バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第3章 あの時と同じ風景

「あの…拓斗さん、さっきのお話って本当なんですか?」

 

「そんな…やっぱりタカさんって素敵!」

 

「え?今の拓斗さんの話に貴兄が素敵って思う所ありました?」

 

「いや綾乃。確かにさっきの俺の話の中には、タカが素敵なんて要素はなかったが、あの頃のタカはいつも素敵だったさ」

 

「…拓斗さんとちゃんとお話するのは、多分今日が初めてなんですけど、ちょっと気持ち悪いですね」

 

「ですよね。ケホッ、私も拓斗さんとは、半年くらいの付き合いになりますけど、こういう所は今でも気持ち悪いって思います。ケホッケホッ」

 

「何なんだこいつら。こんな状況でも俺をディスる余裕があるとか、心臓が鋼かなんかで出来てんのか?」

 

「だからね、拓斗さん。そういう言い回しが…」

 

「ああ、今のはタカがよく使う言い回しだ。あいつの真似をしてみただけだ」

 

「とてもセンスがあってカッコいいと思う」

 

「え?架純さんともまともにお話するの、今日が初めてだと思うけど、架純さんもアホの一派なの?」

 

「拓斗さん!僕はさっきのお話も含めて、拓斗さんはカッコいいと思ってますよ!」

 

「ああ…ありがとうな、拓実」

 

俺の名前は宮野 拓斗。

俺達はさっきまでファントムに居たはずなんだが、急に地震に襲われた。

そして目が覚めると、そこはだだっ広い草原のど真ん中で、そこには俺と内山 拓実、北条 綾乃、御堂 架純の4人が居るだけだった。

 

ちょうど同時と言っていいくらいのタイミングで、目が覚めた俺達は『ここは何処なのか?』と戸惑いはしたが、俺には見覚えのある風景で…。

今、こいつらに俺が『何故ここに見覚えがあるのか』そのあらましを説明し終わった所だ。

 

「でも魔界かぁ。まどかとか奈緒なら『異世界転生キター!』と言いながら喜びそうだね」

 

「私も異世界転生物はよく読んでますけど、私達転生した訳じゃないですし、ケホッ、魔王ってのを倒さないとってなると、う~ん、さっきからギターも出せないし、どうしたらいいんだろう?ケホッ、チュートリアルっぽいのもないし」

 

「あ?架純、今なんつった?ギターが出せないだと?」

 

「うん、全然出せる気配ないんだけど…」

 

「僕も…晴夜を出せないみたいです」

 

架純も拓実もだと?

確かに俺も今はベースを出せる気配はしねぇが、そもそも俺達は前の戦いで『勇者の力』を失ってるからな。

それが原因でベースを出せねぇんだと思ってたが、何で拓実も架純も楽器を出せねぇんだ?

 

「綾乃、お前は…」

 

「私も無理みたいですね」

 

チ、綾乃までもか。

俺は辺りを見回してみた。

 

確かにあの山、あの城、この辺りは全体的には見覚えはあるんだが、この草原がどこなのかはわからねぇ。

あの城の方に歩いて行けば、村か町かはあるだろうが、下手に動いて魔物か魔族と出くわしても戦う術がねぇ。

 

何だって今さら俺達は魔界なんかに召還されちまったんだ。っていうか、あの時の事は夢だったって思い込もうとしてたのに、現実の事だったって思いしらされたじゃねぇか。

 

いや、これもまだ俺が見てる夢だってワンチャン…。

 

「ねぇ、拓斗さんこれからどうする?」

 

「あ?どうするって?」

 

「そうだね。いつまでもここに居る訳にはいかないですし…」

 

「あのなぁ。さっきの話聞いてたか?この辺には魔物や魔族がウジャウジャ居て、楽器がねぇと俺達異世界人には対抗策が…」

 

「ケホッ、だからってここを動かない訳には…」

 

「ここには食べ物も水もないですしね」

 

確かにこのままここに居てもな…。

だがどうする?楽器があって演奏が出来てたからって、俺達だって、魔族や魔物との戦いでヤバかった事もある。魔王にゃ全然歯が立たなかったしな。

 

ここに残って仲間の助けを待つか。

いや、そもそもこっちの世界に、他の奴らが召還されてるかどうかがわからねぇ。

こっちに来てんのが俺達4人だけなら詰みだ。

 

となると、ここから移動するって事になるんだが、あそこに見えている城。

アレは間違いねぇ。昔俺達が倒した魔王の居城だ。

魔王が復活してるとしたら、俺達が召還された理由はおそらく魔王の討伐。

 

魔王を倒す為にあの城に行くのがベターだとは思うが、楽器もねぇんだから演奏が出来ねぇ。

ってなると魔王にわざわざ倒されに行くだけだな。よし、魔王城に向かうのは無しだ。

 

そしてこの世界の地理に詳しくない俺達は、あの山の向こうにある人間の住む城下町を目指すしかねぇ。

昔も道中に村と町もあったから、城下町に向かう途中に村か町を発見出来る可能性はある。

だがあの山は魔物の巣窟だったもんな。あの山越えねぇと町も村も見つからない可能性もあるって事だ。

 

……どの選択肢も詰んでんじゃねぇか。

どうする?あのBREEZE(あほたち)ならどうするだろうか?

 

『いや、無理無理。楽器もねぇんだから戦えないって。ここで寝てたらいいんじゃね?どうせ梓達も来てるだろうし、あいつらがやってくれるって』

 

タカなら面倒くさいってのを理由にそう言いそうだな。

 

『一旦王様に話を聞きに行こうよ。取り敢えず俺達がどうしてこの世界にまた召還されたか、状況を知った方がいいんじゃないかな?』

 

トシキなら万全を期す為にそう言いそうだな。

 

『あん?楽器とか演奏とか関係ねぇよ!こっから一番近いのは魔王城だしよ!魔王をぶっ倒しに行こうぜ!』

 

とか言って魔王城に向かいそうだよな。

ってなると結局バラバラじゃねぇか。

となるとArtemis(あずさたち)か。

 

『もうめんどくさ~い。歩きたくな~い。あ、いい事思いついた。いっそここにあたし達の国を建国しちゃおうよ』

 

『ナイス日奈子!って訳なのでトシキさん。まずは私達の家を造る為に、そこの森に材料を取りに行きませんか?2人っきりで』

 

『ここに建国って事はタカが王様になりそうだよね。って事は、梓は女王様ってより群れの長って感じだし、女王様は私…。って事はタカの妃は私か』

 

『あ?澄香。あたしが群れの長ってどういう事?上等やん、表出ろ。どっちが正妻か戦争だ。第2次正妻戦争勃発!』

 

とかになって魔族や魔物と戦うより危険な状況になりそうだよな。くそ、マジでどうする?

 

「…く斗さん」

 

いや、待てよ。そういや、今の日奈子(俺の妄想)の案って意外とアリじゃねぇか?

ここに建国するって事は、俺も梓と一緒に住めるって事だろ?もう毎日が天国じゃん。

 

「拓斗さん」

 

いや、待て。ちゃんと考えろ俺。

確かに梓とひとつ屋根の下というメリットはあるが、建国となると色々とやっかいな問題があるな。

食料や水はもちろん、国民も必要になってくるだろうし、魔王達を含めた隣国との政治となると…

 

「拓斗さん!!」

 

「うぉ!?拓実どうした!?いきなりでかい声出しやがって」

 

チ、俺とした事がうっかり妄想の世界に浸っちまってたぜ。今はこいつらを守る事だけを考えないとな。

 

「あの…架純さんも綾乃さんも、あっちの方に歩いて行っちゃいましたけど…」

 

「チ、あいつら俺の話をちゃんと聞いてやがったのか?勝手な事ばかりしやが……」

 

って、ちょっと待て!

架純も綾乃もあっちの方に歩いて行ったって何!?

あ、ほんとだ。いつの間にかあんな遠くを歩いてる。

 

「お前らちょっと待てぇぇぇぇ!!」

 

俺は全力で架純と綾乃の元まで走った。

良かった。拓実も俺より少し遅れてはいるが、ちゃんと俺に着いてきてくれてるな。フッ、可愛いやつめ。

 

そして可愛くないのはこいつらだよ。

 

「わ、びっくりした。ケホッケホッ」

 

「拓斗さん。急に叫びながら走ってくるとか、本当に怖いんですけど」

 

「お前ら何で勝手に行動しちゃってんだよ。俺の方がびっくりだよ。そして俺はお前らの行動力が怖いわ」

 

くそ、確かにびっくりして叫んでしまったが、この辺には魔物も魔族も居ないとはいえ、今の声で気付かれてしまったかも知れねぇ。そうなると色々と厄介だな。

 

「あのなぁ?お前ら本当に俺の話聞いてたか?お前らが歩いて向かってる城は魔王城だって言っただろ?」

 

「こんな異世界だし、私達の世界と同じ時間経ってるのかとか、ちゃんと同じ時間軸でこの世界が進んでるのかわからないけど、私達の位置から一番近いのはあそこのお城ですし…」

 

「拓斗さん達が魔王を倒した後なら、あのお城にはもう魔王も居ないと思って。ケホッ。それに拓斗さん達が前に来た時間軸より前だったとしても、拓斗さんの話だと魔族や魔物で蔓延る世界だったんでしょ?この辺には魔物も魔族もいないから。ケホッ」

 

「だ、だから…ハァハァ、安全だと思って魔王城に向かって…たんですか?ここらに魔族や魔物が居ないのは…たまたまかもしれませんし…ハァ…フゥ」

 

そうか。確かに架純と綾乃の理屈なら、魔王を倒した後の世界なら平和になっている可能性はあるな。

仮に俺らが前回来た時間より前の世界だったとしても、まだ魔王が顕現する前の世界かも知れねぇ。

 

だが、同じ時間軸で、あの山や城下町の方に過去の俺達が居て、そっちに戦力を置いているから、ここら辺は割と平和だって可能性もある。俺らが前に来た時の魔物や魔族とのエンカウント率はクソゲーレベルに引っ切り無しだったしな。

 

そして拓実。いくら全力疾走だったとはいえ、この距離走っただけで息切れしてるようじゃ、ライブでもたねぇぞ?よし、しょうがないから元の世界に戻れたら、俺直々に鍛えてやる。バイトない日に。

 

だが、それよりもこいつらだ。

 

「確かにあのままここに居ても光明は見えねぇし、行動を起こさないと、どうにもならなかったと俺も思う」

 

「ほら、だったら近い魔王城に向かった方が」

 

「綾乃さんのいう通りだよ。ケホッ」

 

「だけど危険な世界って事には変わりねぇだろ。情報が少なすぎるんだよ、情報が」

 

って言ってもあのままでも情報なんか手に入らなかったと思うけどな。

 

「だからってあそこに止まるのはナンセンスでしょ」

 

「そうだよ。情報集めの為にも何処かに移動はしなきゃ」

 

「だから、それを4人で話し合うべきだってんだよ。

架純、お前はここに居たのが俺じゃなくて、タカだったとして、ここで待とうって言われたら、勝手に行動なんかしないだろ?」

 

「ここにタカさんが!?ケホッ。

確かに勝手に行動はしないかな…。ここに建国して2人で暮らす方法を考えるかも…」

 

何でここで俺の妄想と同じ建国案が出てくるの?

ってか、2人で暮らすって綾乃と拓実はどうなんの?

 

「…綾乃。お前もだ。ここに居たのが俺じゃなくて、英治かトシキだったとして、ここで待とうって言われたら、勝手に行動なんかしないだろ?」

 

「いや、おっちゃんだったら大した案も出そうもないし、役にも立たなそうだから勝手に行動しますかね。多分こうやって話を聞く事もないかと。でもトシ兄だったら…う~ん、取り敢えずここに農園でも築いて、気ままに農家ライフとか目指してたかも?まどかの持ってた本でそんな感じのがありましたし」

 

お前、一応英治の弟子だよね?何で話も聞かないの?

ってかトシキとなら農園ライフしちゃうの?やべぇ、確かにあいつなら、やりかねないとか思っちゃう。

 

「う~ん、ここに居るのが拓斗さんじゃなくて、タカさんだったら、建国までいかなくてもここらに居心地のいい空間作って『いやいや音楽出来ねぇなら動くだけ無駄だって。どうせ梓達も来てるだろうしここでゴロゴロしてたのでいいって』とか言いそうですし、トシキさんなら『情報が足りないから思いきって城下町目指しちゃうか。城下町に向かう道中に村とか町もあってそこで情報収集出来るかも知れないしね』って言って山の方に向かうと思いますし、英治さんなら『前に魔王を倒せたんだし、今回も倒せるって。魔王城に向かってチャッチャと帰ろうぜ』とか言って魔王城に向かいそうですよね」

 

何なの拓実。ほぼ俺の予想と合ってるじゃん。

お前いつの間にBREEZE博士になったの?

 

と、俺がふと思って拓実を見た時、拓実の首元を狙うかのような鋭い光が俺の目に映った。

 

「拓実っ!」

 

-ドカッ

 

「うわっ!?」

 

「おお!拓斗さんかいきなり内山くんを蹴った…!ケホッ、これはタカさんに報告しなきゃ!」

 

「私と架純さんはともかく、拓実くんは拓斗さんに従順だったのにいきなり蹴り入れるなんて…」

 

「痛たたた…。た、拓斗さん、何で僕蹴られたんですか!?」

 

「拓実すまん。だが、今お前の首元に…」

 

そこまで言った時、次は綾乃の首元に鋭い光が見えた。

 

「綾乃!」

 

「え?わ、きゃあ!」

 

-ドサッ

 

俺は綾乃の手を引っ張った。

いきなり手を引っ張って、俺の方へと引き寄せたもんだから、綾乃はバランスを崩して転けてしまった。

 

「ケホッケホッ、今度は綾乃さんを引っ張って倒した…こ、これは梓さんに報告しなきゃ…」

 

「た、拓実くんにはパワハラで、私にはセクハラ…。どうしよう、しかるべき所に出ないと…」

 

「拓斗さん、いきなりどうしたんですか?」

 

やっぱり気のせいなんかじゃねぇ。

さっきまで綾乃が居た所の足許、そこに何かで切り付けたような跡が出来ている。

鋭い光が見えたのは一瞬だったし、何の物音もしなかったが間違いねぇ。これは魔族の攻撃だ。

 

そこまで考えが至った時、背筋にゾクゾクとする緊張感のようなものが走り、俺は慌てて身を屈めて転がった。

 

-ゴロゴロゴロ

 

「こ、今度は拓斗さんが奇行を…。こ、これは明日香に今後気をつけるように注意しとかなきゃ」

 

「やっぱりBREEZEの人は変だなぁ…」

 

「た、拓斗さん!本当にどうしたんだろう?って心配になってますけど、転がる拓斗さんも僕はカッコいいと思ってますからっ!」

 

こいつら気付いてないのか。

くそ、これじゃ本当に俺って変な人じゃん。

 

「チ、いちいち説明すんのもめんどくせぇ!多分、俺達は今魔族から攻撃されている!周りに警戒しろっ!」

 

「え?攻撃?ケホッ」

 

「警戒しろって言われても…」

 

「ぼ、僕には全然わからなかったんですけど」

 

-キラッ

 

今度は俺の頭上が光った気がした。

 

「チッ!」

 

俺はその場から逃れるように、また転がりながら移動した。その直後。

 

-ドンッ!

 

先ほどまで俺の居た所に、何かを落としたような衝撃が走り、地面が少し抉られていた。

 

「え!?何!?」

 

「地面が急に爆発した?」

 

「本当に…攻撃されてたんだ…」

 

俺達は地面が抉られた場所から離れ、1つの場所に集まり周りを警戒する。

 

それから少しの間、何も起こる事がなく、静けさだけが過ぎていく。

 

「ふぅ~ん、偶然かなぁ?って思ってたけど、もしかして本当に見えてるのかな?」

 

地面が抉られた場所。

そこには何もないはずなのに、何故か声はそこから発せられているように聞こえた。

 

「もっかい試してみよーっと」

 

何もないはずの場所から、そんな声が聞こえた直後。

 

「ケホッ、みんな避けて!」

 

架純が俺達を押し出し、架純自身も飛び退くようにその場から離れた。それからすぐに俺達の立っていた場所の地面が抉られる。

 

「私にも…今何か光ったのが見えたから。ケホッ」

 

「見えない所からの攻撃?って訳でもないのかな?拓斗さんと架純さんには見えたんだし」

 

「ぼ、僕は全然わからなかったです」

 

「ああ、俺も今のは気付かなかった。架純、助かったぜ」

 

俺達が地面の抉られた場所を見ていると。

 

「う~ん、本当に見えてるみたいだね。攻撃に入る瞬間は魔力が途切れちゃうんだけど、それってほんの一瞬だし、それを見極めれる人が居るなんてびっくりだよ」

 

また見えない所から聞こえる声。

 

だが、今度はその声のした所の空気が歪み、そこから大きな鎌を持ち、黒いフードを被った人物が現れた。

見るからに死神って感じの風貌だ。

 

「拓斗さん…もしかしてこの人が魔族…か、魔物ですか?」

 

拓実の問いに頷く。

間違いねぇ、こんな風貌って事はこいつは魔族だ。

 

「ねぇ、ここらじゃ見ない身なりだし、取り敢えず攻撃しちゃったんだけど、もしかしなくても勇者?」

 

「勇者かどうか?ってんなら俺自身も知りたいくらいなんだけどな。テメェ魔族だな?」

 

「うん、正解。てか、あなた達勇者じゃないんだ?異世界人ぽいのに」

 

さっきまで隠密で攻撃してきた割には、よく喋る奴だな。

 

「てかてかてか。やっぱ異世界人だよね?…うん、異世界人にけって~。魔王様も懸念してたし、サクッと殺っちゃお~と」

 

「殺っちゃうって…○っちゃうじゃない所が、私達の世界とは違うって感じしちゃうね」

 

「でもどうします?私まだギター出せないんですけど…」

 

綾乃も架純も何で割と余裕そうなの?

あれ?俺の話し方って何か悪かった?そんな危機感ない内容だった?

 

って、こいつらはいいとしても、魔王様…か。

この世界の"今"には、俺の知る魔王か、俺の知らない魔王か…。どちらにせよ魔王が居るって事だな。

俺はともかく何でこいつらが楽器を出せねぇんだ…!

 

そんな事を考えていると、魔族のやつが大きな鎌を振り上げて俺達に迫ってきた。

 

「クッ…!」

 

俺達はその場から飛び退くように離れたが、魔族が『えいっ!』と軽く鎌を振り下ろしただけで、とんでもない斬撃が地面を抉り、その衝撃波で拓実と綾乃は吹っ飛ばされてしまった。

 

「拓実!大丈夫か!?」

 

「だ、大丈夫…です。でも、あんな攻撃まともに受けたら…」

 

「綾乃さん!ケホッ、ケホッ」

 

「大丈夫だよ。ちょっとびっくりしただけ。それより架純さんも落ち着いて…」

 

「油断してくれてる今なら、さっきので殺っちゃえると思ったのに避けられちゃったか。次はもっと思いっきりやろーっと」

 

次は思いっきりだと…!?

まずいぞ…あれ以上の攻撃なんか…。

チ、どうすりゃ…。

 

「覚悟はいい?覚悟出来てなくてもやるけど」

 

「ま、待てよ!ちょっと話しようぜ!」

 

「え?命乞い?それとも時間稼ぎかな?ごめんね。早く帰ってボーッとしたいから待てない」

 

ボーッとしたいから!?

くそ、こいつらが何とか楽器を出せるまでの時間稼ぎをと思ったが…。

 

「あの?魔王ってどんな方なんですか?魔王が私達を殺ってこいと?」

 

綾乃?さっきの攻撃の衝撃波で腕をやられたのか、腕を押さえならが魔族に語り掛けている。

 

「んー?魔王様は直接は言ってないかな?異世界から召還される勇者達ってのを邪魔だか何だかみたいだけど?しーちゃんが変な魔力感じたって言うから嫌々出てきたけどビンゴだったみたいな?」

 

魔王が俺達を殺ってこいって命令した訳じゃないのか。てか、しーちゃん?何者だそいつ。

 

「魔王様ってのが直接命令した訳じゃないなら、私達はやっつけちゃうより捕虜にでもして、魔王様に献上する方がいいんじゃないですか?ケホッ」

 

「あーあたしも最初それ思ったんだけどね。しーちゃんが殺った方がいいって。その方があたしにもメリットあるし」

 

しーちゃんって奴がそもそもの元凶か?

そして俺達を殺る事でこいつにメリットだと?

 

「何で俺達を殺る事でお前にメリットが?俺達は勇者なんかじゃねぇんだぜ?」

 

「お喋りはおしまい。もうお家帰ろー」

 

そう言って魔族は鎌を振り上げて、俺達に向かってきた。何で俺の時だけ!?

 

「待って睦月ちゃん!何で雨宮さんが僕達を!?」

 

-ピタッ

 

拓実が叫んだ後、魔族が動きを止めて拓実の方に顔を向けた。…睦月だと?それに雨宮って。拓実は何を。

 

「あれ?あたし名乗ったっけ?あまみあ?その人は知らないけど…」

 

「やっぱり…睦月ちゃんなんだ…。声と喋り方で何となくそんな気がしてたけど…。しーちゃんってのは…えっと志保!志保さん!」

 

「しーちゃんの事も知ってるの?あれ?異世界人じゃなかった?あたし達の知り合い?」

 

魔族はそう言った後、深く被っていたフードを捲り、そこから出てきた顔は、俺達がよく知るGlitter Melodyの永田 睦月だった。

 

「ホントに…睦月ちゃん?」

 

「ケホッ…何で永田さんが?ケホッケホッ」

 

「ん?さっきからムツキムツキって。あたしはムツキルだし。やっぱり知り合いじゃない?あ、でもムツキって呼び方も可愛いかも」

 

何でこの魔族は睦月にそっくりなんだ?

昔、俺達が召還された時の魔王はアレだったし、王は氷川さんに似ていたし、側近の人らも誠さんや波瀬に似ていた人らは居たが、魔物や魔族には知人に似ているなんて事はなかったのに…。

 

「よし、帰ったらしーちゃんにも、あたしの事はこれからムツキって呼んでって言ってみよ」

 

そう言った睦月はもう1度鎌を振り上げ、俺達に向かって振り下ろそうとした。

睦月の動きがスローモーションに見える。

だが、これは俺の能力が上がって、睦月の動きがスローに見えている訳じゃねぇ。

見えてるのに動けねぇ…。

 

事故にあった時とか周りがゆっくりに見えるというが、多分これがそれなんだろうな…。

 

俺は死を覚悟して目を閉じた。

 

 

 

 

-ガキィィィン…!

 

 

 

 

金属と金属がぶつかり合うような不快な音。

俺はソッと目を開ける。

 

そこには鎌を振り下ろした睦月と、その鎌を剣で受け止める女性の後ろ姿があった。

何処の誰だか知らないが…助かったのか…。

 

「あなた達!大丈夫ですか!?」

 

そう言って振り向いた剣を持つ女性を見て驚いた。

 

「しょ…翔子?」

 

睦月から俺達を守ってくれたのは翔子だった。

 

「むぅ、何で邪魔すんの?」

 

睦月は後方へと飛び退き、大きな鎌を構えながら俺達を…というか、翔子を見ていた。

 

「その大きな鎌…お前が三銃士の死神ムツキルか」

 

「あ、あたしの事知ってるんだ?」

 

「相手にとって不足ないね。コホン、あたしはアルテミィス帝国第3騎士団隊長ショーコ!魔王軍と事を構えるつもりはないが、武器をもたないこの方達を襲うというのなら、あたしが相手になるっ!」

 

おお、俺が知ってる翔子と同じで気合い入ってる感じだな。名乗りからしてこの世界の住人だろうが、何にせよ助かったぜ。

 

「アルテミィス帝国?あ、そうなんだ?う~ん…」

 

何だ?睦月があごに手をあてて何やら考え込んでいる。

 

「うん。やめとこっか。異世界人を殺れないのは残念だけど、アルテミィス帝国と揉めたら魔王様に減給されちゃいそうだし」

 

減給?え?給料もらってるの?

 

「じゃああたし帰るね。またね」

 

そう言って睦月の姿は霧となり、そして消えた。

 

「た、助かった…」

 

「あの、ありがとうございます。翔子さんケホッ」

 

「いえ、騎士として当然の事をしたまでです」

 

そう言って俺達を安心させるように微笑む翔子。

さっきは俺達の知る翔子だと思ったけど、やっぱ俺こんな翔子知らないわ。

この器量ならトシキも落とせるだろうに…。

 

「あの、それで先ほどムツキルが、あなた方を異世界人と言ってましたが、あなた方はもしかして伝承にある勇者様ですか?」

 

伝承…?そうか、つまり今のこの世界は俺達が以前来た時代より後の世界って事か。

俺達が前に来た時は『伝承の勇者様』じゃなくて『予言の異世界から現る勇者達』だったしな。

 

「ああ、俺達はその『伝承の勇者様』ってヤツじゃねぇが、異世界からこの世界にやって来たのは間違いないと思う。翔子、悪いが今のこの世界の事を詳しく教えてもらえねぇか?」

 

「やはり異世界からの…。今の世界の事ですか?

はい、私の語れる範囲でしたら何でも教えさせていただきます」

 

何で翔子の顔でこんなに素直なの?

俺の知る翔子なら『あ?何であたしがお前にそんな事教えねーといけないんだよ』とか言いそうなのに。

 

 

 

 

それから俺達は翔子…いや、ショーコから今の世界の事を聞いた。

 

俺達が以前魔王を倒した後は、平和な世界だったらしい。魔族や魔物以外の者には…。

差別やイジメ、魔族を奴隷のように扱う者、そういった事から魔族は人間に苦しめられる世界になり、魔族は結託してブリージア公国を建国し、再び人類に反旗を翻した。

そして、魔族と人間による争いが再び勃発した。

 

まさか俺達が魔王を倒してしまったせいで、今度は逆に魔族達が苦しめられる世界になっちまってたとはな。

 

そして、魔族は排除し人間だけの世界にしようとする国と、人間を滅ぼし魔族の蔓延る世界にしようとする国と、人間や魔族とか関係なくお互いに手を取り合う世界にしようとする国とで長年膠着状態だったらしい。

 

だが、色々な国が滅び、あるいは貧困となり、この世界が混沌の世界に陥った時、ブリージア公国に新しい魔王が誕生した。

その魔王の力は凄まじく、一気に魔族達をまとめ、魔族を滅ぼそうという国を掌握し、人と魔族は手を取り合うべきだという国と同盟を組める所まで登り詰めた。

 

だが、その同盟を組んだ時に大事件が起きた。

人と魔族は手を取り合うべきだと主張していた国々の代表として、アルテミィス帝国のアズゥサ姫がブリージア公国の魔王タカーと会った時。

 

……アズゥサ姫が魔王タカーに一目惚れして、既成事実を作ろうと襲い掛かったらしい。

魔王タカーはアズゥサ姫に恐れて、同盟の調印を交わすことなく、その場から逃げ出した。

 

そして魔族側は人間が騙し討ちして魔王を襲ったと主張し、逃げ出した魔王タカーを追ったアズゥサ姫は行方知れずとなり、アズゥサ姫は魔族に騙されて拐われたという事になってしまったらしい。何じゃそりゃ。

 

え?魔王タカーってタカだよな?そんでアズゥサ姫はきっと梓だよな?梓ってこっちの世界でもタカに惚れてんの?

 

「それで私はアズゥサ姫をしばき…じゃない。公の場に出して、魔族に拐われた訳じゃない。そして魔王を襲った…のは襲ったんだけど、その…まぁ、何とか説明させる為にアズゥサ姫を探しているのです」

 

「なるほどな。梓ってこっちの世界でも…」

 

「魔王タカー!?きっとお姫様が好きになるくらいだから、聡明でカッコいいに違いないね!ケホッケホッ、ゴホッ」

 

「架純さん落ち着いて」

 

「それでショーコさんはアズゥサ姫が何処にいらっしゃるか検討ついているんですか?」

 

「ええ、それなのですけど、同盟の調印をする場所だった私達アルテミィス帝国の城から、あの魔王城までの直線ライン。そこにいらっしゃると思ってたのですが…」

 

「未だに発見出来ず魔王城の近くまで来てしまった感じですか?」

 

「いえ、その直線ラインで1度見つけたんですけど…」

 

 

 

 

『やっと見つけましたよ!アズゥサ姫!』

 

『ん?あ、ショーコ久しぶり~』

 

『魔族は魔力で長距離移動とか空間転移とか出来るんですから。走って追い付ける訳ないじゃないですか…あれから何日経ったと思ってるんですか』

 

『えっと…3週間くらい?』

 

『そもそも今までどうやって生きてたんですか?食料も水も持たずに出て行かれたでしょう?』

 

『ああ、それは身に付けてたティアラとかネックレスとか装飾品を売ってね♪』

 

『♪じゃないでしょう…代々伝わる王家のティアラを売ったとか何考えてるんですか?』

 

『え?何考えてるって…その、魔王様は何人子供が欲しいかな?とか、家は一戸建てよりマンションの方がいいかな?とか』

 

『ああ、姫…そう言えばアホでしたね』

 

『む!不敬だよ!』

 

『はぁ…それより帰りますよ。今、姫が魔王を襲ったとか、魔王が姫を拐ったとかで、大変な事になってるんですから』

 

『え?そうなの?寝泊まりしてた町や村じゃそんな話聞かなかったけど…』

 

『ちゃんと姫の口からみんなに、拐われた訳じゃない。襲ったのは…えっと既成事実作る為だったと…ちゃんと説明してください』

 

『既成事実作る為に襲ったってのはそうやけど!国民にそんなの説明出来る訳ないやん!はしたない女や思われるやん!』

 

『実際はしたない女なんですから諦めてください』

 

『いや…嫌や。そんなの嫌ぁぁぁぁぁ!!』

 

『ひ、姫ーーー!!』

 

 

 

 

「って感じで逃げられてしまいまして」

 

…なんて声掛けたらいいんだ?

 

「その…た、大変でしたね」

 

「きっと魔王様がカッコよすぎるから…」

 

「架純さんは魔王と会ってもアズゥサ姫みたいにならないでね?」

 

「あの…ぶしつけで申し訳ないのですが、もしよろしければアズゥサ姫を探すのを手伝っていただけませんか?」

 

そう…だな。

楽器を出せない俺達が魔族や魔物と出くわしても危険なだけだし、ショーコの話が本当なら、俺達ん時の魔王と違って、人類に害は無さそうだから『魔王を倒す』ってのが元の世界に戻る為のトリガーじゃないのかも知れねぇ。

 

拓実達が楽器を出せないのは、魔王や魔族と戦う必要がないからって可能性もあるな。

 

そうなるとこの世界を元の平和な世界に戻すにはアズゥサ姫を見つけ出して、誤解だと説明させる方が手っ取り早いか。

 

「ああ、いいぜ。さっき助けてもらった借りもあるしな。俺達はお前に協力してアズゥサ姫を探す」

 

「本当ですか!?ありがとうございます(ニコッ」

 

本当に誰これ。俺達の世界の翔子と入れ替わってくれないかな?

 

「拓斗さんがそう決めたって事は、きっと意味があるんですよね。僕もアズゥサ姫様を探し頑張ります!」

 

「確かに楽器も出せないし、さっきも危なかったし、ショーコさんと一緒の方が安心かな?」

 

「うぅ…魔王様のお姿を一目見たかった…ケホッ」

 

そうして俺と拓実と綾乃と架純は、ショーコと一緒にアズゥサ姫を探す事になった。

 

…他の奴らはこの世界に来ているんだろうか?

もし人間側の奴らに会って、魔王を倒すように言われてたりしたら…。

 

一抹の不安を覚えながら、俺達は旅立つのだった。

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