バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第30話 余興の為に

「面白いですね!受けて立ちます!

私達が勝って優勝旗とメダルを取り返しますから!」

 

「え?面白そう。あたしも美緒に賛成」

 

「ちょっと…本当にCanoro Feliceとデュエルやるの?」

 

「私も美緒ちゃんと睦月ちゃんに賛成かな!こんな横暴許せないよ!」

 

 

俺は一瀬 春太。

Canoro Feliceのボーカルなんだけど、今はセバススプリングとして、ライブ大会に優勝したGlitter Melodyと対峙している。

 

何故こんな状況になっているかというと、ライブ大会で優勝したGlitter Melodyに贈呈されるはずだった優勝旗と優勝メダル。

それらを俺たちCanoro Feliceが…と、言っても今はセバスマンか。そのセバスマンが貰っていくと宣言し、返して欲しければ、俺たちにデュエルギグで勝ってみろと挑発したからだ。

 

このライブ大会には沢山のバンドが応募をしてくれて、その応募バンドの中から、大会の規定を守れているバンド、そして、応募の際の演奏動画を審査員が見て、予選に参加出来るバンドが選らばれている。

そしてその応募バンドの中で、選考を突破したバンドが各会場で予選を行い、予選に勝ち抜いたバンドで決勝大会をして、そこでGlitter Melodyは優勝を手にした。

 

これまでに沢山のバンドが悔しい思いもしただろうし、自分達が打ち破ったバンドの気持ちも背負って、頑張ってきたんだろうに、俺たちが急に現れて、優勝旗やらを持っていくとか言い出したら、いくらなんでもキレちゃうよね。

 

美緒ちゃんと恵美ちゃんは相当怒ってるみたいだね。

麻衣ちゃんはおどおどしてる感じだけど…。

でも睦月ちゃんはニコニコしながら、これから俺たちとデュエルする事も楽しもうとしている。

 

いや、きっと俺たちのこの行動の意図にも、ある程度は察しが付いているからニコニコしてるんだろうな。

普段はポケポケってしてるけど、意外と勘が良かったりするし、頭も良さそうだしね。学校のテストとかは苦手みたいだけど…。

 

今から俺たちがGlitter Melodyとデュエルギグする理由。

もちろんそれには色んな意図が重なりあっての事だ。

 

別に姫咲を擁護する訳でもないし、俺や冬馬からの擁護なんか姫咲にとっては何でもないんだろうけど、一応、俺はCanoro Feliceのリーダーで、姫咲は大切なバンドメンバーだ。

だから、姫咲がただ面白いと思った事を、嫌がらせのように決行する嫌なキャラと思われない為にも、少しだけ擁護させてもらおう。

 

 

これは今日のライブ大会の前の時間。

今日の決勝戦を楽しみに自宅のベッドで寝ていたはずの俺は4時頃に、謎の襲撃を受けたんだ。

 

 

-バリーン!!

 

『ん?え!?今のバリーン!!って何の音!?俺の部屋には窓とかないはずなのに、何故ガラスが割れるような音が!?』

 

そう叫んだ次の瞬間。

 

『一瀬様。確保成功しました』

 

『ちょ!待って下さいよ!てか、めちゃくちゃ痛いんですけど!?これって姫咲が面白半分で企画した襲撃ですよね!?暴れたり逃げたりしても無駄だろうから、抵抗しないんで、俺を拘束する手を緩めてくれませんか!?これ折れる!絶対俺の腕折れちゃう!!』

 

『黙れ!大人しくしろ!(グキッ』

 

『いだだだだだ…ほ、ホント許して下さい!これマジで痛いんですって!』

 

『どうやら一瀬様は突然の襲撃に混乱されているようだ」

 

『違っ…違いますから!いや、混乱はしてますけど、何となくわかってますから!ちょ…マジで!痛いんですって!』

 

『やむを得ん。このまま錯乱されていては、これからの進行に遅れも出る。お嬢様の命令通り、骨の2、3本なら折っても構わん!速やかに連行するぞ!』

 

『骨の2、3本!?待って下さいって!俺は抵抗したりなんか…』

 

『ハッ!かしこまりました!』

 

『かしこまりましたって何!?俺の言葉にかしこまってくれたの!?それともさっきからトランシーバーみたいなので、連絡のやり取りしてるその人にかしこまったの!?』

 

『だから黙れと言っている(ボキッ』

 

『ギャァァァァァァ!!!』

 

 

その後気付いた時には、俺はこの学校の会議室みたいな所で、椅子に縛られ座らされていた。

 

『ここ…は…?いや、今はここが何処だとかは些細な問題だ。縛られて椅子から立ち上がる事は出来ないけど…うん、両手両足とも指先まで動く。身体中所々は痛いけど骨は無事みたいだ…』

 

俺は自分の置かれている状況より、自分の身体が五体満足に動くのか、骨はイッていないか。そんな事だけが心配だった。

 

『おう、起きたか。春太』

 

『その声は…冬馬?俺の縛られている位置からじゃ冬馬の事は見えないんだけど…取り敢えず生きているみたいで安心したよ』

 

『ああ。俺の位置からも春太の事は見えちゃいないが…お前の声が聞こえて安心したぜ。俺もお前も生きているって事にな』

 

やっぱり…冬馬も辛い思いをしながらここに連れて来られたんだね。

 

俺と冬馬はお互いの無事を確認できないような所に座らされてはいるけど、お互いの声だけは届く場所に居るようだった。それだけで安心もしたし、今、生きている事を実感出来て嬉しかった。

 

その後どれくらいの時間が経ったのだろう。

俺は冬馬と会話しながら、この後の展開を待っていたけど、何かが起こる事もなく、誰かが現れることもなく、次第に俺と冬馬の口数も減っていった。

 

「なぁ、春太。俺達はいったいいつまでここに…ゴホッゴホッ」

 

「冬馬!?」

 

「いや…大丈夫だ。ずっと何も起こらないまま、お前と喋りっぱなしだからな。さすがに飲み物もないし喉が…」

 

「ああ…そうだね。俺もさっきから喉が渇いて…」

 

それからはお互いに気遣い合い、喋る事もせずにただ時間が過ぎるのを待っていた。

そしてしばらくしてから…。

 

 

-ガチャ

 

 

「あれ?春くんとまっちゃんもう来てたんだ?」

 

部屋の扉が開かれ結衣が俺達に声を掛けた。

ああ、やっと人が来てくれたと俺は安堵した。

 

「結衣。一瀬くんと松岡くんだけじゃないよ。ほら、そこにも」

 

その後から聞こえた架純さんの声。

どうやら結衣は架純さんと一緒にこの部屋に来たようだ。

だけど、俺と冬馬だけじゃないって一体…。

俺はこの部屋で目を覚ましてから、冬馬としか話をしていないから、この部屋に居るのは俺と冬馬だけだと思っていたのに。

 

「しっきー、おはよ!あれ?しっきーは何で椅子に縛られたまま倒れてるの?」

 

しっきー?綾小路さんのことか。

綾小路さんはいつの間にこの部屋に?

俺と冬馬が会話をしている時は気配さえしなかった。

誰かが部屋に入って来たような物音も気配もしなかったし、椅子に縛られているという事は、俺と冬馬が会話する以前よりこの部屋に幽閉されていたって事かな?

 

「ゆ…結衣さん…すみません…、この鎖を…何とかほどいてくれませんか?も、もう…トイレに行きたくて…限界でして…」

 

鎖!?綾小路さんって鎖で縛られてるの!?

俺は椅子に座らされて、後ろ手にされている手を縛ってるのは縄みたいな感じなんだけど…。

視認出来る足元も、椅子の脚と俺の足を縛っているのは縄みたいだし。

 

「せ、生徒会長は鎖で縛られてんのか?良かった、俺は縄で…」

 

冬馬も縄で縛られてるみたいだね。

って事は、俺と冬馬は縄で拘束しただけで、逃げられる事はないと思われてて、幼少期から訓練を受けていた綾小路さんは、縄程度じゃ逃げられるから、鎖で縛る事にしたって所かな?

…はぁ、さすが澄香さんの私設部隊だね。見事な手腕だ。

 

「くさり?う~…ん、がっしり縛られちゃってるねぇ。私にほどけるかなぁ?架純ははずせそう?」

 

「う~ん、見たところ私じゃ無理かも。これ完全にプロの縛り方だよ」

 

「だって。しっきー、ごめんね」

 

「え?ご、ごめんって…諦めちゃった感じですか?

下手に喋ったり、安心したりしたら粗相しちゃいそうだったから、一瀬さんや松岡が来てからもずっと喋らず我慢してたんですけど…。ク、クラスメートの前で粗相してしまう訳には…うぐっ」

 

「へぇ。まっちゃんってしっきーのクラスメートなんだ?」

 

「あ?ああ…まぁな。学校ではあんま絡みもねぇけど…。なぁ、ユイユイ、架純さん。本当に生徒会長の鎖はほどけそうにねぇか?俺も正直、クラスメートが漏らしちまう所なんて見たくねぇんだけど」

 

「ま、松岡ぁぁぁ!女子相手に漏らすとか言う…うぐっ……なょ…」

 

綾小路さんも大変だな…。

澄香さんの私設部隊の精鋭だったはずなのに、Canoro Felice(おれたち)のチューナーになってしまったばっかりに…。

 

安心して綾小路さん。

冬馬もああは言ってるけど、俺にも冬馬にも綾小路さんの姿は見えていないから。

 

「そ、それでも…音は聞こえちゃうじゃない…ですかぁ…」

 

俺のモノローグが綾小路さんに読まれているだって!?

 

 

-ガチャ

 

 

「すみません。皆さんをお呼びしておりましたのに、色々と準備がありまして、少し遅れてしまいましたわ」

 

俺が渉くんやタカさん、志保ちゃんのように、モノローグを読まれているかも知れないという事に恐怖していると、まるで何事もなかったかのように。台詞は申し訳なさそうにしているのに、声のトーン的には悪びれている感じが一切しない、俺達がCanoro Feliceのベーシストである姫咲が入室してきた。

 

「き、姫咲…!いや、ここは秋月家の敷地内だし、姫咲お嬢様と呼ぶべき?いやいやいや、呼び方とか後でまた考えたらいいか。取り敢えず不敬だと言われるなら、後で罰も受けるからさ?私のこの鎖…外してくれない?ちょ…ちょっとトイレに…」

 

「皆さんお集まりのようですので、早速ですが会議を始めさせていただきますわ」

 

「え!?私のこの状況無視!?」

 

「四季さん」

 

「な、何ですか?トイレに行かせていただけますか?」

 

「今、私は四季さんの学友の秋月 姫咲ではありません。この秋月家の…いえ、秋月グループの次期当主として、この場に立っていますわ」

 

「え!?何でそれを今言うの!?」

 

さすが姫咲だ。

そうやって綾小路さんを逃がさない訳だね。

って言うか、結衣も姫咲もやっと来たって感じなのに、俺と冬馬は何で早朝とは呼べないような真夜中に拉致されたの?

 

「と、言いましてもまぁ…。お手洗いに行きたいと言うのであれば、先に行っていただいても構いません。そんな状態では、ミーティングに集中も出来ませんでしょうしね」

 

姫咲はそう言った後、指をパチンと鳴らし、その音と共にどこからともなくやって来た覆面をした執事さん達が、あっという間に綾小路さんを縛っている鎖を断ち切った。ほどくのはめんどくさいから断ち切ったんだろうな。

 

「へ…?あの…姫咲お嬢様?」

 

「お手洗いに行きたいのでしょう?時間もありませんから、先にミーティングは始めさせていただきますが、四季さんがミーティングに集中出来ないのであれば、この場に居ていただく意味はありませんもの」

 

「姫咲お嬢様…ありがとうございます!ありがとうございます!い、急いで戻ってきますので…!」

 

「そうですわね。このミーティングはCanoro Feliceとして大事なお話です。四季さんにもちゃんとミーティングに集中していただきたいですからね」

 

「…!かしこまりました!私、綾小路 四季はミーティングに出来る限り遅れないよう戻ってきます!」

 

「はい。よろしくお願いしますわね」

 

…妙だ。

姫咲があんなに聞き分けが良い訳がない。

いつもの姫咲なら綾小路さんがトイレに行きたいと苦しんでいるのを肴にして、ゆっくりのんびりと時間を掛けるだけの無駄なミーティングタイムを発動しているだろうに…。

 

「あ、四季さん。少しお待ち下さいな」

 

「ふぇ!?な、何ですか?天国から地獄にってやつですか!?」

 

「何を言っていますの…。私達は時間も惜しいですから、四季さんが居ない間にもミーティングをさせていただきますわ。ご了承いただけますか?」

 

「そ、それはさっきも言いましたが大丈夫です。大丈夫って言うか、もう私の膀こ…いや、と、取り敢えず大丈夫ですんで!急いで戻りますので!」

 

「わかりました。ゆっくりブリブリして来て下さいませ。このミーティングで決まった事には従ってもらいますわよ。後で文句はないという事で」

 

「ブ、ブリブリはしませんので!と、取り敢えず行かせて頂きます!後から文句とかも言わないの…で。ヤバッ…漏れる…行ってきます!」

 

綾小路さん…それは浅はかだよ。

俺はもう気付いていた。

綾小路さんがトイレに行っている間に、姫咲はとんでもない事を決定しちゃうんだろうな。秋月家次期当主という立場を使って。

 

『このミーティングで決まった事には従ってもらいます』綾小路さんがそこを指摘せずに、トイレに行ってしまった以上、言質を取れた姫咲は綾小路さんにとってデメリットしかない事を決定させるんだろう。

 

「さて、時間もありませんし、さっさとこの茶番を終わらせてしまいましょうか」

 

茶番って言っちゃったよ。

俺と冬馬が真夜中に拉致された事も、ただの茶番として終わっちゃうんだろうな。

 

「私達はライブ大会の決勝が終わり、優勝バンドが決まった後、ステージにセバスマンとして乱入します。

名目は優勝バンドの賞品を奪いに来た怪人。その怪人を倒すというストーリーで壇上する事になりますわ」

 

ほら、やっぱりとんでもない事を言い出したよ。

優勝バンドの賞品を怪人が奪うって何なの?怪人はそれを奪う事に寄って何かメリットがあるの?

しかも俺達に倒される前提とか…。

 

セバスマンの興行をしている商店街の人達や、バンド大会に参加したバンドや優勝バンド、そして、俺達にとっても迷惑以外の何かがあるとは思えないんだけど。

 

「そして怪人を倒した後は、私達が優勝賞品を奪い、優勝したバンドとデュエルギグを開催します。

もちろん、優勝賞品の奪い合いのデュエルギグですから、エンカウンターデュエルになるでしょう。

そこで、四季さんにもセバスマンとして参加して頂きます。あ、名前はセバスシーズンにしましょう。これってすごく良い案ですわ!秋月家次期当主として決定です!」

 

……めちゃくちゃ長文の台詞を早口です言ったね。

つまり、この決定を覆させない為に、綾小路さんよ離席も許した訳か。俺と冬馬が早い時間に拉致されたのは、早い時間から綾小路さんも拉致しても違和感がないようにする為だったのかな?

 

俺と冬馬って本当に茶番に付き合わされた被害者じゃん。

 

「春くんも結衣も松岡くんも、さすが私との付き合いが長い…と言った所でしょうか。私のこの決定には特に反対という事はなさそうにしてますわね。反論はありそうですが」

 

「ケホッ、私も秋月さんのやる事に関しては、ある程度は何か考えがあっての事なんだろうなって気がしてるし、部外者である私がこう言うのもなんだけど、それはさすがにこのライブ大会の優勝バンドに失礼じゃないかな?ライブ大会に…色んな想いを持って参加してしてくれた多くのバンドに対しても…ケホッケホッ」

 

「わわ!?架純、大丈夫!?」

 

「ケホッ、大丈夫だよ。心配しないで。

秋月さんの事だから、また理由を付けて優勝賞品は優勝バンドに返すつもりなんだらうけど、そんな大事にしちゃった後に、ライブ大会に参加したバンドに納得出来る理由を説明出来るの?ケホッ」

 

架純さんも姫咲の前だから、声やトーンは静かに冷静な感じを装ってはいるんだろうけど、興奮はしてるんだろうな。気持ちが高ぶり過ぎたら喉に負担がかかって咳が出やすくなるって言ってたし…。

 

やっぱり今回の件は、優勝バンドや参加してくれたバンドにとっては、茶番ってより横暴だって思われても仕方ない形になるんじゃないだろうか?

 

優勝バンドが上手く俺達に勝って優勝賞品を取り返したとしても、俺達が勝ってしまったら、優勝賞品はパッと出の俺達が手にする事になるんだし。

俺としても負ける前提のデュエルギグはしたくないし。

 

「そこは上手く納めるつもりですわ。来年の…いえ、来年以降もこのライブ大会は続いて欲しいと思っていますし。…四季さんが戻って来たら全て説明しますわね」

 

姫咲はかなり破天荒な性格をしているし、割りと行き当たりばったりな企画したりもするけど、"これから"って未来をよく考えてはいるし、さっきも『来年以降もこのライブ大会は…』って言っていたし…綾小路さんが戻って来たら説明してもらえるのなら、俺が反論言ったり指摘するのは、その説明を聞いてからかな。

 

 

それからは誰も言葉を発しないまま、綾小路さんが戻って来るのを待っていた。

 

 

「ただいまで~す。あれ?一瀬さんも松岡もまだ縛られたままなの?」

 

「あら。やっと戻って来てくれましたわね。では、説明をさせて頂きますわ」

 

綾小路さんが戻って来てくれた後、架純さんがセバスマンに綾小路さんの加入が決定したことを伝えてくれた。

綾小路さんは『は!?私がセバスマン!?セバスシーズンって名前で!?いや、って言うかこのセバスシーズンのデザイン何!?マスクがオレンジでボディーがディープグリーン!?手がマンゴーオレンジで足がライトピンクってめちゃくちゃ変じゃん!』とか言っていた。

セバスマンをやる事に対してより、カラーリングやデザインに対しての文句はあるようだった。

 

「まぁ、それはそれとして。まず今回のこの企画…考えたのは私ですが、私的にも本当は酷いことだというのは、重々承知しています。こんなの茶番どころか、参加バンドや審査員、バンドを応援して下さっているオーディエンスにも失礼な話だとは思いますし」

 

姫咲も酷いことだとわかっている?

良かった、姫咲にも一般的にやっていい事と悪い事の分別は出来ているようで…。

 

「まず、改めてのおさらいですが、今回のこのライブ大会の参加条件。これは皆さんわかっていますわよね?」

 

「ああ、俺も一応この文化祭参加側の学生だか…」

 

「松岡くんには聞いていません。はい!結衣!このライブ大会の参加条件とは!?」

 

「え?私…えっと…合同文化祭が開催される学校の生徒であること…だっけ?」

 

「それもそうですが!もう一言!」

 

「ああ、それに加えて参加バンドは…」

 

「松岡くんには聞いていません。ほら!結衣!もっとあるでしょう!?」

 

「あれだよね?ガールズバンドしか参加出来ないみたいな?だからエルフラも参加出来なかったんだし」

 

「そうですわ!そこが大事な所なのです!」

 

冬馬も言おうとしていただろうに…。

 

「今回のライブ大会は、美緒さん達の通う学校の伝統的イベント…。ライブ大会自体は合同文化祭に参加する学校の生徒であれば、参加権利を与えてもらえるという事までは、あちらの学校の理事長にご了承いただけましたが、やはり女子校のイベントだという事で、今回はガールズバンドのみで執り行うという事という条件を出されてしまいました」

 

確かに美緒ちゃん達の学校の理事長さんが、ガールズバンドのみの参加しか認めないみたいな話をしていたってのは聞いたけど、姫咲としてはそういう縛りを無くしたいって事かな?…それが俺達がセバスマンとしてそんな茶番に参加する理由になり得るの?

 

「今回のライブ大会には理事長は決勝のある土曜日にしか参加していただけません。なにしろ多忙な方ですので」

 

なるほどな。

逆に言えば決勝大会は理事長が観てくれる。

そこで男性である俺と冬馬が居るCanoro Feliceの演奏を観てもらおうって魂胆か。

そして、セバスマンとしてライブに乱入するのは、セバスマンはあくまでも地域商店街を盛り上げる為のご当地キャラだから。

セバスマンが演奏するのは、地域復興活動の為って言い訳も作れるもんね。やっぱり姫咲は色々と考えてるな。

 

「秋月のやりたい事は何となくわかった。

でも、それでその理事長さんが野郎の居るバンドでも、来年からは参加可能しようとか、考えを改めるとは俺は思えねぇけどな。」

 

「え?え?私はよくわかってないんだけど…。まっちゃんはわかったの?」

 

「ああ。つまり俺達がこんな茶番をやる意味ってのは…」

 

「松岡くん。申し訳ないんですけど、今は大事なミーティング中ですの。私語は謹んでいただけませんか?」

 

「……しくしく」

 

「わ!?まっちゃんどうしたの!?急に泣き出すなんて!」

 

「結衣、秋月さんの言いたい事は、今後のライブ大会の為に、男性のバンドメンバーが居るCanoro Feliceの演奏を理事長に観てもらいたいって事なんだよ。理事長がそれで少しでも考えを変えてくれたら…来年からはAiles Flammeみたいなメンズだけのバンドでも、参加出来るようになるかも知れないし」

 

「あー!そっか!ガールズバンドのみって縛りを失くしたいって事なんだ?…う~ん、でも私達の演奏を観てもらったってだけで、気持ちは動いてくれるかなぁ?もちろん私達の演奏で、理事長さんの気持ちも変わってくれたら嬉しいけど」

 

冬馬もここはわかってたんだろうけどね。

でも、確かに結衣が言ったように、それで理事長さんが折れてくれるとは思えない。

そりゃ、やるとなったら理事長さんが心変わりしてくれたら…って気持ちでライブはするけど。

 

「そうですわね。私や四季さん、翔子さんや東山さんももちろん、他の学校の先生方とで説得を試みましたけど、残念ながら折れていただけませんでしたし」

 

姫咲も勝算は少ないと思ってるんだな。

でも、だったらどうして尚更?

 

「まだ他にも理由はありますのよ」

 

「ん?他にも理由が?ただ面白がってるだけじゃなくてか?」

 

「松岡くんが私の事をどう思っているのか、よくわかりましたわ」

 

「何でこんな時だけ俺の声が聞こえるんだ!?」

 

冬馬も大変だな…。

 

「まぁ、本当に色々あるんですのよ。

最近はメインバンドの1角であるBlaze Futureのドラマーであるのに、全然出番のないまどかさんの事とか…」

 

全然出番のないまどかさんとか…。

姫咲も辛辣だな。

 

「ふぇ?まぁちゃん?」

 

「結衣は歳上のまどかさんもあだ名呼びなの?ケホッ、その、あのカッコいいタカさんがボーカルを務めるBlaze Futureのまどかさんがどうしたの?」

 

「おい、春太。架純さん、わざわざカッコいいタカさんとか言ってるんだが?」

 

「まぁ…同じボーカルとしてタカさんもカッコいいとは思うけど…架純さんだから仕方ないんじゃない?」

 

タカさんって地獄耳とか英治さんや拓斗さんが言ってたし、架純さんも遠回しにタカさんの耳に届いたらいいなぁとか思っての事かもだし。

……さすがにここからじゃ聞こえないだろうけどね。

 

「そのまどかさんが保母さんという職に就いている事は皆さんご存知だとは思いますが…」

 

ああ、確かにまどかさんが保母さんをやっているのは知っている。だから今回の文化祭編は平日が多かったし、まどかさんの出演が少なかったのはしょうがないと思うけど。土日もこの秋のシーズンは運動会とかイベントとかで忙しいって嘆いてたしね。

ファントムでビール飲みながら。

 

「まどかさんも音楽を嗜む身としては、今回のライブ大会を観覧したかったと思っていますわ」

 

「まぁ…そうだろうな。見たかったか見たくなかったってなったら、断然見たかったと思うぜ?」

 

「今回、決勝大会のあるこの土曜日も、運動会とかそういうイベントの準備で忙しいので、観る事は出来ないと英治さんに嘆いていましたわ。ビールを飲みながら」

 

「そっかぁ…まぁちゃんも大変だねぇ…」

 

「ですので、土曜日の決勝大会にだけ、もちろん、希望者に限りますが、近隣の幼稚園や保育園の園児の方、その保護者として先生方も、この文化祭のライブ大会に招待する事にしたんですのよ」

 

ああ、なるほど。

それはいい事じゃないかな。

てもライブ大会に招待か…。まどかさんや先生方はともかく、幼児達にはまだライブ大会は早いんじゃないかな?

……でも、ないか。奈緒さんや理奈さんも幼女の頃からBREEZEのライブに行ってたみたいだし。

 

「園児の方々には…まぁ、特殊な幼児を除けば、正直ライブ大会とか楽しみでもなんでもないでしょうし、ライブを観ていても退屈かもしれませんわ」

 

「まぁ…だろうな。俺もそんくらいの頃はドラムにも興味無かったし、毎日を生きるのに必死だったしな」

 

幼児が毎日を生きるのに必死だったって…。

冬馬は過去に何があったんだろう…?

 

「あー!わかった!そこで私達セバスマンの出番なんだね!」

 

「そうですわ!さすが結衣!聡明で助かりますわ!」

 

いや、待ってよ。

俺も何度かセバスマンのステージに立ってるけど、幼児とかほとんど観てくれてないじゃん。

セバスマンが出演します。って告知しても幼児達が喜ぶ背景が俺には見えないんだけど。

 

「なるほどな。さすが秋月だぜ。大人だけでなく子供達もライブ大会を楽しめるように、色々と考えているんだな。俺も腹を括ったぜ」

 

冬馬は正気なの?

いや、やる事は決定だろうから、俺もとっくに腹は括ってるけど。

 

「そしてこれがもうひとつの理由。四季さんにセバスマンをやっていただくのは、この理由の為と言えますわ」

 

あ、まだ理由あるんだ?

そういえばそうか。これまでの理事長さんに認めてもらう為とか、園児達に喜んでもらう為とかなら、綾小路さんが居なくても、俺達だけで事は足りると思うし、綾小路さんが居てくれたとしても、理事長さんに認めてもらう事も、園児達に喜んでもらう事もないと思うもんね。

 

「それって…本当に私が必要になる理由なんですかね?」

 

「もちろんですわ。……とも、今は言い切れませんが、きっと必要になると思います」

 

「きっとって…」

 

「私の見立てではあるのですが…おそらく優勝はGlitter Melodyになるのではないかと思っていますの」

 

う~ん…確かに経験はGlitter Melodyに長があるだろうし、実力的にも俺達ファントムの中では、上位だとは思うけど、デュエルはその日のノリや調子、気分やオーディエンスの趣向なんかも色々な事が重なって決まるから、楽しいと思うんだけど…。

 

確かに決勝に残った4バンド中3バンドは…。

Amaterasuに至ってはこのライブ大会でデビュー。

Break Bellに至ってはまだデビューしたて。

Daedal Luvに至ってはオリジナル曲が…。

俺としてもGlitter Melodyが優勢だとは思うかな。

ていうか、俺が言うのもなんだけど、よくそんなバンドが決勝大会の準決勝に残ったよね。

 

「ですので、Glitter Melodyが優勝したあかつきには、普通のデュエルではなく、エンカウンターデュエルで勝負をします」

 

エンカウンターデュエル!?

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、姫咲。私ってデュエルもよくわかってないのに、エンカウンターデュエルって言われても…」

 

「わ、私も実は全然わかっていないですよ!?澄香お姉様に聞いても『ああ、何とかなるなる』としか言ってもらえてないですし!」

 

「俺もデュエルはCanoro Feliceに加入する前にも何度かやった事はあるが、エンカウンターデュエルは経験がねぇ。Glitter Melodyがどんくらいエンカウンターデュエルに詳しいかにも寄るだろうが、勝てる見込みはないんじゃないか?」

 

「俺も結衣や冬馬と同意見だよ。ただでさえデュエルも詳しくないのに、エンカウンターデュエルって言われても」

 

「そこは安心して下さい。私もさっぱりわかっていませんので」

 

何を安心しろと言うんだ…。

 

「えぇ…どうしたらいいんだろう?架純はエンカウンターデュエルに詳しかったりする?」

 

「私達にもチューナーは居ないし、エンカウンターデュエルは私もわからないかな…ケホッ」

 

「まぁ、四季さんに澄香さんが仰っているように、なるようにしかなりませんわよ。それに私達はCanoro Feliceではなく、セバスマンとしてデュエルする訳ですし、エンカウンターデュエルで負けたとしても、Canoro Feliceとしてはノーカンですわ」

 

いや、俺達の正体は完璧にバレてるでしょ…。

 

「秋月さんが…Glitter Melodyやライブ大会に参加したバンドが怒るかも知れないと危惧しながらも、こんな事を強行するのは…もしかしてGlitter Melodyのチューナーさんが目的?確かグリメロちゃんだっけ?」

 

「さすが架純さんですわね。伊達にクリムゾンの猛者と戦ってきた訳ではありませんわね」

 

「え?架純、どういう事?」

 

「グリメロちゃんか…。確かに私も正体は気になるかな。タカさんと英治さんの知り合いみたいだし…」

 

「ええ。日奈子さんと手塚さんは正体を知ってらっしゃるらしいのですが、本人から『時が来れば自分から正体を明かすからそれまでは誰にも内緒にしていて欲しい』と、頼まれているようで、正体はいくら私でも明かせないと言われてますの」

 

時が来れば…か。

 

「じいやの正体がArtemisの澄香さんであったように、タカさんや英治さん、日奈子さんや手塚さんの知るお人でしたら、おそらく15年前の戦いの時の関係者だと思いますしね。あ、ちなみに澄香さんは本当に正体を知らないらしいです」

 

「あ~…それで姫咲…お嬢様は、エンカウンターデュエルを大衆の…いや、葉川さんや中原さん、澄香お姉様の目のある所でやって、誰かが正体に気付けばいいなって感じなんですかね?」

 

「四季さんの仰る通りですわ」

 

「いや、いつか本人が自分で正体を明かすっっての言ってんだろ?別に無理矢理正体を暴かなくても…」

 

「松岡くん、黙りなさい」

 

……って、めちゃくちゃ長い回想シーンだけど、そんなやり取りがあって、今俺達はセバスマンとして優勝したGlitter Melodyの前に立っていた。

 

「さぁ!やるならやりましょうよ。私達は絶対にこんな横暴には負けませんから!」

 

美緒ちゃんもやる気満々だなぁ。

俺はチラリと姫咲の方へと目を向けた。

 

俺の視線に気付いた姫咲は、予定通りに事が運んだのが嬉しいのか、少しクスリと笑って…。

 

「ええ。では早速始めましょうか。私達セバスマンと、Glitter Melodyによるエンカウンターデュエルを!」

 

「「「「エンカウンターデュエル!?」」」」

 

エンカウンターデュエルと聞いて驚く美緒ちゃん達。

そして、余興とも取れるエンカウンターデュエルが、今まさに始まろうとしていた。

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