文化祭のライブ大会準決勝の1回戦。
結月ちゃん達のBreak BellとDaedal Luvのデュエルギグは、Break Bellの勝利で幕を閉じた。
Break Bellは約束通り決勝戦に進出。
準決勝2回戦は、私達のAmaterasuと美緒先輩達のGlitter Melody。
私達が勝って、結月ちゃんとの決勝戦で会おうって約束を果たさないと。
でも美緒先輩達もめちゃくちゃ凄いからなぁ。
私達…勝てるかな?あ、お腹痛くなってきた…。
私の名前は本城 天音。
今、ステージの上では、ライブ大会のスタッフさん達が色々とセッティングしてくれているらしく、私達が演奏の準備をするまで、もう少し時間が掛かるらしい。
「あ~まねる!まぁ~たお腹痛そうな顔してるなぁ」
「わわ、ま、真凛ちゃん…」
「大丈夫だって。いくら相手が美緒先輩達だって言っても、あたしらはAmaterasu!ぜってぇー勝てるから」
うぅ…真凛ちゃんのこの自信って、いつも羨ましく思うよ。
「相手が美緒先輩達ですものね。天音が緊張してしまうのもわかりますわ。それより真凛は何でいつもそんな自信に満ち溢れてますの?」
「そ、そうだよ。真凛さん。
相手はあのGlitter Melodyだよ?私だってお腹痛くなってきたよ…」
「てるみんもスズもなぁに言ってんの!あたしら無敵だし余裕余裕!ヤバくなったらあまねるのレガリアで蹴散らせばいいし!」
だ、だからレガリアはそんなモノじゃないから。
「みお先輩はIrisベースの使い手だしね~。すずかもてるみも自信そーしつしちゃうか~」
「はぁ?蘭は何を言っていますの。別に美緒先輩がIrisベースを持っているからと言って…」
「あたしはみお先輩のIrisベースと、あまねのレガリアどっちがスゲーのか気になるけどな~」
「あ、蘭さんもベーシストだもんね。やっぱり美緒先輩のIrisベースは気になる感じ?」
「んあ?別にそんな事ないけど~…」
「んな事言ってぇ~。らんらんも気になってるなら気になってるって言えばいいのに。別にベーシストがすっげぇベースに興味あってもおかしくないじゃん。あたしだって、実は"追憶のレスポール"は気になってっし!」
追憶のレスポール。
確か15年前にアーヴァルってバンドの、ユーゼスって人が使ってたギターだっけ?何となくしか知らないけど…。
「ん~。これって気になるになるのかなぁ~?
あたしはレガリアとIrisベースどっちが強いのかなーって」
蘭ちゃんにしては珍しく饒舌だから気になったけど、レガリアとIrisベースって全然違うものだし、強いとか弱いとかそんなのないと思うんだけど…。
「蘭の言っている事はさっぱりわかりませんわね。
そもそもレガリアは歌い手の想いや気持ちを昂らせて、増幅した想いを声に乗せて発信するもの。
Irisベースは楽器の声を聞いて、演者とリズムを最適化して曲とリズムを紡ぐもの。
前提からして違うものじゃありませんの」
わ、レガリアって言葉で説明するとそんな感じなんだ?
やっぱりすずちゃんは凄いなぁ~。
私なんか感覚でしか捉えられてなかったのに。
そっか…レガリアって言葉にするとそう言った物なんだとしたら、私が曲や歌詞を通して想いを声に乗せれば…。
「おー、すずか詳しいね」
「これくらいミュージシャンの嗜みとして当然ですわ」
「ミュージシャンの嗜み…?どうしよう、私、涼風さんの話を聞いてもピンと来ないんだけど…」
「大丈夫だっててるみん。あたしは最初から最後まで全然わかんなかったし」
「でも、天音さんは今の涼風さんの言葉で何か掴んだのかな?いつになく真剣な面持ちになってるし」
「そうかな?お腹痛いのが限界越えてヤバい事になってんじゃね?」
いや、聞こえてるからね?
確かにお腹は痛いけど、今はそれどころじゃないって言うか…。何となく何か掴めそうな気がする。
「それなのに蘭は何が気になってますの?特にわたくしが調べた限りでは、レガリアとIrisベースに接点なんてないと思うのですけど。まぁ、射手座のレガリアの元に黄色のIrisベース、魚座のレガリアの元に橙のIrisベースがあった。という過去の絡みはありますけどね」
「んー…まぁ色々?」
「その色々っていうのが気になってるんですけど?」
そうだよね。
出会った頃に蘭ちゃんって私がレガリアを持ってる事に驚いてたし、レガリアを知っている人なんだろうなって思ってたけど、その時以降はあんまり蘭ちゃんからレガリアの話題は出したりして来なかったのに。
「色々は色々。……ふぅ、いっぱい喋って疲れた。
あたしはちょっと寝るから出番になったら起こして」
え?蘭ちゃん寝ちゃうの!?
もう少ししたら私達の出番だよ!?
しかもいっぱい喋ったって、そんな言う程は喋ってないよ!?
「やっぱりいつもの蘭ですわね。レガリアやIrisベースとか仰るものだから真面目に聞きましたが、真面目に聞いて損しましたわ」
「あー、すずかが意地悪言ってるぅー」
「ほら、涼風さんも蘭さんに謝って」
「わたくしが何か謝らなきゃいけない事しました…?」
「Zzz…」
「わ、蘭ちゃん本当に寝ちゃってる…」
「相変わらずらんらんは自由奔放だよね~」
「それ…真凛さんが言っちゃうんだ?」
-ピョコッ
「あら?起きましたわね」
蘭ちゃんが本当に寝ちゃったと思った途端、急にピョコッと起き上がるもんだからびっくりしちゃった。
「そろそろぽい」
そろそろ?
-ピンポンパンポーン
『大変お待たせしました。準決勝2回戦に参加されるAmaterasuとGlitter Melodyのメンバーは……』
あ、呼び出しだ…。
と、とうとうGlitter Melodyとデュエルギグを…。
「よく寝た…」
そう言って蘭ちゃんは控え室から出て行った。
私達もステージに向かわないと…。
「天音」
「あ、美緒先輩」
私も蘭ちゃんを追ってステージに向かおうとした時、美緒先輩が話し掛けてきてくれた。
「…先輩としてAmaterasuに胸を貸してあげます。全力で掛かってきて」
「は、はい!もちろんです!」
「あ、そうだ。何か蘭が面白い事言ってましたね。
レガリアとIrisベースのどっちが強いのかどうとか」
え?あの話って美緒先輩にも聞こえちゃってたんだ?
「す、すみません。何か騒がしかったみたいで…」
「いえ、別に。
私も少し気になったし。レガリアもIrisベースも、どっちも凄いっていうのは私も感じてますし」
「美緒先輩…」
美緒先輩もIrisベースの声は時々しか聞こえないって言ってたよね。私もレガリアを使いこなせてないけど。
「それと、ちなみに真凛が私達にぜってぇー勝てるとか、余裕余裕って言ってた事も丸聞こえですので。デュエルギグ楽しみにしてます(ニコッ」
「……す、すみません…ホントすみません」
うぅ…お、お腹が痛い。
ヤバいよこれ。絶対美緒先輩怒ってるよ。
私は今までで最上級といってもいい程の腹痛に見舞われながらステージへと向かうのだった。
・
・
・
私達はステージの下手側で待機し、Glitter Melodyは上手側で待機している。
良かった。待機時間まで美緒先輩と一緒だったら、今頃吐血しちゃってたかもだよ。
「あまねる大丈夫?さっきより顔青くね?」
「も、もう!誰のせいだと思ってんの!?真凛ちゃんがとんでもない事を言うから…」
「え?あたし何か言った?」
「ら、蘭さん?大丈夫?フラフラしてない?」
「らいりょうぶ~。ちょっち疲れて眠いらけ~」
「ほ、ホントに大丈夫かな?」
「まぁ、蘭も音楽バカですし、ステージに上がれば目も覚めるでしょう。天音もステージに上がると腹痛も治まりますから安心ですし」
もう少ししたらステージに上がってデュエルギグが始まる。後手に回っちゃうとGlitter Melodyに呑まれちゃっても大変だからと、ライトが照らされたら輝美ちゃんが演奏を始めて、タイトルコールなしで演奏を開始する。
ちょっとでも勝てる可能性と、Glitter Melodyの意表をつく為にすずちゃんが立ててくれた私達の作戦。
正直、こんな事くらいじゃGlitter Melodyの意表をついたりなんか出来ないだろうけど、すずちゃんは『美緒先輩達は今までの天音を見てきてらっしゃいますし、奇襲作戦はかなり効果的だと思いますわ』と言っていた。
それを聞いた真凛ちゃんと蘭ちゃんと輝美ちゃんは『あ~なるほど』と言っていたけど、何でだろう?
「天音!」
私達が待機しているステージ袖に、結月ちゃんが来てくれた。
「結月ちゃん。どうしてここに?」
「さっきDaedal Luvが控え室に戻ってきたから話し込んじゃってさ。天音達の出番なのに、控え室出る時に激励出来なかったから」
「…結月ちゃん。ありがとう。私達きっと勝つから」
「うん…。あたし達が先に決勝進出を決めた。約束果たせるの待ってるから。天音達が決勝のステージに上がって来てくれるのを待ってるから」
「結月ちゃん…」
「天音…」
「こいつら大事なデュエルギグ前に、何をわたくしの目の前でいちゃついてやがりますの?うっかり口から砂糖を吐き出してしまいそうなんですけど」
「す、涼風さん、落ち着いて…」
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「やっるじゃん美緒~!見てたよさっきの天音ちゃんへの威嚇!」
「は?威嚇なんてしてないし。
天音は三咲さんに選ばれたレガリアの継承者だからね。本気の天音と演りたいから、笑顔で気にしてないからねって言ってあげただけだよ?」
「え?み、美緒ちゃん、それ本気で言ってる?
わ、私も麻衣ちゃんと同じように、威嚇してると思ってたんだけど…」
「恵美まで何を言ってるの。私がそんな事する訳ないじゃん。気にして萎縮したら大変だから、安心させてあげようとしただけだよ?」
「うわー。さすが美緒だね。それ絶対逆効果だよ?
今頃、天音は『うぅ、真凛ちゃんのせいで美緒先輩に怒られちゃったよ…。どうしよう、お腹痛い』とか言ってると思うよ?」
「いやいや、睦月まで何を言ってるの。そんな訳な……え?もしかして私の笑顔って怖いの?」
「「「うん」」」
「え?まじですかガチですか?お姉ちゃんの笑顔はあんなに愛らしくて可愛らしいのに…。何故姉妹でこうも差が…」
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真っ暗なステージの中、私達はそれぞれの立ち位置に着き、まだうっすらと明るい観客席を観ていた。
昨日までより全然お客様が多い。
今からこんなたくさんのお客様の前で歌うのに、なんでだかわからないけど、すごく落ち着いている。
ちょっと前の私なら、また失敗する事を恐れて逃げ出しちゃってたかも。
私は真凛ちゃん、蘭ちゃん、すずちゃん、輝美ちゃんの顔をソッと見た。
真凛ちゃんとすずちゃんは落ち着いている様子だ。
蘭ちゃんもさっきまで眠そうにしていたのに、今はそれを感じさせない。
輝美ちゃんは…ちょっと緊張してる感じかな。ステージにライトが当たったらいきなり演奏だもんね。
タイミングを見図る為に必死だよね。
そして隣に居るGlitter Melodyにも目をやった。
さすが先輩方はステージ馴れしているだけあって、落ち着いている様子だ。
……って思ったけど、美緒先輩は落ち着いてるって言うより落ち込んでない!?
さっきまで元気だったのにどうしたんだろう?
-パッ
-ドンドンドン、シャン!
私がそんな事を考えていた時、ステージがライトアップされ、続けて輝美ちゃんがドラムを叩き、私達Amaterasuの演奏が開始された。
私も歌い出しを間違えないようにして、しっかりと声を出さないと。
「ーーーーー♪」
「(よっしゃ!奇襲作戦成功!あまねるもしっかり歌えてるし、あたしもミスなし!さすがあたし!)」
「(あー、あまねの歌い出し完璧だったのに、まりんが1音ミスったー)」
「(…多分、真凛はミスに気付いていませんわね。天音も上手く入りましたし、あの程度なら問題ないでしょう。輝美もまだ場馴れしていないのに無理をさせましたわね。落ち着いて叩ければ良いですけど…)」
「(わ、私失敗してないよね?大丈夫だよね?
ど、どうしよう、このままのリズムで大丈夫かな?頭が上手く回らない…。と、とにかく落ち着いてミスしないようにしなきゃ)」
「ーーー♪(うん、上手く声を出せてる。このままいければ…)」
「(油断したっ!天音達の事だから自己紹介してから、タイトルコールして演奏始めると思ってたのに!)」
「(へぇ~。Amaterasuやるじゃん。まさかこんな奇襲を掛けてくるなんて。だったらあたしも!)」
「(ちょ…睦月ちゃん何で勝手に演奏始めちゃってるの!?それ私達に対しても奇襲になっちゃってるよ!?み、美緒ちゃん、どうする?)」
「(あぁん、もうっ!睦月が勝手に始めちゃったら、私達も演るしかないじゃん!も、もう~!私もやっちゃえ!)」
「(睦月が勝手に演奏始めた時はどうしようかと思いましたが、麻衣も乗ってくれて良かった。あ、恵美も私を見て頷いてくれた。ちょっとイントロ長くなっちゃうけど、Amaterasuの演奏の間に入るように………まだ…まだ……今だ!)
Glitter Melodyのオリジナル!聴いて下さい!
!?
凄い…。さすが美緒先輩達だ。
私達のこの曲を聴くのは初めてのハズなのに、上手く曲の間に入り込んできた。
「(うぇ!?ヤバッ、あたしのギターって完全に永田先輩の音に喰われちゃってね!?)」
「(お、すご。せっかくきしゅーしたのに、音を上書きされたかんじ?)」
「(クッ…さすが先輩方ですわね。言葉もありませんわ。それに真凛も輝美もテンパってますわね…。天音、何とかやりきって下さい!)」
「(わ、さすがとしか言い様がないよ。ど、どうしよう、私の叩き方これで合ってる!?ダメだ。余計な事ばっかり考えちゃう…)」
「ーー♪(まずい…まずいよ。真凛ちゃんと輝美ちゃんが焦っているのが音でわかる。2人共いつもと全然違う…。
…え?あれ?音で…わかる?あ…私、みんなの音を聞いて、今みんながどんな気持ちでいるのか、わかるようになってたんだ…。そうだよね。私達ずっと一緒に練習してたんだもん)」
せっかく輝美ちゃんの出だしや、私の歌い出しも上手くいったのに、もっと、もっと声を出さなきゃ。
パフォーマンスも大きく見せて…。
「(奇襲作戦は思い切った手段でしたが、Glitter Melodyの演奏は全然レベチですわね。天音も声量をいつも以上に出しているみたいですけど…)」
「(お、あまねる何かスゲー!いつもの練習ん時と全然違うじゃん。よぉし、あたしももっと目立たないと…)」
「(あ、まりんがまたミスった。まぁ、でも問題ないかな?それよりあまねだね。そんなせいりょーで最後までもつかな?)」
「(凄い!凄いよ天音さん!いつもと全然違う!
よし、私も天音さんが歌いやすいように、もっと丁寧にリズムを…)」
あ、真凛ちゃんの音も輝美ちゃんの音もいつもの感じに近づいてきたかな?
でも、まだまだGlitter Melodyの方が凄い。
もっと…もっと…力強く歌わなきゃ!
「ーーー!!♪」
「ーーー!♪(天音の声…雰囲気がいつもと全然違う。透き通っているような優しさっていうのが…。確かにいつもより力強く歌えてるけど、全然らしくない)」
「(わぁお。さすが天音。あたしが目を付けてただけあるね。うん。目を付けてただけで、あたし何もしてないけど。でもそれじゃあたし達には勝てないかな)」
「(天音ちゃんの歌い方…。いつもはタカさんに影響受けてるのかな?って印象だったけど、いや、今もパフォーマンスや身振りはタカさんらしいのか。う~ん…)」
「(…天音ちゃんってこんな歌声を出せるんだ?でもその歌い方じゃAmaterasuとしての良さが…)」
♪~
♪♪~
♪♪♪~
「ハァ…ハァ…ハァ…(ダメだ。このままじゃ…。もっともっと上手く歌わないと…。レガリアは…やっぱり光ってくれなかったし…もっと必死で歌わないと…)」
「(やっぱGlitter Melodyすっげぇ…。あまねるもめちゃ声出してたのに、まるっと呑まれちゃった感じじゃん)」
「(本来でしたらここでGlitter Melodyの演奏が終わるのを待って、自己紹介にいくつもりでしたけど…このままでは)」
「(今流れを変えとかないと負けちゃいそうだなー。すずかもやる気みたいだしぃ~。よっし!)」
「(え!?えぇぇ!?蘭さん次の曲の演奏を始めちゃった!?)」
「ハァ…ハァ…(え?蘭ちゃんだけじゃなく、すずちゃんまで…?ま、まだ息も整えられてないのに…)」
「(スズもらんらんもマジ!?えっと…ここからこう入ればいいかな…?)」
「(さすが蘭ですわね。わたくし達が勝つには、今のこの流れを止めなくてはいけませんものね。心配していた真凛も綺麗に入ってきてくれましたわ。真凛もいつもこれくらい落ち着いて演奏してれば完璧ですのに。せっかく天才的な才能には恵まれてるんですから…まぁ、本人には死んでも言いませんけどね)」
「(真凛ちゃんまで…だったら私も!輝美ちゃん、着いてきて!)ーーーー♪」
「(ええええええ!?天音ちゃん達、間髪いれずに2曲目いっちゃうの!?)」
「(わわわ、私達今1曲目終わった所なのに…。どうしよう?私達もこのまま2曲目にいっちゃった方がいいのかな?美緒ちゃんはどうするつもりなんだろう?あれ?美緒ちゃん…?)」
「(うん!最高に楽しい展開だね。まさか2曲目も間髪入れずに持ってくるなんて。あたし達に勝つには、Amaterasuとしては今の流れ変えときたいよね。
でもAmaterasuもあたし達も一緒に演奏って、お客さんはちゃんとあたし達の曲聞き分けられてるのかな?デュエルギグって不思議~)」
「(正直Amaterasuのメンバーみんな凄いです。まだバンドを始めたばかりなのに、こんな凄いライブが出来るなんて。でも…)」
「(あれ?美緒どうしたんだろ?2曲目いかないのかな?もしかしてあたし待ち?)」
「(睦月も美緒もフリーズしちゃってる?この後どうするんだろ?ま、まさか私待ちって事ないよね!?)」
「(美緒ちゃん…何か考えがあるのかな?)」
「ーーー♪(美緒先輩どうしちゃったんだろう?)」
私は2曲目も力一杯声を出して歌っていた。
1曲目は多分負けちゃってると思うから…。これ以上点差を離されないようにしないと。
そう思った時一瞬、演奏もせずに何か考え込んでいるような美緒先輩が目に入って、美緒先輩は演奏もしていないのに、私達は『きっと勝てない』という思いが全身に駆け巡った。
「(今日のAmaterasuは勢いも演奏も凄い。でも、きっと勝つのは私達だね。今のAmaterasuは凄いけど、ただ凄いだけで…。
天音にも胸を貸してあげるって言っちゃいましたし、何とか天音に伝えられたらいいんですけど…)」
『一緒に歌おう』
「(花嵐…?)」
『一緒に歌おう!』
「(大丈夫です。私達の中には花嵐も『一緒』に入っていますから)」
『一緒に歌おう♪』
「(……一緒にか。そうですね。それが1番かもですね。ありがとうございます。じゃあ、一緒に)」
「(歌おう!)『歌おう♪』」
美緒先輩の音の雰囲気が変わった?
美緒先輩がタイトルコールしてベースを奏で、その音に呼応するように、睦月先輩と麻衣先輩と恵美先輩が演奏を始めた。
今デュエルをしている私でも何となくわかる。
美緒先輩の音も睦月先輩の音も、麻衣先輩の音も恵美先輩の音も、1音1音がすごく…すごく楽しそう。
演奏の技術や私の歌声は、さすがに先輩方には及ばないというレベルなのもわかっている。
だから奇襲作戦とかもしたんだし…。
でも、私達の今日の演奏は、いつもと違って、みんな各々が最高の音を出しているって。
そんな技術を補えてるって思える程の、演奏を出来ているって思っていた。これなら勝てるって、絶対負けたくないって…。みんなの音からもそう感じられていた。
だけど、これがきっと私達の敗因だ。
♪~
♪♪~
♪♪♪~
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「(どうすんだろあまねる。このまま、また3曲目にいくのかな?)」
「(んー。さすがに3曲目は…きしゅーはダメだよねー)」
「(さすがGlitter Melodyですわね。今の所は良くても僅差で負けているといった所ですわね。最悪は大差での負けですけど。ここから逆転するには…)」
「(ヒィィィ…なんとかやりきってみたけど、正直もういっぱいいっぱいだよ。何度かミスっちゃったし…。私…3曲目上手くやれるかな…)」
ごめんね、みんな。
こんなんじゃ…ダメだったんだ。
射手座のレガリアをせっかく継承させてもらったのに、私はGlitter Melodyに勝ちたいからって、結月ちゃん達と決勝デュエルギグしたいからって、1番大切な事を忘れちゃってた。
みんなをちゃんと導いてあげれなくてごめんね。
でも、まだ後1曲。もう少しだけ時間があるから。
今からでも私は…。
「こ、こここ、こんにちは!Amaterasuの天音と申しましゅ!」
か、噛んだー!
せっかく決意して『今からでも私は…』とか意気込んでたのに思いっきり噛んじゃったー!
クッ…でも、これは今までの私への戒めだと思えば…。
「いいい、いきなり…その2曲もやっちゃってごめんなさい。その…色々考えたんですけど、こ、こここういうのも斬新かな?とか思ったりなんかしちゃって…」
「(あまねる…?)」
「(あまねが…MC…?ライブ大会でこれアリなのかな?)」
「え、えっと…その、あんまり時間もありませんので、わ、私からみんなの事を紹介しちゃいまちゅ!」
「(天音がみんなを紹介?どういう事ですの?ライブ大会でそんな勝手な事…。また噛みましたし。なんて可愛らしいんですの!)」
「(天音さん?きゅ、急にどうしちゃったんだろう?)」
「えっと、ギタリストの真凛ちゃんです。
その…ギターも始めたばかりなのに、すっごく上手くて………」
私はAmaterasuのメンバーを紹介して回った。
な、何とか色んなバンドの方々の見よう見まねの流れで、私らしくMCしたつもりだったけど…。
せ、せっかくのライブ大会なのに、こんなに長々とMCなんかしちゃって…やっぱり失敗だったかな?
ううん、ライブ大会としては、審査員さん達の評価的には悪かったかも知れないけど、MCの途中でお客様も声を掛けてくれたり、笑ってくれたりしてたし…。
でもタカさんが昔やってたMCの『みんなぬれてっかー?たってっかー!?』ってやつ。
私なりにアレンジして『みんなぬれてますか?たってますか?』ってやったら、なんか若干お客様が引いてた気がするんだけど、何でだろう?
もう10月なのにまだまだ暑いから汗もかいてるだろうし、イスも用意されてるけど、みんな演奏中は立ち見してくれてるから、立ってると思うのに…。
そして何で紹介のMCをしてた時は、スズちゃんは言葉を出さずにスカートの両裾を持って頭を下げるだけだったのに、このお客様へ向けたMCには『もちろんですわ!』って叫んだんだろう…?
ちょっと反省点もあるけど、こうやってMCを挟んでみたからわかった事がある。
私達が勝ちたいと思って演奏していたさっきまでは、お客様へ歌を届ける事とか、私達自身が楽しむとか全然余裕がなかったけど、ライブをやっているのは私達だけじゃない。ここに聴きに来てくれているお客様も一緒に楽しむからライブなんだ。だから私はバンドをやってるんだ。
『まぁ、失敗の定義って人それぞれなんだけどね。上手く歌えた演奏出来たってなっても、周りの人やオーディエンスが盛り上がらなかったりつまらなそうにしてたら俺はそれはライブとして失敗だと思ってるし、歌詞を間違えたり楽器の演奏を間違えたとしても、自分達にとって思い出になったり、周りやオーディエンスが楽しんで盛り上がってくれたら、俺は大成功だって思うよ』
タカさんに初めてお会いした時にも、そう言ってもらっていたのに。
私は射手座のレガリアの継承者として、バンドマンとして、ボーカルとして、ここに音楽を楽しみにして聴きに来てくれているお客様達と一緒に楽しんで…。
そういう演奏をやらなきゃいけなかったんだ。
『私は無事に卒業出来たらさ。大学に進学ってのはさすがに無理かも知れないけど、またバンドはやるつもりだから。またやろうねデュエル!』
目蔵川先輩もそう言ってくれた。
負けたから終わりじゃないんだもん。
も、もちろん今でも勝てたらいいなとは思ってるし、負けたくはないけど。
私は結月ちゃんが観てくれているだろう舞台袖の方を見て、心の中で『決勝には行けないと思う。ごめんね』と結月ちゃんに謝った。
「えへ、えへへ、その…MCを長々としちゃってごめんなさい。それでは私達Amaterasuの3曲目にいかせてもらいます!美緒先ぱ…」
「天音、いい感じになったじゃん」
美緒先輩…。
私は3曲目は美緒先輩達Glitter Melodyとも楽しみながら歌いたいと思っていた。
楽しんでやるべきだったと気付かせてくれたのは、美緒先輩と美緒先輩のIrisベースだから。
このステージの上には私達だけじゃない。デュエルギグの対戦相手としてだけど、Glitter Melodyも居るんだから。そしてIrisベースも私のレガリアも。
だから、さっき美緒先輩に『一緒に歌って下さい』って言おうと思ったんだけど、美緒先輩を呼び掛ける途中で、美緒先輩から私に話し掛けてくれた。
「あんまり得意じゃないんですけど、天音達もBREEZEの曲なら出来るよね?」
「え?BREEZEの曲…?は、はい。有名所は…」
「…有名所?BREEZE自体さして有名でも何でもないので、有名所って言葉に超違和感を感じますが…。Futureは…予選でやったんだっけ?ヴァンパイアも確かBreak Bellがやったんだよね。だったら…」
美緒先輩。
もしかして美緒先輩も私達と一緒に歌うつもりで?
「あ、あの…美緒先輩は『
「『君のために、僕のために』ですか?
あれって全然有名じゃないし、かなりマイナーじゃないですっけ?むしろ全部マイナーっちゃマイナーですが」
「あの曲が…私1番好きでして…」
「まぁ、確かに…。私も好きな方ですけどね。だから問題ありませんよ。『君のために、僕のために』は、お兄さんの好きな曲でしたから。私達gamutの時に課題曲としてもやらされましたし」
「え?そ、そうなんですか…?タカさんも…」
「お兄さんの好きな曲、トシキさんの好きな曲、拓斗さんの好きな曲、英治さんの好きな曲の4曲とFuture、ヴァンパイアの計6曲だけですが、私達gamutの練習用の課題としてよくやらされてたんですよ。………やらされてた当時はBREEZEの曲って知りませんでしたけどね。
それにBREEZEの曲って割と初心者向けで簡単ですし」
ああ…確か蘭ちゃんも、BREEZEの曲は簡単だ!みたいな事言ってたっけ…。
「そ、それでしたら是非…」
「オッケ。じゃあお客さんも退屈してるみたいですし、睦月達もそわそわしてますし、一緒にタイトルコールして歌いましょう。歌い出しは天音に任せます」
「は!はい!」
私は力いっぱい…のつもりだけど、出来るだけお客様達には聞こえないように返事をした。
「じゃあいきますよ…せーの」
「「私達の3曲目!!BREEZEのカバーで『君のために、僕のために』!!」」
あれ?今…レガリアが一瞬光った気がした。
♪~
♪♪~
♪♪♪~
「まぁ、デュエルギグだというのに、3曲目はGlitter MelodyとAmaterasuでコラボして曲を披露するとは、審査員側としても大変驚きましたけど、とても楽しいライブだったと思います。採点にも苦労しましたわ」
「「す、すみません…」」
私達の3曲目が終わった後、審査員の方達から『採点に時間が掛かる』という旨の放送があり、さすがにお客様達もざわめいていたけど、美緒先輩の案で、すずちゃんと麻衣先輩による、キーボードでのクラシックの演奏が披露された。
歌っちゃったり、バンドとして演奏しちゃうと、審査員の方達もその曲を聞いて、採点に影響しちゃうかも知れないからと、そういう事になった。
最初はすずちゃんも嫌がっていたけど、私がすずちゃんの手を両手で握って、上目遣いで『お姉ちゃん…お願い…』と言いながらお願いしたら快く承諾してくれた。真凛ちゃんがそうやったら、すずちゃんは即承諾してくれるよ。って言ってきたから、ちょっと試しでやってみただけなのに、本当に即承諾されたのだ。
そして今、審査員の方達の採点が終わり、姫咲先輩がステージの上に来られたところだ。
「まぁ、予定外の事が多く、ちょっと時間的に押していますので、ちゃちゃっと発表させていただきますわね」
うぅ…勝手にMCなんかも挟んじゃったし、3曲目はデュエルせずに合奏にしちゃうし…勝手な事やり過ぎちゃったな…。
「では1曲目!Glitter Melody54点、Amaterasu46点!
続いて2曲目はGlitter Melody53点!Amaterasu47点ですわ!」
1曲目も2曲目も負けちゃった…。
そうだよね。凄い演奏も出来たと思うし、負けたくないって気持ちで演奏したけど、私達は今このライブを楽しんでやるって事を忘れていた。
きっとその気持ちは、審査員の方達にも、お客様にも楽しいって気持ちを届けられなかったんだ。
目蔵川先輩もせっかく私達に期待してくれていたのに、本当にごめんなさい。
「そして3曲目ですが…。こちらに関しては私達審査員もとても悩みました。
どう採点するべきか、どこに着目して採点をするか。
ですので、各パートの演奏技術や歌い手の声量やパフォーマンスももちろんですが…」
もちろんですが…何だろう?
「いかにカバー元の曲を、そのバンドの想いを理解して歌っているか。曲への尊敬の気持ちはあるかなど、そういった点にも注目しました」
カバー元の…BREEZEの想いを…。
「え?だったら私達ダメじゃん。さしてBREEZEには思い入れありませんし」
美緒先輩?
「では3曲目の採点の発表ですわ!
Glitter Melody44点!Amaterasu56点!
合計はGlitter Melody151点、Amaterasu149点!
決勝戦進出はGlitter Melodyですわ!!」
やっぱり…負けちゃった…。
勝ち負けに拘らずに…楽しんでやっていたら…。
ううん、違う。そのおかげで凄い演奏が出来たのは出来たんだもん。
完全に私達の…私の力不足だ。
「あは、あはは…負け…ちゃったね」
「いやいや、でも全然惜しかったってー!次はきっとあたしらAmaterasuが勝つし!」
「んー。負けたの悔しいけど、最後の曲はスッゲーたのしかったし、ひとりじゃやれないスッゲーえんそーも出来た。あたしは満足」
「わたくしの作戦ミスですわね。勝つ為の作戦ではなく…わたくし達らしさを、天音の良さを引き出す作戦を提案するべきでしたわ」
「そ、そんな事ないよ。涼風さんのあの作戦のおかげで、私達きっと凄い演奏出来たんだと思うし…。私達はまだまだって事だよ」
「やっば…危なかった…最終的に点差ギリギリじゃん…」
「てか何でBREEZEのカバーにしたの?Artemisのカバーなら天音達も出来るやつあっただろうし、あたし達そっちのが得意なのに」
「もう!睦月はわかってないなぁ~。美緒は天音ちゃんにタカさんは渡さないよって意思ひょ……痛っ!何でまた私美緒にひっぱたかれたの?父兄の方々の目も多いステージの上なのに…」
「あはは、何とか勝てたけどAmaterasu凄いね。次やったらもしかしたら結果は違うかも」
各々、メンバーと少し話をした後、ステージの上からお客様にお礼を言って、私達はステージから降りた。
「天音…」
「結月ちゃん…その…私達負けちゃって…。決勝で会おうって約束…したのに」
ステージ袖にはずっと結月ちゃんが居てくれていた。
やっぱりGlitter Melodyに勝って、決勝戦で結月ちゃん達とデュエルしたかったな…。
「天音…凄かった。いつの間にあんな歌い方出来るようになったんだろうって、すっごく驚いた」
「結月ちゃん…」
「まあ…その、Glitter Melodyもやっぱ凄かったし、今回は負けちゃったけど、また次も絶対あるしさ。
約束はその時まで延期。あたしももっと凄いボーカルになから、また、デュエルギグはその時に。ね!」
結月ちゃん…一生懸命私を慰めようとしてくれてる。
うん、必ず。私ももっと凄いボーカルになるから。
「ごめんね、結月ちゃん。私…また次は絶対に…結月ちゃん達と…」
「うん、約束!でも、本当にさっきの演奏凄かったよ。中学の時からは全然考えらんなんね」
「も、もう!あの頃の話は…」
やっぱり悔しいな…。
ごめんね、結月ちゃん。
そう思っていたら…勝手に涙が…。
「あ、天音?」
「あれ?あれ?へ、変なの…あはは、勝手に…なみ…グスッ」
ダメだ。泣いちゃいけない。みんなの前では。
泣いちゃいけないのに、そう思っているのに、泣いちゃいけないって思えば思うほど涙が…。
「あ、あはは。ご、ごめんね。ちょっと…」
涙が堪えきれないと思った私は、みんなの前から逃げるように走ってしまった。
逃げないって決めたのに、でも、みんなの前では今日の事では泣きたくない。
「天音!」
「あまね、また逃げた?」
「天音さん…大丈夫かな?」
「ま、しゃーない。あたしも悔しい気持ちでいっぱいだし。あまねるの気持ちもわかるし」
「そうですわね。今は…ひとりにしておいてさしあげるのが、1番かも知れませんわね」
「あたしは追うよ」
「ちょっと、結月。天音の気持ちも考えてあげたらどうですの?今は優しさや慰めが…」
「違う!今の天音はきっと…違う。
それに…天音は今まで逃げても、泣く事はなかったから。泣いてる時も多いけど、今まで泣いて逃げたりとかはしてなかったし」
「確かに…泣いている天音は何度か見てきましたが、本気で泣いている天音は…。って蘭?何してますの?蘭に抱きつかれても嬉しくないのですけど?」
「結月ちゃん、スズはらんらんが抑えとくからさ。あまねるの事頼んだ」
「うん…わかってる」
私が走り去ってしまった頃、結月ちゃん達がそんな話をしているだなんて全然知らなかった。