バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第8章 合流

「澄香ちゃんダメ!この子も!」

 

「あー!もうっ!わかってるから!邪魔だから私から離れて!」

 

私は銃にしがみついてくるヒニャコを離し、パンツの裾を少し破って、近場に落ちていた石に巻き付け、目の前に居る大きな魔物の眼前へと投げつけた。

 

この距離ならあの魔物にもダメージはないはず…。

私はその石に照準を合わせて、銃の引き金を引いた。

 

-バァァァァン!!

 

「グモォォォォォ!?」

 

私の投げた石に銃弾が当たり、その瞬間、小規模ではあるけど爆発が起こり、その閃光と爆音は魔物を驚かせて退散させるには十分だった。

 

「澄香ちゃんありがと~」

 

「毎回毎回、銃にしがみついて来ないでよっ!危ないからマジで!ちゃんと怪我させないように追い払うから大丈夫だってば!」

 

私の名前は瀬羽 澄香。

昔、私がまだArtemis。

バンドをやっていた時代に魔界に来て、魔王討伐をさせられた事がある。当時は魔界の魔物や魔族には楽器による演奏が有効で、相手の敵意などを削ぎ、楽しい気分にさせて、魔族や魔物を無害化させていた。

当時の魔王には音楽は効かなかったんだけど…。

 

そして再び魔界に来てしまった私と私達の次世代であるファントムのバンドマン達は、楽器を出す事が出来ないでいた。

 

でも、ひょんな事からこの世界の精霊であるヒニャコと出会い、今はヒニャコと一緒に魔王城に向かっている。魔王城に行くにはこの森を抜けなきゃいけなくて…。

 

その道中で出会う魔物を追い払う為に、私は自分の服に仕込んでいる爆薬を爆発させていた。

あまり大きな爆発をさせると、魔物達にも近くにいる私達にもダメージが入るかもしれないから、少しずつ破って使ってるんだけど、私の上着とシャツの袖はすっかりなくなり、パンツも左足部分はショートパンツ状態になっていた。

 

あれ?ちょっと待って。

もしかして私のモノローグって何気に初じゃない?

あ、あれや。えっと…。

 

私の姿はあられもない姿になっていた。

もしかしたら私だけじゃなく、過去にこの世界に来たメンバー。BREEZEやArtemisの他のメンバーも召還されているかも知れない。

 

ど、どうしよう!

こんな姿タカに見られたら、ムラムラしたとか言って襲われかねない!そ、そんな事になったらもう私はタカと結婚するしかっ!

 

「タカちゃんがそんくらいの事で襲ってくるなら、タカちゃんはとっくに結婚出来てると思うけどなぁ~」

 

「お兄さんに限ってはありえませんよね。綾乃さんのお話ですと、お兄さんは自分の身に降りかかるリスクを計算しながら生きてるみたいですし。さっさとお姉ちゃんを襲えばいいのに」

 

「俺もタカさんはそんな事しないと思うけど…」

 

「澄香ちゃんって変態なの?」

 

何でみんな私のモノローグにつっこんでんの?

あ、そういや江口くんも志保ちゃんもモノローグが筒抜けとか言ってたっけ?怖いわぁ~…。

 

「そ、そんな事よりヒニャコ!この森って本当に抜けないといけない訳?私達が最初にいた平原じゃ、魔物に出くわさなかったのに、この森やとエンカウント率がハンパないやん!」

 

「確かに回り道して魔王城に行けなくはないけど、平原だと人間軍に見つかっちゃう可能性あるし…。今は一応戦争中だよ?あたしも精霊って立場だし、澄香ちゃん達は不審者だよ?捕まって色々尋問されても面倒だし困るじゃん」

 

「ああ、確かに私達は異世界から来ましたと言っても、楽器も出せませんし、説明がめんどくさそうですね」

 

「あたしも楽器出せる感じ全然しないしなぁ~?勇者なはずなのにぃ~」

 

「ってなると俺達は森を抜ける方が、色々面倒事はなくて済みそうですね」

 

うぅ…。私の服ももう本当にボロボロで、これ以上破いたりしたくないのに。

けど、そう言われたらしゃーないんかな。

戦争で殺気立ってるような軍隊に見つかっちゃうと、色々聞かれそうやし、正直に話してもこんなボロボロの服着てる人の話とか信じてくれそうもないしな。

 

銃とかも持ってるし。この世界に銃があんのかないのかわかんないけど。

 

しょうがないからこのまま森を突っ切るしかないかな?と、観念した時だった。

 

 

 

「みんな止まって。そして私の近くに来て」

 

私は歩を止め、春太くんとせっちゃんと美緒ちゃんに、近くに来るように指示をした。

 

「どぉ~したのぉ~?」

 

「また気配を感じましたか?」

 

「澄香さん…?」

 

みんな私の近くに寄って来てくれて、静かにするようにジェスチャーで促した。

……間違いない。まだそんなに近い訳じゃないけど、人の気配がする。

 

1…2…3……5人か。

こんな森に人が居る訳がない。魔物とは大きさも歩幅も全然違う。やっぱり魔族かな?

もしかしたら人間軍の人かも知れないけど、それはそれで見つかっちゃうと厄介だし。

 

まだ向こうには気付かれてないかな?

特に警戒している様子もないし、割と徒党を組んで歩いている。でも真っ直ぐこっちに向かって来てるね。

 

…!?

 

こっちに歩いて来てたのに急に散開した?

そして今は上手く気配を殺しているようだ。

ってなると、私達の事は気付かれていて、私達を強襲するつもりなのか、このまま捨て置くべきか考えてるって感じかな?

 

参ったな。つまり相手にはこの程度とはいえ、戦況を読む知能があるっていう事。

このまま1ヵ所に止まるのは良くないね。

 

「澄香ちゃん?」

 

「ヒニャコ…ちょっと待ってね。今考えてるから」

 

どうする…?

春太くんはドラゴンが居ないと何も出来ないらしいし、せっちゃんも楽器を出せないし、美緒ちゃんに至っては魔法とかいきなり言われてもわかんないよね…。

 

私の判断ミスやなぁ~…。

こんな事なら1ヵ所に集めるんじゃなくて、近くの茂みにでも隠れさせるべきだったかな。

 

「いい?みんな静かに聞いてね。今、多分私達は魔族か人間軍か…そのどっちかに囲まれてる(ボソッ」

 

「ひぃ!?ほ、本当に!?」

 

「ヒニャコ、だから静かに聞いてって(ボソッ」

 

「ご、ごめん(ボソッ」

 

「さっき感じた気配だと5人くらいかな?それに、どこに隠れてるのかってのも私はわかってるんやけど…(ボソッ」

 

「おぉ~…!さすが澄香さん!(ボソッ」

 

「"!"付いてるのに"(ボソッ"とは、盛夏さんの話し方器用ですね(ボソッ」

 

「それでみんなを連れて移動するのは、みんなを守れる自信ないから諦めて…(ボソッ」

 

「諦めてって…俺達はどうしたらいいですか?(ボソッ」

 

「私が単独で迎撃する。だから、みんなは気配を殺して大人しくしてて。私が動いていいって言うまで(ボソッ」

 

「澄香さんがいいって言うまでって…さすがに相手は5人でしょ!?危なくないですか!?」

 

「春太くん、声おっきい」

 

「あ、す、すみません(ボソッ」

 

そう言って春太くんは申し訳なさそうに大人しくなってくれたけど、せっちゃんも美緒ちゃんもヒニャコも、私が単独で迎撃するって言った途端『え?何でみんなそんなに気配殺すの上手いの?』ってちょっと引くくらいに微動もしないくらいに静止していた。

ヒニャコに至っては、背中の羽みたいなやつも全然動いてないのに、どうやって浮いてるんだろう?実はその羽って飾りなの?

 

「うん、オッケー。みんなそのままジッとしててね」

 

あんまり深く考えないようにしよう。

とりあえず私はこの子らを守らないと…。

 

私も気配を出来るだけ殺して、敵…かどうかはまだわからないけど、私達を囲んでいる奴らの隠れていそうな位置関係をじっくりと観察する。

 

……。

さっき感じた気配は5人。私の周りには4人。

そして今、私が感じられる気配は7つ。

ひとつは春太くん、ひとつはヒニャコ。そして美緒ちゃん。

そしてここから離れた所に4つ。

私が集中しても気配を感じられないって、せっちゃんはどうなってるの?何か特殊な訓練でも受けたの?……そういや梓から特殊な訓練を幼い頃から受けてたんだっけ?

 

相手にも1人どこに潜んでいるか、今はわからない状況だけど、さっきまでは確かに居た。

つまり、相手にも私やせっちゃんレベルに気配を殺せる手練れが居るって事だ。

だけど今の私の敵じゃないね。

 

気配を殺すのが上手すぎて、どこに潜んだのかがまるわかりだ。……よし!

 

私はその手練れが潜んでいそうな所、その場所へと素早く移動した。私がどこにどう移動しているのかわからないように、小石を投げたり風の吹いたタイミングで動きながら。

 

 

 

 

どのくらいの時間が経ったのだろう?

私が感じられる気配は全く動いていない。

一応、春太くん達が目視出来るようには陣取ってるけど、みんなちゃんと動かずに静かにしてくれている。

 

ここからは我慢比べかな。

どっちが我慢出来ずに動いてしまうか。

この世界にはスマホもトランシーバーもないだろうし、人間の軍隊なら離れていると連絡の手段を取る事も出来ないはず。相手が魔族だったら魔法か何かで連絡も取れるかも知れないけど…。

 

だから今厄介なのは、私が気配を読めない1人が待機して、他の4人にせっちゃん達を襲うように連絡される事だ。そうなると私はそっちの対応に動かざるを得なくなるし、私が動いた所を近くに居るだろう手練れに狙われてしまう事だね。

 

私は銃に弾丸が残っている事を確認して、さらに気配を探るように集中した。

 

 

 

-ガサッ

 

 

 

動いた!

私は近くの茂みが動いた音を察知した。

察知した?いや、違うね。わざと物音を立てて派手に動いている。

 

今動いたのは私が気配を察知出来なかったやつだ。

他の4人は動いていない。

つまりこの手練れは、囮になるつもりか私達を強襲するつもりなのか、どっちかはわからないけど、この我慢比べに負けて動いたって事だ。

 

そして私がこの手練れが潜んでいると思っていた場所は正にビンゴだった。私がこんな近くまで接近しているとは思ってもいなかったんだろうね。

明らかに私には気付いていない様子だ。

 

この機を逃す訳にはいない!

 

私は動いた気配に銃口を向けながら飛び出した。

少しでも敵意がありそうなら、ヒニャコには悪いけど、私は引き金を引かせてもらう。

 

銃の照準が動いている影の額をとらえた時、私は驚愕した。

 

「え!?お、お嬢様!?」

 

「す、澄香…さん…?」

 

私が銃を向けている人物は、ファントムのバンドCanoro Feliceのベーシストであり、執事である私の主人である秋月 姫咲だった。

 

「な、何で澄香さんの服はそんなにボロボロなんですの?」

 

あれ?私がここに居る事より私の服の方が気になりますか?

 

「姫咲!?何でこんな所に!?」

 

その直後、春太くんが声をあげながら私達に近付いて来た。私がいいって言うまで動くなと言ってあったのに。

 

「は、春くんまで?」

 

そして私と春太くんとせっちゃんと美緒ちゃん。

姫咲お嬢様とまどかちゃんと藤川さんと達也くんが合流したのだった。

 

ついでに日奈子に似た精霊ヒニャコと、梓に似たお姫様アズゥサ姫も…。

 

 

 

 

今私達は近くで見つけた川の畔で、焚き火をして夜営の準備に入っていた。

 

Artemisの元ベーシストである瀬羽 澄香。

Canoro Feliceのダンサーボーカル一瀬 春太。

Blaze Futureのベーシスト蓮見 盛夏。

Glitter Melodyのベースボーカル佐倉 美緒。

 

Canoro Feliceのベーシスト秋月 姫咲。

Blaze Futureのドラマー柚木 まどか。

Noble Fateのベーシスト東山 達也。

Glitter Melodyのキーボード藤川 麻衣。

 

この8人に加えて、この世界の精霊であるヒニャコ。

人間の国"アルテミィス帝国"のアズゥサ姫。

 

この10がこの場には居た。

 

 

この世界に召還されたのは私達だけじゃないとは思っていたけど、まさかお嬢様まで召還されているとは…。

 

私がこの世界に来て、一番懸念していた事。

 

『もし姫咲お嬢様がこの世界に召還されていたらどうしよう?もし姫咲お嬢様がこの世界に来てるなら、魔王を倒すという事より大変な事になりそうだ。』

 

この心配事が、正に現実となってしまったのだ。

 

春太くんと達也くん、せっちゃんとまどかちゃん、美緒ちゃんと藤川さん、ヒニャコとアズゥサ姫。

そして私と姫咲お嬢様のペアで話をしている所だ。

アズゥサ姫ってめちゃくちゃ梓に似てるやん!って驚きより、姫咲お嬢様の事が気になってしょうがない。

 

「ふふ、でも澄香さんもこの世界に召還されてまして、私安心しましたわ」

 

ふふ、姫咲お嬢様にそう言って頂けて、とても嬉しいですが…。

私は姫咲お嬢様がこの世界に召還されてて、不安しかありません!お願いですから大人しくしてて下さいませ。

 

「それで澄香さん。これからの事なのですが…」

 

き、きた…。

 

「こんな世界に来てしまって、元の世界に戻る方法もわかりません。という事はこの世界で生きていく事も考えないといけないと思います。そこでどうでしょう?この世界の魔王と倒して元の世界に戻れないのなら、私が真の魔王となってこの世界を征ふ……統べるというのは」

 

やっぱりや!やっぱりやで!

姫咲お嬢様がこの世界に召還されていたとしたら、確実に真っ先に考えそうな事!

 

自分が魔王となってこの世界を征服したいと考えると思ってたんだよねー!

 

魔王を倒したら元の世界に戻れますよ。

とかなっても、『いえ、せっかく魔王を倒したのですから、私達でこの世界を私のおもちゃに……いえ、平和になるように導きましょう』とか言うと思ってたし!

 

元の世界でもある程度、お金の力と秋月家の権力で好き放題やってるくせに、いつも満足そうにはしてないもの!この唯我独尊独裁お嬢様は絶対この世界を支配すると思ってたもん!

 

何でこんな人間に育ってしまったのでしょうか…。

昔は『わたくちはお母しゃまみたいなお嫁しゃんになりたいでしゅ!』とか『澄香しゃんみたいなしゅくじょにわたくちはなってみせましゅ!』とか言って可愛かったのにっ!!

 

「澄香さん?」

 

「あ…、いや、いやいや聞いてますよ!私も姫咲お嬢様なら魔王にもなれちゃうんだろうなぁ~とは思ってましたし!」

 

「そうですわよね!さすが澄香さんです!私も絶対、私には魔王になれる器があると常々思っていたんですのよ!」

 

いやー…私的には私達の元の世界で魔王になっちゃいそうって懸念してただけなんですけどね。

ああ、世界的にはこっちの世界の方がまだいいかもしれない。元の世界だと技術力が発展してるだけに、お嬢様が魔王になると色々ヤバそうだし。

 

「ですがお嬢様。やはり私達は元の世界に戻るように尽力しましょう。それが一番いいと思います」

 

「……?何故ですの?」

 

何故ですの?って!?え!?そんな事聞かれるって事ある!?

 

「いやいや、お嬢様何を仰ってるんですか。この世界にはこの世界の、私達には私達の世界の理もございます。

姫咲お嬢様も元の世界に戻ってライブしたりもしたいでしょう?私達は私達の世界に戻ってそこで…」

 

「確かに澄香さんの仰りたい事もわかりますわ。ですが、私達は私達の世界からこの世界に来たのです。もうそれってそういう事じゃありませんの?」

 

私の台詞を遮って"それってそういう事じゃありませんの?"って……語彙力どこかに失くしました?

 

「ライブは確かにしたいとは思ってますが、私達の世界の技術力の知識。それがあれば、私達が楽器を出す事が出来なくても、将来的には楽器もそれなりに作れると思いますし」

 

まぁ…木材は豊富ですしね。

確かに時間を掛ければ楽器も作れるでしょうし、ライブとかもメンバーが居れば出来なくもないですけど。

 

「それに私が魔王となってこの世界を征服。

…じゃないですわね、この世界を統べる機会があるというのに、元の世界に戻ったらお父様とお母様になんと言われるか…」

 

ん?旦那様と奥様?

えっ…とあのお二人なら…。

 

 

 

------------------------------------------------

 

「お父様、お母様、今戻りましたわ」

 

「姫咲…今までどこに…ずっと探してたんだぞ!」

 

「うぅ…姫咲…無事で良かった…」

 

うん、まずはこうなるだろうね。

姫咲お嬢様の妄想話を聞きながら、なんとなく感想を挟んでみる。

 

「実は私…魔界に行ってまして」

 

「魔界!?魔界に行っていただと!?」

 

「あなた…まさか姫咲があの魔界に…」

 

「詳しく話しなさい、姫咲!」

 

「はい。もちろんですわ。実は……」

 

あ~。まぁ旦那様と奥様やもんね。

魔界に行ったとか言っても、こいつ何言ってんの?って驚きより先に、魔界に行った姫咲お嬢様の話を信じて、魔界に行ったという事を驚きそうよね。

 

「なるほど…そんな事が…」

 

「姫咲、貴女が無事に帰ってきてくれて…本当に良かった」

 

まぁ、こうなるよね。うん。

 

「ですが、私はこの世界に戻る為に、異世界で魔王として君臨する事を諦めて戻ってきましたの」

 

「なにぃ!?魔王になる機会がありながら、おめおめと戻って来たと!?」

 

「あなた…きっと姫咲には何かやむを得ない事情があったに違いありませんわ」

 

「私はあちらの世界に残り、魔王として暴虐の限り…いえ、世を平和へと導きたかったのですが…」

 

「なんと情けない!わたしはどうも姫咲を甘やかし過ぎたようだっ!秋月家の娘でありながら、なんという体たらく!クッ…」

 

「あなた!落ち着いて下さい!…姫咲?貴女は私達の娘。魔王になる機会を手放したのは、よほどの事情があったのですわよね?そうですわよね?」

 

「それが…澄香さんが…」

 

「え?私?」

 

「魔王にならずにこちらの世界に戻れと…」

 

「!?何ですと!?澄香さん!それは本当ですか!?」

 

「うぅ…そんな…澄香さんが…しくしく」

 

「あ、いや…確かに私は元の世界に戻るよう薦めましたが、あっちの世界に残りますと、旦那様も奥様も姫咲お嬢様に会えなくなりますし…」

 

「そんな些細な事で魔王になる道を絶ったと…?」

 

「そんな…あの澄香さんが私達の理念に反逆するような事をするなんて…」

 

「いや、え?あれ?私がおかしいんですか?」

 

「世が世なら打首ものですぞ…どう責任を取るおつもりですか!」

 

「私が…私達が澄香さんを姫咲の教育係にしたせいで、ごめんなさい姫咲…しくしく」

 

「クビだ!クビだクビだクビだクビー!澄香さん!2度と秋月家の敷居を…いや、2度とわたし達の前に姿を現さないで下さいっ!」

 

「澄香さんを信じた私達がバカだったのですわ!今すぐ出て行って下さい!ペッ!」

 

 

------------------------------------------------

 

 

「いや、さすがにそうはならないでしょ」

 

「何故そう思いますの?私もお父様とお母様の娘。お二人の特徴は見事に捉えてると自負しますわ」

 

確かに旦那様と奥様の喋り方のイントネーションは、見事に捉えてると思いましたし、魔界に来た事にはあんまり驚かないと思いますけど、さすがに帰って来ずに魔王になってれば…とはならないと思いますよ?

 

旦那様も奥様も確かに一般人とは一癖も二癖も違いますけど…。姫咲お嬢様はお二人をどんなお人だと思ってるんですか?

 

「ですから私は…」

 

「あのお話中すみません、ちょっといいですか?」

 

「ん?美緒ちゃんどうしました?しょーもない話をしてるだけですし、全然大丈夫ですよ」

 

「なっ!?澄香さん!?しょーもない話とは!?」

 

私と姫咲お嬢様がとてつもない無駄話をしていると、美緒ちゃんと藤川さんが、私達に声を掛けてきました。

 

「あ、実は麻衣が魔法を使えるみたいでして、その要領で私も魔法使えるようにならないかな?って思ったんですけど…」

 

「え?藤川さんが魔法を?」

 

そう言って藤川さんの方を見ると、確かに凄い杖のような物を持っていた。…それより左の頬に真っ赤な手形みたいなのがついて腫れてるし、めちゃくちゃ痛そうに擦ってるし、何かあったんでしょうか?

 

「どうも麻衣は死ぬかもって状況になって、そして魔法が使えるように覚醒?って言うのかな?そんな感じになったらしくて」

 

「確かに…藤川さんはゾンビもどきに襲われて、その時に力が使えるようになったと見えますわ」

 

「そ、それでもしかしたら美緒も魔法剣士って言ってたから、魔法が使えるようになるかもって親切に教えたのに!見て下さいよこれ!美緒ったら思いっきり引っ叩いてきたんですよっ!」

 

「いや、あれは麻衣が悪いでしょ」

 

「どんな風に教えたんですの?」

 

「危機的状況を想像したらそれがきっかけにならないかな?って思いまして」

 

 

 

 

『じゃあ、とりあえず美緒は魔王とか魔物に自分が殺されちゃいそうな所を想像してみて』

 

『は?想像しろって言われてもそんな状況になった事ないし。そもそも魔王とか見た事もないし』

 

『う~ん、そっか。じゃあ、奈緒さんとか理奈さんとか渚さんに殺されそうになってる所想像してみて?』

 

『いやそれこそ無理でしょ。お姉ちゃん達そんな事しないし。いや、理奈さんから殺されそうに迫られるならある意味ご褒美か?』

 

『うわぁ。美緒って猟奇的で若干引くねー。だったらこれは簡単じゃないかな?奈緒さんとか理奈さんと渚さんに、タカさんが殺されそうになってる所想像してみて?』

 

『は?何でお兄さんが殺されそうになって、私が危機的状況になるわけ?…あ、でもいつかそうなってもおかしくないかも?』

 

『もう!美緒は素直じゃないなぁ~。好きな人が殺されそうになっ…』

 

-パァン!

 

 

 

 

「って感じでぶたれたんですよっ!」

 

やっぱり私の私設部隊の仕事は優秀やね。

報告通り美緒ちゃんもきっとタカの事が…。

藤川さんはその辺詳しいのかな?お姉さんもうちょいその話聞きたい。

 

「だから違うって言ってるじゃないですか。いくら澄香さんでも怒りますよ?」

 

やっぱ私のモノローグ読まれてんのかぁ…。

 

「あ、それで別にお兄さんの事は想像もしていなかったのですが、麻衣をぶって、もう1発いっとこうかな?って思ったら…この通り」

 

そう言って美緒ちゃんの右手の肘から手のひらの部分にかけて、真っ赤な炎が出てきたのだった。

 

「ほ、炎…?それ熱くないんですの?」

 

「私は全然熱くもなくて…麻衣は近付くと熱いって言ってますけど」

 

私も興味が出て美緒ちゃんの炎に手を近付けてみた。

…なるほど。すごく熱いというわけじゃないけど、確かに熱を感じる。

見た目は凄い炎って感じだけど…う~ん、エアコンで暖房をつけた時くらいの…熱さっていうか暖かさ?

 

「あとこれだけじゃありませんでして…」

 

炎を消した美緒ちゃんは、次に同じ右手の場所にスパークする電気のようなものを出した。

 

「電気…ですか?いえ、ここはファンタジー的な世界ですものね。雷…でしょうか?」

 

「でもこれ静電気より弱いんですよ。ちょっと触ってみたんですけどピリッとくるくらいで」

 

藤川さんに言われて私も触ってみたら…。

うん、確かにピリッとくるくらいだね。全然我慢出来る。むしろ使い方によってはマッサージになりそう。

 

「まぁ一応魔法が使えるようにはなったので、報告をと思いまして。どうやら私は危機的状況で覚醒するタイプじゃなくて、怒りで覚醒するタイプだったみたいですね。穏やかな心を持ち激しい怒りによって目覚めた的な」

 

スーパーサイヤ人かな?

 

「でも美緒の炎は熱いし、雷もピリッとくるのに、私の光の玉は何でもすり抜けちゃって…。見た目の派手さなら負けてないのに…」

 

そう言って藤川さんは杖から光の玉を出して、近くの木に向かって放った。

 

-スゥ

 

光の玉は木をすり抜けてそのまま真っ直ぐに飛んでいくだけだった。

 

「うぅ、何で私の魔法だけ…」

 

光の玉を出せるなんて凄いと思う。

でも何で対象物をすり抜けるんだろう?

もしかしたら職業が何か関係してて、それで攻撃力が減算されてるとか?いや、減算じゃすり抜けって事はないか。

 

あ、職業…。

そうだ。

 

「ヒニャコ~ごめん、ちょっとええかな?」

 

私はアズゥサ姫と話をしているヒニャコを呼んだ。

ヒニャコなら対象の職業がわかるし、藤川さんの職業がわかれば、光の玉の正体もわかるかも。

 

「ん?澄香ちゃんどしたの?」

 

「アズゥサ姫と話をしてる所悪いんやけどさ」

 

「あ、アズゥサちゃんとの話は終わったから大丈夫だよ。アズゥサちゃん達も魔王城目指してるみたいだし、今日はここで夜営して明日から、みんなで魔王城に向かおうって話に…。あ、澄香ちゃん達の意見聞かずに決めちゃったけど、目的地一緒だしいいよね?」

 

あ、話は終わってたんだ?

私も姫咲お嬢様から話を聞いて、お嬢様達も魔王城目指してるみたいだってわかってたし、私としてもみんなで一緒にって方が好都合とは思ってたし。

 

「うん、私もそれがいいと思うよ。あ、それでね、アズゥサ姫達と一緒だった…藤川さんとお嬢様達の職業を鑑定してもらいたいんやけどいいかな?」

 

「あ、そうだね。みんな自分の職業がわかってた方がいいと思うし…えっと、まず麻衣ちゃんはね…」

 

 

 

 

 

 

そして次の日、私達は軽く朝食を済ませ、魔王城へと向かうのだった。

 

「いやぁ、まさか盛夏が勇者だったとはね~。さっすがBlaze Future(うち)のベーシスト!」

 

「ふっふっふ~。いやぁ~、それ程でもあるんだけどねぇ~」

 

「柚木さんも凄いじゃないですか。聖騎士(パラディン)とかめちゃくちゃカッコいいじゃないですか…。俺…あ、僕なんて…」

 

「と、東山さん、元気出して下さい。確かにその…小説家とか言われても、この世界じゃ役に立たないと思いますけど…。俺だってドラゴンが居ないと何も出来ない竜騎士ですし…」

 

「いや、役に立たないと言ったら麻衣もじゃないですか?光の玉とか飛ばせるから凄い職業だと思ってたのですが…」

 

「何で!?何でこんな強そうな杖を持ってるのに、私の職業って照明係なの!?あの光の玉ってただ周りを明るくするだけ!?」

 

そう。藤川さんの職業は照明係だった…。

この場に8人も居るけど戦闘職少なすぎない?

せっちゃんも勇者って言っても、この世界の勇者ってミュージシャンやしな…。春太くんも戦闘職っぽくはあるけど、ドラゴン居なかったらただの人みたいやし。

 

まぁしかしや。

私の懸念は…やっぱり姫咲お嬢様やね…。

 

「クックック、まさか、まさか私の職業が女帝とは…。なかなかに素晴らしい職ですわ。このまま魔王に取って変われば…クックック」

 

女帝って職業聞いて、変なスイッチ入ってるし。

笑い方も『クックック』に変わってるし…。

 

私は一抹の不安を抱いたまま、魔王城に向かうのだった。

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