第1章 バンドやろうぜ!
「69番!
「またダメだったかぁ…」
俺の名前は一瀬 春太。
アイドルを夢見てオーディションを受けまくってる。
でも、どこの事務所もダメで……。
ダンスには自信あったんだけどな…。
クリムゾングループが日本にも進出してくるようになってから、世の中はバンドブーム……。
いや、クリムゾンブームって言った方がいいかな。だから、どこの事務所もアイドルよりバンドを採用している。
「俺だってロックは好きだけど…」
アイドルみたいにキラッキラに輝きたいんだよな…。
「あ、次のオーディション会場向かわなきゃ!」
俺は次のオーディション会場へと向かおうと走り出した。
〈〈〈ドン〉〉〉
「きゃっ!」
「痛っ……。あ、ごめんなさい」
「いえいえ、こちらこそごめんなさい。道に迷ってしまって地図見ながら歩いてたから……」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。身体が丈夫な事だけが取り柄ですので!」
「え……?あ……あなたはもしかして…」
「はい?」
「アイドルグループ
「あ、うん、そうですよ。あ、えっと……、元…アイドル…だけどね…、あはは」
「こんなとこでお会い出来るだなんて……」
「あ~……え~っと…その……、私達のファンだった方……かな?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんですけど、俺もアイドル目指してまして…それでアイドルグループには詳しいって言うか……」
「あ、そうなんだ!じゃあ同業さんだね!」
「まだどこの事務所にも合格してませんし目指してるだけなんですけどね。あはは」
「なら私も似たようなもんだよ!今は事務所も潰れちゃったし、アイドルでも何でもないもん」
「あ、そうなんですか!?だから解散しちゃったんですね……。やっぱりクリムゾングループの?」
「くりむぞん???」
ん?違うのかな……?
「あ、そうだ!私この辺初めてでさ?地図ではこの辺りだと思うんだけどエデンってとこ知らないかな?」
「エデンですか?俺も今からそこでオーディションなんですよ!もしかして結衣さんもですか?」
「オーディションあるんだ?私は前の事務所の人にそこ薦められてね。よくわかんないけどとにかく行ってみようと思って」
「あ、そうなんですね。俺、道はわかりますし一緒に行きましょう」
「わー!良かったー!助かる!よろしくね!!」
うわぁ、さすがアイドル…すっごく可愛い笑顔だ。
エデンで再デビューするのかな?
俺も頑張ろう!
「あはは、じゃあ、行きましょうか!」
「ねぇねぇ!そういや名前聞いてないんだけど?」
「あ、俺、一瀬 春太っていいます」
「歳は?いくつ?」
「19です」
「おー!じゃあ私と同いだね!同いなんだし私には敬語はいいよ!結衣って呼んでくれたらいいから!んで、私は春くんって呼ぶね!!」
「あ、は……はい……」
「ほらー!遠慮なんかいらないってー!」
「うん、わかったよ……、ゆ…結衣」
「うんうん!改めてよろしくね!春くん!」
「この辺のはずなんだけど……」
「それっぽい建物ないねー」
「あ、あの人に聞いてみよう」
「うん!」
俺は通りを掃除してる人に声をかけてみた。
「あの、すみません…」
「……」
「この辺にエデンってとこあると思うんですけど、どこか知りませんか?」
「……」
うわ……無視かな……?
「えー!?そうなんだ!?ありがとうございます!助かりました!」
「え?」
「あ、大丈夫です。ここを降りればいいんですね」
「え?」
「ほら!春くんもちゃんとお礼言って!」
「え?あ、ありがとうございます…?」
「行こ!」
「え?ちょっと……結衣……?」
「いやー、すごくいい人で助かったねー」
「え?今の女の子?」
「女の子?今の人男の人じゃないの?」
「え?男……だったのかな?」
「ここのマスターはガリしかくれないから気を付けて下さいとか……。ぷぷっ……今思い出しただけでも笑えてくる」
「え?そんな事言ってた……?」
「???
春くんの位置からじゃ聞こえなかった?すごくいい感じに色々教えてくれたよ。案内しましょうか?まで言ってくれたし」
嘘だろ……?
全然聞こえなかったんだけど……。
「すみません。失礼します」
結衣に連れられたとこは確かにエデンだった。
俺の位置からじゃ聞こえなかった……だけなのかな?
「ん?誰だ?」
「ほら……春くん…!」
あ、俺から自己紹介するのか。
「本日、こちらのオーディションに伺わせて頂いた一瀬 春太といいます!」
「ん?オーディション……?」
「はい!本日こちらでアイドルグループの選抜オーディションがあると聞きまして!」
「いや、オーディションなんかねぇぞ?何か間違いじゃねぇか?」
「え?」
「ここはライブハウスだ。そんなオーディションなんかやった事もないし、やるつもりもないぞ。ここでライブをやらせてほしいってんなら大歓迎だけどな」
「え…そんな……」
「春くん…」
「ごめん、結衣。頭が追い付いてない……。外で待ってる…」
「え……あ……うん」
「で?こっちの嬢ちゃんは?」
はぁ~、まじかぁ~……。
おかしいとは思ったんだよな…。
確かにエデンなんてアイドル事務所聞いた事ないし……。
そもそもオーディションってのに人も全然いなかったし……。
バカだなぁ……俺……。
「どうしたの?」
え?
「大丈夫?」
さっきのお兄さん?
いや、やっぱりお姉さん?
「あ、あはは……」
何故か俺はこのお兄さ……お姉さん?
に、話を聞いてもらっていた。
「もう、アイドルとか諦めた方がいいかな?って思う時もあるんですけど…。やっぱり昔からの夢ですし……。ステージの上でみんなにそんな夢を見せられるような……そんな存在になりたいなって」
「……」
「いや!そんな事ないですよ…!?そんな立派なもんじゃないです!でも…ありがとうございます」
「……」
「はい。もうちょっとだけ……頑張ってみようかな…」
「絶望は歩みを止める理由にはならない」
「え?」
「……」
「今日のライブ見てけって…?まぁ、ロックは好きですけど」
「春く~~ん!」
いきなり結衣が抱きついてきた。
っていやいや!何で抱きついてきてるの!?
「ちょ……結衣…!!どうしたのいきなり……!」
「私も……アイドルとしてここ紹介されたんじゃなかったよぅ……」
「え?まぁ、ライブハウスって言ってたしね……」
「私ダンス苦手で……。コンサートの時もギターソロとかしてたからさ……」
あぁ……そういえば結衣は歌も最高に上手いしギターソロとかやってたっけ……。
ダンスは……うん、なんか固かった……ってレベルじゃないくらいお察しだったしね……。
「それでここのライブハウスで働きながらバンドを探すようにって事だったんだって……」
「あぁ……結衣はギターが出来るからそっちの道もあるって事か」
「私!嫌だよ!!」
「あ、やっぱり結衣もアイドルがいいんだね」
「ん?違うよ?」
「え?違うの?」
「うん。私はアイドルでもバンドでもお笑い芸人でも月9女優でも何でもいいよ?」
「そうなの?」
月9女優って……。
「うん。私の夢はどんな子でも頑張れば、笑っていれば夢を叶えられるんだよ。って。私を見てくれるみんなにそれを伝える事だもん」
そう……か…。
そういえば結衣のキャッチフレーズみたいなのがそんなのだっけ…。
「じゃあ何が嫌なの?」
「ここで働いてる間は……お給料はガリだって…」
「は?」
「絶望は歩みを止める理由にはならない」
え!?その台詞ここで言うの!?
「うんうん!見習いさん良いこと言うね!」
この人ミナライさんっていうの?
結衣はなんで知ってるんだ?
「え?今日のライブ見てけって?う~ん……、どうしようかな……」
「俺も見てけって言われたよ。結衣もこの後の予定ないなら見ていかない?せっかくだしさ」
「予定は特にないし……。春くんも一緒ならそうしよっかな!」
「春くん!春くん!!」
「どうしたの?」
「実は私バンドの生ライブって初めてなんだ!」
「そうなの?結衣ってテレビ番組にもよく出てたし、バンドさんと共演とかもあったんじゃない?」
「そりゃ共演とかはあったけど、音撮りのスタジオは別だったり、私達は控え室とか袖裏で待機とかだったり……」
へぇ~、そういうものなんだ……。
「だから今すっごいドキドキしてるよ!楽しみ!!」
「なら今日は思いっきり楽しもうね!」
「うん!あ、そろそろ始まるよ!今日は2組の合同ライブなんだって!」
「最初は
「あ、暗くなった…!!う~~!ドキドキする!!」
そして激しい音と共にライブが始まった。
『吠えるぜ!BLAST!!』
♪
♪♪
♪♪♪
凄かった……。
BLASTの曲はどれもかっこよくて元気になって。
まだ終わらないでほしい。そう思うライブだった…。
「BLAST凄かったね。」
「……」
「結衣?」
「春くん……」
「ん?」
「ごめん、私……。私ね」
「どうしたの?」
「春くんはFairyAprilのライブも楽しんで……。ちょっと外の空気に当たってくる!」
「結衣?」
そう言って結衣はエデンから出ていった。どうしたんだろう……?
「そろそろFairyAprilのライブも始まるのに……」
結衣は結局戻って来なかった。
やっぱりロックは違うな。と思って帰っちゃったのかな?
今更結衣を追ってもどこに行ったかわからないだろうし、俺は俺でFairyAprilのライブを楽しむか……。
「お、暗くなった。そろそろ始まるかな」
さっきのかっこいい感じのBLASTとは違って心踊るような……軽快な音楽が流れる。
『みんなー!今日も来てくれてありがとうー!』
『姫達ー!今日も思いっきりかっこいい俺を見てくれよな!』
『今日も僕たちのライブ楽しんでいってね!』
『楽しんでいってくれよな』
『それじゃあ……行くよ!みんなも一緒に!Fairy……』
『『『『go』』』』
♪
♪♪
♪♪♪
目も耳も奪われた……。
俺はFairyAprilのライブに……。
ボーカルの
バンドよりアイドルの方がいい。
きらきら輝いている。
そんな風に思っていた俺がどれだけ井の中の蛙だったのか…。
そんな風に思ってしまうようなライブだった。
FairyAprilは俺の憧れてたアイドルのように。いや、それ以上にきらきら輝いていた……。
あれ?ここどこだろ……?
意識がはっきりとした時は俺はエデンの外に居た。
「ど~~~ん!!!」
「うわっ!?」
いきなり後ろからすごい衝撃……不意をつかれたからか思いっきり転んでしまった。
「わ!わわわわわ!!春くん!ごめん!!そんな転ぶとは思ってなくて……」
あぁ、後ろからの衝撃は結衣がぶつかって来たのか……。ん……?結衣……?
「結衣!?」
「わ~…。だからごめんて~。ちょっと驚かせようと思っただけだったんだけど……」
そう言ってすごく申し訳なさそうな顔をする結衣。
「あ、いや、びっくりはしたけど大丈夫だよ。結衣は帰っちゃったのか思ってたからさ」
「あぁ……うん……。ごめんね」
「もしかしてずっと待ってたの?」
「うん。ちょっと考えたい事もあったしさ」
「BLASTのライブ?」
「うん…。FairyAprilのライブも良かったみたいだね!エデンから出てきた春くんをずっと呼んでたのに、全然気付いてくれないくらい自分の世界入ってたみたいだし!」
「あ、そうだったんだ。俺こそごめん……」
「あ、全然だよ!全然!!私もBLAST見た後、しばらくそんな感じだったし……」
「そっか……」
「BLASTのライブ見てね。ギターの
そして結衣は色々自分の想いを話してくれた。
「私はアイドルだけどダンスは出来ない!でもギターは弾けるんだぜ!ってね。そう思ってた頃もあるんだ。
だけどね。今日宗介さんのギターを見て、そんな自分が本当にみんなに夢を見せられるのか?ってね。考えちゃったんだ」
「結衣……」
「私ね。自分が音楽が好きって改めて気付いた。せっかくギターも弾けるんだもん。せっかく今日BLASTのライブを見れたんだもん。私は私のやる音楽で……みんなに夢を見せられるようになりたい」
「俺もだよ」
「春くんも?」
「俺、ステージの上できらきら輝いているのはいつもアイドルだって思ってた。だからアイドルになりたい。ってずっと思ってた」
「うん」
「今日FairyAprilのライブを…ボーカルの葵陽を見てさ。俺の憧れているきらきらを、葵陽は……FairyAprilはみんな持ってた。すごくきらきら輝いてた」
「うん」
「アイドルのオーディションに全然受からなかったからこう思ってるんじゃなくて……。俺がやりたかった事は。俺がなりたかったきらきらは……。
葵陽みたいな…FairyAprilみたいな存在だったんじゃないかな?って思った。いや、そう感じたんだ…」
「うん」
「俺…。きらきら輝きたい。ステージの上できらきら輝いていたい。そう思ってる。今でも。」
「春くん」
「でも……アイドルじゃないんだ。今はFairyAprilのような。バンドマンとしてステージに立ちたい」
「私も……。ギターに自分の想いを乗せて、自分の好きな音楽をみんなに伝えたい」
「結衣!」
「春くん!」
「「バンドやろうぜ!」」