バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第40話 結月ママ

ブロロロロロ…

 

俺は葉川 貴。

今、英治が運転する車の助手席に座ってボーッとしている。

 

また俺のモノローグかよ!って文句も言いたい気持ちもあるにはあるが、今日は合同文化祭が終わった翌日の月曜日である。

本来なら俺は仕事な訳だが、うちの会社はこの合同文化祭の間、社員旅行というキャッキャウフフのイベントを楽しんでいる。その間、社員旅行に行かない合同文化祭に参加させられた社員は水曜日までお休みがいただけているのだ。

 

そこで今日はまだ明日も明後日お休みを貰えているこの中休みの間に、面倒くさくなりそうな事はサッサと終わらせてしまおうと思い、Break Bellのリーダーである結月ちゃんの家と、Amaterasuのリーダーである天音ちゃんのお家へとお伺いさせて頂き、ご両親へご挨拶をさせていただこうと思っているのだ。

 

何故こんな事になっているのかというと、俺のモノローグが長くなっちゃうわけだが、合同文化祭決勝の日に、俺と英治は天音ちゃんと結月ちゃんに『ファントムに入りたいなら入っていいよ』と、気軽に言っちゃった訳なのだ。

 

それを聞いた天音ちゃんと結月ちゃんは早速メンバーにその話をして、その日中に履歴書なども書き、翌日の日曜日に、文化祭をサボって(?)俺達の元へと履歴書を届けに来てくれた。

 

まずはAmaterasuのメンバーだが…。

 

天音ちゃん:す、すみません。あの、履歴書…は書いたんですけど、まだお父さんとお母さんには話せてなくて…。やっぱりお父さんもお母さんも元とは言えクリムゾンエンターテイメントの人だったから…そのタイミングが難しくて…。

 

真凛:あ~、うちは全然オッケーでした!あたし基本的に親がやれって事は難なくクリアしてきたんで!たまには悔しいとか上手くなりたいとか、挫折しそうになるような経験とかして欲しいとか言ってまして!ま、あたし挫折なんかしませんけど!

 

蘭:うちは全て決定権が妹ばぁばにあるしー。妹ばぁばが許可すれば全ての事が可決されるから問題なーし。妹ばぁばは是非ファントムにーって言ってたよ。近々菓子折り……いや、違うかー。ご当地ラーメンを持ってご挨拶にお伺いしますってー。

 

輝美ちゃん:うちはお父さんもお母さんも私の自主性を組んでくれてまして…。私がやりたいのなら、ファントムの皆さんに迷惑が掛からないように頑張りなさいって言ってくれました。

 

涼風:…うちはきっと金になりますわよ。って言ったら二つ返事で了承してくれましたわ。

 

ってな感じだった。

天音ちゃんの事情もわからなくはないから、何かとBREEZEやArtemisのいるファントムに入りたいとか、ちょっとご両親には言いづらいかもな。レガリアの事とかも喜んでくれてたみたいだし、ご両親にしては大した問題じゃないのかもだけど、色々子供としては複雑だよな。

 

そして怖いのが蘭の妹ばぁばさんだな。

菓子折りってのをラーメンに言い直すって事は、俺達と顔馴染みの可能性大だよな。

けど、俺らに蘭の祖母になるくらいの年齢の知り合い?

正直思いつかねぇ…。あの婆さんなら婆さんって言われてもいい歳かも知れんが…。さすがに蘭の婆さんってのには無理があるしな。本当のお婆さんの妹さんとしても…。

 

-キキッ

 

と、俺がボーッとモノローグを語っていると英治が車を止めた。

 

「あ?まだ目的地着いてねぇだろ?どした?」

 

「す、すまんタカ…。またトイレ…!」

 

そう言って英治は車を停めて、近くのトイレがありそうなショッピングモールへと駆け込んで行った。

 

あいつ昨日の夜に行われた7周年記念に出てきた最終問題のカレーを食べさせてられてから、腹痛が治まらないって言ってたけど…。

本当にあのカレーって残った分はスタッフさんが美味しく頂いてしまったんだな。

 

あの試練に盛夏がギブアップしたせいで、日奈子のおもしろ企画に参加する事になってしまったが、さすがにあのカレーの完食は無理だもんな。ギブアップしても良かったのにちゃんと一口食べた盛夏には、俺も奈緒もまどかも称賛したもん。

 

…と、話が脱線してしまったな。

次にBreak Bellのメンバーだ。

 

結月ちゃん:あの…すみません。あたしまだ母さんにだけは言えてなくて…。父さんも兄も妹も、あたしの事を応援してくれてるし、ファントムに入らせていただく事も喜んでくれてはいるんですけど、3人とも『ただし母さんが了承してくれたらね。まだ死にたくないし』とか言ってて…。

 

夏希ちゃん:私のうちは両親とも大丈夫でしたよ。ただもちろん成績が下がらない事とか、今、やっている事も最後までやりきって両立ってのをしっかりやるって約束はさせられましたけどね。

 

あゆみちゃん:あたしの両親は最初は学生でデビューは…とか、まずは勉強して大学に…とか、しぶってましたけど、あたしが今から拓斗さんの出てるライブDVDを見ながら了承貰えるまでプレゼンするって言ったら秒で了承を得られましたよ!さっすが拓斗さん♪

 

琴子ちゃん:私の父も母も私のやる事に関しては、私の自主性を重んじてくれていますので。バンドをやる事にもすぐに許していただきましたので。問題は祖母…といいますか。祖母は今、婦人会の旅行で不在でしたので問題はありませんでした。保護者の承諾という事ですから、両親の承諾で問題ありませんよね?

 

との事だった。

 

結月ちゃんのお母さんって…。あんま思い出すのもアレだけど真奈美だろ?そんな厳しいタイプじゃなくて、ゆるふわっとしてる感じだったはずなんだが…。

夏希ちゃんはいいとしても、あゆみちゃんの拓斗のプレゼンって何?秒で承諾ってご両親は拓斗のDVD観てから承諾したの?そこ割と気になるんだけど…。

 

そんな色々な事があった訳だが、ファントムに入らせてやると言った手前、結月ちゃんの母親である真奈美にちゃんと挨拶をして、天音ちゃんのご両親にもちゃんと会って話してみた方がいいと思った訳だ。

 

発案者は三咲なのだが、俺もそうした方がいいと思ったので、俺が発案したと言っても過言ではないのだ。

 

「悪い…待たせた…」

 

「いや、全然。それよりお前大丈夫か?トイレから帰ってきたのに、さっきより顔青いし…」

 

「ああ、大丈夫だ。それに俺も真奈美にも天音ちゃんのお父さんにも会ってみたいと思ってんしな」

 

そう言って車に戻ってきた英治は、運転席に戻り車を発車させた。

しんどいなら俺が運転してやるって言ったんだが、まだ死にたくないからと俺の運転は拒まれた。

俺、運転上手くて教習も試験も全部1発で合格したんだけどな。免許交付されてからは1度も運転してないからゴールドだし。

 

 

 

 

「やっと着いたな…あ、またちょっとお腹痛い…」

 

「ここって…あの墓地園の駐車場だよな?」

 

「あの墓地園…?ああ、梓のダミーの墓を作ってた所な」

 

「何でそんな事がまかり通ってんのか何年も不思議に思ってたんだが…そか、真奈美んとこが管理してる墓地だったのか」

 

「ああ、三咲は真奈美の結婚後もチョロチョロっと繋がりあったみたいでな。クリムゾンの目をごまかす為にどうすっかって考えてた時に、真奈美に頼んでくれたみたいだわ」

 

「ふぅん…そっか。たまにあのダミーの墓には立ち寄ってたけど、真奈美ん所の寺が管理してたのか」

 

真奈美がお寺の御曹司さんとご結婚されたってのは聞いていたが、まさかこんな馴染みのあるお寺さんだったとはな。まぁ、今となっては別に何とも思ってませんけど。ん?って事はたまに会ってたあの住職さんが真奈美の旦那さん?

高校の時に会ったってか何度か見かけたけど、全然イメージ違ってるからわかんなかったな。

 

「ん?どしたタカ?あ、初恋の人の事思い出して感慨耽っちゃったか?(笑)」

 

「俺がそんなタイプじゃねぇのわかってんだろ」

 

「え?いや、めちゃくちゃ過去を引き摺ってて女々しい野郎だって思ってるけど?」

 

「…本堂はこっちか。まだ天音ちゃんのとこも行かなきゃなんだしサッサと挨拶終わらせるぞ」

 

「あ、お、おい。待てよタカ…その前にちょっとトイレ…に…」

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

「笑止!その程度の力で本格的なバンド活動を許してもらおうなど甘過ぎるわ!」

 

「クッ…あ、あたしは…本気でバンドを…やっていきたいって…!」

 

「本気でバンドを?だから私を倒す事が出来れば許可すると言っているのです。この私に片膝を付かせる事もなく、息もあがっているようでは、結月の本気というのもたかが知れているわね」

 

「まだ…!あたしは負けてないっ!」

 

-バシッ!

 

「技術もないそんな力だけの闘いでは、私に汗をかかせる事も叶わないわよ」

 

「ぐっ…クソ…まだ…まだ」

 

あたしの名前は寺川 結月。

あたしは意を決して母さんにファントムに所属したい事を話した。

 

母さんは何も言わず庭に降りて

 

『先日のライブ大会もあの体たらく。結月にはバンドなんて合っていないのよ。射手座のレガリアを受け継ぐなんて夢物語を言って…。現実を見せる為に部活動を許したけど、まだわからないの?それどころかファントムに所属ですって?』

 

『ライブ大会は…優勝は出来なかったけど、あたしは本気なの!だから許して下さい!』

 

『結月、あなたも庭に降りて来なさい。私を倒す事が出来れば結月の本気を認めて、バンドの事もファントムの事も許しましょう』

 

『ほ、本当に?許して…くれるの?』

 

『私に勝てたら…よ。結月の本気を見るなら(これ)が手っ取り早いでしょ。その代わり結月、私に勝てなかった場合はバンドをすぐにでも辞めて…』

 

『バンドを辞めて…母さんのように尼さんになれって事?』

 

『違うわ!!結月にはそんな尊い行為は無理と百も承知!私に勝てなかった時はバンドを辞めて、私がお勧めするアイドル事務所に入ってもらいます!あなたは私に似て可愛いもの!トップアイドルになれるわ!そしてイケメンアイドルとお友達になってうちに連れて来なさい!なんなら結月がそのイケメンと結婚して、イケメンを私の息子に…』

 

『…は?えっと…その理屈だと、あたしが勝ったらタカさんをうちに連れて来て、タカさんと結婚してもいいって事?』

 

『結月、あの男は止めなさいと昔から言っているでしょう?さっきの結月の言葉でもう手心はくわえてもらえないと覚悟しなさい』

 

ってなやり取りがあり、あたしは母さんに挑んだんだけど、本当に今までは手心がくわえてもらえてたんだと実感している。

これまで母さんと喧嘩する事は多々あったけど、1発もあたしの攻撃が当たる事なく、ここまでボロボロにやられるなんて今まで1度もなかったのに。

 

「もう立たない方がいいわよ。結月ではせいぜい私の服に埃を付ける事くらいしか出来ないわ」

 

「まだ…あたしの本気はまだまだこれからっ!」

 

-バシーン

 

 

 

「結月ママめちゃくちゃ本気じゃん…結月また吹っ飛ばされちゃったし…」

 

「結月と結月ママの喧嘩って何度も見てきたけど、こんな圧倒的な展開って初めてじゃない?」

 

「これはしょうがないわね。私と夏希とあゆみとで結月ママに土下座でも何でもして…同情を買って許してもらう作戦でいきましょう」

 

くそっ…こんなにも実力差があったなんて…。

あたしが立ち上がると同時に母さんはピーカブースタイルでファイテングポーズに入る。

今まで母さんと喧嘩してた時って、ピーカブースタイルになるなんてなかったもんね。母さんも本気なんだ…。

 

こうなったら先日Blaze Futureの盛夏さんに教わった明鏡止水。

明鏡止水に達する事で繰り出せるハイパーモード。

その一撃に全てを賭けるしか…。

 

今は邪念っていうか…ファントムに入りたいとか、母さんに勝ちたいとか、足立を倒したいとか、天音に負けたくないとか…。考えず…。水の1滴を感じとる静かな心で…。

 

「ん?あれ?結月の雰囲気が変わった?」

 

「どうしたのかしら?まさか諦めた?いや、でも結月に限ってそれは…」

 

「明鏡止水…。なるほど、結月は全てを次の1撃に賭けるつもりね」

 

…周りの全ての音が聞こえる。

…鳥の囀ずり、風の音、草木が風に揺らされる音、遠くから聞こえる車のエンジン音、おそらく父さんか兄さんか妹が観ているテレビの音。え?テレビ観てんの?あたしと母さんの事を心配して見守るとかしないの?あ、誰か煎餅食べたな?

 

あたしは静寂の中に居た。あたし1人しか居ないと錯覚するような静寂。

 

そして…

 

「すんませ~ん、お邪魔します~」

 

「ん?あの庭の所の居るの真奈美と結月ちゃんじゃねぇか?」

 

タカさんと英治さんの声が聞こえた。

 

……って、え!?タカさんと英治さん!?

 

あたしは静寂の中から一気に抜け出し、声がした方へと目を向けた。

 

「あ、ホントだ。すんませーん、お邪魔したいんですけどー」

 

「おい!タカ!どうだよ久しぶりに真奈美を見た感想!取り敢えず三咲に報告したいから、感想言ってくれよ」

 

本当にタカさんと英治さんが居る!何で!?

あたしはその後、もっと驚く事になった。

 

「あ、はーちゃん、えーちゃん、久し振りだね~(パタパタパタ」

 

…誰だこいつ。

いや、誰だってあたしの母さんなんだけど…。

 

さっきまであたしの前でピーカブースタイルで居たはずなのに、いつの間にかタカさんと英治さんの方へパタパタとかけていく母さんが目に写っている。

 

てか、ここ和を模範したような砂利が敷き詰められている庭なのに、何で母さんはパタパタって足音を鳴らしながら歩いてるの?母さんってやっぱり妖怪か何かの類いなの?

 

「えーちゃんも久し振りだけど、はーちゃんは本当に久し振り…だよね?アハハ…あの…元気してた?」

 

「ああ…あのお久しぶりで…す」

 

「何だよ二人とも緊張してんのか?昔みたいに話したらいいじゃねーか」

 

「もう!緊張してるとかじゃないの!久し振りに会ったんだから!大人の対応ってやつ?こんな感じになっちゃうじゃん(ぷくー」

 

"じゃん"とか母さん言うんだ…?

え?てかぷくーとか言って頬を膨らませたりしてんだけど何あれ。てかあんな喋り方の母さん初めて見たんだけど。

 

「ハハハ、悪い悪い。今日はちょっと真奈美に話があってな。急で悪いんだが、ちょっと会いに来させてもらったんだよ」

 

「ソ、ソウデス…アノ、ソノ…オヒサシブリデス」

 

「もう、はーちゃんは…。それはさっき聞いたよ?話って結月ちゃんが言ってたバンドの事かな?」

 

結月"ちゃん"!?

 

「あ、ここじゃ…あれだよね。まぁ、アッチが玄関になってるからそっちから入って。ごめんね、私ちょっとお庭の掃除してた所だったからさ?」

 

お庭掃除!?

 

「あ、結月ちゃん。はーちゃん達を客間に案内してあげて。私はお茶入れてくるからさ」

 

もう本当にあんた誰だよ!

 

「あんな結月ママ初めて見たんだけど…」

 

「これはこれで結月も弱味を手に入れた感じじゃない?これで結月ママを説得すれば…」

 

「止めときなさい。葉川さん達が帰ったら八つ裂きにされるわよ?」

 

 

 

 

そしてあたしはタカさんと英治さんを客間に案内し、『それじゃあたしは失礼しますね』と言って客間から退室し、隣の部屋から夏希達と盗み聞きしている。

 

「ねぇ、夏希達はあたしと母さんの闘い見てたよね?あたしが明鏡止水で眼を閉じている間に、まだ会った事もない母さんの双子の姉か妹と入れ替わったとかないよね?」

 

「また会った事もない双子の姉か妹って何よ~…。結月ママにはお姉さんも妹さんも居ないでしょ」

 

「あたしもびっくりよ。推しのアイドルの番組観てる時も、無表情でサイリウムをブンブン振ってるだけなのに…」

 

「紛れもなくあの人は結月ママよ。安心しなさい、不安しかないかも知れないけど」

 

 

『それでさ、その結月ちゃんがバンドをやるって話なんだけど…』

 

 

あ、母さんの声が聞こえてきた。

向こうの話に集中しなきゃ。

それよりタカさんいつも猫背なのに、正座して背筋もピンっとしてるし、ああ、やっぱりこういう場では姿勢も正すんだね。大人の人って感じだ。

 

「いや、あれ結月ママの前で緊張して固まってるだけじゃないの?」

 

あゆみうるさい。ナチュラルにあたしのモノローグ読まないでよ。

 

 

 

 

「結月ちゃんが高校生の間。その間は好きな事をさせてあげたいって思うし、部活動としては許したけど、やっぱり学生の枠を離れて、お仕事とかそんな風になっちゃうと、勉強面の事や将来の事を考えると…」

 

いやいやいや!何言ってんの!?

軽音楽部に入りたいって時もめちゃくちゃ反対されたじゃん!好きな事をさせてあげたいって!?あたしがやりたいって言った事を反対してるのいつも母さんだよね!?

 

「だから、はーちゃんとえーちゃんのお願いとは言っても、私は手放しに賛成できない…かな」

 

「ソ…ソッカ」

 

「タカ…お前いつまで固まってんだよ…。

あ~、真奈美。確かに将来の事をってなると、お前の言い分もわかるし、お前の方が正しいんだとは思う。でも、こういうのは本人達のやる気とか本気とかさ…。それにうちの親会社は金だけはあるし、その…色々サポートとかよ」

 

「ごめんね、えーちゃん。私は音楽の事とかよくわからないし、もちろん結月ちゃんのやる気や本気を大事にしてあげたいとは思ってるんだけど…」

 

嘘でしょそれ!

音楽番組めちゃくちゃ観てるじゃん!

配信とかもよく観てるし!アイドル限定だけど!

それにあたしをアイドルにしようとしてたよね!?そっちの方があたし的には将来心配なんだけど!?

ダンスもあんまり出来ないし、アイドル志望の子ってめちゃくちゃ居るよ!?

 

「フン!」

 

-ゴンッ!

 

さっきまで固まっていた貴さんが、いきなりフン!って言いながら自分の額にパンチするもんだからびっくりした。

 

「いてて…まぁ、おかげで緊張解けたわ」

 

「お、タカ。戻ってきたか。やっぱり緊張してたのな」

 

「真奈美、久し振りに会って大丈夫な娘さんの事を…って、かなり失礼な気もするけどさ。俺はあの娘らのライブ観てすげぇと思ったし、カッコいいとも思った」

 

貴さん…。

 

「確かに将来の事もあるからな。お前の言い分もわかってるつもりだ。お前の意見の方が親としては正しいんだとは思う。でも、こういうのは本人達のやる気とか本気とかよ…。それにうちの事務所の社長様は金だけはある。人の心はないが。それに俺も色々サポートとかするしよ。あの娘らがやりたいって思ってる間は許してやってくれないか?」

 

「タカ。それ言った。それ俺がさっき言ったやつ」

 

「はーちゃんの言葉なら…信じたいとは思うけど」

 

「え?何でタカの言葉なら信じたいの?どっちかと言うと俺よりタカの方がいつも適当な事言うじゃん。何で俺の時と反応違うの?言ってる事一緒だよ?」

 

「頼む真奈美。あの娘らの本気も信じてやってくれ」

 

「クッ…いつもいつも…はーちゃんはズルいよね。普段は適当なくせに、大事な事だけは絶対引かないっていうか真面目っていうか…」

 

「いや、真奈美もいつもタカは適当ってわかってるんじゃん」

 

「でも…私はやっぱりあの娘の母親なの。はーちゃんのお願いでも無理。これ以上はーちゃんに説得されちゃうとさ。私も折れちゃいそうだから…ごめんだけど、こういうお話なら帰ってほしい」

 

「何でタカに説得されちゃうと折れちゃいそうなの?俺は?」

 

「昔と逆だな。俺が嫌だとか無理とか言っても、お前はずっと俺にお願いしてきて…。結局俺がいつも折れちまってたよな。…だから今回は俺から真奈美が折れてくれるまで、ずっとここで頼み続けるぜ」

 

「ずっと…って…」

 

「いや、お前ら二人とも俺を無視?てか、お前、真奈美が嫌がるような事頼まれたりしてたの?」

 

「ん?おお、給食が食べきれないからパン食べてくれとか、食べてくれたらおかずも半分あげるとか言われて…。まぁ、俺も喜んで食べてた方が多いんだが」

 

「私少食だったからね~。いつも給食が食べきれなくて、はーちゃんにこっそり食べてもらってたの。ただ他の子からも貰ったりしてたときは、私のは最初断られたりさ」

 

「そ、そうか(タカのやつ餌付けされてたって事?)」

 

「まぁ、昔話は今はいいや。頼むよ、真奈美。責任はちゃんと取る。約束する」

 

 

 

せ、責任は取ってくれる!?

そ、それってつまり…その、音楽で食べていけなくなったらタカさんが一生あたしを食べさせてくれる的な?///

 

「いや~、さすがにそれは違うと思うよ?」

 

「あたしはタカさんより拓斗さんに責任取ってもらいたいわ。むしろ拓斗さんの籍に入りたいわ」

 

「結月の勘違いも大概ね。天音も大概みたいだけれども」

 

 

 

「責任ってどうするつもり?はーちゃんもまたバンドを始めたってのは聞いたけど、はーちゃんも結局メジャーデビュー出来なかったじゃない」

 

「うぐっ…それを言われると痛いが、俺はそもそもバンドやってた時もメジャーデビューしたいとかは…」

 

「それにタカはいつもふざけてたしな。本気って訳じゃなかったし。結月ちゃん達とは違うからな」

 

「それに大体責任取るって何よ…。結月が音楽で成功しなかったら結月と結婚でもしてやるつもり?そうなると私がはーちゃんのお義母さんになるんだよ?わかってんの?ハッ、まさか最近流行りのオギャりプレイ!?(ボソッ」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「真奈美?どうした?」

 

「え?な、何でもないよ?」

 

 

母さん何言ってんの?てか、目の前のタカさん達に聞こえてないのに、何であたしには聞こえてんの?

 

「あ、あはは…大丈夫…私にも聞こえちゃったから」

 

「結月ママってタカさん達の前ではアホになるの?」

 

「やっぱり…血かしらね」

 

何かあたしに失礼な事言われてない?

てか、いつもの事だけどあたし口に出してないよ?

 

「と、とにかく!結月ちゃんがバンドをやるって事は、高校の部活動だったら私も許してあげる!でも、正式に学校から離れてファントムに所属っていうのは、私は許す事は出来ないっ!」

 

母さんから部活動なら許すって言質頂戴しました。

…ってこんな事では喜んでられないよね。

しぶしぶだけど部活動は許してもらってたようなもんだし。

 

「どうしてもダメか?」

 

「はーちゃんの頼みでも、どうしてもダメッ!」

 

ああ…実はちょっとタカさんと英治さんに期待してたんだけど、やっぱり母さんは許してくれないか…。

そうなるとあたしのファントム所属ってのは絶望的じゃない?父さん達は母さんが怖いからって母さんの味方するだろうし。

 

「ならしょうがないな」

 

え?タカさん諦めちゃうの?

……そう思ってたんだけど、タカさんは懐から少し分厚い封筒を母さんの前に置いた。

 

「何これ…?ま、まさかお金で結月ちゃんを?」

 

「いや、違う違う!多分。あ、多分ってのは俺が中身を見てないからわかんないからなだけであって!

三咲から真奈美に結月ちゃん達の事を許して貰えなかったらこの手紙を渡すように言われててよ」

 

「あん?三咲から?何で三咲は旦那の俺じゃなく、お前に託したんだ?昔からいつもそうだよな、あいつ」

 

「三咲から手紙…?まぁ、えーちゃんは昔が昔だし、三咲から信用されてないだけじゃない?」

 

「え!?俺旦那なのに信用されてないの!?」

 

三咲さんからの手紙…。

天音を見出だしてレガリアを託してくれた三咲さんなら、あたしも信用出来る人だと思うけど、今の母さんを説得出来るような事が書かれてるのかな?

 

母さんはタカさん達の前に居るのも気にせず、早く手紙を読みたいのか、指をシュッてやって手紙の封を切り、そして中身を読み始めた。

 

 

 

『ハロ~、真奈美♪真奈美がこれを読んでるって事は、目の前に居るダメ男達が真奈美の説得に失敗したって事だよね?やっぱりタカくんと英治くんはダメだなぁ』

 

 

 

「フッ、三咲はよくわかってるわね」

 

「あん?そんな内容の手紙なの?」

 

「三咲は何を書いたんだ?」

 

 

 

『まぁあのダメ男達が言った事はいったん忘れてもらって、私からお願い。結月ちゃん達がファントムに所属する事。許してくれないかな?』

 

 

 

「三咲まで…」

 

「三咲からの頼みでもダメかな?」

 

「俺とタカの直接での頼みでダメなんだし、三咲でもさすがに無理じゃねぇか?」

 

 

 

『って私が頼んでも絶対真奈美は許してくれないだろうなぁ。って思ってるんだけどね。ちょっとこの手紙と同封してある写真を見てみて』

 

 

 

「写真…?」

 

そう言った母さんは手紙の入った封筒から、何枚かの写真を取り出した。

 

「はふぅぅぅぅぅ……ん」

 

「真奈美!?どうした!?」

 

「何事!?三咲はなんの写真を!?」

 

母さんは写真を数枚見た後、頭を押さえながら倒れてしまった。

その後ヨロヨロと起き上がった母さんは、再び三咲さんからの手紙に目をやった。

 

 

『フッフッフ~。なかなかイケメンくんが揃ってるでしょ?実はその子達ってファントムでバンドやってる男の子達なんだよね~。しかも!その写真の子達はバンドは別々だけど、ファントムの企画グループって事で、アイドル活動をやるんだよ!』

 

 

 

「な、なんですって!?」

 

-ピシャーン!

 

「え?何でいきなり雷が落ちたの?今日ってめちゃくちゃ晴れてたよな?」

 

「俺もびっくりしたぜ。ゲリラ雷雨ってやつか?いや、雨はやっぱ降ってねぇよな?」

 

 

 

『みんなバンド活動ばっかりしてた子達だからね。ダンスの方はまだまだ練習中みたいだけど、センターの一瀬くんは歌も上手いし、リーダーの達也くんはメンバーの中じゃ歳上の知的男子だし、豊永くんはマッチョ系イケメンだし、河野くんは妹ちゃんの為ってのあるけど一生懸命な努力系男子だし、亮くん至っては真奈美の大好きな長身優男だしね』

 

 

…母さんがヨロヨロとしている。

あんな弱ってる母さん初めて見るんだけど、今ならワンチャン勝てる気がする。

 

 

 

『でね。このイケメンアイドルグループは番組企画ってヤツで、地域の活性化の為に色んなお店のお手伝いしたりとか、そういう番組を作るらしいんだよ』

 

 

 

「ゴクリ」

 

母さんの生唾を飲む音がここまで聞こえてきた。

 

「え?今、真奈美生唾飲んだ?」

 

「三咲の手紙ってそんなすげぇ事書いてんの?」

 

 

 

『結月ちゃん達がファントムに所属になれた場合。その時は真奈美のお寺に"アイドルグループお寺で大修行!"とかな企画を、定期的にやるように私から約束させてもらうよ。そのグループのプロデューサーは妹みたいな子と私の部下みたいな男だし。そしたら修行中に真奈美とそのアイドルの子達が仲良くなって…ウフフ』

 

 

 

-プシャア!

 

「ぎゃあああああああ!」

 

「真奈美がいきなり鼻血を吹き出した!?」

 

え!?本当になにごと!?母さん大丈夫なの!?

 

「わわわ、結月ママの鼻血がもろタカさんに…」

 

「結月ママってタカさんの初恋の人なんでしょ?タカさんにとってはご褒美じゃない?私も拓斗さんの鼻血なら全身で受け止めてみせるわ」

 

「そんな猟奇的な思考をしているのはあゆみだけよ」

 

「ゆ、結月…ちゃん…そこに居るわよね?こ、こっちいらっしゃい…」

 

え?呼ばれた?

ここで盗み聞きしてるのさすがにバレてたんだ?

てか、本当に母さん大丈夫?

 

あたしは母さん達のいる部屋に入り、取り敢えずタカさんにタオルを渡した。

 

「あの…母さんの血、これで拭いて下さい」

 

「あ、助かる。結月ちゃんありがとうな。この後天音ちゃんとこも行かなきゃなのに、血塗れでお伺いしたらさすがに引かれちゃうもんな」

 

「ああ、今思い出したけど、車のトランクにタカの着替え入ってるぞ?三咲が持って行けって言うから取り敢えず持って来たんだが…」

 

三咲さんにはこうなる事がわかってたの?

 

「ゆ、結月…ちゃん…」

 

あ、それより母さんだよ。

 

「母さん大丈夫?」

 

「だ、大丈夫…よ。

コホン…はーちゃん…いや、葉川さん、中原さん。結月にはまだまだ至らない点があるかと思いますが、これから結月の事を…結月達の事をよろしくお願い致します」

 

そう言って母さんは深々と頭を下げた。

 

「え?何でいきなり?」

 

「三咲はマジで何を書いてたんだ?」

 

「ほら!結月ちゃん!これからファントムの一員としてお世話になるんだから!ちゃんとご挨拶しなさい!」

 

何で急に?本当に怖いんだけど。

でもまぁ…許してもらえたって事でいいのかな?

 

「あの…その、よろしくお願いします…」

 

「ああ、何かよくわからんが、こちらこそよろしくお願いします」

 

「まさかあの状況から許してもらえるとはな。まぁ俺からもよろしくな」

 

そうしてあたしは母さんから許してもらえたのだった。

 

「あ!はーちゃん!結月ちゃんがバンドとして成功出来なかったらちゃんと責任取ってよね!」

 

「はぁ…まぁ…」

 

「気のない返事だなぁ」

 

「まぁ約束するよ」

 

「よし!言質取ったからね!いい?結月ちゃん、はーちゃんに私の事をお義母さんって呼ばせる事がないようにしっかり頑張るのよ」

 

は!?責任ってその責任の取り方なの!?

 

「いや、お前何言ってんだ?お義母さんと呼ぶとかないから」

 

「それって結月ちゃんは恋愛対象でも何でもないから、結婚するとか無理って事?私から見ても可愛い方だと思うのに。性格以外は」

 

性格は!?母さんからしてあたしの性格はないって思ってんの!?あたしをこういう風に育てたの母さんだよ!?

 

「いや、あの…無理とかそういうんじゃなくて」

 

無理とかそういうんじゃなくて?

って事はタカさん的にはありって事?

ん?って事は、あたしは楽しんでバンドやれたら成功とかしなくてもって思ってるし…。それもあり?

 

「結月ちゃんは変な事は考えないの(ぷくー」

 

あの…母さん。そのほっぺたぷくーっての止めてくれません?背筋ゾクゾクしちゃうんで。

 

「そしてその…はーちゃんも結月ちゃんも、今度…あの…またでいいんだけど…亮くんって子を連れて来てね?」

 

「は?亮?」

 

「へ?秦野先輩?」

 

そんなこんなうんぬんかんぬんな事があり、あたしはファントムでの活動を許してもらえた。

タカさん達はこの後、天音の家に行くのか…。

 

あたしは色々と理由を付けて、タカさん達に同行させてもらう事にした。天音の本当のお父さんの事。

天音やおじ様達が話すのか気になったから。

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