「あたしの名前はヒニャコ!この湖を守る精霊だけど、ゆくゆくはこの森を守る女神になる為に、日夜修行中なの!」
俺の名前は一瀬 春太。
前回が意外と文字数が多くなってしまったので、急遽2話構成となったから、今回も俺のモノローグだ。
「は?女神?あんたが?その見た目で?」
「何なのこの人。初対面なのにめちゃくちゃ汚物を見るような目であたしを見てくるし、ずっとこっちに向けてる武器の先端が怖いんだけど?異世界の人にも友好的にって思ってるから春太ちゃんも治してあげたのに、この人失礼じゃない?」
澄香さんは、昔この世界に召還された時に、精霊様に嫌がらせみたいな事をされたらしく、精霊様に対して警戒しているらしい。
それにここに居る精霊様は、同じバンドでドラマーであった日奈子さんにそっくりだから、見た目的に信用度ゼロらしい。
前回その信用度ゼロの日奈子さんが造った銃で、俺は撃たれたんだけど?
「まぁ、さっきの澄香ちゃんから聞いた話だと、あたし達精霊に対して警戒しちゃうのはわからなくないけど。それでもあたしみたいな女神候補と、自然界の精霊とでは全然違うんだけどね」
「その顔で澄香ちゃんって呼ばれても余計に警戒するだけやねんけどね」
澄香さんは精霊様が日奈子さんに似ているからって警戒しすぎでしょ。
おっと、そういえばここも読者様には説明しておかないとね。
前回のお話から今回のお話になるまでの、少しだけ間のあった時に、澄香さんは以前に異世界召還された時のお話をヒニャコさんに話し、ヒニャコさんからは今のこの世界の現状も教えてもらった。
そして精霊様であるヒニャコさんが言っていた、女神候補と自然界の精霊様との違いについても…。
ヒニャコさんの話だと精霊様と一言で言っても、実際は種族的には複数存在するらしい。
女神様が次世代に沿った女神を育てる為に生んだ精霊。
火や水、土など自然界から何かしらの因子に寄って生まれた精霊。
人や魔族、魔物の亡骸から残滓が出て生まれた精霊。
魔法により魔力の残滓から生まれた精霊、などなど。
大きく分けると、女神様が生んだ精霊様か、他の要因で生まれた精霊様かの2種類に分けたのでいいらしいけど。
ヒニャコさんに関しては、この森の湖を守る為に女神様が生んだ精霊様なのだそうだ。
そして澄香さん達が以前この世界に来た時に出逢った精霊様は、女神様が生んだ精霊ではなく、他の要因で生まれた精霊だろうとの事だった。
女神様が生んだ精霊様は、自分も女神になるべく土地の秩序やその時代に合ったルールで生活するけど、他の要因から生まれた精霊様は、それこそ長い一生を精霊として生きるから、たまに人生?に退屈して悪戯をしたりする者も現れるらしかった。
「う~ん、目覚めてみれば異世界だった~っのには、びっくりだけど~」
「精霊ってのも目の前にして、一気にファンタジー感も強くなりましたが…」
「レガリアとかIrisベースとか、ライブ会場爆発ってのもあったばっかりだからなぁ~」
「インパクトには欠けますよね。それに私達の世界にも理奈さんという天使がいらっしゃいますし」
俺もCanoro Feliceをやる前だったら、こんな状況になったら驚きまくってテンバッてたんだろうな。
異世界に召還されて、魔王を倒さなきゃいけないかもって状況になって、精霊様を目の当たりにしてるけど、妙に落ち着いてるよね。俺達。
「まぁ、日奈子…じゃなくて、ヒニャコやっけ?あんたの話はわかったよ。前に私達がこの世界に来た時の精霊とは違うってんなら、それはそれでいいし」
「澄香ちゃん!わかってくれた!?」
-チャキ
澄香さんはヒニャコさんに向けていた銃の引き金に指を掛けたまま撃鉄を起こした。
「ちょちょちょちょちょ…ちょっと待って!その武器をこっちに向けられてただけでも怖かったのに、何かもうあたしの事撃つ気満々じゃない!?わかってくれたんじゃないの!?」
「まぁ、それはそれ、これはこれだよね?」
「何がそれで何がこれなの!?」
「精霊の話の事とか、今のこの世界の状況。それを教えてもらえたのはありがたいと思ったし、この森に入った私達の前に、この森の…ここの湖か。ここの女神候補であるヒニャコがここに居る事も、今の説明では変なところはないし、信じられると思うよ」
「変なところなかったでしょ!?あたし嘘ついたりせずちゃんと説明したもん!それにありがたいと思ってるのに何であたしを撃とうとしてるの!?」
「嘘…も確かについてる感じはないよね。タカの影響からか、まどろっこしいの嫌いなんだよね。だからハッキリ言う。今の話に嘘はないけど、隠してる事はあるよね?精霊なんだから私に気配を隠しながら見てれば良かっただけなのに、何で私にわざと気配を察知させてあんたを見つけさせたの?」
わざと気配を察知させて?
俺は全然気付かなかったけど…。そうか、澄香さんはそういう気配を察知する能力にも長けてるもんね。
姫咲の執事になるには周りに敵も多いだろうから、そういう能力は必須だろうし。
…普通の執事さんやメイドさんには必要ない能力だろうけど。
「今のタカちゃんの影響ってのいったかなぁ~?」
「何かとお兄さんを絡ませようとしてますよね。お兄さんはお姉ちゃんのモノなのに」
ああ。確かにまどろっこしいってだけで良かったよね。
わざわざタカさんの影響って言う必要性はないよな。
でも、そんな些細な事も盛夏さんと美緒ちゃんは気になっちゃうのか。
姫咲調べでタカさんの事を想ってそうな人みたいなリストはもらったし、澄香さんとタカさんがくっつかないようにする為に、姫咲からこのリストの誰かとタカさんと結婚させるように手を回せと命令は下されてるけど…。
俺としてはいつもお世話になってる澄香さんを応援したいんだけどね。
「春太くん、これを」
え?俺?
澄香さんがポケットから何かを取り出し、それを俺に渡してきた。こんな時に何なんだろう?
俺は澄香さんが渡して来たモノを受け取り、それが何なのか確認してみた。
……1万円札。
え?何で?何でこんな時に?
あ、さっき俺が澄香さんを応援したいと思ったから?
「あたしも叔母さんと奈緒には悪いけど、澄香さんの方がお似合いだと~…」
「私もお姉ちゃんは『恋じゃないし』とかいつも言ってて辟易してますしね。理奈さんと結婚させない為に、澄香さんを応援しようと思ってたんですよ」
盛夏さんも美緒ちゃんもそんなに1万円欲しいの?
いや、欲しいか。うん、欲しいよな。
俺も最近は姫咲のせいで、思うようにバイトのシフト入れなくて金欠だし。
「さぁ、ヒニャコ。話戻すよ。私に撃たれたくなかったら、ちゃんと説明して。じゃないと次はうっかり引き金引いちゃうから」
「引き金引いちゃう!?あ、もしかしてそれがその武器で撃つぞって合図とか?待って待って待って!隠してた訳じゃないから!全然説明しちゃうから!」
「嘘だとわかったらわかってるよね?その説明っての聞いたげる」
澄香さんは嘘はわかるみたいに言ってるもんね。
「あたしは澄香さんを応援したいと~」
「私もです。澄香さんを応援しています」
そう言いながら両手を澄香さんに差し出してるけど、澄香さんは嘘だってわかってるんだろうな。
盛夏さんと美緒ちゃんに1万円札を渡す事はなかった。
この1万円札は大事にしまっておこう。元の世界に戻っても消えてないといいな。
「わかったよわかった!ちゃんと全部話すからその武器みたなのしまって!」
「オッケー。ならこの銃はしまっとく。だからちゃんと話して」
ヒニャコさんが話すと約束したら、素直に銃をふところにしまった澄香さん。
澄香さんはヒニャコさんの話を最初から何かを隠してるって予想していたって事だよね?そこに脅しをかけて『全部話す』と言わせた。
このタイミングで銃をしまったという事は、これからは信頼を掛けるってヒニャコさんに言ってるようなもんだよね。つまり信頼して話を聞くから裏切るなよって安心感を与えた訳だ。
…何で澄香さんはこんなにネゴシエーションに長けてるの?そんな修羅場をくぐるような人生だったの?
「まだるっこしいのは嫌いって澄香ちゃんは言ってたけどさ?長くなるけど最初から話を聞いてね」
「うん。わかってるよ、話して」
相手を安心させるような声のトーンで話してるけど…。俺がこれからの澄香さんへの対応を考えさせられるよ…。
「まず皆に確認して欲しい事。皆はあっちの平原に召還されて、この森に来たよね?」
「は?話を聞いてねって言っておきながら質問?」
「うん、答えて」
澄香さんもヒニャコさんに対して、あんな返答をしたけど、ちゃんと意味があっての質問と思ってるんだろうな。銃には手をかけてないし。
「そう…だね。確かに私達はあっちの平原からこの世界森に来たよ」
「まぁ~カップ麺のお湯を作るのに水場が必要だったし~」
「そうですね。森があるなら水も…って思いましたし」
澄香さんも盛夏さんも美緒ちゃんも、ヒニャコさんの問いにちゃんと答えてくれた。
俺からは変な所もなかったし、特別何かを言う必要はないかな。
「まぁ、あたしもここから見てたんだけどね。
それでさ?おかしいと思わなかった?平原からこの森に来てからだよね?魔物に襲われるようになったの」
「え?あ…そう言えば、平原に居た時は前に来た時より安全だと思ってたけど」
「おぉ!?そ~いや魔物とエンカウントしたのは、森に来てからだよね~」
「確かに。平原には魔物はいませんでしたもんね」
「そっか。平原に魔物が居たなら、わざわざ俺に試し撃ちしなくても良かったんだもんね…」
「いや、それは人体に影響ないかの確認には必要だったよ?」
今、澄香さんがさらっと怖いこと言ったんだけど。
「魔物ってね。別に人に対して悪さするような生き物じゃないの。自由奔放に生きてて…まぁ、基本的には肉食だからお腹空くと人も襲っちゃうかもだけど。でも普段は人間とも魔族とも共生出来てたんだよ」
「待って。私が前にここに来た時はしょっちゅう魔物に襲われてたし、実際にこの森に入ってからは、私達も魔物に襲われてたじゃん。だから、私もこの銃で…」
「うん。でもね、澄香ちゃんが前にこの世界に来た時は、めちゃくちゃ人と魔族との戦争の真っ只中だったし、今も戦争中っちゃ戦争中だけど…」
「なぁ~んとなくわからないようで、わかった感じかなぁ?」
「そうですね。前にお兄さんや澄香さん達がこの世界に来た時は、戦争中だったから魔物も狂暴になってたって事でしょうか?今も何だかんだと戦争中ではあるんですよね?でもそれって…」
「美緒ちゃんもわかった感じかな?つまり魔物達は…」
「わかった!わかってしまったよ!
つまり、私達のせいでしょ?さっきヒニャコが言ってた、魔王が倒されてから、人間が権力を得て魔族を支配したように…魔物達も…」
「うん。人間達に好き勝手に狩られるようになってね。毛皮が欲しいとか、爪や牙が高級素材になるとか…ね」
「人間達に…魔物達もこの森に追いやられたって事だね」
「うん…。無念に殺された想いとか、人への恨みとか、そして魔物に殺された人の想いとか、魔物や魔族への恨みとか…そういうのが瘴気として、この森に溜まっちゃってね。その瘴気を吸った魔物は狂暴になってって…悪循環で」
そうか。それでこの森に入った途端に魔物に襲われるようになった訳だ。そして、俺達が襲われたからって、澄香さんが魔物を倒しても、またその魔物の想いが…。
「あの時は…いや、今もか。魔物や魔族、魔王が悪者で。それを倒さなきゃ私達もやられちゃうし、元の世界に戻れないって思って…」
「で、でもね!前に澄香ちゃん達が魔王を倒してくれたからは、しばらくこの世界は平和そのものだったし!その平和が長過ぎて人間達は…ってのもあると思うし」
澄香さん達がこの世界に以前来た時は単純な関係だった。魔族や魔物は人を襲い、魔王も人間を滅ぼして世界を征服しようとしていた。
でも、澄香さん達が魔王を討伐してからは、それが逆になって…。だからヒニャコさんは澄香さんを気遣って核心的な事は言えなかったって事かな。
「だ、だからね。話が長くなっちゃったけど、あたしが最初に隠れてたのは、異世界から来た勇者様御一行が、この世界をどうしたいのか見極めようと思って…。でも、襲ってくる魔物もやっつけてたけど、逃げた魔物は深追いしなかったし、自分たちから魔物を襲う事もなかったしで…ちょ、直接会ってみて話を聞こうかな~って」
「…」
澄香さんは何かを考え込むようにして、何も答えなかった。そうだよね、さっき魔族達が人間の奴隷みたいに飼われるようになったって聞いた時も、『そんなはずないっ!』ってヒニャコさんの話を否定してたくらいだし。
色々と辻褄が合うように話されて、理解が追い付いてしまったんだろうな。
「ままならないものですなぁ~。その時は良かれと思ってやってても、結果的に上手くいかなかったって事は、あたし達の世界でもよくある事だしぃ~」
「そうですよね。でも、ヒニャコさんの言うように、澄香さんも気にしない方が良いですよ。澄香さん達が魔王を倒して…平和になった時代も確かにあるのですから」
盛夏さんと美緒ちゃんの言う通りだと思う。
しばらくの間、こっちの世界が数百年もの間。
その間は人も魔族も魔物も共生して幸せだったんだから。そんな何百年後もずっと平和でいられるなんて、保証は誰にも出来ませんよ。
「あ、あのね澄香ちゃん。だからあたしが言いたかったのはね。その…この森に瘴気がいっぱいで、狂暴の魔物もいっぱいだからさ!あたしはいつまでも経っても女神に昇進できないし!魔王倒してもこの森の状況って変わらないと思うから、あたしに何の特もないし?澄香ちゃん達はどうするつもりなのかな?って聞きたかっただけだから!ほら!あたしもあたしの為だし!」
ヒニャコさんの話。
何となくやっぱり俺達の世界の日奈子さんと、ヒニャコさんは色んな面でそっくりなんだなって思った。
「ふふ…」
「澄香ちゃん?」
「フフフ、大丈夫だよヒニャコ。ありがとう。
そうだね、私もあの時はこれが最善だと思った結果だし、やれる事をやろうと思ってやった結果…なんだもんね」
「そう!そうだよ澄香ちゃん!」
「あ、それでねヒニャコ。ちょっと悪いんだけどさ。
さっきヒニャコは私達の事を勇者様御一行って言ってくれたけど、私達って実は勇者じゃないっぽいんだよね。楽器を出せないから、音楽やれないし…」
「へ?楽器?あの伝承にオンガークってやつ?出来ないの?
あれ?でも、澄香ちゃん達は間違いなく勇者様御一行だよ?盛夏ちゃんの職業が勇者だし」
「へ?せっちゃんが勇者?」
「おぉ~。あたしってば勇者だったのかぁ~。さすがあたしって感じだ~」
「盛夏さんが勇者?でも、盛夏さんも楽器出せないんですよね?」
「ん~…楽器出せる感じしないけどなぁ~」
「盛夏さんの職業が勇者って、何でヒニャコさんはわかったのですか?もしかして私達の職業もわかったりしてるのですか?」
「え?うん。あたしのスキルに鑑定眼があるから、みんなの職業とかレベルはわかるよ?」
鑑定眼で職業もレベルもわかる?
それで盛夏さんが勇者ってわかったのか。
ちなみに俺の職業は何だろう?この世界じゃ俺達は勇者じゃないと役には立たないかも知れないけど、ダンサーとかだったら嬉しいかな。
「じゃあ、ヒニャコには私の職業とかレベルってやつもわかってる訳?やっぱり私は勇者じゃなくなってるの?」
「あ~…うん。澄香ちゃんは忍者でレベルは87。一般的に騎士団の隊長クラスでレベルは30くらいだから、澄香ちゃんのレベルは相当高いと思うよ。正直、その武器なくても、そこら辺の魔物なら素手でしばき倒せそうだし」
騎士団の隊長クラスでレベル30なのに、澄香さんは87もあるのか…。元の世界の力も反映されてるのかな?
それより女性なのにくノ一じゃなくて忍者なのか…。
「忍者…カッコいい職業で良かった…。あ、でも忍者なら忍ばないといけないよね…。目立ちたいのに(ボソッ」
いや、大丈夫ですよ。
セバスさんの時は神出鬼没でしたし、十分に忍べてると思います。
「盛夏ちゃんは勇者でレベル3なんだよね。だから、その楽器ってのを出せないとか?」
「ふぇぇぇ~…あたしレベル3しかないのかぁ…?食欲はいっぱいあるのにぃ~…」
食欲は関係ないんじゃないかな?
「ちなみに美緒ちゃんは魔法剣士でレベルは5だよ」
「魔法け…私はマジックナイトですか。しかし、レベル5とは、澄香さんには全然及びませんね…」
美緒ちゃんは魔法剣士か。それより何でマジックナイトって英語で言い直したんだろう?魔法剣士ってマジックナイトで合ってるの?
「そして春太ちゃんは…」
とうとう俺の番か。
盛夏さんが勇者で澄香さんが忍者、そして美緒ちゃんが魔法剣士なら、俺もカッコいい職業だといいな。
「竜騎士でレベルは9だね」
…竜騎士?え?めちゃくちゃかっこよくない?
「さすが春太くん!竜騎士とは恐れ入りました!てっきりネタ枠だと思ってたのに!」
「あたしも一瀬さんはネタ枠だと思ってたのになぁ~。まさかまさかのそんなカッコいい職業とは~」
「竜騎…ドラゴンナイトですか。さすがですね。私のマジックナイトばりにカッコいいです」
いや、みんな俺の事ネタ枠って思ってたの?
でも確かにこんなカッコいい職業とは、俺も思ってなかったな。良くてダンサー、最悪遊び人とかだと思ってたのに。
「でもこの世界のドラゴンって、ほぼ死滅しちゃってるんだよね。希少種としてどこかには居るのかも知れないけど。ドラゴンが居ないから竜騎士って言っても、何の役にも立たないし、ある意味ネタ職だよ?」
「ああ…そうなんだ…」
「やっぱりネタ職かぁ~」
「御愁傷様です」
せっかくカッコいい職業だと思って喜んだのに!
痛い!今はみんなの俺を見る目が痛い!
「ハッ!?…みんな静かに!」
澄香さんがみんなに静かにするよう声を掛け、静かに周りの気配を探っているようだった。
「でかいのが来る…!せっちゃんも美緒ちゃんもこっちへ!ヒニャコ、あんたも私の後ろに…!」
澄香さんが何かの気配を察知したのか、でかいのが来ると叫んで、盛夏さんと美緒ちゃんとヒニャコさんに、自分の方へと逃げるように促した。
え?俺は?って思ったけど、俺も澄香さんの後ろへと避難した。
「グルォォォォォォ!!!!」
すると次の瞬間。
俺達の避難した対面の方から、でかい牛男みたいな…ファンタジーゲームとかでいうミノタウロスみたいなのが現れた。
「デカブツでもこの銃と私のレベルならっ!」
澄香さんはふところから銃を取り出し、銃口をミノタウロスに向けて撃鉄を起こした。
「澄香ちゃんダメッ!その子も本当はいい子なの!森の瘴気に当てられて、ちょっと狂暴になってるだけなんだから!」
「は!?だからって…」
引き金を引くのに躊躇してしまった澄香さん。
ミノタウロスはその隙を付いて、もっていた棍棒のような物を振り下ろしてきた。
-ドゴォォォォン!
すんでの所で俺達は躱す事が出来たけど、ミノタウロスは明らかに俺達に敵意を向けている。
「ヒニャコの言い分もわかるし、そもそも前に私達が魔王を倒しちゃったから、この子らも狂暴になっちゃったのかもしれないけど……このままじゃ私達がやられちゃうから…ごめん!」
再び銃口をミノタウロスに向ける澄香さん。
だけどヒニャコさんが「だからダメだよ!」と言って、澄香さんの銃に飛び付き、澄香さんの邪魔をしていた。
ヒニャコさんも澄香さんに撃たれるかもしれないのに。
「ヒニャコ…ちょっと邪魔」
「ダメ!お願い!澄香ちゃんレベルめちゃくちゃ高いじゃん!あの子をやっつけちゃわないで、追い払うように頑張ってよ!」
「お、追い払ってって…」
「お願い!お願い!!」
ヒニャコさん…。必死なんだろうな。
あのミノタウロスを守りたくて、怖くても澄香さんの銃にしがみついて…。
「う~…あたしが楽器を出せればぁ…」
「私も…楽器はもちろん、剣も魔法も出せそうにありません。あの子…ヒニャコさんの為にも何とか助けてあげたいですけど」
そうだよね。
俺も何とか助けてあげたい。
澄香さんもそう思ってるんだろうな。だから銃も撃たずに、ミノタウロスの注意が俺達に向かないように、上手く立ち回って…。
でも俺にも何も出来ないしな…。
「クッ…わかった。わかったよ、ヒニャコ。何とかしてみるから銃から離れて!」
「本当?本当の本当の本当にあの子やっつけたりしない?」
「上手くいくかどうかわからんけど…やってみるから」
ヒニャコさんは澄香さんの言葉を信じたのか銃から離れた。そしてそれを確認した澄香さんは自分の服の袖を破り、近くにあった手頃な石を拾って、手早く破った袖を巻き付けた。
「上手くいってよね…」
澄香さんは破った袖を巻き付けた石を、ミノタウロスの頭部の近くに投げて、それに向かって引き金を引いた。
-バァァァァン!
澄香さんが撃った石が派手に爆発し、その爆発の閃光と音に驚いたのか、ミノタウロスはそのまま逃げて行った。
「すごい…澄香ちゃん、本当にあの子を追い払っちゃった」
「おぉ~。魔法みたいだぁ~」
「結構すごい爆発でしたけど、アレなんですか?忍の技?」
確かに。
石を撃っただけで、あんな爆発が起こるなんて思えないし、澄香さんはいったい何を?
「ふぅ、上手くいって良かった。この服の袖には爆薬が染み込ませてありまして。それを爆発させたんですよ。袖を犠牲にしなきゃいけないし、あの子を追い払う事ができるような爆発が起こるのかは賭けでしたけどね」
って言うか澄香さんそんな怖い物を着ながら生活してたの?下手したら大惨事になるんじゃ…。
「ありがとう!澄香ちゃん本当にありがとう!」
「その顔でお礼とか言われちゃうとちょっと引くな…。て、てか、別にヒニャコの為にした訳ちゃうし、あの子もやっつけちゃうのは可哀想って、私が私の為にしただけやしな。だからこれは自分の為やし!」
自分の為か。
ははは、なんか澄香さんらしいな。
「…ねぇ澄香ちゃん」
「ん?何?だからさっきのは私の為にって…」
「お願い。私を魔王の元に連れてって」
「へ?魔王の所?」
「うん。さっきの子も被害者だし、魔王が悪い事をしようとしてるから、勇者である盛夏ちゃんがこの世界に来たのかも知れない。でもね、もしかしたら、他の要因で盛夏ちゃんが呼ばれたのかも知れないし…」
「えっ…と。私らとしては元の世界に戻れる可能性があるなら、魔王を倒す為に魔王城に…とは思うんだけど。それが何でヒニャコが付いてくんの?」
「えっとね…」
ヒニャコさんの言い分としては、魔物が追いやられている現状、魔族が人間の奴隷のように扱われいる現状、そして広がる人間達の貧富の差。
それらを無くすために、今、人と魔族は共存するべきと訴えているのが、今の魔王らしい。
その訴え方がまた暴力的だから何とも言えないらしいけど…。
人間達の中にも話し合いで、魔王が訴えるように、人と魔族は共存するべきと主張している国もあるみたいだけど、ヒニャコさんとしては、まずは魔法に今の世の中を『本当にどうしたいのか』を聞きたいらしい。
その返答次第じゃ魔王を倒すべきって結論になるかも知れないから、勇者である盛夏さんの居る俺達と行動を共にしたいそうだ。
「あたしは別にヒニャコさんと一緒に、魔王城目指していいと思うよ~」
「まぁ、私もなるようにしかならないと思いますので、別に何でも」
「俺もヒニャコさんと行動を共にする事を反対する理由は見つかりませんし。みんながいいならいいと思います」
「はぁ…しゃあないか。ヒニャコいい?あんたが魔王と会って、魔王を擁護する事になったとしても、私達が魔王とは敵対する事に決めたら、あんたが魔王を庇ってもまとめて倒すからね」
「うんうん!全然それでいいよ!って訳でみんなよろしくね!」
そうして俺達はヒニャコさんと共に魔王城を目指す事になった。