うううぅ…次は私達の番だよ。
あ、お腹痛くなってきた。
私の名前は本城 天音。
いまはライブ大会の7回戦が行われている。
私達は次の8回戦の準備を終え、舞台袖から7回戦のデュエルギグを観ている。
7回戦のデュエルギグも凄いな。
でも、私達が8回戦を勝ち抜けば、次の相手は今ライブやっているどちらかになるんだから、しっかり偵察しておかないと…。
私がそんなことを考えながらデュエルを観ていると、
「あまねる~。なぁに緊張した顔持ちしてんの?
あたしらが優勝するんだし、もっと気楽にしてなって~」
私達のバンドのギタリスト、真凛ちゃんが話し掛けてきた。もちろん私も優勝するって目標は持ってるけど…。
だからこそ、ちゃんと他のデュエルも観ておきたいっていうか…。
「こんにちはー!」
「え?」
「誰?」
「どなたですの?」
「あー、がっこーで見た事あるかもー。あれだ。先輩だ」
「め、目蔵川先輩…ですよね?」
私も真凛ちゃんもスズちゃんも失礼ながらどなたなのかわからなったけど、蘭ちゃんと輝美ちゃんは知っているようだった。
輝美ちゃんが目蔵川先輩って言ってたし、この人が私達のデュエル相手の…。
「あぁ~ん!もしかして本城さんと大沢さんと鶴木さんは私の事知らない感じ~!?燈田さんと椎名さんは私の事知ってくれてる感じなのに~!」
うぅ…も、もしかしてめちゃくちゃ失礼だったかな?
て、手遅れかも知れないけど、後輩としてちゃんと挨拶しないと…。
「って言ってもまぁ!?私の事はさっきまで知らなくても、今から知ってくれたらいいからね!
私はgamutのドラマー代表で
どうしよう…。
ちゃんと挨拶しなきゃと思ってるのに、テンション高過ぎて間に割って入れない…。
「あー!あたしらの対戦バンドの目蔵川先輩だったんですね。すみませーん、あたしあんま先輩方の事知らなくて。でも目蔵川先輩ってめちゃテンあげっすね。先輩だから礼儀正しくしなきゃと思ってたけど、話しやすそうで安心しました」
わぁ、さすが真凛ちゃんだ。
普通に会話を始めちゃったよ。
「まぁ、私は礼儀とかそんなの気にしないし?
それに大沢さん達ってまだ1年じゃん?私5回も留年してっから今年23になるし?ホントなら大学も卒業してるって年齢だしさ?大沢さん達って私からしたらまだまだ子供みたいなもんだし~」
ご、5回も留年してるって本当だったんだ…。
美緒先輩の言う事を疑ってた訳じゃないけど、本人から聞いちゃうと…。
「ほら、目蔵川先輩。Amaterasuの皆さん困ってるじゃないですか。テンション上げ過ぎですよ」
目蔵川先輩のテンションに着いていけていない私達を気遣ってか、目蔵川先輩の後ろに居た女の子達が会話に入って来てくれた。
同じ制服だからこの方達が、目蔵川先輩と一緒に演奏するgamutの方達なんだろうな。
「えー?今のって笑う所じゃない?
Amaterasuのみんな困ってないよね?」
「いやー、あたしは困ってないけど、今のはわらえないしなー」
「わたくしは蘭と違って困ってますけど、ま、同じように笑えるネタではありませんわね」
「どうしよう。笑えないって言われてるよ。私渾身のネタなのに」
「いや、留年5回はやり過ぎですって。今年卒業出来なかったら退学じゃないですか」
「えー、でも今回のライブ大会で優勝したら、神崎センセが理事長に、もっかい留年してもワンチャンくれるよう掛け合ってくれるって言ってたし~」
「そ、そりゃ私達もgamutの代表ですし優勝目指してますけど!目蔵川先輩は卒業出来るようにも頑張って下さい!」
わぁ、どうしよう。
gamutの方も入って来てくれたけど、相変わらず会話に入れないし、ちゃんと挨拶も出来てないよ。
このチンチクリン後輩のくせに挨拶も出来ないのかよと思われてたらどうしよう…。
「もう!そんな事は些細な事だよ。私みんなより長くJKやれてる訳だしさ。
あ、そだそだー!本城さん本城さん!本城さんってキミだよね?」
え!?私!?
「は、はい…そうですけど…。あ、あの、挨拶が遅れてしまいまし…」
「あー!そんなの気にしない気にしない!
私はキミと話がしてみたかったんだよー!」
ふぁ!?せっかく頑張って挨拶しようと思ったのに遮られちゃった!?
「天音と話してみたかったですって?
ハッ!?天音は可愛すぎて天使過ぎるから、先輩と後輩という立場を利用して天音の貞操を!?」
スズちゃんたまに早口で私の名前出すけど、何を言ってるのかあんまり聞き取れないんだよね…。
「私は今回のライブ大会がきっと最後だし、多分最後だよね?もしかしたらワンチャンあるかもだけどさ?私は5年前にgamutの部長に就任してから、ずっと負け無しで、このライブ大会…って言っても去年までは学内だけの大会だったけど、ずっと優勝してたんだよ」
あ、それは美緒先輩にそれとなく聞いてるから知っています。部長に就任されてからはデュエルで負け無しって話ですし、去年は永田先輩が1年なのにギタリストを担当されて優勝したとか…。
「私さ。佐倉さんや永田さんがうちに入学して来た時に、佐倉さんの歌とベース、永田さんのギターを聞いて、『これだ!私の求めていた音楽はこれだったんだ!私はこの2人に出逢う為に留年してきたに違いない!』って心から思ったんだ」
うわぁぁぁ。
これってどう返答するのが正解なの?
美緒先輩や睦月先輩と出逢えて、自分の音楽と…って思った事は喜ばしいと思うけど、その時点で留年4回目ですよね?
「そして佐倉さんと永田さんを早速私のバンドに勧誘した。…結果は2人共に断られてね。佐倉さんと永田さんは今のGlitter Melodyともうバンドをやるって決めてたみたいだから」
ん?あれ?
美緒先輩に断られたってのはわかるけど、睦月先輩とは去年同じバンドで優勝したんじゃ…?
「でも当時の文化祭のライブ大会は、学校行事の1つだった訳で、gamutも全バンドが参加するのではなく、クラスの催し物に滞りのない範囲での部活動って決まりがあったんだよ。それで藤川さんと松原さんはクラスの催し物が忙しいからとライブ大会には出れなくなって」
あ、なるほどです。
それで美緒先輩と睦月先輩に改めて声を掛けたんですね。……あれ?去年睦月先輩は優勝したって聞いたけど、美緒先輩は?
「チャンスと思って佐倉さんと永田さんに声を掛けたんだよ。うちのバンドの子は丁度いいことにギターの子とベースの子が出場出来なくなってたしね。
永田さんは即承諾してくれたけど、佐倉さんは『え?お誘いいただいのは嬉しいですけど、私はベースボーカルがやりたいので。ボーカルやれないのならちょっと』って断られてねー」
ああ…美緒先輩らしいや…。
「それで佐倉さんとはやれなくて、優勝出来たけど、その時に来年こそは佐倉さんと参加出来たらいいなって思ってたんだよ。
それなのに、佐倉さん達はもうgamutってよりGlitter Melodyとして活動始めちゃったし、クラスの催し物優先って縛りは無くなったけど、gamutも代表のバンドとして1バンドのみの参加とかになっちゃってさー」
あれ?大人しく目蔵川先輩の話を聞いていたけど、なんだか要領を得ないな…。
去年美緒先輩ともやりたくて、今年はきっとって事だったけど、美緒先輩達はGlitter Melodyだから一緒にやれないし、そもそもそれはこの文化祭より前にわかってた事だよね?目蔵川先輩も他の方…今、後ろに居る方達とバンド組んだから、そっちでの参加になるんだろうし。
「あははー。私の気持ちばっか話してるから、困ったちゃんの顔になってるねー。ちょっと年寄り風吹かせた訳じゃないけど、自分語りが長くなっちゃったかー」
うぇ!?す、すみません!!私そんな顔しちゃってますか!?
「いえ、あの…別にそんな事…」
「あははー!いいっていいって!そんな気を遣わなくて!そんでそれで何で本城さんと話したかったのかって言うとさー」
!?
今までは笑顔で微笑みかけながら、私に話し掛けてくれていた目蔵川先輩の表情とはうって変わって、真剣な眼差しを私に向けて話してくれた。
「今年度の始めにさ。2年のみんなが新入生の部活勧誘をしていたんだけど、私が目を掛けていた佐倉さんと長田さんは、いつもいつも他の誰でもなく、本城さんだけを勧誘していた。まぁ、本城さんがうちらの部室周りを行ったり来たりしてて、気になってたってのもあるんだろうけど」
あ、あの頃か…。
確かにあの頃は音楽をやりたいって気持ちや、Artemisだった神崎先生に会いたいって気持ちで、gamutの部室周りを変質者みたいに行ったり来たりしてたけど…。
…って!美緒先輩も睦月先輩も毎日くらい私を勧誘して下さってたけど、他の子は勧誘せずに私ばっかり勧誘して下さってたんですか!?え!?何で!?
「佐倉さんが言うにも、永田さんが言うにも、何となく本城さんには音楽の才がある。この子の音楽を聞いてみたいって思ってたんだって」
美緒先輩…睦月先輩…。
私なんかをそんな風に思って声を掛けて下さってたなんて…。当時はもちろん私が音楽が好きって事ももちろん、レガリアを持ってる事も知らなかったはずなのに。
「だからさ。
最初に言ったけど、今年が私の最後のライブ大会かも知れない。私が音楽をやっていたのはこの子達に会うためって目を掛けてた子達が、目を掛けてきた本城さん。
そんな子と今日デュエルする事になってすごく楽しみにしてたんだよ。私が高校時代の音楽をやりきったって思えるようなデュエルで、勉強に専念して卒業出来たらいいなって。
お父さんもお母さんもさすがに心配通り越して、私には学校の事何も言ってこないから、逆に私が心配になっちゃってるしね」
目蔵川先輩が音楽をやりきって、安心して卒業出来るように…。美緒先輩達が目を掛けてくれた期待に応えられるように。
私は目蔵川先輩の話を聞いて、改めてそう思った。
「まぁ、でも!最後って訳じゃないかもだしねー!
今年も優勝して神崎センセに掛け合ってもらったら来年も参加出来るかもだし!」
「あ、あの…」
「ん?なぁに?」
「あ、安心して下さって大丈夫です。私達は負けませんので。…その、期待に応えられる演奏をしますので、よろしくお願い致します!」
な、何か変な宣戦布告になっちゃったけど、おかしな事は言ってないよね?
「うん!Amaterasuとのデュエル!楽しみにしてるからね!」
-ピンポンパンポーン
8回戦に参加するバンドは…
「お、そろそろ時間かな。もちろん私らも優勝するつもりで演奏するからね!
じゃあ、本城さん、大沢さん、鶴木さん、燈田さん、椎名さん!後でステージの上でね!」
私は大きく頷いて応えた。
「やっるじゃんあまねる~!」
「まーあんまパッとしない宣戦布告だったけど、あまねにしてはなかなか善きだよねー」
「まさか天音さんがあんな事言うなんて。私も頑張らないと!」
「天音の宣戦布告に応えるように。目蔵川先輩のラストステージに相応しいように。わたくし達も精一杯の演奏をしますわよ」
スズちゃんの言う通り。
私達の精一杯をぶつけよう。
♪~
♪♪~
♪♪♪~
今、私達の1曲が終わった。
1回戦はgamutの先輩達が相手という事で、3曲共私達のオリジナル曲でセトリを組んでいる。
それに真凛ちゃんもコピーよりはオリジナル曲の方が、やりやすいって言っていたし、私達Amaterasuの曲の作詞は私だから、歌詞の間違えも少ないだろうし。
そしてもちろん、この1曲目の演奏は上手くいった。
オーディエンスの反応も良かったし、私達も納得のいく演奏が出来たと思っている。
だけど、やっぱりgamutの先輩方の演奏も凄かった。
デュエルの対戦相手である私達も引っ張られそうになるグルーヴが圧倒的な演奏だった。
「よし!」
-ドンドンドン…シャン
目蔵川先輩は『よし!』という掛け声と共にドラムを叩き始め、そのドラムの音に呼応するようにgamutの演奏が始まった。
gamutの2曲目はまるで飲み込まれそうなビート。
私も2曲目のタイトルをコールして演奏を始めないといけないのに、gamutの雰囲気に圧倒されてしまった。
「!?…天音!」
「あまねる…!」
「あまねー!」
「天音さん!」
わかってるよみんな。
gamutの演奏に圧倒されたけど…それも一瞬の出来事。
私はもう逃げないって決めたし、今、このデュエルは目蔵川先輩を送り出すデュエルでもあるから。
私はBREEZEのタカさんが歌い出す時のように、拳を握り締めて、思いっきり上に挙げて叫んだ。
「『
♪~
♪♪~
♪♪♪~
ふぅ…ハァ…ふぅ…。
前進全励は私達の曲の中でも激しい曲調だから、私も出来る限りのパフォーマンスをしたつもりだけど、タカさんや梓さん、渚さんみたいには上手く動けないや。
でも、今の精一杯を披露出来たとは思ってる。
-デュン…デュンデュンデュン
え?蘭ちゃん?
2曲目が終わったばかりなのに、蘭ちゃんがベースの演奏を始めてしまった。
そのベースに追い付くように、輝美ちゃんもドラムを荒々しく叩き、その音に続くように真凛ちゃんもギターの演奏を始めた。
「天音!」
スズちゃんに名前を呼ばれ、私はスズちゃんに目を向ける。キーボードを奏でながら私を真っ直ぐ見ている。
「(今が機です!畳み掛けますわよ!)」
何となくスズちゃんがそんな事を言っている気がした。
まだ呼吸も整っていないけど、私達の2曲目から繋げるように、今の会場の熱が冷めないうちに、私達の3曲目を演奏した方が確かに良いかもしれない。
「『
私はタイトルをコールし、最後の3曲目を歌った。
♪~
♪♪~
♪♪♪~
ライブ大会決勝リーグの8回戦。
私達Amaterasuとgamutのデュエルギグが今終わった。
gamutの3曲目も素敵な曲だった。
とても心地好いメロディー。
心が安らぐような静かな曲ながらも、とても心に響く曲だった。
姫咲先輩がステージに上り、今から私達の採点が発表される。
「それでは!この8回戦で決勝リーグの初戦はラスト。この後、1時間休憩を挟んだ後、勝ち残った8バンドでのデュエルギターが行われます」
やりきった思いはあるし、これで負けちゃってるならしょうがないとは思うけど、出来れば勝ちたい!
勝って…きっと決勝戦で結月ちゃん達と…。
「では1曲目!
gamut51点、Amaterasu49点!」
う…1曲目は私達の負けか…。
「わ!負けちゃってる!」
「まだ1曲目ですわ!」
「えー、じしんあったのにー」
「うぅ…神様!2曲目は勝ってますように!」
「では2回戦の採点発表ですわ。
gamut47点!Amaterasu53点!」
「えぇ!?合計3点差で負けちゃってる!?」
「違います目蔵川先輩、合計4点差です」
「目蔵川先輩…今年もやっぱり卒業は絶望的かな?」
「どう計算して3点差になっちゃったんだろう…」
次で最後の曲の採点…。
お願い!私達が勝っていますように!
「それでは最後の3曲目の発表ですわ。
gamut49点、Amaterasu51点!合計でgamutが147点、Amaterasuが153点で、8回戦はAmaterasuの勝利ですわ!」
「やった…やったよ!みんな!」
良かった。
私達の勝ちだ。やっぱり嬉しいよ!
「いや~、1曲目負けちゃった時はヒヤヒヤしたけど、やっぱあたしらが最強じゃん?」
「とにかく勝てて安心しましたわ。ですが3曲共僅差。少しミスをしていたら命取りでしたわね」
「やったー!やったよ蘭さーん!私達が勝てたよー!」
「てるみ、抱きついてこないでー。あつくるし~」
「ふふ、8点差か。まさか私が在学中に負けちゃうなんてね」
「いえ、6点差です目蔵川先輩」
「153引く147って単純な算数なのにね」
「目蔵川先輩も卒業させてあげたいし、私らも部活引退だし、一緒に卒業出来るように文化祭終わったらスパルタだね」
今日私は初めてデュエルギグをした。
怖いって気持ちもあったし、勝てて嬉しいって気持ちももちろんあるけど、私達が勝った事でgamutの先輩方は学生時代の最後の演奏という事になる。
デュエルギグ自体は凄く楽しかったし、こういう場でなかったらまた、今度もデュエルギグしようとか、今度は対バンしようね。とか、次に続く事の方が多いと思うし、私達もデュエルをする中で上達していっている実感もあった。
だからデュエルギグ自体は悪いものじゃないとは思うけど、"最後の"って場に立ち合っちゃうと凄く重い。
私はチンチクリンだけど、今は射手座のレガリアの後継者だ。こういった重さもしっかりと背負わないとって気持ちはあるけど、…やっぱり重たいな。
タカさんや大神さんも、こういった重さをたくさん背負ってレガリアを守ってきたんだろうな。
私がそんな事を考えながら控え室に戻ろうとしていると、目蔵川先輩が私達に話し掛けて来てくれた。
今は目蔵川先輩は1人で、他のgamutのメンバーの先輩方は居ないようだ。
「あははー。負けちゃって悔しいっての気持ちいっぱいだけどさ。それ以上にAmaterasuの演奏は凄く良かった。最高だったよ」
「あ、ありがとうございます!」
「当然ですよ!あたしらAmaterasuですもん!」
「まぁ、真凛の言う通りですわね」
「よゆーよゆー」
「ま、真凛さんも涼風さんも蘭さんも…」
「あはは、大沢さん達も言うねー。
それよりちょっと気になってる事あるんだけどさ?本城さんいい?」
え!?私!?
「な、何でしょう?」
「いつもしてるネックレス。今日はしてないなーって思って」
ネックレス?
あ、射手座のレガリアの事かな?
「これの事ですの?」
そう言ってスズちゃんが制服のポケットから、レガリアの付いたネックレスを取り出した。
私がレガリアを"使っちゃわない"ようにスズちゃんに預けていたネックレス。
「そそそ!それそれー。射手座のレガリア!」
「「「「「!?」」」」」
え?ええぇぇぇ!?
め、目蔵川先輩って私のしてるネックレスがレガリアって知ってるの!?
「ちょちょちょちょちょ…ちょっち、目蔵川先輩が何を言ってんのかわかんないなあ~?レレレレ…レガリア?何ですそれ?」
「おほ、おほほほほほ。目蔵川先輩も面白い事を仰いますわ。レガリア?レガリアというのが何か存じ上げませんが、これは安物のネックレスですわよ?」
「お~。すっげー。あまねが射手座のレガリア持ってるって知ってんだぁ?何でー?」
「ちょ!ら、蘭さん!」
「…レガリアは目蔵川先輩達とのデュエルでは、使いたくないと思ってましたので、スズちゃんに預かってもらってました」
「「「天音(さん)(あまねる)!?」」」
どうして目蔵川先輩がレガリアの事を…。
私がレガリアの持ち主だと知っているのか不思議には思うけど、目蔵川先輩は知っているんだから、さっきまで全力でデュエルギグをやった目蔵川先輩を誤魔化すような事を言うのは、とても失礼だと思ったから私は正直に答えた。
「私達とのデュエルでは使いたくなかったから…かぁ。あれ?もしかして私達ってレガリア無くても勝てそうとかナメられてた?まぁ、実際負けちゃってるんだけど」
「違います!!!!」
「わぉ、本城さんってそんな大きな声出せるんだ?あ、でも歌ってる時も声量は凄かったっけ」
「あの、私、もうご存知だと思いますので、言っちゃいますけど、確かに射手座のレガリアを継承させて頂いてまして…」
「うん、知ってる。実は今朝なんだけどね、知ったの。神崎センセから聞いてさ」
神崎先生から?
「まぁ、レガリアの事は私らの世代は知ってんだけどさ、最近の世代の子はあんまレガリアの事は聞かされてないんだよ。神崎センセのやってたArtemisがレガリアを持ってたってのも、今のgamutの子らは知ってる子の方が少ないんじゃないかな?」
そうなんだ…。
何でだろう?gamutではあんまり話さないようになった理由って…。
「あ、ごめんごめん。せっかく本城さんが話してくれようとしてたのに私ばっか喋っちゃって」
え?あ、そ、そうだ。
「いえ…。その、私は全然レガリアを使えてなくて…。でも、全く使えない訳じゃなくて、なんかふとした時に無意識に使ってしまってるというか…自分でも正直よくわかってないんですけど」
目蔵川先輩は黙って私の話を聞いてくれている。
なんとなく『へぇ~そうなんだ?』とか『それでそれで?』って言いたそうな顔をしてるけど…。
「初めてのデュエルですし、負けたくないですし、本当なら使えなくても、もし使えた時の事を見越して、少しでも勝つ可能性を上げたいのなら、レガリアを持ってた方が良かったとは思うんですけど、…でも、そんな運任せとかで、目蔵川先輩達とデュエルしたくなかったんです。私は今の私達の精一杯で、デュエルをしたかったから」
そう。
私がレガリアを使いこなせているのなら、レガリアを使ったとしても私の力だと胸を張って言える。
けど、私達が負けそうだからって無意識にレガリアが発動しちゃうのは、勝てても私達の力じゃないから。
「だから…別になめてたとかじゃなくて、ちゃんと今の自分達の力でデュエルしないと、目蔵川先輩とのデュエルでは勝っても負けても、目蔵川先輩に失礼だと思ったから。ちゃんと自分の力でデュエルして、勝っても負けても背負っていかないとって…」
「それで負けても後悔しなかった?」
「ま、負けちゃってたら…やっぱり悔しいと思うでしょうし、泣いたりしたかも知れないですけど、だからってレガリアを使えてたらとか、レガリアを使ってたらとか思いたくないとは思ってます。…実際負けた訳じゃないので…その、ただの口だけって感じかもですけど」
「良かった。安心したよ」
え?安心?
「私らの世代は…私が1年の時くらいかな。そん時まではレガリアの事とか、サガシモノの事とかもう何度も聞いてます。ってくらいに神崎センセからも先輩方からも話を聞かされててさ」
サガシモノ?サガシモノって何だろう?
「でも誰も『もう何度も聞きました』とか、『知ってます』とかさ、そんな事を言わないくらい何度も何度も心に刻みつけながら聞いてた。まぁ、その風習がgamutから無くなったのは、SCARLETとgamutが交流するようになった頃辺りからかな。英治さんのファントムが出来たって頃くらいからはレガリアの話なんか部活で出される事はなくなってたよ。だから私は今1人で来たんだけどね」
そうなんだ。
ファントムが出来た頃って言うと、私がレガリアを三咲さんに貰うちょっと前くらいかな?
「でも私はよく話を聞いてたからさ、神崎センセは本城さんがレガリアを持ってる事を話してくれたんだと思う。サガシモノが見つかったって事も」
サガシモノっていうくらいだから、何か探してたのかな?って思ってたけど、無事に見つかってたんだね。
「話に聞いてた沢山のレガリア使いの方々。みんな凄かったけどさ。本城さんのさっきの言葉を聞いて、本城さんもしっかりとしたレガリアの所持者だな。って、他の方々に負けないような気持ちを持った人で良かったって、凄く安心した」
えぇ!?わ、私が!?
な、何と恐れ多い…。
私なんかまだまだ全然…。
「自分の力でって気持ちは大切だし、負けた気持ちも、勝って負かした相手の事も背負っていくのは大事だと思うけど、私達がやってるのは音楽だからさ。そこまで気負う必要はないよ。だからこれからはちゃんとレガリアは本城さんが持って、それでレガリアと一緒に音楽やっていきな」
「レガリアと一緒に…」
「本物のレガリアを見るのも初めてな私が言うのもなんだけどさ?レガリアって運とか奇跡とか、そんなので使えるモノじゃないし、使えた所でそんな凄い力発揮してデュエルで勝てるようになるような武器とかそんなのでもないんだから」
運とか奇跡で使えるモノじゃない?
だったら今まで光ってくれていたのは…。
「葉川さんもさ。レガリアってクリムゾンの幹部とのデュエルには使わなかったみたいだけど、ここぞってデュエルや、楽しいライブの時はしっかり使ってたらしいし。Artemisとのデュエルの時にも毎回ね」
そ、そうだったんだ。
クリムゾンの足立って人とのデュエルでは使わなかったって三咲さんに聞いてたけど…。
「さっきのデュエルの疲れもあるだろうに、長々と引き止めてごめんね。Amaterasuが優勝出来るように祈ってるよ」
「え?あ、ありがとうございます」
「でも意外だったのは大沢さんかな。私がレガリアの事言ったら、『凄いっしょ~!うちらレガリア持ちのバンドなんですよ~!』とか自慢してくると思ってたのに」
「あ、や。ちょっと前のあたしなら自慢してたでしょうけど、レガリアはうちらのってより、あまねるのモノだし、あまねるや結月ちゃんから色々聞いてましたけど、こないだの公開収録の後に神崎先生と澄香さんと梓さんから、詳しく色々と聞かせてもらって…改めて大事なモノだって実感したっていうか」
え?神崎先生からはともかく澄香さんや梓さんからも!?いいなぁ。羨ましい…。
でも、私や結月ちゃんからの話じゃ、自慢してもいいモノくらいのカテゴリだったんだ?
「日奈子さんからは『あんなんただのおもちゃが進化した程度のモノだよ。最近の仮面ライダーのベルトの方が凄いよ』って言われてんですけどねw」
日奈子さん…。
「本城さん。私は無事に卒業出来たらさ。大学に進学ってのはさすがに無理かも知れないけど、またバンドはやるつもりだから。またやろうねデュエル!」
目蔵川先輩、またバンドやるんだ。
そっか。そうだよね。今は卒業の為に勉強に専念しなきゃいけないだけだし、高校生活では引退するってだけだもんね。
「は、はい!いつかまた是非!その時もきっと私達は、負けませんからっ!」
「あはは。その時にはネックレスしてる本城さんを期待してるよ。きっとまたステージでね!」
目蔵川先輩はそう言って走って行った。
私はスズちゃんからレガリアを受け取って、首に掛けながら改めて思った。
いつかまた目蔵川先輩とデュエルをしようと。
ほんの一瞬だけどレガリアが光った気がした。