バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第9章 魔王

「うぅ~……ん、よく寝ましたわ」

 

ずいぶんと疲れが溜まっていたのでしょうか?

わたくしはふかふかで柔らかいベッドから身を起こし、思いっきり伸びをしながら、すっきりとした目覚めを体感していた。

 

こんなに安らぎに満ちた目覚めはいつ以来でしょう?

確か小学生の頃以来でしょうか?

……小学生の頃以来?

 

わたくしはハッと思い、ベッドから飛び起きた。

 

え?は?

何ですのこの柔らかくてふわふわとして、そしてまるで二度寝を誘おうとばかりの寝心地の良いベッドは?

 

わたくしの名前は鶴木 涼風。

確かに昔はこのような素敵なベッドで睡眠を謳歌していましたが、お父様とお母様の事業が失敗して、家を追い出されてからベッドで寝れた事なんかありませんし。

さらにあのクソ2人が事業の失敗を取り戻そうと試行錯誤の末の借金生活に陥り、その借金を返済する為のギャンブル生活に陥ってからは、せんべいのようなぺらぺらの布団のようなモノでしか寝れてませんのに!

 

っと、ちょっとネガティブな発言が長くなってしまいましたわね。

 

わたくしはこのふかふかなベッドで目覚めた事に違和感を覚え、冷静に心を落ち着けながら周りを見渡してみました。

 

「………」

 

めちゃくちゃ怪訝な目をわたくしに向ける人物が、お盆のような物を持ちながら、立ちすくんでいた。

 

「…シフォンさん?いえ、井上先輩?」

 

わたくしはその人物を見た時、パッと見シフォンさんかと思いましたが、やはり井上先輩かな?と思い直しました。え?ちょっと待って。考えてみましたらシフォンさんと井上先輩は同一人物。

 

「なに見てんだよ」

 

…ちょっと待ってと、先ほど思いましたが、もう少々お待ち下さい。え?わたくしの存じ上げているシフォンさんも井上先輩も『なに見てんだよ』とか仰るキャラじゃないんですけど。

 

「起きたのならボクはキミの面倒見なくていいよね」

 

シフォンさん?井上先輩?の、言葉に反応を示さなかったわたくしを見て、シフォンさんなのか井上先輩なのかみたいな人は部屋を出ていこうとしました。

 

「あの…申し訳ございません。わたくしの今の状況を考えていまして…。少しよろしいでしょうか?」

 

今のわたくしの状況。

正直、何でこんな大きなベッドで寝ていたのか、さっぱりわかりません。

そして何故、今目の前にシフォンさんだか井上先輩だかみたいな人がいらっしゃるのかも、全然わかりません。

 

ですが落ち着いて考えてみると…。

わたくしは先ほどまで、ライブハウスファントムで催されるハロウィンイベントのお手伝いをしていた。

そのお手伝いを終え、天音のコスプレ姿を写真に収めようと控室へ入った。

 

天音のコスプレ姿を高解像度の写真で残さないといけないと思い、家の借金を返す為のわたくしのヘソクリで購入した一眼レフのカメラと望遠レンズ。

それらをしっかりと装備して控室に向かったはずです。

なのにその直後に……。

 

わたくしはそこまで考えてハッとしました。

 

あの控室に入った直後に起きた大きな地震。

そして控室に居たメンバーが恐怖の叫びをあげた。

そこまでの記憶をハッキリと思い出せたのですが、そこでどうなって眠ってしまったのか…。いえ、ただ気を失っていただけかもしれません。

 

 

 

その"直後"というのが今。

 

 

 

なるほどですわね。

何となく現状を把握出来そうです。

まだ確信ではなく、可能性の話ではありますが、わたくしはあの地震の後『異世界』に召還されたと推測するのは妥当ですわね。

 

蘭の妹ばぁば様のお話の中に、確か"異世界へ行った"というお話がありましたもの。

蘭の妹ばぁば様も、BREEZEとArtemisのメンバーから聞いた話だと仰っていて、ただのネタだと思っていたのですが…。

 

妹ばぁば様もご自身が行った訳ではなく、Artemisの方々から伺ったお話だと仰ってましたが。

 

「だから何?ボクも暇って訳じゃないんだけど!」

 

おっと…そうですわね。

異世界に来たであろうという事はわかりましたが、今の状況の確認はしておきませんと。

もしかしたら天音や、ついでに結月もこの世界に来ているかもしれませんしね。

 

「えっと…お名前を伺ってもよろしいですか?何とお呼びさせていただけばよろしいでしょうか?」

 

シフォンさんと呼べば良いのか、井上先輩と呼ぶべきなのか…。わたくしはお顔の左半分がシフォンさん、右半分が井上先輩のお顔をしている目の前の方に、お名前を伺いました。

と、言いましても、井上先輩のお顔立ちは整っていますし、シフォン先輩もナチュラルメイクですから、大して違和感はないのですけどね。

 

「何でボクが自己紹介なんて…」

 

「そうですわね。お名前を伺ってますのに、まず自分が名乗らないのは礼儀に欠けますわね。わたくしの名前は鶴木 涼風と申します。おそらくですが、あなた方のいう所の異世界からやって来たのだと思いますわ」

 

「!?やっぱり異世界からの…。って事は勇者?

うぅ~…ボクはシフォン男爵!魔王様に仕える三銃士の1角、獣王シフォン男爵だよっ!」

 

魔王に仕える三銃士…?

と、いう事は妹ばぁば様の仰っていた魔王が復活したという事でしょうか?それでわたくし達がこの世界に誘われた?

 

いえ、これだけの情報では、まだ確信を得ませんわね。

 

「あの…シフォン男爵様。いくつか質問させていただきたいのですが、わたくしは何故こちらのベッドに寝させていただいたのでしょうか?それと、わたくし以外にどなたか異世界から来たであろう人物をご存知ありませんか?」

 

取り敢えずはこの2点は重要ですわねよ。

もし天音もこの世界に来ているなら、混乱して泣いているに違いありませんわ。ああ、天音の事を考えていたら天音に会いたくなってきましたわ。

 

「……ボクはお前達が本当に異世界から来たのなら、勇者かもしれないし信用はしない」

 

お前達?今、シフォン男爵様は"お前達"と仰いましたか?となると、やはりこの世界にはわたくし以外にも。

 

「でも…魔王様の命令だから、お前達は客人として丁重に扱ってやる。…何で魔王様も自分を倒すかもしれない異世界人を丁重に扱えだなんて…(ブツブツ」

 

「あの…すみません!それって…お前達って事はわたくし以外にも異世界から来た人がいらっしゃるという事ですか!?」

 

「ハァ…何でボクがこんな事…。そだよ。キミ以外にも異世界人だろうって人は3人居る。魔王様には丁重に扱うよう言われてるけど、勇者の可能性があるからね。ボクの管轄している1室で監禁させてもらってる」

 

監禁ですって!?

いや、それにしてもわたくし以外に3人?

もしその中に天音が居たら…。

実績わたくしと天音は監禁部屋で同棲生活!?

 

…って違いますわ。

 

うっかりそれって幸せ空間と思いましたが、天音は監禁されて怯えてるかもしれませんし、他に邪魔者が2人いらっしゃるという事。

なんとかシフォン男爵様には、天音とわたくしで1室に監禁、そして残りの邪魔者2人を1室で監禁という風に提案しませんと…。

 

監禁に怯える天音と2人で楽しい監禁生活。

これがわたくしの最高峰の展開ですわ!

 

「ま、監禁とか聞いたらそんな難しい顔になるよね」

 

しかし、どう説得して天音とわたくしの2人きりの監禁室にすれば良いか…。

 

「さっきの話を聞いて、キミがここから逃げるのか、他の異世界人と同じ監禁部屋に行くかは、キミが適当に決めたらいいよ。ボクは仕事としてキミを他の異世界人を監禁している部屋に連れてってあげる」

 

他の異世界人の所に?

それは願ってもないですわね。

もしかしたら天音が居るのかもしれませんもの。

わたくしに逃げるなんて選択肢はありませんわ!

 

「逃げるなんてありえません。わたくしを他の方の所に案内してくださいませ」

 

「…勝手に着いてきて」

 

 

 

 

『キャァァァァ!』

 

『イヤァァァァ!!』

 

『ハハハハハハ!ハッーハッハッハ!』

 

シフォン男爵様に連れられている道中。

色んな部屋の前を通っていますが、そこから聞こえてくる凄惨な叫び声、泣き叫ぶ人の声、高らかに大笑いしている人の声…。色々な声が聞こえてきます。

 

-ドターン

 

-バターン

 

何かが倒れるような物音。

わたくしは異世界に来た事、この世界は魔王によって恐怖で淘汰されているのだろうと身震いをしました。

 

こんなのいくらシリアスにやっても基本はギャグですものね。と楽観していた自分がどれだけ愚かだったのかと思わされる現状。

 

わたくしはたまらずシフォン男爵様に声を掛けた。

 

「あの…先ほどから聞こえてくるこの叫び声は?…わたくしの世界から来た…あなた方が異世界人だと思ってらっしゃる方々は無事なんですの?」

 

「だからさっき逃げてもいいよ…って言ってあげたのに。ここまで来た以上は逃がす気はないし、キミもボクの監視下に置かせてもらう。キミがボクに着いてくるって選んだんだからね?」

 

-ゾクッ

 

そう言ってわたくしを見たシフォン男爵の目は、明らかにわたくしの知るシフォンさんのものでも、井上先輩のものでもなくて。

わたくしはただ何も言えず、何かする事も出来ず、黙ってシフォン男爵様に着いていくしかありませんでした。

 

「この部屋にキミの仲間だろうって人達が居るよ」

 

シフォン男爵様はある扉の前で止まり、わたくしに向かってそう言った。

わたくしはその扉の取っ手に手をかける。

 

…他の部屋とは違って悲鳴のような声も物音もしません。悲鳴が聞こえないという事には安心しましたが、何も物音がしないというのも不安を覚えます。

 

「どうしたの?入らないの?」

 

扉の取っ手に手をかけたままの、わたくしの心を見透かされているかのように、シフォン男爵様はわたくしの行動をただ見ている。

 

……確かにこのままでは埒がいきませんわね。

 

わたくしは重い扉を開きました。

 

 

-ギィィ…

 

 

そこには

 

 

「ん?おお、涼風か」

 

「涼風…?ああ、鶴木さんか。てか、秦野。いくら後輩だからって、いつの間にファーストネーム呼びなの?」

 

「あ、鶴木さんもここに来てたんだ?」

 

何故か蕎麦を打っている秦野先輩と、ソファに座ってジュースのようなものを飲んでいる観月先輩、そして大きなテレビでゲームをやってらっしゃる大西さんがいました。

 

…ここ異世界ですわね?

何でテレビとかゲームがありますの?

というか秦野先輩は何故蕎麦を?いえ、秦野先輩のご趣味は蕎麦打ちとは伺ってましたが…。

何でこの異世界で?え?物音も立てずに蕎麦を打ってましたの?

 

「フヒヒヒ、驚いているようだねぇ」

 

シフォン男爵様?いや、そりゃ驚きますわよ。

色んな意味で。

 

「ここは完全防音の部屋だからね。大音響でゲームやってても部屋の外に音が漏れないし、ドリンクバーも付いてるしね。この部屋に1度入れば快適過ぎて2度と部屋の外に出たくなくなる。監禁するにはもってこいだよ」

 

シフォン男爵様がわたくしの後ろから部屋に入ってくると、先ほどまで蕎麦を打っていたはずの秦野先輩が、わたくし達の元へと瞬間移動してきた。

 

「シフォン男爵。お前がこの部屋から出て行ってからの数十分の間。お前に会えなくて正に地獄のような時間だったぜ」

 

いや、先ほどまで自由に蕎麦を打ってたんじゃないんですの?

 

「フヒヒ、リョウくんって言ったっけ?キミは異世界人とはいえ、ボクにメロメロなんて本当に可愛いよね。ま、ボクは可愛いからしょうがないか」

 

「…キュン!まさかシフォンの姿でそんな事を言ってもらえるなんて…。半分がシフォンで半分が井上…どこをどう見ても可愛すぎてヤバい。親父…お袋…オレはこの異世界に来れて幸せだぜ」

 

「ま、リョウくんだけはボクの専属部下にしてあげたかったんだけど…」

 

「シフォン男爵の専属部下だと…?これはもう結婚と言ってもいいんじゃないか…?」

 

「残念だけどそれは無理かなぁ。4人とも目が覚めたみたいだし、ボクは魔王様に報告に行かせてもらうね。いい?逃げ出しちゃダメだからね?」

 

「安心してくれシフォン男爵。オレは逃げたりしないし、花音さんも明日香も涼風も逃げ出さないようにオレが見張っておく」

 

「フヒヒ、リョウくん。それじゃよろしくね」

 

そう言ってシフォン男爵様は部屋から出て行こうとしています。

 

「……」

 

「あぁ…シフォン男爵がまた行ってしまう…」

 

「秦野…あんたマジでさ…」

 

「いやぁ、奈緒からそれっぽいの色々聞いてたけど、あたしもさすがにこれは引いちゃうわぁ~…」

 

少しだけの間。

シフォン男爵様が出て行って、扉がしっかりと閉まり、この部屋には外の音が全く聞こえなくなりました。

完全防音室…ですか。確かに凄い部屋ではありますわね。

 

「…行ったか。それじゃ明日香、花音さん。さっきの話の続きですが…あ、涼風にも今のオレ達の状況を説明しとかないとな」

 

ん?あら?秦野先輩ってシフォン男爵様の前と居ない時と雰囲気違い過ぎません?

 

「ほんとそれよ。鶴木さんも驚いてるんじゃない?あんたのシフォン男爵の前と居ない時の熱量の差。私も最初は驚いたもの」

 

「あ~…鶴木さん。軽くだけ説明させてもらいますね。秦野くんからの話を聞いただけで、あたしも実はまだ半信半疑なんだけど、ここってどうやらあたし達の世界とは別の異世界ってやつらしくて…」

 

秦野先輩からお聞きになった?

あ、そういえば先程も異世界に来れて…と仰ってましたわね?

 

「あの…秦野先輩?」

 

「ん?どうした?異世界ってさすがに信じられないか?」

 

「いえ…それは…まぁ、出所は伏せさせていただきますが、BREEZEの皆さんとArtemisの皆さんが、異世界に召還され、魔王討伐をした事がある。というお話は存じてます。それよりもですが…」

 

「え?鶴木さんは異世界って信じられるんですか?あたしまだ色々見ても半信半疑なのに…実はこれって地震で転んで夢見てんじゃないかな?とか…」

 

「花音さんもそろそろ諦めた方がいいですよ。私も前に酔った拓斗からそれっぽい話聞いた覚えありますし。当の本人は昔見た夢の話なんだけどな。とな言ってましたけど」

 

「話の出所は伏せるって何でだ?天音が三咲さんに聞いたとかか?まぁいいや。異世界の事よりそれよりもって何だ?」

 

なるほど。大西さんはまだ半信半疑、観月先輩は宮野さんに、秦野先輩はご両親に伺って知ってましたのね。

わたくしも蘭の妹ばぁば様に伺った時は、天音を怖がらせる為の冗談とは思っていましたが、ここまでわたくし達の世界と違い過ぎますとね。

 

まぁ、妹ばぁば様には、今はまだファントムの方々には自分がBREEZEとArtemisの知り合いと思われる言動は出来るだけ控えるよう言われてますしね。

わたくしが話したとバレて、また杖で打たれてもたまったもんじゃありませんし。

 

「いえ…その、秦野先輩の今の態度…と言えばよろしいでしょうか?シフォン男爵様の前とぜんっぜん態度が違うなぁと思いまして」

 

「ああ、何だそんな事か。

さっきも言ったがここは異世界だ。オレ達の常識とかは通用しないかも知れない。それに親父達の話だと、異世界に召還されたタカさん達は楽器を使って、音楽で戦っていたと聞かされたが、オレは全然ギターを出せる感じしないしな」

 

やはり秦野先輩も楽器が出せませんのね。

わたくしも先ほどシフォン男爵と歩いている時に、楽器を出そうと試みてましたが、一向に出せる気配がありませんでしたもの。

 

「つまり、オレ達はシフォン男爵と敵対しても何も出来ねぇ。だったら友好的にしてた方がメリットがあるだろ?」

 

なるほど。

さすがですわね。

秦野先輩のご両親は、クリムゾンエンターテイメントのミュージシャンだった時代、知略を用いて反クリムゾングループのミュージシャンを倒していたと聞きました。

もし、秦野先輩のご両親が、BREEZEやArtemisの仲間にならず、そのままクリムゾンエンターテイメントとして活動していれば、アルテミスの矢は潰されていたかもしれないと、蘭の妹ばぁば様が仰ってました。

 

秦野先輩にもそういった知略に長けた部分が受け継がれてますのね。今の所はわたくし達の敵でなくて安心してますわ。

 

「つまり先ほどのは、シフォン男爵様に友好的であるように見せる為のお芝居だと?」

 

「当たり前だろ。オレはシフォン一筋だからな」

 

「あ~…鶴木さん、さっきの秦野のシフォン男爵の前での態度。お芝居って思わない方がいいわよ」

 

「うん、多分って言うか、絶対の自信があるんだけど、アレって秦野くんの素だと思うよ?」

 

……いや、さすがにお芝居でしょう?

秦野先輩がシフォンさんをお慕いしてらっしゃる事は、まだ数回しかお会いした事ありませんのに、バレバレですが…。わたくしも天音の前に行ってもあんな醜態晒しませんし。

 

-トントン…ガチャ

 

「みんなが起きたのなら魔王様が、みんなを謁見の間に連れて来いってさ。ほら、行くよ」

 

わたくし達がお話をしていると、シフォン男爵がノックをして部屋に入ってきた。

失念してましたわね。わたくしとした事が先ほどノックをし忘れていましたわ。

 

とか思っていたら、また秦野先輩がシフォン男爵の目前へと瞬間移動していた。

 

「シフォン男爵。オレも魔王様と是非会ってみたいと思っているんだが、他のみんなはまだ疲れが残ってるみたいでな。みんなはこれからもう一眠りするらしい。

…そうだ!みんなが起きるまでオレと2人で色々話をしとかないか?将来の事とか」

 

「あの?リョウくん?何でボクの手を握ってるの?それに目が血走ってて怖いんだけど。それよりみんなはまだしんどいの?もう一眠りするの?」

 

「…なるほど。お芝居ですか」

 

「ほらね?言った通りでしょ?」

 

「あ、シフォン男爵。正直しんどいって思ってますけど、あたし達別にもう一眠りとかしないんで。魔王様の所に連れて行ってもらえます?」

 

「な!?」

 

「ありゃ?そうなの?じゃあみんなで魔王様の所に行こっか」

 

 

 

 

そして今、わたくし達はシフォン男爵様に連れられ、魔王様とやらのいらっしゃる場所、謁見の間へ向かっています。

 

「オレがシフォン男爵と仲良くなって、元の世界に戻る方法を聞き出そうとしていたのに…」

 

「いや、あんた明らかにシフォン男爵と2人っきりで、話をしたかっただけでしょ?」

 

「あたしもさすがにフォローしきれないわ。それに早く元の世界に戻りたいなら、魔王ってのに会った方が早いんじゃない?」

 

「わたくしも秦野先輩の事は、今回の件を含めて、これからを見させていただきますわ」

 

それから少しして大きな扉の前に到着しました。

 

「ここだよ。ひひひ、この先には魔王様がいらっしゃるからね。きっとキミたちは死け…驚く事になると思うよ」

 

今、シフォン男爵様は死刑って言おうとしませんでした?

 

そして、シフォン男爵様が大きな扉を開けた。

その部屋の奥に居たのは…

 

 

 

 

「は?タカ…さん?」

 

「え?魔王様ってタカさんに…」

 

「あ~…シフォン男爵がシフォンちゃんに似てるから、魔王ってのも誰かに似てるんだろうなぁって思ってたけど、まさかのタカさんか…はは、面倒くさくなりそう」

 

「皆さん、魔王がタカさんに似てる事に驚いてらっしゃるようですが、もっと驚くべき事ありません?あの方、奥の玉座に座らず、人をダメにするクッション的な物に寝そべりながら煎餅食べてますけど?」

 

「あ、ああ、涼風。悪いな。まさか魔王がタカさんに似てるって事が衝撃的過ぎてな。確かに…この異世界に煎餅があるって事も驚きのポイントだよな」

 

秦野先輩はやはりアホの一派ですのね。

 

「秦野は本当にアホよね。鶴木さんが言いたいのはそこじゃないわよ。クッションの上で煎餅を食べる。その行動を驚いているのよ。寝そべったまま食べてるとクッションには煎餅の欠片や食べかすがポロポロ落ちて、クッションが汚れてしまうわ」

 

ええ…まぁ、わたくしが驚いたのは、玉座に座らず何でクッションに寝そべってますの?って所でしたが、まぁ、"その行動"って指摘でしたら、当たらずも遠からずですわね。

 

「いや、あたしはタカさんがラーメン以外を食べてるのがびっくりだわ」

 

いやいやいや大西さんは何を言ってますの?

 

「あ…」

 

「「「「?」」」」

 

わたくし達に気付いた魔王は、"あ…"と声をあげ、クッションから立ち上がって玉座に座りました。

 

「ククク…よくぞここまで辿り着いたな、異世界の勇者達よ。だが、キサマらの快進撃もここまでだ!だが、我が配下になると命乞いをするのであれば、命だけは助けてやろう」

 

辿り着いた?快進撃?

わたくし達はシフォン男爵に案内されて、ここに来たのですけど。

 

「あ、魔王様。ここはその台詞違うよ。今回の場合は魔王様が客人として呼んだからこっちだよ」

 

あの方は…永田先輩?

永田先輩に似てらっしゃる黒いローブを着ている方が、魔王に台本のような物を見せていた。

 

「あ、そうだった。くっそ間違えた。てか、シフォン男爵のやつがノックもせずに部屋に入ってくるから悪いんだよ。 めちゃくちゃ油断してたから、テンパっちゃったじゃん」

 

「うん、それあたしもわかる。本当ならステルスで隠れときたかったけど、いきなりだったから隠れる暇なかったし」

 

「シフォン男爵は今夜の晩飯のデザート抜きだな」

 

「ええええ!?ボクそんな悪い事した!?」

 

「あ、それよりあの人達びっくりしてるから、やり直さないと。あ、あたしめちゃくちゃ的確な助言してない?これってシフォン男爵のデザートは、あたしが貰ってもいいんじゃない?」

 

「あ、そうだな。やり直さないとカッコ悪いもんな。よし、シフォン男爵のデザートはムツキルにやる」

 

「わぁ♪やったぁ~♪」

 

「ちょ、ちょっと!魔王様もムツキルちゃんも!ただノック忘れただけじゃん!」

 

「よく来たな客人達。いきなりこんな異世界に来て驚いただろう。俺はこの異世界で魔王ってのをやっている。魔王って聞くとキミ達は身構えちゃうかも知れないが、リラックスして俺の話を聞いてくれ。……ムツキル、今のどう?」

 

「うん。さすが魔王様!めちゃくちゃ完璧だったし、カッコいい!これでデザート3つにならない?」

 

「だよな?俺もいけてたと思うわ。よし、シホゥのデザートもムツキルにあげちゃう」

 

「ほんと?やったぁ~♪思ってもない事でも言ってみるもんだね」

 

「な!?あたしこんな罰を受けてんのに、晩御飯のデザートも抜きなの!?」

 

何ですのこの茶番劇。

そういえば先ほどまでは、魔王と永田先輩似の方と、シフォン男爵様しか気付いてませんでしたが、この部屋の隅っこで、何故か雨宮先輩に似てらっしゃる方が、両手にバケツを持たされてますわね。

 

そして魔王が指をパチンと鳴らすと、わたくし達の目前に座り心地の良さそうなイスとテーブルが出てきました。

 

「ちょっと話が長くなるかもしれないし、そこに座ってゆっくり話を聞いてくれ」

 

そう言った魔王は、また指をパチンと鳴らし、今度はテーブルの上にお茶が出てきました。

 

「えっと…どうするのが正解かしら?」

 

「座ってくれって言ってんだ。せっかくだし座らせもらおうぜ」

 

「そうだね。それにせっかくここまで来たんだし、タカさん…じゃないか。魔王の話は聞いてみた方がいいんじゃない」

 

そう言って秦野先輩と大西さんはイスに座り、わたくしと観月先輩も後を追うようにイスに座った。

 

そしてテーブルの上のお茶を1口飲む。

…すごく美味しいお茶。指を鳴らしただけでイスやテーブル、それにこんな美味しいお茶まで。

これって漫画などでよく聞くスキルってやつでしょうか?

 

お茶の入ったカップを口から離し、魔王の方を見ると、魔王は本当に客人を迎えるような優しい顔で微笑んでいた。

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