「えい!えい!えい!」
先程からゾンビに向けて光弾を放つ藤川さん。
-スゥ、スゥ、スゥ…
光弾はゾンビをすり抜けていく。
ゾンビはそんな藤川さんを嘲笑うように、ノロノロゆっくりと藤川さんに向かって歩いている。
私の名前は秋月 姫咲。
私がゾンビに向かって行っても恐らく勝てないでしょう。ゾンビにどんな力があるのかわかりませんが、跳躍力は人間のそれを遥かに凌駕していました。
楽器は出せないとはいえ、せめて武器を出す事が出来れば、藤川さんに加勢できますのに。
「もう我慢出来ません!僕があのゾンビを殴ってでも注意を引くので、その間に藤川さんを連れて、柚木さんと秋月さんは逃げてください!」
東山先生も楽器も武器も出せないのに、ゾンビに立ち向かうつもりですの!?
「東山さん!無理ですよ!あたしも藤川さんは何とかして助けないとって思ってますけど、無策で突っ込んでもどうにもならないですって!」
「どうにもならないかも知れませんけど、このままじゃ藤川さんがっ!学校は違っても、藤川さんは学生で僕は教師なんですから!」
「それを言ったらあたしだって保母さんですよ!」
しかし、まどかさんの言う通りですわ。
仮に東山先生が突っ込んでも、ゾンビに瞬殺なんてされてしまっては、藤川さんを助けるどころの話じゃなくなりますもの。
幸いあのゾンビは、窮地に陥っている藤川さんを楽しんでいるのか、直接的に攻撃を加えたり、襲ったりはしていません。
何の力もない私達を侮っているこの間に、何とか打開策を考えないといけませんわ。
「えい!えい!……もぉ~!どうしてすり抜けちゃうのぉ~!?」
藤川さんの光弾はゾンビには効かない。
それはもう証明されていますし、あの光弾を撃つのにどれだけの力が必要なのかはわかりませんが、藤川さん自身も疲れているかも知れません。
…ええぃ、イライラしますわね。
何で私は楽器も武器も出せませんの!?
「あたしと東山さんでゾンビにタックルでも何でもして押し倒して…。そして倒れたゾンビを藤川さんの杖で殴りつけるとかどうかな?」
「なるほど!確かに藤川さんの杖は、先端に宝石みたいな大きな玉が付いてますし、鈍器としてもかなりの攻撃力ありそうですもんね」
「お二人とも何を言ってますの。今はゾンビも遊んでいるのかノロノロした動きですが、その気になったら光弾を避けるくらい素早く動けますのよ?まどかさん達が近付いても、避けられたり攻撃されたら、そこで終わってしまいますわ」
「そりゃそうかも知れないけど…」
「魔力のない私達の攻撃が、そもそもこの世界の魔物に通用するのなら、前回BREEZEとArtemisが来た時も、音楽で戦わず梓さんの暴力で戦ってた方が、はるかに楽だったはずですわ」
「そ、そうか。梓さんも居たんだし、翔子さんも居たんだから、暴力で解決出来てたら、拓斗さん達も苦労はしてないか…」
私は直接梓さんの暴力を目の当たりにした事はありませんが、話では私達の世界のとある地域を焼け野原にしたと伺っていますしね。
「だったらやっぱり、僕達が楽器か武器を出すしか手がないって事か」
「その楽器の出し方も、武器の出し方もあたし達にはわからないんですけどね…」
本当に手詰まりですわね。
「グガァァァァ!!」
「ひぃ!?」
とうとうゾンビは藤川さんとの戯れに飽きたのか、両手を上げて咆哮しながら、藤川さんの元へとスピードを上げて襲いかかりました。
「くそ!楽器とか武器とか関係ない!僕は行きますよ!」
東山先生がゾンビに向かって走って行った。
「待って東山さん!あたしも!!」
まどかさんも楽器も武器も出せないまま、東山先生を追って駆け出しました。
そうですわよね。
楽器とか武器とか、ゾンビに勝てるとか負けるとか、関係ありません。
今、藤川さんは襲われていて、危機にさらされている。
そんな藤川さんを見捨てるなんて出来ませんわ。
私にも幼い頃からじいやに…いいえ、澄香さんに鍛えられた拳がある。例えダメージを与えられないとしても、藤川さんの逃げる隙くらい作ってみせますわ!
私も東山先生とまどかさんを追って、駆け出しました。
「ニタァ」
それを予想していたのか、ゾンビは私達の方を向き、下卑た笑みを浮かべていた。
「「「!?」」」
-ドガガガガ…
「ぐはっ」
「くっ」
「カハッ」
こっちを見たゾンビは何をしたのか…。
私達の方に何かを飛ばし、私達はそれをまともに受けてしまいました。
「東山先生!まどかさん!秋月先輩!」
藤川さんが私達を呼ぶ声が聞こえる。
私は腹部に何かをぶつけられたのか、上手く呼吸が出来ないでいた。
…呼吸は上手く出来ませんが、どうやら骨にも内臓にもさほどのダメージはないようで安心しましたわ。
ですが、一体何を…。
東山先生も腹部を押さえていて、まどかさんは左腕を右手で押さえている。
お二人の怪我の度合いがどんなものかは、表情を見てもよくはわかりませんが、それなりにダメージは受けているみたいですわね。
「くそ…僕らが…藤川さんを助けに向かうのを見計らって…」
「こいつ…どんだけあたしらを弄べば…」
東山先生が立ち上がり、まどかさんも立ち上がってくれました。
どうやらお二人共軽症のようですわね。
……正直、意識はしっかりしてますが、私まだ立ち上がれそうにないんですけど?
もしかして私のダメージが一番深刻?
「もう!いい加減にしてよっ!うぅ…うわぁぁぁん」
とうとう藤川さんが泣き出してしまいました。
しょうがないですわよね。私ももう…。
「もうさすがに見てられないよっ!」
「「「「え?」」」」
「グルッ?」
どこからともなくこだましてくる声。
-バサッ!
藤川さんの後ろの茂みから、何かが飛び出したと思うと、その影は素早い動きでゾンビへと向かって行った。
「スーパー・ウルトラ・ワンダフル・ゴールデン・ゴージャス・グレイトフル・ゼッキル・ナックルパーンチ!!」
そう叫んだ影は、ゾンビに思いっきり飛び蹴りをくらわせました。パンチとは?
「グガァァァァ…」
ゾンビはそのまま吹っ飛び、中空で…
-ボンッ!
爆発して四散しました。
ゾンビを飛び蹴りの一撃で…。
そしてその影は藤川さんの目前に着地し、私達はその顔を見て驚きました。
「梓さん…」
「梓さんもこの世界に…」
「私達の物理攻撃は魔物や魔族に効かないはずでは…」
「うわぁぁぁん!梓さぁぁぁぁん!ありがとうございますぅぅ!助かりましたぁぁぁぁ!」
「へ?あの…何であたしの名前を知ってるの?もしかしてあたし達会った事ある?皆さん…伝承にある『異世界の勇者達』ではないんですか?」
「「「「え?」」」」
・
・
・
それから先程のキャンプ地に戻った私達は、梓さん…いえ、この世界のアルテミィス帝国のお姫様であるアズゥサ姫から、今のこの世界の状況を伺いました。
「つまりアズゥサ姫は、その魔王タカーを助けたいと思っている…という事ですか?」
「はい。そしてあわよくば結婚したいとも思っています」
「結婚とかはどうでもいいとしましても、アズゥサ姫様も、その魔王が本当に狙われいるのかどうかの確信もないんですよね?」
「はい。結婚の部分は大事な事なので、どうでもよくはないのですが、恐らく狙われているというのが私の感じた印象です」
私も結婚の部分とかどうでもいいと思っていますが、アズゥサ姫からのお話では、こういった事でした。
アズゥサ姫には"これから起こる事象"を"何となく起こるかも知れない印象"という形で感じる力があるそうです。
魔王タカーは人間と魔族の共存を良しとし、周りの国々を説得してまわっていたそうです。
人間の中には人間だけが生きていければいい。魔族は劣等種であるという考えの者も多かったようで、魔王は魔族を率いて力で説得をした国もあるようですが…。
ですが、人間の中にも魔族との共存を望む者。
人間と魔族とでは圧倒的な魔力量の差があるので、魔族の力を恐れ、争うくらいなら共存したいというように、恐れから説得に応じる国も多かったそうです。
数で勝る人間、力で勝る魔族。
確かにお互いにジリ貧になるくらいなら、引くところは引いて、共存するのが一番の平和ですものね。
そこで魔族を率いる魔王と、人間と魔族の共存を望む人間側の代表として、アルテミィス帝国のアズゥサ姫が平和条約の調印式を行う事になったそうです。
ですが事件はその時に起きました。
魔王タカーに惚れたアズゥサ姫が、魔王を目の前にしたら粗相をするかもしれないという噂が各地で広まっていたそうです。
アズゥサ姫にしてみると『何であたしが魔王様に惚れてるのがバレちゃってんの!?』って感じだったらしいですが…。
アズゥサ姫も王女であるハルーナ女王の代行者であり、この世界の平和を守る為にそんな粗相なんかしないよ!とか思っていたらしいのですが、魔王タカーを近くに見たアズゥサ姫は、この大勢の前で既成事実を作れば魔王様もあたしと結婚するしかないはず。と、短角的に考え、魔王タカーに襲いかかってしまったそうです。
正直お話を聞いている時、大勢の前で既成事実を作るような事をなさろうとしたのですか?と、私も恐怖を隠しきれませんでした。
そしていざ事を起こそうとした時、"魔王タカーが何者かに殺害される"事象を感じたそうです。
そして立て続けに、魔族討伐派ではありますが、かつての勇者達が守ったファントムニア王国。その国のエィジィ王も殺害される事象を感じたらしいです。
魔族の王たるタカーが倒され、人間側の代表国とも言えるファントムニア王国の王も、この調印式で倒れるような事になれば、
『人間が魔族と共存するつもりがなく魔王を殺害した』
『魔王を殺され憤慨した魔族がエィジィ王を殺害した』
という誤解からの戦争になりかねない。
そう思ったアズゥサ姫は、魔王タカーを守る為に覆い被さるように、魔王を守った。
ですが、魔王はそんな事象から守られたなんて知るはずもなく、魔族や周りの人達は『ああ!やっぱりアズゥサ姫が魔王タカーを襲った!』と認知されてしまい、魔王タカーは瞬間転移の魔法でその場から逃亡し、人間側としては、魔王タカーは共存の調印をせずに帰ったと受け取り、人間と魔族の戦いは泥沼になったそうです。
本当にとんでもない茶番ですわね。
「それでアズゥサ姫は魔王を守る為…というか、その事象が本当に起こりうるのかどうかを確認する為に、魔王のいる城を目指していると…?」
「はい。それにもう1度魔王様と会えば、あたしは可愛いしワンチャンあると思いまして」
「でもそれで何でこんな森の中に?もしかして迷子ですか?」
あぁ、私達の世界の梓さんは方向音痴ですもんね。
魔王城に行くつもりが森の中に迷い込んでしまった。と、いう事でしょうか。
「いえ、違いますよ。さすがに魔王様のお城までの道のりはわかりますよ。まぁ、真っ直ぐ魔王様の居城を目指してたら、うちの騎士団の子に見つかったから隠れながら移動している。と、いうのもありますが」
「と、いうのも…って事は他にもこの森に来た理由があるんですか?あ、やっぱり迷子なんじゃないです?」
「だから違いますって。どうしてあたしを迷子にしたいんですか?この森には精霊界と繋がる泉があると言われていまして、そこにいらっしゃる精霊様に、あたしの"感じた印象"の事を一緒に考えていただこうかと…」
「精霊界の精霊様…ですか?」
「はい。あたしも先程、うちの騎士団に見つかった時に『あたしが既成事実を作ろうとして魔王様を襲った』という勘違いをされていた事はお話しましたが、このまま魔王様に会いに行っても『また襲われる』とか思われても困りますし、精霊様ならこの事象の事も上手く伝える方法をご教授下さると思いまして…」
確かにこのままアズゥサ姫が単独で、魔王に会いに行っても逃げられたりしたら、同じ結果ですものね。
その精霊様とやらがアズゥサ姫の"事象"の件をわかるかどうかも怪しいものですが…。
澄香さんから以前お伺いしたお話での精霊達は、それこそ"事象"を見守るだけで、友好的であっても、手助けをしてくれるような事はなかったそうですし。たまに悪戯もしてきてたそうですし。
「藤川様の光の弾はゾンビには効きませんでしたが、あなた方には、やはり勇者様なのだと思わされる力があります。もし、よろしければ私と共に精霊様を探し、魔王様の元へ行ってはくれませんでしょうか?」
アズゥサ姫と共に精霊様を探し出して魔王城へ?
澄香さんのお話では、以前は魔王を倒せば元の世界に戻れたようですし、このまま行動の指針を決めれないまま森の中に居るよりも、元の世界に戻れる可能性はありますが…。
「すみません、僕らもいきなりこの世界に来てしまって、正直混乱してますので、少し僕らだけで話し合ってもいいですか?」
「はい、もちろんです。皆さまにとっては、元の世界に戻る方法を探す方が優先させたい事柄だと思いますし、魔王城に向かうというのは、命を賭ける覚悟もいりますものね」
・
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私達はアズゥサ姫から少し離れ、小声でこれからどうするべきかを話し合いました。
「私はアズゥサ姫の案に賛成です!このままここに居る訳にもいきませんし、何よりさっきはアズゥサ姫に助けて頂きましたから、恩返しもしたいですし!」
「あたしとしても藤川さんの言うように、アズゥサ姫と一緒に…とは思うだけどねぇ。ちょっと引っ掛かる所があるっていうか…」
「柚木さんも…ですか。僕もこのままよりはアズゥサ姫と魔王城に向かう方がいいとは思ってるんですが…」
「まぁ、アズゥサ姫が私達の世界の梓さんだとしましたら、魔王タカーは恐らくタカさんですしね。その気になれば倒して元の世界に戻れる可能性がありますから、私としても魔王城に向かうのが最善だとは思ってますわ」
「あれ?じゃあ、まどかさんも秋月先輩も東山先生も賛成なんですか?だったら早くアズゥサ姫に伝えて、精霊様を見つけて魔王城に行きましょうよ」
「あたしが引っ掛かってるのはそこなんだよね」
「そこ?とは?」
やはり…まどかさんも英治さんから聞かされたお話で、精霊について思う所がありますのね。
「多分、精霊様の事だよ。僕も拓斗さんから聞いた話だと、精霊様はとても気分屋で、敵対するような事はなかったけど、味方になってくれる事もなかったと…」
「英治からは、たまにイラッとするイタズラしてきたりはあったって聞いてるしね」
「え?精霊様ってそんな感じなんですか?」
「ええ、私も澄香さんからそのように伺ってますわ」
「でもでも!タカさん達が来た時の精霊様と違って、今アズゥサ姫が探してる精霊様は、良い精霊様かも知れませんしっ!」
確かに全く同じ個体という事はないでしょうが、澄香さんは精霊"達"と仰ってましたしね。
でもこのままよりは行動した方が、元の世界に戻れる可能性は高いですし、最悪元の世界に戻れなくても、魔王を倒して、私がこの世界を支配する魔王として君臨すれば…。
そうですわ!いっそ私がこの世界の魔王になればいいんですのよ!邪魔する者は全て焼き払っ…私のネゴシエートで説き伏せて丸く納めればいいんですわ!
「やっぱり、精霊様の事は気になりますが、僕らの指針としては、アズゥサ姫と共に魔王城を目指す。こういう事にしませんか?」
こういう事?と、言う事は意図は別にある。
つまり東山先生も魔王を倒して、この世界の新魔王として君臨しようという訳ですわね。
「そうですね。あたしらもこの世界の事は全然わかんないし、可能性としては魔王を倒したら元の世界に戻れるかもしれないって事。それならアズゥサ姫の思惑とは違いますけど、魔王城を目指すのがいいと思います」
何と!?まどかさんも打倒魔王を目的とするとは!
フフフ、なるほどですわ。
ですが、魔王を倒し、新魔王となれるのは1人のみ。
東山先生にもまどかさんにも負けるつもりはありませんわよ。
「アズゥサ姫を利用してるみたいで何となくモヤモヤもしますけど…。私達が元の世界に戻るには…って感じですもんね」
藤川さんまで魔王の座を狙っているというのですか!?
意外でしたが…これはこれで面白くなってきましたわ。
「僕と柚木さんと藤川さんは、アズゥサ姫と共にって感じですね。秋月さんはどうですか?」
「フフ、もちろん私も賛成ですわ。ですが、私は東山先生にもまどかさんにも、藤川さんにも負けるつもりはありませんわよ」
「へ?あたし達に負ける?」
「あの…秋月先輩、さっきから私達の話し合いをちゃんと聞いてない感じしてますけど、何となくですが変な事考えてません?」
「変な事?魔王を倒す…という事でしょう?」
「あ…わかってらっしゃるんですね。だったら大丈夫なのかな?」
私達は誰が魔王を倒して新魔王になるか。
その想いをお互いに吐露し、打倒魔王を目指すのでした。
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・
「良かったです。皆様にご協力いただけるようで」
「いえ、僕らとしてもアズゥサ姫との行動はとても助かりますし」
「あたしらも魔王城に向かうのが一番だと思ってますから」
まぁ、私達の目的は、魔王を守ろうとしているアズゥサ姫とは違って、魔王を倒し新魔王として君臨する事ですが…。
その後、私達は精霊様とやらが居ると言われている泉を探す為、森の中を彷徨い歩きました。
アズゥサ姫は魔力探知は使えないようでしたが、私は昔から澄香さんに索敵能力も鍛えてられましたので、魔物の気配を察知する事が出来、時には隠れ、時には逃げ、時にはアズゥサ姫が魔物を倒しながら進んでいました。
藤川さんの光弾は何故かどの魔物にも効果はありませんでしたが…。
アズゥサ姫は時には果物などを取って来て下さって、私達を労ってもくれました。
本当にアズゥサ姫には頭が上がりませんわ。
「うぅ…」
「東山先生!?何でいきなり泣き出したんですか!?情緒が不安定になっちゃいました!?」
「いや…僕らの世界の梓さんも、アズゥサ姫のような性格だったら、あの時の惨劇はどれもなかったのかな?とか思うと泣けてきて…」
「あ~…でもアズゥサ姫も魔王タカーと結婚結婚とか言ってますし、タカさんが近くに居るかどうかの違いでしかないんじゃありません?」
確かにこのアズゥサ姫と私達の世界の梓さんは、ちょっと違うような気もしますが、何だかんだと同じ所をぐるぐる回ってる感じがして、やはり方向音痴なのでしょうか?とか思われされますし。
魔王タカーの話をすると、尋常じゃないくらい食い付いてきますし、あんまり変わらない気もしますわね。
ですが、私達の目的は魔王の討伐。
アズゥサ姫を騙しているようで、少し心が苦しいですわね。
そんな事を私が思っていると、アズゥサ姫は歩みを止め、私達の方に向かって言ってきました。
「本当にとても心強いですよ。勇者様達の目的が、魔王様の討伐だとしても…」
!?
アズゥサ姫…私達の目的に気付いていましたの!?
「アズゥサ姫…その、それって」
「も、もしかして私達の話し合い聞こえたりしてました!?」
「ふふ、お話し合いを聞かなくても、さすがにわかりますよ。皆様が元の世界に帰るには、魔王様を倒すという手掛かりしか今はありませんし」
元の世界にかえる?
あ、魔王を倒して、私達のどなたかが新魔王として君臨すれは、昔のように平和な世界に返る的な事でしょうか?フフフ、残念でしたわね。私が新魔王となった暁には…。
おっと、今はソレを考えている場合じゃありませんわね。アズゥサ姫にも、私達の目的はわかってらしたのですね。
「アズゥサ姫…」
「その…何て言えばいいか…すみません」
「で、でも私達的にも!魔王を倒したら元の世界に戻れるかもって思ってるだけですし!絶対に魔王を倒したいって訳じゃないって言いますか…」
「そうだね。藤川さんの言う通りです。魔王を倒すという事が、今の手掛かりというだけで、魔王を倒せば戻れる保障もありませんから」
「あたしとしましても、もし、魔王を倒さずに元の世界に戻れるなら、魔王は別に倒さなくてもって思いますし、それならそれで、アズゥサ姫と魔王タカーの結婚を応援したいみたいな…」
「!?マジですかガチですか約束ですからね!?今、言質取りましたからね!」
「いや…そんな必死になられちゃうと…。まぁ、タカじゃなくてタカーだしいいのかな?タカが誰かと結婚しちゃうのは嫌だけど…」
「えええぇぇぇ!?まどかさんも何ですか!?え?私って美緒の親友なんですけど!?誰を応援したらいいんですか!?親友の事はもちろん、親友のお姉さんも応援したいし、親友の親友も応援したいし、親友の憧れの人も応援したいし、親友の憧れの人のバンドメンバーとか、恩師のバンドメンバーとかも…ああ、可愛い後輩ちゃん達も…あ!今は同じアイドルグループのメンバーとかも!」
長っ!どんだけ長い説明ですの!?
どんだけあのアホに惚れてるであろう女がいますの!?
ファントムってアホの集まりですか!?
あ、よく考えてみたら、常識人よりアホの方が多いですわね。
「あたしは違う!た、確かに昔は…あんま仲のいい異性とかいかなったし、意識した事もあったけど、今は全然違うから!結婚したいのに出来なくてモヤモヤしたり、落ち込んでるタカを見てるのが面白いだけだから!」
…確かに、疲れる時もありますけど、あのアホが結婚したいと悶え苦しむ度に、理不尽な暴力を受けている様は私としても楽しくてゾクゾクしますけどね。
そう思うとあの男が誰かと結婚して、幸せになると思うと世界を破滅する事になっても止めたい事柄だとは思いますわ。ですが…
「確かにまどかさんも怪しい所はありますものね」
「怪しくなんてないからっ!」
おっと、私とした事が口に出してしまってましたか。
「フフ、皆さんのお話では、そちらの世界の魔王様もすごくカッコいい人なんでしょうね。そちらの世界のあたしは…何か暴虐武人っぽいですが…」
「いや、ええ…ホント、タカさんはカッコいいと思ってますが…あんまり僕的にはそういう話はお腹いっぱいって言うか…トラウマと言うか…」
!!?
こうやって和気あいあいとお話していた私達ですが、ある気配を察知し、私は東山先生達に静かにするように促しました。
私達の近くにあった気配は4つ…いえ、5つでしょうか?
何者かが歩いている気配は感じていましたが、魔物か獣だと思い、捨て置いていたのですが、ある程度近くなった時、そのいくつかの気配は急に静かになり、急に気配が読めなくなりました。
私もその気配の動きを不振に思い、アズゥサ姫には藤川さんと2人で茂みに隠れてもらい、東山先生とまどかさんと私は、静かに気配を殺すように、周りを警戒しながら、アズゥサ姫達と離れ、何かあった時はアズゥサ姫達がすぐに飛び出せる距離を保ち三方向へと別れました。
本来魔物か獣が相手でしたら、皆さんで固まって、各個撃破した方が良いとは思いますが、相手は気配を消して行動している。
つまり、知性があるという事。
魔族とはこれまで出逢っていませんでしたが、恐らくこの相手は…。
4人か5人の魔族。と、なりますと、アズゥサ姫だけでは太刀打ち出来ないかも知れませんわね。
魔族には藤川さんの光弾が通用すると良いのですが…。
少しの間。
私達は息も気配も殺し、相手の出方を伺っています。
恐らく相手も同じように、私達の出方を伺っているような気がしますわ。
私達が隠れ潜んだ位置関係と、先ほどまで感じていた気配の方向と計算しますと…。
まどかさんや東山先生の居る位置より、私の方が囮として動くには良い位置にいますわね。
私は身振り手振りと、東山先生とまどかさん、アズゥサ姫と藤川さんに『私が囮となりますので、相手が出て来た所を叩いて下さい』と、連絡しました。
東山先生とまどかさんは『ダメ!』とか『囮になるなら自分が』と、身振り手振りで仰っていましたが、私にはこういう時の為に鍛えられた技能がある事。位置関係的にアズゥサ姫のサポートを一番スムーズに受けられる位置に居るのは私である事。を説明し、何とかしぶしぶ承諾を得られました。
本当に心配性ですわね。
私ならこの事態を収集出来る自信があるから提案していますのに。
…相手の知能の方が私より上でしたら。
私は犠牲になるかも知れません。ですが、この世界で新魔王になるのは私です。
こんな所で死ぬ訳にはまいりませんわ。
私は意を決して、"ここなら私もギリギリ助かる位置"という所まで、わざと音を立てて移動する。
それを見た東山先生とまどかさんも驚いていましたが、お二人のどちらかが出て来ても、私の死亡リスクが増えるだけですので、少し我慢して下さいね。
私は移動と同時にどこから攻められても、攻撃するなり逃げるなり、アズゥサ姫と藤川さんが対処出来るようにと、わざと目立つように、相手からは私の動きを視認出来ないように動いた。
のが、私の敗因でした。
私の動いた位置からアズゥサ姫達の視覚になってしまう場所。
まさかこんな近くに潜まれているなど、予測も出来ない場所から1人の影が飛び出し、その手に握られている銃口が、私の額を捕らえていた。
ここまでですわね。
私は死を予感しました。
「え!?お、お嬢様!?」
その人影は私をお嬢様と呼んだ。
銃口を私に向けた人物は、澄香さんでした。
「す、澄香…さん…?」
私はどうしてここに澄香さんが居るのか。
そして私は何故、澄香さんに銃口を向けられているのか。
そんな事を思うよりも先に…
「な、何で澄香さんの服はそんなにボロボロなんですの?」
いつもの執事服を纏っているようですが、何故かノースリーブになり、上着はまるで千切られたようにショート丈に…むしろクラップド丈?と、思わされる装いで、パンツは片方が太もも丸見えくらいに千切られている。
そんな装いになっている澄香さんに驚いてしまっていました。