「わいわいガヤガヤ」
「わいわいガヤガヤ」
「わいわいガヤガヤ」
「ねぇ、わいわいガヤガヤって擬音も古いしさ。いつまでやってんの?あたし決める事決めて早く帰りたいんだけど」
「確かにな。今日はオレも店の手伝いがあるしな」
「こんな事になったのは内山 拓実のせいなんだからねっ!何とかしてよっ!」
「えぇ…僕が悪いの?」
「あはは…確かに…拓実くんがあんな事言っちゃうもんだから、こんな事になったんだしね」
「シフォ…じゃないや。井上くんもそれ酷くない!?井上くんも僕に乗っかってくれたじゃん!」
僕の名前は井上 遊太。
もちろん僕は男の子なんだけど、Ailes Flammeというバンドで、シフォンという男の娘をやりながら、ドラムを叩いている。
文化祭も終わって今日から通常授業が始まったんだけど、僕達2年生は来月に修学旅行がある。
その修学旅行でどこを回るのか話し合いをする為に、放課後に同じグループである渉くんと亮くん、拓実くんと志保と河野さんと、明日香ちゃんと栞ちゃんの8人で集まっていた。
修学旅行の1日目は京都。
午前中に京都へ向かい、午後からは自由時間。
そのまま京都で1泊して、2日目は午前中だけ有名なお寺とかを全体でまわって、昼過ぎからはまるまるグループで自由行動って感じになっている。
その日も京都に泊まり、3日目に大阪に移動して、そのまま大阪で自由行動。
その日は大阪で1泊し、4日目はグループで自由行動をして、夕方に関東へ戻るという3泊4日の旅なのだ。
2日目の午前中だけ、グループ関係なく全体で観光しなきゃいけないけど、基本的にはグループ内の自由行動を尊重してくれている。
まぁ、後日にグループでまわった所のレポートを作って、提出しなきゃいけないってのはあるんだけど。
そしてその自由行動の時間。
自由行動の時に何処に行きたいとか、何をやってみたいとか、そういうのを早目に決めちゃおうと河野さんが提案したのだ。
よくわかんないけどお兄ちゃん対策とか言っていた。
その為に今日の放課後は自由行動の時に何処を廻るのかを話し合っているのだ。
ってなるはずだったんだけど…。
『放課後なのに今日は静かだね』
『まぁ、今日から部活も普通に始まったってのもあるんだろうが、文化祭の準備してた時とは違って教室内は静かだな』
『まだ文化祭の余熱も冷めない連中もいるしね。うちのクラスはみんなでカラオケ大会らしいよ。…あたしは誘われなかったけど』
『え?雨宮は誘われなかったのか?俺と拓実は誘われたけど、放課後はグループで修学旅行の話し合いするからって断ったんだけど…』
『え?うそ』
『あはは…一応誘われたよ?でも、河野さんも明日香ちゃんも…その、断ってたみたいだし』
『え?さっちと明日香も誘われたの?』
『ちょっと内山!あんた空気読みなさいよっ!』
『あれ?そういやボクもクラス違うのに、志保のクラスの子達にカラオケ誘われたんだけど…。去年同じクラスだったし、それでかなぁ?って思ってたんだけど』
『し、栞も…?別のクラスの栞が誘われたのに、同じクラスのあたしが誘われなかったの…?どうしよう、帰って泣きたくなってきたんだけど』
『え、江口くんのせいだよっ!江口くんがなんとかして!いつもみたいにアホでバカな事言って志保ちゃんの気を引いて!』
『お?さっちも物凄い無茶振りしてくるな?俺ってクール系ロックアーティストだから、そういうの苦手なんだけど』
『大丈夫だ渉。そう思っているのはお前だけだ。
そうだな…今感じている事をそのまま言ってみてくれ』
『お?何が大丈夫かわかんねぇんだけど、今思ってる事か?そうだなぁ…いつもは放課後ってキャッキャウフフしてる奴多いのに今日は静かで寂しいよな?あ、そうだ!俺達でわいわいガヤガヤしたら活気も出てくるんじゃねぇか?』
『などと江口くんが変な事言ってるけど、志保ちゃん、気は紛れたかな?』
『あたし別に…友達とかいらないしね…Divalのみんなが居れば…。あは、そうだよ。だってあたしあの雨宮 大志の娘だもん。あたしと居たらお父さんに敗れたデュエルギグ野盗に襲われて大変な事になるし…だったらあたしは…』
『わぁ。全然ダメっぽい。ねぇ、亮くん、何かいい方法ないかな?』
『井上の頼みなら何としても叶えてやりたいが…。こうなった雨宮を元に戻す方法なぁ…。タカさんにでも電話してみるか?』
『そういやたか兄、今日はおっちゃんと一緒にアマテラスとBreak Bellのメンバーのご両親に挨拶に行くって言ってたよ?忙しいんじゃない?』
『あは、タカも忙しいんだね。あたしなんかに構ってる暇なんてないよね。カラオケに誘われないようなぼっち女子なんて…』
『とてつもなく面倒な事になったわね。志保がこんな卑屈になるの初めてじゃない?』
『私もこんな志保ちゃん初めてだよ…』
『1年の頃はぼっちが平常運転だったが、今は周りに恵まれてるもんな。培ってきたぼっち魂も失くしちまったんだろうな』
『ぼっち魂って何なの?あ、そうだ渉。
さっきわいわいガヤガヤとかしたら活気がとか言ってたじゃん?それってどんな感じなの?』
『お?さすが拓実だな。さっきの俺の発言はスルーされてたのかもって落ち込んではいたが、拓実のおかげで持ち直す事が出来たぜ』
『うん。渉はどうでもいいんだけど、雨宮さんを持ち直させないと話進まないしね。そのわいわいガヤガヤってのやってみてよ』
『フッ、しょうがねぇな。よく見てろよ拓実!
わいわいガヤガヤ…わいわいガヤガヤ』
『江口 渉がわいわいガヤガヤって言ってるだけじゃん』
『こういう変な所はたか兄に似なくて良かったのに…』
いきなりわいわいガヤガヤと言い出す渉くん。
栞ちゃんも僕もすっかり呆れてたんだけど、拓実くんの次の一言がいけなかった。
『渉はまた変な事やって…これじゃ雨宮さんの気を引くなんて出来ないでしょ…。だから彼女も出来ないんじゃない?』
『わいわいガヤガヤ…わいわいガヤガヤ』
拓実くんのこの台詞を気にせず、わいわいガヤガヤと言い続ける渉くん。
『でもまぁ、渉の彼女になるってなると、このノリに着いていける人しか無理なんだろうね』
『『!?』』
『うん…確かに。たか兄の事を好きなのかも…って人達はしっかりたか兄の悪ふざけにも乗っかってるし、ツッコミもやってるもんね。だから、みんなお似合いだなぁ~とか思うもん。当のたか兄本人はその恵まれた環境に気付いてないみたいだけど…』
『『!?』』
『わいわいガヤガヤ…わいわいガヤガヤ』
『わ…わいわいガヤガヤ…わいわいガヤガヤ』
『さっち!?いきなりどうしたの!?』
『お、雨宮帰ってきたな』
『い、いや…江口くん1人でわいわいガヤガヤって言ってても、あんまり盛り上がらないじゃない?だ、だから私も乗っかってあげようかな…って。その…かわいそうだし』
『そ、そうよね。さすが紗智ね。このままじゃ渉がかわいそうだものね。いいわ、私も本当は嫌だけど乗っかってあげるわ。わいわいガヤガヤ…わいわいガヤガヤ』
そう言って渉くんに乗っかる河野さんと明日香ちゃん。
そんなやり取りがあり、さっきから渉くんと河野さんと明日香ちゃんで、わいわいガヤガヤと言い続けているのだ。
渉くんもほんっっっとにこんな所は、たか兄に似なくて良かったのに。
「まぁ、こうなっちゃったのはしょうがないし、志保も一応帰ってきたから、ボク達で何処をまわるか話し合っちゃう?河野さんは志保とまわれたら何処でもいいって言ってたし、明日香は修学旅行も学校行事ってだけで、特に行きたいって所は思い付かないって言ってたし」
「そういや亮は、京都に行くなら絶対行きたい!って所があるんだっけ?」
「ああ!そうだ!ここだけは絶対に外せない!…と、言っても行きたい所は飯屋だからな。初日の自由時間の時にそこにさえ行かせてもらえるなら、オレとしては他の時間はみんなの意見を優先してくれていいと思ってる」
「…って事は初日の昼ご飯はお蕎麦か。まぁ、あたしも蕎麦は嫌いじゃないし、修学旅行先では特別に食べたいのもないし、いいと思うよ。確か栞は大阪では絶対食べたいたこ焼き屋があるんだっけ?」
「うん。ボクも初日はお蕎麦でもいいよ。Canoro Feliceとボク達で合同練習してた時に修学旅行の話になってね?その時に大阪行くなら絶対食べた方がいいよ。って澄香さんが教えてくれてね」
「へぇ、澄香さんのオススメのたこ焼き屋なんだ?僕もちょっと気になるかな」
「拓実くんってスイーツしか興味ないんだと思ってたよ…。僕も特に行きたいって場所はないから…みんなに合わせるよ。あ、そういえば志保は行きたい所あるんじゃなかった?」
「え?…ああ、うん。行きたい所っていうか、タカって幕末好きじゃん?奈緒は新撰組しか興味ないし、理奈は幕末より戦国時代派だし、渚は刀剣とかにしか興味ないし…。タカが幕末の話したいって時の為にあたしが幕末に詳しくなっとこうかな?って思って…その、色んな所縁の地をまわれたらなって…」
「雨宮のやつ…なんか奈緒さん達が受け身だからって、積極的になってきてないか?堂々とタカさんと同じ話題を持ちたいって言ってるようなもんだろ?」
「秦野 亮さ?もし、ゆーちゃんが幕末大好きとか言って、同じ話題出来る人いないかなぁ?とか言ってたら、幕末の事勉強しまくらない?」
「なるほどな。雨宮の気持ちがよくわかったぜ。オレも行けそうな所縁の地とか調べててやるよ」
「亮…」
「あの…栞ちゃん?僕別に幕末大好きとかないんだけど…」
「うん。わかってるけどボクは恋する乙女の味方だから」
それからしばらく何処に行きたいとか、あそこもいいんじゃないかな?とか、色んな事を話し合ったけど、結局渉くんと河野さんと明日香ちゃんは、わいわいガヤガヤと言っているだけだった。
-ガラッ
僕達が修学旅行の自由時間のことを話し合い、渉くん達がわいわいガヤガヤと言っているだけのこの空間。
不意にこの教室の扉が開けられ、僕達は扉の方へと目を向けた。
「「「わいわいガヤガヤ…わいわいガヤガヤ」」」
…不意に教室の扉が開けられ、僕と亮くんと拓実くん、志保と栞ちゃんだけが、扉の方へと目を向けた。
「「「わいわいガヤガヤ…わいわいガヤガヤ」」」
「文化祭も終わったって言うのに、騒がしく活気のある教室があるなって思って見てみたら…お前達か」
教室の扉を開けたのは東山先生。
僕達の学校の先生をやっているけど、僕達の所属するファントムでNoble Fateのベーシストをやっている。
「あ、東山先生」
「どしたんスか?またオレらにファントムへお届け物頼みたいとか?」
「あ、別に僕らファントムに行く予定ないですけど、もしお使いなら行きますよ?あ、そういえば僕らファントムでお茶しながら話し合いしても良かったかもね」
「いや、特に僕もファントムに用事がある訳じゃないよ。この教室が騒がしいなって思って覗いただけだしね。それより、江口と河野と観月は何でわいわいガヤガヤとか言っているんだ?」
ああ…やっぱりそこ気になりますよね?
「恋のトライアングルだよ」
「は?恋の?トライアングル?」
いやいや、栞ちゃんは何を東山先生に言っちゃってるの?
「ははは、何だかんだお前らも青春を…う、うぐっ…ボォェェェェ…」
「「「「「東山先生!?」」」」」
いきなりお腹を押さえながらボォェェェェとか言って、倒れ込む東山先生。いや、本当にどうしたの!?
「ちょ…東山先生、大丈夫っスか?」
「え!?こ、こんな時は救急車呼んだ方がいい!?ど、どうしよう!?」
「「「きゅーきゅーしゃー!!!!」」」
「え!?何でさっきまでわいわいガヤガヤ言ってた、江口とさっちと明日香が原始的な方法で救急車呼んでんの!?」
「怖いよー!ゆーちゃーん!ゆーちゃーん!」
「栞ちゃんはどっちが怖いと思ってるの!?急に倒れ込んだ東山先生!?それともいきなり救急車を呼び出した渉くん達!?」
混沌の場になってしまった教室。
大丈夫かどうかと困惑している亮くんと拓実くんと志保。
救急車を叫びながら呼んでいる…と、思いきやまたわいわいガヤガヤ言い出した渉くんと河野さんと明日香ちゃん。
怖いよーと言いながら泣いている栞ちゃん。
その栞ちゃんをどう慰めたらいいのかわからない僕。
お腹を押さえながら転げまわって苦しんでいる東山先生。
もう…本当にこの場から逃げ出したい…。
・
・
・
「さっきはすまなかったな。恋のトライアングルとか聞いて…その昔の事を思い出してしまってな」
「昔の事?」
「あ、それって東山先生と東山先生のお兄さんと、晴香さんのやつ?東山先生も晴香さんの事を好きだったけど、結局晴香さんは東山先生のお兄さんと結婚しちゃった~って」
「何で雨宮がそんな事を知ってんだよ…。ってか、みんな居るのによくその話をぶっ込んできたな?誰に聞いたんだ?Noble Fateの誰かからってのは無いだろうし…」
「ん?あたし晴香さんから聞いたけど」
「義姉さん…。何でよりによって僕の生徒に。…え?てか、何で義姉さんがその事を知ってんの?俺の気持ちバレてたの?こ、これからどんな顔して兄貴と義姉さんに会えば…」
へぇ、そうだったんだ?
確かにそれもとんでもない恋のトライアングルだよね。
東山先生もテンパっちゃって、途中から1人称が『俺』になっちゃってるし。
「はぁ…まぁいいか。昔の話だしな。
僕が病んでた恋のトライアングルはその事じゃないよ。そもそも僕が一方的な片想いしてただけで、兄貴や義姉さんには気付かれてないと思ってたしな」
「…一方的な片想い///」
「ハハ、こんな事言ったら怒られちまうかもしれませんけど、東山先生もしっかり青春してたんスね」
僕らと東山先生って、ファントムのバンド仲間ってのがあるし、昔からタカ兄達の知り合いってのがあるから、近しい関係だって感じで接してるけど、普通に考えたら教師とその生徒だもんね。
こんな風にお話するなんて、普通じゃなかなかないよね。
「ボクも東山先生が晴香さんの事が好きだったって知ってますよ?おっちゃんから聞いた事あるし」
「…英治さんまで」
栞ちゃんも聞いた事あるんだ?
僕は聞いた事ないと思うだけど…。
「私も知ってますよ。拓斗から聞かされましたし」
「拓斗さんもかよ…。俺のプライベート事情どうなってんの?」
あはは…明日香ちゃんも知ってたんだ?
それより明日香ちゃんも『わいわいガヤガヤ』って言ってると思ってたのに、しっかりこっちの話も聞いてたんだね。渉くんと河野さんもいつの間にか、こっちの方を気にしてる様子だし。恋バナって気になるものかな?
「それじゃ恋のトライアングルって、どれの事ですか?東山先生が悶えるっ事は…拓斗さんとタカさんと梓さんの事ですか?」
「ああ…拓斗さんの事じゃなくて、タカさんと梓さんとってのは合ってるんだけど、もう1人は澄香さん…かな。あの時は怪獣大戦争もびっくりなくらいの、大災害があって…死を覚悟したしトラウマになっててね」
怪獣大戦争ってもうバンドでも恋バナでもないじゃん。
これ一応、青春×バンドのお話の2次創作だよね?
「ちなみに拓斗さんは梓さんには相手にされてなかったから、そんな事は起こり得なかったし、英治さんはとんでもない人だったから、トライアングルどころじゃなかったしね」
え?今の拓斗さんとおっちゃんの所いった?
栞ちゃんと明日香ちゃんに話されてた事への仕返しかな?
「ふぅん、確かにあの3人のは大変そう。ま、タカは自分が関係してるとか気付いてないんだろうけど。
あ、それより気になる事が1つあるんですけど」
「タカさんが自分の事って気付いてないから、余計に面倒な事になってたんだけどな。それで?それより気になる事ってなんだ?この怪獣大戦争の事も、今度、拓斗さん達に話してもらえる、過去の話に含まれてると思うぞ?クリムゾンとの戦いにも影響してたし」
何で!?
タカ兄と梓さんと澄香さんの怪獣大戦争が、どうやってクリムゾンとの戦いに影響する事になったの!?
「いや、まぁその辺はあたしも今度聞かせてもらえるかな?って思ってるんで、気にはなるけど、今聞きたい事は別の事で…」
「別の事?なんだ?」
「さっき東山先生って、晴香さんがあたしらに話した事に関して、昔の話だしなって言ってましたよね?」
「ん?ああ、まぁな。それより『あたしら』なんだな。それって奈緒さんや理奈さん、香菜さんも聞かされたって事か?」
「うん。まぁそうなんだけど、昔の話って事は、今は晴香さんじゃなくて、別の人に恋してるのかな?って気になっちゃって」
「……そ、そんなことはないぞ?さ、僕も仕事に戻るかな。お前らも遅くならないうちに帰れよ」
あ、逃げた。
「お?東山先生逃げんのか?誰に恋してんだ?後学の為に教えてくれよ!」
「江口…。そんな事ないって言っただろ?バカ言ってないで、わいわいガヤガヤやっとけよ」
「あ!そうだったな。忘れてたぜ!せっかく興が乗ってきた所だったのにな!
わいわいガヤガヤ、わいわいガヤガヤ」
まだ続けるんだ?
「東山先生、誰なんスか?男になりましょうよ。ちなみにオレはこの場で好きな…いや、愛している人の名前を言えますよ。オレは…」
「だから違うって言ってるだろ?」
何でだろう。
亮くんがその愛している人?の名前を言うより早く東山先生が、亮くんの言葉を遮ってくれた事に安心しちゃった。
「ん~?実はNoble Fateのメンバーの誰かとか?」
「小松も…そんな事になってたら…15年前の惨劇を嫌でも思い出す事になるだろ」
そう言って東山先生はそそくさと教室から出て行った。
やっぱり逃げたって事は…ファントムの関係者かな?
「東山先生の恋の相手。気になるな」
「私も気になるよ。もし本当にファントムのバンドの誰かとかだったら、面白い事になりそうだよね。出来れば応援したいし」
「そうね。学内でも学外でも東山先生にはお世話になってるし、ちょっとでも協力してあげたいわね」
さっきまで『わいわいガヤガヤ』言ってた渉くんも河野さんも明日香ちゃんも…。
協力してあげたいとは思うけど、やっぱりここは何も気付かない振りして、ソッとしとくのが正解じゃないの?
「ひひひ、あたしもそれとなく東山先生の好きな人探ってみようかな」
ここは悪魔の巣窟かな?
そうして僕らはこの後、修学旅行の行き先そっちのけで、東山先生の恋の相手は誰かという予想の話し合いになったのだった。
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「と、いう訳で俺はこの日からしばらくは、練習に参加する事は出来ねぇ。悪いとは思っているけどな」
「何が『と、いう訳』なのかさっぱりわからんのだが。む、このバナナパンケーキも美味そうだな。ひとつ注文してみるか」
「察しろ奏。鳴海のいうこの日からってのは、江口や雨宮娘達…紗智の学校の奴らが修学旅行に行く日だ」
「俺も紗智ちゃんから聞いて日程は知ってたけど、察しろって何?鳴海は紗智ちゃんの修学旅行に関係ないでしょ?てか、そんな事より眠い…大事な話ってのがそれだけなら寝ていい?」
「フッ、響も面白い事を言うな」
「響が何か面白い事を言ったか?あ、すみません、このバナナパンケーキとバナナシェイクを追加でお願いいたします」
「奏…テメェまだ食うのか…。いや、今日は鳴海の奢りって話だしな。俺も追加注文するのも悪くねぇか。
そして響。鳴海の奢りでこんな所に連れて来られて、わざわざ修学旅行の日程は練習出来ないって言ってきてんだ。鳴海の奴は紗智達の修学旅行に着いて行くつもらなんだろうぜ」
「え?マジで?俺達が修学旅行に行くって時は、紗智ちゃんに会えなくなるからって休んだくせに、紗智ちゃん達の修学旅行には着いて行くんだ?やば、一気に眠気なくなっちゃったんだけど…」
俺の名前は豊永 奏。
evokeというバンドのボーカルをやっている。
今日はそのevokeというバンドのドラマーである河野 鳴海に『大事な話がある。奢ってやるからついてこい』と言われ、今、俺達はメイドカフェと呼ばれる茶房に来ているのだ。
何故、茶房なのかというと、俺は話なら誰かの家かファントムでいいんじゃないかと提案したんだが、場所的にファントムの人から紗智ちゃんへ話が届き辛い所がいいという事で、この茶房に連れて来られたのだ。
「は、はは…お、お待たせしました。バナナパンケーキとバナナシェイクです(ニコッ」
しかし、たまたま鳴海の選んだこの茶房の従業員に、FABULOUS PERFUMEであるチヒロ。
いや、今は女性の格好だから明智 弘美さんか。
まさか彼女が居るとは、みんな驚いたものだ。
そして正に今、バナナパンケーキとバナナシェイクを持って来てくれた従業員が弘美さんである。
「そ、それでは失礼しますね~(ニコッ」
そう言って弘美さんは、そそくさとこの場から去ろうとしていた。何か問題があるんだろうか?
ただ単に知り合いにバイト先に来られるのは恥ずかしいだけ。ただそれだけかも知れんがな。
俺は早速バナナパンケーキという物を食べようとした。
しかしその時。
メニューの1部が俺の視界に入り、そのメニューに記載されているある文言を読んでハッとしたのだ。
「待ってくれヒロミンチャンさん!」
「は、はい!?」
弘美さんの着るメイド服というこの店ならではのユニフォーム。そのユニフォームには『ヒロミンチャン』と書かれた名札が掛かっていた。だから恐らくこの店内では『ヒロミンチャン』と呼ぶのが正解なのだろう。
「あの…豊永くん?じゃないや、ご主人様どうなされましたか?(ニコッ」
ご主人様…か。そう呼ばれても違和感しかないのだが、この店では『お客様』を『ご主人様』と呼ぶ習わしなのだろう。なら、俺もこの店の客らしく、その呼ばれ方に馴れねばならんな。
「いや、お仕事中の忙しい時に呼び止めてすまない。これなんだが…」
俺はそう言いながらメニューを弘美さんに見せ、その文言が記載されている場所に指をさした。
「ここに『美味しくなる魔法をおかけします(はぁと』と書かれている。せっかくなので、このバナナパンケーキに美味しくなる魔法をお願いしたいのだが」
「…ご主人様、正気ですか?(ニコッ」
「もちろんだ」
このバナナパンケーキとやら。
ふんだんにバナナが盛り付けられていて、お洒落にチョコレートで彩られている。
そしてこのケーキの部分からも、ほんのりと香るバナナのフレーバー。
これだけでも至高に美味そうなのに、さらに美味しくなる魔法までかけてもらえるとは…。
フッ、その魔法とやらでこのバナナパンケーキが、どのような変化を起こすのかとても楽しみだ。
「…あんまり大きな声では言えないのですが(ニコッ
この美味しくなる魔法を知り合いに掛けてもらおうとか本気なの?え?新手の羞恥プレイ?」
「無論です。俺は最強に美味しくなったバナナパンケーキを食したい。そして、このバナナパンケーキは俺の血となり肉となり、俺はもう1段階最強に近づくでしょう」
「奏。紗智の事で修学旅行に着いて行く。という奇行を実っそうという俺が言うのもなんだが正気か?」
鳴海は何を言っているんだ。
それよりお前自身も、紗智ちゃんの修学旅行に着いて行くのは奇行だと思っているんだな。少しだけ安心したぞ。
「奏~。この美味しくなる魔法って、別に本当に美味しくなる訳じゃないんだよ?あ、でも、気分上がって美味しく感じるようになるかもか?なら、魔法かけてもらうべきなのかな?」
「日高くん!それフォローになってないよ!?」
何だと!?気持ちが上がるというのか。
なるほどな。それはつまり渚さんや奈緒さん、花音さんや紗智ちゃんの言っていたアレみたいなものか!?
確か…なんだったか…。そうだ!バフとかいうやつだな!
まさかこの俺がそんな体験を出来る機会を得るとは…。
「諦めろ明智。いや、ここではヒロミンチャンと呼ぶべきか?奏がバナナを前にテンションが上がっちまった以上、こいつはもう誰にも止められねぇ。野生の野良ゴリラにドラミングされたと思って、サッサとやることやって逃げた方が傷は浅いと思うぜ」
野生の野良ゴリラだと…?
結弦。まさかとは思うがソレは俺の事か?
「わかったよ…わかりました!
1回しかやらないからしっかり見ててよね!くぅぅ…FABULOUS PERFUMEのメンバーの前でもやらないのに…」
おお!魔法を掛けていただけるようだな!
フッ、俺ともあろう者が嬉しさと楽しみで震えさえ感じている。どんなバナナパンケーキを味あわせてもらえるのだろうか。
「じゃあやるよ。…オホン。
萌え萌え~きゅんきゅん…(はぁと」
「む、せっかく魔法を掛けてもらっているというのに、今入って来た客人達は、Canoro Feliceか。
おい!一瀬!夏野さん!松岡!秋月!こっちだ」
「美味しくなぁれ(はぁと
……って、Canoro Felice!?ってか、何で呼ぶの!?」
俺はせっかくヒロミンチャンさんに魔法を掛けて頂いていたのだが、この茶房に入ってきた客人、Canoro Felice達の方を見て、つい声を掛けてしまった。
ヒロミンチャンさんは手でハートの形を作り、片足を上げたポーズを取りながら固まっている。
なるほど。俺には見ることは出来ないが、そのハートの形を取っている手から、魔法がまさにバナナパンケーキに注がれているのだろうと推理出来るな。
「奏のヤツまじか。ヒロミンチャンに魔法掛けろとか言いながら、それを見るどころかCanoro Feliceに呼び掛けるとはよ」
「ものすごいタイミングでCanoro Feliceも来たもんだね。ヒロミンチャンさん固まっちゃってるし」
「こいつもとんだ災難だな」
「はは…は…。な、何か俺達とんでもないタイミングで入ってしまったみたいだね」
「安心して下さい弘美さん。俺は見なかった事にしときますよ。その…茅野にも小松にも絶対言いませんから」
「うわぁ♪ヒロミンの萌えきゅんポーズって超レアだよね!私達がどんだけ注文しても、してくれなかったのに!」
-パシャパシャパシャ!パシャパシャ!
秋月は無言のままスマホでヒロミンチャンさんを、色んな角度から撮影していた。
「あの…お嬢様…無断での撮影はお控え下さい…しくしく」
-パシャパシャ!パシャ!
秋月はそんなヒロミンチャンさんの注意を聞かず、スマホでの撮影を継続し、俺は美味しくバナナパンケーキをいただくのだった。