バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第2章 メンバーを集めよう

俺と結衣がバンドを組む事になって1週間が経とうとしている。

 

「春くんの方は調子どう?」

 

「ダメ…かな?結衣は?」

 

「私もダメ…」

 

俺達はバンドメンバーを探している。

俺はバイトのない日にライブハウスにメンバー募集がないか聞いてまわったり、高校の時の友達とかをあたってみている。

結衣は元アイドル仲間に聞いてまわったりしてくれているらしい。

 

「う~…私あんまり友達いないからなぁ。元グループのメンバーも友達っていうかライバルだったし」

 

俺も学校終わったらダンスの練習ばっかりで友達付き合いも少なかったからなぁ。

 

「あ、春くんごめん。私バイトの面接行ってくるね」

 

「うん、今日面接なんだ?頑張ってね」

 

「うん!」

 

結衣はとりあえずバイトを探す事にしたらしい。

あのBlue Tearのユイユイがバイトの面接に来たらどう思うだろう?

下手したらドッキリと思われないかな?

 

「俺はバイトの時間までゲーセンでも行って久しぶりにダンスゲームでもしようかな」

 

考えてるだけじゃ煮詰まっちゃうし、こんな時は好きなダンスでスカッとしよう。

 

 

 

 

 

「この時間は学校帰りの学生が多いな。失敗したかな」

 

「「すげー!あの姉ちゃんもう10人抜きだぜ!」」

 

ん?なんだろうあの人だかり。

 

そう思って俺が覗いてみると、女の子が対戦ゲームで連勝しているようだった。

 

「おおー!11人抜き!」「次誰が挑戦するよ?」「お前やってみろよ」「無理に決まってんだろ」

 

「俺がやる!」

 

そう言って男の子が挑戦していた。

 

「あら、松岡くん?今日も挑戦ですか?」

 

「ああ!今日こそ勝つ!」

 

そしてその男の子は瞬殺された。

すげぇ…。

 

「まだまだですわね」

 

「う…う……どちくしょぉぉぉぉ!!」

 

そして男の子は去って行った。

 

「12人抜きだよ…」「すげぇ…」「次誰が挑戦する?」

 

ほんとすごいな。

でも俺は対戦ゲーム苦手だし挑戦なんて無理かな。ダンスゲームしてこよ。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…楽しかったー!スッキリした!」

 

パチパチパチパチ

 

「すごいですわね。感服しました」

 

え?俺のまわりにもいつの間にかギャラリーが出来ていた。さっきの女の子もいる。

 

「よろしかったら私と対戦しませんか?ダンスゲームも多少嗜んでおりますので」

 

喋り方がすごく丁寧な子だな。

Tシャツにデニムって格好だけど、どこか大和撫子的な印象を感じさせる。

 

そして女の子は長く綺麗な黒髪を束ねていた。

 

この子もやる気だし、これだけギャラリーもいたら断れないよな。

 

「いいですよ。手加減しませんから」

 

「はい!私も本気でいきますね!」

 

そして軽快な音楽が鳴り響き、対戦がスタートした。

 

♪~

 

「なかなかやりますわね」

 

「そっちこそ!」

 

この子すごく上手い……!

本気でやらないと負けちゃいそうだ!

 

「おおー?」「二人ともすげぇ!」「どっちが勝つんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

僅差の得点でなんとか俺が勝てた。

もう一度やったら結果はわからないな。

 

「さすがです!まさか私が負けてしまうとは……」

 

「お疲れ様でした。ほんと凄かったですよ」

 

「いえいえ、私なんてまだまだです。とても楽しい時間を過ごせました。ありがとうございます」

 

そう言って女の子は微笑んでくれた。

 

「俺も楽しかったです。久しぶりに対戦とかしましたし」

 

そして俺は時計に目をやった。

 

「あ、ヤバい!そろそろバイト行かないと…!」

 

結構長い時間ゲーセンにいたんだな俺。

 

「すみません。俺行きますね!本当に楽しかったです!ありがとうございました!それじゃ!」

 

ヤバいヤバい。

遅刻したら店長に怒られちゃう!

俺は急いでバイトへ向かった。

 

 

--------------------------------------------------

 

「あら?さっきの方何か落として行きましたわ。何でしょう?」

 

私はあの方が落として行った何かを拾いあげた。

 

「バンドメンバー…募集……?」

 

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うーん、今日も疲れたぁー。

なかなかの客入りだったし、店長も忙しそうだったけど喜んでたな。

 

スマホを見ると着信が3件。

知らない番号だけど同じ番号からだ。

何だろう?かけ直した方がいいかな?

 

「………あ、もしもし」

 

『あ、もしもし。わざわざお電話ありがとうございます。私、秋月 姫咲(あきつき きさき)と申します。一瀬 春太様の番号でお間違いなかったでしょうか?』

 

「あ、はい一瀬ですけど」

 

あれ?この喋り方と声って

 

『突然のお電話大変申し訳ございません。バンド募集のチラシを拝見させて頂きましてお電話させてもらいました』

 

「バンド募集のチラシ……?

……あっ!」

 

ふと思い出してポケットを確認してみる。………無い。

こないだライブハウスに置いてもらおうと思って作ったやつだ。落としたのかな…。

 

『あの…もう募集は終了しておりますでしょうか?』

 

「いえ!まだ全然募集中です!楽器とか何かされてますか?」

 

『はい、ベースをしております。まだ練習中の身ではございますが』

 

「そうなんですね。じゃあ秋月さん、詳しくお話したいので、明日とかお時間ありますか?」

 

『明日でしたら16時以降でございましたら』

 

「じゃあ明日の17時に今日のゲーセンとかでも大丈夫です?」

 

『!?さすがです。声で私とわかりましたか?』

 

「ええ、それにそのチラシ、実はまだ配布してなくて…それを落したってなるとゲーセンくらいしか思い付きませんし。あはは」

 

『なるほど。そうでしたのですね。それでは明日17時に昨日のゲームセンターでお待ちしてますね』

 

「はい、よろしくお願いします。では、また明日」

 

『はい。それではまた』

 

そう言って電話を切った。

その後、俺はすぐに結衣に電話した。

 

『はい。どしたの春くん』

 

「あ、結衣、今少し大丈夫かな?」

 

そして今日の経緯を結衣に話した。

 

『すごいね、すごいね!そんな子がうちに入ってくれるんだ!?』

 

「いや、まだ決定じゃないけどね。それで明日、結衣にも会ってもらえたらと思ってるんだけどどうかな?」

 

『え?いいの!?私も会いたい会いたい!どんな子か気になるもん!』

 

「なら、どこかで早目に待ち合わせて、2人でゲーセンに向かおうか」

 

『うん!わかった!』

 

「じゃあ、明日はよろしくね。おやすみ」

 

『うん、おやすみ!また明日ね!』

 

そして俺は結衣との電話を終えた。

今日話してた感じだと、いい子そうだったし結衣も気に入ってくれたらいいけどな。

 

 

 

 

 

 

そして俺と結衣は昨日のゲーセン前で秋月さんが来るのを待っていた。

 

「遅いね。その…秋月さんだっけ?

もう17時15分だよ?何かあったのかな?」

 

「16時過ぎにはって言ってたから、余裕を見て17時待ち合わせにしたんだけど」

 

「事故とか……じゃないよね?」

 

結衣が急に不安になるような事を言ってくる。

ほんとにどうしたんだろう。

 

その時だった。

 

俺達の目の前に黒の高級車が止まった。

そして後部座席から…

 

「一瀬様!遅くなってしまい誠に申し訳ございません!急に委員会の仕事が入ってしまいまして、長引いてしまいました!」

 

そう言って姫咲さんが出てきた。

しかも……この辺じゃ有名な進学校の制服……。高校生だったんだ…。

 

「いや、大丈夫ですよ。事故とかじゃなくて良かったです」

 

「お嬢様。鞄とベースをお忘れにございます」

 

そう言って屈強な感じのお爺さんが鞄とベースを持ってきた。

 

「じいや、ありがとう。それとここまでの運転、ご苦労様でした。大変助かりましたわ」

 

「うっ……お嬢様…なんと勿体なき御言葉…じいやは……嬉しゅうございます…」

 

え!?何これ!?

 

そう思って結衣の方を見ると…

 

「じいや……良かったね、良かったね…ぐすっ」

 

何でか泣いている……

 

「お嬢様、じいやはこれ以上は邪魔になると思われます…。わたくしはここで失礼致しますが…」

 

「じいや。私は大丈夫ですわ。じいやの想い。無駄にはしません」

 

「お嬢様……大変…大きゅうなられましたな」

 

「これもじいやの教育の賜物ですわ。たまに厳しくて泣きそうにもなりましたが」

 

「お嬢様…」

 

「じいや!何をボサボサとしているのです!早くお行きなさい!!」

 

「しかし……!」

 

「私を……いつまでも子供扱いしないで。私はじいやの…1番弟子ですのよ…?」

 

「おじょ……くっ……」

 

え?何なのこれ?

 

「じいやさん…!!グスッ」

 

結衣は何故かガン泣きしている。

俺がおかしいのかな?

 

「ではわたくしはこれで失礼致します」

 

「じいや!私は…私は……!」

 

「ギリッ」

 

え?じいやさんギリッって言葉に出しちゃうの?

俺っておかしいのかな?

結衣ももう言葉にならないくらい泣いているし。

 

「おじょ……いや、姫咲…!」

 

お爺さんがグッと拳を握る…

これドッキリとかモニタリングじゃないよね?

 

「姫咲!何を狼狽しておるのか!このバカ弟子がぁぁぁぁぁ!」

 

「じい……いや、師匠!!」

 

「これは貴様が選んだ道ぞ!!ならば!己の信念の元!突き進んでみせよぉぉぉぉ!!」

 

「師匠!!ししょ……。いえ、もう私は師匠と呼びません…。あなたの…あなたの想いを越えて…私は突き進みます」

 

「それでこそ……我が弟子よ…。いや、もう貴様は弟子でもなんでもない…。猛るだ!己の道を!!」

 

「じいや。見ていて下さい。私が…私が突き進む道を……」

 

え?これほんとに現実?

昨日、秋月さんにバンドやりたいって言われて浮かれ過ぎたのかな?

まだ夢の中なのかな?

 

「うぅ……うぅ…じいや……ぎざきぢゃん……。だ…だいびょうぶだよ…!う…ぅぅ」

 

結衣……どうか俺を置いて行かないで?

 

「っというわけで、今日は本当に遅れてしまいましたのに、三文芝居にまでお付き合い頂きまして、誠にありがとうございます」

 

そう言って秋月さんは深々と頭を下げた。

あぁ、やっぱり三文芝居だったのね…

 

「わたくしは秋月 姫咲お嬢様の付き人兼ボディーガードを勤めさせて頂いておりますセバスと申します。フレンドリーにセバスちゃんと呼んで頂ければ幸いでございます」

 

そう言ってセバスさんも深々と頭を下げた

 

「あ、私はこのバンドでギター担当の夏野 結衣といいます。姫咲ちゃん!セバスちゃん!二人共よろしくお願いしますね!」

 

さっきまでガン泣きしてた結衣もケロッとして挨拶して深々と頭を下げた。

あれ~?俺がおかしいのかな?

俺の頭大丈夫かな…?

 

「じいや。後はお二人と私でお話しますわ。お父様とお母様によろしくお伝えくださいな」

 

「ハッ!かしこまりました!遅くなるようでございましたら、ご連絡頂けましたらお迎えにあがりますので」

 

「その時はよろしくお願いしますね」

 

そう言ってセバスさんは車に乗り込んで去って行った。

あー、俺自己紹介してないよ。

セバスさんに失礼なやつって思われてないかな?

 

「一瀬様、夏野様」

 

「あ、は…はい」

 

「ん?何かな?私の事は結衣でいいよ?」

 

「では改めまして。

一瀬様、結衣様。本日はお忙しい中、時間を割いて頂きましたのに、遅れてしまい申し訳ございませんでした」

 

そう言って秋月さんはまた頭を深々と下げた。

ちょっと俺今頭が追い付いてない…。

 

「わわわ!いいよいいよ!さっき春くんも言ったけど、事故とかじゃなくて良かったよ!よろしくね!姫咲ちゃん!」

 

「はい!」

 

そんなやり取りの後、結衣と秋月さんは俺の方を見た。あは…あはははは…

 

「と、とりあえずお茶でもしながらゆっくりお話しましょうか」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

そして俺と結衣は、俺達のバンドをやりたい理由、俺達のバンドが目指すバンドを秋月さんに話した。

 

秋月さんはこの話を聞いてどう思うのか。俺達のバンドをやりたい理由に共感してくれるのか。

秋月さんがどう思ってバンドをやりたいのか。

 

それを俺は聞きたかった。

 

「…素晴らしいです」

 

秋月さんはそう言って

 

「少し長いお話になってしまいますがよろしいでしょうか?」

 

そして秋月さんは話し始めた

 

「私は幼少の頃から何も不自由なく暮らして参りました。お父様の言う通り、お母様の言う通り、そのように生きて来て私はそれなりに幸せでしたし、色々成功もして参りました。

ですが、それと同時に物事に対して、楽しいとか喜びとかそういった事も感じなくなってました」

 

恵まれ過ぎてるからの葛藤か。わからなくもない。

俺もダンスに自信を持ってた。

アイドルのオーディションを受けてた時、すんなりオーディションに合格してアイドルデビューしてたら、俺もそれが当たり前ってなったりもしたかも知れない。

オーディションに落ちたからこそ、次は頑張ろうとか、落ちて悔しいとかそんな気持ちになる事が出来たんだから。

 

「でもそんな私でも楽しいと思える時間はあったんです」

 

「え、何?何?」

 

「ふふ、私のお父様はクラシックが好きで、お母様はジャズが好きだったのですが、私はロックが好きでして。

ずっとピアノを家庭教師様に来ていただいて習っていたのですが、ちょっとした休憩時間にピアノで作曲してる時間が好きでしたの」

 

「へー!ピアノもやってたんだね!しかも自分で作曲もやっちゃうとかすごいね!」

 

「そんな大した曲じゃありませんけどね。ありがとうございます。そしてある日、間近でロックを聴きたいと思うようになりまして、こっそりライブハウスに行くようになりました」

 

そうなんだ。生のライブは本当にすごいもんね。

俺もFairyAprilを見た時は感動が凄かった。

 

「ライブに参戦してる時間はとても楽しい時間でした。そんなある日、エデンというライブハウスでCure2tronのライブを見た時衝撃が走りました」

 

「エデン!?」

 

「私達もこないだエデン行ったよ!」

 

「そうでしたのね。エデンのライブは凄く楽しいライブばかりですよね」

 

「うんうん!」

 

「そしてそのCure2tronのベースを担当されているユキホ様を見た時、一気に心を奪われました。ユキホ様は私の理想像を越えるような素敵な女性でした」

 

「ね、ねぇ、春くん」

 

結衣が小声で話し掛けてくる。

 

「Cure2tronってさ、女性じゃなくて男の娘だよね?」

 

「しっ、結衣。そこは聞き流そう」

 

「それからユキホ様の事を追いかけるようになりました。ゲームがお好きと聞きましたら、私もゲームの腕を磨き、特技がお菓子作りと聞けば、お菓子作りをするようになりました。そしてベースを始めました」

 

「憧れからベースを始めたんですね」

 

「私達と一緒だね!」

 

「ゲームをすれば楽しいですし、お菓子をお父様とお母様やじいやにふるまって、美味しいと言ってもらえれば嬉しい。憧れで始めたベースも大好きになり、ベースを弾いている時は時間が経つのも忘れるくらい夢中になれました」

 

俺もダンスしてる時はそうだもんな。

つい時間の事、忘れちゃう。

 

「でも、それだけだったんです。所詮はユキホ様に憧れた、ただの真似っこ」

 

「え?」

 

「ライブを見ている時のようなドキドキも、ユキホ様のベースを聴いている時のような幸せな気持ちもありませんでした」

 

「姫咲ちゃん…」

 

「ですが、一瀬様のダンスを見て、一緒にダンスをして、ライブを観ている時のようなドキドキと、幸せな気持ちを味わう事が出来ました。ですから、一瀬様がバンドを募集しているのを知り、私も一緒にベースをやれば、もっとドキドキして幸せな気持ちになれるかも。そう思ってバンドに応募させていただきました」

 

「秋月さん…」

 

「合格!絶対合格だよ!100点満点だよ!春くん、私、姫咲ちゃんと一緒にバンドやりたい!理想もやりたい理由も私達と一緒だもん!姫咲ちゃん以上の人はいないよ!!」

 

「俺も秋月さんの話を聞いてそう思ったよ。秋月さん、是非俺達とバンドやってくれないかな?」

 

「よろしいのですか!?」

 

「うん、よろしく!」

 

「これからよろしくね!」

 

「一瀬様、結衣様。こちらこそどうぞよろしくお願い致します」

 

そう言って深々と頭を下げる秋月さん。

 

「秋月さん、俺達の事は様とか付けずに気軽に呼んでくれたらいいですよ」

 

「うん!そだよ!」

 

「承知しました。では、結衣と、結衣と同じように春くんと呼ばせていただきますね。私の事は姫咲と呼び捨てでお呼び下さい」

 

「わかったよ、姫咲。改めてよろしく」

 

「はい!」

 

「春くん!後はドラムだね!!」

 

「うん、キーボードも欲しいとこだけど、まずはドラムかな」

 

「ドラム……ですか?」

 

「うん!姫咲、誰か心当たりある?」

 

「そうですわね。少し荒っぽいですが、私達同様に憧れからドラムを始めたって知り合いに心当たりはございますよ」

 

「え?本当に?」

 

「わぁ!やったぁ!少し荒っぽいってとこが気になるけど」

 

「でしたらこれから会いに行きますか?おそらく近くにいるでしょうし」

 

「そうだね。じゃあ、早速勧誘に行こうか」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、その子ってどんな人なの?荒っぽいって喧嘩っぱやいとか?」

 

「私と同じ学校に通ってますの。喧嘩とかはしないと思いますが、少々口が悪い方でして…」

 

「それくらいなら大丈夫かな?」

 

「後は決まったバンドには所属しておりませんの。すぐに辞めてしまって…」

 

「え?そうなの?口が悪いからとか?」

 

「いえ、どのバンドも楽しくないらしいです。それでいつも。ですが、ドラムの腕前は素晴らしいです。彼がバンドを辞める度に色々なバンドが彼を勧誘してますわ」

 

「そっかぁ…楽しくないなら続かないよね」

 

「そんなにドラム上手い人なんだ?とりあえず会って話してみるしかないかな」

 

「あ、いましたわ!彼です!」

 

そう言う姫咲の指を指す方を見ると、昨日、姫咲と対戦ゲームしてた男の子がいた。

 

「彼は松岡 冬馬(まつおか とうま)という名前です」

 

「松岡くんね」

 

「おーい!松岡くーん!!」

 

結衣が大声で松岡くんを呼んだ。

結衣のこういうとこ凄いと思う。

 

「あん?誰だ?」

 

そう言って松岡くんがこっちを見る

 

「あ、秋月…それと…誰あんたら?」

 

松岡くんがこちらに近づいてきた。

 

「あ、俺は一瀬 春太っていいます」

 

「私は夏野 結衣だよ!」

 

「な……夏野って、まさかBlue Tearのユイユイ!?」

 

「え?あ、うん。知っててくれてるんだ?」

 

「そりゃ…有名だし…」

 

「えへ、ありがとう~」

 

そして結衣は松岡くんと握手していた。

元アイドルの性分かな?

 

「で、俺に何の用だよ」

 

「いや、実はね…」

 

俺は松岡くんにバンドの事を話した。

 

「ふぅん、秋月から聞いたのか……」

 

「うん、まぁね。それでどうかな?」

 

「断る」

 

「即答だ!?」

 

「秋月から聞いてんならわかるだろ。俺にも憧れてる人がいる。OSIRISの進さんだ」

 

「あの生ガツオの人?」

 

結衣……

 

「俺はかっこいいバンドをやりたいんだよ。それに女となんかバンド組めるかよ」

 

「む!私達だってかっこいいバンドになろうって思ってるんだよ!」

 

「ああ…、言い方が悪かったな。ガールズバンドにもかっこいいバンドはたくさんいる。そういう意味じゃなくて俺がただ単に男女混同のバンドをやりたくねぇってだけだ」

 

まぁ、そういう人もいるか。

俺だってバンドとの出会い方や、憧れてる目標とかが違ってたらそう思ったかもしれないしな。

それにそういう強い意思とかポリシーも大事だと思うし、無理に入ってもらうのもな。

一度、松岡くんのドラムを聴いてみたかったけど……

 

「ならしょうがな…」

 

俺が諦めてそう言おうとした時だった。

 

姫咲が俺の裾を掴んで首を振ってこう言った。

 

「私に任せて下さいな」

 

そう言って姫咲は松岡くんの前に出た。

 

「秋月…」

 

「松岡くん、お願いいたします。私達とバンド組みましょう?」

 

「え?秋月もバンドメンバーなのか?

う…いくら秋月の頼みでも……でもどうしても…ってんなら…う~ん…」

 

弱っ!さっきの強い意思は!?

 

「春くん春くん」

 

結衣が小声で話し掛けてきた

 

「松岡くんって姫咲の事好きなのかな?」

 

多分そうだろうね……

 

「そうですか。わかりました。では、もう結構です」

 

え?姫咲そんなあっさり…

 

「私はこれから春くんと結衣とバンドをやります。これからはもうあまり松岡くんとはゲームしたり出来ないと思いますがお元気で。ごきげんよう」

 

「春くん…だと!?あんた…秋月に下の名前で呼ばれてんのか…?」

 

わかりやすいなぁ。

 

「そりゃ、同じバンドのメンバーだからね。これからもほぼ毎日くらい会ったりするんじゃないかな?」

 

「毎日…だと…」

 

「だよね!もしかしたらお泊まり会とかしたりもあるだろうし!」

 

「お…お泊まりだと…!?」

 

「春くん、結衣、たまに息抜きのゲームもしましょう」

 

「うん!やろやろ!私絶対勝つよ!」

 

「もちろんだよ。また俺が勝つから」

 

「……秋月にゲームで勝った!?」

 

「あら?松岡くん。まだ居たのですか?もう帰って頂いて構いませんのよ?」

 

「松岡くん。俺達もバンド頑張る。またいつかデュエルでもしようね」

 

「え?いや…あの…」

 

「春くん!姫咲!今なんかピーンってきた!曲のインスピレーションきた!」

 

「本当に?なら俺達も早く行こう!松岡くん!じゃあね!」

 

そう言って俺達は立ち去ろうとした。

 

「待て!もう少し…!もう少し話してもいいんじゃないか!?」

 

ほんとわかりやすいなぁ。松岡くん。

 

「まだお話がありますの?少しだけなら聞いてあげましょうか?」

 

「うーん…でも、遅くなると私のインスピレーションなくなるかもだよ?」

 

「それはいけませんわ!松岡くん!さよならです!」

 

「春くん春くん!ドラムの人はイケメンの人探そうよ!姫咲可愛いからさ!姫咲の事好きになってバンドやってくれる人もいるかもだよ!」

 

「それもいいかもね」

 

「え!?ちょっ…お前ら!」

 

「私にそんな魅力があるとは思いませんが…。

……わかりました。精一杯ご奉仕させて頂きます」

 

「せ……精一杯のご奉仕!?」

 

なんか…俺、松岡くんの事可哀想になってきた…。ごめんね、俺、松岡くんのドラム聴いてみたいんだよ。

 

「待て!待て待て待て!!」

 

「ん?何かな?」

 

「なんですの?」

 

食い付いてきたかな?

 

「秋月!俺はお前がどうしてもってんならお前らのバンドに…」

 

「もう一押しかなぁ?次はどうしようか?」

 

俺もそうは思ったけど…

結衣、口に出すのはやめよ?

 

「松岡くん、私達はバンドで忙しいのです。こちらから声を掛けておきながら申し訳ございませんが……帰ってくれません?すぐに。今すぐに」

 

「お…俺だって!俺だって秋月とバンドやりたいって気持ちはあるんだよ!でも俺はOSIRISみたいなかっこいいバンドをやりたい…!秋月の事好きだからって自分のポリシー曲げちまったら……男じゃねぇだろ!」

 

松岡くん……

 

「春くん…私ちょっと申し訳ない気持ちになってきた…」

 

俺もだよ。

 

「松岡くん…」

 

「秋月…」

 

「早口過ぎて何を言ってるのかわからないのですが?どうしたいのですか?」

 

「「え!?」」

 

俺と結衣が被った。

 

「あ、いや……その…自分のポリシーとかプライドとか…の話です」

 

松岡くん…

 

「まっちゃん……うぅ…頑張って…!」

 

結衣はまた泣きそうになってる。

いつの間にまっちゃん呼びになったの?

 

「あの…よくわかりませんが…安っぽいプライドとかポリシーが邪魔してるから私達とバンドは出来ないって事ですか?」

 

姫咲……すごい辛辣だね…

 

「あ、いや…まぁ…」

 

「わかりました。では、そのポリシーやプライドを上回るような理由付けを作れば良いわけですね」

 

もう姫咲とバンドをやるって事自体がその上回る理由付けになってると思うけどね……。

 

「そ!そうだな!俺の安っぽいポリシーとかプライドを上回る理由があれば俺もお前達のバンドに入るのもやぶさかじゃない!」

 

でもこんな理由で俺達のバンドに入ってもらっても……

 

そう思って姫咲に目をやると、何か感じ取ったのか俺の方を見て笑顔で頷いた。

ここは任せろって事かな?

 

「松岡くん、では私と勝負しましょう」

 

「勝負?」

 

「はい。松岡くんの指定のゲームで構いません。10本勝負です。私は10回中1度でも負ければ負け。どんな命令でも1つ私は聞き入れます」

 

「ど…どんな命令でも…?」

 

「春くん春くん!これってまずくない?」

 

松岡くん指定のゲーム10本勝負で1度でも負けたらダメってかなり分が悪くないかな?

 

「ただし、私が10連勝しましたら、私の命令を1つ聞き入れて頂きます。いかがですか?」

 

「わかった。その勝負受けるぜ!」

 

「はい!」

 

そして姫咲が俺達の方を向いてピースサインをした。

これって大丈夫なのかな…姫咲に任せるしかないか…

 

 

そして姫咲と松岡くんの10本勝負が始まった。


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