バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第7章 ライバルバンド

「私はベッドから起き上がり、ホテルの窓から摩天楼の夜景を見ている。

 

またやってしまった…

 

さっきまで寝ていたベッドに目をやる。

そこにはBlaze Futureのバンドのボーカル、タカが静かに寝息を立てている。

 

私達は別に付き合っているわけではない。だけど彼に求められるとつい流されて…」

 

「いやいやいやいやいや!」

 

私がモノローグを語っていると、Blaze Futureのギタリスト、奈緒が邪魔をしてきた。これからが面白くなるのに。

 

「何言ってるんですか?まどか先輩。

ここめちゃファントムですし、ホテルじゃないですし。今日は貴も来てませんし、夜景どころかまだお昼前ですよ?てか、そんな事言って読者が信じてしまったらどうするんです?」

 

「いや~、せっかく私の初モノローグだしさ?なんかこう面白くしなくちゃいけないみたいな使命感がね?」

 

「それにモノローグとか言いながら普通に口に出してましたよ?」

 

私の名前は柚木 まどか。

Blaze Futureというバンドでドラムをやっている。

 

私が幼稚園くらいの時に、幼馴染である北条 綾乃と一緒に『大きな太鼓がある家』があると、いつも英治の家のガレージを覗いていた。

当時はドラムなんて知らなかったから、大きな太鼓はお祭りの時くらいしか見たことがなく、私達にはドラムは魅力的だった。

 

ある日綺麗なお姉さん……まぁ、後に英治の嫁さんになる三咲さんなんだけど、三咲さんが英治の家に遊びに来ていた時に、私達が覗いているのに気付いて英治に頼んでドラムを叩かせてくれた。

 

それ以来私と綾乃はドラムの音がお気に入りになり、幼稚園が終わると公園なんかに遊びに行かず綾乃と一緒に英治の家に行って毎日ドラムを叩かせてもらっていた。この時はまだBREEZEも活動していたからドラムを教わったりしてたわけではなく、本当にただドラムスティックでドラムを叩かせてもらってるってだけだったけど…。

 

そして私達が小学生の高学年になった頃。BREEZEが解散し、英治と三咲さんは結婚した。

それから英治は暇になったのか、私と綾乃にドラムを教えてくれるようになった。

 

「う~ん、懐かしいな…」

 

「ほぇ?何がですか?」

 

「ちょっと昔の事を思い出しててね」

 

「昔の事?」

 

「うん、英治が私達にドラムを教えてくれるようになった頃のこと…」

 

「私達に…って、まどか先輩と綾乃先輩にですか?」

 

「うん、BREEZEが解散して、家業を手伝いながら夕方からは私達の為にドラム教室を開いてくれてね。有料だったけど…月謝高かったけど……」

 

「へぇー、その話ちょっと聞いてみたいかもです」

 

「ん、いいよ」

 

そして私は奈緒に昔の話を始めた。

 

「英治の家ってさ。すごくお金持ちでね。英治が高校に入った時に親に家を買ってもらったんだって。そこが今の英治と初音の家なんだけどね?そこのガレージにドラムセットがあって、私も綾乃もご近所さんだったからよく叩かせてもらってたんだよ」

 

「え?高校生で親に家を買ってもらうって凄すぎませんか?」

 

「昔は工場をいっぱい持ってたんだけど、事業縮小とかで工場をいっぱい潰してね。土地だけはあったみたいなの。そこを遊ばせとくのも勿体ないからって感じらしいよ?このファントムの場所も元々は工場だったらしくて、使わなくなってからはBREEZEの練習場にしてたみたい」

 

「え!?この場所でBREEZEの皆さんが練習してたんですか!?聖地…まさに聖地じゃないですか……」

 

「あはは、奈緒にとってはそうかもね」

 

そして私は奈緒に話を続けた。

 

「私と綾乃が小学生の高学年になった頃くらいに英治の家のガレージでね、ドラム教室を開いたんだよ。英治はここにライブハウスを立てたかったんだろうね。色々仕事も掛け持ちしてたみたい」

 

「へぇー、BREEZEが解散した後なんですよね?貴とはその頃には知り合ってたんですか?」

 

「うん、貴とトシキはたまに会ってたかな。拓斗さんには会った事なかったんだけどね。あ、貴とトシキはその頃はバイトしながら同人活動してたんだよ?」

 

「あ!それは貴から聞いた事あります!」

 

それからしばらく英治と私と綾乃だけの3人のドラム教室が始まった。

 

私と綾乃はドラムに夢中になっていた。

私は綾乃よりドラムが上手くなりたい。

綾乃も私よりドラムが上手くなりたい。

そういう気持ちからお互いに技術を高め合っていた。

 

ある日、英治が私達より年下の女の子を連れて来た。

 

『あ、おい。まどか、綾乃。この子の事知ってるか?なんか迷子みたいなんだけど』

 

それがDivalのドラマーである雪村 香菜だった。

どうやら弟が友達と遊びに行ったまま帰って来ないから、心配になって探しに出たが自分が迷子になってしまったらしい。

 

運が良かったのか綾乃が香菜の事を知っていたから、家もわかったので事なきを得た。そのまま家に連れて行っても良かったのだが、香菜の家はみんなロック好きで、香菜は四響のダンテに憧れていたらしい。それで私達のドラムの練習を見せてあげる事にした。

 

翌日から英治と私と綾乃の3人だけのドラム教室は、英治と私と綾乃と香菜の4人のドラム教室になった。

 

そして英治と三咲さんとの間に初音が出来て。初音が産まれてからタカとトシキもよく遊びに来るようになった。

 

私は漫画やアニメが好きだったのでタカに懐いて、綾乃は家庭菜園が好きだったのでトシキに懐いて、香菜は四響のダンテへの憧れの想いからかドラムが上手くなりたかったんだろうね。ドラマーだった英治にすごく懐いていた。

 

「へぇー、トシキさんって家庭菜園とかされてるんですね」

 

「そうなんだよ。昔からそういうの好きだったらしくてさ。色々な野菜作ってるよ」

 

私と綾乃が中学生になった頃。

タカが小学生の男の子と女の子を連れて来た。

 

『いや、まじビビるわ。今時の小学生まじ怖い。この女の子グーパンでこの男の子殴ってたぞ…』

 

『ゆーちゃんが悪い!ボクは悪くない!』

 

『うわぁぁぁん、うわぁぁぁん』

 

『ほらお前ももう許してやれってこの子泣いてんじゃん?お前も男の子なんだからもう泣き止め?な?』

 

英治の家の近所で喧嘩をしてた男の子と女の子を仲直りさせる為に連れて来たのだ。それがAiles Flammeのドラマーのシフォンこと井上 遊太と、FABULOUS PERFUMEのドラマーのイオリこと小松 栞だった。

 

ドラムに興味を持ったのか栞と遊太は

 

『ゆーちゃん!太鼓だよ太鼓!ボクも叩きたい!』

 

『わぁぁ!太鼓だ!太鼓だよ!しおりちゃん!』

 

あっという間に仲直りしていた。

 

翌日から私達のドラム教室には、遊太と栞が加わった。

 

「クスクス、シフォンちゃん可愛いですね。私、まだ栞ちゃんって子には会った事ないです~」

 

「あれ?そうなんだ?また機会があったら紹介したげるよ」

 

「はい!お願いします!」

 

でも、それから1年くらい経ったある日。

私はドラム教室に顔を出さなくなった。

 

「え!?そうなんですか!?」

 

「あはは…まぁ、ちょっとカッコ悪いんだけどさ。中学生っていったら思春期真只中でしょ?私達の中でさ。香菜がすごく上達しててね。私も綾乃も香菜のドラムの技術には追い付けなくなってた。私はそれが悔しくて…。遊太と栞もまだ小学生で甘えん坊なとこもあったからさ。あの2人はタカに懐いてたから。タカも取られちゃった気がしてね…」

 

その頃には家にもドラムはあったから、ドラムを叩く事は毎日欠かさなかったけど、私は音楽から逃げるように遠ざかっていっていた。

 

『まどか』

 

『ん?綾乃?何?』

 

『今日も…練習には来ないの?』

 

『ん…、まぁね。他に好きな趣味出来ちゃったしさ』

 

『そう…』

 

『うん。綾乃はさ。ドラム好きなら頑張りなよ』

 

『何を?』

 

『え?』

 

『私はドラム好きだよ。でも、何を頑張るの?』

 

『いや、だからもっと上達するようにとか?いつかバンド組むとかあるかもじゃん?』

 

『うん、ドラムは好きだから…もっと上手くなりたいかな』

 

『でしょ?』

 

『うん、頑張る…かぁ…。考えた事なかった…』

 

『え?』

 

『まどか、私はね。好きだからドラム叩いてるだけ。頑張るとか思ってなかった。まどかにはまどかのリズムが。香菜には香菜のリズムが。遊くんにも栞ちゃんにも、私にも各々のリズムが』

 

『綾乃?』

 

『私は私のリズムで楽しんでドラム叩いてただけだったから…。そうだね。まどかの言う通り。上手くなりたいなら頑張らなきゃね』

 

『うん、あはは…そうだよ!頑張らなきゃだよ!あ、私はそろそろ行くね。また明日ね』

 

『ありがとう、まどか。また明日ね』

 

私は恥ずかしかった。

楽しいからドラムを叩いていたのに、いつの間にか香菜に負けてるから、頑張らなきゃって思ってドラムをやるようになっていた。楽しんで叩いてなかったんだ。

 

そして私はその場から逃げるように走ってアニメショップに行った。

 

「え?何でアニメショップなんですか?」

 

「え?新刊の発売日だったから早く欲しかったし」

 

「そ、そうですか…」

 

そこで私は新刊だけじゃなく、新しいグッズは出ていないか、買い逃しているのはないか?そう思って店内をうろうろしていた。

 

『あ?まどか?』

 

『え?たか兄?』

 

そこには何故か平日の夕方なのに社会人のはずのタカが居た。そんな事よりこれは何か買ってもらうチャンスだ。私はそう思った。

 

「へぇー、まどか先輩って貴の事たか兄って呼んでたんですね」

 

「そだよ。タカの事をたか兄、トシキの事をトシ兄、英治の事を尊敬する師匠と親しみを込めておっちゃんって呼ぶようになったのは私だからね。それがみんなに浸透したみたいな?」

 

「何で英治さんはおっちゃんなんですか?」

 

「んー、英治は小さい頃からよく会ってたからかな?幼稚園くらいの時にはタカとトシキにはあんまり会ってなかったし」

 

「それでいつから皆さんの事を名前呼びになるようになったんですか?」

 

「ん、それはちょうどこの頃だよ。アニメショップで私はタカと会って…」

 

『たか兄!これ買って!』

 

私は新刊をタカに渡した。

 

『は?何で?意味がわからん』

 

『お兄ちゃん…お願い…なの…』

 

『うん、いいよ』

 

タカはあの頃からちょろかった。

 

『いや~、ありがとね!たか兄!』

 

『くっ…余計な出費が…』

 

『いいじゃんいいじゃん!ほら、こうやって私の好感度上げとけば、将来私と結婚出来るかもよ?』

 

『お前が成人する時、俺いくつだと思ってんだ?さすがにそれまでには結婚しとるわ』

 

なのにタカはまだ結婚出来ていない。

激しくワロス。

 

まぁ、それはいいとして私達はアニメショップから出た。

 

『あ、そだ。まどか』

 

『ん?何?』

 

『お前最近ドラム教室に来てないみた……』

 

『たか兄!!』

 

『あ?』

 

『今日は買ってくれてありがとね!これも早く読みたいし私帰るね!』

 

私はそう言って走ってその場を去った。

でも…

 

『いや、俺の話終わってないんだけど?』

 

タカは私と同じスピードで走り、並走しながら話し掛けてきた。

 

『ご、ごめんね、たか兄!は、話はまた今度!』

 

『すぐ終わる』

 

タカはどこまでも追い掛けてきた。

私の家も知られてるわけだし、このままだと家にまで着いてくる。

そうなると私の家族と面識のあるたか兄は普通にインターホンを押すだろう。そうなると逃げ場はない。

 

『ハァ…ハァ…』

 

私は立ち止まってタカの方を向いた。

 

『お、やっと話聞く気になったか?』

 

『たか兄…お願い…。帰って!私について来ないで!!』

 

『え?あ、うん、わかった』

 

タカはそう言って帰ろうとした。

 

 

 

「は?」

 

「私も本当に帰るとは思わなかったからさ。びっくりしちゃったよ」

 

 

 

私は帰ろうとしてるタカに、

 

『ちょ…!ここまで追って来たくせに本当に帰るの!?』

 

『え?だって帰ってって言ったやん?これ以上付きまとって通報されたりしたら嫌だし』

 

 

 

「貴は昔から…貴だったんですね…」

 

「う~ん、今よりはまだ全然普通の人っぽかったと思うんだけど…」

 

 

 

『たか兄!さっきたか兄はドラム教室の事話そうとして私が逃げたでしょ!?それってドラム教室の話をしたくなかったからでしょ!』

 

『ああ、そうだろうな』

 

『そうだろうなって…。そんな時は何があったんだ?とか聞くものでしょ!』

 

『あ、そうなの?話したくないなら無理に聞こうとは思わないんだけどな』

 

『そんな事言ってるといつまで経っても彼女出来ないよ?』

 

『何があったんだ?(イケボ』

 

『はぁ…話したくない。放っておいて』

 

『何かあったんだろ?話せよ(イケボ』

 

『お、成長したね。たか兄』

 

『人は成長するものなの。俺なんか常に成長期だから』

 

成長。タカはそう言った。

私はあんな理由でドラム教室に顔を出さなくなった事が余計に恥ずかしくなった。

 

『ん、たか兄、ごめん。やっぱ話せない』

 

『まぁ、いいぞ。話したくないのは話さんでも。だから俺が勝手に言う』

 

タカはそう言って

 

『まぁ、何でドラム教室に来なくなったのかは聞かない。色々あるのかも知れんしな。ただ綾乃も香菜も遊太も栞もいつも寂しそうにしてるぞ。まぁ、俺も英治もトシキもな。よくまどかが来なくなって寂しいなって話しとる』

 

『そっか…ごめんね』

 

『別に?まどかが他に楽しいこととか見つけて、そっちに夢中になってんならそれはそれでいい事だしな。俺はまどかの音が好きだったからな。もう聞けないのはつまんねぇから、たまにでも叩きに来てくんねぇか?って言いたかっただけだ。ま、それも他の事が忙しいなら別にいいけどな』

 

タカが私の音が好きと、私のドラムが聞けないがつまらないと、叩きに来てほしいと言ってくれた。私はそれを聞いて泣いてしまった。

 

『そ、そんなお世辞いらないし…!香菜のが全然ドラム上手いじゃない!ドラムの音が……聞きたいなら…みんな…みんなが…うわぁぁぁぁん…』

 

『え!?なにごと!?』

 

タカは私が泣き止むまで、ずっと待ってくれた。私が泣き止んだ後、タカにドラム教室に行かなくなった理由を話した。

もちろん遊太と栞にタカを取られたってのは伏せて…。そしたらタカは…

 

『ああ、まぁ確かにドラムの技術的には香菜のが上かもな。香菜のドラムはすごいな』

 

『やっぱり…たか兄もそう思ってんじゃん』

 

『は?それはそう思うけど、上手いから好きとかじゃねぇだろ?いや、香菜のドラムも好きだぞ?でも、俺はまどかの音のが好きなんだよな』

 

『え?』

 

『まどかの音は、俺に合ってるっつーのかな?お前のドラムって割と自由だろ?なんかお前のドラム聴いてるとな、リズムに合わせて勝手に体が動くし……また、歌いたいなって思ってくる音なんだ…』

 

『たか兄…』

 

『もちろん香菜のリズムも綾乃のリズムも遊太のリズムも栞のリズムも好きだぞ?

でも俺の喉が治って、バンドまたやるとかなったらまどかにドラムやってもらいたいって思うかな。

それに技術とかそんなんで言ったら英治のがまだ上手いじゃん?音が合わせやすいってのもあるし?あいつは俺らに合わせて叩いてくれるしな。

あ、でもそれ言ったら英治の音も香菜と全然違うくね?英治のリズムに近いのはお前らん中じゃ綾乃だろ』

 

 

 

「え?貴ってそんな事言ってたんですか?へぇー、ならBlaze Futureでドラムやる人は、その時からまどか先輩って決まってたんですね」

 

「そうなんだよねー。なのにタカのやつ奈緒とバンドやるって時に私の事すぐに誘わないしさぁー。頭くるよね!」

 

 

 

『それにあれだ。香菜もまどかみたいな音出せるようになりたいって言ってたし、遊太と栞はお前のドラムに影響受けてんだろ』

 

『私…たか兄が…』

 

『ん?』

 

『……!タカが私の音が好きなら!もっかいドラムやろうかな!!』

 

『え?何で呼び捨て?』

 

『タカと綾乃の言う通りだよね。上手いとか技術も大切だけど、楽しんでドラム叩いて、好きな音出すのが一番だよね』

 

『だから何で呼び捨て?呼び捨てでもいいんだけどね?なんか唐突過ぎてびびるわぁ…』

 

『タカ、ありがとうね。うん、今日から早速また英治のドラム教室に行く!タカも行こうよ!』

 

『うん、それはいいと思います。ってか、英治も呼び捨てなの?』

 

 

 

「それからかな。タカとか英治とかトシキを呼び捨てにするようになったのは…」

 

「と…唐突すぎやしないですかね?」

 

「なんかその時にね。タカとかトシキとか英治をもっと近くに感じたくなって。お兄ちゃんじゃなく、仲間として見てほしくなったんだよね」

 

「その気持ちはわからなくないですけど…私も貴さんと奈緒ちゃんじゃ嫌だって思ってましたし。同じバンドの仲間なんだからって」

 

「私もそんな気持ちになったからさ。いきなりだったけど、呼び捨てで呼ぼうと思ってね。英治はおっちゃんよりマシって言ってたけど、タカは『俺は天くんが陸に天にぃと呼ばれてるようにたか兄って呼ばれてたかった』とか言ってたけどね」

 

「いやいやいや、ちょっと待って下さいよ。その時代にアイナナがあるわけないじゃないですか」

 

「そこがタカの恐ろしいところだよね。まぁ、それでまたその日からドラム教室に行くようになってね。それから2年前の私と綾乃の就職した頃に、このファントムも完成したのもあって英治のドラム教室は終わったんだよ」

 

「そうだったんですね」

 

「私と綾乃は就職でドラムを辞めて、香菜はちょっと前からかな?友達と遊んだりするようになってたからドラム教室はたまに休んだりしてて、栞はバンドを始めたとこだったしね。ファントムが完成したのは頃合いだったのかもね」

 

「シフォンちゃん……遊太くんはどうしたんですか?」

 

「遊くんはおっちゃんにその後もドラムを教わってたのよ。スタジオ借りて一人で練習したりもしてた。いつか栞ちゃんみたいにバンドやるんだってね」

 

「綾乃!?」

 

「綾乃先輩!お久しぶりです!」

 

「懐かしい話してるね、まどか」

 

私と奈緒が昔の話をしていると、綾乃が横に立っていた。

 

「ど、どこから聞いてたの!?」

 

「まどかが拗ねてドラム辞めてた時くらいからかな」

 

「ぐっ……」

 

「それより今日は貴兄もおっちゃんもいないの?」

 

「そうなんですよ。貴と英治さんは今度のファントムギグの参加バンドが増えたとかで会場探しに行ってまして。私とまどか先輩でファントムのお留守番を任されてます!」

 

「お留守番って…お店準備中になってたよ?」

 

「は!?」

 

「ふふふ、実は私がそうしておいた」

 

「ま、まどか先輩何やってんですか!?せっかく英治さんが私達に任せてくれたのに!」

 

「私、料理出来ないし、カフェ客来ても困るでしょ?英治もカフェは休みでいいから、ライブの受付だけよろしくって言ってたじゃん」

 

「そ、そうですけど、私料理も出来ますし英治さんに褒めてもらうチャンスが…」

 

「そしてタカにも『おお、奈緒って料理も出来るんだな。いつ俺の嫁に来てもいいな』とか言われたかった?」

 

「さすがまどか先輩。貴の物真似上手いですね。でも、貴とはそんな関係ではないのでそこまではいらないです。そんな事言われたらうっかり通報しちゃいます」

 

う~ん…、奈緒って本当にタカの事そんな風に見てないのかな?なら渚か志保か理奈に乗った方が面白いかな?

 

「だからってそれは止めて下さいね?」

 

「え?私口に出してた?」

 

「あ、そんな事より綾乃先輩はどうしたんですか?貴か英治さんに何か用事ですか?」

 

「え?あ、うん…そだね。まどかと奈緒には先に言っておこうか…」

 

そう言って綾乃は私達の座っているテーブル席に座った。

 

「あ、ちょい待ち。私コーヒー入れてくるわ。綾乃もコーヒーでいい?奈緒はおかわりいる?」

 

綾乃が改まってあんな事を言う時、それは大事な話がある時だ。私の行っていた大学はこの辺じゃかなりレベルの高い大学だったのだけど、私がそこを受験するって言ってしばらくした後、綾乃も

 

『まどか。大事な話があるの。……私もまどかと同じ大学受験する。まどかには先に言っておこうかと思って』

 

二人とも無事に現役で合格出来たわけだけど、綾乃のそう決めてからの行動力と言うか頑張りは本当にすごいと思った。

ドラムもあの時、頑張ってみるって言ってからはすごく上達したもんね。

 

「お待たせ。はい、コーヒー。……で?話って何?」

 

「うん、あのね。貴兄とおっちゃんにね。私もファントムギグに参加したいって言おうと思って今日は来たの」

 

「え?」

 

「あ…綾乃先輩、バンド始めたんですか!?」

 

「まだ…バンド名も決まってないし、メンバーもボーカルとドラムの私しかいないんだけど…」

 

正直驚いた。まさか綾乃がバンドをやるだなんて…。

 

「まどかも香菜も、遊くんも栞ちゃんも、おっちゃんの弟子はみんなバンドやってて…。みんな楽しそうで羨ましいなって、私もやりたいなって思って」

 

「綾乃…」

 

「貴兄にもね。綾乃もバンドやればいいのにって言われてさ。やろうって思ったんだよ」

 

「う~!綾乃先輩!最高です!一緒にバンド頑張っていきましょう!!いつか対バンとデュエルも是非是非!」

 

「ありがとう奈緒。あ、私のバンドのボーカルなんだけどね。花音がするんだよ」

 

「ほぇ?花音が?あの子大丈夫なんですか?」

 

大西 花音(おおにし かのん)

この子は私と綾乃の大学の後輩だ。

奈緒の大学での唯一の友達。

まぁ、花音にとっても奈緒が唯一の友達なんだけど…。小・中・高と友達の居なかった奈緒と花音は、大学に行ってから初めて友達が出来たと仲良しさんだった。

 

花音は大学を卒業出来ず留年して、今まさに就職活動真っ最中の現役JDである。

 

「あの子、歌は確かに上手かったですけど今就活中ですよね?綾乃先輩には申し訳ないですが、また留年とかしたりしないか心配なんですけど…」

 

「私もそれが心配だったから最初は断ったんだけどね。先日のBlaze FutureとDivalのライブ観てバンドやりたくなったんだって」

 

花音と綾乃でバンドか…。

 

「私はまどかに。花音は奈緒に負けないように。私達はBlaze Futureに負けないように頑張るよ」

 

「いいね、綾乃!私そういう熱いの好きだわ!ライバルバンドって感じだね!」

 

ライバルバンド。

私と綾乃はずっと一緒だった。

そして、今は違う。別の道を歩いている。

綾乃は私の一番の親友で、一番のライバルだ。今までもこれからも。

 

「私達がBlaze Futureに勝って、まどかに勝って、今度こそおっちゃんの正当後継者の権利は私が貰うね。正直そんな称号はいらないんだけど」

 

「ふぇ?ほぇ?英治さんの正当後継者って何ですか?まどか先輩が正当後継者なんですか?」

 

英治の正当後継者かぁ…。

私もこんな称号いらないんだけどなぁ。

 

「ふふ、おっちゃんのドラム教室を閉める時にね。私達みんなでドラムでデュエルをやって。誰が一番かって勝負したのよ」

 

「わぁ!そうなんですか!?それでまどか先輩が勝ったって感じですか!?」

 

「うん、まどかが勝ってね。おっちゃんの正当後継者はまどかって事になったんだよ」

 

「ま!まどか様…!!」

 

うっ!?奈緒の眼差しが眩しい…!!

奈緒の大好きなBREEZEの公認正当後継者だもんね?そりゃ奈緒からしたら羨望の的だよね…!

 

「でも、この正当後継者の称号はいつでも下剋上で奪い取れるって事になってるからね。遊太と栞はまだこの称号狙ってるし…」

 

私はこの称号はいらないから誰かに譲ってもいいんだけど…。

奈緒も嬉しそうだし、まだ誰かに負けたくもないし、もうしばらくは英治の後継者で居続けようかな。

 

「ま、でも、誰にもこの称号は渡さないから安心しな」

 

私はそう言って奈緒の頭を撫でた。

 

「はい!!」

 

 

 

 

それからお客さんも来ないまま、私と奈緒と綾乃で昔話に花を咲かせていた。

 

「奈緒も花音も常にイヤホン付けて机に突っ伏してて、誰も私に近寄るなオーラ出してたもんね」

 

「私も『あーこの子友達いないんだなぁ』って思ったもんね」

 

「もう!そんな昔の話は止めて下さいよ!」

 

すると、

 

「ただいまー」

 

「お疲れさん、待たせたな」

 

「こんちゃ~っす!」

 

英治とタカと何故か盛夏が帰ってきた。

 

「英治さん!ついでに貴もお帰りなさいです!って何で盛夏も一緒なの?」

 

「いや~、街をぶらぶらしてたら貴ちゃんと英治ちゃんにナンパされちゃって~」

 

「そうか。最近はあれをナンパと呼ぶのか。こりゃ迂闊に街歩けないな」

 

「ははは、俺とタカでここに帰ってくる途中でな。盛夏ちゃんが『はろ~!』って後ろから体当たりして来てな。まどかと奈緒ちゃんもファントムに居るぞって教えたら『私も行く~』って言ってついて来たんだ」

 

「おっちゃん、貴兄、こんにちは。盛夏さんはちゃんと挨拶するのは、はじめましてかな?」

 

綾乃がタカと盛夏、英治に挨拶をした。

そっか。綾乃はこないだのライブに来てたけど盛夏と話すのは、はじめましてなのか。

 

「おお~、すごい美少女だ~。はじめまして、蓮見 盛夏と申します~」

 

「おお、綾乃か。久しぶりだな。こないだのBlaze FutureとDivalのライブに来てたんだってな?タカだけじゃなく俺にも挨拶くらいしてけよ」

 

「私がここに寄ってもいつも初音ちゃんしかいないんですけどね」

 

「あ、それきっとたまたまだ。俺、超働いてるもん。いつもはいるもん」

 

確かに最近は英治も居るけど、前まではほとんど初音ちゃんしかいなかったもんね…。

 

「んで、綾乃は今日はどうした?まどかに呼び出しでもくらったのか?」

 

「あ、私もバンドやる事にしましたので、良ければファントムギグに参加させて欲しいと思いまして」

 

「いいんじゃね?」

 

タカはちゃんと考えて返事してるのかな?まぁ、タカなら何とかするんだろうけど…。

 

「綾乃、お前マジか?これってファントムギグに俺の弟子みんな参加する事になるんじゃないか?」

 

「ほぅほぅ、お姉さんも英治ちゃんのお弟子さんなのですか~。英治ちゃんのお弟子さんって美人さんが多いですな~」

 

「さすが盛夏!わかってるね!!」

 

「まぁ、一番はシフォンだけどな」

 

「貴…やっぱり……」

 

「え?やっぱりって何?俺なんか変な事言った?」

 

「しかし、これでファントムギグの参加バンドも8バンドか。時間とか色々調整しないとな。おいタカ、いっそ昼からやっちまうか?」

 

「8バンド?綾乃先輩のバンド入れて7バンドじゃないんですか?

……ハッ!?まさか1日限りの復活とかでBREEZEも出たりするとかですか!?それ最前席を関係者席にしませんか?」

 

「いや、BREEZEは拓斗がいないし…」

 

「拓斗?誰それ?いや、今日帰りに英治とラーメン食いに行ったんだけどな」

 

「ラーメン…?なんか嫌な予感がするんですけど…」

 

「ラーメン屋が混んでたからカウンター席になっちまってな。そしたら隣に美緒ちゃんが来たんだわ」

 

「やっぱり…」

 

美緒ちゃんというのは奈緒の妹の佐倉 美緒。私も何度か遊んだ事はある。

確か高校の軽音楽部でバンドを組んでて、ライブも何度かやったと聞いている。

 

「奈緒ちゃんの妹さんって理奈の大ファンなんだな?俺がDivalも出るって言ったら『ぴぎぁぁぁぁぁぁ』って言って倒れてな」

 

「そんで俺が美緒ちゃんに、美緒ちゃんもバンドやってるなら参加する?って言ったら、また『ぴぎぁぁぁぁぁぁ』って言って倒れたな」

 

「ま、またあの子は…。ご迷惑おかけしました…」

 

「いやー、でも嬉しそうだったぞ?な、タカ」

 

「理奈と同じステージに立てるチャンスがあるとは…って言ってたな」

 

へー、奈緒がタカに憧れてたように、美緒にも憧れのボーカルがいるって言ってたけど、それって理奈の事だったんだ?

 

「まぁ、憧れの人と同じステージに立てるってのは嬉しいものですよ。私も英治さんやトシキさんと同じステージに立ちたいですし」

 

「え?俺は?あれ?」

 

「あ、そうだ。奈緒~。まどかさ~ん」

 

「ん?何?どしたの?」

 

「まさかここに来る途中でタカと英治に何かされた?」

 

「「冤罪だ」」

 

「いや、そんなのじゃなくて、こないだのライブの時にDivalがステージ衣装とか着ててさ。羨ましかったじゃ~ん?」

 

「ああー!うん、そうだよね。私達もステージ衣装みたいなの欲しいよね」

 

そういえば奈緒も盛夏もDivalのステージ衣装羨ましがってたもんね。

私は動きやすい服装の方がいいんだけどね。

 

「でしょ~?それでさっき貴ちゃんにお願いしてたんだけどさ~」

 

「衣装なんかそうパッパと用意出来るもんじゃねぇだろ…。だから、バンドでお揃いのトレードマーク的なアイテム?それでいいじゃんって言ったんだよ」

 

「そしたらね、英治ちゃんがエルフラはピックのネックレスをみんなで持つみたいだぞって~」

 

「ああ、こないだここでちょうど秦野くん達がそんな話しててな」

 

Blaze Futureでお揃いのアイテムかぁ。

タカは男だしあんまり可愛すぎるのはきついかな。もうおっさんだし。

 

「ま、安いものならな。メンバー分買ってやるよ。そんかわり衣装はしばらくは無しな」

 

へぇ、タカが買ってくれるのか…。

車…いや、マンションもいいかな…。

 

「まどか先輩。ライブで着けるやつですからね?」

 

「え?私また口に出してた?」

 

「まどかさんと奈緒は何がいいと思う~?」

 

「貴が買ってくれる……。私!指輪がいいです!」

 

「奈緒。さすがだね。左手の薬指の指輪をタカに合法的に買わせるわけだね」

 

「まどか先輩?暑さで頭がやられましたか?後、そのスマホで今何したんですか?」

 

「いや、渚と理奈に、奈緒がタカにお揃いの指輪を買ってくれと言ってました。っLINEしただけだよ?」

 

「は!?まどか先輩何してくれちゃってんですか!?」

 

もちろん冗談である。さすがにそんな事はしない。……んだけど。

 

「あわわわわ…また、また渚の家で地獄のミーティングだ…し、しばかれる…」

 

「あはは、冗談だよ。さすがの私もそんな事はしないって」

 

「みたいですね…。自爆しました…」

 

そう言って奈緒は私にスマホを渡してきた。そこは奈緒と渚と理奈のグループLINEの画面だった。

 

奈緒『違うからね!貴にお揃いの指輪を買ってって言ったのは変な意味じゃないから!(>_<)』

 

理奈『指輪?何の話かしら?』

 

渚『先輩に指輪買ってって言ったの?それもお揃いの?』

 

奈緒『え?待って、まどか先輩に聞いたんじゃないの?』

 

渚『まどかさんから?何の話?』

 

理奈『その話もっと詳しく聞きたいわね』

 

渚『だよね!じゃあ今夜理奈も奈緒も私の家に集合ね(((o(*゚∀゚*)o)))』

 

理奈『ええ、明日が日曜日で良かったわ。今夜が楽しみね』

 

渚『絶対来てね?』

 

理奈『絶対来るのよ?』

 

「ぶはっ!あは、あははははは!」

 

「うぉ!?びっくりした!どうしたまどか?」

 

いや~、ごめんね奈緒。

ちょっと奈緒を驚かせようと冗談言っただけだったんだけどね。

 

「消される…今度こそ本当に…消される……」

 

「まどかは爆笑してるし、奈緒は病んでるしどしたの?」

 

「なんだろ~?でも何か面白い事が起きてる気がする~。あ、貴ちゃん。奈緒の言う通り指輪とかどう?」

 

「ボンゴレリング的な?でも、指輪って正直楽器の邪魔だろ?ベースの盛夏は特に」

 

「ふっふっふ~、盛夏ちゃんには不可能はないのだ。指輪をしててもベースを弾いてみせる」

 

指輪かぁ。私的にも邪魔にならないから指輪でも全然いいんだけどね。

奈緒と盛夏にはあんまりおすすめ出来ないかなぁ。

 

「ふっ…ふっふっふ、こうなったら徹底抗戦です。今日はたっぷり指輪を自慢してやるです」

 

奈緒…とうとう壊れちゃったか…。

 

「自慢?つか、ほんとお前らの演奏の邪魔になるだろ?他に何かないのか?」

 

「大丈夫です!プロのギタリストさんも指輪されてる方いっぱいいますし!ってわけで今から買いに行きましょう。指輪」

 

「は?今から?どんなんがいいかとか話し合った方が良くね?」

 

「そんなのはこれだ!ってインスピレーションが大事なんです!それに私にはもうあまり時間が残されていません!」

 

「時間ないなら後日のが…」

 

「貴!うるさいです!私は必死なんです!ね?盛夏も早く欲しいよね?」

 

奈緒…何があんたをそこまで…。

 

「うん!あたしも早く欲しい~。貴ちゃん行こうよ~」

 

「うっわぁ、せっかくファントムまで帰ってきて涼んでるのに、また出掛けるとかめんどくせぇ~」

 

「それにほら。キュアトロちゃんもみんなお揃いのピンキーリングしてるじゃないですか?私達もお揃いのリング着けてたらマイリーちゃんも貴の事見てくれるかもしれませんよ?」

 

「よし、行こう。今すぐ買いに行こう。リング以外の選択肢なんてないまであるな」

 

タカはほんとチョロいなぁ~…。

 

「ほら!まどか先輩も!行きますよ!」

 

やれやれ、まぁ、私達Blaze Futureでお揃いのを持つってのも悪い気がしないしね。

 

「ってわけで英治!後はよろしくね!」

 

「おう。せっかく買って貰えるんなら、めちゃくちゃいいやつ買って貰ってこい。店番は俺と綾乃に任せろ」

 

「え?おっちゃん何言ってるの?私も?」

 

ここ英治の店だよね?

 

「ふふ、まぁいっか。まどか、行ってらっしゃい。良かったね?」

 

良かった?何が良かったって言うんだろう綾乃は…。

 

「楽しみだぁ~。貴ちゃんの給料3ヶ月分の指輪~」

 

「いやいやいや、無理だからそんなの」

 

「う~ん…徹底抗戦とはいえ、左手の薬指はまずいか…。左手は演奏にも支障ありそうですし…」

 

そうして私達はBlaze Futureのアイテムとして、お揃いのリングを買いに行く事になった。

 

みんな右手に着ける指輪。

タカは『俺マイク持つの右手やねんけど?』って文句を言っていたが無視した。

 

タカが人差し指。

私が中指。

奈緒と盛夏が薬指。

 

私達は同じデザインの指輪を

Blaze Futureの証を手に入れた。

 

そしてその夜、奈緒は善戦虚しくと言っていたが、夏休みに渚の実家に理奈と遊びに行くらしい。

何だかんだで仲が良いよね。あの3人。

『私も行きた~い』って言ったら私も行く事になった。関西行くの久しぶりだから楽しみだ~。

 

そうやって楽しい夏休みに思いを馳せている中、まさかタカからあんな宿題が出されるとは思わなかった…。

この歳になって夏休みの宿題が出される事になろうとは…。

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