「ふぅ…、今日は撮影…か」
私の名前は本城 天音。
今日は合同文化祭の余興として、私達のバンドAmaterasuと結月ちゃん達のバンドBreak Bellのメンバーは、ファントムの皆さんがSCARLETでやっている企画バンドの番組のゲストとして呼ばれている。
何故私達がそんな番組に出演する事になったかというと、先日、土曜日のライブ大会の決勝トーナメントに出れるかどうかの連絡を待つ為にカラオケに行った日に遡る。
私達Amaterasuは無事に決勝トーナメントに出れる事になって喜び、少しだけお祝いした後、みんなで帰ろうとした時にその事件は起こった。
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「いやー!あんまり今日は歌えなかったけど、無事に決勝トーナメントに参加出来るようになって良かったよね。あ、やっぱまだお祝いし足りなくね?今からどっかでパーティーやろうよ!お祝いパーティー!」
「冗談じゃありませんわ!ただでさえ今のカラオケで予算オーバーでしたのに…クッ」
「え?でもあまねるも来るなら、すずも来るっしょ?ケーキを嬉そうに頬張るあまねるの写真とか欲しくね?」
「……ちなみに撮影は何枚まで許されますの?」
「いや、私ケーキを頬張ったりしないから…。もう夜ご飯の時間になるし…」
「ケーキ…ケーキいいね。あたし食べたい」
「蘭さんはさっき甘い物食べてなかったもんね。私はさっきちょっと食べ過ぎちゃったから脇腹が怖いっていうか…」
私達はカラオケから出て、このまま解散するかケーキを食べに行くかと話し合っていた。
ちょうどそんな時…。
「射手座のレガリアの継承者。本城 天音様、そして同バンドのメンバーの皆様でございますね」
サングラスをかけた黒スーツの女性が立っていた。
ひと目見て只者じゃないと思えるオーラ。
私はこのままレガリアの事を話すのは得策じゃないと思った。
「わぁ!やるじゃん!めちゃくちゃ有名人じゃん、あまねる!まさかレガリアの後継者って事まで知られてるなんて!」
得策じゃないと思ったのに、真凛ちゃんが普通に喋ってしまった。
「やはりそうですね。探しました」
-ゾロゾロ
その女性がそう言った直後、私達は周りからぞろぞろと出てきた同じ風貌の女性に囲まれた。
「な、何なんですの!?」
「お、なんか面白い事が起こりそうな予感」
「あわわわわ、あ、天音さんどうしよう!?」
「わ、私に言われても…」
「あれ?もしかしてみんなサイン待ちとか?やばっ!あたしら一気に有名人じゃん!」
真凛ちゃんの余裕っぷりが本当に羨ましかった。
だけどそんな時。
「待ちな!天音達にちょっかい掛けるなら私達を通してもらってからにしてもらおうか!」
「あ、夏希今のかっこいい。あたしがそれ言いたかった」
「結月は口より先に手が出るから無理ね」
「バカ結月!あんた今思いっきり飛び蹴りしようとしてたでしょ!あんたを止めるこっちの身になりなさいよ!」
そんな時に、結月ちゃん達Break Bellのみんなが助けに来てくれた。本当に結月ちゃん達はかっこいいなって改めて思った。
「結月?なるほど。間違いない。貴女はBreak Bellの寺川 結月様ですね」
「あたしらの事も知ってんの?」
「結月ちゃんもマジ有名人じゃん!さっすがあたしのギターの師匠!」
「慌てないで下さい。私達は決して怪しい者ではございません。怪しい方に仕えてはいますが私達は潔白です。まぁ、サインが欲しいというのもあながち間違いではありませんが…」
「ほら!やっぱあたしらのサインが欲しいんじゃん!」
ほ、本当にサインが欲しいの?
てか怪しい方に仕えてるって時点で、めちゃくちゃ怪しいんだけど…。
その後、その女性の方達は私達に自分達が何者なのか、そして何故、私達の前に現れたのかを説明してくれた。
その女性の方達は、秋月グループの秋月 姫咲さん。
つまりCanoro Feliceのベーシスト姫咲さんに仕える瀬羽 澄香さん。
つまりのつまりはArtemisのベーシスト澄香さんに仕える私設部隊の方達だった。
『怪しい方に仕えているって、それは秋月さんの事なの?それとも瀬羽さんの事なの?』と、琴子ちゃんが質問してくれたけど、それは禁則事項にあたるという事で教えてもらえなかった。
その時に私達が聞いたのは…。
『『ファントムのバンドによる企画バンドの企画番組!?何回企画とかバンドとか言わされるの!?』』
ファントムのバンドのメンバーが、反クリムゾングループSCARLETで作る事になった企画バンド。
その企画バンドには各々企画番組っていうのがあるらしくて、私達Amaterasuと結月ちゃん達Break Bellに、タカさんの企画バンドであるRevela、澄香さんの企画バンドであるPASTEL BEATの企画バンドがやる企画番組の出演依頼だった。
どんだけ企画って言わされるの?
もちろん自他共に認める小心者の私は丁重にお断りした。結月ちゃんも『あたしもBREEZEのタカさん、Artemisの澄香さんの事は大好きですし、尊敬もしています、だから、あたしはそういう企画じゃなく、あのお二人の前に出てもカッコ悪くないように音楽で勝負したいです!』と断っていた。
私の断り方と違って本当に結月ちゃんはかっこいいと思った。
だけど…。
「え?ネット放送とはいえ全国放送の番組に出れんの?やりますやります!うちらAmaterasuは全然オッケーです!」
「BREEZEのタカさんとArtemisの澄香さんの番組?フッ、それはきっと内山 拓実も観るわね。いいわ。あたし達Break Bellも全員参加よ!全面戦争だわ!」
真凛ちゃんとBreak Bellのベーシスト、あゆみちゃんのせいでとんでもない事になろうとしていた。
「真凛!貴女って人は本当に!本当に!バカがバカを着て歩いてますの!?わたくしももちろん、天音をそんな全国放送に出演させる訳にはいかないじゃないですの!」
「え?何で?一気に有名人になるチャンスじゃん?」
「すずかー、何であまねも?すずかは何となくって気もするけど警戒し過ぎじゃない?あたしは面白い事になりそうだし出演するのさんせー」
「私はあんまり乗り気じゃないけど、みんなが出てもいいって言うなら出るよって感じかな。みんなが出るのに私だけ出ない事になるのは寂しいし」
「私も反対ね、ネット番組とはいえ、全国放送なら結月のいう音楽で勝負して出たいと思うわ」
「私は出てもいいと思うよ?私達がファントムの方達と仲良くなれるチャンスでもあるし。あゆみみたいに敵対する為にってんなら反対だけどさ」
各々の意見は違っていた。
確かに夏希ちゃんの言うように、ファントムの方達と仲良くなるチャンスではある。
私が入学したての頃にgamutに誘ってくれていた佐倉先輩ともゆっくりお話するチャンスでもあるし。
で、でも全国放送で顔を出す事になるんだもんね…。
「確かに…。私達はまだまだ駆け出しだし、バンドとしても初心者。音楽で勝負したいって気持ちだけでは、前に進めない事もあるし、夏希の言う事にも一理あるわね」
「よっしゃー!ことこんも賛成派になったし、賛成派5に反対3で中立1!過半数取れたしこれはもう出演っしょ!」
「大沢さん?私は別に賛成って訳ではないわよ。メリットもあると思っただけで」
「てか、すずは何で反対なん?すずの事情もわかってはいるつもりだけどさ?らんらんの言う通り警戒し過ぎじゃね?あまねるの事も大丈夫だと思うし」
「そーそー。それにこれを機にあたしら有名になって、全国の猛者からデュエル申し込まれるかも知れないし。考えただけでワクワクするじゃん?」
え!?全国の猛者からデュエル申し込まれるの!?
さすがに企画番組に出るだけだし、そんな事態にはならないと思うけど…。うぅ…お腹痛くなってきた…。
「確かに。わたくしもわたくし自身の事に関しては警戒し過ぎでしょうし、正直わたくしの懸念するような事にはならないと思ってますわ」
「だったら問題なくね?」
「本当に貴女はおバカの世界チャンピオンですわね。企画番組って事ですから、曲を披露する事もないでしょうし、蘭がワクテカしているようなデュエルを申し込まれるような事態にもならないと思ってますわ」
「えー、ざんねーん。だったらすずかは何を問題視してるの?」
「何で蘭もわかりませんの!?ネット配信とはいえ全国放送ですのよ!?そんな番組に天音が出てごらんなさい!デュエルの申し込みどころか全国から求婚者が集まってきてしまいますわ!」
うぅ…ん、お腹痛い。あれ?何かすずちゃん私の事言ってる?なんだろ?
「…って事は反対派はうちもボーカルのあまねるだけか」
「あまねの説得は骨が折れそうだよね」
え?あれ?私がお腹痛くて苦しんでる間にすずちゃんは賛成派になったの?
「ちょっと!何でわたくしの意見を無視しますの!?」
「ようはあれっしょ?そんな奴らが来てもあまねるの横はすずの場所ってみんなにアピール出来て、名実共に公認の仲になるチャンスって事っしょ?」
「名実共に…公認の仲…?」
「それにー。公開収録って事は撮影される訳じゃん?ネット配信ならアーカイブないとすぐ消えちゃうけど、あたしらノーカットのDVDとか何か貰えるんじゃない?
あまねとか絶対緊張するだろうし、とちったり恥ずかしがってる映像とか観放題になるよねー」
「セリフを噛んだり、恥ずかしがりながらカメラに向かって上目遣いで照れる天音を独占…?」
「いやー、そこまでは言ってないんだけどなー」
「真凛さんも蘭さんも、涼風さんの扱い上手くなってきたよね」
「まぁ、こんだけ一緒に居るし?」
「すずかがわかりやすいだけー。あまねの説得方法は思い付かないし」
「うぅ…す、すずちゃんも賛成派になったの?って事は輝美ちゃんも?」
「あ、わ、私もみんなが出るならって感じかな?あはは…。それに天音さんも、真凛さんだけならともかく、蘭さんまで賛成してるんだから、反対しても無駄だってわかってるでしょ?」
「うっ…確かにそうだけど…」
私が腹痛に襲われている間に、反対派だったすずちゃんも賛成派になりそうになっていて…。
後は結月ちゃんに任せるしかないのかな?って思っていた時、なかなかみんなで賛成しない私達を見かねてか、黒服の女性の方はこう言った。
「皆様、先程の説明の際には省かせて頂いたのですが、皆様に配らせていただいた契約書をご覧になって下さい。きっと考えも変わると思います」
「契約書?あたしはそんなの交わさなくても出演オッケーなんだけど……って、え?これマジ?」
「しかし…天音との婚姻の約束を全国に配信して逃げられないように出来て、かつ、天音の恥じらう顔を独占出来るとはいえ、明日と明後日は土曜からの決勝トーナメントの為にバイトに入っていますし…。店長からはしばらく休みでもいいと言っていただいてますが、それだと手取りが…」
「すずかーすずかー」
「蘭?何ですの?わたくしは今、わたくしの幸せを取るか家族の安寧を得るかの考えで忙しいのですけど?」
「企画番組に出たらバンドに対して謝礼金として5万円貰えるらしいよー。あたしら5人バンドだし1人1万だね。
すずかが今この場で出演オッケーしてくれたら、あたしとまりんの謝礼金はすずかにあげるー。企画番組出たらすずかは3万貰えるよ?」
「さ、さんまんえんですって!?」
「あ、私も別にどっちかに決まってくれたらいいし、謝礼金とかいいから涼風さんに貰ってもらっていいよ」
「よ、よんまんえん!?」
「マジか。あたしはこの謝礼金も欲しかったけど…うぅん…、でも番組出れるようになる方がいいか。よし、あまねるー。あまねるも謝礼金とかいらないっしょ?タカさんに会える方がいいだろし。あまねるの分もすずにあげちゃっていいよね?」
「ふぇ?お金?」
お金は大切だけど、そんな番組に出させて貰えるならってのはあるし、別に謝礼金はいらないけど…。
「わ、私もいいよ?ただお金ってよりは、私が番組に出る事になるって方が問題だし…」
「って訳でさ、すず。この場で出演オッケーしたら5万総取りだよ?」
「で…出ま…す。出ますわ…」
「イエーイ。後はあまねだけだよー」
うっ…、ファントムの番組なら出たいと思うし、出して貰えるなら最高なんだけど…。た、助けて結月ちゃん。
「…ねぇ、この出演の謝礼金ってのは、あたし的には別にどうでもいいんだけどさ。この出演の特典。これもマジなの?」
「はい。その契約書には一切、虚言はございません。そこに記載されている特典は必ずの約束として果たさせていただきます」
「これがマジだったら…出る。あたしらBreak Bellは全員参加で問題ないよ」
ふぇ!?ゆ、結月ちゃん!?
「え?マジなの?結月も出るってんなら、あたし的にはありがたいけど…」
「んー…あ、これか。なるほど、結月にはこれ以上ないってくらいの特典だわ」
「なるほどね。私も参加の賛成派になった訳ではなかったのだけど…この特典は私達には願ってもない特典ね。いいわ、私も賛成派よ」
こ、琴子ちゃんも?
「天音、お腹痛そうにしてるのに悪いけどさ、ここ、読んでみて」
ゆ、結月ちゃん?
「えっ…と…、『この番組に出演を快諾いただいた場合、12月に行われるファントムギグの……』オープニングアクト!?」
「そ、あたしらもファントムギグが開催されるって聞いて楽しみにしてたじゃん?」
「うん!うん!チケット販売が開始されたらすぐ買いに行こうって…!」
「そんなファントムギグのさ。オープニングアクトをさせて貰えるなら出ないって理由はないでしょ」
「も、もちろんだよ!」
私の胸は一気に高鳴った。
ファントムギグのオープニングアクトでも、参加させて貰えるなら、タカさんや渚さん、江口さんや一瀬さんや佐倉先輩とも同じステージに立たせて貰えるって事だし。
「おや?それでは本城様も出演には快諾して頂けるという事でよろしいですか?」
「は、はい!あの…その番組っていうのは、恥ずかしいし、上手くやれるのか自信はないですけど…。ぜ、是非、やらせて欲しいです!」
「天音、もう一度その恥ずかしいし…からのセリフを言っていただけませんか?うっかり録音するのを失念していましたわ」
「え?すずちゃん?録音?」
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長い。長いよ私の回想シーン。
黒服の方達にも、一応これは余興だから緊張せずに気楽に参加して下さいとか言われたけど、昨日貰った台本には『周年記念』とか書いてあるし…。
それにこれ大まかな流れだけで、セリフは割とアドリブっぽいし…。私大丈夫かな?
「あら?天音、おはよう。朝ごはんはどうする?ご飯にする?それともパンにする?」
「あ、お母さんおはよう。今日はパンにしとこうかな」
「わかったわ。じゃあコーヒーでも紅茶でも好きな方入れてテーブルで待ってて」
「うん、ありがとう」
お母さんと毎朝恒例の挨拶を交わし、私は紅茶を入れてテーブルについた。
「ふぁぁぁ、お、天音おはよう。今日は天音の方が早かったか。もしかして今日の撮影にビビってゆっくり眠れなかったか?」
「お父さんおはよう。そんなんじゃないよ。ちょっと、撮影は緊張してるけど…」
いつもは私より早いお父さんもリビングに来た。
私が登校する時間より少し早目に家を出るお父さんは、いつもは私が起きてリビングに来る時間には、朝ごはんを食べているんだけど、今日は私が早起きしたから…。
「天音は今朝もパンかな?母さん、僕も今朝はパンにしとくよ」
「はいはい。わかりました」
朝は私が起きて来るのが遅いから、ゆっくり家族で話す時間は夕御飯の時しかないけど、たまにはこうやって朝ごはんを囲むのもいいな。
「とうとう天音もファントムのミュージシャンとしてデビューか。今夜は寿司でもとろうか?」
-ブホッ
「ケホッ、ケホッ、お、お父さん!?わ、私、別にファントムのミュージシャンとしてデビューする訳じゃないし…。ただ、皆さんのやる番組のゲストに呼んでいただいただけで…」
「あのBREEZEのTAKAの射手座のレガリアの継承者という凄い存在に、あのBREEZEの三咲さんに見初めていただいて、私達と嬉しくてあの日の夜もご馳走にしたものね。そして今日はBREEZEのドラマーであるEIJIさんの…」
「待って待って!お母さんも待ってよ。ほ、本当に大した事じゃない…から…。凄い事だとは思うけど…」
「僕は天音がこうやって音楽をやってくれているのが、本当に嬉しいんだ。天音が音楽をやって、それもあのBREEZEやArtemisとお近づきになれたのは、本当に運命だと思ってる」
「お父さん…」
「私もよ、天音。天音は音楽の才能がある。だから、昔は嫌な事もさせられてたのだろうけど…」
「お母さん…」
「ハハハ、せっかくの天音の門出の朝なのにちょっと湿っぽくなっちゃったな。母さん、僕はコーヒーをお願い」
「もう!コーヒーぐらい自分で煎れて下さいよ。…ちょっと待ってて下さい」
お父さんとお母さんは私が人前で歌えなかった時、特に音楽の事や昔の事を話す事はなかった。
だけど私が1人でこっそり歌っているのは知っていたみたいで…。
私が三咲さんに射手座のレガリアを託してもらった日、私は歌が歌いたい事、でも人前で歌うのはやっぱり怖いという事。そして、それでも射手座のレガリアを継承していた人達。
大神さんやタカさんのようになりたいと思った事も打ち明けた。
「お父さん…ちょっといいかな?」
「ん?なんだ?お小遣いアップの交渉かい?」
「あ、いや…そういうのじゃなくて…。お、お父さんは私がファントムの方達…。BREEZEの皆さんやArtemisの皆さんと仲良くするのって…その…」
「なんだ、何かと思ったらそんな事を考えてたのか」
「いや…別にそういう訳じゃないけど…。その…ふと気になったから」
そして私がその事を打ち明けた日。
お父さんとお母さんは昔の事、音楽の事、私の本当の父親の事を話してくれた。
父の事は断片的にしか覚えていないし、私のお父さんは、私をここまで育ててくれた目の前にいるお父さんだと思っているから、あんまり聞きたい話じゃなかったけど…。
「…お父さん。いや、このお父さんっていうのは天音の本当のお父さんの事だけど、あの人の事を話すつもりかい?」
「そ!そんなの話す訳ないよ!もし、お父さんの事とか聞かれたら…私は今の私のお父さんの事を話すし…。あ、でも、お父さんがそれがダメって言うなら話さないけど…」
「そうか…。僕の事なら別に話してくれても構わないよ。相手のSCARLETには手塚さんも居るし、あの秋月グループのご令嬢も居る。BREEZEやArtemisと会った事はないけど、僕がクリムゾンエンターテイメントのミュージシャンだった事がバレるのも時間の問題だろうしね。そうなった場合、天音に迷惑が掛かるかもと思うともどかしいけどね」
「そ、そんなの関係ないよ!お、お父さんは確かにクリムゾンエンターテイメントの凄い人だったのかも知れないけど…今はクリムゾンエンターテイメントじゃないし、普通の会社員だし…」
「そうね。お父さんは考え過ぎよね。自意識過剰っていうか…。天音のバンドの子達もその事は気にもしてないし、クリムゾンエンターテイメントのミュージシャンとはいっても、名前もバンド名も許されてなかった下っ端だったじゃない」
そう。お父さんはクリムゾンエンターテイメントで、デュエルギグ戦闘員や騎士や暗殺者、将軍のような役職に就いていたらしい。どの役職かは教えてもらえなかったけど…。
BREEZEやArtemisどころか、アルテミスの矢の人達ともデュエルすら出来なかったみたいだけど、クリムゾンエンターテイメントのミュージシャンだったという事で、いつも私を気遣ってくれている。
「ほ、僕だって当時は頑張ってたんだよ!?そ、そりゃパッとしないミュージシャンだっけど…」
「お父さんがそんな事を気にしてたら、名前を許されていた私は…もっとじゃない…」
「いや、お母さんはただの事務員だったじゃないか。ミュージシャンじゃないし、そりゃ事務員だから名前は普通に許されてるでしょ」
そうなんだよね。
お母さんも元クリムゾンエンターテイメントの人間だ。
そしてもちろん私の本当の父親も…。
「それで天音は僕とお母さんが元クリムゾンエンターテイメントだから、ファントムの方達に嫌われるかもって心配してるのかい?」
「ち、違うよ!そういうのじゃなくて!
ファントムの皆さんは多分そんな事で変な事になったりしないと思うし、もしそんな事になったりしても、私はお父さんとお母さんが大好きだから…私には問題ではないし」
「お母さん…天音が…僕とお母さんの事を大好きって…うぅ…グス」
「お父さん、泣くのは天音の話が終わってからにしましょう?」
え?ちょっと…そ、それくらいで泣いちゃうの!?
私、割と普段からお父さんもお母さんも大好きって言ってると思うんだけど…!
「そ、それでね。今日の番組ってネット配信だから…、その全国に放送されちゃうし、もし、お父さんとお母さんの事が放送されて…職場に迷惑掛かっちゃったりしたらって…」
「そんな事心配してたのか」
「いや…心配って程でもないけど…」
「天音もお父さんの影響受け過ぎね。余計な心配し過ぎよ。別にお父さんとお母さんの事は気にしなくていいわ。それに私はただの事務員だし、お父さんは名前も顔出しも許されてなかったんだもの。天音から私やお父さんの事がバレたりなんてあり得ないと思うわ」
「そうだよ、天音。さっきも言ったけど、天音が音楽をやってくれて僕は本当に嬉しいんだ。そして、あのBREEZEやArtemisの方達と親しくなれるのなら、こんなに嬉しい事はないさ。僕はクリムゾンの人間だったけど、ONLY BLOODの大ファンだったからね」
お父さん…お母さん…。
「うん、ありがとう」
その後は音楽の話をお父さんもお母さんも出さず、文化祭の事とか、学校の勉強の事、そういった他愛のない話をして朝ごはんの時間は終わった。
「そ、それじゃ行ってきます!」
「ハハハ、頑張ってこいよ。今日の公開収録には行けないけど、土曜日の決勝トーナメントには僕もお母さんも応援に行くから」
「気を付けて行ってくるのよ」
「お、お父さんとお母さんに観られるのも少し恥ずかしいけど…。うん、今日も決勝トーナメントも頑張る」
この合同文化祭が始まってから、ううん、合同文化祭のライブ大会に出ると決めた時から毎日している会話。
決勝トーナメントは応援に来てくれる。
私は決勝トーナメントに出場出来るように頑張る。
決勝トーナメントには出れる事になったし、こないだ初ライブの前は怖くなって逃げちゃったけど…。
私はもう逃げたりせずに頑張るんだ。
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「お母さん、お母さんはファントムの方達は天音の本当のお父さんの事を知っていると思う?」
「知られていない。
そう思っているわ。私がお父さんとの結婚は再婚で、天音は連れ子だとは気付かれてるでしょうけど」
「天音は本当のお父さんの事を…ファントムの方達に話さないつもりかな」
「天音にとってはお父さんはあなたな訳だし、わざわざ話さないでしょうね。あの子の性格上」
「ハハハ、そうだろうね。真凛ちゃんか結月ちゃんがポロッと話してくれたらいいんだけど…」
「あの子達も天然さんだけど、そういった事は口が裂けても言わないでしょうね」
「本当のお父さんの事を話した方が、あの子の為になると思うんだけどね」
「そうね…その方がきっと…」
「もし、あの子達Amaterasuや結月ちゃん達Break Bellの音楽を、クリムゾンエンターテイメントの連中が邪魔をするようなら、僕はあの子達を守る為にまた音楽をやるよ。許してくれるかい?」
「デュエルギグ干支まで登り詰めたのに、私と天音を連れて逃げてくれたあなたに、私はどこまでもついて行きますよ」
「それが天音のお父さんの望みでもあったからね。彼に託されたキミと天音は絶対に守るよ」