バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第45話 初めてのファントム

「と、とうとうこの日が来たわね…。ライブには何度かお邪魔させてもらう事はあったけど、カフェタイムに足を踏み入れる日がやってこようとは…」

 

私はBreak Bellのギタリスト、黒河 夏希。

今日はいつもいつも来たいと思いつつ、なかなか来る事が出来なかったファントムのカフェタイムに、あゆみとお邪魔させてもらおうとしている。

 

ファントムのカフェって、音楽に興味のないような一般のお客様もそれなりに居るし、お邪魔させてもらう事に遠慮なんかする必要なかったと思うんだけど、やっぱりファントムのバンドの方や、タカさんや英治さんにお会いする事になるかもって思ったら、なかなか来る事が出来なかったんだよね。

 

ファントムに私達が所属させてもらえるようになるかもしれないし、ファントムのバンドの方達ともそれなりに顔合わせは出来たし、そろそろファントムに行ってみよう!という事になったのだ。

 

本当は結月と琴子も来られたら良かったんだけど、結月は美緒先輩に誘われて、天音とラーメンを食べに行くって言ってたし、琴子は輝美と一緒に、文化祭の仕事の為に今日はお休みをいただいている綾乃さんと香菜さんに、ドラムの練習を見てもらうとかで、今日は来れなかったんだよね。

 

日をあらためようかとも思ったけど、あゆみは絶対に今日行きたいって言ってたし、もし、あゆみ1人に行かせて、何か失礼な事をしても大変だと思い、私が一緒に来ているって感じなのだ。ま、私もファントムのカフェタイムはどんな感じで、どんなメニューがあるのかとか気になってたけど。

 

「は、入るわよ夏希…!」

 

そう言ってファントムの入り口の前に立つあゆみ。

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「…え?入らないの?」

 

「は、入るわよ!入りたいわよ!でもドアが開かないのよっ!」

 

「いや、ここ自動ドアじゃないよ?手動だし。ライブの時は開放されてたから気付かなかった?」

 

「なっ!?わ、わかってたわよ!それくらいっ!!」

 

いや、だったらドア開けて入ろうよ。

ほら、私がドアを押したらスムーズに開いたし。

 

私はドアを開け、あゆみより先に入った。

 

「ちょ、ま、待ちなさいよ夏希!」

 

お願いあゆみ。恥ずかしいからあんまり大きな声出さないで。

 

「いらっしゃいまし~」

 

「いらっしゃい」

 

「いらっしゃーせー」

 

私とあゆみが入ると、Blaze Futureの盛夏さん、英治さんの奥さんであり、BREEZEの元チューナーである三咲さん、そして、その三咲さんの娘である初音ちゃんが迎えてくれた。あ、もう初音ちゃんも学校は終わってる時間か。

実は初音ちゃんと私はバンドをやる前からの顔見知りだったりする。初音ちゃんは私が複数掛け持ちしているバイト先のうち1つの常連さんだからね。

 

「あれ?夏希さんがファントム(うち)に来るのって初めてじゃない?」

 

「あはは、ライブの時間には来させてもらった事あるけど、カフェタイムは初めてかな」

 

「やっぱりそうだよね?今日は珍しいお客様が多いなぁ。あ、お席にご案内しますね。こちらへどうぞ」

 

初音ちゃん本当にしっかりしてるなぁ。

でも、珍しいお客様が多いって……あ。

 

私とあゆみが初音ちゃんに席に案内されている途中、ちょっと店内をキョロキョロしていると、カウンター席から手を振っている蘭に気付いた。

 

「蘭!?あんた何でファントムに!?」

 

あ、あゆみも蘭に気付いたみたいだね。

私達が気付いたのを確認した蘭は、自分のカウンター席からジュースを持ち、私達の方へとやってきた。

 

「あ、蘭さん。席を移動されるのでしたら、私達が運びましたのに。あ、あゆみさんも夏希さんもこちらの席にどうぞ」

 

「いんや、ぜーんぜんだいじょぶー」

 

私とあゆみは初音ちゃんに4人掛けのテーブル席に案内され、蘭もその席に自分のジュースを置いて座るのだった。

 

「そちらにメニューがありますので、決まりましたら呼んで下さいね」

 

私とあゆみは初音ちゃんにお水を置いてもらった後、お礼を言って席に座らせてもらい、メニューをパラパラっと捲ってみた。

 

「なつきとあゆみは、なにたべるの~?」

 

「せっかくだからメニュー見て、何か食べようとは思ってたけど、さすがにこの時間だと定食系はしんどいし軽食系かな?」

 

「それより蘭は何を当たり前のように、あたしらの席に座ってんのよ。1人で寂しかったの?」

 

「んにゃ。かうんたーでは、せーかさんやみさきさん、はつねちゃんとも色々おはなししてたしー。とくにさみしいとかはなかったかな?」

 

「せ、盛夏さんや三咲さん、初音ちゃんと色々お話!?なんと羨ましい…」

 

「そーいやせーかさんから、カレーをおすすめされた。あたしはハヤシ派だけど、カレーうまかった」

 

「あ、蘭はカレー食べたんだ?私は何にしようかな?」

 

「でぃーらぶらぶの、ともみときょーこもカレー食べてた。ともみはおかわりしてた」

 

でぃーらぶらぶ?あ、Daedal Luvの事かな?

あ、ホントだ。私達から少し離れた奥の席にDaedal Luvのメンバーが居た。あの一緒に居る男の人は誰だろ?てか、何でカフェに来てカップ麺食べてんだろ?

 

「あんたね。一応、Daedal Luvのメンバーって樹里以外は先輩なんだから、『さん』付けにするとか『先輩』呼びにしなさいよ」

 

「なしてー?」

 

「なしてって…もういいわよ。あたしは何を頼もうかしらね」

 

あゆみがパラパラとメニューを捲る。

写真も入った綺麗なメニューで、どれもこれも美味しそうだし、私も悩んじゃうよ。

 

そう思ってあゆみの捲るメニューに目を向けていたんだけど、メニューが立て掛けられていたスタンド。

そこにもう1枚別のメニュー表がある事に私は気が付いた。

 

…平日限定裏メニュー?

私は『平日限定』と『裏メニュー』という言葉に惹かれ、このメニュー表を取って、どんなメニューがあるのか見てみた。

 

「…ちょっと!あゆみ!これ!」

 

「何よ夏希。早く注文しないとご迷惑に…って、こ、これは!?」

 

平日限定裏メニュー。

そこに書かれていたメニューは、私達には衝撃的な内容だった。

 

Ailes Flamme定食。

カツ丼+お蕎麦(温or冷)

 

Blaze Future定食。

納豆ご飯+味噌汁+唐揚げ5個

 

Canoro Feliceセット。

ハンバーガー+ミートドリア

 

Divalセット。

焼き鳥(5本)+玉子焼き+生ビールorチューハイ

 

evoke定食。

親子丼+バナナ

 

Noble Fate定食。

鰻丼+筑前煮

 

FABULOUS PERFUMEセット。

パンケーキ+プリン

 

Glitter Melodyセット。

クリームシチュー+アボカドサラダ

 

Lazy Wind定食。

ご飯(どんぶり大盛)+日替りお漬物+お湯

 

それなりに値段は適正…いや、Lazy Wind定食以外は全部ドリンク付きで安いなとは思うし、美味しそうな組み合わせも多いけど、Lazy Wind定食のお湯って何?

150円だから安いけどさ。ご飯は大盛みたいだし。

 

「すみません、注文お願いしまーす」

 

あゆみは大きな声で初音ちゃんを呼び、初音ちゃんがテーブルまで来てくれた直後、すぐさまオーダーした。

 

「あたしはLazy Wind定食をお願いします」

 

やっぱりか…。

 

「あの…正気ですか?本当にご飯とお湯だけですよ?お漬物もあるにはありますけど…」

 

「大丈夫です!この裏メニューって、それぞれのバンドメンバーのお好きな食べ物で構成されてるんですよね?だったら、あたしは拓斗さんと同じものを食べさせていただきたいです!」

 

確かにあゆみの言う通り、変な組み合わせのセットが多いから、そのバンドさんの好きな食べ物をセットにしてる感じするけど、拓斗さんの好きな食べ物がこれって事はないでしょ。

そもそも拓斗さんは鍋が好きだからって、春夏秋冬問わずに鍋パーティーしたがるのあゆみじゃん。

 

「あ…えっと、確かにその裏メニューってそういうコンセプトで、お父さんとタカとトシキさん、拓斗さんとで悪ふざけで作ったメニューなんですけど…。Lazy Windのセットはお金のない拓斗さんが、持ち込みでカップ麺とか持ってきて…お腹いっぱいお米を食べれるようにって…そんな感じで…」

 

ああ、なるほど。

Daedal Luvと一緒に居る男の人が、何でカップ麺食べてんのか不思議だったけど、カップ麺持って来てて、このセットを頼んだって事かな?

 

「あゆみさんって…カップ麺持って来られてないですよね?あ、別に今から買いに行かれてもいいんですけど、カップ麺持ってないお客様にお湯を出すのは、私としても…」

 

「ああ。大丈夫よ。カップ麺はさすがに持って来ていないけど、あたしにはこれがあるわ!」

 

そう言ってあゆみが初音ちゃんに見せたのは、お茶漬けの素だった。

 

「あ、なるほど。確かにそれなら…。かしこまりました♪まずLazy Wind定食1つですね♪」

 

あ、それでまかり通るんだ?

 

「じゃあ私はFABULOUS PERFUMEセットで、ドリンクはアイスコーヒーでお願いします」

 

「かしこまりました。夏希さんはFABULOUS PERFUMEセットで、アイスコーヒーですね」

 

「あたしはぶれいずふゅーちゃーてーしょく。ドリンクはホットグリーンティーで。ふふふ。なっとー好きだから楽しみ」

 

蘭はまだ食べるんだ?

あ、グリーンティーって緑茶の事かな?

 

「かしこまりました♪少々お待ち下さいね」

 

 

 

「あんた、さっきカレー食べたって言ってたわよね?まだ食べるの?」

 

「ふふん。なっとーはべつばら。そもそもあたしはカレーだけじゃ満足できないからだなのー」

 

カレーだけじゃ満足できないって…。

蘭達も午後授業あったよね?お弁当とか食べたんじゃないの?今からパンケーキとプリンを食べようとしてる私が言えた事じゃないかもだけど。

 

「お待たせしました♪ごゆっくりなされて下さいね♪」

 

初音ちゃんがみんなの注文した物を持って来てくれて、私は意外とボリュームのあるパンケーキにびっくりしたけど、あゆみは涙を流しながらお茶漬けを作り、蘭はよだれを垂らしながら納豆をかき混ぜていた。

 

「うん!美味しい!」

 

私はパンケーキを食べてみて更にびっくり。

結構生クリームとかも乗ってるし、映える見た目のパンケーキなのに、プリンとセットだからか、甘さは控え目になっていて、これならいくらでも食べれそうな味だ。

しっかりふわふわしてるし…って食レポしかけたけど、ここって本来はライブハウスだよね?

 

「これがいつも拓斗さんが食べてる味なのね…」

 

いや、あゆみはちゃんとファントムならではのメニュー頼もう?

 

「まだ…まだかき混ぜがたりない…」

 

蘭はどんだけ納豆をかき混ぜるの?

と、納豆をかき混ぜる蘭を見てふと思った。

 

「ねぇ、蘭は何でファントムに来たの?いや、何か聞き方変か。えっと、天音や涼風、真凛も輝美もいないのに1人で来たの?あ、この聞き方も何か変だな…」

 

蘭は基本的には自分の好きな事には忠実に生きていて、1人しゃぶしゃぶ食べ放題でも、1人焼肉食べ放題でも、全然行けるタイプの女の子だ。中学の時に夜景の綺麗なレストランのカップルシートに、クリスマスディナーを予約して1人で行った事があると聞いた時にはびっくりしたものだ。まるで、この物語の作者みたいな事をやっている。

 

でも、ファントムはみんなで行きたいとか言ってたと思うんだけど…。

 

「あー、今日はあまねもすずかもてるみもダメだったんだけどー。あたしがえーじさんに用事があったし、まりんも来てくれるっていうから、今日来てみたんだけどー」

 

ん?真凛も?いや、真凛どこにも居ないけど?

 

「ここにくるとちゅーでねー」

 

 

 

 

『いやー。えーじさんに用事あったしー。まりんが来てくれてよかったー』

 

『な~に言ってんだし。あたしもファントムには行きたい行きたいって思ってたから、らんらんが誘ってくれて嬉しかったくらいだし』

 

『こーいうのってまりんが一番みんなに声かけそーなのにー』

 

『ん~、 まぁ、レガリアとかBREEZEの事もあるし、あまねるが行こうって言うまで、あたしからは…とかも思ってたしね』

 

『まりんってそーいうとこだけは変にりちぎだよねー』

 

『ああん?別にそんなつもりじゃないんだけど…って、ちょっと待ってらんらん!』

 

『ん?どしたどした?』

 

『きゃぁぁぁぁ!猫!猫が居る!きゃわわわ~♪』

 

 

 

 

「って言いながら~。風にとばされるビニール袋を追っかけて、どっか行っちゃったから、しょーがなくあたしひとりで来たみたいな~」

 

真凛は何をやってんの…。

 

「あんた、真凛が追っかけて行ったのは、ビニール袋だって気付いてたのよね?何で止めてあげなかったのよ」

 

「ぇ~…はしるのめんどくさいし…」

 

それだけ!?それだけの理由で!?

 

「はぁ…。まぁ、あんたそういう子よね。それで?英治さんに用事ってのは?」

 

「そうそれも~。今日はえーじさん、ここにいなかったし~。妹ばぁばに頼まれた言伝てあったんだけど~」

 

蘭の妹ばぁばさんに?

直接の面識はないけど、天音達の話だとレガリアに詳しそうな感じなんだっけ?

 

「ああ、そういえば英治さんは今日はいらっしゃらないわね。妹ばぁばさんからの言伝てって何なの?」

 

「それは~。きぎょーひみつだから言えないっていうか~。でもべつに言っちゃってもいいかなぁ~?」

 

と、私も妹ばぁばさんから英治さんへの言伝てってヤツが気になって、蘭の言葉に耳を傾けてたんだけど。

 

「いらっしゃいま~」

 

「いらっしゃいませ」

 

「らっしゃっせー!」

 

盛夏さんと三咲さんと、初音ちゃんの『いらっしゃいませ』という言葉に反応して、どんなお客様が入って来たのかと入り口に目を向けた。

 

「おー、姉御だー。姉御ー!こっちこっち~」

 

ファントムに入ってきたのは、先日の公開収録の時にいらっしゃった有希さん。

そして2人の女の子…。その内の1人はたまに見かける、あの梓さんにそっくりな女の子だった。

 

たまに見かけるってのは、私がセバスマンのショーのバイトしてる時とか、こないだの文化祭でセバスマンを呼んでたってので知ってるだけだけど。

 

「あ、あの子…梓さんに激似じゃない?」

 

「うん…私もずっとそれ思ってた」

 

あゆみも梓さんにすごく似てると思ったんだね。

 

「いやーそりゃそーでしょー。だってあの子はあずささんのマカリ…おっと。これは言っちゃいけないんだったー」

 

マカリ…?何?

 

「やぁ。蘭も夏希もあゆみも久しぶりだね」

 

「あ、AmaterasuとBreak Bellのメンバーか。あっちにはDaedal Luvも居るみたいなのに、ファントムのメンバーはせっちゃんしか居ない。しばらく来ない間に客層が変わったものだね。時代の流れは早い」

 

「あの…有希ちゃんも蘭ちゃん達に久しぶりって…公開収録あったのほんの何日か前だよ?1週間経ってないし。美来ちゃんもファントムに来るの久しぶり感出してるけど、私達昨日も来たからね?」

 

有希さん達は昨日もファントムに来てたんだ?常連さんかな?

 

少しだけ挨拶をして、有希さん達は盛夏さんに少し離れた席へと案内されていった。

 

「ちょっと蘭。さっきのマカリ?とか、それって何よ?まさかあの子、梓さんの娘?って事は拓斗さんは梓さんに完全にフラれたって事よね?それってあたしも拓斗さんにワンチャンあるって事よね?」

 

あゆみも一応気遣いはしているのか、有希さん達への席には聞こえないよう小声で蘭に聞いていた。

 

「あゆみの声ちっさくでぼそぼそ言っててよくわかんなーい。なっとーウマー。あ、ちなみに娘ってわけじゃないから、ワンチャンとかないとおもうよー」

 

「しっかり聞こえてるじゃない!」

 

蘭が隠すって事は…もしかしたら妹ばぁばさんに聞かされた事なのかな?

って事は、多分、AmaterasuとBreak Bell(わたしたち)には話しても大丈夫な内容なんだろうな。今まではそんな話ばっかりだったし。

 

私も梓さんにそっくりなのには気になるって気持ちもあるけど、春太さん達Canoro FeliceやSCARLETの有希さんとも仲良さげだし。きっといつかわかる時がくるかもね。

 

私はそんな事を思いながら、パンケーキを頬張るのだった。

 

 

 

---------------------------------------------

 

 

 

「さすがですね。まさか私と輝美さんの2人がかりでも、太刀打ちが出来ないとは思っていませんでした」

 

「本当ですよ!さすが香菜さんです!でも、まさか早速私達とデュエルしていただけるなんて…!すごく嬉しかったです!」

 

「あ、あははー。あたしも後輩には負けてらんないなって思って、ガチでやったからね~。でも2人共凄かったよ。もう少しデュエルに馴れたら、あたしの方こそ太刀打ち出来なくなるかも」

 

「いえ、とんでもありません。まだまだ私も輝美さんも荒い部分がありますし、もしよろしければ今後もご指導いただけましたらと思います」

 

「そうですよ。あはは、琴子さんでまだまだなら、私なんてまだまだまだまだまだって思いますし…」

 

「いやいや、2人共すごく上手かったよ。せっかくだから私もデュエルしたかったけど、次の機会だね」

 

「「はい。綾乃さん!次の機会では是非!」」

 

あたしの名前は雪村 香菜。

今日はあたしも授業はないし、綾乃姉のお仕事もお休みだから、まどか姉と綾乃姉に憧れた琴子ちゃんの為に、そして、あたしなんかに憧れてくれた輝美ちゃんの為に、あたしと綾乃姉で琴子ちゃんと輝美ちゃんのドラムを見てあげようって事になったのだ。

 

この後、まどか姉とも合流して、みんなでファントムで晩御飯食べようって事になっているんだけどね。

 

いや、それよりもさっきのあたしと輝美ちゃん達とのデュエルだよ。

何とか意地で勝てたけど、手も足もプルプルしてるよ…。あ~…あたしツーバスで良かった…。

ワンバスだったら、さすがに2人にリズム引っ張られてたかも…。

 

「香菜必死だったね?まだ手がプルプルしてるし」

 

綾乃姉…。

そもそも綾乃姉が『あ、そーだ。せっかくだから香菜と琴子ちゃん達でデュエルしてみたら?』とか言うから、デュエルすることになったんじゃん。

もし負けてたらと思うとゾッとするわぁ…。

 

「デュエルギグ野盗とやり合ってただけあって、デュエル馴れはしてるみたいだけど、やっぱりしばらくドラム離れてたブランクってのはあるよね」

 

「え?」

 

「私もせっかくバンド始めたんだし、おっちゃんのドラム教室終わってからは、あんまり日常的には叩いてなかったし、また初心に戻って練習しないとなぁ…」

 

ブランク?

確かにあたしも英治先生のドラム教室には、高校入ったくらいからは、たまにしか行かなくなってたけど、家にもドラムはあったから、時間ある時は叩いてたし、Dival前のデュエルギグ野盗狩りやってた時も、一応負け無しだったし、そんなブランクとか感じてないんだけど…。

 

「ねぇ、綾乃姉、そのブランクってさ…」

 

「あ、まどかだ。お~い、まどか~」

 

時間には少し早いけど、待ち合わせの場所にはまどか姉が既に待っていた。

綾乃姉は声を掛けながら走って行き、綾乃姉を追うように琴子ちゃんも輝美ちゃんも、まどか姉の方へと走って行った。

 

綾乃姉にそのブランクってヤツ。

何でそう思ったのか、ちょっと詳しく聞きたかったけど、あたし自身はあんまりそういうの感じてないし。

ま、いっか。

 

 

 

 

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あたしの名前は柚木 まどか。

あたしの出番ってホント久々じゃない!?

メインバンドのドラマーだよ!?

しかも結構この物語の中心になってる、BREEZEの元ボーカルが再起したバンドの!

さらにはそのBREEZEの元ドラマーの教え子であり、今んとこそのドラマーの正統後継者だし!

 

などと不毛な事を考えながら、綾乃と香菜、そして、琴子ちゃんと輝美ちゃんを待っているのである。

あたしは仕事の関係で、あんまり文化祭では自由に動けなかったけど、姫咲ちゃんの計らいで決勝大会を観る事は出来た。

 

昔に一緒にドラムを叩いて遊んでいた琴子ちゃんが、まさかBreak Bellのドラマーをやっていると知った時はびっくりしたけど、その時にBreak Bellの演奏を初めて見て、変わらないなぁって懐かしい気持ちきなった。

あたしと綾乃がドラムを教えてたのに、あたし達とは全然違う静かで繊細さのある叩き方。

それなのに周りを引っ張るようなリズム。

 

昔はもっと力一杯に叩けばいいのにってヤキモキもしたけど、今思うとあの叩き方がBreak Bellにぴったりだと思ったし、あんな叩き方を出来る琴子ちゃんの技術はホントに凄いと感動もした。

 

「まどか~」

 

ん?綾乃?

あ、そろそろ待ち合わせ時間か。

あたしも今日は仕事が早く終われる予定だったから、琴子ちゃんとも久しぶりに会いたかったし、みんなでお茶でもしようって事になったけど、綾乃ってあたしを見つけても『まどか~』とか言いながら駆け寄ってくるタイプじゃないよね?むしろステルス機能全開で忍び寄って来て驚かせてくるタイプだよね?

 

「ごめんね、待たせちゃった?」

 

「いや…あたしも今来たとこだよ」

 

え?ほんま何なん?

『待たせちゃった?』とか言うタイプじゃないよね?

いつも待ち合わせの時間になってるのに、綾乃来ないなぁとか思ってたら、既に待ち合わせ場所に来てて、周りと同化してあたし達の様子を伺い、綾乃を待ってるあたし達を見ながら笑ってるタイプだったよね?

 

「良かった~。いつもなら私の方が先に来て、周りと同化しながら、まどかをどう脅かすが考えたりしてるのに、先にまどかの方が来てるんだもん。びっくりしちゃった」

 

ん?ああ…そういう事?なのかな?

いつもはあたしより先に来て待ち構えてるのに、今日はあたしの方が早かったからみたいな?

 

「まどかさん、こんにちは」

 

「あ、琴子ちゃん…。いやぁ、久しぶりだね!こないだの決勝大会観させてもらったよ。最高に楽しいライブだったよ。あ、もちろん、輝美ちゃんもね。Amaterasuも凄かった」

 

「いえ、私達なんてBlaze FutureさんやDivalさんと比べればまだまだです。比べるのもおこがましいと言いますか…」

 

「わ、私もまだまだですよ!で、でも、ありがとうございます!」

 

琴子ちゃんも輝美ちゃんも…もう少し自信持っていいと思うんだけどなぁ。

確かにドラム歴としては、年上のあたしや綾乃、香菜の方が長いんだとは思うけど、あたしらもブランクは長いし、バンドやり始めたってのは、ほぼ同期みたいなもんなんだし。

 

「あ、あとそれとなのですが…」

 

「ん?琴子ちゃん?どったの?」

 

「その…まどかさんに『琴子ちゃん』と呼ばれるのは、少し…しっくりこないと言いますか…」

 

「え?そう?」

 

「まどか姉は基本的に呼び捨てだもんね。タカ兄とトシ兄、英治先生すら呼び捨てだし」

 

いや、香菜も何言ってんの?

確かにタカとトシキと英治は呼び捨てしてるけど、それは昔からの馴染みだからってだけで…。

拓斗さんや梓さん達や、江口くんや一瀬くん達にも敬称付けてるよ?

 

「私も…昔のように『琴子』って呼び捨ていただいた方が…その…嬉しいと言いますか」

 

「ほら~、まどかも琴子ちゃんの事は『琴子』って呼んであげなよ。琴子ちゃんと急に『ちゃん』付けされて寂しいんだよ」

 

「あ、いえ。別に寂しいという訳では…。なくもないと言いますか…」

 

いや、綾乃も『ちゃん』付けじゃん。

あ、でも綾乃は昔も琴子ちゃんには『ちゃん』付けだっけ?香菜の事も昔はちゃん付けだったもんね。

栞には今でもちゃん付けだし。

 

「ん、わかったよ。じゃあ琴子で。

琴子もそしたら昔みたいに『まどか姉』って呼んでくれんのかな?なんて…」

 

「そう呼んでも良いのでしたら…昔みたいにまどか姉さんと…。『まどか姉』とは昔も呼んでませんでしたし」

 

「あはは、そうだっけ?」

 

とか言ったけど、ちゃんと覚えてる。

あたしと綾乃が当時は『タカ兄』『トシ兄』『英治兄』って呼んでのもあったから、あたしらも年下の琴子に『まどか姉』『綾乃姉』と呼ぶように言って、琴子はそれでも『さん』を付けて呼ぶようになったんだよね。

 

「そろそろ行こっか?あ、みんなファントムでいいかな?」

 

「あ、私は全然大丈夫です!そういや今日は蘭さんと真凛さんもファントムに行くって言ってたような」

 

「そうなのね。私も大丈夫ですよ。あゆみと夏希も今日はファントムに伺わせていただくと言ってたわね」

 

へぇ、そうなんだ。

ファントムにも新しいメンツが増えて、これからもっと音楽活動が楽しくなってくといいな。

 

 

 

 

とか思って今回の話を締めるつもりだったんだけど…。

 

「ねぇ、まどか姉」

 

「香菜?どしたん?」

 

香菜があたしに小声で聞いてきた。

 

「綾乃姉に言われたんだけどさ?あたしって結構、英治先生のドラム教室に行かなかった時も、大学入ってからも、ドラムは趣味みたいな感じで叩いてたんだけど」

 

「ん?それがどしたん?綾乃に言われたって?」

 

「あたし、そんなブランク感じるような叩き方になってる?なんか変なクセでも出てるかな?」

 

へ?香菜は何が聞きたいの?

あたしからしたら…う~ん、確かに昔は香菜の才能に勝てないとは思ってたけど、今は…。あれ?そういやあたし…何で英治の後継者選びの時、香菜に勝てたんだろ?

あたし自身もブランクはあったし…。

 

香菜のドラムはDivalの今でも、かなりの腕前だし、あたし自身が香菜には負けないようにって、こっそりドラムも頑張ってたりする。

でも、昔はそこそこ頑張った所で、勝てないって思ってたから、拗ねてドラム教室に行かなくなった事もあったのに。

 

 

 

香菜の話を聞きながら、あたしもゾッとした。

タカは昔、あたしの叩き方が好きだと言ってくれた。そして、Blaze Futureをやっている今も特に何か言われた覚えもない。

でも、タカが好きだと言ってくれた叩き方と、英治の叩き方は全然違うとも昔に言っていた。

英治の叩き方に一番近いのは綾乃だと…。

 

 

それなのに、何であたしは英治の後継者に選ばれた?

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