「う…う~ん…ここは…?」
俺はCanoro Feliceの一瀬 春太。
今日はハロウィンライブの予定だったはず。
そして俺はファントムの控室に居たはずだ。
なのに、今見ているこの風景は何だろう?
俺が今、寝そべっているのはわかる。
だけど、俺の目に映る風景は、ファントムの天井じゃない。くすみがかったオレンジ色の空、そして黒ともグレーとも言えるような雲。
そして、その空には昔見た恐竜図鑑に載っているような"ナニカ"が空を飛んでいる。
って、本当にここ何処!?
寝そべっていた俺は起き上がろうと身体を起こし…
「痛っ…」
激痛という程じゃないけど、背中から腰に掛けて鈍い痛みが走った。
背中を何処かにぶつけた…のかな?
あっ、そうだ!思い出した!
さっきまで眠っていたのか、気を失っていたのか…。
どっちなのかは今となってはわからないけど、背中の痛みのおかげで、さっき起こった事を思い出せた。
俺は…確かにファントムの控室に居たけど、急に大きな地震が起きて…。とっさに何かに掴まって転ばないようにしようとしたけど、何かを踏んづけたのか、そのまま後ろに倒れて…。
今ゾッとしたんだけど、もしかして俺、その時に打ち所が悪くて死んじゃったとか?
「お~、澄香さ~ん。春太さん目を覚ましたみたいだよ~」
「ん?ありがと、せっちゃん。春太くん、大丈夫?」
この間延びしたような喋り方…せっちゃんって盛夏さん?それに…澄香さんも?
「良かった。目を覚まさなかったらどうしようかと…」
この声は…美緒ちゃんかな?
俺は痛む身体を押しながら起き上がって周りを見回した。
俺を心配そうに覗き込む美緒ちゃんと盛夏さん、そして、少し離れた所から小走りでやって来る澄香さん。
「痛っ…痛てて…」
「あ~もう少しゆっくりしてた方が~」
「そうですよ。背中からモロに落ちてましたし…」
背中からモロに落ちてた?
どういう事だろう?でも、この身体の痛みはそういう事があったからなんだろうか?
「すみません、春太くん。私が付いていながら…クッ…!」
そう言って澄香さんは俺の元に来てから、地面に向かってグーでパンチをした。そんな事しても手を痛めるだけだろうに。
どこからか落ちて、その結果がこの身体の痛みだとしたら、それは俺の落ち度だし、澄香さんが気にするような事じゃないのに。落ちただけにね!
……モノローグでこんな事を言っても、結衣も姫咲も冬馬も居ないんじゃ、誰もつっこんでくれないか。
それより、俺は何でこんな所に?
澄香さんがここに居るのも不思議だけど、盛夏さんも美緒ちゃんも、もしかして死んじゃったとかじゃないよね?
「春太くんも目を覚ましたし、せっちゃんと美緒様にとっては、同じ話をまた聞かされてるって思うかも知れませんが、もう1度私達の状況を説明させていただきますね」
今の状況を澄香さんが説明?
って事はまた姫咲の面白半分の企画かな?
……って事はないか。それなら冬馬もターゲットになっているだろうし、何でもそつなくこなす盛夏さんや、タカさんと理奈さんが絡まなかったらクールな美緒ちゃんをターゲットにしても面白くはならないし、何より俺が把握出来る距離に姫咲が居ない。
そうなると…ホントなんだこれ?
俺は痛む身体を起こして澄香さんに聞いてみた。
「その…すみません。俺には今の状況が何がなんだか…。その説明ってやつ聞かせていただけますか?」
と。
それから澄香さんに聞かされた話は、過去に澄香さんがArtemisをやっていた時に、BREEZEと一緒に異世界へと召還されて、魔王を倒す為のファンタジーな体験をしたことがある。
そして今はその異世界とそっくりな場所に来ている事。
当時は楽器を持って演奏で魔族や魔物と戦っていたけど、今は盛夏さんも美緒ちゃんも楽器を出せない事。
勇者の1人だった澄香さんも、昔の誓約で楽器や音楽の力を封じられ、異世界で通用する力を失っている事の説明を受けた。
『まるで現実味がない!』
『俺達はどうなるんですか!?』
と、いうような疑問も普通なら思うのかも知れないけど、『ああ、澄香さんの話は本当なんだろうなぁ』とか『この物語の登場人物だししょうがないか』といった感想しかなった。
「フフ、せっちゃんも美緒様もでしたが、春太くんもさすがですね。まるで動揺も感じられない」
いや、俺は諦めてるだけですんで。
美緒ちゃんも『あ~、疲れた』って顔してるし諦めてるだけじゃないかな?盛夏さんはボーっとしてる感じで、どう思ってるのか顔色からは伺えないけど。
「さて、では春太くんも目を覚ましたみたいですし、そろそろ行動しましょうか」
そう言って澄香さんは俺の横に座った。
え?行動するんじゃないんですか?
……痛っ。
ちょっと動こうとしただけで、背中に激痛が走った俺としては、少しここで休めてる方が楽だけど。
「澄香さ~ん。行動するってこれからどうするの~?」
「幸いここには魔物とやらも、魔族とやらも居ませんですし。楽器を出せなくなった澄香さん、楽器を出せない盛夏さんと私。一瀬さんも起きたばかりですし、ここから移動するのは得策ではないのでは?」
そういった盛夏さんと美緒ちゃんの質問を無視し、澄香さんはベルトのバックルを外して、そこから小型のナイフを取り出した。
「「「!?」」」
「フフフ、皆さん驚かれてますね。ですが、これだけではありませんよ」
「ベルトのバックルから…ナイフが?」
「おお~かっこいい~」
澄香さんはそのナイフで、着ているジャケットの裾部分に切り込みを入れた。
-ガシャ、ガシャガシャ
そこから出てくる何かの部品のような…。
鉄製の物が複数落ちてきた。
「あ、ちょっと組み立てるから少し待ってて下さいね。こんなのガンプラに比べたら、おもちゃみたいなもんですし」
その部品を拾っては組み立て、拾っては組み立て。
まるで本当にプラモでも作っているかのように、澄香さんはバーツを組み合わせていった。
「おお!澄香さん!まさかっ!それはっ!」
「え?いや、それマジですか?その執事服って、澄香さんがいつも着てらっしゃるやつですよね?」
「ははは、確かに驚いたけど…」
澄香さんが部品を組み立てていくと銃が出来上がり、今度はジャケットの内側をナイフで切ると、そこからは大量の弾丸が出てきたのだった。
一応姫咲の護衛って立場もあるだろうし、澄香さんが銃を持っていたとしても、そこまで驚くような事ではないな。俺達の元の世界って日本なんだけど…。
「これは…シティーハンターの冴羽獠がコートの中に組み立て式の銃や爆弾などを仕込んでいる。タカからそう伺って、私も自分の身を守る為、そして姫咲お嬢様を守る為に、私も執事服に色々と仕込むようにしたのです」
「お~、そういやそういったお話があったかも~」
「まぁ、お兄さんは日頃から自分の尊敬する人物BEST5に冴羽獠はランクインしていると言ってますしね」
「そうなんだ…。俺はシティーハンターって名前は聞いた事あるけど、あんまり知らないからなぁ。それで、澄香さんはタカさんにその話を何で…」
「フフフ。春太くん、気になりますか?」
あ、澄香さんがいつものように目を閉じながら、ほくそ笑んでいる。失敗したな、聞くんじゃなかった。
ここには盛夏さんも美緒ちゃんも居るし、これからどうするのかの話し合いも含めて、早々に移動した方がいいだろうし、話は切り上げさせてもらうか。
「いえ、特には気にならないです。澄香さんの準備も出来たのならそろそろ行動に移りましょうか」
「そう。皆様も少し聞いた事があると思いますが、昔に私がヒデに拐われ、タカが助けに来てくれた時の事でございます」
「あの、澄香さん。すみません、俺は気にならないって言ったんですけど」
「そう。忘れもしない。あの時でございます」
ああ、自分の世界に入っちゃってるよ。
あ、なんか回想シーンに入りそうな予感が…。
・
・
・
ああ、やっぱり…。ん?でもこの回想シーンでもモノローグは俺なのか?
『澄香!澄香!!』
『タカっ!…私は助けに来てくれたタカの元へ走り、情けなくも泣きながら、タカの胸に飛び込んでしまいました』
なにぃ!?
回想シーンなのに、何で俺がモノローグなんだろうって思っていたら、澄香さんが台詞でモノローグを語るだって!?
『悪い…待たせちまったな』
『バカ…遅すぎるよ…。タカは胸に飛び込んだ私を優しく抱きしめてくれました』
ん?いや、タカさんってそんな事するかな?
『俺がお前の傍に居なかったせいでヒデなんかに…。これからはずっと傍に居るから。もう離さないから』
『タカ…それって…。私はタカの胸から離れ、そして目を真っ直ぐと見て…』
「はいそれダウト~」
「いや、さすがそれは嘘ですよね?お兄さんがそんな事言ったり、したり出来る訳ないじゃないですか」
回想シーンのはずなのに普通に盛夏さんと美緒ちゃんがつっこんできた…。
『…コホン。そして、タカにヒデの元から助けられた帰り道の事でございました』
『あんなぁ、何でお前ヒデに捕まってたの?こん時って、まだ執事の修業前だろうけど、お前俺やヒデより強いし力あるじゃん』
『は?執事?何それ?』
『あ、今はそこは気にせんでいいわ』
『いや、絶妙に気になるんやけど…』
ああ、確かにタカさんならそんな事言いそうだ。
「このお話はホントっぽいなぁ~」
「さっきの助けられた所から後って感じの体で話を続けてますね」
『そもそもお前がヒデを武力をもって倒していれば、こんな多大な犠牲を払う事はなかったろうに…』
『まだその事言ってる。いい加減しつこいよ。私だって拐われたくて拐われたんじゃないし。
そりゃ、タカが助けに来てくれるかもとかヒデが言ってて、ちょっと拐われてみるのもアリかな?とか思っちゃったけど(ボソッ』
『あ?何か言った?』
『別にっ!それにヒデにも仲間が居たし、縛られたりしてたんやからしゃーないやん!』
『ああ、お前が縛られてたのって、あいつの仲間にやられたのか。ヒデならお前を縛るくらいなら、自分が縛られて悦びを感じそうなのに変だなとは思ってたんだよ』
『は?何でヒデが縛られたりすんのよ』
『まぁいいや。あのな。俺はシティーハンターが好きなのは知っていると思うが、冴羽獠がわざと敵に拐われた時にだな……』
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・
「と、いう事がありまして、私はシティーハンターを熟読し、冴羽獠と同じように…」
「おー!さすがタカちゃんだぁ~!」
「さすがお兄さん。昔から変わってないんですね。グスッ」
えぇ?回想シーン挟んだ割にめちゃくちゃ薄い話だったんだけど…。
今の澄香さんの話にタカさんがさすがって思う要素あったかな?そして何で美緒ちゃんは泣いてるの?
「それにこれはただの銃じゃないんですよ」
澄香さんはそう言って銃に弾丸を1発込めて、銃口を俺の額へと向けた。
-バンッ!
え?俺、澄香さんに撃たれた?
「澄香さん…な、何で俺を…」
「え?痛くなかったでしょ?」
あ、そういえば…。
銃口は俺の額をとらえてたし、銃がバンッ!って鳴ったから、俺は撃たれたものだと思ってたけど…。
「この銃はね。日奈子が作った対魔物、対魔族用の銃と弾丸なの」
対魔族と対魔物の銃と弾丸だって!?
「およ?ならそれがあったら楽器無くても戦える感じ~?」
「っていうか日奈子さんは何でそんな銃を造ったんですか?」
「前に異世界に召還された時に、私達はこの世界で楽器を使う力を失ったのですが、また万一、この世界に私達の誰かが召還された時の戦う力として、日奈子はこの銃の製造に心血を注いでいました」
それって日奈子さんは、またこの異世界に召還されるかもしれないと懸念があったって事かな?
「でも春太くんが無事でほんま良かったぁ…。日奈子の製作物やから信用度低いし、今まで人に向けて撃った事なかったもんなぁ…」
え?澄香さん今なんて言いました?
もしかして俺で人体実験したの?
・
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・
「よし、準備オッケーです。この銃が本当に魔物や魔族に効果があるかはわかりませんが、日奈子の製作物ですし信用出来るでしょう。私はこのまま魔王の元に向かおうと思いますが、皆さんは他に意見はございますか?」
俺としてはこの世界について全然わからない事だらけだし、澄香さんがそうした方が良いと思ったのなら、俺としてはそれが最善だとは思うけど。
何で今は『日奈子の製作物ですし信用出来る』って言ったの?さっきは『日奈子の製作物やから信用度低い』って言ってましたよね?
「あたしはご飯食べたい~」
「私はこの世界の事は何もわからないので、澄香さんの判断に委ねようとは思いますが…。クッ、すみません、ラーメン食べていないので、身体からラーメン分不足して目眩と脱力感が…」
いや、確かにお腹も空いたとは思うけど、まずはこの今の状況を何とかする方が先じゃないかな?って思うんだけど…。そして美緒ちゃんの言うラーメン分って何?
俺しばらくラーメン食べてないけど、目眩とか脱力感とかないよ?
「フフフ、せっちゃんと美緒様ならそう言うと思ってましたよ」
盛夏さんと美緒ちゃんはそう言うと思ってたの?だったら何で魔王の元に向かおうとか言ったの?
意見ないって想定されてるの俺だけじゃん。
俺がそんな事を思っていると、澄香さんは今度は襟元をナイフで切りはじめた。
そして、そこら出てきたのは複数のカップ麺、そして水筒とコンロのような物だった。
襟元にそれだけの物をどうやって収納してたの?
「クッ…しまった。すみません!美緒様!」
襟元から出てきたカップ麺を見た澄香さんは、何故か美緒ちゃんに謝罪をした。
「お~!カレーうどんにカレー蕎麦もあるぅ~!カレーだカレーだ~!」
「私の不手際です。カップ"ラーメン"がまさか3つしかないとは」
「大丈夫です。3つもあれば大事に食べれば…2日、いえ、3日は何とか……ハッ!?私とした事が自分の事ばっかり…!皆さんもラーメン分が不足してしんどいでしょうに」
うん。だからラーメン分って何?
「せっちゃんにはカレーがあるし、私と春太くんは焼きそばでもうどんでも大丈夫だから、美緒様がラーメンを独占してくれて大丈夫ですよ。ね、春太くん」
「はい。大丈夫です」
取り敢えず返事しておいた。
俺としては飢えをしのげるなら、別にラーメンじゃなくても大丈夫だし、ラーメン分ってのが美緒ちゃんに必要なら、ラーメンは美緒ちゃんに食べてもらった方がいいし。
…ああ、そういや俺って背中とか痛いんだったよね。
今は全然痛みを感じないや。っていうか痛みを感じる暇がないや。
冬馬のありがたみがよくわかる。ツッコミが俺1人だと全然身が持たないよ。
その後澄香さんが『水筒に入っている水を沸かしてカップ麺を食べたいところですが、残念ながら水はこれだけしかないので、水分補給に水は使いましょう。取り敢えず魔王の元に向かう前にあちらの森に入って、水場を探し、そこで水を手に入れてからカップ麺を食べる事にしましょう』と、割とサバイバル中には普通の事を言い、盛夏さんと美緒ちゃんはものすごい笑顔で『はいっ!』と答え、俺達は森に入って水を探す事にした。
盛夏さんはカレーうどんやカレー蕎麦のカップ麺を抱えて幸せそうだし、美緒ちゃんもカップラーメンを抱えて幸せそうにしている。さっきのお腹空いたとかラーメン分とかの件は何だったんだろう。
冬馬、冬馬もこの世界に来ているなら、早く俺を見つけて助けて。
澄香さんも障害物とか遮蔽物もないのに、ゴロゴロ転がりなが右斜め前方に、次は左斜め前方にと移動しては銃を構え…。ただの移動に時間が掛かりすぎてるよ…。
俺達は水場を求めて入った森の中。
そこで呆気なく大きな湖を見つける事が出来た。
うん…呆気なく…だよね。うん。
この湖は澄香さんが向かうと言った森の中、入ってちょっと歩いただけで見つける事が出来た。
だけどその間、無駄にゴロゴロ転がる澄香さん。
お腹空いたと嘆く盛夏さん。
ラーメン分が…と言って倒れる美緒ちゃん。
本当に何でそんな事してるの?
って聞きたくなるくらい、道中でエンカウトした魔物や魔族を、盛夏さんと美緒ちゃんで翻弄し、澄香さんが銃で倒す。そんなやり取りを俺はただボーっと立ちすくみながら見ていた。
きっとこの3人にはとてつもない戦いみたいなのが脳内で繰り広げられてて、ファンタジー的なやり取りでやっと倒せたみたいな感じで、自分に酔っているんだろう。
俯瞰して見てる俺には何の事もない事柄だったんだけど。
その証拠にさっきの魔物との戦いの時は、澄香さんに至っては『クッ!弾切れ!?こんな時に…!せっちゃん、美緒様!私が弾丸を補充している間、何とか敵の目を誤魔化して下さい!』とか言ってたけど、弾丸が切れてるとかなかったし。順調に1発でワンキルしてたし。
盛夏さんに至っては『弾切れ!?こんな時に…!いいわ!あたしが時間を稼ぐ!…澄香さん、頼んだわよ。…う~ん、こんな感じかなぁ?』とか、澄香さんの銃で倒された魔物の前で、流暢に台詞的な事を喋ってただけだし。
そして『クゥ…!さすが魔物といったところですね…すみません、膝をやってしまったみたいです…』『美緒様!?』『あたしも…精一杯で…クッ、澄香さん!まだ補充は終わらないの!?……こんな感じってなかなかエモいよね~』とかなやり取りがあったんだけど、美緒ちゃんは澄香さんの邪魔にならないように、少し離れようとして、躓いて転んで膝をぶつけただけだしね。
本当にこの世界しんどいな。
俺1人じゃツッコミ切れないよ。何なのこの人選。
「湖…?せっちゃん!美緒様!春太くん!湖ですよ!水がありました!」
「う…うぅ…み…水…良かった…(ガクッ
…こんな感じでいい~?水もありがたみだけどお腹空いたぁ~」
「盛夏さん…見て下さい。水ですよ、水…盛夏さん、目を開けて下さいよ…やっと水を見つけたんですよ。盛夏さん…盛夏さん…!
…あ、この湖なら水はたっぷりありますから、お湯も沸かせますよね?良かった。ラーメン食べられる…」
湖を見つけて、少ししてから変な小芝居が始まったし、まるで台本とかあったの?ってくらい盛夏さん達は順応してるけど、俺だけ台本貰ってないとかないよね?
それから湖の水の質を澄香が調べて、飲んでも何も身体に影響がない事がわかった。どうやって調べたのかはしらないけど。
そしてその湖の水を沸かしてカップ麺を食べ、空腹だったお腹も結構満たされた。
…盛夏さんと美緒ちゃんはおかわりしてたけど。
「それよりこれからどうするの~?魔王の所に行ってチャチャっと帰る感じ~?魔王倒したからって解決するのかなぁ~?」
「まぁ、私としても早く元の世界に帰りたいと思ってますし、手掛かりが魔王を倒すしかないなら…と思いますが、一瀬さんはその…大丈夫ですか?」
「え?美緒ちゃん?俺は大丈夫って何の事?」
「いえ。背中の痛みは大丈夫かな?と思いまして」
ああ、背中の痛みか。
まだ鈍い痛みはあるにはあるけど…。
「うん、大丈夫だよ。俺も早く元の世界に戻りたいしね。何で俺は背中に痛みが…あ、そういえば美緒ちゃん、落ちたとか言ってなかったっけ?」
倒れた…ならまだしも、落ちたって表現はおかしいよね?俺はどこから落ちた?そんな記憶ってないんだけど。
「ああ、それは先程も私が付いていながらと申し上げましたが、この世界に私達が来た時は、空中に召還されてまして」
空中に?そう言って澄香さんは空を見上げていた。
「その時にあたしと美緒は澄香さんに助けてもらったんだけど~」
「澄香さんが私を助ける時に、一瀬さんを踏み台にして…。それで一瀬さんは背中からもろに」
…ああ、なるほど。
まぁ、それはそれで俺も無事だった訳だし、美緒ちゃんがそれで助かったのなら別にいいか…。
「そんな事よりもです」
澄香さんが俺を踏み台にした事を"そんな事"呼ばわりするの?いや、別にいいけどね。
「あんた…何者?」
そう言って澄香さんは俺に銃口を向けた。
は!?いや、待ってよ!何者って何ですか!?
俺は澄香さんのよく知る一瀬 春太ですけど!?
-バンッ!バンッ!
そして澄香さんの銃から放たれた銃弾。
何で俺、撃たれたの!?
ん?撃たれた?銃口を向けられたから、ビックリしたけど、考えてみたらその銃で撃たれても痛くもなんともないよね?何で俺は撃たれたの?
俺がそんな事を思っていると…。
「わひゃあ!?あぶなっ!」
俺の後方…湖の方から声が聞こえてきた。
俺が湖の方に眼を向けると、風景が歪んだようにぐにゃりと屈折し、そこから絵本で見るような小さな妖精の姿をした…日奈子さんが居た。
「お~。小さな日奈子さんを更に小さくした日奈子さんだぁ~」
「え?これって妖精みたいな…魔物?てか何で日奈子さんにそっくりなんでしょう?」
「……」
「あっぶないじゃん!危ないじゃん!普通いきなり撃つ!?あたしそれで貴女達が魔物やっつけてたの見てたんだからっ!こんな可愛い魔物なんていないでしょ!」
いきなり現れてまくし立ててくる妖精のような日奈子さん。澄香さんはそんな日奈子さんに歩いて近付いて行き…。
-パン
まるで虫を潰すかのように両手で妖精のような日奈子さんを潰した。見た目は日奈子さんなのに何て容赦ないんだ…。
「ははは、魔物かと思ったのですが、ただの害虫でしたね。さ、取り敢えず魔王の元に行きましょうか」
「だ~れが害虫よぉ~!」
澄香さんの両手で潰されたはずなのに、澄香さんの手から霧のようなものが出てきて、その霧がひとつの個体のように合体したかと思うと、さっきの妖精のような日奈子さんがまた現れた。
「チッ、生きてたか」
「生きてたかって何!?あたし精霊だよ!?この世界では神聖な存在なの!そんな精霊様をいきなり攻撃ってどういう事!?」
「精霊…?」
「そ!あたしは精霊様なの!わかったらあたしの事は敬って<バンッ!バンッバンッ!>…ってあっぶな!?何で撃ってくんの!?」
「ちょっ、澄香さん落ち着いて」
「そうだよ~。いきなり撃ったら危ないって~」
俺も止めようと思ったけど、盛夏さんと美緒ちゃんが澄香さんに掴みかかって止めてくれた。
俺が掴みかかって止めてたら、投げ飛ばされただろうなって思った。
「すみません…。精霊には良い印象がありませんでして…その上見た目が日奈子なもので先手必勝と思い…」
見た目が日奈子さんだから躊躇するとかないんだ?
「もうっ!本当に失礼しちゃう!おこだよおこ!ぷんすこぷんすこ!」
「すみません、連れが失礼しました。精霊様…と仰いましたが、精霊様とはいったい…?」
「春太くんー!精霊なんかに畏まる必要ないからー!危ないから日奈子から離れてー!」
「澄香さ~ん、どうどう~」
「暴れないで下さいって…力強っ。私と盛夏さんで押さえてるのに」
澄香さんは以前この世界に来た時に精霊様と何かあったのかな?
俺は澄香に従うのが一番だとは思っているんだけど、澄香さんが攻撃しても、この精霊様は俺達を敵視しなかった。だから、澄香さんの知っている精霊様とは違うんじゃないかと思い、精霊様に歩み寄ってみることにした。
恐らく盛夏さんと美緒ちゃんも同じ考えなんだろう。
以前に澄香さん達が、魔王を倒して元の世界に戻れたという話は本当なんだと思う。
でも、俺達は澄香さんを含めて、またこの世界に呼ばれた。この世界がまた危機に陥ったから召還されたとは思うんだけど、それだけで魔王を倒すというのは早計な気がする。
そして何より、この精霊様は以前この世界に澄香さんと一緒に召還された日奈子さんに似ている。
以前はこの精霊様とArtemisもBREEZEも面識はないだろう。
「ほほ~う。このイケメンくんはわかってるねー。精霊様は敬わないとだよね」
「ははは、そ、そうですね」
そう言った精霊様を手のひらを俺には向けて、柔い光のようなものを俺に浴びせてきた。
「え?うわ…」
「一瀬さん!?」
「ほらー!だから危ないって言ったやんかー!」
「だから危なくないってば。…ふぅ、これであたしが敵じゃないってわかってくれたかな?」
柔らか光が俺に降り注いで消えた時、俺の背中にあった痛みもウソのように消えていた。
「背中の痛みが…治ってる?」
「「「え?」」」
「まぁただの打ち身みたいだったしね。そのくらいの怪我なら、あたしでも癒せるし」
「あ、ありがとう…ございます」
俺は驚きながらも精霊様にお礼を言った。
「これで…ちょっとは信用してあたしの話を聞いてくれるかな?」
「お話…ですか?」
「まぁ敵じゃないみたいだし~。お話聞くだけならいいんじゃないかなぁ~?」
「そうですね。一瀬さんの事も治してくれたみたいですし」
澄香さんはそれでも嫌そうな顔をしていたけど、俺は頷き、精霊様の話を聞く事にした。