バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第18話 いつかきっと

あたしの名前は寺川 結月。

Break Bellというバンドでギタボをしている。

 

この物語を読んでくれてる方達は知っているだろうけど、今日は近隣の高校で合同で開催されている文化祭。

その文化祭の催し物の1つであるライブ大会の決勝リーグ1日目だ。

あたし達Break Bellは、参加バンドの控え室で、決勝リーグが始まるのを待っていた。

 

まぁ、後の説明とかは適当に端折っても良いよね?

何となくの状況はもうわかっただろうし。

 

「良い訳ないじゃない」

 

え?ダメなの?

だったらあたしじゃなくて琴子がモノローグしてくれたらいいのに…。

 

「結月さぁ。せっかくの初モノローグでしょ?もっとこう私達のBreak Bellをアピールするとかさぁ」

 

夏希もダメ出し!?

いや、あたし達のアピールとかこないだの周年記念だけでいいじゃん…?

 

「そうよ!あたし達はAmaterasuを倒して射手座のレガリアを手に入れて、Ailes Flammeを倒して晴れのIrisベースを手に入れて、頂点のバンドになるんだからっ!」

 

いや、ならないよ。あゆみは何を言ってるの?

そもそもあたしは楽しんで音楽やれたらそれでいいんだし。…いや、やるからにはとは思うけど。

 

「あ、結月ちゃん」

 

控え室のドアが開かれ、そこに入って来たのはAmaterasuのボーカリスト、本城 天音だった。

 

「ん?天音?良かった。今日は逃げ出さずにちゃんと来たんだね」

 

「も、もう!私はもう逃げたりなんかしないし!

いや、でも本当はちょっとデュエルは怖いけど…」

 

デュエルは怖い…か。

あたしもデュエルは初めてだから、ちょっと不安な気持ちもある。天音はそれでももう逃げたりしないんだね。

 

「あたしはデュエルはいつもウキウキワクワクだけどー」

 

天音の後から他のAmaterasuのメンバーも控え室に入って来た。

 

「あ、蘭。そういや蘭はデュエルも経験あるんだっけ?」

 

「昔昔の若い頃に、ちぃ~っとばっかしね~」

 

今でも十分若いじゃん。

 

「ワタクシも今日のデュエルは楽しみにしていますわ」

 

「え?涼風もデュエルが楽しみなの?何か意外…」

 

「結月。貴女を倒して、どちらが天音に相応しいか決着を付ける良い機会ですもの」

 

「え?天音に…?」

 

「え?私?すずちゃんは何を言ってるの?」

 

何でデュエルで天音に相応しいのはどっちかとか決まるのよ。

でもまぁそれなら…尚更負けられないっていうか…。

 

-ガチャ

 

などとあたし達はAmaterasuのメンバーと和気あいあいとお話をしていると、他の参加バンドのメンバーも続々と集まって来た。

 

その中でも一番驚いたのが…。

 

「えぇ!?もしかしたらもしかしなくても!クリムゾンのinterludeのメンバーじゃない?」

 

誰が声を上げたのか。

確かにあたしも見たことがある。

interludeのベーシスト雲雀が居た。

あ、でもこの場では一応年上のハズだし、同じライブ大会に出るって人なのなら、雲雀先輩って先輩呼びした方がいいのかな?

 

 

-ざわざわ

 

 

「何でライブ大会にクリムゾンのメンバーが?」「え?もしかして負けたらバンド解散?」「それより勝っちゃったらクリムゾンに目を付けられる事にならない?」「くりむぞんのミュージシャンとデュエルかぁ。ワクワクするなー」「おお!クリムゾンエンターテイメントとデュエル?勝ったらうちらいきなり超有名人じゃん!」

 

さすがにクリムゾングループが、どんな音楽事務所なのかもみんな知ってるだろうし、そんなクリムゾンのミュージシャンがこの場に居たらざわつくのも無理ないよね。約2名程平常運転の子も居るけど。

 

ってそれより天音は大丈夫かな?

いつもなら『え?クリムゾンエンターテイメント?うぅ…お腹痛い』とか言ってそうなのに。

 

「やっぱりね。何となくこうなるのは予想出来てたけど…」

 

「あー、ひーちゃん、どうしよっか?」

 

「しーちゃんはこうなるって事を予測してなかったの?

でも、そうだね。このままクリムゾンに恐れて辞退なんてされたら、偵察に来た意味もなくなるし…。面倒だけど事態は収拾しておこうか」

 

観月先輩と志保先輩と一緒に?

ファントムの方達とクリムゾンエンターテイメントが何で一緒に…。

 

「一応、僕はみんなが知るようにクリムゾンエンターテイメントに所属し、interludeというバンドでベースを担当している」

 

-ざわざわ…

 

「やっぱりクリムゾンの…」「どうしよう?クリムゾンに目を付けられたら…」「残念だけどライブ大会は辞退した方がいいかな?」「みんな甘いわね。クリムゾンのメンバーを完膚なきにまで倒すチャンスじゃない」「そこの人の言う通りね。バンドの頂点に立つには避けられない道だわ」「クリムゾンっていっても1人だし、普通に学生としての参加じゃないかしら?」

 

中には辞退しようと考えるバンドもいるのか…。

せっかくのライブ大会なのに残念だな。

約2名程うちのバンドメンバーの発言があるけど。

 

「そこの人の言う通り。僕は今日はクリムゾンとしてではなく、この合同文化祭を楽しむ生徒として参加している。今回のライブ大会ではクリムゾンは関係ないし、負けたら解散とか、勝てばクリムゾンに目を付けられるとか、そういった事はないから安心して。僕の参加するバンドのメンバーはクリムゾンとは関係ないしね」

 

クリムゾンとは関係ない?

まぁ、志保先輩達と一緒に居るから、あたし的にはその心配はないけど。

 

「って、僕が言っても説得力に欠けるよね。もう少ししたら、このライブ大会の責任者である秋月家のご令嬢、秋月 姫咲さんから説明もあるだろうから、自分達がどうするかはその説明を聞いてからでもいいんじゃない?」

 

そう言って控え室の中央にあるテーブル席に座った雲雀先輩。その後に続くように観月先輩と小松先輩もテーブル席に座った。

 

あれ?何となくだけど…小松先輩の雰囲気がこないだ会った時と違うような…?

まぁ、こないだ会った時は変な1世代?2世代?前のギャルみたいな格好をしてたし、今日は普通の制服姿だから変な違和感があるのかも知れないけど…。

 

それより志保先輩はお腹押さえながら部屋から出ていったけど…どうしたんだろう?

 

志保先輩が部屋を出て行ったのと入れ替わりで、Glitter Melodyの方と、姫咲先輩が部屋に入って来た。

 

「志保…なんか顔が青かったけど、どうしたんだろう?」

 

「わ!ほんとだ!ひーちゃんが居る!

ひーちゃんがしーちゃんと同じバンドで演奏するってマジだったんだ?どうしよう。あたしもあっちのバンドで演奏したい」

 

「睦月ちゃんも無茶言わないで…」

 

「わ!ほんとだ!小松さんそっくり!

井上くんが小松さんの振りして演奏するって大丈夫?って思ってたけど。本当にそっくりだね!違和感ないもん」

 

「あの…藤川さん?一応、対戦バンドの貴女方には前以て説明させて頂いたのですが…ここで大声で仰るのはちょっと…」

 

え?今、藤川先輩は小松先輩の事を井上先輩って…。

あ~、そっかそっか。さっきからあたしが感じてた違和感ってそれなのかも。何となく小松先輩じゃないような気がしてたし。

でも何で小松先輩の代わりに井上先輩が?

茅野先輩の代わりに雲雀先輩ってのも、あたし的には変な話だとは思ってたのに。

 

その後、姫咲先輩が雲雀先輩の参加について、あたし達に説明をしてくれた。

雲雀先輩は志保先輩のバンドに、急遽サポートとして参加する事になった事。

今回のライブ大会に関しては、クリムゾンとのデュエル時に強制されるバンドを解散などといったルールが適用される事もなく、あくまでも女子高生の朱坂 雲雀としての参加だという事。

そして、あたし達にも志保先輩達のバンドに勝ったとしても、クリムゾンのミュージシャンに勝ったなどと思わない事。

 

もし、今回、志保先輩達のバンドに勝って、クリムゾンのミュージシャンに勝ったとか言いふらすようなバンドが居れば、それこそinterludeで潰しに行くから。と、雲雀先輩も言っていた。

まぁ、さすがに決勝リーグまで残ったバンドだし、みんな本気で音楽やってる人達だろうから、そんな心配はしてないけどね。とも付け加えていたけど。

 

その後に永田先輩の台詞にもびっくりしたけど。

 

『みんな本当に安心していいよ?しーちゃん達のバンドの最初の対戦相手はあたし達だし。あたし達が勝つからみんなはひーちゃんとデュエルするような事にはならないから』

 

まさかあんな事を言うなんて…。

 

それから少ししてから、青い顔をしながらお腹を押さえている志保先輩も戻って来て、トーナメントのクジを引く事になった。

 

あたし達ライブ大会に参加するバンドの最初の対戦相手は決まっている。

本来なら姫咲先輩の面白そうとか、このバンド同士のデュエルを観てみたいとかいう理由の独断で、対戦バンドを決めたかったみたいだけど、Canoro FeliceのバンドメンバーとCanoro Feliceのチューナーの方、そしてArtemisのベーシストだった澄香さんに止められて、やむを得ずしぶしぶ厳選なる抽選で決めたらしい。

 

で、今日はその決まった対戦バンドとのデュエルが行われるんだけど、そこはトーナメント方式になるので、各組み合わせからランダムで選ばれたバンドの1人が代表としてクジを引いて、どの組み合わせがトーナメントの何回戦目に組み込まれるのかを、この場で決める事になっていたのだ。

 

ライブ大会決勝リーグに参加出来るバンドは16組。

だから1回戦は8回行われる事になる。

 

「と、言うわけで、各代表者の方にクジを引いて頂きます。まずは……」

 

姫咲さんが読み上げたバンドの代表者が、クジを引きに行く。あたし達の組み合わせでは、あたしが引きに行く事になっているんだけど…。

 

「それでは次はBreak Bellの代表者の方、お願いしますわ」

 

あ、呼ばれた。

もちろんあたしは優勝を目指しているし、何回戦を引いてもいいんだけど、出来れば早目にAmaterasuとデュエルしたいって気持ちはあるかな。

 

「えっと…あ、1番です」

 

おお、さすがあたしだ。

いきなり1番を引き当ててしまうとは…。

 

「ふん、いきなり初戦からあたし達とはね。さすが結月、変な運だけは持ってるじゃない」

 

え?変な運?

 

「そうだね。私達でいきなりライブ大会の決勝リーグをめちゃくちゃ盛り上げちゃおうよ」

 

「みんな楽観しすぎよ。私達の相手も予選を勝ち抜いたバンドなのよ?油断していたら足元を掬われるわよ」

 

確かにそうだ。

あたし達の対戦相手であるバンドは、正直聞いた事のないバンド名だけど、予選を勝ち抜いたバンドだもんね。

 

「次はgamutの方、お願い致しますわ」

 

gamut…。

美緒先輩達Glitter Melodyや天音達の通う学校の軽音楽部『gamut』の代表メンバー。

そして、天音達Amaterasuの初戦の相手。

 

先日の公開収録のフリートークの時に、天音も気になるのか美緒先輩にgamutのメンバーの事を聞いていた。

 

 

 

 

「そういえば、天音達Amaterasuも結月達Break Bellも今度の決勝リーグには参加出来るんですよね。おめでとうございます。上手く私達とデュエル出来るよう頑張って下さい」

 

「何を言ってんのよ美緒。大体美緒達Glitter Melodyの初戦の相手はあたし達なんだし。まずはあたし達に勝たないと天音達とも結月達ともデュエル出来ないんだからね」

 

「確かにそうだけどね。私達Glitter Melodyは優勝するつもりだから」

 

「優勝はあたし達がするし!」

 

「あ、あの…ちょっといいですか?」

 

「ん?天音?どうしました?」

 

「あ、天音も私達が優勝するんだからー!って感じ?」

 

「あ、いえ…その…そ、それはもちろん優勝を目指して頑張るつもりではいるんですけど…その…私達の最初の対戦バンドが…」

 

「あ、そういえばAmaterasuの対戦バンドって、あたしも聞かせてもらってないかも」

 

「じ…実は…gamutの先輩方でして…」

 

「「gamut!?」」

 

「gamutって美緒達の学校の軽音部だっけ?そういや美緒達もGlitter Melodyの前はgamutって名乗ってたもんね」

 

「うん、gamutは私達の学校の軽音楽部の総称で、イベントとかに参加する時は、gamutってバンド名で出る事になってて。まぁ、私達はファントムに所属してるので、軽音楽部のgamutとしてではなく、バンドを組んでいる学生の枠での出場になってるんだけど…」

 

「そ、それで…私あんまり…その、失礼ですけど、gamutの代表メンバーの事を詳しく知らなくて…どんな方達なのかな?って…」

 

「…強いですよ」

 

「強い!?」

 

「gamutって軽音楽部とは言っても、100人ちょっといますし、その中からの代表メンバーですからね」

 

「gamutってそんなに部員居るんだ?うちの学校の軽音楽部員は井上と茅野先輩の2人だけなのに。まぁ、そうなったのも井上のせいだけど」

 

「特にドラマーの目蔵河(めぐらかわ)先輩は、恵美のドラムの先生でもあるし、gamutの部長に就任してから5年間も不動の部長をやってるからね。もう後もないから最後の大会ですし」

 

「あのgamutの部長を5年間も!?」

 

「え?5年って…?あれ?」

 

「何歳なのその先輩」

 

「目蔵河先輩は5年前に部長に就任してからは、部員同士のデュエルでは負けなし。部長という立場に驕ることなく常にドラムの腕を磨いてる。その実力は折り紙付きだよ。まぁ、音楽に力入れすぎてて、5回も留年してるし、うちの学校6回目の留年で退学になっちゃうから、本当に後がないんだけど…」

 

「そんな凄い人が…(ゴクリ」

 

「そんなに留年してて何で勉強頑張らないんだろう?」

 

「え?って事はもう20歳越えてんの?」

 

「ふふ、天音。そんな先輩がgamutに居るって…怖くなりましたか?」

 

「そ、そりゃ少しは…ううん!違う!

大丈夫です。怖がったりしません!私は私達の楽しい音楽で、精一杯戦います!!」

 

「「え?いや、そこは普通に怖がろうよ。もう5回も留年しているんだよ?」」

 

 

 

 

そんな話があったのだ。

ちなみに5回も留年しているって話が衝撃過ぎて、どんな音楽をやるのかとか、他にはどんなメンバーが居るのかとかは聞けないでいた。

 

「どうやら私達は8番みたいです」

 

8番!?寄りによって!?

 

gamutの先輩が引いたクジは8番。

あたし達の1番とは対象的な位置だよ。

つまり、あたし達Break Bellと天音達のAmaterasuがデュエルするには、決勝戦まで勝ち抜かないといけないのか。

 

あたしは天音達の方を見てみた。

すると天音もあたし達の方を見ているようだった。

 

うん、多少緊張しているようには見えるけど、目が死んでないし、全然諦めてない感じだね。

 

「では次はGlitter Melodyの方、お願いしますわ」

 

「はい。……えっと、6番です」

 

美緒先輩達と志保先輩達のデュエルは6試合目か。

って事は、天音達は勝ち抜いて決勝であたし達とデュエルするには、準決勝で美緒先輩達か志保先輩達とやり合う事になるんだね。

 

あたしは再び天音の方を見てみた。

あ、お腹痛そうにしてる。さすがに美緒先輩達か志保先輩達とデュエルするのが現実的になってきて、お腹にダメージいっちゃったかな?

 

その後、私達は控え室へと戻り、ライブの準備をする事になった。

後1時間もすれば、この学校の理事長の開催の挨拶があって、そのすぐ後にあたし達のライブ。

あたしもさすがにちょっと緊張してきちゃった。

 

「あ、あはは、ゆ、結月ちゃん…」

 

「天音」

 

「私達。決勝戦までいかないとデュエル出来なくなっちゃったね」

 

「うん。そだね。でも天音も目標は優勝でしょ?だったら…」

 

「うん、もちろん優勝が目標だよ。

だからgamutの皆さんにも勝って、2回戦も勝って…。準決勝で美緒先輩達が相手になるのか、志保先輩達が相手になるのかわからないけど、準決勝も勝って決勝戦に行くから。結月ちゃんも待っててね」

 

天音…。

まさか天音からそんなセリフが聞けるなんて。

 

「当然!けど、決勝ではあたし達が勝つから」

 

「わ、私達も負けないよ!」

 

「へぇ、天音なかなか言うじゃん」

 

「いいでしょう。準決勝では世の中そんなドラマや漫画のように上手くいかないという事を思い知らせてあげます」

 

「わわわ、志保先輩…美緒先輩…」

 

そうなんだよね。

ここの控え室には、あたし達Break BellとAmaterasu、Glitter Melodyとパスビマイボプラベの4バンドの控え室になっていた。

姫咲先輩が独断と偏見で、各バンドの控え室を割り振ったらしいけど、作為的なものを感じる。

っていうか志保先輩達のバンド名呼び辛くない?

 

-コンコン、ガチャ

 

あたし達が雑談をしていると、控え室にノックの音が響き、ドアが開かれて人が入って来………え!?えぇぇぇぇぇ!?

 

「えっと、こんちは。みんな揃ってますか?」

 

「あ、お兄さん」

 

「どしたのタカ?もう開会式?」

 

部屋に入って来たのは、あたしのスーパー憧れているバンドマン、元BREEZEのボーカルであり、現Blaze Futureのボーカルである葉川 貴さんだった。

ま、まさかこんなにも早くご本人に挨拶が出来る機会が来るとは…。え?もしかしてあたし今日死ぬの?

 

「あ?ここって志保達の控え室だったのか。

開会式はまだもう少し後だな。その前に一応仕事だ仕事」

 

あ、そ、そういえばBREEZEの方達や、Divalの渚さん、Blaze Futureの奈緒さんや、Noble Fateの綾乃さんも、職場が秋月家の融資を受ける為に、お仕事をさせられてるとか志保先輩が言ってたっけ?

 

ど、どんなお仕事をさせられてるんだろう?

この控え室に来たって事は、あたし達に関係のあるお仕事なのかな?

貴さんがスムーズにお仕事出来るように、あたしもしっかりしなくちゃ…。

 

「あ、あの…タカさん。先日はありがとうございました。あの日は名乗る事もせず失礼な事を…あ、あのレガリアの事もですけど…」

 

え!?天音…貴さんに話し掛けるの!?

いつも引っ込み思案で人見知りなのに、自分から話し掛けるなんて…!え?もしかして天音って勇者だった!?

 

「ん?ああ、天音ちゃんもここの控え室だったんだ?こないだのライブ観させてもらったよ。最高の演奏だった」

 

ふぁぁぁぁぁ!

しかも貴さんにお返事まで頂いて、最高の演奏だったとまで言われてるぅぅぅ!

すごいすごいよ天音!そしてとても羨ましい!!

 

「そ、そそそそそんな!?わ、私なんてまだまだですし、そそそ、そのあり…ありがとうございますです!!」

 

あ、やっぱり天音も緊張してるんだね。

良かった。安心した。

 

「そんな緊張しなくていいって」

 

「「ああ!?」」

 

「お父さん…お母さん…先立つ不幸をお許し下さい…。でも…天国はここにあったよ…」

 

そう言って天音は倒れ…る手前で、涼風に支えてもらっていた。

 

「天音の持つ射手座のレガリアの元所持者であり、今はBlaze Futureというバンドのボーカルをしてらっしゃるタカさんという事は存じておりますが、いきなり女子高生の頭を撫でるとかセクハラ以前にど変態の所業じゃありませんこと?」

 

「あ、やべ…。その…つい癖で…」

 

「癖で女子高生の頭を!?まぁ!何と恐ろしい!!

ご覧なさい!天音なんて気持ち悪さで倒れ…いえ、ワタクシが支えなかったら、死んでいても不思議ではありませんでしたわ!」

 

いくらなんでも…って思うかも知れないけど、涼風の言っている事も多少はわかる。

でも、気持ち悪さでじゃなくて、多幸感がオーバーヒートして全細胞をオーバーキルされてる感覚になって死んでいても不思議じゃなかっただろう。あたしなら間違いなく死んでる。って、天音も起き上がらないけど本当に大丈夫?生きてる?

 

「え?あの…俺そんなヤバい事を…?」

 

「当然ですわ!さぁ!わかったらお仕事を済ませてサッサと帰って下さいませ!天へ!もしくは土へ!」

 

「え?天?それって天に召されろ的な?」

 

「ハッ!?

ち、違います!気持ち悪かったとかそんなのじゃなくて!そ、その!多幸感がオーバーヒートしちゃって、全細胞がオーバーキルされた感覚になっちゃって!う、嬉しかったです!なんならおかわりしたいくらいで!」

 

あ、天音起きた。

良かった生きてて。それにしてもあの天音がおかわりを所望するなんて…。

 

「す、スズちゃんもタカさんに変な事言わないで…」

 

「全然変な事ではありませんわ」

 

「ヤッベェなぁ。この癖ほんと改めないとなぁ…」

 

「改めなくていいと思いますよ。私もお兄さんに撫でられるの結構好きですし」

 

え?それって美緒先輩も頭撫でてもらった事あるって事?何て羨ましい…!ファントムのバンドに所属させてもらえたら、あたしもワンチャンある?

 

「フォローしてくれてありがとうな美緒ちゃん。

でもさっき美緒ちゃんの足が、俺の足に当たって結構痛かったんだけど、美緒ちゃん大丈夫だった?」

 

「私の足がお兄さんの足に当たった?いえ、あれはただ蹴っただけですよ?」

 

「え?何で蹴られたの?」

 

「タカくんもバカやってないで、早くお仕事やってしまいましょ?」

 

「いや、バカやってませんけど?ただ蹴られただけですけど?」

 

貴さんの後ろから、凄く綺麗なお姉さんが入って来た。

誰だろう?貴さんと親しそうだけど…。

奥さん…は居ないって話だし、恋人…じゃないよね?

 

「久しぶりね、天音ちゃん。先日はゆっくり挨拶出来なかったから…」

 

「…?あ、三咲さんのお姉さんか妹さんですか?

はじめまして、本城 天音と申します」

 

「え?何を言ってるの天音ちゃん。ふふ、私よ、三咲よ」

 

「え?三咲さん…?だって雰囲気も喋り方も…。あ、でもこないだと同じ制服か…。あれ?あれ?」

 

天音は何を混乱しているの?

そうか。あの方が三咲さんなんだ。

BREEZEのチューナーであり、英治さんの奥さんで、貴さんの幼馴染み。そして、天音にレガリアを託してくれた人…か。

 

でも、天音から聞く感じや、母さんから聞く感じと全然違うなぁ。すごく大人の女性って感じがする。

 

「あら?ほら、貴くんあの娘じゃない?」

 

「んあ?」

 

そう言って三咲さんに促されて、貴さんもあたしの方を見た。ど、どうしよう…お会い出来たら色々話したいって思ってたのに、頭が真っ白で…。

ヤバい、ちゃんと挨拶したいのに。

 

「おお、本当に真奈美に似てんな。

あれ?って事はここはGlitter MelodyとパスビマイボプラベとAmaterasuとBreak Bellの控え室なの?誰なのこのメンツを纏めた独裁お嬢様は?」

 

「独裁お嬢様って…暗に姫咲さんの事言ってない?」

 

真奈美に似てるって…。

貴さんもやっぱり母さんの事覚えてくれてるんだね。

 

-ピンポンパンポーン

『これよりライブ大会決勝リーグの開会式を開始します。参加されるバンドの皆さんはステージにお集まりください』

 

あ、もう呼ばれちゃった。

結局貴さんに挨拶出来なかったな…。

って!?貴さんと三咲さんもお仕事しに来たハズなのに、何もしてなくない!?

 

「あ、もう時間か。

ライブ前に俺ら来たせいで落ち着けなかったかもだけど、ごめんな。ここにみんなの分のアンケート用紙置いとくから、まぁ、明日の閉会式までにみんな書いててくれ。なんか来年のライブ大会の参考にしたいんだと」

 

あ、アンケート…。

そっか。そのアンケート用紙を配るってのがお仕事だったのかな?

 

「ほら、結月!急ぐわよ!

1回戦のあたし達は、ライブの準備もしなきゃいけないし!…何であたし達の控え室に来るのが拓斗さんじゃないのよ」

 

「え?拓斗のが良かった?」

 

「アンケートは明日までには書かせていただきます。それでは失礼します」

 

「ふふ、ありがとう。気軽に書いてくれたのでいいからよろしくね」

 

「あ、あはは、実は結月ってタカさんの大ファンなんですよ。昔から。良かったら何か声掛けてあげて下さい」

 

ちょっ!夏希!?

 

「ふふ、みんなを激励する為にもここに来ているんだもの。結月ちゃんにはタカくんに声を掛けてもらうわ」

 

「え?俺の大ファンだったとか言われたらスーパー緊張しちゃうんだけど?」

 

あ、あたしも夏希があんな事言っちゃうもんだから、めちゃくちゃ緊張しちゃってるんだけど!

 

「あー。えっと…何て言ったらいいかな?

俺なんかに憧れてくれてありがとうございます?なんかこれも変な感じする…よな」

 

「あ、えっと…あたしこそありがとうございます?え?これあたし何にお礼言ってんの?」

 

「うわぁ~…何か中学卒業前のタカくんと真奈美思い出すやり取りだぁ~」

 

「え?俺こんな感じだっけ?」

 

「母さん…あ、えと、母さんにBREEZEのDVDとか観せてもらって…その…あたしそれで音楽やろうって思えて…」

 

うわぁ…何かいい言葉が思い付かない…。

推しバンドのリリイベとか行って、握手の時に話したい事も上手く話せなくて…って人達もこんな感じなのかな?時間ないんだし、あたしはその人達よりずっと報われた状況にはあるんだし、言いたい事をズバッと言わなきゃ…!

 

「そ、それからずっとBREEZEの皆さんに!貴さんの歌に憧れてて!え、MCはちょっと恥ずかしかったけど…」

 

「え?今そのMCのくだりいります?あ、それって真奈美…お母さんと一緒に観てんだよな?確かに親の前でそういうの恥ずかしいよね」

 

「そういやそうだよね?奈緒ちゃんも奈緒ちゃんのお母さんと一緒にBREEZEのライブDVD観てるみたいだけど、タカくんのMCを母娘で観れてるのかな?あはは、私は初音と一緒にアレは無理だわ」

 

「お前まだ志保達も残ってんのに、喋り方が素に戻ってるよ?大丈夫?」

 

「ずっと…その背中を見て来て、いつかそこに辿り着きたいと思ってました。けど…いつか、きっといつかあたし達は貴さん達を越えてみせます!もちろん天音達も!」

 

…ってあたし何言っちゃってんの!?

憧れてて大好きですって言いたかっただけなのに、宣戦布告みたいになってんじゃん…!

あ、貴さんの顔つきが少し変わった?

 

「ほう…!!俺達を越えるのか。

じゃあ…この帽子を……帽子…帽子?」

 

「タカくんタカくん!さっきガチャガチャで当たったオモチャの指輪があるよ!」

 

「あ?お前これ初音ちゃんにあげてくれとか言ってなかった?」

 

「初音には将来給料3ヵ月分の指輪でいいよ!今渡せるのってそれしかなくない?」

 

「まぁ…そっか。…え?そっか?何?給料3ヵ月分の指輪って?」

 

「ほらぁ!時間ないんだし!みんな待ってるよ!?タカくんのせいでライブ大会遅れちゃうよ!?」

 

「あ、それはまずいな。どっかの独裁お嬢様にメタクソ言われちゃうな」

 

そう言って貴さんは上着のポケットから、ガチャガチャのカプセルを取り出してそれを開けた。

 

「ほう…!!俺達を越えるのか」

 

え?そこからやり直すの?

 

「じゃあ…この指輪をお前に預ける。

俺の大切な指輪だ。いつかきっと返しに来い。

立派なボーカルになってな」

 

そう言って貴さんは…せっかくならその指輪をあたしの指にはめてくれたらいいのに、普通にあたしの手に握らせてきた。

って言うか貴さんに手を触れられちゃった!?

もう心臓が止まりそうなんだけど!?

 

「あ…あの…」

 

「え?何?ドン引きされた?このシャンクス的なシチュエーションは俺が人生の間にやりたかった3本の指に…」

 

「頭…」

 

「頭?」

 

「天音には…頭を撫でてあげたのに、あたしにはないのかな?って…」

 

え?あたし何言ってんの?

 

-ポン

 

「あー、はいはい。何かまたあのラーメン屋のねーちゃんの目が痛いけど…。これでいいか?

…まぁ、ライブ。俺もだけどトシキも拓斗も英治も観てるからさ。頑張れよ」

 

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!!

頭撫でてもらえたぁぁぁぁ!!!!

い、言ってみるもんだね。さっきあたし何を言ってんの!?って思ってたけど、さっきのあたしGJ!!

 

ってあたしは嬉しくなってお礼だけ言って、走って控え室出ちゃったけど…。うん。頑張れそう。

指輪…ガチャガチャのオモチャのやつだから小指にしか入らないや。

 

あたしは右手の小指に指輪をはめて、会場へとダッシュで向かった。

 

 

 

-------------------------------

 

 

 

「むぅ~…」

 

「あ?天音ちゃん?どしたの?」

 

「結月ちゃんだけ指輪貰えていいなぁって思いまして」

 

「えぇ~…」

 

「おわぁ。あまねる怒ってる感じかな?あんなあまねる初めて見たわぁ~。超レア!」

 

「あはは、天音さん、一応葉川さんからレガリアを受け継いでる感じなのに。でも結月さんとはライバルみたいな感じですから、レガリアの継承者としてちょっと羨ましかったのかもです」

 

「ワタクシは結月にまでセクハラを働いたという事より、何の勘違いかワタクシの事をラーメン屋のねーちゃんと呼んだ事を許せませんわ。ただ、あんな膨れた天音を見れたのは貴方のおかげでもありますから、少しだけ褒めてさしあげますわ」

 

「え?天音ちゃん怒ってるの?ってか、お前いつも行くラーメン屋の店員さんだよな?」

 

-ドスッ

 

「うぐっ…え?美緒ちゃん何で俺に腹パンしたの?」

 

「私は南国でお兄さんにクマのキーホルダー取って頂いてますし」

 

「え?それ腹パンへの返答じゃないよね?」

 

「あはは、み、美緒ちゃんの気持ちもわからなくないかな?私も最近渉くんが…はぁ…」

 

「いいねいいね!青春だね~。このライブ大会は私のハートをビンビン刺激してくれるよ~」

 

「うん。あたしもあの娘はラーメン屋の店員さんだと思う。前に美緒に無理矢理連れて行かれたラーメン屋に居た気がする」

 

「睦月ちゃんは何行前の俺の質問に答えてくれてんの?あれ?てか、AmaterasuにもGlitter Melodyにも俺って激励出来てなくね?」

 

「タカ…ごめん…。激励とかいいわ…ちょっとト…トイレ…」

 

「タカさんももう少し自重して下さいね。渉が真似しだしたら大変なので」

 

「タカ兄も大変だね。自業自得なところもあるけど」

 

「ふぅ…海原さんも二胴さんも九頭龍さんも。何をこんな人を警戒しているのだろう?やれやれ…」

 

そう言ってパスビマイボプラベのメンバーも控え室から出ていった。

あ、あの

---

から俺のモノローグになってたの?

あれからセリフばっかりだったから、全然わからなかったわ。

 

志保が何で体調悪そうにしてんのかわかんねぇし、ちょっと心配な気もするけど、やっぱりみんな各々の音楽が楽しみだな。俺もBlaze Futureとしてもっと色々やってみたい事もあるし、これからが本当に楽しみだ。

まぁ、クリムゾンエンターテイメントとか足立とか鬱陶しい奴らもまたしゃしゃって来てるけど。

 

「三咲、俺達もそろそろ…」

 

-サッ

 

「…?どしたの?何で片手で胸元を隠して、片手でスカートを押さえてるの?正直お前がそんな事をしても気持ち悪いって感想しかないんだけど?」

 

「いや、俺達もそろそろとか言うから、この控え室に2人きりになっちゃったし、身の危険を感じて…」

 

「うん。だからそういうのが気持ち悪いって言ってるんですけど?そろそろ会場向かおうかってだけだから。頭大丈夫?」

 

「ムー!幼馴染みの女の子に気持ち悪いは無いんじゃないかな?」

 

その後、何故か俺は殴られて泣かされた。

何でもうこんな歳にもなって、謂れのない事で泣かされなくてはならないのか…。

 

会場に無事に辿り着けた俺は、姫咲と翔子とこの学校の理事長さんの長いダラダラとした話を聞かされた。

その間何度か寝落ちしそうになったが、やっと決勝リーグの1回戦が始まるのだった。

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