「フッ…フヒュー…フヒュー……ん!ズルズルズル…」
「はふ…はふ…んぐっ…モグモグ…」
「…暇ですね。給料も入ったしもう少しくらいならいいかな…。すみません、店員さん。替え玉…はスープがもうないか。
しょうがありませんね。濃厚豚骨背脂大ラーメン大盛り、ニンニク激増しのもやしとネギ、おろしニンニクとニンニクチップをトッピング、さらに背脂を増し増しで」
「ブホッ…ケホッケホッ…み、美緒先輩まだ食べるんですか!?」
「マジで…?あたしも天音もまだ食べ終わってないのに…美緒先輩さっきも3回くらい替え玉頼んでたのに…」
「?…何か変かな?」
何か変かな?ってレベルの話じゃないですよね?
あたしの名前は寺川 結月。
美緒先輩に天音と一緒にタカさんの好きだというラーメン屋に連れて来てもらっている。
と、いう話からもう2話も終わっているのに、あたしと天音はまだ注文したラーメンを食べきれていないでいる。正直お腹いっぱいで苦しいくらいだ。美味しいけど。
天音に至ってはまだ半分ちょっとを食べれたくらいで、青い顔してフヒューフヒュー言いながら、頑張って頬張っている。ハムスターみたいに頬が膨らんでいてとても可愛い。
「店長。いつものヤツもう一杯追加ですわ」
「あいよー!」
この火消しの風ウインドと名乗る店員さんも、この店の店長さんも、美緒先輩の追加注文に全然驚いた様子ないんだけど、いつもの事なのかな?
っていうかこの店員さん。やっぱり涼風じゃない?
さっきからラーメンを頬張ってる天音をスマホで隠し撮りしてるし。後で送ってもらえないかな?
「ぷはー!ここのラーメンすごく美味しい。ちょっと量は多いと思ったけど…」
いや、ちょっとどころじゃないでしょ。
てか、まだ結構残ってるみたいだし。あたしもさすがに天音を手伝ってあげるのは無理かな。あたしも自分の分だけで…。
「て、店員ひゃん!あの…か、替え玉お願いしまちゅ!」
店員さんに呼び掛けるのも、替え玉を注文するのも噛んだ!?天音、なんて可愛いの!!
…って、そうじゃないよ!替え玉!?
何で天音は替え玉注文してんの!?めちゃくちゃ苦しそうなのに!
「ちょっと…天音、正気!?まだ具材もスープもかなり残ってるじゃん」
「え?か、替え玉も注文するつもりだったから、具もスープもある程度残しておいた方が…と思って麺を先に食べちゃったんだけど…。も、もしかして全部食べてから替え玉を注文するのがマナーだったのかな?」
いや、そりゃ天音の食べ方で全然問題はないし、むしろスープは残しておかないと替え玉してもって気がするし、具材も残ってた方が、味変とかにもなるしいいとは思うんだけど…。
「あの…ラーメンを愛してる私が言うのもなんですが正気ですか?天音の顔真っ青になってるし…」
「え?そ、そうなの…かな?あ、すずちゃ…じゃなかったっけ。ゼクスさん!あのタ、タカさんもいつも替え玉注文されます…よね?」
「今、このお客様、わたくしの事めちゃ『すずちゃん』って呼ぼうとしてませんでした?わたくしは『すずちゃん』なんて呼ばれるような名前ではありませんわ。そして、ゼクス・マーキスでもミリアルド・ピースクラフトでもありません。わたくしは火消しの風ウインドですわ」
やっぱ天音もこの店員さんの事、涼風と思ってんだろうね。それより涼風は何でラーメン屋でバイトしてるって事を隠したいんだろ?
ラーメン屋のバイトなんて、タカさんをだしにして、天音に毎日来させる事も出来るだろうに…。
-バンッ!!
あたしがそんな事を考えていると、美緒先輩がテーブルを思いっきり叩いて立ち上がり、備え付けのお箸置きが倒れたり、水の注がれていたコップから少し水が溢れたりした。
なのにラーメンのスープは1滴たりとも溢れなかったし、ドンブリも微動だにしなかった。
何なの?ラーメンは溢さないって技か何かなの?
「天音!確かに…確かに!替え玉を制する者はデュエルを制すという言葉があるように!バンドマンとラーメンは離したくても離せない存在です!」
なにその格言っぽいの。あたし聞いたことないんだけど。
「ですが、天音はもうお腹いっぱいでしょう?たかがこの量のラーメンで、お腹いっぱいになる天音の胃袋には驚きを隠せませんが」
いや、あたしからしたら、あんだけ替え玉頼んだ後に追加注文して、そのスタイルを保てる美緒先輩の身体に驚きを隠せないんですけど…。
あ、なんか『チュルチュルチュルン』って食べ方にも驚きを隠せませんでしたけどね。
「いいですか天音。ラーメンとは尊いものなのです。無理して食べるものではありません。それはもうラーメンへの冒涜です。ラーメンとはその麺1本1本、具材の1つ1つ、スープの1滴1滴を感謝し、感動しながら美味しくいただくものなのです。わかりましたか?」
「そ、そんなのは美緒先輩に言われるまでもありません!私、わかってます!」
え?天音わかっちゃってんの?
あたし正直美緒先輩は何言ってんだろ?って思ってたんだけど。確かにラーメンに限らず食事は無理して食べるんじゃなくて、作ってくれた人とか素材になってくれた命とかに感謝しながら美味しくいただくものだとは思うけど。
「もう少しなんです」
「もう少し?」
「はい。もう少しで…ラーメンの先の世界が見えそうっていうか…。それに私、ちゃんと1口1口を美味しいと、感動しながら感謝していただいています!」
…天音も何言ってんの?ラーメンの先の世界って何?
「…!?天音、その目に宿るラー紋は…。なるほど、ラーメンの先の世界…ふふ、さすが天音だね。三咲さんにレガリアの後継者を託されのは伊達じゃない…って事か」
さっきから天音も美緒先輩も何言ってんの?
ラー紋?何それ。そんなヤバいのが天音の目に宿っちゃってんの?バンドもレガリアも関係ないじゃん。
あ、涼風もゼクスの仮面被ったまま、しゃくれるのも忘れて真顔で固まっちゃってるよ。
「すみません天音。私はどうやら天音の事を侮っていたようです。所詮少食女子なのだろうと…」
「そ、そんな!美緒先輩が謝る事じゃないですよ!わ、私なんて…本当にまだまだのチンチクリンですし…」
いや、天音は少食でしょ。
てか、天音って誰にもチンチクリンって言われた事ないと思ってるんだけど、もしかして気に入ってるの?
「店員さん!天音に替え玉を!とびきり美味しい替え玉をお願いしますっ!」
「美緒先輩…ありがとうございます!」
天音もめちゃくちゃはち切れないばかりの笑顔で、ありがとうって言ってるけど、顔色まだ青いよ?本当に大丈夫?食べきれるの?
「てんちょ…替え玉を…1つ追加お願いしますわ…」
ああ、涼風も疲れたのか、とうとう折れてオーダー通しちゃったか。
・
・
・
「美味しかったぁ~…けど、さすがにもう何も入らないかな。お母さんに晩御飯はいらないって連絡してて良かった…」
「あたしも…何だかんだとあたしも替え玉しちゃったし、早く家に帰って横になりたいかも…。あ、ダメだ。この後って夏希とあゆみに、ファントムに集合するよう言われてるんだった」
あたしもさすがに食べ過ぎたって感じだ。
美緒先輩も『スープは全部飲まなくてもいいですよ。太りますし』って言ってたから、あたしも天音もスープを残そうと思ってたんだけど、『ああ…もったいない』とか、『この沈んだところが美味しいのに』とか、あたしと天音のドンブリに残ったスープをガン見しながら、言ってるもんだから、あたしも天音もスープまで全部飲んでしまった。
しょ、正直しばらくはラーメンはいいかな…。
「え?結月ちゃんこれからファントムに行くの?」
「うん。あゆみが何かやらかしてないかも心配だし」
「やらかし?」
う~ん、今日たまたま内山先輩や拓斗さんがいらっしゃったりとかもないとは思うけど、もし、いらっしゃったりしたら、あゆみは何かやからしちゃいそうだしね。
特に内山先輩に宣戦布告なんかしてたらと思うとゾッとする。
「そうなんだ。なら私も一緒に行ってもいいかな?蘭ちゃんと真凛ちゃんも、今日行ってるみたいだし、輝美ちゃんも、香菜さんと一緒みたいだから、もしかしたらファントムに来るかもだし」
「あ、そっか。だったら琴子も来るかも。じゃあ、天音も一緒に行こうか」
「うん。さすがにすずちゃんはバイトだから無理だと思うけど…。どうしてラーメン屋でバイトしてるっての内緒にしてたんだろう?あのゼクスみたいなマスク着けてるのが恥ずかしかったのかな?」
「あ、やっぱり天音もあの店員さんのこと、涼風だって気付いてたんだ?」
「いくらマスクしててもわかるよ。喋り方も独特だし声も…」
「なるほど。2人ともこの後はファントムに行くのですね。なら私も一緒に行きましょうかね。ってか、2人とも涼風の事、気付いてたんだ?ちなみにいつもはあの変なマスクは着けてないですよ」
「あ、そうなんですね。今日はたまたまだったのかな?」
「たまたまゼクスのマスクを着ける日とかあんの?」
こうしてあたし達のラーメン屋での食事会は終わり、この後はファントムに向かう事にしたのだった。
けど、あたしは美緒先輩の何気ない一人言を聞き逃さなかった。
「この後ファントムか。今日は英治さんじゃなくて、三咲さんだから、業務は忙しくないだろうけど、賄い用に置いてあるカップラーメン食べたらお腹もいい感じにこなれるかな」
この後カップラーメンとはいえ、まだラーメンを食べるの?とか、さっきあれだけ食べたのにまだ食べれるの?と、恐怖していた。
そんな時、
「あれ?あまねるに結月ちゃんに美緒先輩まで!こんな所で会えるなんてきっぐぅ~!」
声のした方に目を向けると、蘭と一緒にファントムに行っているはずの真凛が居た。
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-少し前の時間
「いっやぁ~参ったなぁ~。まっさか猫だと思って追っかけてたのがビニール袋だったなんて!ある意味超レア体験じゃね?……って言っても、らんらんもいつの間にか居なくなって1人だしなぁ」
あたしの名前は大沢 真凛。
アマテラスってバンドのギタリストだ。
ってもギターはまだまだ下手だし、練習中なんだけど。
今日はうちのベーシストのらんらんと、ファントムにお邪魔させてもらおうって思ってたんだけど、ファントムに向かう道中で猫を見つけて、らんらんを放置して猫を追っかけてしまった。
そんだらまさか追っかけてた猫がビニール袋で、知らない道まで出てきてしまったものだから、ここが何処なのかわからない。
いつもなら知らない場所でも、スマホのGPSで知ってるところがに戻るにしろ、そのまま何処かに遊びにいくにしろ、ここからファントムに向かうにしろ余裕なんだけど、ちょ~っとスマホ使い過ぎてたのか、電源が切れてたんだよね。
モバイルバッテリーも充電すんの忘れてたみたいだし、マジでどうすっかって感じなんだけど…。
まぁ、適当に歩いてたら交番も見つかるかもだし?マジでヤバくなったら、その辺の地元っぽい人に聞いてもいいし、なんとかなるっしょ。って思ってる。
問題にしてんのはこのビニール袋なんだよなぁ。
このまま捨て置く訳にはいかないし、コンビニのゴミ箱に捨てんのも、持ち込みゴミみたいな感じして気が引けるしなぁ。
「へぇ~。ここって理奈の知り合いの仕立て屋さんなんだ?渚のコスプレでお世話になってるお店と思ってたよ」
「私のコスプレ衣装は自分で縫製してるしね~。ライブ用の衣装は、いつもこのお店で仕立ててもらってるんだよ」
「まぁ直接お店まで衣装を取りに来たのは初めてなのだけど。ここはcharm symphonyの事務所がお世話になってるお店なのよ。そのツテでって感じかしらね」
あれ?もしかしてあの人達って、奈緒さんと渚さんと理奈先生じゃね?
わぁ!マジか!こんな所で知り合いに会えるとか、あたしってラッキー!
「それでそれがハロウィン用の衣装なの?」
「そだよ。そういや先輩が言ってたけど、Blaze Futureってまだ何のコスすんのか決まってないんだよね?」
「そうなの?もうハロウィンライブまで時間ないわよ?」
「そうなんだよねぇ~。最初はザビ家にしようってまどか先輩が言ってたんだけど、ザビ家をやるなら私はドズル兄さんがいいし、盛夏は『笑うなよ~兵が見ている~』とか言い出したからガルマ確定だし。そしたらタカが『あ?なら俺がギレンやんの?あえて言おうカスであると!』とか言ったらまどか先輩が『は?そしたらあたしがキシリア様になるじゃん。タカはあたしに殺されたいの?ってか、あたしは偉いからあたしがギレンだよね?』とか言い出して『は!?アホか!俺がキシリアなんか出来る訳ないだろ!』とか言って盛夏が『イ、イセリナ…イセリナが走ってくる…来るな!来るなぁぁぁぁ!』とか叫び出したからうやむやになっちゃって」
「あの…盛夏の言ってるイセリナ?来るな!ってどういう事なのかしら?」
「あ、理奈はそこわからないんだね。イセリナっていうのはガルマの婚約者で、ガルマが死ぬ直前にイセリナが走ってくる描写があったんだよ」
「ああ…だから来るなって言っていたのね。さすが盛夏ね。そこまでコスも無しになりきるとは。私達も見習わなくてならないわね」
奈緒さん達は何の話してんだろ?
ドズル兄さんとかイセリナとかはわかんないけど、あまねる達が言ってたファントムのハロウィンライブの事かな?衣装がどうこうって言ってたし。
って、そんな事考えてる場合じゃないし。
せっかく会えたんだから、ファントムの行き方聞かないと…。あたしは奈緒さん達に声を掛けた。
「奈緒さん、渚さん、理奈先生!こんちはっす!」
「ふぇ?あ、真凛ちゃん?」
「あれ?ここって真凛ちゃん達の学校から、結構離れてるよね?真凛ちゃんの家ってこの辺?」
「あの…今は撮影中ではないのだし、その理奈先生っていうのは…」
良かったぁ~。
もしここで『誰?』とか言われたら立ち直れないとこだったわぁ。
あ、今は事の経緯を説明しないと…。
あたしはここまでの経緯を事細かに話した。
「へぇ~。真凛ちゃんって猫好きさんなんですか?」
「いや、あたしどっちかと言うと犬派ですね。うちでポメラニアン飼ってますし」
「犬派なのに蘭ちゃん放置して、猫だと思ったビニール袋を追っかけたんだ…」
「わからなくもないわ。私も昔、似たような経験もしたもの。それよりファントムならちょうどいいじゃない。志保と香菜が来たら、ファントムで衣装の試着をしてみるつもりだったのだし」
香菜さん?
あれ?香菜さんっててるみんのドラム見てくれてるんじゃ?
「うん。香菜達もまどか先輩と合流したから、このままファントムに向かうって連絡来たよ。私達もこのまま向かおうか」
「今日は琴子さんと輝美さんのドラムを見てあげてるのだったわね。輝美さん達も一緒だといいわね」
あ、そういう事か。
ドラム見てもらってからのファントムか。
なら、ちょうどいいし、あまねるも来れるようなら、ファントムにアマテラス勢揃いじゃん!
あたしはそのまま奈緒さん達と一緒にさせてもらい、ファントムへ向かう途中で、あまねると結月ちゃんと美緒先輩と会う事が出来た。
ホントあたしって持ってるわぁ~。猫追っかけてたおかげでトントン拍子にいい感じになってんじゃん!
まぁ、その猫はビニール袋だったんだけど。
「ハロウィンライブかぁ。楽しみだなぁ~」
「みんなの予定がわかんないからって、チケットまだ買ってなくて良かったよね。まさか英治さんと三咲さんに招待してもらえるなんて」
「あまねるとスズと結月ちゃんは行けるんだっけ?らんらんとてるみんはわかんないって言ってたけど、あたしハロウィン当日は家のイベントで行けないからなぁ~」
「うちも琴子は無理だしね。夏希とあゆみもちょっと難しいって言ってたし」
そんな事を話ながらファントムに着いて…。
ファントムのバンドの人らもみんな集まって、スズもバイト終わったら来なよって連絡したら、めちゃ急いで来てくれたし。
その時にタカさんと英治さんから、あたしらは正式なファントムじゃなく、研修生って形の雇用になったって話を聞かされて、らんらんの妹ばぁちゃんが、今度ファントムの英治さんにご挨拶をしたいから、って話とかもあったりして。
研修生ってのはあたしはよくわかんなかったけど、ことこんとてるみんとスズが『なるほど。問題ありません』って言ってたから、多分大丈夫なんだろうなって思う。
あゆみんは何か文句言ってたし、内山先輩にも何か噛みついてる感じだったけど。
あたし、今まで色んな習い事とかしてたけど、何でもそつなくこなせてたから、それなりにしか楽しいとか面白いとかとか思った事なかった。
でもバンドやってからは、色々挫折しそうになったり、もう嫌だとか、これまで感じた事のないような事を思ったりする事もあって、それを乗り越えた時とかスッゲー嬉しかったし、今は毎日がめちゃくちゃ楽しいって思ってる。
あの日、あまねるとてるみんに言って良かった。
『バンドやろうぜ!』