ライブ大会…楽しかったな。
ううん、楽しいって言葉だけじゃ言い表されないよ。
高校に入学した当初は、結局仲の良かった友達と離ればなれになって、自分を出す事も、歌が好きだという事も出す事ができず、自分の中に引き込もってばかりで、きっと高校生活の3年間をそんな感じで過ごすんだろうなって思ってた。
そんな事を思い出しながら、今、一緒に歩いてくれている真凜ちゃんの方へ目を向けた。
ふふ、蘭ちゃんと輝美ちゃんと何か話してるみたい。
あの時…真凜ちゃんが私と輝美ちゃんに声を掛けてくれなかったら、きっとAmaterasuはなかったんだろうな。
『あ、ねぇねぇ!良かったらさ?あたしとバンドやんない?』
『へ?…バンド?こ、この人って輝美ちゃんの知り合い?』
『え!?私も知らない人…のはずだけど…。えっと…バンドって何ですか?何故私達に?』
『あ、そっか。クラスメートって言っても、こうやって話すのは初めましてだよね?バンドってのは音楽をやる…』
『あ、いや、すみません。バンドの説明が必要とかでなくて。私も天音さんも…どっちかと言うとクラスでは地味な方と言いますか…』
『あ…そうだよね。私なんて地味なミジンコみたいなもんだし…。あ、これってミジンコに失礼だよね…』
『いや!天音さん!?別にそう言った意味では…。あ、でも、私もミジンコみたいなものかも…』
『やっぱあたしの直感ってすげぇわ。2人共面白いし!確か本城 天音さん…だよね?………よし!あまねる!!そんで確か椎名 輝美だよね?よし!てるみんだ!』
『いや、渾名とか求めてないんですけど!?』
『あまねる…?ちょっと可愛いとか思っちゃったけど、さすがにそれは色々とヤバそうっていうか…』
『って訳で!あまねる!てるみん!あたしとバンドやろうぜ!』
ふふ、あれから色々あったりしたし、スズちゃんや蘭ちゃんとも出会って、バンドの解散危機もあったりしたけど、今、改めて思うよ。
真凜ちゃんが私達をバンドに誘ってくれたから、今の
「天音?どうしましたの?」
「ふぇ?あ、スズちゃん。ちょっと…バンドを始めて良かったなって…改めて考えてたんだ」
「ふふふ、バンドを始めて良かった…ですか。先日までの天音からは、聞けないような言葉ですわね」
「う…た、確かに怖くなって逃げちゃったりもしたけど、やっぱり…その…スズちゃんが居て、真凜ちゃんが居て、蘭ちゃんが居て、輝美ちゃんが居る。
私はそんなAmaterasuが大好きだよ。私には勿体ないくらいのメンバーっていうか…」
「冗談ですわよ。って言いますか…。わたくしにしてもですが、真凜も蘭も輝美も、天音が居てくれるからAmaterasuなのです。天音が居なかったら、わたくしは今でも音楽はやっていなかったでしょうし、蘭もバンドはやってなかったでしょうね。輝美に至っては趣味でドラムはやっていたかもしれませんが、真凜も適当なバンドを組んでは解散する。そんな今になっていたと、わたくしは断言できますわよ」
「そ、そんな…私が居たからだなんて…その…」
「またプレッシャーになりましたか?この場から逃げたくなりました?」
「…ううん、あの…そんな風に言って貰えて嬉しい…かも。ちょっと前の私ならプレッシャー感じて逃げ出したかもしれないけど…」
「ふふ、今の天音ならそう言ってくれると思っていましたわ。わたくし達はこれからもAmaterasuです。誰かが欠けてもダメなのです」
「うん…そうだよね。私もそう思うよ」
「でもまぁ、真凜なら居なくても困りませんわね。真凜より上手なギタリストもそこら中に居ると思っていますし」
「も!もうっ!スズちゃんは真凜ちゃんに厳しいんだから!…真凜ちゃんより私の方が全然ダメダメなのに…」
「まぁ真凜の事もある程度は認めていますわよ。あのパープーな感受性も、わたくし達には必要な事だと思いますしね」
真凜ちゃんもすごく頑張って、ギターの演奏もバンドをやり始めた頃よりは全然上手くなってるのに。
スズちゃんは何で真凜ちゃんに厳しいんだろ?
「あまねる~すず~。何か2人であたしの悪口言ってるかぁ~?」
「ふぇ?真凜ちゃん!?私が真凜ちゃんの悪口とか言う訳ないじゃん!」
「さすが地獄耳ですわね。悪口を言っているように聞こえたのであれば、概ねその通りとだけ言っておきますわ」
「あ、やっぱあたしの悪口だったんだ?ってかそんな事よりも2人共聞けよー」
悪口とか言ってないし!
ってか、悪口言われてた事をそんな事って感じで済ませちゃうの!?
「今回のライブ大会ってさ?あたしらにとっては初めてのライブだったし、初めてのデュエルギグだった訳じゃん?って訳で打ち上げ行こうぜ打ち上げ!」
「打ち上げ!?」
「打ち上げ…。そうですわね。わたくし達にとって初めてのライブ。反省点やこれからの課題を話し合う事も必要ですわね。打ち上げと言うよりは反省会という気もしますが。良いですわ。
わたくしも参加します。その代わりちょっと安めのお店で…」
打ち上げかぁ。
そういえば中学3年生の時は結月ちゃん達と何かする度に打ち上げとかやってたよね。あの時は楽しかったなぁ。
Amaterasuでも練習終わりにお茶したり、カラオケやご飯食べに行ったりはあったけど、打ち上げってのは初めてだよね。
バンドやってると、こういう楽しみもあるんだね。
あ、お父さんとお母さんに今日の晩御飯はいらないから、明日食べるよって連絡しなきゃ。
「私ももちろん行くよ。打ち上げってどこでやるの?いつものファミレスかな?」
「何言ってんだよあまねる!打ち上げったら焼肉だろ焼肉!今から焼肉行くぞー!めっちゃ食うぜー!」
「「焼肉!?」」
焼肉!?ちょっと待って!そ、そんな焼肉にみんなで行ける程お金持ってないよ!?
「真凜!あなたという人はアホだとかバカだとか思ってましたが、真生のアホのおバカさんですわね!」
「え?何かあたし凄い言われようじゃない?何で?」
「焼肉なんて食べに行けるお金がある訳ないでしょう!?真凜のご実家は…それなりのお金持ちでしょうし、焼肉くらいと思うかもしれませんが!わたくしにとっては…くぅ…お肉食べたい…」
すずちゃん!?
「いや、あたしも焼肉食べに行ける程のお小遣いは貰ってないし。あ~、そろそろバイトも考えなきゃな~。
あ、でもファントムに所属してお給料貰えるようになったら、そんな心配もなくなるか」
いやいやいや、真凜ちゃんですら焼肉に行ける程のお小遣いないのに、私や輝美ちゃん、蘭ちゃんやすずちゃんが行ける訳ないじゃん。
…でも焼肉かぁ。
焼いたお野菜はいらないけど、ホルモンとかいっぱい食べたかったなぁ。最近、お父さんにも焼肉とか連れて行ってもらえてないし。
「てか、まぁまぁ、話は最後まで聞けって~。今日の焼肉はなんと!らんらんの奢りなんだよ~」
「「え!?蘭(ちゃん)の奢り!?」」
「つってもまぁ、らんらんの妹ばぁちゃん。あのばあちゃんの奢りなんだけど」
「蘭の妹ばぁば様が?」
蘭ちゃんのお婆さんの妹さんの奢りか。
私達は『妹ばぁばさん』って呼ぶように言われて、そう呼んでるんだけど、私が射手座のレガリアを持っている事を知っている少ない人物の内の1人だ。
妹ばぁばさんも詳しくは教えてもらってないけど、昔にレガリアに関係があったらしく、蘭ちゃんが私達とバンドをやる事になってから、何度か会ってる人。
初対面の時は怖かったけど…
『あんたかい?うちの蘭がやりたいってバンドのボーカルだってのは』
『あ、あの…はい。お、お世話になります』
『ちょっとこっち来な』
『へ?』
『こっち来なって言ってんだよ!見りゃわかるだろ!あたしは足が悪いから歩きにくいんだよ!』
『ふぁ!?あ、あの…すみません!』
スズちゃんや輝美ちゃんに守られながら、私は妹ばぁばさんの前まで行ったんだけど、
『あんたらはお呼びじゃないんだよ!』
そう言ってスズちゃんと輝美ちゃんは、妹ばぁばさんの持つ杖で叩かれて追い払われてしまった。
『あ…あの…』
ガシッ!
『ブァ!?』
妹ばぁばさんはいきなり両手で私の顔を掴み、私の目を真っ直ぐに見ながらこう言った。
『あんた。蘭に聞いたけど射手座のレガリアを持ってるんだってね?』
その時の妹ばぁばさんは本当に怖くて『そんなの持ってません』って言いたかったくらいなんだけど、私はレガリアに関しては逃げたりしたくなかった。
『ふぁ、ふぁい。わたひぃが射手座のレガリファを託されまふぃた』
『タカからかい?』
『いふぇ』
『ならトシキかい?』
『ちがひぃまふ』
『まさか英治か?』
『ちがひぃまふ』
『ならどこで手に入れたんだい?拓斗から…って事はないだろう?』
何で拓斗さんはないと思われたんだろう?
とかも思ったけど、私は正直に妹ばぁばさんの目を見ながら言った。
『み、三咲さんでふ。三咲さんからわたひぃは託していただきまひぁあ』
『三咲…?三咲からだって?
あは、あはははははは!まさかのまさかだよ。三咲からあんたはレガリアを託されたってのかい?』
『ふぁ、ふぁい。三咲さんからでふ』
『あの三咲が…レガリアを…。あはははははは。
あ~あ~あ~。悪かったね。思いっきり顔を掴んじまって。…あんたらも悪かったね。いきなり殴られて痛かったろう?』
妹ばぁばさんは何がそんなにおかしかったのか、急に大笑いしだして、私の顔から手を離し、スズちゃんと輝美ちゃんに深々と頭を下げて謝罪した。
『あ…あの…』
『いや、本当に悪かったよ。蘭からバンドを始めたって聞いて、あの子の性格上色々心配になっちまってね。あんたらに迷惑を掛けんじゃないかとか、気苦労させられんじゃないかとかさ』
『おお?あたしもしかしてー。妹ばぁばにわるぐち言われてるー?』
『そ、そんな事ないと思うよ…うん』
『さすが肉親ですわね。蘭の事をよくわかってらっしゃるようですわ』
『ス、スズちゃん…』
『そんで色々聞いてたらさ?『うちのボーカルは射手座のレガリアを持ってんだよ』って蘭から聞かされてね』
『おー。らんらんってそんな事言ってたんだ?あれ?でもらんらんって、あまねるがレガリア持ってる事は、バンド以外の人には話すなとか言ってなかった?なのにらんらんが妹ばぁちゃんに話しちゃったの?』
『いやー。妹ばぁばになら言ってもいいと思ってー。だって妹ばぁばは……おっと。これは言っちゃいけないんだったー』
『妹ばぁちゃんは?その続きなんだし?めちゃ気になるだけど』
『真凜はとりあえず黙りなさい。
蘭も思わせ振りな事は言ってしまった訳ですし、天音に対しての対応など、聞きたい事は山ほどある訳ですが…とりあえずこれだけ。
貴女はレガリアに関係が…いえ、わたくしとしては、貴女もレガリア使いだったのではないかと思っているのですが?
わたくし達にこんな狼藉を働いたのです。もちろんお聞かせいただけますわよね?』
『なかなかに鋭い子もいるねぇ。確かにあたしはレガリアの…レガリア戦争よりもずっと前からのレガリアの関係者さ』
レガリアの関係者?
レガリア戦争よりもずっと前という事は、タカさんはもちろん大神さんの時代よりも前って事?
『レガリア使い…とは言いませんのね。レガリアの関係者…ですか』
『ああ、そうさ。あたしはレガリアの行く末を見守らないといけない。勝手にそう思ってるだけだよ。初代達やレガリア戦争で音楽をやれなくなった者達の、守ろうとした主義や主張の行く末をね』
初代達…。
射手座のレガリアの初代矢沢さんや、Artemisの梓さんのお母さん、遙那さん達の事だよね。妹ばぁばさんはそんな時代からレガリアを…?
『まぁ、今はそれでもいいですわ。わたくし達がAmaterasuをやっていれば、行く行くは様々な事もわかっていくでしょうし』
『ふふ、本当に蘭は面白い連中とバンドをやる事になったんもんだね。確か天音って言ったかい?あんたを選んだのが三咲だったなら間違いはないよ。他の奴らが選んだってんなら、射手座のレガリアは無理矢理にでもあんたから奪い取ってた』
私を選んでくれたのが三咲さんだったから?
あれ?タカさんやトシキさん、拓斗さんや英治さんに託されたんじゃダメだったって事?
いや、それより初代の頃から見守ってたんだよね?
私を選んだのが大神さんや氷川さんだったらどうしてたんだろう?
『せっかくの機会だ。レガリアについてあたしが知っている事を少しだけ話させて貰おうかね。
レガリアってのは…』
「天音!止まりなさい!」
「え?スズちゃん?」
私が妹ばぁばさんとの出会いを思い返していると、スズちゃんが大きな声を出して、私の前に手をやった。
「どしたんスズ。せっかく妹ばぁちゃんの奢りなんだし、早く焼肉行こうぜ」
「そうだそうだー。あたしもおなかすいたー」
「真凜さんも蘭さんも止まって。
あの人…ううん、あの人の周りに居る人達って、話に聞くデュエルギグ暗殺者じゃない?」
輝美ちゃんも私達の行く手を遮り、私達の前方に居る人達を指差しした。
私は輝美ちゃんの指差しする先に目をやった。
「くず…りゅう…」
「!?
九頭竜ですって?あのデュエルギグ暗殺者達の中央に居る男。あいつがあのクリムゾンエンターテイメントの元四天王である九頭竜というのですか!?」
私の忘れたい過去。
その時の辛かった日々の事がフラッシュバックして甦る。あの人の顔は忘れたくても忘れられない私のトラウマの元凶。
つい最近までは、私が本当の父親だと思っていた、幼い頃の私の教育係、元クリムゾンエンターテイメントの四天王であるベーシストの九頭竜 霧斗だった。
お父さんとお母さんに昔の話や、本当の父親の事を聞いて、このトラウマの元凶だった人は、父親ではなくて、私をクリムゾンエンターテイメントの駒にする為に選ばれた教育係だったんだと、教えてもらえた訳だけど。
「あの人が…天音さんに厳しく教育してたってクリムゾンエンターテイメントの幹部…」
「ん?てか何でスズもてるみんも説明口調なん?誰かに説明してんの?」
「あれがくずりゅーかー。それよりー、なんでくずりゅーの周りの人は仮面をつけてんのー?いい歳してはずかしくないのかなー?ここまであの仮面つけてあるいてきたのー?」
九頭竜を前にした私は過去のトラウマを思い出し、足は震えていた。
今までの私なら恐怖心に負けて、逃げ出す事も出来ず座り込んで絶望していただろう。
だけど、今はみんなが、Amaterasuのみんなが居てくれている。みんなの存在が九頭竜への恐怖心やトラウマを払拭してくれた。うん、私はもう逃げ出さない。
九頭竜なんて全然怖くない。
そう思っている私は、堂々と九頭竜の前に立てていた。
それに蘭ちゃんの言う通り、九頭竜の周りに居るデュエルギグ暗殺者達は、あの仮面をつけたままこんな人通りの多い場所まで歩いてきたのだろうか?そう思うとトラウマの恐怖心より、別の恐怖が私の心を襲っていた。
むしろちょっと笑いそうになったくらいだ。
それなのに、私は思い出さなくていい事を思い出してしまった。
『うん?天音はお父さんがクリムゾンエンターテイメントで、どんな事をやって来たのか気になるかい?』
『う、そ、そういう風に言われちゃうと、気にならないっていうよりは気になるとは思うけど』
『お父さんは顔も名前も許されない雑魚バンドマンだったのもね』
『お母さん…確かに僕は名前や顔も…。で、でも僕なりには頑張ってたんだよ?』
『私はあんまりクリムゾンエンターテイメントの事にはピンときたりしないんだけど、名前を名乗るのを許されなかった…ってのはわかるんだけどね。
その…顔も許されないってどういう事なのかな?って。お父さんもクリムゾンエンターテイメントとして音楽やってたんなら、デュエルギグした相手には顔も覚えられたりするんじゃ…って思ったんたけど』
『ああ!あーなるほどね。顔…か。あはは…』
『天音は知らないでしょうけど、クリムゾンエンターテイメントにはデュエルギグ戦闘員やデュエルギグ暗殺者、デュエル兵士やデュエルギグ将軍とか…。まぁ、変な人達がたくさん居たのよ』
『変な人とか…ああ、耳が痛い…』
『それでバンド名すらも名乗ることを許されていないそんな人達はみんな…変なお面を付けててね』
『僕も何であんな変なお面付けてたんだろう…』
『ふぇ?お面?』
などと、お父さんやお母さんと話をしてた事を思い出してしまったのだ。
それってつまりは今はあんなに優しくてカッコいいお父さんが、この人達みたいな変なお面を付けて町中を歩いていたという事だろう。
そう思うと…私は別の意味で震えが止まらなくなっていた。
「天音さん…こんなに震えて…」
「あのトラウマの元凶。九頭竜が目の前に居るんですもの。しようがありませんわ」
「らんらん。あまねるを連れて逃げれる?」
「あたしよりまりんがあまねを連れて逃げたほうがよきー。せっかくだし。あたしはデュエルしたい」
え?あ、みんなが物凄い勘違いをしてる!?
そりゃクリムゾンエンターテイメントの元四天王の九頭竜と、その部下であるデュエルギグ暗殺者がいっぱい居るんだし、この状況は怖いとは思うけど。
私は別に昔のトラウマで震えてる訳じゃないから!
「真凜と蘭は逃げたりしそうではないですわね。輝美、天音の事は任せますわ。わたくし達が引き付けるので、その間に逃げて下さい」
「わ、私だけ天音さんと逃げるなんてしたくないよっ!」
「てるみんもわかってるっしょ?あまねるは無事に逃がさないと…さ」
「まあ、あたしがみんなやっつけるから、あまねもてるみも逃げなくていいとは思うけどね~」
わわわわわわ、や、ヤバい。
このままだと私を誰かが連れて逃げて…。残ったみんなが九頭竜やデュエルギグ暗殺者達に…。
私はお父さんが昔、こんな変な仮面付けて町中を歩いていたのかも。という恐ろしさに震えてただけなんだけど…。うん、今はお父さんの事は忘れよう。
私はみんなより1歩だけ前に出て、九頭竜を見ながら、出せるだけの精一杯の声で話し掛けた。
「あ、あの…クリムゾンエンターテイメントの九頭竜……さんですよね?わ、私達に何か用があるんですか?」
「「「「あまね!?」」」」
「ほほう…。私の顔なんて覚えてもいないと思っていたが、これは予想外だ。おい、お前達、もう帰ってもいいぞ」
「「「「ハッ」」」」
九頭竜が片方の手を軽く上げると、その動作を見た周りのデュエルギグ暗殺者達はひとり、またひとりと、普通に歩いて帰って行った。
その内の数人からは『何でこんな事やらされてるんだろう?』みたいな哀愁のオーラを漂わせていた。
お、お父さんもこんな事で呼び出されては、何もせずに帰らされたりとか、そんな事をさせられていたんだろうか?
「まぁ、私の事を覚えているのであれば話が早い。私も時間に余裕がある訳ではないし、手短に終わらさせてもらおうか」
「手短に話…か。あたしとしても、それで終わってくれたらありがたいかな。あたしらこれから焼肉なんで」
「そうだそうだー。おなかすいてんだー!」
「今日の疲れを癒す為に、焼いたお野菜を天音の皿に取り分けて、お野菜を前に困っている天音の顔を見る。そんな至福の時間が待っているのです。本当に手短にお願いしますわ」
「スズちゃん!?」
今、スズちゃんめちゃくちゃ怖い事言わなかった!?
「ふふふ。焼肉か。
いいだろう。天音、Amaterasuの連中ももちろん一緒でいいぞ。私達の元へ、クリムゾンエンターテイメントに戻ってこないか?戻ってきたら焼肉なぞ毎日でも食わせてやるぞ?」
「「「「毎日焼肉!?」」」」
「え?そこ…天音さんも反応しちゃうんだ?」
「そうだ。焼肉だけではないぞ。
お前達が私達の傘下に下り、クリムゾンエンターテイメントの為に働くなら、毎日好きな物を食わせてやる!もちろん給料も支払わせてもらう」
「まぁそれでもあたしはパスかな。毎日焼肉っての魅力的だけど、あたしクリムゾン嫌いだし」
「あたしもご遠慮~。好きなの食べたいなら妹ばぁばに食べさせてもらうし、お小遣いも妹ばぁばに貰えばいいし。クリムゾンはヤなやつ多いから~」
「給料はいくら程いただけるのか…正直気になりますが、そもそもわたくしがこんな生活になったのも、クリムゾンエンターテイメントのせいですし。敵対する事はあっても、傘下に入る事はないですわね」
「私も…クリムゾンエンターテイメントに戻る事はありません。絶対に!」
「良かったぁ~。みんな焼肉に反応しちゃうから、私はどうしようかと思ったよ…。クリムゾンエンターテイメントには私も入りたくないし」
「…君達は今どんなチャンスを蹴ってしまったのか、ちゃんとわかっているのかね?これからクリムゾンエンターテイメントはどんどん上に上がる。クリムゾンミュージックをも超えて更に上にね」
クリムゾンエンターテイメントが?
クリムゾンミュージックより更に上に?
「それに…お前の父親もきっとそれを望んでいる」
「「「「「!?」」」」」
父親…私の本当のお父さんか…。
「それでも…私は絶対行きません。私のお父さんは今のお父さんだけですので」
「なるほど…交渉決裂だな。キサマの父親…確か本城といったか?私も知らない程度だし、雑魚なのは間違いないが…」
「お父さんの事…バカにするなら、今ここで貴方を倒します。お父さんの娘の本城 天音として」
「「「天音(さん)(あまねる)!?」」」
「お~。いうじゃんあまね。いいねー。相手はひとりだし、あたしらでやっつけちゃお~」
確かに…お父さんは名前も顔も許されてなかった訳だし、九頭竜…さんも、お父さんの事なんか知らないのかも知れないけど、お父さんだって音楽が好きで頑張ってたのに…それなのに、あんなヘンテコなお面まで付けられて…。
……ヘンテコなお面。
ヤバい、お父さんがあんな仮面付けながら、町中を歩いてたのかもとか、また思っちゃった。
クッ…今は大事な…割とシリアスっぽいシーンだ。
絶対笑ってしまう訳にはいかない。
私はお父さんに失礼と思いながらも、笑ってしまいそうになってしまった。
手を握りしめて爪を食い込ませて…痛みで笑わないように…。
私はうつむき、手をギュっと握り締めた。
「天音さん…(やっぱり九頭竜が怖いんだ…。私…私が天音さんを何とか連れて逃げないと)」
「あまね…(くずりゅーって確かあたしと同じベーシストだっけ?いまのあたしがどれだけしてんのーに通用するか…ふふ、実はすこしたのしみー)」
「天音…(わたくしと蘭とおまけの真凜。この3人でも恐らく九頭竜には敵わないでしょうね。輝美と天音の逃げる間の時間稼ぎ…くらいにはなってみせますわ!)」
「あまねる…(デュエルギグ暗殺者ってのが居なくなって相手はたった1人だけど…う~ん、聞いてる感じじゃ今のあたしらじゃ勝てないよなぁ~。でもあまねるって、さっきから怯えてるっていうか、なんか笑いを堪えてる感じじゃね?)」
よし、耐えた!
ちょっと笑いそうだったけど私耐えたよ!
でも、これからどうしたらいいだろう?
お父さんをバカにした九頭竜は、やっつけたいって気持ちはあるけど、今の私が敵う訳ないし…。
それに私のこんな私怨みたいな事で、みんなに迷惑を掛ける訳にも…。
「(んー?やっぱあまねる変な感じだよね?相手は四天王だし、後であまねるにもスズにも怒られるかもだけど、いっちょ試してみよかな?怒られたらタカさんや英治さんに泣きついたらなんとかなりそうだし?)よし、あまねる!」
私はこの後どうするか悩んでいると、真凜ちゃんが私の名前を呼ぶものだからハッとした。
どうしたんだろう?真凜ちゃんには何か考えがあるのかな?
「デュエルギグ暗殺者も居なくなって相手は1人だし!あまねるのレガリアで焼き払っちゃえ!ビームだビーム!」
「真凜ちゃん!?いや、だからレガリアはそんな物じゃないし…!焼き払う事もできないし、ビームなんて出ないからっ!それより九頭竜……さんの前でその話はちょっと…」
「真凜っ!貴女という人は…!」
「(あ~、やっぱあまねるとスズは怒るよね~。でも、目の前の九頭竜…だっけ?この人はどんな反応すんだろ?)あれ?ならどんな攻撃ができるん?」
「真凜さん…あの…そもそもレガリアって攻撃とかそういう物じゃないって…蘭さんの妹ばぁばさんからもあんまりその話はって…」
「ふふん、なるほどー。まりんの意図はわかりけりー。あたしとしてはつまんなくなりそだけどー」
「蘭ちゃん!?真凜ちゃんの意図って!?」
急に真凜ちゃんがレガリアとか言うものだから、私達はびっくりしてしまった。
でも、蘭ちゃんの言った真凜ちゃんの意図っていったい…。
「レガリア…だと?待て、天音。キサマ…レガリアを持っているというのか…?いや、まさかキサマごときが…」
「は?今、貴方…わたくしの天音を"ごとき"とか仰いましたか?たかが元四天王ごときが」
確かに私もムッとはしたけど、スズちゃんは何でいきなりそんな喧嘩腰に…。
「そうだぜー。あまねるはレガリア持ってんだし!お前なんか一気に蹴散らしちゃうぜー!なんならこの辺も焼け野原にしちゃうし!」
「蹴散らせないし、焼け野原になんか出来ないから!」
「そうだそうだー。あまねはレガリア持ってんだぞー。それもいてざのレガリアだー!」
「蘭さんまで!?」
「蘭!貴女も何を仰って…」
「射手座のレガリアだと…?あの…葉川の持っていたレガリアを。天音…キサマが継承したというのか…」
九頭竜…?
「そだよ。あまねるは射手座のレガリアの継承者!
あのBREEZEのタカさんの正当後継者だし!あたしらに手を出したらタカさんも黙ってないし!」
「ま、真凜ちゃん!そんな…わ、私がタカさんの正妻だなんて…そ、その、恥ずかしいよっ!」
「待って、落ち着いて天音さん!天音さんのその聞き間違えの方がよっぽど恥ずかしいよ!?」
「天音が…葉川から射手座のレガリアを受け継いだだけでなく…、梓や瀬羽…氷川の娘を差し置いて、葉川の正妻になっただと…!?」
「いえ、天音は確かにタカさんのレガリアを継承はしましたが、正妻ってのはただの天音の妄想ですわ。天音の正妻はわたくしですし」
「なるほど…海原総帥がAmaterasuに手を出すなと仰るものだから…何かあるとは思っていたが、そういう事か…」
え?今、九頭竜…さんは何て言った?
"海原総帥がAmaterasuに手を出すなと仰る"って言った?それこそ何で…?
あ、そうか…確かクリムゾンエンターテイメントはファントムのバンドには手を出さない約束してるとか言ってたっけ?私はレガリアを継承させて貰っただけで、まだファントムのバンドって訳じゃないけど、クリムゾンエンターテイメントからしたら、射手座のレガリアを持つ私のいるAmaterasuはファントムの関係者みたいなものだから…。
「なるほどな。納得がいかないのもあるが、合点はいった。確かに私達はキサマらに手を出す訳にはいかないな」
納得がいかない?
「……」
そう言った九頭竜…さんは、なにか考え込むように下を向いたり、上を向いたりしていた。
「う~ん、なんとかなると思ったけど失敗かなぁ?」
「え?真凜さんはこうなると予想してレガリアのことを言ったの?」
「まぁ、いまのあたしらじゃ勝てるって見込みないしー?まりんのことだから、なんとかデュエルから逃げようとして、さくをろうしたんだろうなぁってあたしは気付いたけどー。お?こんなの気付くあたしももしかして天才ー?」
「なるほど。蘭も乗っかったのに対して、些か不思議に思っていましたが…。でも意外でしたわね。蘭はデュエルをしたがると思ってましたのに」
「いやー。デュエルしたいきもちだったけどー。クリムゾンエンターテイメントにデュエルで負けたらいろあたろめんどーだなー。ってのはあるしー?」
真凜ちゃんがレガリアの事を、九頭竜…さんに言ったのはそういう意図があったからなんだね。
確かにクリムゾンエンターテイメントである九頭竜…さんとデュエルなんかしたら、勝っても負けても色々と面倒くさくなりそうだもんね。
「いいだろう。私はこのまま退散させてもらおう」
え?退散してくれるの?
それはそれでありがたいけど…やっぱりお父さんの事をバカにした事だけは…謝ってほしいっていうか、訂正してほしいっていうか…。
「マジ?やりっ!あたし超ファインプレーじゃね!?」
「す、すごい…本当に追い返せちゃうんだ…」
「そう喜んでもいられませんわよ。クリムゾンエンターテイメントの幹部に…天音がレガリアを持つ事が知られた訳ですからね」
「もんだいなーし。どーせ海原にもバレちゃってたぽいしー」
そう言って九頭竜…さんは帰ろうと私達に背を向けた。
だけど、さっき言っていたように、納得はいっていないんだろう。
私達の方へと向き直りこう言った。
「今日は見逃してやろう。海原総帥の命は私にとっては絶対だからな。
だが、二胴や小暮もしているように、私にもファントムに手を出す策はいくらでもある。
覚えておくがいい。天音、私の元に戻らないのであれば、キサマらは私が潰す。Artemisも…Divalもな」
私達もDivalも…Artemisも?
それだけを言って九頭竜…さんは私達の前から姿を消した。本当に言葉の通り、どこに行ったのか、いつの間に帰ったのか気付かないくらいに、フッと姿を消したのだった。
それから私達は焼肉に向かって、お腹いっぱい食べたんだけど、私はみんなと別れてから帰宅するまでの間、九頭竜…さんの事、これからの事、ライブ大会の事、色んな想いで胸もいっぱいになっていた。
何で…今になって私をクリムゾンエンターテイメントに…。
ついでに言うと、みんなと別れた後、私が無事に帰宅するかどうかを、ちょっと離れた所からスズちゃんが私が自宅のあるマンションのエレベーターに乗るところまで、尾行していた事も気付いてたし、ありがとうって気持ちもいっぱいになってたけど、今から1人で帰るスズちゃんを心配する気持ちもいっぱいになっていた。