さっきBreak Bellが決勝リーグの1回戦に勝利してから、2回戦、3回戦も滞りなく終了し、今は4回戦がステージ上では繰り広げられている。
あたし達ライブ大会の決勝戦に出場出来るバンドは、舞台袖で直接演奏を観る事も許されているけど、控え室には大きなモニターがあって、そこでライブ大会の様子は映し出されているから、あたし達は控え室でゆっくりとしている。
あ、自己紹介するの忘れてた。
あたしの名前は雨宮 志保。
あたし達というのは、あたし達のバンドメンバー、Glitter Melody、AmaterasuとBreak Bellのメンバーだ。
もう10月とは言え舞台袖は暑いし、控え室の空調は抜群の心地好さだからね。
あー、美緒達の通うこの学校がとても羨ましい。
あたしらの学校も、暑い時はクーラーもかけてくれるけど、快適な心地好さとまではいかないからね。
でもあたしはそれよりも…。
「ごめん…ちょっと…トイレ…」
「え?志保また?」
「しーちゃん本当に大丈夫なの?心なしか頬の方も痩けてきてない?」
「もうすぐ私達の出番よ!?本当にどうしたのよ!?」
あたしはトイレに駆け込んでばかりいる。
もうトイレがあたしの彼氏でいいです。今はずっと一緒に居たい。
あたしが今日という大事な日に何故ぽんぽんがペインしているかというと、一人暮らししていた時には簡単な料理は出来てたんじゃないの?と疑いのあるマッドシェフ渚と、同じ材料で料理しているのにも関わらず、あたしがちょっと(数秒)目を離しただけで、料理を暗黒物質に錬成するアルケミスト理奈の料理を食べてしまったせいである。
美緒にこの事を言うと『え?理奈さんの手料理?なんと羨ましい…!なるほど。理奈さんは料理の腕も天才過ぎてお腹が幸せで溢れてそんな状態になっているんだね』と言っていた。
今度、是非とも理奈の手料理を食べさせてあげたいものである。
しかし参った。
少し落ち着いてはきたけど、まだ胃の辺りが痛いしトイレも近い。正直、全力で演奏してる時に腹痛に襲われたりしたら…。あたしの青春どころか人生が終わりかねない。
せめてライブ中だけは大丈夫であってほしい。
あたしが用を終え控え室に戻ると、明日香達も美緒達Glitter Melodyのメンバーも居なかった。
え?もしかしてライブ始まっちゃったとか?
「あ、志保先輩おかえりなさいです」
控え室に戻ったあたしに天音が声を掛けてくれた。
「え、えっと…少し前に5回戦が始まりまして…それで…あの…」
天音はまだあたしと話す時も緊張しちゃう感じ?
そんな天音を見かねたのか、結月が間に入ってくれた。
「志保先輩のバンドメンバーもGlitter Melodyの方達も、次の対戦の為に準備に行きました。えっ…と、朱坂先輩って呼んだらいいかな?朱坂先輩が志保先輩のセッティングもわかるから、控え室に迎えに来るまでゆっくりしてて下さいとの事です」
「そ、そう!それです。結月ちゃんの言ってくれた感じです」
結月が言ってくれた感じって…。
そっか。ひーちゃんとはよくセッションしてたもんね。
井上も明日香も居てくれてるし、お言葉に甘えてゆっくりさせてもらおうかな。
と、思っていたんだけど。
-ガチャ
「お?何で井上も明日香もGlitter Melodyもいねぇんだ?ボリボリ」
ゆっくりしていたかったのに騒がしい奴が、あたし達の控え室に入って来た。
「江口…あんたね…。一応ここはガールズバンドの控え室なの。いわば乙女の溜まり場なの。
そんな所にノックもせずに入って来るとか、どんな神経してるわけ?」
「あははは!乙女の溜まり場か!雨宮のくせに愉快な事を言うな!ボリボリ」
愉快な事ですってぇぇぇぇぇ!?
いかん、ダメだ。落ち着こうあたし。
今のあたしでも江口程度なら瞬殺出来るかもとは思うけど、万が一、カウンターで腹パンでもされてしまえば、あたしは大惨事になり二度と乙女とか言えなくなるかも知れない。
江口、あたしのお腹が治った時には覚悟しなさいよ。
「んで?何で雨宮しかいねぇんだ?
って言ってもアマテラスとBreak Bellも居るみたいだけど。ボリボリ」
「ああ…実はね…」
あたしは江口に、何で今あたしのバンドメンバーもGlitter Melodyも居ないのかを説明した。
「あー、そうなのかボリボリ。
ならもうちょい早く来るんだったなぁボリボリ」
「って訳なのよ。それよりさ?さっきからあんた何をボリボリと…」
さっきからあたしは江口がボリボリと謎の黒い物体を食べているのが気になっていた。
何を食べているのかを江口に聞こうとした時…。
「あー!渉!あんた何でこんな所に居るのよ!」
「え?渉くん?」
ライブの準備を終えたのか、明日香達もGlitter Melodyのメンバーも控え室に戻って来た。
「おう!みんな戻って来たか!せっかくだから激励しようと思ってよ!井上も英治にーちゃんに拐われた時はびっくりしたけど、本当に小松にそっくりだよな!ダブルびっくりだぜ!」
「いや…栞ちゃんに似てるとか言われても全然嬉しくないし」
「そんで何でinterludeのウグイスが居るんだ?お前もライブ大会に出るのか?トリプルびっくりだぜ!」
「…僕はウグイスじゃなくて雲雀だよ。何で江口 渉が女子高の控え室に居るの?不審者?通報していい?」
「あははは!通報だけは止めてくれ!どんまい!」
江口いつもよりテンション高くない?
いつもアホだけど今日は一段とアホというか…。
「それよりさ?渉くんはボクらの激励に来てくれたんだよね?1人だけ?亮くんや拓実くんはどうしたの?」
「ん?おお。亮と拓実な。
亮は井上が英治にーちゃんに拐われたのを見て、英治にーちゃんの車を泣きながら走って追っかけて行ってよ?俺達の学校からこの学校まで割りと距離あるだろ?まだここに着いてないんじゃねぇかな?」
秦野のやつ英治さんの車を走って追っかけたの?
アホなの?電車使った方が早いじゃない。
うちの学校からここまで何kmあると思ってんのよ。
「んで、俺と拓実は井上を連れてったのは英治にーちゃんだし、英治にーちゃんから事の経緯は聞いたしよ?
今日の決勝トーナメントは春さん松岡パイセンやevokeの人達と一緒に観ようって約束してたから、待ち合わせ時間にこの学校の校門前に来たんだよ」
「あー、そういやボクも本当ならみんなと一緒に観る予定だったもんね」
へぇ、evokeのみんなも観に来てくれてんだ?
だったら尚更情けない演奏は出来ないね。
「そしたら春さんがファンのJK達にもみくちゃにされながら何処かに流されて行ってよ?」
あ~…そっか。
Canoro FeliceってFABULOUS PERFUMEと対バンする事多いから露出も多いし、ファントムのメンバーの中じゃトップクラスにイケメンだもんね。
そりゃファンが増えてても不思議はないよね。
「そんで鳴海さんは『クンクンクン…沙智の…沙智の匂いがする。沙智はあそこか!』って言いながらどっか行っちまってよ?」
鳴海さん…。
さっち悪い事は言わない。逃げて。
た、さっちは決勝リーグの審査員だっけ?逃げられないね。
「んで、結弦さんは『高校の文化祭か。懐かしいな。俺の学校も文化祭ライブは盛り上がったな。響が寝てたせいでevokeは参加してねぇが』って言って、響さんは『お~、高校の文化祭か~。思えば文化祭とかあったはずなのに寝てたから全然参加してた気がしないや』とか言って、2人共フラフラとどこか行っちまって…」
折原は何でいつも変な事言って勝手な行動をしがちなの?お父さんとデュエルした時も、自分の都合で勝手に割って入ってきたし。あれはあれで良かったのかもだけど…。
てか、日高さんも誰か起こしてあげなさいよっ!
「結局、待ち合わせ場所には俺と拓実と奏さんと松岡パイセンだけになっちまって、亮が待ち合わせ場所に来るの待ってたんだけど…」
何かあったんでしょうね。
だってメンツがメンツだし。
「そこに理奈ねーちゃん達が来てよ?
ちょっと世間話して『さすがにお腹空いてきたよね』って拓実が言ったら、『あら?だったらこれを食べるかしら?ちょっと作りすぎたし困ってたのよ』って理奈ねーちゃんが俺達に弁当をくれたんだ!」
え!?そ、そんな…!
まさか江口以外はみんな死んじゃったの!?
「こっから俺の回想シーンに入るんだけどよ?もやもやもや。ボリボリ」
こいついつも回想シーン入る時こんな感じなの?
「いいんですか?すみません、今朝はバナナを3本しか食べてないんで腹が減ってまして。あ、これ奏さんな。
ええ、もちろんよ。好きなだけ食べて頂戴。これは理奈ねーちゃんな」
回想シーン入ってないじゃない!
しかも2人の声色とかイントネーションとか真似てる感じだけど、びっくりするくらい全然似てないし!
「お、おい内山、どうする?せっかくのご厚意だが、弁当箱の中身全部黒いぞ?
う、うん…黒いって言うか黒光りしちゃってるよね」
あ、内山は全然似てないけど松岡はちょっと似てるかも。
・
・
・
「むっ!?こ、これは…美味い!!」
「お?奏さんマジでか?俺もいただきまーす!……おお、さすが理奈ねーちゃんだぜ。めちゃくちゃうめぇ!」
「ほ、本当かしら?ほ、褒めてもらえて嬉しいわ」
「もっと頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ!俺も俺も!もっと食わせて欲しい!」
「も、もちろんよ。良かったら全部食べて頂戴」
「全部!?良いのですか!?」
「おお!これもこれもうめぇぞ!」
「む!ずるいぞ江口!内山、松岡お前達も頂くといい。こんな美味い弁当をせっかく頂けるんだ。む、渚さんのこれも美味いですね」
「良かったぁ~。理奈のは美味しいけど私のはイマイチとか言われたらどうしようかと思ったよ~」
「美味い!美味い!」
「ま、松岡さん…」
「ああ、俺も正直腹減ってるしな。せっかくだから頂かせてもらうか」
「そ、そうですね。渉も奏さんもあんな美味しそうにがっついてますし…」
「「俺(僕)達もいただきます!」」
・
・
・
って!結局回想シーンを挟んだの!?
さっきの1人モノマネ大会いらなかったじゃん!
「そんで1口食べた拓実と松岡パイセンは顔を青くしながらトイレに行って帰って来なくなってよ?弁当も食べ尽くした頃に奏さんは『凄い…身体中の毛穴という毛穴からパワーがぷしゃあぷしゃあと溢れ出てくるようだ…今の俺ならヤツと闘っても勝てるかも知れん…』とか言いながら、身体中から炎みたいなの出しながらどっか走って行っちまったんだ。
理奈ねーちゃん達は俺達が弁当全部食っちまったから、何か食べ物出店してるってとこに食いに行くって別れたんだよ」
え?
江口と豊永さんで理奈と渚の料理全部食べちゃったの?
内山と松岡はまぁ何というか御愁傷様って感じだし、豊永さんは大変な事になっちゃったみたいだけど、江口は大丈夫なの?こいつもしかして不死身?
「む?って事はもしかして渉がさっきからボリボリ食べてるのって…」
「ん?美緒?おお、これは理奈ねーちゃんが作った…何だっけ?何か忘れたけど理奈ねーちゃんの手料理だぞ!」
「な、なんと羨ましい!むしろ渉が憎い!
理奈さんの手料理をここぞとばかりに、見せびらかしながら食べるとは…。どうもさっきから神々しく輝く物を食べてるなぁとは思ってたんですよ」
神々しく輝いてるかな?あれ。
あたしの目には禍々しく澱んでいるようにしか見えないんだけど…。
「はっはっは!残念だったな!これが最後の1個だぞ!手触りはグニョグニョして柔らかさを感じるのに、口に入れたらしっかりと歯ごたえがあって、めちゃくちゃ美味いんだ!」
「クッ…羨まし過ぎる…。私も是非とも食べさせて頂きたいですけど、さすがに渉の食べかけとか嫌だし…」
「美緒も食べたかったか?食べかけだけどいるか?」
「…さすがに渉の食べかけとか死んでも嫌だし」
「あれ?大事な事だから2回言った?いや違うな。死んでも嫌だしにパワーアップしてるし。ボリボリ」
渉の食べかけってより理奈の料理ってのがヤバいよ?
美緒も1度食べてみたら現実が見えるようになるかな?
「あれ?そういや江口くん達ってライブ大会観に来たんだよね?待ち合わせって何時にしてたの?もう6回戦始まるし、決勝始まってから結構時間経ってるよ?」
「おお!それな!
実は理奈ねーちゃん達とずっとぼっちで亮の到着を校門で待ってたんだけどよ!周りの『あの子せっかくの文化祭なのに1人なのかな?』とか『好きな女の子と約束してたのにぶっちされたんじゃない?』とか色々噂されてよ!さっきまで校舎裏に隠れて泣いてたんだ!」
ぼっちで校舎裏で泣いてるとか…。
それってあたし達どう反応したらいいの?
それより秦野はまだ来てないの?本当に走って来る気?
-ピンポンパンポーン
『ライブ大会6回戦に出場するバンドは…』
あ、あたし達が呼ばれちゃった。
「お、雨宮達の出番みたいだな!
そろそろ亮も到着してるかな?
ちょっと待ち合わせ場所覗いてから行くから、少し遅れるかもしれねぇけど、みんな頑張れよな!」
いや…秦野もさすがにもう来てるんじゃない?
「渉。理奈さんの手料理を自慢してきた罪は重いから」
「お?激励に来て何で俺蹴られたんだ?」
「ちなみにさ?渉は恵美のいるあたし達Glitter Melodyと明日香ちゃんの居るパスビプラベマイボのどっちを応援するの?」
「お?そりゃどっちも応援してるぞ!いつか俺達ともデュエルしてもらいたいもんだぜ!」
「ハァ…そんなだから彼女出来ないんだよ?そこは『ふっ、俺が応援してるのは睦月の居るGlitter Melodyだぜ』とか言ってたら面白い事になったのに。彼女は出来ないんだけどね」
「いや、それなら面白いとかより、どう言えば彼女が出来るかの方が聞きたいんだけど?」
「いやー江口くんも面白いよね!私のハートがビンビン刺激されるよ!」
「お?マジか?ハートがビンビン刺激されるとか、もしかして俺に惚れちまったか?あははは」
「ちょっと…マジでそういうのは止めてくれない?」
「…何でさっきまでテンションマックスオーラ出してたのに、そんな冷たい目とトーンでそんな事言うの?せっかく激励に来たのに泣きそうなんだけど」
「…どうせなら幼馴染みの私達を応援してくれたらいいのに」
「…俺何かヤバい事した?何で恵美にまで蹴られるの?」
なるほど。
確かに江口にはタカに似た素質を感じるよ。
タカも学生時代はこんなだったのかな?…いや、ないか。江口はポジティブマンだけどタカはネガティブマンだし。
「渉くんもさ?たか兄がBREEZEだった時みたいに、カッコ良く歌えたらいいなぁとは思うけど、ボクとしては変な所はたか兄に似て欲しくないからね?」
「お?井上?いや、今は小松なのか?
それってわざわざにーちゃんがBREEZEだった時って言う必要あったか?にーちゃんはBlaze Futureでもカッコいいと思うんだけど…」
「幼馴染みも大事かも知れないけど、今は今のクラスメートを応援するべきでしょうが!」
「何で明日香にまで蹴られるんだ?」
「やれやれ。虎次郎も何でこんな男をライバル視しているんだろうね。あ、もしかしたらアホ選手権のライバルみたいな感じなのかな?」
「何でウグイスは俺をアホ呼ばわりしてるんだ?まぁ、虎次郎はアホっぽいよな!どんまい!」
次はあたしかぁ。
あたしは別に江口に掛けてもらいたい言葉も、江口に掛けたい言葉もないんだけど…。
「…」
「…」
「……」
「……」
「……って!あたしには本当に何もないわけ!?」
「いや…雨宮は俺よりにーちゃんからの応援の方が嬉しいだろ?」
「あっそ。それよりあんたさ?あたしの事をどこまで掴んでる訳?」
「いや、そう言われたら考えちまうけどそうだな…。
取り敢えず雨宮に理不尽な暴力を受けたら、ねーちゃんや理奈ねーちゃん、奈緒ねーちゃんに相談すればいいかなぁってくらいかな!」
「そっか」
あたしは取り敢えず江口が変な事を渚達に言わないようにと、理不尽な暴力を持って身体に恐怖を叩き込んだ。
・
・
・
そして今、あたしはステージの上に立っている。
予選のときも思ったけど、やっぱりここから見る景色は最高だね。
今日のあたしはボーカルもやるからセンターに立っているけど、あたしの横に渚が居てくれたら…あたしの横に美緒が居てくれたら…そう思うと少し感慨深くなる。
今日のあたしの横には、こんなライブ大会でもないと、本当なら一緒に立つ事はないだろうひーちゃんが居る。
バックには井上と明日香。
井上ともこんな事がなかったら、後ろを任せるなんて事はなかったんだろうね。
もちろん緊張もあるけど、あたしは身体から沸き上がる火照りで暑いとまで思ってる。
さっきまでの腹痛もいつの間にかなくなってるしね。
クスッ。
そういやさっき舞台袖に居た時にはお腹も痛かったな。
そんなあたしを見かねてか、ひーちゃんは『今日のセッションはせっかくだからと僕も楽しみにはしてたけど、しーちゃん本当に顔色悪いよ?棄権した方がいいんじゃない?』と声を掛けてくれた。
何だかんだとあたしの体調を心配してくれるひーちゃんは、やっぱりあたしの昔馴染みのひーちゃんだ。
美緒達Glitter Melodyも準備万端って感じだ。
だけど今は負ける気が全くしない。
…いける。今のあたし達なら。
\\ワァー!ワァー!//
オーディエンスの歓声が心地いい。
「…いくよ!パスビプラベマイボ!Artemisのカバーで『
♪~
♪♪~
♪♪♪~
「ハァ…ハァ…ふぅ」
今の演奏はバッチリだった。
井上はArtemisの曲はあんまり練習してないって言ってたけど、ひーちゃんが『僕の経験談からだとみんながやれる曲目からセトリを選ぶなら、最初はArtemisの星の鼓動がいいと思う。僕らはカバーだからね。いきなりビートの激しい曲でオーディエンスの気持ちをこっちに向けた方がいい』と、アドバイスをくれて星の鼓動をする事に決めた。
デュエルの経験が多いあたしからしても、初っぱなでテンション上げてオーディエンスをノらせた方がいいと思ったし、明日香もその意見には同意だった。
井上だけはArtemisよりBREEZEの曲の方が、失敗もないし上手くに出来るのに!とゴネてたけど。
しかし、美緒達のGlitter Melodyの選曲もさすがだった。
Glitter Melodyはもちろんオリジナルの曲を演奏したけど、あたし達がビートの激しい曲を持ってくると予想していたんだろう。
Glitter Melodyも負けじと激しいロック調の曲で攻めてきた。
よし…次は。
「聴いて下さい!『
これも実はひーちゃんの選曲。
Glitter Melodyが激しいロック調の曲で対抗して来たら、更に激しい曲で迎え撃とうという事でのチョイスだ。
ちなみにこれはBREEZEのカバーなんだけど、ひーちゃん曰く『BREEZEの曲なんてみんな知らないだろうから、わざわざカバーとは言わず、さも僕達のオリジナルですって感じでやっちゃえばいいんじゃない?さすがにオリジナルって言っちゃうのは問題だろうけどね』との事で、あたしはカバーだとかオリジナルだとか言わず、曲名だけをコールしたのだ。
♪~
♪♪~
♪♪♪~
いける!
さすが井上と明日香だ。
英治さんや拓斗さんに鍛えられてただけあるね。
さっきのArtemisの曲の時より、音に歪みもないしスムーズに流れてる。あはは、問題はあたしか…。
でもやっぱりさすがひーちゃんだな。
BREEZEの曲なんて大して練習もしてないだろうに、まるで自分達の曲かのように完璧にコピーしてる。
これがクリムゾンエンターテイメントの…interludeのベーシストの力か。
……ん?んんん!?
ま、待って…。
あたしは急に猛烈な腹痛に襲われてしまった。
えええええ…まさかこんな時に…。
いや、落ち着け頑張れあたし。
今はギターと歌に集中しないと…。
-ドドドドドドドド…
\\えっほ!えっほ!えっほ、ほほい!//
待って。
あたしの腸内をヤバい奴らが全力大行進してる音と謎の掛け声が聞こえてくる。
まじで何なのこんな時に…今日一でお腹痛いんだけど。
これはマズイ。果てしなくマズイ。
こんなライブ大会のステージ上で粗相なんてしてしまったら、とんでもない伝説を生んでしまう事になる。
いや、今まさにとんでもない物があたしのお腹から産まれそうなんだけど。
-ポロロ~ン
あ、しまった!?
お腹が痛くて指に力が入らなくてギターが…。
ってヤバいヤバい!次の歌詞ってどんなだっけ!?
歌詞まであたしの頭から飛んじゃったんだけど!?
猛烈な腹痛と闘いながら…歌詞も違和感ないように何とか繋げ…あたし達の2曲目は終わった。
「ちょっと志保!どうしたのよ、さっきの演奏…ってヒィィィ!あ、あんたこの世の者とは思えないくらい顔が青いわよ!?」
「あぅ…あぅあぅ…」
「うわぁ…志保本当に大丈夫?汗がまるで滝のように流れてるけど…」
「…やっぱり棄権しよう。何とか2曲目はやりきる事は出来たけど、3曲目はやりきれないでしょ。ここまでやれたなら御の字じゃない?」
「あぅあぅ…あぅあぅあぅ…」
嫌だ。棄権なんてそんな負け方は。
さっきの2曲目はあたしがとちっちゃったせいで、圧倒的に負けてるだろうし、1曲目もそんなに大差はないだろうから、このまま3曲目をやっても勝てないかも知れないけど…。あたしは今のこのメンバーで最後までやりきって、それで負けたい。
あたしは上手く発声も出来てないから、ひーちゃんの袖を掴みながら一生懸命に首を横に振った。
「やれやれ。言い出したら止まらない所は昔から変わってないね。ふぅ…いいよ。しーちゃんが伝説を作ったら、僕も同じステージに立ってた者として笑われてあげる」
いや、そんな伝説は出来れば作りたくないけど。
「ま、あたしも付き合ってあげるわ。今は同じバンド。それにクラスメートだしね」
明日香…ありがとう。
「あー良かった。今のボクは栞ちゃんだし」
井上?
あたし達はもう1曲やろうって事に出来たけど、あたしがこんなんだから、美緒達もあたしの事無様だなって思ってるかもね…。
あたしはソッと美緒の方を見た。
美緒もあたしの方を見ていたけど、すぐにオーディエンスの方を見て叫んだ。
「では私達の3曲目。聴いて下さい。
これが私達Glitter Melodyの全力の曲!『
美緒…。
全力の曲って…。そっか。こんなあたしが相手でも、手を抜いたりなめプしたりせず、本気の本気でデュエルしてくれるんだね。嬉しいよ、ありがとう。
あたしがそう思った時、さっきまで猛烈にお腹が痛かったのに、急激にその痛みが引いた。
今はスッキリしている。
…ちなみに伝説を作っちゃった訳じゃないからね。
不思議と痛みが引いてくれただけで。
ひーちゃんがスタンドマイクに向かって歩き、曲名をコールしようとした時、あたしはひーちゃんとマイクの間に急いで割って入り、精一杯の声で叫んだ。
「聴いて下さい!あたし達の大好きな曲!BREEZEのカバーでFuture!」
…本当はひーちゃんはラストまで激しくいこうって、BREEZEのヴァンパイアを押してたんだけど、美緒達の全力の曲を聴いて、あたしも大好きな曲で決着をつけたくなった。
予定とは違ってるけど、ひーちゃんも明日香も井上もFutureは出来るもんね。
はは、ひーちゃんには『やれやれ』って顔をされちゃってるよ。
♪~
♪♪~
♪♪♪~
あたし達もGlitter Melodyも3曲の演奏を終え、姫咲先輩がステージの上で得点の発表をしようとしていた。
2曲目はあたしがやらかしちゃったから、大差がついているだろうし、負け確だとは思ってるけど、1曲目と3曲目では勝ててたら嬉しいな…。
「それでは!1曲目の得点を発表します!
Glitter Melody52点!パスビプラベマイボ48点!」
うっ…1曲目も負けちゃってる…。
1曲目の時はお腹も痛くなかったし、あたしも万全の状態だったのに…。
「それでは2曲目の得点を発表させて頂きますわ!」
あたしは途中からまともに演奏も歌う事も出来なかった。ごめんね、ひーちゃん、明日香、井上。
「Glitter Melody68点!パスビプラベマイボ32点!」
「「「「~~!!」」」」
やっぱりすごい大差がついちゃった…。
合計だとGlitter Melodyが120点、あたし達が80点。
次の採点があたし達が70点で美緒達が30点より差がないと、あたし達の負けだ。
Glitter Melodyの3曲目もさすがと言わざるを得ない程の演奏だった。いくらなんでもここから逆転は無理だろうね。
「そして3曲目の発表ですわ。
Glitter Melody54点!パスビプラベマイボ46点!」
\\ワァー!!おぉー!!//
…!?
あはは…3曲目もあたしは万全の状態だったし、あたし達で1番上手くやれそうな…大好きなFutureをやったのに…これは完敗だね。
1曲目も3曲目も完敗だった。
2曲目の時にあたしが万全だったとしても、きっと負けていただろう。
だから負けたという事には納得もしてるし、悔しいっより、さすがGlitter Melodyだって気持ちの方が大きい。
だけどもしかしたら…あたしが万全だったら…。
試合には負けたとしてもストレート負けって事はなかったかも知れない。そう思うと自分の不甲斐なさがすごく…悔しい…。
「良かった」
ひーちゃん?良かったって何よ…。
あたしは泣きそうになるのを我慢しながら、ひーちゃんの方を見た。
「今回は完全にストレート負けだからね。しーちゃんの体調のせいじゃないよ。僕がラストにFutureをやる事も懸念してセトリを組むべきだった」
ひーちゃん…。
「そうね。正直茅野先輩や栞が居ても、今日のGlitter Melodyには勝てなかったと思うわ。
私もセッション馴れしてないから、カバー曲の華やかさを表現しきれなかったのも敗因の1つね。藤川さんのキーボードテクには学ばされる所もあったわ」
明日香…。明日香がそんな事を言うなんて…。
「やっぱりボクも栞ちゃんの真似っこじゃこれが限界だよね~。栞ちゃんならこうするだろうなってのばっかり意識しちゃってたし。シフォンじゃないとドラマーとしては全然だっての痛感したよ」
井上まで…。
みんなあたしに気遣ってくれてんだよね。
…だったらあたしがみんなに掛ける言葉は。
「本当あたしもごめんね。
最近は渚と美緒に任せっきりで歌の練習サボり気味だったしさ?あたしももっと喉を鍛えとけば良かったよ。ま、あたしギターだけは完璧なんだけどね」
腹痛の事は言わず…。
ボーカルとしての未熟者さを"言い訳"として使った。
今のあたし達は、今のあたし達としてやりきったんだもんね。
「志保…」
あたし達が話をしているとGlitter Melodyのメンバーがあたし達に声を掛けてきた。
「悲観する事はないですよ?私達は誰が相手でも負けるつもりありませんし。しょうがないです」
美緒?
「あはは、もしかしてしーちゃんもひーちゃんもあたし達に勝てると思ってた?しーちゃんとひーちゃんとデュエルするのは面白かったけど、あたしは去年も優勝してるしね」
え?睦月って去年優勝してるの!?
去年ってまだ1年でしょ…!?
「あははー。睦月は去年はサポートギターして目蔵川先輩達ともバンドやってたからね。去年はうちの学校だけでの大会だったけど、そのバンドで優勝したんだよー」
まじでか。
gamutも部員数多いって言ってのに、そんな中で優勝してるなんて…。
さすが翔子さんに子供の頃から鍛えられてただけあるね。翔子さんも昔のお父さんとのデュエルなら勝ちまくってって話だし。
「そうですよ。それに志保さんもDival。
雲雀さんもinterlude、明日香さんもLazy Wind、井上くんもAiles Flammeとして、私達とデュエルしてたら、もしかしたら私達も勝てなかったかもしれませんし。
セッションの差っていうのも大きな要因だったと思いますよ」
恵美…。
「「恵美は何を言ってるの?それでも私(あたし)達が負ける訳ないじゃん」」
美緒?睦月?
あたし達は負けはしたけど、こうやってデュエルの後もバカみたいな話をして…。
今日は負けちゃったけど、今、音楽をやってる事がすっごく楽しいと思ってる。
あの日あの時、渚に見つけてもらえてなかったら、あたしはつまらない音楽ばっかりやってたんだろうな。
ライブ大会の6回戦はGlitter Melodyの勝ちで終わった。
あたし達は負けちゃってはいるけど、控え室からでも舞台袖からでもライブ大会を見る事は出来る。
なのにひーちゃんは…。
「負けちゃったし僕の役目はここで終わりでしょ?
僕はここから抜けさせてもらうよ。ここからはクリムゾンエンターテイメントとして、しっかりと偵察させてもらう」
そう言って控え室から出て行った。
もちろん、あたしも明日香も井上も、Glitter Melodyや天音や結月達も、せっかくだから今日は一緒にと声を掛けたけど、ひーちゃんは何も言わず出て行ったのだ。
ひーちゃんはクリムゾンエンターテイメントだし、敵対する相手ではあると思うけど、また一緒にセッションできたらいいな。
----------------------------------------
「ふぅ…やれやれだね。やっと自由になれた」
僕はしーちゃん達と別れて1人で校舎裏を歩いていた。
「確かに文化祭で賑わっているとはいえ、この辺りは人通りがないね。江口 渉もここでひっそりと泣いていたみたいだけど、確かにここなら…うぅ…う…ヒグッ…うぇぇぇん」
僕は…独り言を呟ききる前に泣き出してしまった。
しーちゃん達とのセッションはとても心地好くて、むっちゃん達とのデュエルはとても楽しかった。
せっかくライブ大会の参加バンドとして、控え室や舞台袖から各バンドの演奏を見れるのなら、その場に留まってクリムゾンエンターテイメントとしての仕事を全うするのが最善だっただろう。
でもあの空間はあまりにも素敵過ぎて、ずっと僕が求めていたもので、そしてとても眩しかった。
あのまましーちゃん達と一緒に居たら、もうコッチには戻りたくなくなって、そしてみんなに甘えて、助けをもとしまう。
僕が助けを求めたら、きっとしーちゃん達は僕を助けてくれるだろう。
けどしーちゃん達の相手。
クリムゾンエンターテイメントは、海原さんは危険過ぎる。助けを求めてしまったら、しーちゃん達の自由な音楽の邪魔になる。
だから僕はもうあそこには居られない。居る訳にはいかない。
「うぅ…わぁぁぁぁん…ぁぁ…」
涙と嗚咽が漏れ出てくる。
ここに誰も居なくて良かった。
ひとしきり泣いてしまった後、そっと僕のベース。
モンブラン栗田からクリムゾンエンターテイメントが奪ったというIrisベース『雷獣』に目をやった。
そういえばみんなから離れる時、佐倉 美緒が僕を追い掛けてきたっけ。
『まだ何か用があるの?』
『いえ、音楽はやるのも自由ですが、聴くのも自由ですので。私達が一緒にと言っても貴女が拒むのならしょうがないとは思ってます』
『そう。だったらキミも控え室に戻った方がいいんじゃない?そろそろ7回戦も始まるでしょ?』
『まぁ…聞きたい事を聞いたら戻りますよ』
『聞きたい事?』
『どうしてさっきはIrisベースを使わなかったのですか?まぁ、使った所で私達が勝ってたでしょうけど、そこがわかりませんでして。
クリムゾンエンターテイメントからIrisベースを渡されている。それって雲雀さんはIrisベースの声が聴こえているからですよね?』
『何?探偵にでもなったつもりかな?
Irisベースを使わなかったのは、このライブ大会は僕にとっては余興でしかないから。そしてクリムゾンからこのベースを託されたのはたまたまだよ。僕が実質クリムゾンエンターテイメント内で最強のベーシストだからね』
『いつもよりずいぶんと口数が多いですね。それにクリムゾンエンターテイメントには、まだかつての四天王だった九頭竜って人も居るんじゃないですか?』
『口数が多いって…。キミが聞いてきたから親切心で答えてあげただけだよ』
『へー』
『…ずいぶん興味薄そうだね』
『いえいえ。探偵の真似事をするつもりはありませんけど、何となくわかりましので。本音は話さないんだろうなぁ~って』
『そ。だったらもう用はないよね?僕は行かせてもらうよ』
『…モンブラン栗田さんとは時々連絡させていただいてまして』
『?』
『Irisベースって。素直に音楽が好きって気持ちでぶつかり合わないと、Irisベースも本当の言葉を伝えてくれないらしいですよ?怖がって引きこもっちゃうらしいです』
『…そ。僕には関係ないよ』
正直な所。
佐倉 美緒の言葉は重かった。
そしてきっと色々見透かされているんだろうとも思った。なかなか勘の鋭い子だね。
…僕は意図的にIrisベースの声を聞かないようにしている。初めて雷獣を触った時、Irisベースの声は確かに聞こえたから。そして、意図的に聞かないようにしているのに、同じ言葉が時折聞こえてくる。
『一緒に壊そう』
そんなベースを…。
せっかくのしーちゃん達との演奏で…使える訳ないじゃない……。