どうしよう…涙が止まらない…。
私の名前は本城 天音。
ライブ大会の準決勝で、私達はGlitter Melodyとデュエルギグをし、初めてデュエルギグで負けた。
初めてデュエルギグで負けたと言っても、デュエルギグ自体まだ3回しかした事ないんだけど…。
負けちゃって悔しい。
決勝戦にいって結月ちゃん達Break Bellとデュエルギグをしたかった。
そんな気持ちはもちろんあるけど、何よりも悔しいのが、私自身がデュエルギグで勝つ事に拘りすぎて、音楽を楽しむという気持ちを忘れてしまっていた事が、ものすごく情けなくて…。
決勝で会おうと言ってくれた結月ちゃんにも、射手座のレガリアを託してくれた三咲さんにも、一緒にバンドをやってくれている真凛ちゃんやすずちゃん、蘭ちゃんや輝美ちゃんに合わせる顔もなくて…結局逃げてきちゃった。もう逃げないって決めてたのに。
…みんな心配してるだろうな。
ステージの上では我慢出来てたのに、結月ちゃんの顔を見ちゃったら、涙が勝手に溢れてきちゃって…。
私は今、ライブ大会の行われている会場である体育館と、校舎を繋ぐ渡り廊下に居る。
ちらほらと文化祭を楽しんでいる人たちも目に入るけど、その渡り廊下から校庭に出る所の段差に腰をかけていた。
「ハァァァァァ…本当に私情けない。全然成長出来てないよ…」
「あたしはそんな事ないと思うけど」
この声って結月ちゃん?
何で?もうすぐ決勝戦なのに…。
私は声のした方向へと目を向けた。
「あたしはさっきも言ったけど、天音は中学の頃からじゃ想像もつかないくらい成長したと思うよ」
結月ちゃんはそのまま私の隣に座った。
どうしよう…私から何か言わないと…。
「ゆ、結月ちゃん。その…ごめんね」
「それさっきも聞いたけど。…あ、今のごめんってのは、また逃げ出しちゃったから?」
「うん…それに結月ちゃんもうすぐ決勝戦でしょ?」
「ああ、さっきのAmaterasuとGlitter Melodyのライブ。あれが思ったより時間取っちゃったから、後々のスケジュールの調整する為に、時間延期になってね。40分から50分くらい休憩時間なんだってさ」
「わ、私達が時間を使いすぎちゃったから…」
「どうもそうみたいなんだけどさ。変じゃない?
普通、時間が押してるなら色々巻きでやると思うんだけど…。時間押してるのに休憩時間を増やすって…」
あ、そういえばそうだ。
私達が時間を取りすぎちゃったなら、他の事の時間を削ったりして、進行を早めるのが普通なのに、何で休憩時間を増やして余計時間掛かるようにしたんだろう?
「まぁみんなトイレとか、ちょっとした軽食とかの時間取れたって喜んでるみたいだから良かったけどさ」
「そっか…」
「それよりさ、天音」
きっと結月ちゃんは私に話があるから、私を追いかけてきてくれたんだよね。
私はその話を聞いてどう答えたら…。
「…天音とあたしは中学2年の時はクラスが違ったからさ。天音があんまりクラスの人らと馴染めないで、孤立してたのとか知らなくて」
え!?いきなり思い出話!?
うぅ…あの頃は私も勝手に人との壁を作ってたし、みんなが楽しそうにしてる中に入る勇気とかなかったし。
「そんな天音が…後から聞いたら、そのクラスの嫌な連中に弄られる形でって事だったけどさ。卒業式に上級生を送り出す歌のソロパートに推薦された」
「うん…私は…その、推薦してくれた子達は、全然仲も良くなかったし、話した事もなかったんだけど。私がひとりで歌っているのを、たまに見掛けてたみたいで、このチンチクリンに恥をかかせてやろうって事で、推薦された。最初からわかってたんだけど…」
「…いや、そいつらこのチンチクリンとか言ってなかったけど…。でも、あの時勇気を出してさ。歌の練習頑張ってたじゃん。みんなの前でもどうどうとソロパートを歌ってた」
「ちょうど三咲さんに射手座のレガリアを託してもらった頃だったから。大神さんやタカさんや梓さん達の話を聞かせてもらって…。あの頃は私、人の前で歌うのって好きじゃなかったし、でも、頑張ってみんなの前でも歌えたら、もっと歌を好きになれるかな?って思って」
そう。あの頃の私は音楽や歌う事があんまり好きじゃなかった。自分ひとりの時に歌うのは好きだったけど、誰かと一緒に音楽を楽しむとか、人の前で歌うという事が苦手だった。
「うん、あたしも卒業式の練習の時とか、天音のソロ聞いて、天音の歌声スゴいって、まるで心に歌そのものがズドンと入ってくるような歌声が、とても心地よくて感動してた」
「あはは…それ前にも聞かせてもらったけど、改めて今言われると恥ずかしいね」
「天音がそうやって頑張ってたのにさ。卒業式の直前、天音のクラスメートが天音をよってたかってからかったり、バカにしたりしててさ」
「うん。面白半分で推薦したのに何本気になってんのとか、本番は失敗しろとかボケろとか。このチンチクリンがっ!とか言われて、正直辛かった…。でもそんな時に結月ちゃんが…」
そんな時に結月ちゃんは、クラスも違う、話した事もない私なんかの為に、そんな酷い事を言ってくるクラスメートの間に入って助けてくれた。
「…あたしそいつらの話を聞いて、カッとなって止めに入ったけど、そいつらこのチンチクリンがっ!とか言ってなかったってば」
『あんたら止めなよ!この子困ってんじゃん!
あんたらも卒業式の練習に出てたでしょ!?この子の歌声凄かったじゃん!感動もんじゃん!
それなのに失敗しろとか本気になるなとか…あんたら一体どういうつもりなの!この子をこれ以上困らせるなら、あたしが相手になるよ!』
「あたしがそう恫喝しただけで、あいつらビビってすごすごと逃げていったしね」
「え!?ち、違うよ!?確かに結月ちゃんはそう言ってくれたけど、その時にいた私のクラスメートみんなを2、3発殴って黙らせて、暴力をもって黙らせた後に追い返してくれたんだよ!?」
「……思い出って美化されるもんだから」
「あ、結月ちゃんがせっかくお話してくれてるんだから、思い出さない方が良かったのかな…」
「ま、まぁ…それはいいとして!
あの後は天音も落ち込んでたし、少し話しもしておきたかったんだけど、卒業式も始まりそうだからって、あたしにお礼だけ言って走って行っちゃって…」
そう。私はあの時、クラスメートの子にはバカにされて、卒業生や在校生、先生や父兄の方達の前で恥をかかせてやろうという思いから推薦された事を知った。
…ううん。本当は気付いてた。
だけど、気付かない振りをしていた。
直接言われた訳じゃないし、三咲さんの話を聞いて頑張ってみようと思ったのもあるし。
それが卒業式の直前で、直接言われちゃって、一気に心がぐちゃぐちゃになって…。
「そしたら案の定、天音はソロパートの時に声が出なくなって…歌う事が出来なかった」
そうだ。私はあの時、失敗したらどうしようとか怖くなっちゃって、本番で歌えなくなっていた。
でも…。
「でも…とっさに結月ちゃんが歌ってくれたよね。
私も…みんなもきっとびっくりしたと思うけど、おかげで卒業式は失敗せずにすんだ」
「まぁ毎日くらいの卒業式の練習で、あたしも歌詞は覚えてたからね」
「そして…私が結月ちゃんにまたお礼を言いに行って…それから結月ちゃんや夏希ちゃん、あゆみちゃんや琴子ちゃんとも仲良くなれて…」
「うん。その次の年の3年では同じクラスになれてさ。色々遊んだよね」
「うん…あの中学3年生だった1年間はすごく楽しかった」
今でも色々な事が思い出せる。
ふふ、本当に濃い1年間だった。
まさか結月ちゃんやあゆみちゃんも、BREEZEが好きって知って驚いたり、結月ちゃんのお母さんがタカさんや三咲さん、トシキさんや英治さんとも中学時代の同級生だった事とか…。色々知ったり経験したり、本当に楽しかった。
「あたしもまさか天音が、タカさんの…射手座のレガリアの継承者だって知った時はびっくりしたよ」
「そうだね。結月ちゃんがレガリア欲しいとか言い出した時は、私もびっくりしたけど」
「あはは。今でも射手座のレガリアが欲しいって思ってるし」
私は…あの頃は本当なら結月ちゃんになら、射手座のレガリアを託してもいいと思ってたんだけど…。
「こ、このレガリアは三咲さんから託して頂いた大切なモノだから。私が歌いきって、結月ちゃんになら託していいと思うまでは、いくら結月ちゃんでも渡さないから」
「うん。その意気だよ。あたしもそういう天音に勝って、認めてもらってレガリアを譲り受けたいから。奪うとかそんなんじゃなくてさ」
結月ちゃん…。
「それで話は戻るけどさ。
その卒業式の失敗の時も、あたしがレガリアが欲しいって言った時も…他にも音楽の事で色々ぶつかったり話したりもあったけどさ。今まで音楽の事では、天音って泣くことはなかったから」
え?そ、そうだったかな?
私割りと泣いてる…って言うか泣かされた事もあるけど。私自身は結構泣いちゃってカッコ悪いなぁって思ってるんだけど。
「音楽以外の事では割と泣いたりする事もあるし、中3の時の肝試しとかで泣かせた事もあるけど」
あ、やっぱりそうだよね。
私って割と泣いたりしてるよね。
っていうか、あの時の肝試しは本当に無理だから。
結月ちゃんの家が管理してる墓地をまわったり、変な井戸とかトンネルとか色々な所に夜中に連れて行かれたし…。
「そんな音楽の事では泣かなかった天音がさ。今日初めて、音楽の事で…デュエルギグに負けて泣いたんだよ」
「え?あ…えっと、その…、ご、ごめん…」
「ううん、謝る事じゃないよ。
天音ってさ、お父さん…本当のお父さんの事があるからかな?今までは音楽に対して、本当に好きって、誰にも負けないくらい音楽が好き!って、気持ちがなかったんじゃないかな?って思うんだ。歌う事は…好きだったとしても、趣味とか遊びの延長上みたいな?
ほら、Amaterasuも最初は色々あったじゃん」
あ…確かに…。
そうなのかも知れない。
歌う事は好きだったけど、やっぱり昔の事を思い出したりすると、音楽って辛いものって思っちゃう事もあったし、バンドを始めた時もみんなとの意見が食い違ったり、見てる先が違ったり、なんかすれ違う事もよくあったし。バンドなんか辞めちゃおうってなった時もあったもんね。
あ、思い返すと色々あったけど、せっかくのバンドを解散しようってなった時…あの時も泣いちゃったっけ。
結月ちゃんは知らないだろうけど…。でも確かに、音楽の事に関して泣いたのはあの時だけかも。
「きっとさ、中学の上級生を送る卒業式の時とか、今までは音楽に対して大した思い入れがなかったんだと思う。でも今日はデュエルで負けて泣いた。
それって音楽自体が好きになったから、今のAmaterasuが好きだから、悔しくて泣いたんだと思うよ。それってあたしはとても大切な涙だと思う」
結月ちゃんにそう言われた時、何故か心地好いそよ風が吹いた気がした。
そして…レガリアも…。
そっか。私、今は音楽がAmaterasuが大好きなんだ。
ううん、ずっと大好きって気持ちはあった。だけど、負けて悔しいって思うくらい、負けて泣いちゃうくらい、自分で思っていた以上に音楽やAmaterasuの事が、どうしようもないくらい大好きなんだ。
「ありがとう…結月ちゃん」
「ううん、謝られるような事もないし、お礼を言われるような事もない。あたしは天音があの時よりずっと成長したと思ってるから、それを言っただけ」
それを言ってくれたから、ありがとうなのに。
「でも、あたしも、あたし達Break Bellも成長してるし、これからも成長していく!」
「うん。私も…もっと頑張る。結月ちゃん達に負けないくらい」
「そうだね。天音達ももっと凄いミュージシャンになってくれないと、あたしもそのレガリアを託されたからって喜べないし」
「結月ちゃんが…私にレガリアを託されて良かったと思えるようなミュージシャンになってみせるよ。
でも、レガリアは絶対に渡さない。私が結月ちゃんも納得いくくらいの凄いミュージシャンになるから」
「あはは。その意気だよ。
……もうずっと納得もして認めてんだけど(ボソッ」
「?何か言った?」
「ううん、何も。あたしはまずこのライブ大会でGlitter Melodyに勝って優勝してみせる!そしてもし優勝出来たら…」
優勝出来たら?
「タ、タカさん達に…あたし達Break Bellもファントムの事務所に入れてもらえるようお願いしようかと…。」
え?え?え?え?
ええええええええええええええ!!!??
「ち、ちょ…結月ちゃん、本気なの!?」
「う…うん。あゆみは大賛成だったし、夏希も割と乗り気だったけど、琴子はお婆様の事があるから、また説得できたらって話だったけど、本人はやる気みたいだし。あ、あたしも母さんが許してくれるかわかんないけど…」
すごい…。
びっくりしちゃった。
今回のライブ大会で優勝したら…か。
結月ちゃん達はそういう事まで、考えてライブ大会に挑んでたんだね。
「天音達はそういう話しないの?」
「わ、私達も公開収録の後は、みんなでそんな話もしたし、すずちゃんは私の『ていそー?』が危ないからどうとか言ってたけど、みんなはファントムに入りたいとは言ってたかな。
私は本当のお父さんの事があるから、ちょっと迷惑掛けないかな?とは思うけど…。
っていうか、その前に私達がファントムに入れてもらえるとか恐れ多いし、きっと門前払いされちゃうだろうし」
「そ、それを言ったらあたし達だって…。ライブ大会で優勝したくらいで図に乗んなとか言われて、追い返されるかもだし。けど、本気でやりたいって思ってるから」
「いや、所属バンドが多けりゃ多い方が楽しいだろうし、天音ちゃん達にしても、結月ちゃん達にしても、入りたいならライブ大会に優勝しなくても、俺としては大歓迎だけど?あ、なんなら今から日奈子に連絡してやろうか?でもクリムゾンの奴らとはあんま関わって欲しくないしアレだけどな」
「あはは、タカさんならそんな風に言ってくれそう」
「だね。でもそんな簡単に事が運ぶ訳が…」
「「って、タカさん!?何でこちらに!?てか、いつから!?もしかして私(あたし)達の話聞いてました!?大歓迎してくれるって本当ですか!?詳しくお話伺いたいんですけど!?」」
「はい。タカさんですよ。ってか質問多いね。
それにそんな綺麗にハモれるとかどんだけ仲良いの?
あれ?なんか昔にもこんな事言ったような記憶が…デジャブ?」
「ははは、俺も居るぞ。ファントムのオーナーとしても、天音ちゃん達や結月ちゃん達がうちに所属してくれるなら大歓迎だぞ。まぁ、タカが言うようにうちに所属しちゃうとクリムゾンに目を付けられそうって懸念はあるけどな」
「「な、仲良いって…。確かに仲良しですけど」」
まさか、まさかの展開だ。
ここで結月ちゃんとお話してたら、タカさんにお会い出来た上に話掛けてもらえるとは…。
いや、もちろん、さっきまで楽屋でもご一緒させてもらってたけど、Amaterasuのみんなとお話してたから、タカさんとはゆっくりお話出来てなかったし。
うぅ…私、さっきまで泣いちゃってたけど大丈夫かな?
目が腫れたり赤くなったりしてないかな?
「いや…俺も居るんだけどな。もしかして俺見えてない?」
「本当に綺麗にハモるな。まぁ、いいや。ひとつひとつ答えていくか。
えっと、今はライブ大会の決勝まで休憩で時間があるから、英治と一緒に職員用の喫煙所行って一服でもしようかな?と…。な?英治」
「おう、このまま居ない者扱いされても嫌だから、次の質問には俺が答えると、いつから?って言われたら本当についさっきだ」
ついさっき…って事は泣いちゃってるところは見られてないかな?良かったぁ~…。
「そして2人の話を聞いてたか?って聞かれたら、結月ちゃんが『天音がそうやって頑張ってたのにさ。卒業式の直前、天音のクラスメートが天音をよってたかってからかったり、バカにしたりしててさ』って言ってたあたりくらいか」
「割と最初の方!?しかもあたしが同級生を鉄拳制裁したところも聞かれちゃってる!?」
「私がさっきまで泣いちゃってた事までバレてる!?」
うぅ…そんかはじめの方から聞かれてたなんて。
どうしよう…今は泣きそうってより、お腹が痛い。
「まぁ…あんま盗み聞きしてるみたいで、アレだったんだけど、天音ちゃんは俺の後継者でもあるし、結月ちゃん達は中学も高校も俺の後輩ってのもあるし…なんか落ち込んでんなら声掛けた方が…とかも思って」
「タカさん…私の事、俺の婚約者でもあるし…だなんて…(ボソッ」
「聞き間違えてる!めちゃくちゃ聞き間違えてるよ天音!てか、普段弱気なくせに、何でそんな図々しい聞き間違えが起きるの!?(ボソッ」
「ははは、中学限定なら俺も天音ちゃんと結月ちゃんの先輩だしな」
まさか、タカさんが私の事をそんな風に見ていただなんて…。どうしよう…タカさんには渚さんが居るのに…あ、ドキドキしてきちゃった。
「だからっ!聞き間違えてるだけだって!さすがに図々しすぎるでしょ!
え!?てか、何であたし天音のモノローグが聞こえるようになってんの!?」
「天音ちゃん何か言った?てか、結月ちゃんは何言ってんだ?
まぁ、それはいいとして、大歓迎するか?って質問も全然俺ら的にはオッケーだと思うぞ?そもそも事務所ファントムとしては、所属してくれるバンドが増えるのは喜ばしい事だと思うし」
「まぁ、実際はファントムに所属ってなると、事と次第に寄っては給料が発生する事にもなるから、出資してくれるSCARLET次第だとは思うが、日奈子的にも新しいおもちゃ…新しい仲間が増えるのは歓迎じゃねぇかな?」
え?今、英治さん新しいおもちゃって言おうとした?
「てか、SCARLETって給料くれんの?俺貰った覚えないんだけど」
「あん?一応俺は貰ってねぇけど、三咲は貰って喜んでたし、お前と澄香の企画バンドメンバーは、撮影もあったし給料貰ってるはずだぞ?」
いや、今お給料談義になっちゃったけど、私達別にファントムの方達と仲良く音楽やれるなら、別にお給料とかは…あ、ダメだ。すずちゃんにはお給料貰えるならその方が…。
「ま、俺としてはその辺は日奈子が決めんのか、アホの手塚が決めんのか、他の社員の方が決めるのかはわからんが、天音ちゃん達や結月ちゃん達がやりたいってんなら協力はするよ。ただし、親御さんの許可が貰えるならって条件は付くけどな。保護者じゃねぇぞ、親御さんな」
「う、やっぱ…鬼センに後見人になってもらうってのはダメか…。あの母さんを説得かぁ…」
「あの…俺から言うの結構諸事情で憚られるんだけど、結月ちゃんのお母さんって、俺らの知る真奈美だよな?あいつ確かにロックとか嫌いとかは言ってたけど、俺らの応援にはたま~に来てくれてたし、割と大丈夫なんじゃないの?結構ゆるっとした性格だし」
「母さんが…ゆるっとした性格…?
母さんの話では確かにタカさんやトシキさん、英治さんや三咲さんとも同級生だったって話ですけど…。ゆるっとはしてないと思うんだけど…」
親御さんの説得かぁ。
Amaterasuのみんなは大丈夫かな?
またみんなの所に戻ったら相談してみようかな。
「あ~…そだ。そんで天音ちゃんさ」
「英治さん?はい。何ですか?」
「天音ちゃんのお父さんって何者なんだ?」
…私のお父さん?
英治さんのこの質問に、まるでこの場の時間が止まったような感覚を覚えた。
私のお父さんの事。
どうしよう。今のお父さんの事を言ったらいいんだろうか?それとも…本当の父親の事?
「お、おい、英治。そういうのは…」
「いや、だって気になるだろ?一応クリムゾンエンターテイメントの関係者だろ?俺らの知ってるヤツかも知れないし。お前も多少は気になるだろ?」
今のお父さんは、名前も許されていなかったって言ってたし、タカさん達や梓さん達、アルテミスの矢の方にも会った事はないって言っていたけど…。
本当の父親の事は、タカさんも英治さんも知っているはずだから…。
「ん?言いにくい感じか?こんな所で聞いてまずかったかな?あ~…と、知ってると思うが、SCARLETには一応元クリムゾンエンターテイメントの四天王とか言われてた幹部もいるし、父親がクリムゾンエンターテイメントの人間だってヤツも何人か居るしよ?その、天音ちゃんのお父さんが誰であれ、何か変な詮索とかそういうのもするつもりないんだけど…。ほら、どうせ親御さんの承諾もいるわけだから、いずれは俺たちも知る訳だし」
親御さんの承諾がいるからいずれは…?
って事は今のお父さんの事を言ったのでいいのかな?
でも、ファントムの方達とこれからやっていけるのなら、本当の父親の事を言っておいた方が…。
「あ、天音のお父さんの事は、きっと名前を聞いてもタカさんも英治さんもわかんないと思います。
あたしも天音のお父さんとお会いした事あるし、お話を聞かせてもらった事もあるんですけど…」
結月ちゃん?
私がどう答えようか悩んでいると、結月ちゃんが先に答えてくれた。
「お?そうなのか?」
「英治もなぁ。あんまそういうの止めろよマジで。天音ちゃん困ってんじゃん。俺の後継者だよ?わかってる?俺の後継者って事は大神さんの後継者でもあるんだからな?……だから何だって感じだけど」
「えっと…どこまで英治さん達がご存知なのか知らないんですけど、天音のお父さんは名前も許されてなかった下っぱだったらしくて…。BREEZEやArtemisとも会った事はないって聞いてます。下っぱだったからクリムゾン抜けて普通に就職しても、クリムゾンエンターテイメントから裏切り者とかそういうので追われる事はなかったって聞いてますし」
「そうなのか。って事は九頭竜んとこのヤツかな。考えてみたら俺らが名前聞いて思い出せるようなヤツなら、クリムゾンエンターテイメントに追われて、普通の生活どころじゃないわな。手塚さんすら今でも追われてんし、浅井さんらも名前変えて変装までしてるしな」
あ…こ、これで良かったのかな?
結月ちゃんはそう言ってくれたし、今のお父さんは実際そんな感じだけど、やっぱり私から父親の事は言っておいた方が…。
もし、それでファントムには入れれないと言われちゃったら…とは思うけど。
「ったく、英治も変な事言うなよ。それより結月ちゃんらもそろそろ戻った方がいいんじゃないか?準備もあんだろし。俺らも行こうぜ。一服する時間なくなったら僕死んじゃう」
「あ、それもそうだな。
いや、天音ちゃん。本当にごめんな。何となくで聞いちゃう事じゃなかったな」
「じゃあ、またそのファントムに…って件は…姫咲にでも連絡してもらうか」
あ、そっか。
姫咲先輩なら私達の連絡先知っているはずだもんね。
大会に出場の時に連絡先も書いてるし、ライブ大会の連絡もちゃんと回ってきてたし。
「あっ!そうだっ!」
「わ、ど、どうしたの?結月ちゃん。いきなり大きな声を出して…」
「あ、あの…わざわざ姫咲先輩に連絡を回してもらうのは申し訳ないんで…タカさん、あたしと連絡の交換…してくれませんか!?」
「へ?いや、別にいいけど…」
「やった!推しの連絡先ゲット!」
え?え?え?わぁぁ、結月ちゃんいいな!
そ、それなら私も…。
「あ、あ、あの…タ、タカさん、その…良かったら私とも…」
「ああ…そうね。じゃあ…天音ちゃんも」
「え?タカ。お前何か結月ちゃんと天音ちゃんと連絡先交換すんの照れてる?」
「うっせぇ英治。◯すぞ」
そうして私と結月ちゃんは、無事にタカさんと連絡先を交換する事が出来た。
英治さんが『俺の連絡先はいらないのか?』って言ってきたけど、特に必要になりそうな場面が今の所思い付かないしって事で、結月ちゃんが『あ、別にいいです』と言って断っていた。
まぁ、実は公開収録の時に理奈先生や志保先輩達、美緒先輩達の出演者とは連絡先の交換はしてあるんだけど。
もし、上手くいったら私達もファントムのバンドとして音楽を…。
今日のライブ大会では負けちゃったけど、色んな話を結月ちゃんから聞いて、新しい目標も出来て…。
私はもっともっと、射手座のレガリアの継承者として頑張っていかないと…と、改めて思った。
でも…うぅ…。
みんなの前からあんな形で、逃げて来ちゃった手前、みんなにファントムの事を相談するのも勇気いるなぁ。
私と結月ちゃんは喫煙所に向かうタカさん達と別れ、みんなの待つ控え室へと向かった。
そんな時。
「ねぇ…天音さ」
「結月ちゃん?何?」
「さっき英治さんにお父さんの事を聞かれた時、本当のお父さんの事を言おうか悩んでたよね?」
「あ…うん、まぁ…。あ、でも結月ちゃんが機転きかせてくれて…あ、ありがとう」
「いや、別に。でも多分気付かれたと思うよ?」
「え?気付かれたって…?」
「天音の本当のお父さんの事。
まぁ、誰かってのはさすがにわかってないと思うけど、あんな困った顔して悩んでたら、さすがに気付いちゃうでしょ。天音のお父さんは知っているヤツなんだろうなって…」
「あ…」
そっか。そうだよね…。
本当なら私がすぐに答えなくちゃいけなかったのに、あんなに戸惑ってたらさすがに…。
私の本当の父親の事は、私もレガリアを三咲さんから受け継いでから、お父さんとお母さんに聞かされたんだけど、Amaterasuのメンバーと結月ちゃん達Break Bellのメンバーは、今のお父さんから聞かされて知っている。
みんな驚いていたけど、Amaterasuのみんなも結月ちゃん達も受け入れてくれた。
だからきっと…ファントムの方達も…。
「今は…言わなくてもいいんじゃない?」
「え?そ、そうかな?でも…もしファントムに所属させてもらえるってなったら…」
「うん。遅かれ早かれ知られちゃうかもだけどさ。
天音の『お父さん』はあたし達のよく知る、今の優しいおじ様だし。本当のお父さんの事。
本当のお父さんの事を話すなら、きっと何で天音がクリムゾンエンターテイメントから解放されたのか。それも話さないといけないと思うから…」
「あ…そうだよね。
ごめん、私そこまで考えてなかった。ちゃんと本当の父親の事は話してた方がいいよね。くらいにしか…」
私達がよく聞かされるクリムゾングループの、やり方や音楽に対しての考え方は、正直好ましくない。
今回のデュエルギグで奇襲作戦してでも、勝とうとしてた私が言うのはどうかと思う気もするけど。
確かに結月ちゃんの言う通り、今はまだ本当の父親の事は話さない方がいい気がする。
「色々考えてくれてありがとう」
「別に。あたしが…天音ともっと一緒に音楽やっていきたいだけだし」
「結月ちゃん、私もずっと結月ちゃんと一緒がいい」
「天音」
そうして私達は控え室へと戻った。
みんなに逃げちゃった事を謝ろうとしたけど、その前にすずちゃんから『泣いたと思ってたのに何を百合百合してますの!?』とか言われてしまった。
ゆりゆりとは…?