バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第2章 魔力

私の名前は氷川 理奈。

今は……ちょっとこれまでのあらましを語る余裕はないわね。申し訳ないのだけれど、前回の話を読んでもらえるかしら?

 

「よっと」

 

高い位置にある窓ガラス。

そこに居た志保に似ている女性が、そこから飛び降り、私達の前に華麗に着地してみせた。

 

間違いなく彼女は志保ではなく、志保に似たこちら側の世界の人だと思わされる。

あんな高い位置から飛び降りて、無事に着地なんて出来るはずがないもの。

 

「あわわわわ…ま、間違いない。ヤツは魔王三銃士の1人、炎帝のシホゥだ…。な、なんでここに…や、ヤバい。ちびってしまった…(小声」

 

英治さんに似た王様が、玉座の陰に隠れながら何かをぶつぶつと言っている。何を言っているのかしら?

 

「フン、異世界から召還されし勇者だっていうから、どんなすごい奴らなのかと思ってたんだけど、大した魔力もないただの雑魚じゃない」

 

私達を近くで見ても何の反応もなし、それに志保が私達にあんな口をきく訳がないもの。やはり別人ね。

 

「皆さん!気をつけて下さい!その魔族は魔族の中でも上位種!その中でも魔王三銃士の名を許された炎帝のシホゥです!」

 

三銃士?

 

「ええ、大丈夫。私達の世界の知り合いに似ているから、少し戸惑ったけど、明らかに別人だとわかって警戒はしているわ」

 

「そ、そうですよね!いくら志保さんに似てても、志保さんが私達にあんな事を言う訳ありませんし!」

 

「ん?そうか?普段の雨宮もあんな感じだと思うんだけどなぁ?」

 

「ああ、江口の言う通りだな。雨宮って普段からあんなんじゃねぇか?」

 

た、確かにたまに志保もあんな感じではあるのだけど…。

 

「勇者殿達!そなた達はこちらの世界にある"魔力"は使えないと聞いておる!魔力の無い者が魔物や魔族に対抗するにはオンガークを使うしかないっ!そなた達のオンガークで炎帝シホゥを倒すのだ!!(小声」

 

あの王様は隠れながら小声で何を言っているのかしら?こちらには全然聞こえないし、正直イライラするわ。本当にひっぱたいてやろうかしら?

 

「み、皆さん!私達の世界には"魔力"というものがあるのですが、異世界の住人である皆さんには魔力がありません!この世界の魔物や魔族に対抗する為には、魔力が必要なんです!」

 

「魔力?」

 

「その…魔法とかそういうのなのかな?」

 

「お!一気にファンタジーっぽくなってきたな!」

 

「けど俺達には魔力が無いって…じゃあ、どうやって魔王とか倒せばいいんだ!?」

 

「オンガークです!異世界の皆さんにはオンガークという、この世界の魔力より凄い力があります!皆さんのオンガークで…」

 

「オンガーク?って、音楽の事よね?」

 

「えっと…だったら演奏すればいいのかな?」

 

「お?なら俺は歌うぜ!」

 

「演奏って…ん?理奈さん、松原!悪い、何でかわかんねぇんだけど、ドラムが出ねぇ!」

 

ドラムが出ない?

…何故かしら、いつもはご都合主義のように楽器を取り出せるのに、私もベースが出せないわ。

 

「私も…ベースを出せないわ」

 

「わ、私もドラムが出せませんっ!」

 

「ん?なら俺がアカペラで歌うしかねーか?」

 

私達は魔王を倒す為にこの異世界に召還され、そして魔王を倒す為には音楽が必要なのよね?

江口くんはともかく私達が楽器を出せないのは…。

私自身も歌えるけれど、演奏がないと…。

 

「オンガークか…。あんなのただのおとぎ話の伝承だと思ってたけど、魔王様も気にされていたわね。

異世界から召還された奴らがいるんじゃあの伝承も眉唾じゃないわよね。あの魔王様がオンガークなんかにやられるとは思わないけど、あんた達にはここで消えてもらうわ」

 

そう言ったシホゥは私達の方へと手のひらを向けた。

 

炎弾(フレイムブレット)

 

そして手のひらから放たれるソフトボールくらいの大きさの火球。

 

「え?」

 

「理奈ねーちゃん、あぶねぇ!」

 

「松原!こっちだ!」

 

「松岡先輩!?」

 

-ドォォォォン

 

先ほどまで私達の居た場所に直撃した火球。

その跡は固そうなお城の床を抉り、小さな火がまだ燻っていた。

 

「手加減したとはいえ、よく避けたじゃん」

 

本気なの?

江口くんが私を押し退け、松岡くんが松原さんを引っ張らなかったら、さっきの火球は私達に…。

もし私達に当たっていたらと思うとゾッとした。

 

「次はどうかな?」

 

そしてまたシホゥの手のひらから火球が放たれた。

 

「クッ…」

 

「うわぁ!」

 

「きゃあ!」

 

「チ、マジか」

 

私達が火球を避けたと思うと、また次、また次とシホゥから火球が放たれる。

 

「アハハハハハ、みんな必死じゃん!」

 

「志保…ちょっ…と、おいたが過ぎる…わよ!」

 

「やべぇ、避けんのに必死で歌う暇が…」

 

「きゃあ!な、何でこんな事に…。いつまでもこんなの避け続られないよ…きゃあ!」

 

「くそっ!何でドラムが出せねぇんだよ!」

 

「うわぁぁぁ!俺の城がぁぁぁぁ!」

 

あの王様は私達よりお城の方が心配なのかしら?

本当にひっぱたいてやりたいわ。

 

 

 

 

「アハハハ…あ~、お腹痛い」

 

「ハァ…ハァ…志保(ギリッ」

 

「ハァ…ま、松岡パイセンも恵美も、ドラム出せそうに…ハァ…ねぇか?ハァ…ハァ」

 

「う、うん、ハァ…ハァ、私もさっきからずっと…ドラムを出そうとしてるんだけど」

 

「江口…お前が歌うしか…ハァハァ…ねぇのに、息が上がってんじゃ…ハァ…ハァ、ねぇか」

 

まるで私達を弄ぶように、避けやすく火球を放ってくる志保。

そのおかげで私達は誰も怪我もしてはいないのだけれど、そろそろ体力的に避けるのも難しくなってきたわ。

 

『俺の城がー』って叫んでた王様は少し巻き添えをくらって、吹っ飛んでいたのが目に入ったのだけど、少しだけスッキリしたわ。

 

「さて、楽しかったけど、そろそろお遊びもおしまいにしないとね。次の攻撃であんた達も後ろの王も消し炭にしてやるわ」

 

シホゥは手のひらを上に向けた。

そしてその手のひらの上でどんどん大きくなっていく火球。

さっきまでの火球はソフトボールくらいの大きさだったから、避けてなんとかなっていたけれど、あの火球の大きさは既にシホゥの身体の大きさより一回りも大きくなっている。

 

ちょっと待ってちょうだい。

あんなのを放たれたら、いくら避けたところで…。

 

「参ったわね…」

 

「あ、あんな大きい火球なんて放たれたら…」

 

「も、もしかして死んじまうのかな?俺達」

 

「くそ、何か…何か手があれば…」

 

「皆の者ー!何をしておるのかー!オンガーク!オンガークで戦うのだー!」

 

「うるさい王様!皆さんもそれが出来たらしてますよ!」

 

ハツゥネちゃんの言う通りね。

音楽で戦う事さえ出来れば…。いえ、でも演奏中にあの火球を放たれてもどうしようもないわね。

 

「エヘヘ、異世界から来た勇者達を倒せば、きっと魔王様もあたしを褒めてくれるよね。あ、どうしよう、ドキドキしてきた///」

 

「魔王様が褒めてくれる…?」

 

「そ、そんな事の為に私達…」

 

「魔王ってタカーって名前だよな?エィジィって王様が英治にーちゃんで、ハツゥネちゃんが初音ちゃん。シホゥが雨宮って事は、タカーってのはにーちゃんなのかな?」

 

「ああ、そうかもな。タカーって名前の知り合いって葉川さん以外にいないし。って江口、今はそんなの関係ねぇだろ」

 

そうね。私もタカーはタカさんの事…というか、タカさんに似ているのだと思うわ。

…待ってちょうだい。タカーがシホゥを褒めてくれる?

しかもシホゥがドキドキするような事を?

 

「さ、そろそろサヨナラだよ。この世界にやって来てしまった自分達の運命をせいぜい呪うといいわ」

 

「ちょっと…待ってちょうだい」

 

「は?何?命乞い?」

 

「あなた…さっき魔王に褒めてもらえると言っていたわね」

 

「///え、ええ、そうよ!実は魔王様もかの伝承は気にしていられたわ。だからあたしが伝承の勇者達を抹殺すれば…」

 

「そんなことはどうでもいいわ。その魔王に褒めてもらえるというのは具体的にどう褒められるのかしら?」

 

「は?何であたしがあんたにそんなこと…」

 

「いいから。こたえなさい」

 

「いや、だから…」

 

「いいから」

 

「だ、だから…」

 

「いいから」

 

「わ、わかったわよ…。冥土の土産に教えてやるわよ」

 

「どんな風に褒められるのかしら?具体的にどんな事を?」

 

「な、何でグイグイくんのよ…。あたしも具体的にはわかんないけど、望みの褒美を与えるとも仰ってたし、あたしの望みもの…ってアレがアレだし…だ、だからきっと」

 

 

 

『そっかシホゥが伝承の勇者達を倒してくれたのか』

 

『はい、魔王様に歯向かう連中に相応しい最期でしたわ』

 

『ま、そんな畏まらなくていいわ。今は俺とお前だけだしな。ほら、こっちにおいで』

 

『そ、そんな!あたしなんかが魔王様の膝の上なんかに///』

 

『ほらおい…「もう、いいわ。黙りなさい」

 

 

 

「だ、黙りなさいって何よ!あんたが聞くからあたしは…」

 

「今まで私達にしてきた仕打ち。

これはちょっとしたおいたとして、見逃してあげる事はできたのだけれど…」

 

「ちょっとしたおいた!?へ、下手したら私達死んじゃってましたけど!?」

 

志保…いえ、こちらの世界ではシホゥかしらね。

もちろんこのシホゥは、私達の世界の志保とは違うし、魔王タカーというのも、私達の世界のタカさんとは違うとわかってはいるのだけれど。

 

シホゥも志保に似ているけど、シホゥの妄想の中に出てきた魔王タカーも、タカさんに本当にそっくりだったわ。

そんな魔王がシホゥを…それも膝の上に乗せて褒めるとか。いくらこの物語がR15だとしても、コンプラ的に許す事は出来ないわ。

 

「ちょっとお仕置きが必要なようね」

 

「え!?理奈ねーちゃんはさっきまでの事より、雨宮の妄想の方が怒りのポイントになってんのか!?」

 

「ハンッ!何を急に怒ってんのか知らないけど、もう遅いわよ。消し飛べ!獄炎爆(ヘルフレア)!」

 

「理奈ねーちゃん!さすがにそれはヤベェ!」

 

「こ、こんなの避けたところで…」

 

「チ、ここまでか。春太、ユイユイ、秋月、すまん…」

 

シホゥから放たれた"物凄い"としか表現のしようがない、 見たこともない炎の渦が、私達に向かって襲いかかってきた。

 

だけど不思議だわ。

さっきまではソフトボールくらいの火球に、恐れを抱き逃げ回っていたのに。

私なら…私のベースなら、この"物凄い"炎を防ぐことが出来る。自信を持ってそう思えて、恐怖を感じる事はなかった。

 

だから本当に…ベースが出せていたらと…。

つくづく思うわ。

 

 

-ドォォォォ……ン!

 

 

「ふぅさすがに終わったわね。爆発の煙で何も見えないけど、あたしのヘルフレアで消し飛ばなかったモノなんてこの世にないし。

帰って魔王様に褒めてもらお~っと」

 

「帰るには早いわよ。まだお仕置きしてないのだもの」

 

「は?てか、何であんたら吹っ飛んでないのよ」

 

ベースを出す事は出来なかった。

だけど、ベースを取り出す要領で、急に取り出せた大きな剣。

 

三日月のように湾曲していて、先ほどのシホゥの炎から私達を守れるくらいの大きさをしている。長さ的にも横幅的にも私の身体の2倍近くの大きさね。

 

私はとっさにシホゥの炎から、私達を守る盾になるように、その大剣を地面に突き立てた。

思惑通りに事が運び、その大剣はシホゥの炎から私達を守ってくれた。

 

地面に突き立てていたその大剣を抜き、片手でブンブンと振り回した。

見た目の大きさに似合わない軽さで、労する事なく自在に大剣を操る事が出来る。

 

「な…んなのよ、それ。そんなのどこから出したってのよ!」

 

確かにどこから出したのか聞かれると、どこから出たのか私自身にもわからないのだけれど…。

 

「連炎弾!」

 

「!?」

 

シホゥが私に向かって、先ほどのソフトボール級の火球を連続で放ってきた。

でも、なんとなくわかるわ。

この大剣の前ではシホゥの炎は意味をなさないと。

 

-ブン

 

私は迫りくる火球を全て吹き飛ばす要領で、横一線に大剣を振った。

 

-ボシュ、ボシュ、ボシュボシュ……

 

シホゥの放った火球は私の大剣に触れる事なく、四散して消滅した。

 

「そんな、あたしの炎が…。いえ、違うわね。あたしの炎を消してるんじゃなくて、あたしの魔力そのものを消してる…何よそれ!反則じゃない!」

 

次々と火球を放ってくるシホゥ。

だけど私はその都度、大剣を振るい、火球を消し飛ばしていた。

 

「やっぱり魔力を…。魔力を消し飛ばす剣とか、あたしと相性最悪じゃない!」

 

シホゥは諦めたのか、それ以上火球を放ってくる事はなかった。シホゥの言う通り、私のこの大剣が魔力を消し飛ばせるのなら、私の大剣の前にシホゥの攻撃は無意味だものね。

だけど、シホゥは逃げる訳でもなく、同じ位置に立ったまま何かを考えているようだった。

 

向かって来る訳でもないから、まだ考えも纏まっていないのだろう。

倒すにしろ追い払うにしろ、今の内しか機会はなさそうね。

 

「もう攻撃してこないのなら、今からお仕置きするわよ?覚悟はいいわね?」

 

「は?お仕置き?」

 

私にはもう1つわかっている事がある。

この大剣を出せるようになってから…、いえ、この大剣を持っているからかしら?

自分自身の身体能力が、私達の世界に居る時より、飛躍的に向上しているのがわかる。

 

シホゥとの距離は空いているし、私の位置からシホゥの所まで行くには、本気で走っても数秒はかかるでしょう。でも、今の私なら…。

 

私は片足で地面を蹴り、その勢いで一瞬にしてシホゥの眼前まで近付いた。

 

「ちょっ…早っ」

 

シホゥは一瞬で眼前まで来た私に驚いていたけれど、私自身も驚いた。ここまで身体能力が上がっているなんて…。

 

「おいたが過ぎたわね。反省なさい」

 

私は大剣を振りかぶり、力一杯にシホゥに叩き付けた。

 

-ドゴォォォォ!!

 

シホゥが立っていた床が大剣に潰され爆散する。

 

「チッ」

 

その場所にはシホゥの姿はなく、爆散して粉々になった床だけだった。

私の大剣がシホゥに当たる瞬間、シホゥは身体から炎をジェット噴射のように出し、高速移動で私のお仕置きを避けたのだ。シホゥの炎にはそういう使い方もあるのね。

 

「何故避けるのかしら?お仕置きにならないじゃない」

 

「バ…バカなの!?避けるに決まってるじゃない!何がお仕置きよ!あんなの当たってたら、今頃あたしの身体もバラバラになってたわよっ!」

 

…確かに思いっきり大剣を振るったのだけど、まさか自分の攻撃力がここまで上がっているとは思ってもいなかったわ。正直シホゥが避けてくれて安心したわ。

でも、そんな事はシホゥに悟られないようにしないといけないわね。

 

「次は避けるんじゃないわよ?」

 

そう言って私は大剣を振りかぶった。

 

ここまで圧倒的な差を見せたのよ?

いい加減逃げるか降参するかしなさい。

 

「冗談じゃないわよ!」

 

シホゥは高く跳び、先ほどシホゥが現れた窓の位置まで逃げた。

そうね。そのまま逃げるのが懸命な判断ね。

 

と、思ったのだけれど、シホゥは再び手のひらを上に向け、そこで火球を作り始めた。

 

「なっ!?雨宮…じゃねぇや。シホゥのヤツ逃げるつもりじゃなかったのかよ!?」

 

「私も逃げてくれたと思ってたのに…」

 

「理奈さんとの圧倒的な力の差を見せられて、まだ何かする気なのかよ。そういう所は俺達の世界の雨宮と同じだな」

 

確かにそうね。

考えてみたら志保は逃げるなんてしないわよね。

私が甘かったわ。

 

「いや、そうか?確かに雨宮も負けず嫌いだし、あんま逃げたりはしねぇけど、渚ねーちゃんと理奈ねーちゃんからはたまに逃げてねぇか?しばかれるとか言いながら」

 

…江口くん、黙りなさい。

 

「ハン!あたしがあんたらなんかから逃げる訳ないじゃない。…確かに力も及ばなそうだし、魔力も消されるなら、あたしには打つ手はなさそうなんだけど…」

 

そう言ったシホゥは、ちらりとこの城の天井の方に目をやった。まさか…。

 

「でもこの城は別よね。あたしの炎でこの城の天井を破壊して、その瓦礫であんたらを押し潰せばいいのよ。

魔力は消せても、物理は消せないでしょ」

 

やっぱり。

このまま下に居る私達を瓦礫で押し潰すつもりなのね。

志保の割には頭が回るじゃない。

 

「今度こそ…本当にさよならよ!」

 

シホゥの作る火球が渦を作り始めた。

さっきのヘルフレアとかいうヤツかしら?

確かにあの炎なら、この城の天井も破壊出来そうね。

 

「でも、そうはさせないわ」

 

「へ?」

 

私は振りかぶっていた大剣を思いっきり振り、大剣から斬撃を飛ばした。

これも何となく出来ると思っていたら、本当に出来てしまったわね。

 

その斬撃は漫画やアニメでいうところの、気とかオーラみたいなもので形造られていて視認出来る。

斬撃に驚いたシホゥは、手のひらの上で作っていた炎の渦を天井に飛ばさず、その斬撃に向かって放った。

 

しかしシホゥの放った炎の渦は、当然のように私の斬撃によってかき消された。

 

「ウソッ…斬撃でも魔力を消せ…きゃああああああ!!!」

 

-ドゴォォォォ…ン

 

「ふぅ…何とかなったわね」

 

シホゥの炎をかき消した斬撃は衰える事なく、そのままシホゥに向かって飛び、シホゥの立っていた窓をその周りの壁もろとろ破壊した。

 

「すげぇ!すげぇな理奈ねーちゃん!」

 

「その大きな剣はどうやって出したんですか」

 

「な、何か斬撃みたいなの飛ばしてましたけど、アレは魔力とは違うんスかね?」

 

あれ程の戦い?と言っていいものかどうかわからないけれど、あんなに動いて、あんな斬撃を飛ばした割には、全然と言っていい程疲れはない。

身体能力も上がっているのだから、体力もきっと上がっているのね。

 

「フハハハハハ!見事だ勇者殿!!まさかあの三銃士の炎帝シホゥを倒すとは!さすがと言わざるしかないぜ」

 

「…倒してないわよ」

 

「へ?」

 

「言葉の通りよ。あの攻撃では倒せなかったわ。多分あの子も無傷ね」

 

「な、何を言っておる勇者殿。あの凄い斬撃でシホゥはきっと倒せてるさ。城もめちゃくちゃになっちまったしよ」

 

「私の斬撃が当たる直前、シホゥは城の外へ高速に移動して逃げたわ。私の位置からはハッキリと見えたもの」

 

そう。あの斬撃の当たる瞬間、シホゥは城の外へと高速移動した。ただ私が気になるのは、さっきのお仕置きの時とは違い、何か大きな力によって城の外へ引っ張られるように移動した。

もしかしたら魔王とか仲間の力かも知れないわね。

 

「そうか…勇者殿達でも三銃士をここで倒す事は出来なかったか。いや、だが、あの三銃士が打つ手もなく勇者殿に追い払われたんだから、次に対峙した時にはきっとな」

 

楽観的ね。

確かに今のシホゥなら私との相性は悪そうだし、私と次に戦う事になっても、私に分がありそうだけど。

あの子の性格上、何の対策もなしに私に挑むとは考えにくいわね。

 

見た目が志保だから出来るだけ傷つけたくないのだけど…。この場で倒しきれなかったのは痛手だわ。

 

「さぁ!勇者殿!このままここに居ても元の世界には帰れまい!って訳で今からサクッと魔王を倒してきてくれよ」

 

本当に楽観的ね。

今ならひっぱたいても問題ないんじゃないかしら?

 

「王…その者達は勇者ではありません…」

 

「おお!そうか!ハツゥネもそう思うか!だよな!この者達は勇者……え?勇者じゃない?」

 

「はい…オンガークをカナデール為に必要な楽器ではなく、大剣を出したのでおかしいと思い、私の占術で異世界からやって来られた皆さんを視てみたのですが…」

 

音楽を奏でる楽器…ね。

楽器は楽器なのね。でも、確かにおかしいわね。

1000年前…まぁ、あの時に召還されたのが、BREEZEとArtemisだったとしても、その時は音楽で魔物や魔族と戦ったという話なのに、何故私達は…。

 

「ハツゥネ!いったいどういう事なのか!?」

 

「はい、王様。先ほど私は我が占術師代々伝わる究極占術『ア・タールモ・ハズ・レールモ・ハッケ』を用い、占ってみました」

 

「なんだと!?あの禁忌と言われた『ア・タールモ・ハズ・レールモ・ハッケ』を!?まだ幼いお前は…そんな禁忌を…」

 

当たるも八卦外れるも八卦かしら?

 

「はい。私の身よりこの世界の未来の方が大切ですから…」

 

「あの、その禁忌っていうの使っちゃうとどうなっちゃうんですか…?」

 

「まさかハツゥネちゃんの寿命が削られるとかか!?」

 

「江口、あんまりそういうのは…」

 

「いえ、寿命が削られるとかはないのですが、禁忌を使うと明日の朝にニキビが1つ出来ちゃうんです」

 

ニキビ…。

 

「何か心配して損したな」

 

「渉くん!ニキビって女の子には大変な事なんだからっ!」

 

「それで。その禁忌を使って何がわかったのかしら?」

 

「はい。今から説明させてもらいますね。

私と王が行った召還の儀式。あの儀式自体は成功とも失敗ともいえるもので、オンガークを使役する勇者様の1人を召還することが出来たみたいです」

 

オンガークを使役する勇者?

 

「ん?まさかそれって俺か?こん中なら楽器は出来ねぇけど、俺ボーカルだし」

 

確かに。

私もcharm symphonyの時はボーカルをしていたけれど、今はDivalのベーシスト。

そうなると江口くんが一番勇者の可能性があるわね。

…だったら大剣を使う私は何なの?って感じだけれど。

 

「いえ…どうやらその召還では、勇者様だけを召還するはずが、勇者様の近くに居た人達もまとめて召還してしまったようでして…」

 

「俺じゃなかったのかよー!」

 

「渉くん残念だったね」

 

「俺も江口じゃないんじゃないかな?と思ってたぞ?シホゥには何も対抗出来てなかったし」

 

「それで…勇者というのは?」

 

「すみません、その召還で呼ばれた人が多かったみたいでそこまでは…」

 

「召還で呼ばれた人が多い?」

 

「って事は私達だけじゃなくて、美緒ちゃん達もこの世界に呼ばれたかも知れないって事かな?」

 

「それってヤバくねぇか?魔物とかと戦うには魔力が必要で…魔力が使えない俺達は音楽で戦うしかないけど、楽器が出せねぇ状況だしよ」

 

「そうね。事情を知らないまま大変な事になってもと思うし、悪いのだけれど私達は魔王を倒すより、他の召還されてしまった人達と合流したいと思うわ」

 

「大丈夫だって。魔王倒しゃきっと元の世界に戻れるしよ。チャチャっと魔王倒したらいいんだよ」

 

この元凶が…。本当にひっばたくわよ?

 

「すみません、私も何人が召還されて、召還された方が何処に居るかまでは…。ですが、この世界は広いですけど、召還の儀式に使った魔力は少ないので、きっと近くには居るかと…」

 

「ん~…なら音楽じゃないと魔王は倒せないっていっても、理奈ねーちゃんの剣スゲーし、もしかしたら魔王も倒せるかもだし…」

 

「そうだな。魔王を倒す旅の途中で、もしかしたら召還された人達と合流出来るかも知れないですし、闇雲に探すよりは魔王を倒す方が早いかもっスね」

 

確かに…近くに居る可能性はあっても、近くに居ない可能性はある。何の手掛かりもないまま探すよりは、江口くんと松岡くんの言う通り、魔王を倒して元の世界に戻る方が現実的かも知れないわね。

魔王がタカさんなら、物理攻撃で何とでも出来そうだし。

 

「あの…ちょっと聞き流しちゃいそうだったんですけど、儀式に使った魔力が少ないっていうのは…」

 

「ああ、それな。召還の儀式には、魔力ってより使用者の寿命ってのが必要でな。1000年前の魔導士さんは3日分の寿命使ったらしくてな。俺は怖かったから、俺が15分の寿命とハツゥネの3時間の寿命しか使わなくてな」

 

「私達がビビって寿命をケチったばかりに…。申し訳ございませんっ!」

 

「…だから失敗したんじゃねぇか?」

 

「1000年前は3日分で8人の勇者を呼べたのに…。合計で3時間15分…」

 

「何で王様がハツゥネちゃんより短い寿命しか使ってないのかしら?いいわ、今からひっばたくから歯を食いしばりなさい」

 

「ハァ…本当にとんでもねぇな。それで俺もハツゥネちゃんに聞きたい事があんだけどいいかな?」

 

松岡くん?ハツゥネちゃんに聞きたい事?

とりあえず王様を思いきりひっばたく事が出来たから、私は問題ないわ。

 

「私に聞きたい事ですか?あ、王様、鼻血出てますよ。ティッシュいります?」

 

「えっと、勇者を呼べたってのは、禁忌を使ってわかったって言ってたけど、その勇者が何処に居るかはわかんないんだろ?それでどうやって俺達の中には勇者は居ないってわかったんだ?」

 

それもそうね。

確かに楽器を使って音楽を…となれば。

私でもないし、楽器を使わないボーカルの江口くんっていう線もなさそうね。

 

「あ、それなのですが、私達占術師には人のスキルを視る鑑定スキルがデフォで備わってまして。皆さんのスキルを視させていただいた時に、リナさんは勇者ではなく、伝説の職業である狂戦士(バーサーカー)で、スキルは『魔力を破壊する』という事がわかったんですよ」

 

バーサーカー?この可憐な淑女である私が?

 

「そしてエミさんは女神官(プリーステス)である事がわかりました。スキルは『傷を癒す』事が出来るそうです」

 

女神官…!何て羨ましい!

私もそんな女性らしい職業でも…。

 

「傷を癒すってどんくらいのケガなら治せるんだ?骨折しても大丈夫とか?」

 

「そ、そんな凄いスキル私が持ってる訳ないよ…。せいぜい擦り傷とか、そんなちょっとした怪我くらいじゃない?」

 

「ちなみにハツゥネちゃんの鑑定スキルは、松原のスキルがどの程度なら治せるかわかるのか?」

 

「はい。わかりますよ。半身が吹き飛ばされても、脳か心臓が無事なら再生できるみたいです」

 

とんでもないスキルじゃない。

 

「なぁなぁ!俺は!?俺にはどんなスキルがあるんだ!?」

 

「ず、ズルいぞ江口。俺だって気になるし。ハツゥネちゃん、俺にはどんなスキルが…」

 

「き…聞きたいですか?」

 

何て悲壮感漂う顔をしているのかしら。

 

「え…と、そんな風に言われちゃうと別に…」

 

「そ、そうだな。知らなくてもいい事もあるもんだしな」

 

「江口くんと松岡くんには、どんなスキルがあるのか早く聞かせてもらえるかしら?」

 

「「理奈ねーちゃん(さん)!?」」

 

「いや。渉くんも松岡先輩も覚悟決めて聞きましょうよ。もしかしたら私達の今後に役立つスキルかも知れませんし」

 

「そうよ。勇者のついでとはいえ、私達はこの世界に召還されたんだもの。全く役に立たないスキルなんて事があるはずないわ」

 

「確かにそう言われるとそんな気もしますけど…」

 

「確かに理奈ねーちゃんの言う通りだよな!よし、ハツゥネちゃん!俺のスキルを教えてくれ!」

 

「…わ、わかりました。ワタルさんは村人Aです。スキルは村の入り口で『ここは○○の村だ』と村の案内を1日中やっても疲れる事がないそうです」

 

村人A…。

あ、江口くんがらしくなく、真顔で硬直しちゃってるわ。

 

「それでトウマさんが…」

 

「あ!やっぱりいい!俺は聞きたくな…」

 

「農民Aでスキルは『食べられる野草がわかる』です…」

 

「…なんだ、役に立ちそうじゃねぇか。こんな世界だから旅の途中に食料に困る事もあるだろしな」

 

「あの…すみません、食べられる野草大百科って本が、この世界の道具屋ではもれなく売ってまして…。それに私達の都合で皆さんを召還したんですから、ある程度の食料や水とお金はご用意させていただきますし…」

 

「江口くんと松岡くんのスキルが役に立たないというのがよくわかったわ」

 

「り、理奈さん…あの、きっと渉くんと松岡先輩のスキルも役に立ちますよ!」

 

「ここは○○の村だって案内しても疲れないだけなのにか?」

 

「食べられる野草大百科って本が売ってるのに、食べられる野草がわかるだけのスキルだぞ?」

 

「あぅ…」

 

けど仮に…本当に江口くんと松岡くんがこの世界に召還された事には意味があって、あの2人のスキルも元の世界に戻る為のキーだったとしたら…。

 

どう考えても全然役に立ちそうにないわね…。

 

 

 

 

 

 

「ほ、本当にこんなにお金とアイテムを頂いてもいいんですか?」

 

「もちろんだ。まぁ、俺にはそんくらいしか出来ないしな」

 

「へへへ…どうだよ松岡パイセン、理奈ねーちゃんと恵美の装備はあんなに防御力も高そうでかっこいいのに、俺のこの装備…本当に村人みたいだろ?」

 

「王様が好きな装備をくれるって言ってくれたのに、俺と江口は布の服しか装備出来なかったもんな…。あ、そういや王様がくれるってアイテムの中に『食べられる野草大百科』があったから、貰ってきてやったぜ」

 

「それでこの道のりを真っ直ぐ行けば、サイショーの村という所があるのね?」

 

「はい。そこは村とは言ってもすごく発展してまして、ギルドも大きいので、皆さんの世界の方もいらっしゃるかも知れません」

 

「そう、ありがとう。江口くん、松岡くん、松原さん、行くわよ」

 

「お、おお…」

 

「はい…そうスね…」

 

「皆さん!頑張って下さいね!」

 

「きっと魔王を倒してくれよな!魔王倒しちまったら、元の世界に戻るだろうし、お前らとは2度と会う事はないと思うけど」

 

そうして私達の長いのか短いのかわからない旅が始まったのだった。

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