あたしはBreak Bellのギター兼ボーカルの結月。
これから始まるライブ大会の準決勝第一試合で、Daedal Luvとデュエルギグをする。
Daedal Luvのメンバーの演奏も、昨日の予選の時に観させてもらったけど、歌声も楽器の演奏も各々のメンバーが秀でていた。
オリジナルの曲の時に披露されるボーカルのデスボイスなんか本当に震える程に凄かった。
まぁ、デスボは選り好みがあるし、Daedal Luvは曲作りだけは苦手みたいで、オリジナル曲の時は今大会で審査員につけられる点数は低かったけど、コピー曲は完全に完成されていた。時折入れられる曲のアレンジが見事にマッチして、まるで自分達の曲かのように錯覚する程だった。
さっき控え室からステージまで来る時に、Daedal Luvのメンバーの子達と話ながら来たけど、とても話しやすい人達で、性格も良さそうな面白い子達だった。
その時にボーカルの赤羽さんが、『あ、そうだ。先に言っておくね。私達、自分の曲に自信ないんだ。だけどやっぱり優勝したいから、勝ちを狙っていく。全曲コピーだけど、全力でやるからいいデュエルにしようね』と言っていた。
確かにDaedal Luvがガチで勝ちを狙ってくるなら、コピー曲の方が有利だと思う。
だからこそ、あたし達も同じように全曲コピー曲で、戦おうと思った。それなのに…。
『やっぱり結月はバカなのかしら?私達がやれるコピーってBREEZEさんかArtemisさんの曲よ?勝てる訳がないじゃない』
『そだよ、結月。Daedal Luvのコピーって有名なドラマや映画、アニメとかにもタイアップされてるような曲が多いし、認知度の時点で負け確じゃん』
『BREEZEの曲が負けるとは、あたしは思わないけど、琴子と夏希の言う通り。ここまで来たんだし、絶対負ける訳にはいかないわ。会場のどこかで拓斗さんも観てくれてるでしょうし。あたし達の全力だったらオリジナル曲で演るべきでしょ!』
との事でコピー曲を禁じられてしまった。
確かにDaedal Luvも全力ってんだから、あたし達も全力でってなるとオリジナル曲の方が…とは思うけど。
ステージの上に立ち、楽器のセッティングを終え、あたし達のデュエルが今始まろうとしていた。
-パッ!
あたし達の立つステージが、眩しいくらいの熱い照明に照らされた。
会場はすごい数のオーディエンスで埋め尽くされていた。さすがに予選の時や昨日とは違うね。
今日は土曜日ってのもあるんだろうけど。
そう思った瞬間、Daedal Luvのドラマーがドラムを叩き始めた。この曲は聞いた事がある。
何かの映画のタイアップだったと思うけど、この曲はクリムゾンエンターテイメントのJOKER×JOKERの曲だ。
すごいクオリティの演奏に鳥肌が立ちそうになった。
あたし達も負けていられない。
やっぱりコピー曲相手ならコピー曲でってのは、あたしの傲慢だと思い知らされた。
だから、あたし達の全力で迎え撃つ!
「いくよ!Break Bell!コ…」
「「「
え?何で夏希とあゆみと琴子がタイトルコールしたの?いや、あたしもコールドレインのつもりだったからいいけど、ちょっとびっくりなんだけど。
♪~
♪♪~
♪♪♪~
「ハァ…ハァ、やりきっ…た…」
「「「やりきったじゃないよ(わよ)(わね)」」」
え?何で夏希もあゆみも琴子も怒ってるの?
てか、さっき何で3人でタイトルコールしたの?
「結月!あんたさっき『コピー曲』って言おとしたでしょ!?」
「はぁ!?いや、してないけど…」
「私達がコピーで演奏出来るのは、BREEZEさんかArtemisさんの曲だけ。認知度的に勝てる訳ないと言ったじゃない」
「だからコピー曲やろうとなんかしてなかったし!」
「私らの曲で『コ』から始まる曲はCold Rainしかないからさ。結月が『コピー曲』って言おうとしたら、先にCold Rainってタイトルコールしちゃおってあゆみと琴子と話してたんだよ」
え?3人ともあたしを信じてくれてなかったって事?
めちゃくちゃショックなんだけど。
ああ…控え室に戻って、奈緒さんと天音に慰めてもらいたい。
「あたしだって…負けたくないのは一緒だし。
あたし達らしさを出すならコピーより、オリジナルの方がってわかってるし。
そもそもあたしもCold Rainやろうと思ってたんだし」
あたしはちょっと拗ねてる感じを出しながら文句を言ってみた。
「あ、そうそう。私達のCold Rainもどっちかというとロック系だけど、わりかしクールな感じの曲調でしょ?
Daedal LuvもJOKER×JOKERの曲だったし、静かめで落ち着いた印象もある曲調だったじゃん?」
「夏希の言いたい事はわかるわ。これまでのDaedal Luvの曲調を顧みると、ポップス寄りの曲の方が圧倒的に多い。それにそちらの方が彼女達の演奏にも合っていると思うのだけれど…」
あ、そう言えばそうだね。
Daedal LuvがJOKER×JOKERの曲を演ってきたから、せめてもの対抗心って気持ちで、あたしらの中でも割と静かめの曲でぶつかろうと思ったんだけど…。
夏希達もCold Rainをコールした時、やっぱり幼馴染みだね。以心伝心ってあるんだね。って思ってたけど、全然違ってたし、むしろコピー曲しないってあたしの宣言を信じてもらえてなかったという不信感。
そして何よりさっきからあたし、拗ねてる感じを出しまくってるのに誰もあたしに何も言ってこない不思議。
「まぁ、Daedal Luvも何か考えがあるんじゃない?今、あっちも次の曲をどうするか話し合ってるみたいだし。…このまま次の曲まで間が空いたらオーディエンスの熱も冷めちゃうわ。今度は先手必勝。あたし達の熱い曲をぶちかましてやりましょ」
確かに。Daedal Luvの次の曲を待つより、今ノッているオーディエンスをあたし達に引っ張って来る方がいいね。
「よし、次の曲にいこう。
会場中を湧かせる感じで。声出していくよ」
「「「……コピー曲はダメよ(だからね)」」」
だからコピー曲はしないって!
夏希とあゆみ、琴子が定位置に着いたのを見て、あたしは会場に向けて顔をあげた。
そんなあたし達を見たからか、Daedal Luvのメンバーも焦りながら定位置に着こうと移動する。
…先手必勝か。
確かにこのままDaedal Luvがもたついている内に、曲を始めてあたし達に気を向けさせた方が有利なんだとは思うけど。あたしがやりたいデュエルギグはこうじゃない。
音楽を好きな者同士が、楽しみながら自分達の音楽をぶつけ合うガチンコの勝負。デュエルギグには勝ち負けがあるけど、勝ち負けがあるからこそ、お互いに全力でやりたい。
あたしはDaedal Luvのメンバーが各々定位置に着いたのを確認してから、オーディエンスに向けて叫んだ。
「みんな!声出していくよ!!
あたし達の演奏開始からすぐに、Daedal Luvもタイトルコールを叫んだ。
♪~
♪♪~
♪♪♪~
あたし達の曲Shout Loudlyは会場も一緒に、声を出せるように曲作りをしている。
そのかいもあってか、Daedal Luvは今回も何かのドラマで使われていた曲を披露したけど、あたし達に分があったような気がする。
そして3曲目。
あたし達とDaedal Luvはほぼ同時にタイトルコールをした。
♪~
♪♪~
♪♪♪~
・
・
・
「負けちゃったね」
「はい…負けちゃいましたね」
「……………悔しい」
「アンナもジュリもトモミもくよくよしないの!
あたしらは全力でやった。悔しいけど、Break Bellはそれでも勝てない凄い相手だった!」
「でも…キョーコさん」
私の名前は赤羽 杏奈。
Daedal Luvのボーカルを担当している。
さっき、ライブ大会の準決勝で、Break Bellとデュエルギグをして大敗を喫しちゃった。
知名度の高い曲で、みんなが盛り上がるだろうと思って、セトリを決めたつもりだったけど、3曲ともBreak Bellには及ばなかった。
「でももクソもないでしょ」
「キョーコさん3年ですし、今年で最後だったのに…」
「あたしらは別に軽音楽部って訳じゃないし、卒業するから終わりって訳じゃないでしょ?あれ?もしかしてあたしが卒業したら、ドラムクビになって新しいメンバー入れるつもり?」
「………そんな訳…ない」
「そうですよ!冗談でも変な事言わないでくださいっ!」
「わ、私達が言いたいのは、キョーコさんが卒業だから、このライブ大会に出るのが最後だって意味です!」
「あぁ~、そうだね。でもあたしが卒業後は、ライブ大会にはヘルプでドラムやってくれる人を…」
「「「キョーコさん!!」」」
まったくぅ…。
キョーコさんって年長者でもありバンマスだからって、いつも場の雰囲気を良くしようと気遣って下さるけど、たまに空気読めないような事も言っちゃうからなぁ~。
「悪い…そうだね。ライブ大会は今年で終わりだね。
来年には大会ルールも変わってくれたらいいんだけどね。在校生にメンバーがいたら、その関係者なら参加可能とか…」
「それはダメですよ~。それだと来年はDivalさんも参加可能になっちゃいます!ますます優勝が遠くなっちゃうよ」
「ああ、Divalの志保さんは来年3年ですもんね。でもアンナさんってホント、ファントムでライブやってるバンドさん大好きですよね。私もevokeさんとかFABULOUS PERFUMEさんは昔から追っかけてますけど」
そう。
私はファントムのバンドさんが大好きだ。
最近聴かせていただいたNoble Fateさんも最高だった。
こないだまでは推し声優さんのライブしか、行ったりしてなかったけど、ジュリちゃんをバンドに誘う為に、トモミちゃんと一緒にたまたま入ったライブハウスファントム。
その日やっていたBlaze FutureとDivalの対バンを観て感動したんだ。
けど、まさかキョーコさんもCanoro Feliceが大好きで、お小遣い全部貢いでも惜しくないくらいの推しが居るってのにはびっくりしたよ。
私もファントムの関係者になれたらなぁ~。
そう思ってバンドのアピールポイントに『プロデューサーが欲しい!』みたいに書いたんだけど。
正直、Break Bellはファントムのバンドの方達とも仲が良いみたいだし、番組にも出させてもらってたし羨ましいよ~。
私も今日は控え室で、ファントムの方達とお話出来たけどね。えへ♪
「……アンナの今の『えへ♪』ってしてるような、ニヤケ面が気持ち悪い。………漫画…描きたくなってきた」
心の中で『えへ♪』って言ったのに、何でトモミちゃんにバレてるの?あれ?それに私渾身の可愛い笑顔をしていたはずなのに気持ち悪いって…。
「ふぅ、何とかいつもの調子を取り戻したみたいだね。ここでウダウダ嘆いてても、しょうがないし、そろそろ控え室に戻ろうか。Break Bellには決勝も頑張ってもらいたいし、あんま変に心配かけるのもね」
そうだ。そうだった。早く控え室に戻らないと…。
やっぱり負けちゃった事が悔しくて、泣き出しそうだったから、Break Bellに泣いてる顔を見せるのは…と思って何も言わずに、会場裏まで逃げて来ちゃったけど。
普通に考えたら何も言わずに出ていったりしたら、変な心配掛けちゃうよね。
「そうですね。みんなとここでお話して、少し落ち着きましたし、そろそろ控え室に戻りましょうか。アンナさんももう大丈夫ですか?」
「わ、私は全然大丈夫だよ!私よりトモミちゃんの方が…」
「………漫画描きたい」
「トモミも大丈夫そうだね」
私達が足早に控え室に戻ろうとしたその時だった。
「良かったわ。貴女達を探していたのよ」
今日のライブ大会を観に来ていた保護者の方かな?
綺麗なお姉さんが私達の前に現れた。
私達を探していたって言ったように聞こえたんだけど…。
「さっきのデュエルギグは残念だったわね。
貴女達の演奏力ならもしかしたら…とは思ったりもしたけど、やはりBreak Bellの演奏力も凄かったわね」
私達の演奏力?
わぁ…ごめんなさい。私、楽器使えないので歌しか…。
「気を悪くしないで聞いて欲しいのだけれど、貴女達にオリジナルの曲が…貴女達に合ったオリジナルの曲があったなら、『今の』Break Bellには負けなかったと思うわ」
「今の?そっかぁ、Break Bellも今が限界じゃなくて、これからもっとレベルアップしてくるんだもんね」
「私達に合ったオリジナルの曲を持っていたら…。確かにそう思う事はありますけど…」
「アタシは作詞も作曲も苦手……」
「苦手…と言うより才能が無いわね。さっきのデュエルギグでオリジナル曲をやらなかったのは正解だと思うわ」
「ムッ!さっきから何なんスか?あたしらせっかく気持ちを落ち着けたってのに、また気分下がるじゃないですか。そういったお話ならスンマセンけど、お引き取…」
「でも貴女達の演奏も歌も完璧だと思っている。
私にプロデュースさせてくれないかしら?貴女達の曲を」
「りを願わないので、もう少しお話しましょうか」
キョーコさん。さすがです。
でも、私達をプロデュースかぁ…。
この人ってどういう人なんだろう?
……ファントムの方って事はきっとないよね。
「あの…お話はありがたいのですけど、私達をプロデュースってどういう事ですか?そもそも貴女はいったい…?お話を伺うにしても、まずは貴女の事をお話していただきたいのですけど…」
あ、ジュリちゃんが私達の中じゃ1番年下なのに、1番まともな事言ってる。
「そうね、ごめんなさい。まずは私の事を話させてもらうわね。私はこういった者よ」
そう言って私達各々に名刺を渡してくれた。
沖野…志摩さん…。クリムゾンカンパニーの社長…。
クリムゾン?え?クリムゾンってもしかして、あのクリムゾングループの関係会社?いやいやいや、さすがにそれはないよね?クリムゾンなんて大きな音楽グループが私達なんかに…。
「あの…失礼を承知で聞かせてもらいたいんスけど、クリムゾンカンパニーって、あたしは正直聞いた事もありません。それに…クリムゾンって」
「アタシ…知ってる。………クリムゾンカンパニー」
「え?トモミちゃんは聞いた事あるの?」
「私も少しですけど知ってますよ。クリムゾンカンパニー。昔、クリムゾンエンターテイメントの子会社みたいな感じだった音楽事務所ですよね?確か…xenial Xの所属していた…」
「……でも倒産したって聞いた。可哀想」
わぁ、トモミちゃんもジュリちゃんも本当に知ってたんだ?私も歌も頑張ろうって思って、バンドをやろうって決めてからは、割と流行りの曲もだけど、色んなバンドさんの事も勉強したつもりでいたのに。
「正直驚いたわ。まさかこんな若い子達がxenial Xの事を知っているなんて。
そうよ。貴女達には是非、私のクリムゾンカンパニーに所属して欲しいと思っているの」
そのジニアルエックス?っていうバンドは、私は知らないんだけど、トモミちゃんもジュリちゃんも知ってるって事は、それなりに有名なバンドさんなのかな?
でも、私達をプロデュースして下さるって話は嬉しいけど…クリムゾングループかぁ。
あんまり知らないけど、良くない噂も色々と聞くし、所属させて貰えるならファントムの方がいいとは思うし、どっちにしろ将来的にはアニメやゲームのキャラに声をあてる声優さんになりたいから…事務所に所属となると…うぅ~ん…。
「あの!お話は凄くありがたいと思いますけど、申し訳ありせんがお断りさせていただきます!」
え!?ジュリちゃん!?即答!?
「アタシも…ヤ」
トモミちゃんまで!?
「まぁ…ジュリもトモミもそう言ってますんで、申し訳ないですけど、あたしもクリムゾングループにはちょっと…」
わぁぁ…キョーコさんまで…。
わ、私ちょっと悩んじゃってたよ…。
「それは…私のクリムゾンカンパニーが、クリムゾングループだから…という事かしら?」
「はい。私はクリムゾングループの音楽に対する理念は好きじゃありません。その…もちろん、完全否定をする訳じゃないですけど、色々な考えや気持ちで音楽やってらっしゃる方もいらっしゃいますし。単に私が好きになれないって言うだけで…」
「あたしもそうです。せっかくプロデュースして下さるんだから、あたし達とプロデューサーとで、二人三脚で音楽やっていきたいと思ってます。でも、クリムゾンだと自由がないですよね?一緒にやるんじゃなくて、『やらされる』音楽は、あたしはしたくないです」
「なるほど。黄瀬さんも同じような感じかしら?」
「…アタシは違う」
え?トモミちゃんは違うの?
「アタシは…プロのミュージシャン兼漫画家になる。……アンナは声優。クリムゾンじゃアンナは声優になれない」
トモミちゃん…私の夢の為に…。
「それなら大丈夫よ。
貴女達の経歴などは調べさせてもらったもの。
黄瀬さんの原稿をやる時間もちゃんと取れるようスケジュールを立てるし、赤羽さんが声優にもなれるよう、私はそちらのマネジメントもするつもりよ。まぁ、声優になれるかどうかは、赤羽さんがオーディションなりに受からないと無理でしょうけどね」
「……ならアタシはやってもいい」
「ちょっとトモミさん!」
「トモミ!わかってんのか!?クリムゾンだぞ!?」
声優をやれるようマネジメントもして下さるなら、私的にも夢の近道になるし、このバンドで音楽をやっていけるって事だから万々歳な気がするんだけど…。
「…大丈夫…だと思う。…だって、ジュリとキョーコさんがクリムゾンだからヤって……言ってるのに、この人…引き下がらないし…」
「いや、そうは言っても…」
「大丈夫…なんでしょ?…クリムゾンなら、アタシ達が断った時点で…敵視してきそうなものだし」
「声が小さい割にはなかなか聡明ね。その通りよ
むしろ私もクリムゾングループは大嫌いだし。さっき緑川さんが言っていたプロデューサーとの二人三脚ってやつ?それこそが私のやりたい音楽でもあるもの」
「え?でもクリムゾンって…」
「一から説明するわ。ちょっと長いけれど聞いて頂戴」
そして、沖野さんは私達に、何故クリムゾンカンパニーの社長をやっているのか、何故私達をスカウトしたのか、私達とどうやっていきたいのか、そして…最終的にはクリムゾンエンターテイメントを含む、クリムゾングループを打倒を目指している事、ファントムを個人的な復讐の為に潰したいと思っている事を聞かされた。
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・
「そ、そうなんですね…。あの、その…ファントムに復讐っていうのは、私的には納得いってはいないんですけど、そういう事でしたら、私は沖野さんと一緒にやっていきたいって思います!」
「アタシ…さっきから……言っている。…問題ない」
「何も話も聞かないうちに、先程は失礼しました。
そういった事でしたら、私もプロデュースのお話はありがたいと思いますし、力及ばないと思いますけど、少しでも沖野さんのお力になりたいです!」
「あたしもアンナと同じで、ファントムに復讐ってのは、いただけないと思っていますけど、もし、今更でもよろしければ、お願いしたいです。よろしくお願い致します!」
「今更なんて事ないわよ。良かったわぁ~。
実質、私達クリムゾンカンパニーは、クリムゾングループから独立したような形になるし、お給料とか…その…ちょっと薄給にはなると思うのだけど、私の方こそよろしくお願い致します。あ、それで早速だけど、貴女達に合いそうな曲作ってきてるのよ。デモを渡しておくから、時間のある時に聞いてみて頂戴」
そう言って沖野さんは私達に人数分のCDと歌詞の書かれた譜面を渡してくれた。CDには『無題』と書かれてあった。
「薄給ってはな、あたしら的にはまだ学生ですし、全然問題ないんですけど……あの、よければ何でファントムに復讐したいのか…それも話してくれませんか?あたしとアンナはやっぱりファントムのバンドが好きって気持ちありますから…」
「そうね。そこも話しておくわね。実は……」
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日本ではないとある国のビル。
その最上階にクリムゾンエンターテイメントの創始者海原 神人が居た。
「ふむ、ここからの眺めもなかなかのものだ。この会社を落とした甲斐があったというものだね」
そのビルは数時間前まで、ある若手起業家が起こした会社のビルだったが、今、この時からクリムゾンエンターテイメントの傘下にくだったのだ。
「日本は昼頃かな?そろそろライブ大会の決勝が行われているかも知れないね。あさAmaterasuの演奏を観てみたかったものだが…ククク、それにしてもまさかAmaterasuにレガリアを託しているとは。タカは本当に私を楽しませてくれる」
海原は眼前に広がる夜景を見ながら、ワインを飲み干し物思いに耽っていた。
いや、クリムゾンミュージックを潰すための、次の計画を練っているのだ。
そんな時、そんな静かな部屋に1人の男が騒がしく入って来た。
「海原!テメェ!どういうつもりだ!!」
「おや?二胴くんじゃないか。何故この国に?」
その部屋に入って来たのは、クリムゾンエンターテイメントの大幹部、二胴 政英だった。
「何故この国に…だと!?あんたに直接文句を言うためにわざわざ出向いてやったんだぜ!」
二胴は力任せに近くにあった机を叩き、海原に対して威嚇をした。
「おやおや、これは怖い事だ。だが…はて?私は何か文句を言われるような事をしてしまったのかな?」
だが海原はその二胴の威嚇に怯むような男ではなかった。
「すっとぼけてんじゃねぇ!テメェ!俺の暴走を止める為にクリムゾンカンパニーを俺に寄越したんだろうがっ!それを勝手に権利書から何から何まで…全部、俺から剥奪して沖野の奴に渡したそうだな!!」
「フフフ。キミの暴走を止める為に…か。何だよくわかっていたんじゃないか。そうだとも。キミはどうしてもファントムを潰しておきたいようだからね。ファントムへのちょっかいを掛けられるように用意したつもりだったが…」
「ああ、だろうな。だから何故それを俺から奪ったのかと聞いているんだぜ!」
「キミから奪った?いやいや、クリムゾンカンパニーも所有権は私にあった。それを返してもらって、沖野くんにプレゼントしたまでの事だ。あんな小さい会社の利権など、もう私達には必要ないからね」
「それを奪ったって言うんだろうがよ!」
「キミの暴走が…目に余る事をしていたものでね。自由に出来る力を、このまま与えておくわけにはいかないと考えたまでだ」
「何だと?俺が何をしたって……(ゾクッ」
二胴が言葉を言い終える前に、海原の鋭い目は二胴の身体を貫いていた。
「(こ、この俺が動けないだと…こんな死に体のジジイに睨まれているだけで…)」
「私が何も知らないと思っているのかね?
……二胴!足立を引き入れようとしていたな!あいつは私達にとっても猛毒だと言ったハズだ!!今、煌 紅蓮のクリムゾンミュージックを倒すこの絶好の機会に、余計な計略は邪魔にしかならないのだよ!」
-ビリビリビリビリ…!
海原の怒気は二胴の動きと思考、そして、怒りや自信さえも奪ったのだ。
先程のビリビリという擬音は、何かが破れた音ではなく、その場がビリついたという表現である。
これはバンドや音楽の話だというのに、恐ろしい事である。
「(この俺が…あの足立にさえも感じた事のない恐怖をこんなジジイから感じているというのか…。まともに息も出来ねぇ…俺は…殺され…る…?)」
「ニコッ」
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァハァ…うぐっ」
二胴が死の恐怖を感じた時、海原はそんな二胴に笑顔で応えた。その瞬間、二胴の身体は自由を取り戻し、生きているという安心感すら感じているのだった。
ちなみにこれは青春×バンドのお話である。
「確かに…キミに何も言わず、クリムゾンカンパニーを沖野くんに譲渡したのは私にも非があるな。…よかろう。沖野くんにはクリムゾンカンパニーを返してもらって、別の会社を手配しよう。文句があるかも知れないが、ある程度の資金援助の約束と…そうだな。小暮くんに協力させるか。その方が面白い事になりそうだ」
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「そういう訳だ二胴くん。クリムゾンカンパニーはもう1度キミに貸してやろう。だが、もう勝手が過ぎる事はしてくれるなよ?……まだ生きていたいだろう?」
「ハァ…ハァ…」
「…それでは私はその諸々の手続きがあるので、お暇させてもらおうか。やれやれ、社長という仕事も忙しくて大変だな。ゆっくり休む暇もない」
そうしてDaedal Luvの所属が決まった沖野 志摩が率いるクリムゾンカンパニーは、二胴の手駒へと戻り、海原はクリムゾングループではなく、クリムゾンエンターテイメントの協力会社として子会社を作り、その子会社を沖野 志摩に譲る事にした。それはまだ沖野ももちろん知る事はなく、沖野とDaedal Luvが知るのはライブ大会の文化祭最終日から数日後の事になる。
クリムゾンカンパニーを沖野に譲渡した事、その事に対して二胴が文句を言ってくるだろう事、クリムゾンミュージックがアヴァロンとの戦いで周りに目がいかない今の内に、他のクリムゾングループに知られていない新しい子会社を作る事、タカと梓にクリムゾンカンパニーを警戒させる事、そして、その子会社には現在クリムゾングループに属していない人間のみで構成するという所まで、全てが海原の計画通りの事だった。
この計画により、海原は二胴の暴走を抑え込む事、足立をクリムゾンエンターテイメントに近付けない事、クリムゾンミュージック含むクリムゾングループの目を欺く事、邪魔になるだろうファントムへの牽制の駒を作る事が成功したのである。
唯一の失敗が、タカも梓もクリムゾンカンパニーを忘れていたので警戒させる事が出来なかった事である。しかし、それを海原が知るよしもない。
「なかなか回りくどくなってしまったが、ほぼ計画通りだな。私の悲願が達成されるのも近いだろう。
後は…タカが上手くAmaterasuを導いてくれたら完璧だな」