前にクリムゾンエンターテイメントと前線で戦っていたArtemisの澄香さん。
先日まで最前線でクリムゾンエンターテイメントとだけじゃなく、クリムゾングループ全体と戦っていたLazy Windの架純さん。
あの2人にか読み取れない謎が、きっとこの調査報告書に記されているんだろう。
-パァン!
「もうっ!わっかりませんわ!!」
とうとう姫咲がキレて調査報告書を床に叩きつけた。
姫咲でも読み取れない謎…か。
「降参しますわ!さっぱりわかりません!
ただでさえ事務作業ばかりで文化祭を楽しむ事も出来てませんのに!春くんや松岡くんの楽しみにしている文化祭を邪魔してストレスを少しでも発散させる為に、周年記念の台本作りをCanoro Feliceでやると日奈子さんに提案しましたが!せっかく完成した台本以上の事がこの調査報告書にあるなんて、何度読んでもわかりませんわ!」
俺と冬馬の楽しみにしていた文化祭を邪魔してストレス発散だって!?
正直そんな気もしてたから、大して驚きもないけど。
「姫咲お嬢様にはわかりませんでしたか」
「みんなわからないようなら、話も進まないし私と澄香さんで説明しましょうか。ケホッ」
「そうですね。それでは皆様に説明させていただきましょうか」
どうやら澄香さんと架純さんが俺達に説明してくれるようだ。俺達鈍くてすみません。
俺はそう思いながら、本城さんのページを開いた。
もちろん、姫咲も床に叩きつけた調査報告書を拾い、ページを1枚捲った。
「本城 天音様は…いえ、本城 天音様のお母様は天音様が産まれてから、クリムゾンエンターテイメントの社宅にお住まいでしたが、再婚を期にクリムゾンエンターテイメントの社宅から離れております」
確かに。
本城さんのお母さんが再婚したのと、クリムゾンエンターテイメントの社宅から離れた時期は一致している。
「ケホッ、クリムゾンエンターテイメントの社宅に住んでいたって事は、それなり名前の許されたミュージシャンしか住めないから、推測だけど本城さんのお父さん、もしくはお母さんの関係者がクリムゾンエンターテイメントの上役だったって感じだよね」
「その時に何があったのか、どういう事情があったのかはわかりませんし、ご家庭での離婚や再婚などは一般的にもおかしな事ではありませんが…」
「当時の本城さんは、クリムゾンエンターテイメントの社宅を抜けた時には、何も問題もなくすんなり離れられたのだとしても、今となっては本城さんはバンドをやっていて、クリムゾンエンターテイメントの仇敵だったタカさんのレガリアを受け継いだ女の子なんだよ。ケホッケホッ」
あ、そうか。
それってつまり…。
「そういう事スか…。
Amaterasuが海原に狙われていたって事は俺も葉川さんから聞いてます。つまり、クリムゾンエンターテイメントの誰かから…その本城の事がバレた…と」
コクリ
澄香さんと架純さんはほぼ同時と思うようなタイミングで頷いた。
なるほどね。
タカさんと梓さんも、何故今回のライブ大会でデビューであるはずのAmaterasuの事を海原が知っていたのか不思議に思っていたみたいだけど、きっとそれが答えなんだろう。
本城さんのお母さん、もしくは当時のお父さんがクリムゾンエンターテイメントの関係者で…。
バンドを、音楽をやり始めた本城さんの事を知って…。
タカさん達BREEZEにレガリアを託されたって事までは知らなかったんだろうけどね。
「そ、それってもしかしたらめちゃくちゃヤバい事じゃない?あまねる達の事何とか守ってあげなきゃ!」
「結衣、まだ憶測の段階だから。ケホッケホッ」
確かに憶測の段階だけど、きっとそういう事なんだろうなって思う。真相とか暴きたい気持ちもあるにはあるけど、だからってさっき作った台本にこの件を入れるのは無理だろう。
昔、本城さんが住んでいた所がクリムゾンエンターテイメントの社宅だったなんてテーマでトークなんか出来る訳じゃないし、その住所を何で俺達が知っているのかって問題にならなくもない。
「確かに架純さんの仰る通りですわね。アホのBREEZEの皆様にはお伝えしてても良いかもですが、懸念するだけで私達には何も出来ませんわね。…歯痒いですわね」
「で、でもさ!せっかく楽しい音楽をやってるバンドさんなんだし、出来る限りで…だけど、私達もAmaterasuの力になってあげようよ!」
「そう…だな。ゆいゆいの言う通りだ。
俺達に何が出来るのかってのもあるが、本城は葉川さんのレガリアを受け継いだってもあるし、これからの音楽の世界を楽しんでいこうって連中みたいだしな。出来る限りはやってやろうぜ」
「松岡くんにしてはなかなかまともな事を言いますわね。まぁAmaterasuに限らず、Break Bellも他のバンドも。出来る限りは守っていきたいですわね」
「うん。俺もそう思うよ」
「そうですね。私も姫咲お嬢様の執事である前に、今はCanoro Feliceのチューナーと思ってますから、私もファントムのバンドメンバーとして、出来る限り助けになりたいって思います」
みんな同じ意見で良かった。本当にそう思うよ。
俺達もバンドをやり始めたばかりだし、澄香さんや英治さん、タカさん達に助けられてばかりだし、まだまだ至らない所だらけだけど、俺も助けてもらっている分、助けてあげる事が出来るバンドマンでありたい。
「……ケホッ、これで澄香さんの目論見通りになりましたか?」
「架純さん…?はて?何の事でしょう?」
「この台本じゃ澄香さんやタカさんの企画バンドにメンバーの居ないCanoro Feliceは目立つ要素もないですし、秋月さんの思惑とは少しズレが出ちゃいましたもんね」
「まぁ、姫咲お嬢様も常日頃から目立ちたいと思っているようですしね」
「Amaterasuはレガリアを受け継いだバンド。そしてクリムゾンエンターテイメントの海原に狙われていた。
ケホッ、そこでCanoro FeliceがAmaterasuを守りたいって事を意識させれば、Amaterasuを守る為に前線に立ってバンドとしてデュエルの経験も積めるでしょうし、クリムゾンエンターテイメントのターゲットであるAmaterasuの壁になれば、秋月の思惑通りに目立つ事も出来るでしょうしね。ケホッ」
「ハッハッハ。さすが架純さんですね。なかなかの読みでございます。ですが、1点だけ間違いがございますよ」
「あれ?何か違いました?ケホッ」
「んー…私の育て方が悪かったのか、姫咲お嬢様は本音を話すのが苦手になってましてね」
「本音で話すのが…ですか?」
「あ、いえ、もちろん姫咲お嬢様は根っからドSですし、自分が目立つ為なら周りの迷惑なんて微塵も考えない方ではあるんですが…」
「ものすごい言われようですね」
「なんと申しましょう。こう…自分が実は優しさを持っているとか、人の血が通っているとか…そういったことを他人に気取られるのに苦手意識を持ってましてね」
「とんでもない苦手意識ですね」
「自分やCanoro Feliceがファントムの中で目立ちたい。そういった考えはもちろんあるんでしょうが、あえてその事をこの場で話し、AmaterasuやBreak Bellをサポートしようという本来の目的を隠しながら台本作りという面倒事を強行したのですよ。と、私は思ってます」
「……ああ。なるほどですね。結局私と澄香さんがそこに気付くと思っていたから、あえてって事ですね。
悪い事じゃないんだから、変に考えたりせずAmaterasuを守りましょうって言えばいいのに」
「姫咲お嬢様は照れ屋でございますからね」
……もういい。
もうお腹いっぱいだよ。澄香さん、架純さん。
同じ教室内に居るしボソボソ内緒話をしている訳じゃないから今の会話みんなにまる聞こえだよ。
ほら、姫咲なんて顔を真っ赤にしながらひきつった顔をして微動だにしないし、冬馬なんか何も聞いてない振りをしたいのか挙動が不審すぎりし、結衣に至ってはよくわからなかったのか改めて綾小路さんに説明してもらってるし…。
「ですから、姫咲お嬢様は本当はAmaterasuを守りたいって気持ちがあるんですけど、それだとAiles Flammeの江口さんの二番煎じになりますから、自分が目立ちたいっていう理由を盾にして、Amaterasuを守るようにお姉様と架純さんに誘導させてですね…」
「ふぅん、な、なるほどなるほ…どね…うん…ん…。あ、あのねしっきー…。説明してくれ…るのはありがたいんだけど…な、何で私の胸をさわ…触ってるの?」
声もでかいし本当に綾小路さん何やってんの?
でも纏めるとそういう事か。
何でこんな無駄な会議に呼ばれたんだろうと、また姫咲のワガママかと、半ば諦めていたけど、結局は姫咲もCanoro FeliceとしてAmaterasuを守りたいって事か。
最初から素直に言っていれは、無駄な時間を過ごす事もなくすんなり終わった話なんだろうけど…。
姫咲とは出会った頃からこうだもんね。
冬馬をCanoro Feliceに勧誘した時も、双葉ちゃんの時も、南国DEギグの時もこないだの周年記念の時も。
照れが出て素直になれないから、目立ちたいって気持ちもあるから、こんな遠回しになってるんだろうけどね。
…この台本じゃ確かにAmaterasuやBreak Bellが俺達ファントムのバンドと仲を深めるって為になら最適な出来だと思う。
だけどそれじゃ、観客である俺達Canoro Feliceや目立ちたいと思う姫咲にとってはプラスにはならないかも知れないな。
勝手な事をしたら、これからずっとその勝手にした事で無茶振りをされるかも知れないけど、Canoro Feliceのリーダーとしてちょっと動いてみようかな。
澄香さんと綾小路さんに俺だけが八つ当たりされないような策を一緒に考えてもらいながら…。