準優勝…2位…か…。
あたしの名前は寺川 結月。
ライブ大会の閉会式も終わり、あたしはBreak Bellのメンバーと一緒に、あたしの家へと向かっていた。
学校を出るまでは、初めてのライブ大会で準優勝出来たとか、沢山のバンドとデュエルが出来て楽しかったとか、ファントムの皆さん。特にBREEZEの方々やArtemisの方々とお近づきにもなれて、お話もさせていただいた事。そんな事を喜んでいたんだけど。
「やっぱり優勝したかったわよね」
あゆみのそんな言葉があたし達の会話を止め、足取りも重くなっていた。
会場に来てくれていた父さんと兄さんから、『今日はご馳走を用意しているから、みんなでご飯食べにおいで。ささやかだけどお祝いしよう』と、言われていたけど、正直、あたし自身もやっぱり優勝したかったって気持ちもあって…心の底から浮かれていられなかった。
「…さっき買った履歴書。結月の家でのお祝いが終わったら、みんなで一緒に書きましょう」
「え?琴子?」
そんな重い足取りの中、静寂を破って言葉を発したのは琴子だった。
「こういった事は早い方がいいでしょう?
タカさんや英治さん達にご迷惑を掛ける訳にもいかないわけだし。私達がファントムに所属させていただきたいと考えるのなら、履歴書は早目に書いてお渡ししておくべきだわ」
琴子の言う履歴書。
それはタカさんと英治さんに、ファントムに所属する為にと声を掛けていただいた時に必要と言われた物。
ファントムに所属と言えば、それはお仕事という形になる。ファントムもSCARLETの傘下みたいなポジションとはいえ、音楽事務所な訳だし、ただファントムでライブをさせて貰うという簡単な話ではない。
「そうだね。せっかく履歴書も買ったんだし、みんなで書こっか。結月もあゆみも琴子も書いた事ないっしょ?私が書き方のレクチャーしてあげる!」
「ちょ!夏希もここぞとばかりにマウント取ってこないでよね!確かに履歴書は書いた事ないけど、婚姻届なら拓斗さんとの結婚の練習用に何度も書いた事あるんだからっ!」
「いや、それはそれで怖いでしょ。あゆみはプライベートの時間使って何書いてんの?あたしは今、幼馴染みが物凄く怖い」
「そうね。結月も私も基本は家の手伝いばかりで、アルバイトとは無縁だったし、履歴書という物は書いた事ないわね」
琴子が気を効かしてくれたのか、いつの間にかあたし達のまわりにあった重苦しい雰囲気はなくなっていた。
琴子は頑固で言葉足らずな所もあるし、自分の興味がない事には深入りしないってスタンスではあるけど、いつもこうやって、話題を切り替えてくれる。
いつもそんな琴子には助けられていた。
「あ、ちょっと。結月もあゆみもそんな広がって歩いてると邪魔だよ」
あたしの家へと向かう坂道。この先にはあたしの家であるお寺と、檀家さん達の墓地園、そしてちょっとした畑くらいしかなく、普段この時間には人通りも少ないから、あたし達は横に広がって歩いていたけど、今日は珍しく、その坂道の上から歩いてくる人とすれ違おうとしていた。
こんな場所にスーツ姿?
人とすれ違うだけでも珍しいのに、その人はスーツを着ているようで、余計に珍しくあたしの目に写っていた。
スーツ姿だから畑仕事の帰りでもないだろうし、うちの墓地園にお参りに来た人だろうか?
その人があたし達の横を通り過ぎようとした時、あたしとあゆみはその人の歩みに邪魔にならないように、道の端へと避けようとしたんだけど、その人とすれ違う瞬間、背筋にゾクッとするような冷たい感じと、今ここでこの人を倒さないと、あたし達がヤられるという恐怖心があたしを襲った。
「う…うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「「「結月!?」」」
-ガバッ
「アアアアアアアアァァァァ!!!」
あたしはその人とすれ違おうとした瞬間、右手のこぶしを握り絞めて、こともあろうかその人に殴りかかろうとしてしまった。
あたしが冷静さを取り戻した時に、あたしは夏希とあゆみに覆い被さられるように押さえ付けられていた。
「ちょっと!あんた何やってんの!?いきなり一般人に殴りかかろうとするとか正気!?」
「あっぷなかったぁ~。あゆみもナイスだよ。さすがに私だけじゃ結月を止められなかっただろうし」
「あの…きゅ、急に大変申し訳ございません。いきなりの事で驚かれたと思いますが、普段はこんな事を…しても不思議ではない野性味を持ってはいるのですが、あの…本当に申し訳ございません。言葉もありません」
いや、あたし自身もいきなりなんで殴りかかろうとしたのか不思議ではあるんだけど、何で琴子が謝ってるの?それより琴子はあたしのことを、普段からこんな事をしでかしても不思議はないような野性味を持ってると思ってるの?
「クックック」
笑ってる?
あたし達のやり取りがそんな可笑しかったのかな?
あたしが殴りかかろうとしてしまったすれ違ったスーツの人。
その人があたし達の方へと向き直り、笑っていたかと思うとあたし達にこう言った。
「Break Bell。まるっきりの偽者だな。用は済んだぜ。あばよ」
それだけを言って、また再び向き直り、あたし達の前から去ろうとした。
待って。今あの人達あたし達のBreak Bellって。
いや、それよりもあたし達の事を……偽者?
「ちょっと…あたし達の事今…」
「ま、待ちなさい結月。あの人には関わるべきじゃない。それよりあんた…すごい汗よ」
あゆみ?
あたしは気付いていなかったけど、あゆみに言われて自分の額を触ってみた。確かに変に汗をかいている。
「何…あいつの…これプレッシャーってやつ?何なのこの感じ…」
あたしを押さえ付ける夏希も、何かに怯えるように奮えていた。
確かにあたしもあの人とすれ違った瞬間、訳もわからなく殴りかかろうとしちゃったけど…。
「あなたは…何者なのですか?私達がBreak Bellだと知っている…。いえ、それより私達の事を偽者といった意図をお聞きしたいのですけれど」
いつも毅然とした態度で物事を話す琴子の声も奮えていた。いや、声だけじゃない。
琴子はスカートを握り絞めて、必死に恐怖心に打ち勝とうとしているのだ。
「言っただろ?もうお前らに用はねぇ。
ボーカルの寺川だったか?お前は1番に俺に恐怖を感じる程度には勘は鋭いようだが、お前からは根本的な闇を感じねぇ。まだ俺に近いのはベーシストの橘か。だが、お前も所詮はAmaterasuの足元にもAiles Flammeの足元にも及ばねぇな。俺にとっちゃ道端の石ころ程にも並べていねぇ」
あたし達がAmaterasuの足元にもAiles Flammeの足元にも…?いや、それはいい。あたし達だってまだまだだって思ってる。だけど…道端の石ころと比べるなんて…。
「夏希…あゆみ…。離して。あいつ…顔面を思いっきり殴ってやらないと気が済まない…!」
あたしは怒りに任せて、こっちを見る事もしないこの男を殴ってやろうと思ったけど、夏希とあゆみのあたしを押さえ付ける力はさらに強くなり、あたしは殴りに行きたくても動けないでいた。
…でもおかしいな。いつものあたしなら、夏希とあゆみに押さえ付けられているとしても、本気を出したら振りほどけるはずなのに。
「さすがにその物言いは私達に失礼ではありませんか?…貴方はもしかして四天王?」
四天王?四天王って何だっけ?
「ククク、四天王か。そう呼ばれるのも久しぶりだな。それも、当時を知らねぇようなガキ共にそう呼ばれるとはよ」
久しぶり?当時を知らない?
四天王…って!?まさかあの四天王!?
「四天王って…あの四天王なの?琴子もよくそんな相手に堂々と…」
「やっばいじゃん…。手塚って人は今はファントムとして…足立ってのはタカさんにやられたんでしょ?って事は九頭竜か二胴ってヤツ?な、何でクリムゾンが私達の所に…」
「九頭竜と二胴か…。ククク、そんな雑魚共と同一に見られるってのは心外だぜ。まぁ、俺達も四天王とか呼ばれる事には当時から心外だったけどな」
九頭竜ってヤツの事も二胴ってヤツの事も雑魚って…。って事はこいつは…何で?タカさんにやられたハズじゃ…。
「そう。貴方があの足立という訳ね。…何故、貴方がこの場に居るのか、何故、私達の前に現れたのか謎ではあるのですが、私達には用はないのでしょう?どうぞお引き取りを」
あゆみと夏希に押さえ付けられて、伏せている状態になっているあたしにはわかっていた。
今は琴子の足まで震えだしている。弱味に漬け込まれない為の精一杯の虚勢なんだ。
「ククク、心配する事はねぇ。すぐにこの場から消えてやる。てめえらとは二度と会う事もねぇだろう」
そう言って足立はその場から去ろうとした。
その瞬間、あゆみと夏希は安心したのか、あたしを押さえ付ける力を緩め、琴子も安心したのか膝から崩れ落ちるように、身を屈めていた。
しかし!あたしにはこれはチャンスと感じられたのだった!
あたしはあゆみと夏希を振りほどいて立ち上がり、
「ちょっと!言いたい事だけ言って勝手に去らないでよね!あたしらが偽者ってどういう事よ!何であたしらの前に現れた訳!?」
「「結月!この…バカッ!」」
夏希とあゆみは綺麗にハモリながら、あたしにバカとか言ったけど、琴子があたしを見る目で改めて悟った。
琴子も怖くて怖くて仕方なかったんだろうな…と。
あたしがちょっとだけ、 みんなより喧嘩っ早い性格してるもんだから。
だからあたしは1度深呼吸して、落ち着きを取り戻す。
相手がただの乱暴者ってんなら、あたしのパワーと迸るオーラで何とかなるかも知れないけど、相手はタカさん達と激しい戦いを繰り広げていたクリムゾンエンターテイメントの四天王。
もし、音楽での勝負とかなったりしたら、あたしらじゃ敵わないだろうしね。
「…あたしらは確かにまだまだだと思ってるし、天音の居るAmaterasuはもちろん、Ailes FlammeさんやCanoro Feliceさん、evokeさんや…ううん、他の名前の知らないバンド達と比べても、あたしは全然ダメって思ってる」
「ほう…それで?」
今まであたし達に見向きもしなかった足立が、あたしの方へと振り返り、あたしの次の言葉を待っているようだった。
……え?何で?あたしそんな凄い事言った?
あ、まぁ今はそれはいいか。
こうやって文句を言う絶好のチャンスなんだし。
「…だから、あんたにどうこう言われたって…ってのは違うか。ちょっとイラッとしたし、ムカつくなこのおっさんとか思ったけださ!」
「結月!?おっさんって…た、確かに私らからしたら、その…おっさんだと思うけど…」
「いや、あたし達の年齢からしたら、拓斗さんもおっさん枠ではあるでしょ?でも、あたし的にはイケオジならありよりありだし」
「あゆみはこんな状況でも平常運転なのね。私的には助かったわ。少しだけ…だけれども」
-ツカツカツカ…
足立は何も言うことも、あたしの言葉や夏希達の言葉を気に止める様子もなく、あたしの眼前へと歩いてきた。
まだ、周りは夕暮れで、それなりに喧騒や生活音も聞こえてもいいような時間なのに、足立の歩く革靴からの音だけが周りに響いていた。
「それで?お前は何が言いたい?」
「だ、だから…」
あたしの眼前にやってきた足立。
あたしも足立の目を真っ直ぐに見れなくて、恐怖というかなんというか…。今のこの時間が早く終わって欲しいとまで思ってしまう程だった。
「…ゴクッ」
生唾を飲むとかよく聞くけど、まさか自分がそんな事をしてしまうとか。
今のゴクッって音がみんなに聞こえてなければいいんだけど…。
「あ、あの…だから…ゴクッ」
喉が渇く。
声にならないような声。
さっきまで足立は背を向けていて、あたし達から少し離れていたから、だから、あたしは虚勢を張れていたのかも知れない。
このまま逃げ出してしまえれば、どれだけ楽になるんだろう?きっと足立は追ってくる事はないだろうし、夏希とあゆみと琴子も連れて走れば、きっと逃げ切れる。
でも逃げ出してしまうって事は、足立の言葉を認めるような事になってしまって、そうなったあたし達はきっと…。
『結月ちゃん』
…天音?
あたしはふと天音の事を思い出した。
…あたし、逃げるなとか、その意気だよとか、天音に偉そうな事を今までいっぱい言って来たけど…。
あたしの方が全然弱いじゃん。
天音は同級生に弄られてても頑張って歌おうとしたし、せっかく結成したバンドの解散危機も、乗り越えてAmaterasuを今もやってるし、ライブ大会で怖くなって逃げ出そうとはしたけど、それも乗り越えて成功させた。いつも逃げ出そうとしたり、怖がったり、天音は情けない面も見せたりはしてるけど、いつもそれを乗り越えて結果を出して成功させた!
今のあたしは足立の恐怖に呑まれて、何か言いたくても言えなくなって…こんなんじゃあたしは…
「天音はあたしの愛人だとか言えない!」
「「は?天音?愛人?」」
「結月も平常運転に戻ったようね。安心したわ」
「あたしが!今あなたを容赦ない暴力で倒せッ言われたらっ!あたしは勝てる自信がありますっ!」
「「結月はなにを言ってるの!?」」
「確かに結月なら…とは思ってしまうわね」
「ほう、そいつは怖いこったな」
「でも、あたしらはミュージシャンだし。音楽で今あんたとやりあっても…勝てるとは思ってない」
タカさんが倒したとは言っても、タカさんは勝ったと思ってないみたいとか、秦野先輩やシフォン先輩に聞いたし、天音から聞いた話だと、あの大神さんや氷川さん達のONLY BLOODでも勝てなかったって事だし。
「潔いな。それで何が言いてぇ?俺もてめぇらの戯言を聞いてやれる時間ってのは、あんまりねぇんだがな」
「戯言って…」
「わかんねぇか?俺がてめぇらとやり合った所で、ただの弱い者虐めにしかならねぇってんだよ!てめぇらを叩き潰した所で俺には何のメリットもねぇ!ただ踏み潰したてめぇらの血で俺の靴底が汚れちまうだけだぜ!」
「!?…靴底が汚れるだけって…弱い者虐めって、それって私達の事を舐めすぎじゃ…!」
「じょ、上等じゃない!せめてその背広くらいは汚してやるわよ!結月!やるんでしょ!?やるわよ!」
足立の言葉の選定は、あたし達の怒りを買うように言っている訳じゃない。本気でそう思ってて、本気であたし達なんて眼中にないんだという事を、あたしは足立の目を見て感じていた。
「夏希もあゆみも落ち着きなさい。結月の啖呵に圧されて恐怖心より怒りが勝ってるようだけれど。足立の言っている事は…残念ながらその通りと言わざるを得ないわ」
「琴子…でもっ!」
「あんたはいちいちビビり過ぎなのよ!ここまでコケされて…」
あたしはあゆみが言葉を言い終える前に、夏希とあゆみの前に静止するように手を出して止め、そのまま足立に向かって言い放った。
「でも、偽物だとか本物だとか。あんたに言われる筋合いはない。偽物かどうか決めるのは、あんたじゃなくて、あたし達自身だ。あたし達がやりきった後に。
あたし達が本物かどうかってのは、あたし達自身でやりきるその時まで探し続けるものだから」
「…大神って事はねぇな。葉川から聞いたのか?」
「え?タカさん…から?」
「…クックック、面白え。あの時の葉川も同じ反応をしてたぜ」
「は?あんた何を言って…」
「いいだろう。さっきの俺の言葉。
てめぇらの事を偽物って言った事は訂正してやる。どうやら、偽物だって事はてめぇら自身にわからせてやらねぇといけねぇみたいだからな」
「訂正…?なんで?さっきの結月の言葉で?」
「どういう事よ…。正直、あたしは結月の言った本物は探し続ける事ってのも、よくわかってないんだけど」
「タカさんと大神さん…が、結月が言ったような事を言ったという事かしら?」
そうなの?
大神さんとタカさんが?今のあたしの気持ちと同じ感じだったんだ?…足立の事にはムカついてるけど、何か嬉しいな。
「本物は探し続ける物。その言葉を直接聞いたのは3度目だぜ。正確に言えば、矢沢も言っていたらしいから、てめぇは4人目って事になるだろうけどな」
タカさんや大神さんだけじゃなくて、あの伝説の矢沢さんも?いや、あたしからしたら、先日タカさんに会うまでは、タカさんも含めて3人共伝説の方って感じだったんだけど。
って待って!
矢沢さんと大神さんとタカさんって!みんな射手座のレガリアの継承者じゃん!
「さっきの言葉な訂正してやるよ。あばよ」
そう言った足立はまたあたし達に背を向けた。
「訂正?だ、だから!何を訂正するってのよ!」
「…お前らは偽物だ。まるっきりのな。
だが、これだけは訂正してやる。お前らを潰しても俺には何の得はねぇって所だ。
お前らを潰せば、葉川や中原…木原を焚き付けるのには、役に立ちそうだと思ってな」
「っ…!?あんたは…!」
待て…。今のあたし達があいつに勝てる訳がない。
ここでデュエルを申し込んで、足立にあたし達がやられて、それをきっかけにタカさん達や梓さん達に迷惑を掛ける事になったりしたら…。
あたしは頭に血が上って上手く言葉も選べないけど、ほんの少しだけでも、琴子のように冷静になって話さなきゃいけない。あたしがBreak Bellのリーダーなんだから。
「今は見逃したげるよ。でもいつかあんたはあたしが倒すから…。それまでの間だけ、その偉そうな態度のまま、高みの見物でも決めてな」
「…名前は覚えててやる。Break Bell。
そしてそのBreak Bellのボーカリスト寺川 結月。
二度と会う事はねぇかも知れねぇがな。ククク」
そう言って歩いて去って行った足立は、それから1度も振り返る事もなく、まるで今までの事が夢想か幻かのように消えて行った。
あたしにはさっきまでの事が、本当に現実の事だったのか、あたしは"あの足立"と会っていたのか、それもわからなくなっていたけど、夏希達のおかげでアレは現実の事だったのだとわからせてもらえた。
「正直生きた心地しなかったわ~。
見てこの手汗!めちゃくちゃびっしょりなんだけど!」
「ちょ…!汚いわね!その手を近付けんじゃないわよ!
…くそ、さっき足立のヤツをあたしらが倒してたら、拓斗さんに褒めて貰えただろうに!」
「…正直、結月の血の気の多さには助けられたわね。
あの足立が私達の前に、それもライブ大会の帰りに現れた。これは偶然とは考え辛いわね。
結月」
「うん?何?」
「結月だけじゃなくあゆみもだけど、さっき足立に会った事。
私達がファントムに所属出来なかった場合は、他言してはダメよ?」
え?何で?これってタカさんや梓さんとも共有していた方がいい事案じゃない?
あっ、ファントムに所属出来なかった場合は…か。それってもしかして…。
「何でよ琴子!これってきっと、ファントムのみんなには大事件な事でしょ!拓斗さん達にも話して…」
「あはは、そっか。ファントムの皆さんには大事件。
だから、私達がファントムと無関係になるのなら…話した所で、皆さんの負担になるだけだもんね…」
あたしも夏希が言う前に気付いていた。
足立はあたし達に会う事は2度とないだろうと言っていた。それってつまりは、私達には足立からちょっかいを掛けて来る気はないって事だ。
足立にとってはあたし達なんて、そんな程度の存在。
でも、ファントムの人達に足立の事を話してしまえば、タカさん達はあたし達を守ろうと、足立と闘おうとか色んな事を考えてしまうだろう。
あたし達がファントムの人達の負担になってしまう。
「琴子の言いたい事。
夏希も気付いたみたいだけど、あたしもわかってるよ。
でも、琴子の意見にはちょっとだけ反対かな」
「反対?何故かしら?」
「そりゃあたし達がファントムに所属出来なかったとしても、足立と会った事を話せばきっと拓斗さん達は…!」
「ちょっとあゆみは黙ってよっか~」
足立にあたし達が会った事を話してしまうのは…
「きっとタカさん達はあたしらを守ろうとしちゃうでしょ。あたしらがファントムだろうがなかろうが。
だからってファントムじゃないなら負担は掛けたくない、ファントムの仲間だから助けてもらいたい。
それも違くない?」
「そう…ね。確かに結月の言う通りだわ」
「え?え?ちょっと!どういう事よ!」
「だから、結月が言いたいのはさ、ファントムの皆さんに負担を掛けるとか、守ってもらうとか、そういうのじゃなくてさ」
「うん、あたし達で倒すよ、足立を。
だからみんなに話す必要はない。あたし達だけの問題だから」
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足立はBreak Bellと別れた後、1人歩きながら昔の事を思い出していた。
『今は見逃したげるよ。でもいつかあんたはあたしが倒すから…。それまでの間だけ、その偉そうな態度のまま、高みの見物でも決めてな』
「……あの女。寺川 結月か。
ククク、ここまでまぁ、あの時の葉川と同じ台詞を吐くとはな」
『はぁ?偽物だとか本物だとか何言ってんだお前。
そんなのお前に言われる筋合いはないんですけど?偽物かどうか決めるのは、俺達自身だ。
大神さんが俺らに残してくれたのはよ。
レガリアなんかじゃなくて、自分自身が本物になる為に探し続けるって想いだからな』
『だから今はお前の事は見逃してやるよ。でも、いつかお前は俺が倒すんだろうぜ。多分な。
お前はその偉そうな態度のまま、そん時までクリムゾンエンターテイメントに飼われてたらいいんじゃね?』
「くそがっ!」
これまで冷静でいた足立が嘘のように荒れていた。
自分の前にある物を蹴り上げ、横にある壁や塀を殴り、自分自身の怒りを物にぶつけながら収めようと、破壊衝動のまま目に付く物に当たり散らしていた。
「何で…どう見てもまるっきり偽者な寺川 結月が葉川と同じ台詞を吐ける…。何で偽者のくせに心が折れなかった」
「「「ハハハハ」」」「「キャッキャッ」」
そして不運だったのが、そんな足立の目に止まった1組のバンドマン。楽しそうに和気あいあいと話している若者達。
練習の帰りなのかライブの帰りなのか…。
それは今となってはわからないが、その数分後には足立に倒され、2度と音楽に関わりたくないと思う程、心も身体もボロボロに打ち砕かれていた。
「ククク、俺とした事が…まだまだガキな部分もあったもんだぜ。
そうだな。コレも面白い余興と思えばいい。俺の障害にはなり得ねぇ。
Break Bell。俺の前に立てる程に成長するのを待ってやるよ。ククク、俺もまた兵隊を持つのも一興か」
そう言って冷静さを取り戻した足立は、ふらふらとその場から姿を消すのだった。