バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第8章 旅行行こうぜ!

8月13日朝7時15分。

俺は今電車に揺られている。

 

「いえ~い、シフォンちゃんがババ引いた~」

 

「ちょっ!盛夏ちゃん!止めてよ!」

 

「ふぅん…シフォンがババ持ってんだ…?

貴、ババ引いたら怒るよ?」

 

「志保、お前あれだよ?ババってジョーカーだよ?ジョーカーって切り札なんだぜ?」

 

「たか兄、そんなのいいから早く引いて」

 

あ~…何で俺は夏休みの早朝から電車でババ抜きやってんだろ……。

 

そうか…夕べ…。

そう…夕べファントムに晩飯を食いに行ったから…。

 

 

 

 

8月12日。

俺は会社が夏休みだというのに休日出勤をしていた。休日出勤はいいね。職場に一人だから好きな音楽を聴きながら仕事をする事が出来る。

 

俺の名前は葉川 貴。

Blaze Futureというバンドでボーカルをやっている。

 

今日も1日よく頑張った俺!

そう思いながらライブハウス『ファントム』に向かっていた。

 

実は今両親は母親の実家に帰っている。

実質上一人暮らし状態の俺は晩飯を作るのも面倒くさいので、ファントムで晩飯を済ませようとしているのだ。

 

ファントムの休日は、ライブのない日の中で英治の気分に寄って変わる。昼に連絡した時に今日はオープンしていると聞いた。まぁ、閉めてるなら閉めてるで一緒に飲みに行くとかしただろうけどな。

 

そんな事を考えながら歩いているとファントムに着いた。

今日の定食は何かなぁ?とか考えながら店内に入ると、そこにはAiles FlammeのドラマーのシフォンとDivalのギタリスト雨宮 志保が居た。

 

「あ、たか兄だ。やっほー!」

 

「お、貴。今日は確か休日出勤だっけ?今日もお疲れ様」

 

「おう、シフォンも志保もお疲れさん。お前ら何やってんの?渉達とか渚達は一緒じゃないのか?」

 

「亮くんは家にいるかもだけど渉くんと拓実くんは今日からお泊まりで短期バイトなんだよ」

 

「あたしとシフォンはここで夏休みの宿題を一緒にやってんの。あ、渚に会いたかったとか?」

 

「ほ~、学生さんは大変ですな」

 

俺はそう言って空いてる席に座った。

さて、今日の定食は何かな?

 

「よいしょっと」

 

「たか兄はファントムで晩御飯食べるの?」

 

何故かシフォンと志保が俺の座ったテーブル席に座ってきた。

 

「お前ら何やってんの?」

 

「え?貴もしかしてボケたの?最近暑いもんね」

 

「もう!さっき志保がボクと一緒に夏休みの宿題やってるって言ったでしょ!」

 

「俺が聞きたいのはそれじゃねぇよ。何で席移動してんの?って事だな」

 

「「貴(たか兄)とお喋りしたかったから」」

 

なるほどな。何か言うのも面倒くさいしこのままでいいや…。

 

しばらくすると英治がお冷やの代わりにビールを持って来てくれた。

英治。お前は最高の親友だぜ。

 

「おうタカ。何にするか決まったか?今日初音は三咲に宿題見てもらってるから俺の手料理だけどな」

 

「微妙に食欲失せる言い方すんなよ。今日の定食は何だ?」

 

「初音がいないからな。今日の定食は休みにしてんだよ」

 

「あっそ。じゃあ質問を変えよう。俺は何なら今日食う事が出来る?」

 

「あ~、色々材料はあるからな。食いたいのあるなら適当に作ってやるぞ?」

 

「あ~…そう来たか。ならどうしよっかな。食いたいのって聞かれるとなぁ」

 

「あ、ならさ。あたしが作ってあげようか?英治さんいい?」

 

「お、志保が作ってやってくれるのか?それは楽出来るしありがたいな」

 

「そういや志保は帰らなくていいのか?渚が待ってんじゃねぇの?」

 

「渚には今日はシフォンと晩御飯食べて帰るって言ってあるからね。渚は理奈と奈緒とまどかさんとそよ風にご飯に行ってるんだよ。あの4人は明日から渚の実家に遊びに行くしね」

 

「あ~…奈緒とまどかもそんな事言ってたな。理奈と奈緒は渚と仲良いから実家に遊びに行くのもわからなくはないが何でまどかも?」

 

「さぁ?シフォンも晩御飯はあたしの料理でいい?」

 

「え!?いいの!?ボクも志保の料理がいいよ!」

 

「志保~。あたしも志保のご飯食べたい~」

 

「「「「盛夏(ちゃん)!?」」」」

 

いつの間にか俺達の席に盛夏も座っていた。座っていたって何!?ほんといつの間に来たの!?

 

「貴ちゃんも英治ちゃんも志保もシフォンちゃんもちゃお~」

 

「お前物音も立てずにいつの間に来たの?何?前世忍者か何かなの?」

 

「フッフッフ、あたしのステルス機能は無敵なのだ」

 

「じゃあ4人分作っちゃうか。盛夏も何でもいい?」

 

「好き嫌いないからあたしも何でも大丈夫~」

 

「オッケ」

 

そして志保は英治と一緒に厨房に向かって行った。

 

「いや~、JKの手料理が食べれるとか生きてて良かったですな~。ね、貴ちゃん」

 

「あ?微妙に『そうだな』って言いにくいコメントは控えてくれませんかね?それより盛夏は何でここにいるの?」

 

「あたしはファントムで晩御飯食べながら貴ちゃんからの宿題をやろうと思って~。お父さんとお母さんは田舎に帰省中だしね~」

 

俺からの宿題。

それは奈緒と盛夏とまどかに出した宿題だ。

今はもう俺がBREEZEのTAKAだった事は みんなが知っている。そしてBREEZEが解散する事になった理由。俺の喉の事も。

 

もしかしたらまた喉にダメージが来て思いっきり歌えなくなるかも知れない。

そういう建前の元、BREEZEの時にも考えていたが実現出来なかった演出。

 

それぞれメンバーが歌うソロ曲。

それをこの夏休み中に1人1曲は作る事を宿題にしていた。

まぁ、歌詞さえ仕上げてくれたら曲作りはもちろん手伝うけどな。

 

「そっか。それで?何かイメージでもあんのか?」

 

「ん~ん、全然。ロックにするかバラードにするかポップな感じにするかも決まってない~」

 

「まぁ、曲作りは最初はみんな難しいわな。取り合えず頑張れ」

 

「押忍!」

 

「ほぇ?盛夏ちゃんも曲作りするの?」

 

「そうなんだよ~。貴ちゃんからの宿題でね~。奈緒もまどかさんも1人1曲作るって事になってさ~」

 

「へぇー。ボク達も曲作りっていうか歌詞作りしないとなぁ。亮くん達にも歌詞作るって言っちゃったし…」

 

「あ?Ailes Flammeってあれからまだ曲出来てないの?」

 

「そうなんだよ~。たか兄、何かいい方法ない?」

 

「それなら『ボクは男の子』とか歌詞作ってみるとか?」

 

「まじめに聞いてるのに…」

 

「まじめだっつーの。そもそも渉達に『ボクは井上 遊太です』って何度か打ち明けてんのに信じてもらえなくて困ってんだろ?」

 

「それはそうなんだけどさ…」

 

「はい、お待たせ」

 

そんな話をしていると志保が料理を運んで来てくれた。

ハンバーグを作ってくれたようだ。

 

「みんなで何の話してたの?」

 

「ああ、曲作りの事をな」

 

そして俺達は志保の料理をありがたくいただきながら、志保にさっきまでの曲作りの事を話した。

 

「あ~…なるほどね。理奈もいつも大変そうだしなぁ~。って、貴!それってかなり無茶振りじゃない!?」

 

「ハンバーグ美味しい」

 

「え?あ?う……うん、ありがと……って違うよ!曲作りの話!」

 

「あ?盛夏ならやれるよな?」

 

「ハンバーグ美味しい~」

 

「ほらな?」

 

「何が『ほらな?』なのよ!盛夏もありがとう!」

 

うん、ハンバーグ美味しい。渚が毎日絶賛する腕前なだけあるな。

 

「ははは、懐かしいな、タカ。お前もバンドやりたての頃は曲作りに毎日悩んでたもんな。それより俺のハンバーグはないのか?」

 

「俺は前を見て生きてるからな。過去なんか振り返らないので忘れました。ハンバーグ美味しい」

 

「おっちゃんおっちゃん!たか兄はそんな時どうやって歌詞とか曲を作ってたの?」

 

「なんか適当だったぞ?」

 

「いや、適当じゃないから。ちゃんと考えてたからね?」

 

「そういや歌詞作りの為に俺らで合宿行ったり、タカは一人でふらふら旅行行ったりしてたよな?」

 

「まぁ知らん土地に行ったり遊んだり観光したりして思いつくような事もあったしな。最近は家でゴロゴロしてる時のがインスピレーション降りてくるけど」

 

「う~ん、合宿かぁ」

 

「ふぅん…旅行…か」

 

「おぉ~!それだ~!」

 

「「「貴(ちゃん)(兄)!!」」」

 

「断る」

 

「まだ何も言ってないのに~」

 

「そうだよ!取り合えず聞いて!」

 

「そうそう!貴にとっても悪い話じゃないって!」

 

「あ?聞かなくても嫌な予感しかしないんだけど?どうせあれだろ?旅行に連れてってくれとかだろ?」

 

「さっすが貴ちゃん!」

 

「ね?いいじゃんいいじゃん!連れてってよ!ボク旅行行きたい!」

 

「ほら、渚達は明日から旅行なのにあたしは何処も行けないしさ?お願い!」

 

はぁ~…最高にめんどくせぇ…。

せっかくの休みですよ?

何とかして断らないとな…。

 

「大体だな夏休みというのは夏に休みを……」

 

「「「そんなのいいから」」」

 

「貴…あたしね…。小さい頃からお父さんとお母さんも巡業ばっかりでさ。お母さんが死んじゃってからは…お父さんはクリムゾングループに入ったから…夏休みに旅行なんてした事なくて……ぐすん。いつも…寂しかったの…ぐすん」

 

え~…?泣き落し…?

志保、お前そんなキャラじゃないよね?

 

「貴ちゃん貴ちゃん。8月8日なんだけどね?奈緒から飲み会の連絡なかったぁ~?」

 

「あ?8日?そういやあったな。お誘いじゃなかったけど。女子会しま~すとかの報告な」

 

「8月8日はあたしの誕生日だったんだ~。奈緒とまどかさん、渚と理奈ちと香菜にもお祝いして貰ったんだよ~。

ああ!それなのにそれなのに!!

我がBlaze Futureのバンマス様はお祝いをしてくれなかったのでした~。シクシク」

 

え~…?女子会しま~すとかしか聞いてないし盛夏の誕生日とか知りませんでしたけど?

 

「たか兄!」

 

「あ?お前はどんな泣き落ししてくんの?」

 

「旅行連れて行ってくれるならボクずっとシフォンの格好しとくよ!お風呂も!寝る時も!」

 

な、なんだと!?

お風呂でもベッドでもだと!?

 

確かにこのメンバーで旅行となると、志保と盛夏の部屋にシフォンを泊まらせるわけにはいかない!間違いがあっても大変だからな!

 

そうなると志保と盛夏が同じ部屋に。俺とシフォンが同じ部屋という事になる?

いやん、間違いが起こったらどうしよう!?

いや、そもそもシングルで部屋取ったら1人じゃん?

 

「だからって襲って来たら通報するからね?渚さんとまどか姉に」

 

何でその2人をチョイスするの?

俺の人生終わるフラグしか見えない。

 

「ね?貴!お願い!夏休みの思い出を作って?ぐすん」

 

「あたし、貴ちゃんにもお祝いして欲しかった~。お祝いに旅行連れてって~。シクシク」

 

「行きたい行きたい行きたい!旅行に行きたいよぉぉぉぉ!!」

 

「め…めんどくさ……」

 

 

 

 

 

そうして俺は…。

ってか俺達は8月13日から15日までの2泊3日の旅行に行く事になった。

何でこうなった!?

 

電車から降りた俺達はバスに乗り換え徒歩で山道を登り、やっと目的地へと辿り着いた。

 

「「「おおおおおおおお!!!!」」」

 

「すごい!ねぇ!貴ここ?ここに泊まるの!?」

 

「夕べファントムでコテージの予約取ったとか貴ちゃんが言った時はそんな期待してなかったけど~。こんなお洒落な所に泊まれるとは~」

 

「夏休みまっただ中によくこんな所の予約取れたよね!さすがたか兄!」

 

「ああ、格安のコテージだしな。借りれるのは寝床だけで飯とかは自分らで用意しなきゃだし、スーパーとかある町まで遠いからな」

 

「えへへ、今更だけど楽しみになってきた!」

 

「ボクもボクも!」

 

「遊んだりはしゃいだりすんのもいいけどちゃんと曲作りもしろよ?俺は取り合えずコテージの鍵を受け取りに行ってくるからここで待ってろ」

 

「「「はぁ~い」」」

 

何なのこれ。ほんと俺学校の先生みたいじゃね?

まぁせっかく来たんだ。俺も曲作れるように考えてみるか。

 

そんな事を考えながら管理者の方からコテージの鍵を受け取り。

あいつらを待たせている場所まで戻った。

 

「やっばりあいつら居ないし…」

 

もうー!俺は早くコテージに入って荷物起きたいんだよ!何処行ったんだよマジで!!

 

 

 

 

それから俺はぼっちで30分程待ち合わせ場所でボケーっとしている。

その間女子大生グループやOLグループが何組通り過ぎて行った事か…。

不審者と思われてたらどうしよう?

あ、泣きそうになってきた…マジでほんと早く帰って来て…。

 

 

 

 

「綺麗な川もあったし水着持って来たら良かったね」

 

「そだね~。せっかく貴ちゃんに連れて来てもらったんだし、それくらいサービスしてあげても良かったかもね~」

 

「すっごくいい所だよね!ボク気に入っちゃった!」

 

それから更に20分程してからこいつらは帰って来た。

ここは大人としてちゃんと怒っておかないとな。うん。

 

「夜とかキャンプファイヤーもいいんじゃない?」

 

「おお~!いいねそれ~」

 

「でもたか兄がOK出してくれるか……」

 

「おいお前ら」

 

「あ、貴お帰りなさい!」

 

やれやれ、本当は旅行の初っぱなから怒るとか気が滅入るが…

 

「フン!」

 

ペシッ

 

「ん?貴?」

 

ポスッ

 

「お?貴ちゃんどしたの?」

 

ゴンッ

 

「いっっった~~~い!!」

 

志保の頭を叩き、盛夏の頭にチョップをしてシフォンの頭にゲンコツをお見舞いした。

 

「お前らな…。ここで待ってろって言ったろ?」

 

「え…?あ…うん」

 

「た…貴ちゃん…?怒ってる…?」

 

「た、たか兄…?」

 

ふぅ…めんどくせぇな…。

でもちゃんと言わないとな…。

 

「俺がここでぼっちで待たされるのは構わん。はしゃいだりし過ぎてハメ外すのもいい。志保も遊太ももうガキじゃねぇし、盛夏ももう成人してんしな。そこら辺はわきまえてんだろ」

 

志保も盛夏もシフォンも黙って俺の話を聞いている。

 

「でもな。万が一とかもあるし世の中何があるかわからん事もある。どっか行くならせめて連絡くらいはして行け。お前らに何かあっても助けに行く事も出来ねぇだろ」

 

「あ、あの…ご、ごめんなさい…」

 

「貴ちゃん…ごめんなさい。ちょっと調子に乗っちゃってた…」

 

「ひぐっ…ごめ…ごめ…ひぐっ…ごめ…なじゃい…うぅ……う、うわぁぁぁぁん!」

 

ふぁ!?シフォン泣かせちゃった!?

待って!泣くな!くっ、抱き締めて大丈夫だよ。って撫で撫でしてあげたい!

しかし…ここは…くっ…。許せ……。

 

「わかりゃいい。この辺この時期は野生のデュエルギグ野盗も出たりするしな。万が一には備えとかないと大変な事になるからな」

 

「や、野生のデュエルギグ野盗って何なの……?」

 

 

 

 

 

 

そして俺はやっとコテージに入り荷物を置く事が出来た。あ~…疲れたぁ。

 

このコテージにはリビングとキッチン、そしてツインの部屋が2部屋ついている。

それにリビングにはテレビもあるしフリーWi-Fiもあるしゆっくり休むか~。

 

って思ってたけどダメだ。

あいつらのせいで少し時間が押してるしな。

 

俺は重い腰を上げてリビングに降りた。

 

「お?」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

3人共リビングのテーブルでもくもくと何かをやっていた。

 

「お前ら何やってんの?」

 

「あ、貴。あたしとシフォンは夏休みの宿題で盛夏は大学のレポートだって」

 

「ああ、夏休みの宿題まだ残ってたのか」

 

「あたしもシフォンも自由研究だけだけどね」

 

「自由研究か…懐かしいな。どんな題材にしたんだ?」

 

「ボクも志保も絵日記だよ!」

 

は?絵日記?え?絵日記なの?

高校生が夏休みの自由研究で絵日記?

 

「あたしはもう8月25日くらいまでは書き終わってるよ」

 

いや、それ日記じゃないじゃん。

 

「そうでっか。盛夏もまじめにレポート書いてる時は静かだな」

 

「うん、あたしは基本的にはまじめだから~」

 

こいつらの邪魔すんのもあれだしな。

 

「そっか。まぁ、頑張れ。俺は晩飯作ってくるからキリのいいとこまで終わったらここに来てくれ」

 

そう言って俺は地図を渡した。

 

「え?今晩のご飯は貴が作ってくれんの?」

 

「ま、せっかくのキャンプだしな。さっきお前らに手をあげたお詫びも含めてな」

 

「お、お詫びって貴ちゃん悪くないし、あたし達が悪かったわけだし~…」

 

「たか兄。何作ってくれるの?」

 

「キャンプと言ったらカレーだろ?カレーに勝るキャンプ料理があるのか?」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!カレーだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「びっくりした!?何だ?盛夏はカレーが好きなのか?」

 

「カレーが大好き!」

 

「そうかそうか。なら期待してろ」

 

「貴一人で大変じゃない?あたしも手伝おうか?」

 

「いや、野菜はカット野菜あるし大丈夫だ。ゆっくり宿題やってろ」

 

「カレーだー!カレーだー!」

 

大はしゃぎする盛夏を横目に俺はコテージを出た。

参ったな。期待してろとか言っちゃったよ。久しぶりに気合い入れて作るか…。

 

 

 

 

「しまったな…。かっこつけすぎたな。志保について来てもらえば良かった…」

 

ここは一応キャンプ場である。

まわりはパリピウェイウェイ勢の社会人グループや大学生グループ。そして家族連ればかりである。

こんな所でおっさんが一人でカレー作ってるとか……。

少し考えたらわかるのに俺は何で一人で出てきたんだろう…。

 

ああ、まわりの人達に『あの人寂しそうに』とかな目で見られてる気がする。

どうしよう。お家帰りたい。

 

「た~か~ちゃ~ん~」

 

そんな事を考えていると盛夏が後ろから思いっきり抱きついてきた。

止めて!まわりからの目はこれで多少はまぎれるけど背中に柔らかい感触がっ!

あの、ほんとごめんなさい。離れて下さい。いや、やっぱりもうちょっとだけ…。

 

-カシャッ、カシャッ

 

-パシャッ、パシャッ

 

「う~ん、渚と奈緒の次はまさかの盛夏か…。理奈かあたしになると予想してたんだけど…取り合えずこの写真は渚と理奈に送るか…」

 

「あわわわわ、ボクうっかり写真撮っちゃったよ…まどか姉に送っちゃったらどうしよう…」

 

お前らほんと!お前らほんとになっ!

てか、盛夏もいい加減離れ……なくてももうちょっとくらいならいいか?

 

「カレー!カレー!」

 

ああ、なるほどな……。

俺に抱きついてるわけじゃなくて俺越しに鍋の中のカレーを見てるのね。

 

-カシャッ、カシャッ

 

-パシャッ、パシャッ

 

いや、ほんと写真は勘弁して下さい。

 

 

 

 

「貴、お疲れ様。よくこんな家族連れとかパリピの多いような場所で一人でカレー作れたよね?」

 

「まぁ、俺くらいのレベルに達するとこんくらい余裕だな」

 

ほんとは何度もお家帰りたいって思ってましたけどね。

 

「それって自慢出来るような事なの?」

 

「それより今はカレーの鍋の前で変な儀式やってる盛夏とシフォンを見るまわりの目が痛いわ。ほんとあいつら何やってんの?怖いんだけど?」

 

盛夏とシフォンはカレーが美味しくなるようにと変な祈りを捧げながら謎の儀式をしている。

たまたまだろうがあいつらが儀式を始めてからちょっと曇ってた空が雲ひとつない晴天に変わった。

あいつらの儀式のおかげじゃないよね?

 

「貴のカレーだしね。盛夏もシフォンも楽しみなんでしょ。あたしも楽しみだし」

 

「あ?あんま期待すんなよ?」

 

「え?コテージ出る時期待してろって言ってなかった?」

 

はい。言いましたね。

マジか、やっぱり期待してんのか……。

 

 

 

 

 

 

 

「ん~!美味しい~!デリシャス~!」

 

「そっか。そりゃ良かった」

 

「ねぇ?カット野菜あるって言ってたけどこれって…」

 

「ああ、俺は野菜がデロデロに溶けたカレーの方が好きだからな。すりおろしたりペーストしたり…」

 

「なるほど…手間かけてんだね…。そっかそういう手もあるのか」

 

「たか兄!おかわり!!」

 

「あたしも~!」

 

こいつら一体何杯食べんの?

作った俺としてはありがたいけど、こいつらこんだけ食って何でこのスタイル保ててんの?

 

俺はカレーと一緒に世の中の不条理を噛み締めていた。

 

 

 

 

 

8月13日の夜。

盛夏と志保が一緒にお風呂に入り、次に俺も男同士シフォンと一緒にお風呂に入ろうとウキウキしていたのだが、風呂上がりの盛夏と志保に絡まれている間にシフォンは風呂を済ませていた。

明日こそはと心に誓った。

 

「ふー!やっとベッドでゴロゴロ出来るー!疲れたけどすごく楽しかったよたか兄!」

 

風呂の後はテレビを見ながらだらだらみんなでゲームしたり、話したりして過ごした。俺と盛夏はビール飲みながらだけどな。

そして現在は0時もまわり、そろそろ休もうと男性陣と女性陣で分かれて今は部屋でゆっくりしていた。

 

「そっか。楽しめたなら良かった。それで?歌詞は出来そうか?」

 

「うん!なんとなくだけどね!」

 

「そういやお前最近どうなんだ?」

 

「ん?何が?」

 

「学校とかAiles Flammeとかな」

 

「学校もバンドも順調だよ。まだ曲は1曲しかないけどね。この旅行で歌詞をしっかり考えてみるよ!」

 

「あ、いや、まぁ、それはいいこっちゃな。でも俺が聞きたいのはそんなのじゃなくてな」

 

「はてな?」

 

くっ…はてな?とか言いながら首を傾けてんじゃねぇよ!あざと可愛い過ぎるだろうが…!!

 

「あれだ…その…まだ遊太の姿じゃ人と話にくいか?」

 

「ああ…そういう事か…。うん、正直シフォンの時みたいには話せないかな…」

 

「そか。渉達の前でもか?」

 

「ん…。はじめの頃よりは話せるようにはなったけどね。だからボクが井上 遊太だって何度か打ち明けようともしたわけだし」

 

「昨日もファントムで志保と宿題やってる時もシフォンだったもんな。まだ…怖いか?」

 

「うん、まぁ…まだちょっとね…。

って!ずっとぼっちのたか兄に言われたくないんだけどっ!

……最近全然ぼっちじゃないけどさ(ボソッ」

 

「あ?最後の方聞こえなかったんだけど?」

 

「何でもないよ!」

 

遊太は昔、いじめられていたわけではないが学校で男友達にバカにされていた時期がある。

 

いつも栞…FABULOUS PERFUMEのイオリの事な?

あいつと一緒に居たせいで夫婦だの何だのとバカにされていた時期が。

まぁ、そのバカにしていた奴らはいつも栞の鉄拳制裁で沈められてたんだが、そういう事にも起因して余計にバカにされていた。

 

小学生の頃なんかはよくある話ではあるんだが、遊太にとってはいつも傷付いていたんだろう。

遊太は他人と話すのが苦手になっていた。

 

遊太がシフォンの格好をしだしてからは余計に遊太の格好の時は話せなくなった。

 

「お前さ。昔は俺とか英治には普通に話せてたじゃん?」

 

「うん、まぁ…確かに?」

 

「とりまそのウィッグ外して俺ともうちょっと何か話すか?」

 

「は?何言ってるのたか兄は?」

 

「いや、ウィッグはずして話すくらい大丈夫だろ?」

 

「は…恥ずかしいもん…」

 

「は?何ぶってんの?」

 

「ちょっ…!たか兄!ダメ!いきなりはダメ…!!」

 

俺は嫌がる遊太を押し倒し、そしてウィッグを外そうと髪に手をかけた。

 

「嫌!嫌なの!たか兄!止めてぇぇ!」

 

え?何このR18なの?って思うような文面。こんな所誰かに見られたら俺通報されんじゃね?

 

そう思った時だった。

 

-バターン!

 

俺達の部屋の扉が開かれた。

 

-カシャッ、カシャッ

 

-パシャッ、パシャッ

 

「ちょっ!貴!何やってんの!?」

 

-カシャッ、カシャッ

 

-パシャッ、パシャッ

 

「何かうるさいな~。って思ってたら~。まさか貴ちゃんがシフォンちゃんを襲っているとは~」

 

-カシャッ、カシャッ

 

-パシャッ、パシャッ

 

「志保!盛夏ちゃん!助けて!嫌だって言ってるのにたか兄が無理矢理…!!」

 

-カシャッ、カシャッ

 

-パシャッ、パシャッ

 

何枚写真撮られるんですかね?

俺は驚きのあまり遊太を押し倒しているような体勢で何枚も写真を撮られた。

 

ああ…俺の人生もここでジ・エンドか…。

 

 

 

 

 

「よし!では貴ちゃんの言い分を聞こうではないか~」

 

俺はロープで縛られ口にはガムテープを貼られベッドの上に転がされている。

言い分を聞いてくれるならガムテープを剥がしてくれ。

 

「ほうほう~。つまり貴ちゃんは言い訳はしないと。そう言うわけですな~。シフォンちゃんを襲った事を認めたわけですな!」

 

「もが…!!もが…!」

 

だから喋りたくても喋れねぇんだよ!

ガムテープを剥がしてくれ!!

 

今、俺は男部屋。

つまり俺とシフォンが寝る予定だった部屋で盛夏に尋問を受けている。

尋問って言っても盛夏の尋問には答えられねぇんだけどな!

 

そしてシフォンは女部屋。

志保と盛夏が寝る予定だった部屋で志保に慰めてもらっている。らしい。

 

「あたしは怒っているのだ~!まさか本当にシフォンちゃんを襲うとは!貴ちゃんはそんな事はしない人だと思ってたのに!!」

 

だから俺の話を聞いてくれっ!

 

「貴ちゃん…。遊太ちゃんにシフォンちゃんみたいに居なきゃって思ってもさ?いきなりはダメだよ…?」

 

盛夏…?

 

「貴ちゃんの事だから、シフォンちゃんに遊太ちゃんの時でもちゃんと話せるようにしたかったのかな?って~。貴ちゃんはシフォンちゃんのウィッグに手をかけてたしね~。

でも……無理矢理はダメだよ?」

 

そして盛夏は俺のベッドに腰を掛け、俺の頭を持ち上げて膝に乗せた。

 

ふぁ!?膝枕!?

盛夏…ちょっ!まっ!え!?

ショーパンだから生足じゃん!?

 

「前に奈緒に頑張ってるって言ったけどさ~?貴ちゃんは頑張り過ぎ。だからダメだよ?」

 

そして盛夏は俺の頭を撫でながら…

 

「貴ちゃんが頑張り過ぎるとね~。貴ちゃんがしんどいんじゃないか?ってみんなも頑張らなきゃとか思っちゃう事もあるしさ?」

 

違う。そうじゃない。そんな事はない。

俺の方こそみんなが頑張ってくれてるからって思ってやってるだけだ。

 

「…もがっ!」

 

「うるさい!あたしの膝枕でゆっくりしてなさい」

 

改めて膝枕とか言われると恥ずかしいんですけど?

 

「貴ちゃんもお昼に言ってたじゃん?あたし達ももう子供じゃないんだし~。

だからね?貴ちゃんが頑張り過ぎる必要はないよ。あたし達もゆっくり答えを出すと思うから」

 

そっか…そうだな…。

 

「あたしは貴ちゃんの事…大好きだよ」

 

ふぁ!?盛夏!?

 

「だからね。あたしも貴ちゃんを一人にはしない。貴ちゃんも一人になる必要もない。みんなと一緒でいいんだよ。みんな貴ちゃんが大好きなんだから~」

 

盛夏…。

俺は一人で居るつもりはない。

みんなが居るから頑張れるだけだ。

でも何故か…少し安心した…のかな?

 

「今日のお昼ね。貴ちゃんがあたし達を怒った時。ごめんなさいって思ったけどね。ちょっと嬉しかったんだ~。

あたし達をちゃんと叱ってくれるんだ~って」

 

盛夏の膝枕と頭を撫でてくれてるのが気持ち良くて…

俺は意識が……このまま寝そうだ…。

 

「だから……た…ちゃ……ね」

 

う…意識が…。もう…。

盛夏の声ももう…。

 

 

 

「いつまでも夜の太陽で居なくてもいいんだよ?」

 

 

 

……!?

 

夜の太陽…?懐かしい言葉が聞こえた。

ずっと昔に聞いた言葉だ。

なんで盛夏がその言葉を知ってるんだ?いや、盛夏が言ったんじゃない?これは夢……?

 

盛夏の言葉なのか俺はもう眠っていて夢で聞いた言葉なのか。

 

俺はわからないまま完全に意識がなくなった。

 

 

 

 

 

 

『チュンチュン…』

 

ん?朝か?え?朝チュン?

俺はソッと目を開いた。

 

「うおっ!!?」

 

目の前に盛夏の顔があった。

え?え?何これ?

 

……あ、俺盛夏に膝枕してもらったまま寝ちゃってたのか。

って盛夏ずっとこの体勢で!?

うっわ、ものっそい申し訳ないな…。

 

それよりこのまま起きるのはまずいな。

このまま起き上がると盛夏とチューしちゃう事になる…。

 

「あれ?」

 

いつの間にかガムテープも剥がれてる?

俺が寝ちゃったから盛夏が剥がしてくれたのかな?身体はロープで縛られたままだけど…。

 

「およ?」

 

俺が何とか盛夏の膝枕から逃れようともがいていると盛夏が目を覚ました。

起こしちゃったかな?

 

「貴ちゃんおはよう~」

 

「おう、おはよう」

 

「まさか男の人と同じ部屋で一晩を共にする事になろうとは~。帰ったらお父さんとお母さんに報告しなきゃ~。お赤飯炊いてもらお~」

 

いや、ほんと!お前ほんとにな!

 

「相手はBREEZEのTAKAだよ。って言ったらどんな反応するかな~?うふふ~」

 

止めて!ほんと止めて!

確かに一晩同じ部屋に居たけど何もしてないじゃん!縛られてるから何も出来ないしなっ!!

 

「お、取り合えずロープをほどいてあげる~」

 

「はいはい、ありがとうございます」

 

「今日は何して遊ぶの~?朝御飯と昼御飯と晩御飯のメニューは何かなぁ?」

 

「朝飯は夕べの残りのカレー。昼飯は朝飯の後に釣りに行くからそん時釣った魚だな。何も釣れなかったら昼飯は抜きだ。だから頑張れよ?」

 

「カレーだ!カレーだ!ってお昼抜きは死ぬ…無理…」

 

「昼以降は曲作りもあんし散歩とか色々考えてるけど予定は決まってねぇな。晩飯はバーベキューだ。肉たんまりあるからな」

 

「お~!バーベキュー!食べるよー!」

 

そしてロープをほどいてもらった俺は盛夏と一緒にリビングに降りた。

 

「あ、貴、盛夏おはよ!」

 

「たか兄…盛夏ちゃん……おはよ…」

 

俺は志保とシフォン…いや、遊太を見て驚いた。

 

「お、シフォンちゃんは今日は遊太ちゃんなのか~。二人ともおはようございます~」

 

「志保も遊太もおはようさん」

 

「貴。遊太から聞いたよ。夕べは縛りあげちゃってごめんね!」

 

「いや、別に。俺もちょっと焦り過ぎたかもだしな。でも今日は遊太で…なんか良かったわ」

 

「遊太に聞いてすぐにロープをほどいてあげようと思ったんだけどね?部屋に行ったら盛夏の膝枕で気持ち良さそうに寝てたからさ」

 

「くっ…見てたのかよ…」

 

「写真もバッチリだよ!」

 

いや、ほんと写真は止めて…。

 

 

 

 

 

カレーを食べ終わり、俺達はキャンプ場が運営している釣り場の川まで来た。

ここには養殖の魚が放流されていて、よほどの事がない限り釣れないという事はない。定期的に魚も補充されるしな。

 

「お~、これなら釣れそうだ~」

 

「あたしは釣りとかすんの初めてだよ」

 

「僕は…昔に何度かたか兄やおっちゃんに連れて来て…もらってたよね」

 

「志保は初めてなのか。誰が一番釣れるかって勝負にしようと思ったけどチーム戦にするか」

 

そして俺と遊太の男チームと志保と盛夏の女子チームに分かれて勝負する事になった。

 

 

 

「こうやって遊太と釣りすんのも久しぶりだな」

 

「た、たか兄は…あんまり釣り…得意じゃないよね…僕が頑張らないと…」

 

「ふっ、甘いな。俺が苦手なのは海釣りだ。川釣りならトシキより上手い」

 

「トシ兄より釣り上手いって…トシ兄は銛を持って潜って魚取ってくるじゃん…」

 

「ほれ」

 

「わっ!?ほんとに釣れた!?」

 

俺は早速1匹を釣りあげた。

 

「俺くらいのレベルに達すると魚に俺が居ないと錯覚させるまである。ここの魚は養殖さんだしな。静かにステルスモードで釣りをしてたら勝手に食い付いてくれる」

 

「し、静かにかぁ…」

 

「だからほれ。あいつらを見ろ」

 

そう言って少し離れた所で釣りをしている志保と盛夏の方を指した。

 

「どぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

志保と盛夏は叫びながら思いっきり竿を振り釣り糸をボッチャンボッチャンと川に叩きつけている。

 

「あんな風に騒がしくしてたら魚も逃げちゃって釣れない」

 

「な、なるほど…」

 

「そんであれだな。遊太お前ちょっとこっち来てみ」

 

「え?ぼ、僕…今はシフォンじゃないよ…?」

 

「お前俺の事何だと思ってんの?」

 

 

 

 

 

 

 

釣り勝負の結果は俺達男チームが22匹。

女子チームが16匹だった。

 

あの後1時間くらいしてから全然釣れない志保と盛夏を見かねてアドバイスをしにいったらぽこぽこ釣れだした。

まぁ、全く釣れないのも面白くねぇだろうしな。

 

その後食べる分だけの魚を食べ、残りの魚は盛夏と遊太と志保で元の釣り場に放流した。

 

「お魚さんとバイバイしてきた~」

 

「でもやっぱり貴と遊太に負けたのは悔しいな…。ねぇ、また釣りに連れて来てよ」

 

「あはは、今度も…僕が勝つよ」

 

さて、この後はぶっちゃけ晩飯まで予定はないんだが…。

 

「そろそろ曲作りすっか。何か昨日、今日で思いついたりしたか?」

 

俺が志保達にそう声を掛けた時だった。

 

「きゃああああああー!!助けてぇぇぇぇ!!誰かぁぁぁぁ!!」

 

女の子の悲鳴が聞こえた。

 

「うら若きおなごの悲鳴が!助けに行かなくては~!!」

 

「待って!盛夏あたしも行く!」

 

盛夏と志保は声のする方に走った。

 

「ちっ、後先考えず突っ走りやがって…」

 

「た、たか兄っ!」

 

俺と遊太も後を追って走った。

 

 

 

 

 

俺達が女の子の悲鳴が聴こえた場所へ辿り着くと、そこには二人の女の子が複数の男に囲まれていた。

 

「貴ちゃん!」

 

「ああ、俺に何かあったらすぐ警察に通報よろ。

……おい、お前ら!」

 

「!?た、助けて!そこの人!」

 

女の子達が男達の隙間を掻い潜って俺達の元へと走って来た。

 

「……助けて下さい」

 

俺は一人の女の子を見て…その顔を見て驚いた。

 

「あ……梓…?」

 

「え?この子Artemisの…?」

 

「この子たか兄と…志保の知り合い…なの?」

 

何で志保が梓の事を知ってるんだ?

ああ、雨宮さんから何か聞いてたのかな?いや、今はそれよりもだ。

 

「た、助けて下さい!野生のデュエルギグ野盗が…!!」

 

「野生のデュエルギグ野盗ってだから何なの?」

 

「助けて……」

 

うっ…見れば見るほど似ている…。

でもこの子は梓じゃない…。

 

「もう大丈夫だ。デュエルギグ野盗なんか俺達が蹴散らしてやる」

 

「え?貴が…自分から…?」

 

「たか兄じゃないみたい…」

 

「貴ちゃんが…女の子に敬語じゃない…」

 

え?何か俺おかしかった?

 

 

 

 

 

そして俺達はあっという間に野生のデュエルギグ野盗を打ち倒した。

それより志保も盛夏も遊太もどこから楽器出したの?

 

「くそっ!覚えろ!」

 

「キングに報告だ!ずらかれ!」

 

ずらかれとか言って逃げる人初めて見たわ…。

 

「あの!ありがとうございました!」

 

「助かり…ました…」

 

「いや、別に。じゃ」

 

俺はそう言って帰ろうとしたが、

 

「また野生のデュエルギグ野盗に襲われても大変だし、安全な所まで送ってあげようよ」

 

「そうだよ~」

 

「あの助けてもらっておいてこんな事お願いするのは…って思うのですが…」

 

「ハァ…それもそうだな」

 

「あ、いえ、あの…すみません…実は…」

 

この女の子達は友達4人でキャンプに来ていたらしい。今夜帰る予定らしいのだがこの大人しそうな…顔だけは梓に似てる女の子が友達とはぐれてしまって迷子になっていた所を野生のデュエルギグ野盗に襲われたらしい。

そしてもう一人の女の子が助けに来たらしいのだが、その時にデュエルギグ野盗に荷物を奪われて困っているそうだ。

 

「友達とはぐれてって…そんな所まで梓に似てんのかよ…」

 

「はい?」

 

「迷子じゃないもん…」

 

「いや、何でも。それで俺達にあいつらから荷物を取り返して欲しいってわけか?」

 

「やはり…ご迷惑でしょうか…?」

 

くそ…参ったな…。

いくらなんでもこればかりはな…。

 

「よし!あたし達が取り返して来てあげる!」

 

は?

 

「まぁ野生だろうが何だろうがデュエルギグ野盗だしね~。やっつけちゃお~」

 

「たか兄やろうよ…!荷物取り返して…あげないと…」

 

まぁ相手がデュエルギグ野盗じゃ警察もなかなか手を出せないしな…。

え?そうなの?

 

「しゃあねぇか…どうせ俺らもキングとやらに狙われるかも知れんしな…」

 

「……暇なの?」

 

こ、この子は……。

やっぱり似てるのは顔だけか…。

 

 

 

 

 

「この洞窟の中に野生のデュエルギグ野盗がいるの?」

 

「はい。私達の荷物を持ってここに入って行くのを見ましたから。そしたらその時に見つかってしまって…」

 

ま、しゃあねぇか。乗り込むしかないわな。

 

「何かRPGみたいでドキドキする~」

 

「モンスターとか出てきたら楽しいのにな」

 

「うぅ…たか兄…変な事言わないで…」

 

「遊太…あんたあたしに引っ付きすぎ」

 

俺を先頭に梓に似た女の子、盛夏、志保、遊太、女の子の順に並んで洞窟を進んでいる。

意外と長い洞窟だ。てか、この梓に似てる子…。何で俺のシャツをつまんでるの?ドキドキするんで止めてくれません?

 

ある程度進むと洞窟の奥に明かりが見えてきた。

 

「そろそろか、お前ら準備はいいか?」

 

「準備はいいか?ってそういやどうすんの?デュエルギグをやろうって言うの?」

 

「んー、マジでどうしよっか?」

 

「貴ちゃんのキラークイーンで何とか出来ない~?」

 

「俺のキラークイーンか…でも相手にどんなスタンド使いがいるかわからないからな」

 

「あ、それでしたらシアーハートアタックを突っ込ませてみてはどうですか?」

 

「でもあいつらの中に重くするスタンドが居たらやっかいじゃない?」

 

「……どうせならパイツァーダストで荷物が盗られる前に戻ってくれたらいいのに」

 

「手詰まりだな…」

 

「ね、ねぇ…みんな…な、何を言ってるの…?僕がおかしいの…?」

 

ふぅむ…ここでうだうだ考えるのは得策じゃねぇしな。俺が突っ込んで様子を見るか?相手はデュエルギグ野盗だしな。いきなり殴られるとかはないだろ…。

 

「よし、俺が突っ込んでみる」

 

「え?大丈夫なの?」

 

「相手がデュエルギグ野盗だしな。何とかなんだろ」

 

と、志保と会話をしている間に盛夏と女の子達と遊太が突っ込んで行った。

ちょっ!遊太お前さっきまで怖がってなかったか!?

 

「たのも~!」

 

「わ、私の荷物を返して下さい!」

 

「返して」

 

「あ、あの…その…あの…」

 

「何だ貴様らは!?」

 

あ~…もうなるようにしかならないか…。

 

「貴!あたし達も!」

 

「そだな…ハァ…」

 

そして俺達も奥の部屋に入った。

 

「あっ!お前らは!

キング!さっき言ってた奴らはこいつらです!」

 

「ほう。貴様らが我が子分達を倒したバンドマンか…」

 

キングと呼ばれる男が俺達を睨んでいる。やだ怖いわ。

 

「取り合えずこの子達の荷物返してくんない?そしたら俺達も素直に帰るから」

 

「フフフ、ならばデュエルギグで我を倒してみろ。さすれば荷物を返してやろう」

 

まぁ、予想通りの展開か。

 

「なら話が早いわね。表に……」

 

「断る!」

 

あ?

 

「デュエルする場所はここだ」

 

「へぇ、上等じゃん!」

 

ち、まずいな。志保はわかってんのか?

ここは洞窟内だ。音が反響するんだぞ?

 

そしてキングとやらとその部下らしき者達、志保、盛夏、遊太が楽器を構えた。

だからほんとお前らどこから楽器出したの?

 

「行くぞ!我が音色の錆となれ!」

 

「ハートに響かせてあげる!あたしの音色!」

 

まぁ、志保もデュエルギグ馴れしとるし大丈夫かな?

そう思った時、キング達…デュエルギグ野盗達がヘッドホンを付けているのに気付いた。

 

「まずい!お前ら耳を塞げ!!」

 

「「「え?」」」

 

「もう遅いわ!!」

 

<<<ドカーンッ!!>>>

 

「キャッ!?」

 

「わっ!?」

 

「ヒッ!?」

 

やられた…。

志保も盛夏も遊太も楽器を持っているし、デュエルを始めようと演奏の体勢に入っていた。

 

スピーカーから出された爆音。

洞窟内で反響し3人共耳をやられたようだ。

 

曲を始めようにも耳をやられてリズムも取れていない。

 

「ハハハハハ!悪い悪い。スピーカーの音量を間違えていたようだ。さぁ、デュエルギグを仕切り直そうか」

 

ちっ、余裕かよ…。

 

「志保、盛夏、遊太…大丈夫か?」

 

「ごめん…貴。何を言ってるのか全然聞こえない…」

 

「う~…耳がぁ~頭がグワングワンする~」

 

「たか兄…どうしよう…?」

 

「皆さん大丈夫ですか…?」

 

「あ、君達は大丈夫だったのか?」

 

「はい!咄嗟に耳を塞ぎました!」

 

「タカくんが耳を塞げって言ったから…」

 

……何で俺の名前を知ってんの?

あ、みんなが俺の事呼んでるのを聞いてか?

 

「ハハハハ!さぁ!デュエルギグを始めるぞ!」

 

ちっ、クソが…。

こいつらには絶対負けられねぇ。

志保と盛夏と遊太はこいつらに負けさせるわけにはいかねぇ…。

 

「よし。やるか。デュエルギグ」

 

「ほう」

 

「あ、あの…大丈夫なのですか?」

 

「大丈夫だ。任せろ」

 

「………」

 

ん?何で無言?

あ、荷物が心配なのかな?

 

「ほんとに大丈夫だから」

 

「イヤッ!」

 

-パシンッ

 

いつもの癖で頭を撫でそうになった俺の手を梓に似た女の子が払いのけた。

 

「あ、あの…ごめんなさい」

 

「い、いや、俺の方こそつい…。その悪い…」

 

考えてみたら初めてあった女の子の頭撫でるとかほんとヤバいもんな。

この癖改めないとほんとまずいな…。

 

「今度こそ我が音色の錆としてやるわ!」

 

「聴かせてやるよ。俺達の鎮魂歌を…夢の中で踊れ」

 

俺は右腕を高く上げて遊太を見た。

そして遊太と目があった後その右腕を下ろした。

その刹那、遊太のドラムが始まる。

よし、よくやった。次は盛夏だ上手く俺が音を掴んで…。

 

俺は左腕を盛夏に見えるように真横に上げて盛夏を見る。そして左腕を下ろし再び右腕を真横に上げた。

盛夏のベースが始まり次は志保を見る。

 

志保が頷いたのを確認し、盛夏と遊太のリズムをよく聞いて……。

 

右腕を下ろした。

 

志保のギターが始まる。

 

「Future」

 

俺はこのメンバーなら出来るだろうとあらかじめ話していた曲。

BREEZEのFutureを歌い始めた。

 

Futureなら志保も盛夏もこないだのライブでやったし、遊太も英治の教育の賜物。BREEZEの曲なら全部やれるはずだ。

 

とはいえ音がまだ聞こえ辛いこいつらには、なんとかしてリズムを伝える必要がある。

 

俺は右足を上げたり下げたりしてメトロノームのようにリズムを刻む。

志保も盛夏も遊太も俺の右足を見ながらリズムを、ビートを合わせてくれている。

 

問題は俺だ…。リズムを取るのに集中して歌が…。

くっそ…俺はリズムを合わせるのは苦手なんだよ…。リズムに合わせる側だからな。リズムを合わせる事が出来るなら楽器もやれとるわい。

 

俺達4人がやれる曲はFutureしかない。

この曲で決着をつけないと…。

 

 

 

「タカくん…あたしが歌う。タカくんはリズムを取って…」

 

 

 

は?この子…。Future歌えるのか?

 

「ま、しゃーないか…」

 

明るい方?って言えばいいのか?

女の子がそう言った後、梓に似てる女の子が前に出て歌い始めた。

 

 

 

Futureを…。

梓を思い出すよな歌声で……。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、貴。ちゃんと野菜も食べないとダメだよ」

 

「俺は焼いた野菜は好きじゃないの。生が好きなの」

 

「女の子に囲まれてる中で下ネタとか…。タカくんはやはり軽薄な男…」

 

「いや、下ネタじゃねぇよ?何で今のが下ネタに聞こえんだよ」

 

俺達は野生のデュエルギグ野盗に勝てた。

この女の子…。梓に似ている女の子の歌のおかげで…。

 

荷物を取り返す事が出来た俺達は今バーベキューを楽しんでいる。

 

しかし結局この女の子達が予約していた電車の時間には間に合わなかった。

先に駅に着いていた他の友達が駅付近のホテルを取ってくれたらしく、今夜も泊まって明日の朝に帰るそうだ。

 

駅前に行くバスも時間的に中途半端だったので、この2人の女の子は俺達と一緒にバーベキューを楽しんでから最終バスで駅前に向かう事になった。

 

「な?肉…美味いか…?」

 

「は?急に何?セクハラ?お肉美味しいけどラーメンがいい。ラーメン食べたい」

 

俺は梓に似ている女の子に話し掛けた。

てか俺が話し掛けただけでセクハラになんの?うわ、そしたら俺毎日仕事中に渚にセクハラしてる事になんじゃん。やだ怖いわ。

 

しかし助けてやったのに何で俺こんな仕打ち受けてんの?

まぁ、本気じゃないんだろうけどな。

それを証拠にさっきからこの子は左手で俺のシャツをずっとつまんでいる。

右手だけで器用に箸とビールを持ち変えてバーベキューを楽しんでいる。

楽しんでるよね?

てか、ビール飲むって事はこの子成人してるのか…

 

「それよりお前さ」

 

「お前じゃない」

 

「ん?」

 

「ミク。美しい未来という意味で美来。未来なんか真っ暗なのに名前が美しい未来とか超うける~」

 

ん、ああ…名前か…。

てか、未来真っ暗なの?

 

「美来さ」

 

「いきなり呼び捨て?」

 

う……。

 

「美来ちゃんさ」

 

「キモい。呼び捨てでいい」

 

何なのマジで。ほんと何なの?

 

「あ~、あれだ。さっきの曲。知ってたのか?」

 

「BREEZEのFutureの事?」

 

やっぱり知ってんのか…。

 

「……お母さんの好きだったバンドの曲だから」

 

あ~、やっぱりもうこんな大きな…いや、この子ちっさいけど。

こんな歳の子の親世代のバンドなのね。BREEZEって。いやん、泣いちゃいそう。

 

「人の胸見てちっさいとか思うの止めてくれる?まだ発展途上中だから」

 

いや、ちっさいとは思ったけど胸の事じゃないからね?胸はどちらかというと梓と違って……げふんげふん。

 

取り合えず俺が聞きたかった事。

Futureを歌えた理由はわかった。

しかし…顔も歌声も…あんなに梓に似てるなんてな…。

 

 

 

 

 

 

バーベキューを終えた俺達は美来達をバス停まで送り、コテージに戻って風呂も終わらせた。結局今日も志保と盛夏に絡まれて遊太と一緒にお風呂に入る事は出来なかった。

そして今はもう寝ようと部屋でゆっくりしている。何故か志保と…。

 

「今日はあたしが貴の見張り役ね!」

 

見張り役も何も男の俺とJKが同じ部屋ってだけでダメくさくないですかね?

 

「へへ、やっと貴と二人きりになれた」

 

「は?勘違いしちゃうんでそういう事言うの止めてくんない?」

 

そして志保は真面目な顔をして俺に話し掛けてきた。

 

「似てたね。あの子。Artemisの梓さんに」

 

「それな。まぁ、似てんのは顔だけだ」

 

歌声も似てましたけどね。

 

「てか、やっぱり梓の事は知ってたのか」

 

「うん、晴香さんに少し聞いた」

 

は!?晴香!?

雨宮さん達から聞いてたわけじゃないの!?あかん…あいつ絶対いらんこと言ってそう…。

 

「アルテミスの矢の事とか…お父さんとお母さんの事も少し…」

 

「そっか……」

 

「うん」

 

「で?何が聞きたいんだ?」

 

「ん?別に?」

 

「何か聞きたい事あったんじゃねぇのか?」

 

「んーん、あ、ならさ?お父さんとお母さんがどんなバンドマンだったのか聞きたい!前に言ったでしょ?いつか話聞かせてって」

 

「そっか。わかった…」

 

そして俺は雨宮さん達がどんなバンドマンだったのか。俺達とどんなライブをやっていたのか。

俺は志保が眠るまで話してやった。

 

 

----------------------------------------------

 

 

「およ?今何時…?」

 

あたしは寝ぼけ眼で時計を確認する。

5時10分。

お~、朝だぁ~。

今日の朝御飯は何かなぁ?

 

あたしの名前は蓮見 盛夏。

Blaze Futureのベース担当である。

 

「遊太ちゃん遊太ちゃん朝だよ~」

 

あたしは今、Blaze Futureのボーカルの貴ちゃん、Divalのギタリスト志保、Ailes Flammeのドラマーシフォン…遊太ちゃんとキャンプに来ている。

夕べは貴ちゃんが遊太ちゃんを襲わないように志保が貴ちゃんと同じ部屋。

あたしが遊太ちゃんと同じ部屋に泊まったのである。

 

普通に考えたら男女で同じ部屋に泊まるとか……ありえないよね。フフフ~。

 

「う~…?盛夏ちゃん?」

 

「遊太ちゃん起きた~?貴ちゃんと志保を起こしに行こう!」

 

「う?う…ん、待って…シフォンに着替えりゅ…」

 

今日はシフォンになるのか~。

あたし的には遊太ちゃんのままでも可愛いのに~。

 

 

 

 

「さて~。寝起きドッキリの時間になりました~」

 

「たか兄も志保もどんな格好で寝てるのか!?イヒヒ…今から楽しみだね!」

 

夕べあたしとシフォンちゃんで隣の部屋に寝ている貴ちゃんと志保に寝起きドッキリを仕掛けようと計画してたのだ。

 

あたしとシフォンちゃんとでスマホのカメラを構えてゆっくり貴ちゃん達の部屋に忍び込む。

ふっふっふ~。貴ちゃんの寝顔を激写して奈緒と理奈ちに送ってあげよ~。

あ、ついでに渚にも送ってあげるか~。

ランチくらいなら奢って貰えるかなぁ?

 

あたしとシフォンちゃんで貴ちゃんが寝ているだろうベッドを激写した。

 

-カシャッ、カシャッ

 

-パシャッ、パシャッ

 

「え!?」

 

「わっ!?マジで!!?」

 

なんとそこには貴ちゃんと、貴ちゃんに抱きつきながら寝ている志保が居た。

 

「こ、これは…まずいよ。盛夏ちゃん…。ど、どうしよう?あ、まどか姉に報告しなきゃ…」

 

「むむむむむ…………えいっ!」

 

あたしは握っていたスマホで思いっきり貴ちゃんの頭を殴った。

 

「いっっっっってぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「ん?何事…?」

 

貴ちゃんが悲鳴をあげて飛び起きて、その声で志保も目を覚ました。

 

「ん?シフォン?盛夏?………って、貴!なんであたしのベッドで寝てるの!?」

 

「は?え?は?何?」

 

「この…!変態っっっ!!」

 

<<<ゴキャッ>>>

 

志保の渾身の一撃が貴ちゃんの顔面に入った。

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんね、貴ちゃん」

 

「………」

 

「うん。ボクはたか兄がそんな事する度胸はないって信じてたよ!」

 

「………」

 

どうやら志保は夜中にトイレに行ったらしい。そして部屋に戻った時に間違えて貴ちゃんのベッドに入ってしまったそうだ。

 

「ほ、ほら~!夢のJKに添い寝してもらえるとか!貴ちゃんラッキーだったね~!ね?」

 

「………」

 

「う……ご…ごめん…なさい…」

 

「別に怒ってるわけじゃないから気にするな」

 

「ほ、ほんと?」

 

「ああ、それより俺は何とかして生きる方法を考えている。もう地元帰りたくないんだけど?あ、どっかのバンドのベースみたいに風来坊になろうかしら?」

 

それってBREEZEの拓斗さんの事ですか?

 

貴ちゃんがこういうのにも理由がある。

シフォンちゃんがあまりにも動揺してしまって、貴ちゃんと志保の寝ている写真をまどかさんに送信しそうになっていた。

まぁ、実際はLINEでまどかさんとのトーク画面に入ってただけなんだけど。

 

そして志保がそんな写真残されてたまるかー!とシフォンちゃんに襲いかかった。

どうやらその揉み合った時に画像の送信場面に入ってしまったらしい。

 

そしてスマホが貴ちゃんの方に飛んでいった。

そして貴ちゃんがスマホを拾いあげた拍子に送信ボタンを押しちゃったらしい。

なんじゃそりゃ。

 

貴ちゃんは、まずい。これは本気でまずい。まじまずい。って言いながら送信を取り消ししようとしたんだけど、秒で既読がついた。

 

それから少しして貴ちゃんと志保のLINEには渚と理奈ちと奈緒から鬼のようにメッセージが来たのであった。

 

さすがにまどかさんでも誰かに見せたりしないだろうからたまたま見ちゃったんだろうね~。今あの4人一緒に居るはずだし~。

 

あ、でも香菜からも『これまじ!?Divalの危機じゃん!?』ってLINE来てたなぁ。なんでだろ?

 

そして志保は今部屋のベッドで毛布にくるまりながら怯え震えている。

何に怯えてるんだろう?

 

 

 

 

-----------------------------------------------

 

「小夜…」

 

「ん?美来?何?」

 

「大した事なかったね。Blaze FutureもDivalも」

 

「その割にはあんたずっとタカにベッタリだったじゃない」

 

「そんな事ない…。気のせい」

 

「まぁ、美来と小夜の話通りのレベルなら私達の敵じゃないだろ」

 

「タカくんの歌声も昔の方が上手かった」

 

「アタシとしてはドラムの男の子ってのが気になるかな。何者なんだろ?」

 

「そうなんだよねぇ~。FABULOUS PERFUMEのドラマーは男装女子だし、男のドラマーってCanoro Feliceだけのはずなんだけど聞いてる話と違う感じだったし…」

 

「そんなの関係ない。あのドラマーが何者だろうが……。小夜のギター」

 

「ん?どしたの?」

 

「沙耶のベース」

 

「あ?」

 

「美奈のドラム」

 

「うん?何?」

 

「そしてあたしの歌。

あたし達は相手が誰だろうと負ける事はない。

……あたし達は誰が相手でも負けない。アーヴァルにもArtemisにもBREEZEにも、エデンにもファントムにも…」

 

「美来がそんな事言うの珍しいね」

 

「あれ?また中二病ってやつか?」

 

「アタシ達にはパーフェクトスコアもいらないもんね」

 

「クリムゾングループに牙を剥くなら誰であろうと倒すだけ。………あたし達Malignant Dollが」

 

 

-----------------------------------------------

 

あたし達の楽しい旅行も終わり、今は帰りの電車に揺られている。

 

「いえ~い、シフォンちゃんがババ引いた~」

 

「ちょっ!盛夏ちゃん!止めてよ!」

 

「ふぅん…シフォンがババ持ってんだ…?

貴、ババ引いたら怒るよ?」

 

「志保、お前あれだよ?ババってジョーカーだよ?ジョーカーって切り札なんだぜ?」

 

「たか兄、そんなのいいから早く引いて」

 

「てかジョーカー的な切り札が欲しい…帰りたくない…」

 

「ね!貴!このままあたし達二人でどこかに逃げない?あたしも働くし…!」

 

「ああ、それもいいかもな…。え?ほんとそうしちゃう?」

 

「貴となら親子として何とかなると思うの!」

 

「あ、親子なんだ?夫婦じゃないんだ?」

 

こうしてあたし達の楽しかった旅行は終わった。

しかし、あたし達はこの時誰も予想してなかった。貴ちゃんも、奈緒も、まどかさんも、あたしも…。

 

あたし達はこの夏。

クリムゾングループのミュージシャンと会うことになる。それが大事件というのなら大事件なのだろう。

でもあたし達Blaze Futureはクリムゾンよりもっと会いたくなかった人。

 

BREEZEのベース宮野 拓斗とも出会う事になる。


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