バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第16話 文化祭ライブ大会決勝リーグへ

この話のサブタイトル長いな。

あたしはやっと本編に戻って来れたという気持ちと、周年記念ではあたしのモノローグだったのに、痛い思いも怖い思いもする事がなくて安堵していた。

 

あたしの名前は雨宮 志保。

Divalというバンドのリードギターを担当しているが、あたし達Divalで高校生なのはあたしだけ。

文化祭のライブ大会には、現役のJKしか参加が出来ない事から、あたしは学校の仲間と即席バンドを結成して参加している。

 

まぁ、即席バンドと言っても、澄香さんの企画バンドのベースボーカルの美緒が抜けて、茅野先輩を助っ人ベーシストとし加入してもらっただけだけど。あ、歌うのはあたしね。

 

今日はそんな文化祭のライブ大会の決勝リーグが開催される。

決勝リーグに参加するバンドは16組。

今日の1回戦で8バンドが敗退し、2回戦で4バンドが敗退する。

そして、明日の準決勝、決勝を制したバンドが、今年のライブ大会の優勝バンドとして賞される。

 

準決勝の後には3位に決定戦もあるけど、あたし達の目標は優勝だ。

今日のあたし達の1回戦の相手は、美緒達のGlitter Melodyだから、いきなり強敵だけどね。

 

あたしは制服に着替え学校へ向かう準備を整えた。

そして自室を出てリビングへと向かう。

 

……なのにどうしてあたしの目の前には、いつもの朝と違う風景が広がっているんだろう?

 

あたしが今住んでいる所は、Divalのサブギター兼ボーカリストである渚の家だ。

だから、リビングに渚が居ても何も驚く事はない。

例えいつも寝坊する渚が、あたしより早く起きてリビングに居たとしてもだ。

たまにはそんな日もあるだろう。そう思って終わるだけ。

 

だけど、その横にはDivalのベーシストである理奈も立っていた。

理奈は割りと家に遊びに来てくれるし、いつも一緒の事が多い。だから、ここに理奈が居ても不思議という程の事ではない。たまにはそんな日もあるだろう。そう思って終わるだけ。

 

しかし、リビングの脇にあるソファー。

そこにはDivalのドラマーである香菜がうつ伏せで寝ながら『ウゥ…ウゥ…』と苦しそうに唸っている。

香菜も暇があれば家に遊びに来てくれるし、いつも一緒の事が多い。だから、この場に香菜が居るだけなら不思議には思わなかっただろう。なのに何で苦しそうに唸っているの?

 

そしていつもの朝と違う決定的な部分。

あたし達Divalが集まる時は、リビングのテーブルとは別にある、ちゃぶ台代わりに使っているコタツ(コタツ布団無し)を囲んで飲食をしている。

酒を飲み過ぎたあたし以外の成人ズが、いつでもすぐ横になれるように。

 

あたしが自分の目を疑ったのは、そのコタツの上に無数の暗黒物質(ダークマター)が所狭しと置かれているからだった。

ちなみにリビングに来た途端、刺激臭とも言えるような何とも言えない臭いが充満している事にも気付いた。

 

……いや、あたしは何も見ていない。

何も気付いていない。

学校へ向かうにはまだ早い時間だけど、あたしはこのまま無言のまま、学校へと向かう事にした。

 

「あ、志保。やっと起きたんだね。おはよう~」

 

「志保、おはよう。

今日は少しゆっくりなのね。そろそろ呼びに行こうと思っていたところよ」

 

「ウゥ…シホ…ニ…ニゲテ。ヤッパ…ゴメ…タ…タスケ…テ」

 

あたしは何も見ていない。聞いていない。

渚と理奈には悪いけど、あたしは徹底的に無視する事に決めた。

だってただでさえ不穏なのに、香菜はあたしに逃げてとか言ってるもん。他にも何か言ってるみたいだけど、半角カナだから読み辛くてわからないよ。ごめんね、香菜。

 

あたしは普段はスマホで時間を確認するから、腕時計なんか着けてないんだけど、わざとらしく腕時計を見るそぶりを見せて独り言を呟いた。

 

「あちゃー。ちょっとゆっくりし過ぎたかな?ダッシュで学校向かわないと遅刻しちゃいそうだよ」

 

「え?あれ?もうそんな時間?」

 

「まだ7時半前よ?時間には全然余裕あるはずなのだけれど…」

 

「エ?ヤッパ、シホニゲチャウ?ア…アタシ…ミステラレ…タ?」

 

あたしはとても焦っている。

そんな素振り見せながらリビングから逃げ…離れようとした。ごめんね、香菜。

 

「まだ全然時間あるじゃん!ちゃんと朝御飯食べないとダメだよ志保!1日のスタートは朝御飯からだよ!」

 

「そうね。それに美緒ちゃんから聞いているのだけど、今日のライブ大会参加者の集合時間は9時30分でしょ?ゆっくり朝御飯を食べても余裕で間に合うわ」

 

「ア…ヤバイ…オナカイタイ…トイレ…イキタイノニ…ウゴケ…ナイ…」

 

何が『1日のスタートは朝御飯からだよ』よ!?

渚って仕事のある日は朝御飯食べないじゃん!ギリギリまで寝てるからだけど!

ってか、理奈も何で集合時間を把握してるの!?美緒に聞いているとか手回し良すぎない!?

香菜ごめんね、何とかトイレまで頑張って!

 

「全く…江口達にも困ったものよね。あたしはライブ大会で忙しいっていうのに、クラスの催し物の準備を手伝ってとかさ。やれやれ、早目に学校に行かなきゃだよ」

 

あたしはクラスの催し物の準備をするという理由をでっち上げた。これも独り言を言ってる素振りしてるんだけど。

 

あたしは現役の学生で、今日は文化祭。

さすがに文化祭の催し物の準備ってんだから、引き止められる事はないでしょ。

 

「あれ?渉くん達は別に志保に手伝ってもらう事はないって言ってたよね?」

 

「ええ。クラスの催し物の準備は昨日のうちに終わっているはずよ。渉くんだけじゃなく、拓実くんにもクラスの担任の先生にも確認済みだわ」

 

「トイレヘ!…トイレヘ!…イキサエスレバッ!」

 

本当に手回し良すぎない!?

江口や内山どころか担任の先生にまで確認してんの!?

担任の先生なんて名前すら出てきてないよ!?明日香が転校して来た時に台詞あっただけじゃん!

 

「って訳でさ志保」

 

渚にガシッと右肩を掴まれた。

 

「私達がせっかく朝御飯を作ったんだから、是非食べて行ってちょうだい」

 

理奈にガシッと左肩を掴まれた。

 

そうか。あたしは逃げられないんだね。

 

「あ…あはは、おはよう…渚、理奈…」

 

「うん(ええ)、おはよう」

 

 

 

 

あたしは覚悟を決めて、力一杯に渚と理奈を振りほどいて逃げようと試みたけど、あの2人の握力どうなってんの!?って思った。

あたしは力一杯に逃げようとしたのにびくともしなかったんだもん。

 

そして結局観念したあたしは、暗黒物質が並べられたコタツの前に座った。というか座らされた。

 

「今日は大事なライブ大会の決勝リーグだからね!志保には精をつけてもらって優勝してもらわなきゃね!」

 

「そうね。Divalでの参加ではないとはいえ、志保は私達Divalのギタリスト。私達が最高のバンドになる為にも、志保には優勝してもらいたい。最初の相手はGlitter Melodyだもの。朝御飯をしっかりと食べてライブ大会に備えてもらいたいわ」

 

「あのさ?あたしって何か粗相した?渚と理奈の逆鱗に触れるような事しちゃいましたかね?と、取り敢えず謝ろうか?」

 

「志保は何を言ってるの?」

 

「あなた…何か私達が怒るような事をしたの?」

 

あー。何かの罰ゲームか嫌がらせかと思ったけど、そうじゃないのかな?本当にただ渚と理奈で朝御飯を作ってあたしを激励してくれてるだけ?

いやいやいや、いつも2人には台所に立つなって言ってるのに、料理してる時点で嫌がらせじゃん。

 

…ハァ。でも一応好意なのかな。

取り敢えず1口だけ舐める程度にだけ食べてみようか。

明日香、栞、茅野先輩…あたし今日ライブ大会に行けなくて病院に運ばれる事になったらごめん…。

 

あたしは意を決して箸を掴んだ。

…どれなら食べてもダメージないだろう?どれ食べても胃袋に痛恨の一撃をくらう気がする。

 

あたしはまず目の前にある紫色の湯気を立てている暗黒物質に目をやった。本当に何これ。

 

「ね、ねぇ…ちょっと聞きたいんだけどさ?これ何?」

 

「あ、それは理奈が作った…」

 

「だし巻き玉子よ。志保はだし巻き玉子好きでしょう?」

 

だし巻き玉子って黒くないし、紫色の湯気も出ないんだけど…。あたしは箸でだし巻き玉子と呼ばれるモノを掴もうとした。

 

-グニョ

 

「ヒィ!?」

 

「どうしたの?」

 

「どうかしたかしら?」

 

「こ、これ掴もうとしたら、めちゃくちゃグニョってしたんだけど?」

 

「グニョ?」

 

「ちょっと焼きすぎたかもしれないわね」

 

焼きすぎて何でこんなグニョグニョの柔らかい物質が出来上がるの!?材料は卵だよね!?

普通は焼きすぎたら固くならない!?

 

いきなり心が折れてしまった。

1口目にこれを口に入れるのは無理だ。

 

そしてその横にある焼き魚みたいな物体に目をやった。

……魚だよね?

何で魚がこんな苦悶の表情をしているの?こんな苦しそうな顔をした焼き魚なんて生まれて初めて見るんだけど。

っていうかこれ本当に魚?スマホで写真検索したら出てくるかな?

 

「ち、ちなみにこれは何?」

 

「ああ、それは渚が作った…」

 

「尾頭付きの鯛だよ。あはは、ただ焼いただけなんだけどね」

 

ヘェー、これって鯛なんだ?

あたしの知ってる鯛とは色も形も違うや。

…ただ焼いただけでこんな苦悶の表情になるんだ?

 

どうしよう…これも口に入れるのが怖い。

あたしはその鯛と呼ばれるモノに箸をつけた。

 

『ギョワァァァァァァ!!』

 

「ヒィ!?」

 

いきなり悲鳴をあげた鯛と呼ばれるモノに驚き、あたしも悲鳴をあげてしまった。

 

「え?どうしたの?」

 

「志保?いきなり悲鳴をあげて…どうしたというの?」

 

「い!いや!今の聞いたでしょ!?この魚!あたしが箸をつけたら悲鳴をあげたじゃん!」

 

「へ?悲鳴?」

 

「悲鳴をあげたのは志保でしょう?何を言ってるの?」

 

「いやいやいや!この魚いきなり『ギョワァァァァァァ!!』って!」

 

「あのさ?志保…大丈夫?」

 

「焼き魚が悲鳴をあげるわけないじゃない。もしかしたらだけど、今日のライブ大会の緊張でおかしくなってるのかしら?」

 

え?今の悲鳴って渚にも理奈にも聞こえてないの?

あたしはもう1度、鯛と呼ばれる魚を見てみた。

 

…確かに微動だにしないし、箸でつついても声も出さない。あれ?あたしがおかしいの?

 

「ねぇ…理奈。志保ってもしかしたらさ?」

 

「ええ。きっとそうね。まぁ、これまでの事を考えたら無理もないのかもしれないわね」

 

え?何が?

何がきっとそうなの?

 

「志保。私と理奈が作った料理って事で、不安に思ったり警戒してるのかも知れないけどさ?」

 

「私達も日々料理の特訓はしているのよ?まぁ…確かに見た目は美味しそうとは言えないのだけれど…」

 

「そだよ。奈緒に教わりながらね。それに今日はちゃんと味み……毒見もしたし」

 

「何故わざわざ味見から毒見に言い直したのかしら?」

 

あ、そうなんだ?

ちゃんと毒見もしてるなら大丈夫なのかな?

だし巻き玉子と呼ばれる暗黒物質はぶにょぶにょしているし、鯛と呼ばれるモノはいきなり悲鳴をあげたりもしたけど、もしかしたら、それはあたしがこれは渚と理奈の料理だって思っているからの、先入観と恐怖心による錯覚なのかもしれない。

 

…そうだよね。

あたしがおかしかったんだ。

渚も理奈も毒見をしても、今は目の前に元気にいるし、渚もあたしと暮らす前は自炊もしてたんだしね。

ご飯に焼き肉のタレをかけるだけの料理だけど。

 

香菜もぐったりしてたのは、この料理のせいじゃないかもだしね。

 

「私達が大事なライブ大会の前にヤバいモノ食べさせる訳ないじゃん」

 

「そうね。自画自賛しているように聞こえるでしょうけど、今日は一生懸命作ったし自信作よ」

 

そうだったんだね。

あたしはさっきまでの自分が嫌になる。

こんな優しい眼差しと声で、あたしを労おうとしてくれる渚と理奈に、何て失礼な態度を取っていたんだろう。

 

あたしは意を決して暗黒物質に箸を伸ばした。

 

-グニョ

 

相変わらずグニョグニョしている。

だけど、これは理奈があたしを想って一生懸命作ってくれた自信作。

 

あたしはこれを食べないと死ぬんだ。

あたしはこれを食べないと死ぬんだ。

 

そう自分に暗示をかけながら、その暗黒物質を口に入れた。いや、一生懸命作ってくれたと言っても自分に暗示をかけながらじゃないと、このグニョグニョしたのは無理。

 

あたしは口に入れた暗黒物質を咀嚼する。

 

うっわぁ…本当に何これ?

口の中に一気に独特の風味が広がり、相変わらず口の中でグニョグニョしている。

確かに食べれない事はない。だけど出来れば今後一生口に入れたくない。

 

そう思うような何とも言えない感覚があたしに襲いかかってきていた。

 

-ゴクン

 

何度噛んでもグニョグニョがなくなる事はない、謎の暗黒物質をあたしは無理矢理呑み込んだ。

喉元と食道を通っていく感覚が、もはや恐怖以外の何も感じられない。

 

「どうかしら?」

 

何で今日はそんな優しい顔と声で聞いてくるの?

あたしは正直に答えるのは、そんな理奈に悪いような気がして、かと言ってまたこれを作られたら溜まったもんじゃないという思いから無難な答えを選んだ。

 

「た、食べれない事はないよ。ありがとう。

ただ味付けはあたしの好みとは違ったかな?」

 

「そう。残念だわ。次はもう少しスパイスを効かせた方がいいかも知れないわね」

 

もう少しのスパイスでどうにかなるモノじゃないと思うけどね…。

 

そして次は渚の焼き魚に箸をつける。

 

『グァァァァ…』

 

聞こえた。絶対この魚から悲鳴が聞こえた。

でも、渚も理奈もそんな悲鳴は聞こえていないご様子。

あたしはまた自分に暗示をかけながら、その焼き魚を口に入れた。

 

くっっっっっっさ!!!!何これ!!?

絶対鯛じゃないし!!

 

あたしは吐き出しそうになるのを我慢しながら、ゆっくり咀嚼する。

早く呑み込んで終わらせたい。

 

「どうかな?焼き加減とかそれで大丈夫かな?って心配だったんだけど」

 

あたしは焼き加減どうこうより、この魚は絶対に鯛じゃないという事の方が…。

 

-ゴクン

 

やっと呑み込めた。

呑み込んだのに口の中に変な違和感と臭気が…。

うん、ヤバい。自分で自分から出る息が臭いって思うレベルだもん。

…あたしこれ呑み込んじゃったよ?大丈夫?

 

「あ、あはは、2人共ありがとうね。あたしやっぱりライブ大会前で緊張してるのかな?これ以上はちょっと食べれそうにないや。胸かいっぱいって言うか…」

 

取り敢えず緊張して食べ物が喉を通らない事にしよう。

あたしはこれ以上は無理と思い、2人にはそういう言い訳を即座に考えて伝えた。

 

他にも謎の物質や液体が並べられているけど、もうさすがに無理。何で渚も理奈も毒見したのに平気そうにしてるの?

 

「あ、そういやさ?ここには色んな料理が並べられてるけどさ?渚と理奈はどれが美味しかったと思った?」

 

あたしはそんな質問をしてしまった。

だってさすがにさっきの2品はヤバいもん。

毒見をしたって事はもしかしたら他の料理は美味しかったかもだし。

ただの興味本位だけど、美味しかったモノがあるのだとしたら、あたしはそれを食べてみたい。口直しに。

だってさっきからあたしが喋る度に、くっっっさ!って思うくらい、あたしの口臭ヤバいし。

 

「ああ、それね。私達は食べてないよ」

 

え?私達は…食べてない…?

 

「え?食べてないってどういう事の?毒……味見したんだよね?」

 

「私が言うのも何だけど、志保も毒見って言おうとした?」

 

「渚はいつも寝坊するから朝は食べない派だし、私も最近はお酒の場が多くなって、ちょっと脇腹あたりが気になりだしたから朝は食べないようにしているのよ。本当は夜を控える方がいいんでしょうけど」

 

ちょっと待ってよ!

渚の朝は食べない派って何よ!

早起きした日は朝も食べてるじゃん!寝坊した日でもたまに近所のコンビニでパン買って食べてるじゃん!

さっきの1日の始まりは朝御飯って何!?ただ言ってみただけ!?

 

理奈も理奈だよ?

お酒の場が増えて脇腹が気になってるなら、お酒を控えたらいいじゃん!

ってか本当に2人共何を言ってるの!?毒見したんでしょ!?

 

「あ、あのさ?渚も理奈も味見したって言ってたじゃん?」

 

「うん、したよ」

 

「ええ、したわよ」

 

「でもさっき…私達は食べてないって…」

 

「「だから、味見は香菜がしたよ(わよ)」」

 

あかん、終わった。

さようならあたしのお腹。

 

香菜ってさっきから半角カナでしか喋れなくなってるし、めちゃくちゃ唸ってたじゃん!

しかもさっきトイレに入ってから全然出てこないじゃん!あ、自称乙女なのにトイレに籠ってるとかバラしてごめんね、香菜。

 

「…それで今、香菜はどうなってる?」

 

「…味見頼みすぎたかもしれないね。結構食べさせちゃったかも」

 

「そうね。意気込み過ぎて品数が多くなってしまったわね。香菜も朝からあの量はキツかったのだと思うわ」

 

「食べ過ぎちゃうとお腹しんどくなるし、動きたくなくなるもんね」

 

「そうね。私も恥ずかしいけれど経験があるわ。でもつい食べ過ぎちゃうのよね。いつも後悔するのだけれど」

 

そう言って笑い合う2人。

…香菜とあたしにとっては笑い事じゃないんだけど!?

 

そう思った直後、あたしのお腹はギュルギュルギュルと、ベースよりも低音域の音が鳴り出し、あたしは一刻も早くトイレに入りたいと思うのだった。

 

カナ…ハヤクデテキテ…。

 

 

 

 

 

 

「やっと…やっと着いた…」

 

あたしはやっと学校に辿り着く事が出来た。

あたしの学校なら行きなれてるし、ルートもトイレのある場所も把握はしているんだけど、今日からの決勝大会の場所は美緒達の通う学校だ。

 

何度かトイレに行きたい衝動に襲われながらも、何とか辿り着く事が出来たけど、美緒達の学校ってこんなに遠かったっけ?と思う程あたしは切羽詰まっていた。

何度か来た事もあるんだけど…。

 

あ、どうしよ…またトイレに行きたい。でも走る訳には…走っちゃうと出ちゃいそうだし…。

何が出そうになっちゃうのかは…乙女なので言えません。

 

「取り敢えず…トイレに…」

 

あたしがトイレに向かおうとしていると、

 

「「志保(ちゃん)!」」

 

さっちと明日香があたしの方へと走ってきた。

ごめん、ちょっと待って。先にトイレへ…。

 

「志保!あんたなんでLINEの返事返さないのよ!」

 

「へ?LINE?」

 

あ、そういや文字を見ると気分悪くなって、何かを戻しそうになるからスマホはバッグに入れたままにしてたっけ。

 

「ご、ごめん。ちょっとアレがアレでさ。

えっと何かあった?……う、ごめん。先にトイレに行かせて…」

 

あたしはそそくさとトイレに行こうとしたけど、さっち右肩を、明日香に左肩を掴まれて動けなくなった。

何これデジャブ?

 

「あ、あのさ?さっちも明日香も…悪いけど先にトイレに…」

 

「そんな事より大変なんだよ志保ちゃん!」

 

「そうよ!トイレになんか行ってる場合じゃないわ!」

 

え?さっちも明日香も何を言ってるの?

大変なのはわかったから、先にトイレに行かせてよ。

トイレって大事だよ?そんな事じゃないならね?

 

「志保ちゃん、落ち着いて聞いてね」

 

「これはとんでもない事件よ」

 

-ギュルルルルル…ドゥンドゥン…

 

う、ヤバ…ヤバい。

あたしのお腹から超低音域のベースの音が…。

あたしはギタリストなのに。

 

お願い、本当にトイレに行かせて。

あたしのお腹の中でも大事件が起きてるから。

 

「じじじじじじ…実はね…」

 

「ちょっと、沙智も落ち着きなさいよ。ほら、深呼吸深呼吸。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」

 

「そそそそそそそうだね!落ち着かなきゃね!ヒッヒッフー…ヒッヒッフー…」

 

いやいやいや!落ち着いてる場合じゃないから!

あたしがトイレに行ってる間に落ち着い……あ、痛い。お腹痛い。もう無理…。

 

「は、はな…して」

 

「「ん?どうしたの志保(ちゃん)」」

 

「は…早く…は…なして…!」

 

「う、うん!今からちゃんと話すよ!」

 

「いい!志保!心して聞くのよ!?」

 

ち、違う!

あたしのは『話して』じゃなくて、その手を『離して』って事だから!え?何で2人共あたしの肩を掴む手の力が強くなってんの?

もしかして渚と理奈に送られた刺客か何かなの?

 

「「じ、実はね…!」」

 

「話なら後からちゃんと聞くから!今は離して!」

 

「……うん?後から聞くから今は話して?」

 

「何を言ってるの志保は?新手のとんち?」

 

「今はその手を離せって言ってるのぉぉぉぉ!!」

 

「「ヒィ!?」」

 

あたしの大声に驚いた2人は肩を掴んでいた手を離してくれた。あたしはその隙を見逃さず、急いでトイレへと向かうのだった。もう…悠長に歩いてなんていられない…。

 

 

 

 

あたしは無事にトイレを済ませ、何とか乙女の尊厳を守る事が出来た。

いや、さっきからトイレって連呼してるし、手遅れな気もするけど。

 

うーん…。やっぱりまだお腹に違和感あるし、少し痛い気がする。あたし今日のライブ大会マジで大丈夫かな?

 

あたしがさっき、さっちと明日香を振り払った場所に戻ると、さっちと明日香はその場であたしを待っててくれていた。大事な話って何だろ?

そういやスマホに連絡くれてるんだっけ?

 

まぁ、バッグの中から取り出すのも今更だし、さっちと明日香に聞いた方が早いでしょ。

と、いう事で2人にあたしから話し掛けた。

 

「ごめん、切羽詰まってたからさ?それで?大事な話って何?」

 

「あ、志保ちゃん。間に合ったみたいだね。良かったよ」

 

「本当にこんな大事な日にどうしたっていうのよ。めちゃくちゃ顔が青ざめてたから心配したじゃない。……今も青い顔してるけど」

 

え?あたしそんな顔が青いの?

それより青ざめた顔してトイレに行かせてくれって言ってたのに、あたしの肩をがっちり掴んでたの?

 

「そんな事よりね!」

 

いや、全然そんな事じゃないよ?

あれ?さっちにはあたしのモノローグが筒抜けなの?それなのにさっちもあたしの肩をがっちり掴んでたの?

 

「茅野先輩と栞がどうもライブ大会の時間に間に合いそうにないのよ…」

 

へぇ、そうなんだ?

……って

 

「か、茅野先輩と栞が間に合いそうにないってどういう事よ!?」

 

あ、叫んだらまたお腹が…。

ってそんな事より茅野先輩と栞が、ライブ大会に間に合いそうにないってどういう事!?

あの2人が居なかったらライブ大会に参加出来ないじゃん!!

 

「そうなんだよ。大会規定のルールで代わりのメンバーが居るなら、代役での参加も可能とはなっているんだけど…」

 

「あくまでも高校生である事。しかも女子。そしてこのライブ大会に他のバンドでエントリーしていない事。

今から代役を見つけるのは無理ね」

 

「そ、それより何で茅野先輩も栞も…」

 

「ああ、それなんだけど…」

 

明日香があたしに茅野先輩と栞が遅れそうな理由を説明しようとしてくれた時…。

 

「お?お前らどうした?」

 

「明日香、今日はお前のLazy Windじゃない音楽を楽しみにしてるぜ」

 

「てか、何かヤバそうな雰囲気じゃないかな?」

 

「ああ。志保なんて顔が真っ青だし」

 

「みんなおはよう。こんな所でどうしたの?」

 

タカと拓斗さんに続いて、トシキさんと英治さん、そして三咲さんも。BREEZEのメンバーがちょうどあたし達の前にやってきた。

 

それより何でみんな制服を着ているんだろう? 三咲さんまで…。

 

「あ、えっと実は…」

 

明日香が事情を知らないあたしとBREEZEのメンバーに説明してくれた。

 

昨日の夜、急遽、本当に急だけど、FABULOUS PERFUMEは、この地域からかなり離れた地方でライブをする事になった。

 

そのライブはFABULOUS PERFUMEがまだデビューしたての頃にお世話になったバンドさんのライブで、ゲストに呼んだバンドが出演出来なくなったからと、出演の依頼があったそうだ。

 

お世話になったバンドさんの頼みだし、今日はライブ大会があるからと葛藤してたみたいだけど、あたし達も事情を聞いてしまったし、今日のライブ大会には間に合う予定だという事。

そして何より、そのライブを楽しみにしているお客様の為に、FABULOUS PERFUMEは出演を決めて、あたし達も快く送り出した。

 

本来なら夜通し弘美さんが車を運転して朝方には戻って来れる予定だったんだけど、トラブルが起きてしまい、どうにも間に合う事は出来ないとの事だった。

ただ、トラブルが起きたのはライブ中とかじゃなくて、帰りの道中らしい。ライブ自体は大成功したそうだから本当に良かった。

 

「チ、トラブルか。遠征とかじゃたまにあるよな。しかし、ライブを楽しみにしているオーディエンスの為に…か。やるな、あいつら」

 

「そうだね。でも、それで自分達がライブ大会に出られなくなるっていうのは…辛いね」

 

「誰かに代役を頼めればいいが…。おい、タカ。栞の代役ならあいつにやらせたらいいんじゃねぇか?」

 

「え!?英治さん!誰かにあてがあるんですか!?」

 

「あいつなぁ。俺も栞の代わりならあいつでバッチリだとは思うが…嫌がりそうだよなぁ」

 

え?ドラムをやれそうなJKがタカと英治さんの知り合いに居るの?

 

「まぁ、1回頼んでみるか。あいつ自分の学校で準備してるだろうし、お前行って連れてこいよ。俺が電車で向かうよりお前が車を出した方が早いだろ。もうあんま時間ないし」

 

「そうだな。ま、行って来るか。嫌がったら無理矢理連れて来るわ」

 

そう言って英治さんは学校から出て行った。

本来に誰だろう?ファントムのメンバーにはドラムやれるJKって居ないと思うんだけど…。

 

 

 

 

そして20分程が経った。

タカ達は英治さんが誰かを迎えに行った後、『今のうちにチャッチャと仕事片付けとくか』と言って、みんなどこかに行ってしまった。

 

程なくしてからみんな戻って来たんだけど、その場には何故か元Artemisのギタリストであり、今はこの学校の教師でたる翔子さんが居た。

 

「ありがとうね。翔子ちゃんのおかげで仕事も滞りなく終わったよ」

 

「そんな…私は少しお手伝いしただけですよ。トシキさんの手際が良かったからです。…仕事をするトシキさん、すごくかっこ良かったです///」

 

「おい、拓斗。お前何か翔子に手伝ってもらった?」

 

「いや?あいつ俺が仕事してる時、ずっとスマホでトシキの写真撮ってるだけだったし」

 

「いつもの事じゃない。タカくんも拓斗くんもお仕事お疲れ様。かっこ良かったよ。なんて…私が言っても嬉しくないと思うけどね。うふふ」

 

「ああ。今は志保達が居るからこんな状態なのか」

 

「しまったな。仕事に行く時に明日香達も同行させるべきだったな。そうすりゃ英治が居ないならって余計な仕事を三咲に押し付けられる事もなかったろうに…」

 

みんな何をボソボソ話してるんだろ?

それより英治さんまだかな?もし、その子が出演してくれる事になったら、曲の事とかも打ち合わせしときたいのに。

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…!悪い少し遅くなった!待たせたな!」

 

「「「英治さん!」」」

 

まだかまだかと焦っていると、英治さんがあたし達の前にやって来てくれた。

って…ちょっと待って。英治さん1人しかいないんだけど…。やっぱりドラムの子に出演は断られたのかな?

 

「あ?お前1人かよ。やっぱりあいつ嫌がったのか?」

 

「あ、ああ。事情話してんのに、めちゃくちゃ嫌がりやがってよ。しょうがねぇから縛って麻袋に詰めて持ってきた」

 

そう言って英治さんは、重そうに担いでいた麻袋をあたし達の目の前に置いた。

 

「…えらい静かだったけど生きてるよな?」

 

英治さんが麻袋を開けると…

 

「プハァァァァ…!し、死ぬかと思った…!」

 

中から出てきたのは井上 遊太だった。

 

「おっちゃん本当に何て事してくれんのさ!僕もクラスの催し物の準備頑張ってたのに!それに栞ちゃんの代わりなんて無理って言ったでしょ!」

 

わぁ…。まさか栞の代わりに遊太を連れて来るなんて…。

そもそも遊太は男だし、遊太が変装したところで、ここには審査員のさっちも翔子さんも居るから不正ってバレるし…。

 

でも、遊太の姿で口調がシフォンってなかなかレアだね。とても良いものが見れました。

 

「お前、去年にFABULOUS PERFUMEのイオリの正体が栞だってバレそうになった時、観客席で栞に変装して事なきを得た事あるじゃん。あん時みたいに栞に扮してライブすりゃいいだけだって。背丈も変わらねぇし顔もメイクで何とかなんだろ」

 

「あの時は…栞ちゃんが焦ってたし…泣きそうだったし、仕方なくだし…」

 

へぇ、栞が焦ってて泣きそうだったから、栞に変装してあげたんだ?とても良い事が聞けました。

 

「シフォン。いや、今は遊太か。

俺からも頼む。今、明日香達もライブ大会に出れるか出れないかの瀬戸際だしよ。不正だってのは重々承知はしているが、俺は明日香に青春の思い出を少しでも作って欲しいんだ」

 

「うぅ!…た、拓斗さん…まで…。てか、明日香ちゃんの青春の為…とか…ず、ズルいよ…」

 

「もうひと押しでなんとかなりそうだな」

 

「ああ。遊太も案外ちょろいからな」

 

聞こえてる!タカも英治さんもそういうのはボソボソやり取りするべきだよ!みんなに聞こえちゃってるよ!

 

「遊くん、ダメかな?私からもお願いしたいんだけど」

 

「え?三咲さんも?なら僕に無理とか嫌とか選択肢ないじゃん。わかった。やるよ、やります」

 

何で三咲さんからのお願いなら即承諾するの?

 

「遊太は数少ない本当の三咲を知っている希少な人物だからな」

 

「ああ、知らないでいれたら遊太も幸せだったろうにな」

 

今度はタカも英治さんもボソボソと…何を話してるんだろ?

 

それから遊太はトイレに行ってくると言って、戻って来た時には、あたし達がびっくりする程に栞と瓜二つだった。まさにうり双子って感じ。

 

「見た目は栞ちゃんに寄せられても、声はさすがに無理だからね。ボクにMCとかは期待しないでよ?」

 

なるほど。男の娘になると"僕"から"ボク"になるのか。

 

「後の問題はベースだよなぁ…どうすっか」

 

「って、待てよタカ。お前らライブ大会の審査員であるあたしの目の前で不正を働いて、あたしに黙ってろって言うのかよ」

 

翔子さん…。やっぱりさすがにダメですよね…。

 

「翔子ちゃん。俺も志保ちゃん達には何とかライブ大会に参加させてあげたい。こんな事頼むのは悪いと思うし、他のバンドの子達にも申し訳ないって思うけどさ。見逃してくれないかな?」

 

「トシキさん…!わ、私は何も見てないし聞いてません。一体何の事ですか?」

 

「…!ありがとう、翔子ちゃん」

 

-バタリ

 

「え?あれ?翔子ちゃん!?」

 

ありがとう、翔子ちゃん。そう言ったトシキさんが翔子さんの手を握ると、翔子さんは鼻血を出して倒れてしまった。

翔子さんもトシキさんの頼みなら、すんなり聞いちゃうのかぁー。あたし的にはありがたいけど…。

 

「わ、私も審査員ですからね!志保ちゃん達には頑張って欲しいって、参加させてあげたいって思いますけど、井上くんは男子ですし…」

 

「あ、そういやタカ。遊太をここに連れて来る時に、渉くんに見つかっちまってな。遊太が出場するなら、文化祭投げ出してでも、こっちの応援に来るって言ってたぞ」

 

「…男子ですけど、シフォンちゃんは私的には女子ですからね。大丈夫です。問題点ありません。

もう!江口くんったら!クラスの催し物ほったらかしてこっちの応援に来るなんて!本当に来たら叱ってやらなきゃ!」

 

さっちもわかりやすくなったなぁ…。

 

「らしいぞ明日香。渉が応援に来てくれるってよ」

 

「何を言ってるの拓斗は。渉とか関係ないし。やるなら優勝目指すだけだし」

 

「ねぇ。ボクもよくわかってないんだけどさ?」

 

「は?わかってない?さっき迎えに行った時に説明してやっただろうが」

 

「違うよ!そうじゃなくて!栞ちゃんの代わりにライブ大会に出るってのはわかってるよ!何の曲やるのかは改めて聞かなきゃだけどさ」

 

あ、そうだった。

遊太にもちゃんと何の曲やるか言っておかなくちゃ。

と、言ってもさすがにあたしらで作った即興のオリジナル曲は無理だよね。

BLASTとかAvalonのバンドの曲のコピーか、BREEZEのコピーじゃないと…。

 

「そもそも栞ちゃん達は何のトラブルに合っちゃったの?遅れちゃう程のトラブルってFABULOUS PERFUMEのみんなは大丈夫なの?」

 

あ、そういやそうだ。

あたしもトラブルってだけで、どんなトラブルなのかちゃんと聞いてないや。

 

ライブは無事に成功して、帰りの車でって聞いて、ライブが成功したのは良かったって思ってたけど、もしかして事故とかだったりしたら…。

 

さっちと明日香は少し困った顔をしながら、BREEZEの面々を見た。

 

「え?俺なんかやっちゃった?」

 

「英治くん?どういう事かしら?(ニコッ」

 

「ちょっと待て三咲!冤罪だ!俺はあいつらに何かした覚えはねぇ!」

 

「トシキさん!どういう事ですか!?

ハッ!?ま、まさか…やっぱり若い女の子の方がいいんですか!?うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

「翔子ちゃんいきなりどうしたの!?」

 

「おい、英治はしょうがないとしても、謂れのない事でトシキが被害受けて、翔子が泣き出しちまったじゃねぇか。一体何があった?」

 

「拓斗…。BREEZEのメンバーとArtemisのメンバーには…特にタカさんには内緒にしとくよう言われてたんだけど…」

 

「あ?俺らに内緒?特にタカに?」

 

「あ~、ちゃんと説明しますから、一応聞かなかった事にして下さいね」

 

BREEZEやArtemisのメンバーには内緒?

これから明日香とさっちが説明してくれるんだろうけど、あたしも気になったから、バッグからスマホを取り出してLINEを開いてみた。

 

………え?これまじ?

 

明日香とさっちがタカ達に説明してくれているけど、せっかくのあたしのモノローグだし、ここではあたしが説明しよう。

 

FABULOUS PERFUMEのメンバーは、無事にライブを終えて、今日のライブ大会に間に合うように帰路についていた。

弘美さんの安全運転で、順調にこの学校に向かっていたみたいだけど、もうすぐうちらの地元の県境に着きそうという時に事件が起こった。

 

 

 

 

「うー、めちゃくちゃ眠いけど、やっと県境に着いたよ。この子ら送り届けたら、あたしは家に帰って寝る…。今日は休みだったから、ライブ大会見たかったけどね」

 

弘美さんは夜通し車を運転してくれていたらしい。

ライブ終わってから、車で帰路に着いて、移動で朝方までかかっているのに、何で昨日の撮影が終わってから茅野先輩と栞が間に合ったのかというと、沙織さんと弘美さんは予め車で目的地に行っていて、茅野先輩と栞は撮影後に目的地に新幹線で行ったそうだ。

 

気になったから周年記念の話を読んでみたけど、確かに撮影に沙織さんと弘美さんが居たという形跡はなかった。

おかしいなぁ、BREEZEのメンバーとまどかさんが居ないのは確認したけど、沙織さん達も居なかったのかな?

まぁ深くは考えないでおこう。

撮影も結構長かったのに、茅野先輩達がライブに間に合うって、どこでライブしてたんだろう?

まぁ、これも深くは考えないでおこう。

 

「…って、沙織も寝ちゃってんじゃん。あたしにだけ運転させてぇ…。ま、沙織も今日は仕事だし仕方ないか。ハァ…」

 

「ごめんね、弘美。私も運転免許持ってたら良かったんだけど…」

 

「って双葉!?お前、今日ライブ大会だろ!?運転の事とか気にしないでいいから、少しでも寝てろって!」

 

「あはは、大丈夫だよ。さっき起きたところだし。安全運転してくれてたから、ゆっくり休む事出来たよ」

 

「本当かよ。だったらいいけどさ…ふぁぁあ」

 

「さすがに弘美は眠そうだよね」

 

「ああ、まぁな。でももう少しだし、お前らはちゃんと送り届けてやるから」

 

「ねぇ。少し時間にも余裕あるし、そこのコンビニでコーヒーでも買って少し休憩しない?」

 

「え?まぁ、休憩出来るならありがたいけど、でも大丈夫か?あたしは平気だぞ?」

 

「ボクお腹空いちゃった」

 

「私も軽くでもいいから食べておきたいわね」

 

「あれ?栞も沙織も起きちゃったんだ?あ、私達うるさかった?」

 

「ううん。そんな事ないよ。ゆっくり寝たしお腹空いちゃっただけだよ」

 

「私もよ。弘美のおかげで少し眠れて助かったわ。だから少し休憩にしましょう」

 

「はぁ…じゃあ、少し休憩しよっか。もうここまで帰って来たし、時間にも余裕あるしな」

 

そう言ってコンビニに車を停めて、軽く休憩がてらにドリンクと朝食を買おうとした時にトラブルが起きた。

このコンビニを選らばなければ、こんなトラブルには巻き込まれなかったのかも知れない。

 

「せやからここらにあるはずやねん!レガリアは!ワイはそういう噂を聞いてわざわざ来たんや!」

 

コンビニに入ると何故かそこにはinterludeの白石 虎次郎が居て、店員さんにレガリアを出せと詰めよっていたらしい。本当何やってんの?

 

コンビニに入ったFABULOUS PERFUMEのメンバーは、すぐにinterludeの白石 虎次郎だとわかったみたいだけど、触らぬ神に祟りなし。取り敢えず無視して買い物を済ませてから、車の中で食べるつもりだったらしい。

 

「あぁ!?お前らはファビュ…おっと、正体は秘密なんやったな。やり直しや。

あぁ!?お前らはSCARLETのバンドのやつら!」

 

わざわざやり直しするとか、律儀なのか何なのか…。

 

「お前らもレガリアの噂を聞きつけて、ここにやって来たっちゅーわけやな!」

 

「ちょっと何を言っているのかわからないわね」

 

「あたし達の正体知ってるくせに、内緒にしてくれるとか実はいい奴?」

 

「レガリアがもし本当にここにあるなら、白石くんを放っておくのはまずくない?」

 

「そういや雲雀って人が言ってたっけ?白石虎次郎がレガリア探して旅に出たって」

 

茅野先輩はちょっと気になったみたいだけど、他のメンバーは『こんな所のコンビニにレガリアがある訳ないじゃん』という事で、白石 虎次郎の事は無視する事にしたそうだ。

 

「あ、すみませーん。レジお願いしまーす」

 

買う物を適当に選んでカゴに入れて、レジに栞が出した時にまた白石虎次郎に絡まれたらしい。

 

「まさか!お前らレガリアを見つけて、そのカゴのなかに…!カゴの中身をあらためさせてもらおか!」

 

「なんて迷惑な話なの…」

 

「そもそもコンビニにレガリアはないって…」

 

「でもクリムゾンの情報網は凄いらしいからね…もしかしたら…(ゴクリ」

 

「ねぇ、双葉。双葉までどうしちゃったの?寝不足で頭回ってないの?」

 

そんなやり取りをしていると、コンビニにお爺さんとお婆さん達が入って来たらしい。

 

「ほう。この若造がここ町にレガリアがある事を聞きつけ、ここまでやって来たというのか」

 

「フン、まだまだ若い小僧じゃないか」

 

「レガリアはこの町に代々受け継がれているモノ。何者かは知らんが渡す訳にはいかんな。立ち去るがよい」

 

「フッ、やっぱり噂は本当やったっちゅーわけやな。そのレガリア…ワイが貰おか」

 

「え?本当にレガリアがあるの?」

 

「あっちゃぁ~何でこんなタイミングで…」

 

「レガリア…。interludeの白石くんに渡す訳にはいかないよ!」

 

「わわわわわ、ど、どうしよう双葉」

 

そのお爺さん達はレガリアがこの町にある事を告げ、それを渡す訳にはいかないと言ったらしいけど、白石虎次郎はレガリアを強引に奪おうとした。

 

「レガリアは渡せんと言われても、はいそうですかって帰る訳にはいかへん。力付くでも奪わせてもらうで」

 

「フフフ、血気盛んな若造じゃ。だが…これも運命の導きかも知れん。よかろう。おぬしがレガリアの後継者に相応しいかどうか…今のレガリアの使い手に勝てればくれてやろう」

 

「なるほど。シンプルでわかりやすいわ。ええで!やったらデュエルや!」

 

「ちょっと…本気なの…?」

 

「お、おい、沙織、双葉。どうする?」

 

「レガリアは私も詳しくは知らないけど、クリムゾンに渡す訳にはいかないっていう事はわかってる。だったら、沙織が今の後継者さんを倒して、レガリアの後継者になればいいんだよ」

 

「せっかくのライブ大会だけど…今回はしょうがないね。志保達にはボクから連絡しておくよ」

 

「お前らも後継者争いに参加か。おもろい、これはSCARLET側からの挑戦やし、デュエルしても問題あらへんやろ」

 

そうして今のレガリアの後継者と、interludeの白石虎次郎、そしてFABULOUS PERFUMEによるレガリアの後継者争いが始まろうとしていた。

 

「トメさん。準備は出来とるかの?」

 

「ワシはいつでもオッケーじゃ。若い者にはまだまだ負けるつもりはないわい」

 

「時間的にもちょうど良いしな。若造とお嬢さん達よ。まずはこの農作業服に着替えてもらおうか。今着てる服が汚れてもいかんしな」

 

「農作業の服に着替えやと?」

 

「どういう事かしら?」

 

「何を言っとる。この町のレガリアの後継者争いは農作業の収穫量で決まるって事は知っとるじゃろ」

 

「農作業の収穫量?音楽の勝負じゃないの?」

 

「何の勝負でもワイが勝つだけや!」

 

「えっと…農作業?と、取り敢えずボクは志保達に連絡するね」

 

「うん、栞お願いね。あと、タカくん達も無茶してこっちの助けに来るとかしたら大変だから、BREEZEとArtemisの方達には内緒にしとくように伝えてて」

 

 

 

 

ってな事があったらしい。

確かにレガリア絡みなら…。特に沙織さんにとってはクリムゾンエンターテイメントのレガリア収集の責任者である小暮 麗香さんは実の姉でもある訳だし。

 

そんな大事件に巻き込まれのなら、茅野先輩や栞がそっちを優先させちゃってもしょうがないね。

あたしだって同じ立場なら…きっと…。

 

「ふぅん、そうなの?大変だね。あー、やっぱり双葉も栞も既読付かねぇわ」

 

「はーちゃん…もう考える事を放棄しちゃったんだね」

 

「それよりドラムは遊太で決まりだろうがよ?ベースはどうすんだ?」

 

「FABULOUS PERFUMEの誰かに連絡取れたら良かったんだけどなぁ。タカに既読付かねぇなら無理か」

 

「どこの町かは知らないけど、今からこっちに向かっても間に合わないんじゃないかしら?」

 

「トシキさんが何かしたんじゃなくて良かった…」

 

え?あれ?レガリアって大切なものじゃないの?

こんな大事件なのにタカ達は何で落ち着いてるの?

 

「ちょっとタカさん!茅野先輩達はBREEZEのみなさんに知れたら、みんなが無茶するんじゃないかって…」

 

「だからみんなに内緒にって言ってたのに!拓斗も何で落ち着いてるのよ」

 

「いや、双葉達の気遣いはありがたいとは思うけど…」

 

「普通に考えてレガリアの後継者を農作業の収穫量で決めるって事はないだろ?」

 

「俺達の知る音楽のレガリアじゃなくて、その町特有のレガリアって名前のナニかじゃないかな?」

 

「そうだな。レガリアって単語は色んなモノに使われたりしてんじゃねーか?よく知らねぇけど」

 

「それに地元の県境にあるようなレガリアでしょ?だったら、私達も噂くらいは聞いた事あるはずだもの」

 

「偽物って訳じゃないだろうが、あたしらの知るレガリアじゃないだろうな」

 

「「「あ…」」」

 

そ、そうか。盲点だった。

そうだよね。農作業の収穫量でレガリアの後継者なんか選ばないよね。

そもそもデュエルに勝った負けたで、受け継がれる物でもないだろうし。

 

は、ははは。茅野先輩達…御愁傷様です。

あ、安心したらまたお腹痛くなってきた…。

ト…トイレ行かなきゃ…。

 

でも、本当にうちらのベースどうしよう…。

 

「やれやれ…聞くんじゃなかった…」

 

そんな時…あたし達の目の前に現れたのは…。

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