バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第10章 魔王の野望

オレは秦野 亮。

…そうか、今回はオレのモノローグか。

 

オレ達…と言っても、いつものAiles Flammeのメンバーではなく、Ailes Flammeのギタリストであるオレと、Noble Fateのボーカリスト花音さん、Lazy Windの明日香とAmaterasuの涼風。

明日香と涼風はキーボードだ。

 

そんなオレと明日香以外はそんな接点も無さそうなメンバーが、何故か魔界とやらに召還された。

 

その魔界では何か楽器出せないとなんやかんやあるらしいのだが…。

 

この魔界の魔王がオレ達の知るBlaze Futureのタカさんに似ているというのも気になる所であるんだが、今のオレには"食後のデザート抜き"で文句を言っているシフォン男爵が可愛すぎて堪らない。

 

シフォン男爵というのは、オレ達Ailes Flammeのドラマーであり、オレの将来の嫁であるシフォンと瓜二つの人物だ。オレはオレ達の世界のシフォン一筋なのだが、やはり瓜二つの姿形となると、可愛さから目が離せない。

 

だからオレはシフォン男爵から目が離せないのだ。

目が離せないから周りの話がわからないのだ。

そう、このモノローグがわかりにくいのはオレが悪い訳じゃない。

 

「秦野くんってこの部屋に入った時、魔王がタカさんに似てる事にびっくりしてたみたいだけど」

 

「ですね。さっきから私達の会話も耳に入ってないみたいですし。私と大西さんと鶴木さんで何とかするしかないですかね」

 

「秦野先輩はこういう方だと今のうちにわかったのは良かった事だと思っておきますわ」

 

「あ~…なんだ。俺もお前らの…あ~、君たちの世界の誰かに似てるって感じか?」

 

「「「!?」」」

 

なんだ?

魔王がオレ達に向かって何か言ったみたいだが、それに対して、花音さんも明日香も涼風も驚いてるみたいだな。しまったな。聞き逃してしまった。

 

「ええ、まぁ、私達の世界の…知り合いに似てるって言いますか…」

 

「そうですわね。わたくし達の世界の知人に瓜二つですわ。ですが…」

 

「えっと、魔王様って呼べばいいかしらね?魔王様は何故私達の世界に似てる人が居ると思ったんです?

実はシフォン男爵に似てる人も私達の世界に居るんですけど、私達からそんな話はシフォン男爵にもしてないと思うんですけど」

 

「えぇ!?シホゥやムツキルちゃんだけじゃなくて、ボクにも似てる人が居るの!?」

 

ん?シホゥ?ムツキル?

ああ、確かにあのバケツ持って立たされてる娘は雨宮に似てるし、あのローブかぶってる娘は睦月に似てるな。

 

だがシフォン男爵。

オレはシフォンとシフォン男爵が似ているとは思ってないからな。2人ともただの天使さ。…いや、女神か?

 

「あ~、あのアレだ。そこでバケツを持つって罰を与えてるやつ。そいつは俺の部下のシホゥってんだけどな。そいつがさっき独断で…まぁ、キミ達以外に召還された異世界人の所に行ってな。色々あったらしくて…。そこでその異世界人の人らは、シホゥが自分達の世界の誰それちゃんに似てるとか言ってたみたいでな」

 

「わたくし達以外の…?」

 

「やっぱりこの世界に召還されたのは私達だけじゃなかったって事かな?シホゥが誰かに似てるって言ってたって事は、やっぱりファントムの誰か?」

 

「あの…それでその異世界人っていうのは…」

 

ん?涼風も花音さんも明日香もどうしたんだ?

何かタカさん…いや、もう魔王でいいか。

魔王の話を聞いて驚いているようだが…。

 

しかし、本当にシフォン男爵は可愛いな。

横顔なんかどう見てもシフォンだと思えば、反対側から横顔を見たら井上なんだもんな。

オレはシフォン男爵の右側に立つのが正解なのか、左側に立つのが正解なのかを考える事で精一杯で話が頭に入ってこないぜ。

 

オレもちゃんと魔王の話聞いてた方が…いいよな?

すまんシフォン男爵。

これから少しの間だけ、魔王の話を聞かせてもらうな。

だけど信じてくれ。オレはお前だけを見ている。

 

「その異世界人ってのは俺もよくはわかってねぇんだけど、シホゥはその異世界人にボコボコにやられたそうだし、ムツキルが会ったって異世界人も無事みたいだから安心してくれ」

 

「異世界人にボコボコに?…その方達は楽器が出せるのでしょうか?(ボソッ」

 

「あっちの志保に似てる子だけじゃくて、永田さんに似てる子も異世界人に?」

 

「無事みたいだから安心しろって言われても…。もし渉が紗智とか松原さんと一緒だったら、逆に安心できないんだけど…(ボソッ」

 

あ?雨宮をボコボコに?とか言ったか?

シフォン男爵の方を見ながら魔王の話を聞いてはいるが…。ってか、シホゥってのはオレ達の世界の雨宮だろ?

 

その雨宮をボコボコに出来るなんて、渚さんか理奈さん以外にいないだろ。

奈緒さんや梓さんや澄香さんでも雨宮をボコボコに出来るかもしれないが、あの人らなら見た目が雨宮だったら躊躇してくれそうだし。

 

「うん、まぁそれはまた後でな。

先に俺から質問させてくれ。俺からキミ達に聞きたい事があるんだが…」

 

 

-ゾクッ

 

 

な、何だ…これ…?

 

魔王がオレ達に聞きたい事があると言った直後、魔王の顔が笑顔から真剣な顔に変わり、それから周りの空気が一変した。

 

以前ファントムに来た海原や、オレの店に来ていた足立とはまた違った感覚。

あの2人からは恐怖や絶望感を感じさせられていたが、魔王から放たれた空気はまた全然違う別物だ。

 

そう思った時、オレの頭にはひとつの言葉がよぎった。

 

 

『死』

 

 

魔王から放たれたのは、恐怖や絶望とは違う死の予感。

下手に動いたり喋ったりするようなものなら、間違いなく次の瞬間にオレ達は殺される。

 

それほどまでに凄まじい殺気が、この部屋中に充満していた。

あの雨宮に似ているシホゥってやつは、持ってたバケツをひっくり返して縮こまりながら震え、魔王の近くにいたムツキルってやつは、白目をむきながら泡を噴いている。そしてシフォン男爵も怯えてはいるが、とても可愛い。

 

……だがさすがと言ったところなのか?

花音さんも明日香も涼風も、苦しそうな顔をしているが、真っ直ぐに魔王を見て耐えている。

花音さんも海原には会った事があるし、明日香もそれなりにクリムゾンエンターテイメントと戦ってきた猛者ではある。

涼風も両親がクリムゾンエンターテイメントと色々あったって話だし、ある程度の修羅場はくぐってきたのかもな。

 

…………オレだけ日和ってる訳にはいかねぇよな。

オレだってクリムゾンエンターテイメントの浅井夫妻の息子だ。それにAiles Flammeとしてクリムゾンエンターテイメントも倒して、天下一のバンドになろうとしてんだ。こんな殺気に負ける訳にはいかねぇ!

 

それから数秒…。

いや、とてつもなく長い時間に感じていたんだが、少ししてから魔王から殺気が消え、また笑顔になってオレ達を見た。

 

「試すような事して悪かったな。

キミ達を含めて、シホゥやムツキルが会った異世界人達、キミ達は魔王である俺を倒す為にこの世界にきたのか?それが俺の聞きたい事だ」

 

試す…?

そうか、魔王は殺気をオレ達に向けて、敵意があるかどうかを確認したかった訳か。まぁ、口だけだったら何とでも言えるしな。

 

-ゾクッ

 

……いや、違う。

魔王は殺気を消しただけだ。

顔は笑顔ではあるが、明らかにオレ達を敵として見ている。おいおいおい、タカはこんな事、絶対しないだろ。

 

恐らく花音さんも明日香も澄香もそれに気付いてんだろうな。さっきから微動だにしないし、魔王の質問に答える素振りもねぇ。

みんなどんだけ修羅場くぐってんだよ。

 

って、それはオレもか。

よし、こん中で男はオレだけだし、少しはカッコいいとこ見せとかないとな。シフォン男爵も『リョウくんカッコいい!』とか言ってくれるかもしれないし。

 

オレは魔王の問いに答えるつもりで、今居るこの場から1歩だけ前に歩いた。

 

「いきなり殺気を向けられて驚きましたけど、この中ではあたしが最年長なんで、あたしが話をさせてもらいますね」

 

……んだけど、花音さんがそのオレより前に出て、魔王に話掛けた。オ、オレの見せ場が!

 

「えっと…魔王…様。様?さま?

うーん、すみません、ちょっとその見た目に"様"って付けるの何かアレなんで、魔王さんって呼ばせてもらいますね」

 

「え?何で俺に"様"付けるのアレなの?そっちの世界の俺に似てる人ってそんな感じの人なの?」

 

「そんな感じの人なの?って聞かれますと…まぁ、そんな感じの人ですね」

 

「確かに…タカさんはタカさん…かしらね」

 

「わたくし達の世界のタカさんは、もう色々アレで、こちらの世界の魔王さんには御愁傷様としか言えませんわね」

 

「まじでか」

 

一瞬、花音さんは何て事言うんだって思ったけど、この部屋にあった緊張感はスッと抜けたな。

魔王からも敵意ってのがさらに薄まったし、明日香と涼風もさっきまでの恐怖心は払拭できたみたいだ。

 

情けねぇ。オレが魔王と話してたら、こうはなってなかったかもな。

 

「あ、それはそれとしまして。

魔王さんからの私達への質問。それに答えさせていただきますね」

 

花音さんはそう言って、わかっている範囲でオレ達がここに召還された経緯、オレから聞いた過去にBREEZEやArtemisが召還された時の事を魔王に話した。

 

 

 

 

花音さんがあらかた話終え、オレ達は魔王から『敵意は今のところないみたいだな』という事で、さっきの監禁部屋にまた戻り、ゆっくりしてくれという事だった。

 

「それにしてもさっきのはびっくりしたわね」

 

「ええ。大西さんが率先して魔王様にお話しいただいて、正直たすかりましたわ」

 

「本当だよな。オレも魔王に…って思ってたけど、花音さんみたいに上手く場を和ます感じ?そんな風には話せなかったと思うしな」

 

「いや、こん中じゃあたしが一番人見知りだし、陰キャだとは思うんだけど」

 

「そんな事ありませんわ。魔王様にはしっかりお話されてたではありませんか」

 

「あれは…あんな状況だったし、あたしが一番年上だってのがあるしさ。それに…」

 

「それに?何ですか?」

 

「いや、魔王さんって見た目タカさんじゃん。何かビビってるのがアホくさいというか…。いつも奈緒とか渚とか理奈にビビりちらしてるくせに、そんな光景思い出したら怖くなくなって…」

 

ああ…確かにファントム(うち)の女性陣から謂れのあったりなかったりする暴力を受けてるせいか、強気のタカさんより怯えてるタカさんの方が見馴れてるもんな。

 

「まぁ魔王さんには、あたし達に敵意がないとはわかってもらえたけど、あたし達には問題がまだ山積みだよね」

 

「ええ、そうですわね。わたくし達以外にこの世界に来ている人達。一旦はご無事だったようですが、何とか合流したいものですわね」

 

「そうね。それに私達が元の世界に戻る方法も見つけ出さないと」

 

「さしあたって後は、シフォン男爵は右側から見るのと左側から見るのとどちらが正解かって事くらいだな」

 

「秦野くんの意見は無視するとしても、多分あたしらが他のみんなを探しに行くってのは、さすがに止められちゃうだろうし」

 

「秦野の意見はどうでもいいとしましても、私達が元の世界に帰る方法ってヒントが、魔王討伐くらいしかないですもんね」

 

「秦野先輩が何を心配しているのか微塵も興味はありませんが、あの魔王様の殺気。わたくし達だけで、魔王様を倒すというのは無理がありますでしょうしね」

 

何でオレ意見無視されてんだ?

 

「うーん、これから本当にどうしよう?」

 

「ここから抜け出しても、魔物や魔族に襲われるかもしれませんものね」

 

「それにここだと何も進展はないですけど、衣食住だけは困りませんしね…」

 

まぁ、確かにここにはドリンクバーもテレビもゲームもあるし、風呂もあるし人数分のベッドもある。

食い物も備え付けの電話みたいので連絡すれば、持って来てくれるって話だしな。

 

いや、それよりこんな密室で男のオレが一緒に居るのに、この女子達は不安になったりしないの?

 

「ま、しばらくはこの生活を享受するしかないんじゃないか?一応死ぬ事はなさそうだし、もしかしたら他のメンバーが魔王討伐って事で、この魔王城に来るかもしれないしな」

 

……?

何かオレ変な事言ったか?何でみんなオレを見てんだ?

あ、やっぱり男のオレが同じ部屋で不安になってるとか?

 

「秦野、あんたさ?ここに居たらシフォン男爵といつも会えるだろうからとか思ってない?」

 

「確かに。秦野先輩にしてみれば、シフォン男爵様のいらっしゃるここは天国でしょうしね」

 

いや、それかよ!

確かにシフォン男爵といつも一緒に居られるとは思ってるけど、オレだって早く元の世界に戻って本物のシフォンに会いたいしな!

 

「でも確かに秦野くんの言う通りかな。あたしらには戦う術もないし、誰かが助けに来てくれるのを待つしかないのかも」

 

雨宮…いや、こっちの世界じゃシホゥだっけ?

シホゥとムツキルが、オレ達の世界の誰かと会ってんだよな?少し話でも出来れば誰がこっちに来てるのかわかるかもしれないんだが…。

 

 

-バンッ!

 

 

 

「ふん!みんな居るようね」

 

「シホゥだめだって~…。また魔王様に怒られちゃうよ?」

 

オレ達が部屋でこれからどうするかを考えていると、急に扉が開けられ、シホゥとシフォン男爵が入ってきた。

 

「あんた達、ちょっと顔貸しなさい」

 

「だからシホゥだめだってば~」

 

「別に取って食うつもりも、傷つけるつもりも今のとこはないわ」

 

「でもさ~…」

 

何だ?シホゥがオレ達に何か用があるのか?

だったらちょうどいいか。

 

「いいよ、シフォン男爵。

シホゥって言ったよな?お前、オレ達の世界のヤツに会ったんだろ?それってどんなヤツなんだ?」

 

「は?何であたしがあんたにそんな事教えなきゃいけないのよ」

 

「オレ達に何か用があるんだろ?それに答えてくれたらどこでも付き合うぜ?」

 

「…ち、わかったわ。無理矢理連れ出すより、黙って着いてきてもらう方が楽だし。いいわ、教えてあげる。あたしがあったのは力のバカ強いゴリラみたいな女よ」

 

「ゴ…(ゴリラみたいな女だと?誰だ?こんな事言うのも何だが該当する女性って割と多いんじゃ…)」

 

「ゴリラみたいな女って…(誰かしら?紗智とか藤原さんじゃなさそうだけど、ファントムの人よね?あそこゴリラの群れみたいなもんじゃない)」

 

「力のバカ強いゴリラみたいな女ですか(って事はもしかしたら結月?確かにあの子はゴリラと言っても過言ではありませんものね。天音ではないようで安心しましたわ)」

 

「も、もう少しヒントっぽいのないかな?(ゴリラみたいな女…まどかさんや奈緒も場合に寄ってはそんな感じだし、綾乃さんって事はないか。候補は渚に理奈に…あかん、めちゃいっぱい居るわ…)」

 

「何よ、みんなして思い当たる人っていっぱい居るんだけど?みたいな顔しちゃって。あんたらの世界ってゴリラみたいな女っていっぱい居るの?」

 

 

 

 

それからオレ達はシホゥとシフォン男爵に連れられて、どこかに向けて歩かされてる訳だが、どうもシホゥの話からすると、シホゥが会った異世界人は、理奈さんと渉と松岡と恵美。

ムツキルが会ったのが、拓斗さんと拓実と架純さんと綾乃さんのようだ。

 

「あ~…綾乃さんまでこっちの世界に来ちゃってるんだ」

 

「何で渉と一緒なのが私じゃなくて松原さんなのよ…」

 

「天音が居なかったという事は安心して良いのやら悪いのやら…。まだお二人がお会いしてないだけかもしれませんし、結月と一緒という可能性も…」

 

みんな各々思う所もあるようだが、シホゥ達の話だとみんな楽器は出せてないみたいだな。

理奈さんは何故かでかい剣を出してたみたいだけど。

 

それにしても他のメンバーに関しても全然共通点が見当たらないな。オレ達もなんだが…。

 

ただあの時。

オレ達がこの世界に来る前、ファントムでの控室。

確かタカさんもシフォンも雨宮も睦月も、ライブ前にトイレに行くと言って控室を出ていた。

そして、拓斗さんと涼風が控室に入って来た直後に、停電があって地震が…。

 

あくまでも予測でしかないが、あの時に控室に居たメンバーがこの世界に召還されたんじゃ…。

そうなるとかなりの人数がこの世界に居る事になるな。

 

「秦野先輩?さっきから黙り込んでどうなされましたの?」

 

「またシフォン男爵の事でも考えてんじゃない?」

 

「あ、いや悪い。別にシフォン男爵の事考えてた訳じゃねぇよ。まぁ考え事はしてたんだけどな」

 

「考え事って?シホゥの話を聞いて何かわかった?」

 

「いえ…特には…」

 

予測は予測ではないし、はっきりそう確信を持った訳じゃないしな。そもそもその予測が当たってたからって特に何か出来る事もないし。

 

今はオレ達の身柄と、シホゥとムツキルが会った、確実にこの世界に来ているメンバーの無事を祈る事だけしか出来ねぇか。

 

「この部屋よ。入って」

 

ある大きな扉の前に着き、シホゥがその扉を開けてオレ達をその部屋に入るように促した。

 

オレ達が入った部屋。

そこはだだっ広いだけで、シンプルな内装。

部屋の奥に大きな鏡が置かれているだけだった。

オレ達の世界の姿見の鏡より、何倍ものでかさのある大きな鏡だけが。

 

「あんた達も楽器とやらが出せないみたいだし、オンガークが出来ないって事は勇者ではない。…っていうのだけは信用してあげる」

 

部屋に入ったオレ達の方を向き直って、シホゥが話し掛けてきた。

 

「あたし達が会った異世界人も楽器は出せないみたいだったしね。勇者じゃないとは思ってんだけど…。あのゴリラみたいな女達はエィジィ王の命の元、魔王様を討伐しようとしてるからね。あいつらの仲間であるあんた達を合流させる訳にはいかない」

 

理奈さん達が魔王討伐?

まぁ、理奈さんは戦闘出来るみたいだし、元の世界に戻るには魔王を倒すしかないからって感じなのかもしれないが…。

 

「まぁ、あのゴリラ女達の目的地はこの魔王城。遅かれ早かれあんた達と合流する事にはなりそうなのよ」

 

確かに理奈さん達の目的地がここならいずれは…。

 

「それで?何が言いたいんです?合流されて魔王さん討伐の仲間になられる訳にはいかないから、今の内にあたしらを消しておこうって感じですか?」

 

!?

花音さん!?

 

「ちょ、ちょっとシホゥ本気?さすがにそんな勝手したら魔王様に怒られるだけじゃ済まないよ!?」

 

「そうね、今の内にあんた達を消した方が安心も出来るし手っ取り早い。でも、魔王様があんたらを客人と認めたし、あたしが勝手にそんな事したら、怒られるだけじゃ済まないわ。でもあんた、本当はあたしがどうするつもりか気付いてんでしょ?だからそんなカマをかけた」

 

「…まぁ、あたしらを殺すつもりなら、わざわざこの部屋に連れてくる必要もないでしょうし。なら他にも何か理由があんのかな?って。そうなると残った手札はあたしらに魔王さんの仲間になれってくらいかな?って」

 

あ?オレ達が魔王の仲間に?

いや、確かに魔王って会った感じは、恐ろしいってのはあるが悪い人には見えなかったけど、さすがに渉達と敵対するのは…。

 

「そうね。あんた達には私の仲間になってもらいたい」

 

いや、いくらなんでもそれは…!

 

「そ、そんなの無理に決まってんじゃないっ!」

 

「そうですわ!皆さんわたくし達の元の世界の仲間。その方達と戦う事になるなんて…!」

 

「うーん、まぁ、いいですよ」

 

「そうよね!大西さんも言ってやって下さ…え?」

 

「お、大西さん?本気ですの…?」

 

花音さん何で…。

魔王の仲間になって渉達と戦うって事ですか?

本気なんですか!?

 

「シホゥも魔王さんの仲間になれとか、そんな提案呑む訳ないってわかってるだろうし、なのに敢えて仲間になれって言ってくるって事は、何かしら譲歩案とか総意のがあるからでしょ?」

 

「全部お見通しか…」

 

譲歩案?

そうかシホゥもバカじゃない……と思うしな。

いくらなんでも元の世界の仲間と戦ってって言って、はいわかりました何て返答があるとは思わないよな。

 

「はっきり言うわ。あのゴリラ女にはしてやられたし、あたし自身の手で次会った時はギタギタにやっつけてやろうって思ってる」

 

いや無理だろ。返り討ちにされるだけだろうな。

 

「…魔王様は倒されるべき方じゃない。だから、あんた達には、元の仲間と戦うのは無理でも、元の仲間達が魔王様と戦うのを止めてもらいたいのよ。止めるだけ。別に戦う必要はないわ」

 

「魔王様と戦うのを…止める?ですか?」

 

「戦わなくていいって言っても、さすがにそれは無理じゃないかしら。私達が元の世界に戻るには…その、魔王様を…」

 

「それだって!前の勇者達が先代魔王を倒したから、戻れたってだけじゃない!今の魔王様とは関係ないかもしれないじゃない!」

 

「確かに魔王を倒したところで、オレ達が元の世界に戻れるって確証もないしな」

 

まぁ今のところは一番高い可能性ではあるんだが。

 

「魔王様は…あたし達魔族や魔物を導いてくれた。人間達に支配とか、面白半分で暴力を奮われたり、殺されたりした魔族や魔物がいっぱいいる中…、みんなを纏めあげて建国までして…。おかげであたし達は平穏に生きれる今をやっと手に入れたんだ…。そんな魔王様を討伐だなんて」

 

「人間が魔族や魔物を…?待って下さいまし。魔族や魔物が人を襲うから、昔の勇者達は先代の魔王様を討伐されたのではないのですか?」

 

「魔族や魔物が人を襲ってたのは昔の話よ。それも先代魔王からの洗脳魔力によって無理矢理ね。人間達にもその時の恨みや憎しみがあるんでしょうけど、いくらなんでもやり過ぎなのよ!あいつらっ!」

 

「それちょっと詳しく聞かせてもらえる?」

 

シホゥの話によれば、昔の勇者達、タカさん達の事だな。彼らが先代魔王を倒した後、長らくの間は人と魔族、魔物の共存する平和な世界になっていたらしい。

 

それが200年程前から、今度は逆に人間が魔族や魔物を襲うようになったそうだ。

それからしばらく魔族や魔物は人を恐れ、日陰で人の目を避けて慎ましく暮らしていたらしい。

だが、人間達による魔族狩り、魔物狩りはどんどん勢い付いて…。

 

シホゥやシフォン男爵、ムツキルのように元々魔力の高い魔族や魔物は無事だったらしいが、シフォン男爵の村のみんなもシフォン男爵を残して全滅させられたらしい。他にもそんな魔族がたくさん居るようだった。

 

そこで魔王タカーが圧倒的な魔力を用い、魔物や魔族を率いて建国。それを由としない人間達と戦う事になり、戦争状態になっているようだが、基本的には魔族や魔物の方から人間を襲う事は禁止されているらしい。

 

先代魔王の残留思念や、戦争で命を落とした人や魔族、魔物の瘴気に充てられた野良魔族や野良魔物は、人、魔物、魔族関係なく襲ってはいるらしいが…。

ま、シホゥはその禁止事項を破って、理奈さん達を襲ったから、魔王に罰を与えられてたらしい。

 

「胸糞の悪くなる話ですわね」

 

「復讐の為に音楽をやってた私が言えた事じゃないけど、さいっあくの気分ね」

 

「なるほどそっか。だったらあたしらがこの世界に召還された理由って…魔王討伐じゃないんじゃ…(ブツブツ」

 

「魔王様の目的は『昔のように人、魔族、魔物が仲良く共存出来る世界を作る事』そんな目的を持つ魔王様を、今のこの世界で倒される訳にはいかないのよ。あの魔王様が倒されれば世界の均衡が崩れる。あたしら魔族や魔物には滅びの道しか残らないわ」

 

魔族や魔物には滅びの道…か。

魔族であるシホゥにとっては、そんな状況になるのは避けたい事だよな。…いや、シホゥだけじゃないよな。

シフォン男爵やムツキル、その他のこの城で生活している魔族、この世界に居る魔族や魔物みんなの問題だ。

 

今のオレ達の世界だって似たようなもんだ。

音楽を好きややりたいって気持ちだけでは、音楽をやっていけない世界。

クリムゾンミュージックを筆頭に、傘下であるクリムゾングループの連中に目を付けられちまったら、ライブをやる事もバンドをやる事も出来ねぇ。

 

だからオレ達もクリムゾンエンターテイメントと戦う道を選んだんだもんな。

 

 

……。

 

 

「オレもいいぜ。魔王の仲間になるよ。ただし、渉達…オレ達の世界の連中とは戦わなくていいってのが条件な。あ、もちろん、オレ達の世界の人らが魔王を倒すってんなら、出来る限りではあるが止めさせてもらうさ」

 

このくらいなら…いいよな。

 

「え?リョ、リョウくん。本当にいいの?」

 

「ああ、もちろんだ。お前ら魔族側の気持ちもわからなくもないしな」

 

「ありがとう!リョウくん!」

 

そう言ってシフォン男爵はオレに抱きついてきた。

良かった…魔王の仲間になって…。

 

「魔族側の気持ち…か。私も気持ちはわからなくない…かな」

 

「そうですわね。命のやり取りとは違いますが、わたくし達の世界と似たような感じですもの。わたくしとAmaterasuとしてバンドをやる為に、クリムゾンエンターテイメントとも他のクリムゾングループとも、戦うと決めたのですから」

 

「え?いいの?」

 

シホゥ…。無理矢理オレ達を連れ出してこんな話したくせに、みんなが了承してくれたってのによ。

いいの?とか聞くなよな。……本当にオレ達の世界の雨宮に似てるよお前は。

 

「ふ!ふん!言質は取ったからね!言質取れなかったとしても、あんたらを消すだけだった訳だし…言質とか関係ないんだけど!」

 

「で?オレ達をここに連れてきた理由は何だ?さっきまでの話なら、わざわざここに来る必要ねぇだろ」

 

「え?あ、ああ、うん。そうだよ。その通り!

こんなすぐ了承してくれるとか思ってなかったから、段取りが…あ、ちょっと待ってね。さっちゃん!さっちゃん居る!?」

 

さっちゃん?

 

「シホゥ様。わたくしめはここに」

 

シホゥがさっちゃんとやらを呼び、その後に聞こえてきた声。その声はシホゥの影から発せられているように感じた。そして、その声がシホゥの影からの声と認識した直後、シホゥの影が大きく膨れ上がり、そこから人形をした物体が出てきた。

 

そしてその人形の黒い物体は爆ぜて四散し、奥の鏡の物陰から、普通に歩きながら、オレ達のよく知る河野 紗智のような人物が出てきた。

 

 

ちょっと待て。

整理しようか、うん。

え?今の声って確かにシホゥの影から聞こえてきた感じがしたし、シホゥの影も大きく膨らんだから、そこから何か…って言うか誰か?

 

そんな誰かが出てくると思ってたんだけど、その影は何の関係もなく爆発四散したし、全然関係ない所からさっちゃんと呼ばれる魔族が出てきたんだけど…。

 

……今はそんなの考えなくていいか。

さっちゃんと呼ばれて河野と似ている人が現れた。

雨宮は河野の事をさっちと呼んでいるし…。確かあの時雨宮は渉に…。

 

 

「「江口。あたし何の事かわかんないんだけどさ?『江口くんにこの変態!って伝えてくれないかな?今すぐ』ってさっちからメール来たんだけど…。あんた何したの?とりあえず伝えたからね」」

 

 

あの時の台詞を考えたら、河野もハロウィンライブには来てくれてはいた。そして客席に居たって事だよな?

やっぱさっきから感じているオレの予測は…。

 

「シホゥ様。わたくしを呼んだ理由はわかっております。彼らの職業、そしてスキルを視ろとおっしゃるんでしょう?」

 

「フフ、さすがさっちゃんだね。その通り、あの異世界人達の職業とスキルを視て頂戴」

 

「かしこまりました。いえ、かしこまってかしこまりまくりました」

 

その後、さっちゃんと呼ばれる河野に似た女の子は、目を見開きながら『瞬きを忘れたのか?』と思う程オレ達を凝視してきた。

職業とかスキルとか。ゲームとかもそれなりにやった事はあるし、RPGとかならよく聞く言葉ではあるけど、オレ達にもそういうのがあるんだろうか?

 

「あ、ちょっと待ってさっちゃん」

 

オレ達を凝視するさっちゃんとやらの肩を掴み、シホゥが声を掛けた。

 

「シホゥ様?何でしょう?」

 

「えっと…何であたしの事を"シホゥ様"って呼んでんの?あたしも…さっちゃんって呼んでるのに」

 

「わ、わたくしめは三銃士様方とは違って、非戦闘員でございますから、三銃士である炎帝のシホゥ様には…」

 

「……グスッ。そうだよ…ね。あたしはさっちゃんの親友と思ってても、さっちゃんからしたらあたしなんて、敬語であしらえばいい、ただの魔王様の幹…」

 

「そ、そうじゃないよ!シホゥちゃん!私は今の私とシホゥちゃんの立場的にって思っただけで、シホゥちゃんの事は親友だと…」

 

「グスッ」

 

「泣いちゃうのズルいよシホゥちゃん!泣きたいのは三銃士に選ばれなかった私の方だし!いや、ホント泣かないで!魔王様何やってんのぉぉぉぉ!三銃士じゃなくて四天王とかにしてたら、私もシホゥちゃんと同じ立場になれたかも知れないじゃん!何で四天王にせずに三銃士にしたの!?おかげでシホゥちゃん泣いちゃったじゃん!私は下の立場になったから、三銃士の方には敬語とかでいなきゃいけないとか思うじゃん!何が『四天王って何か俺的に嫌な感じするから4人じゃくて3人の三銃士にしちゃおうか』だよ!おのれ魔王様めっ!そして私の台詞長いよ!!」

 

四天王は嫌な感じ?

…オレの知る四天王っていうと、やっぱりクリムゾンエンターテイメントの九頭竜と二胴、手塚さんと足立がパッと頭によぎるが…。こっちの世界のタカさんである魔王も、オレ達の世界のタカさんと何か通じる所があるって事なんだろうか?

 

「グス…うぅ…」

 

「も、もう!シホゥちゃん泣かないで!あー!もう私はどうしたらいいの!!?」

 

こっちの世界もこっちの世界で大変だな。

 

「もういいよ!私は私の仕事させてもらうね!まず、そっちの人はね……」

 

 

さっちゃんとやらはオレ達の方を向き、一人一人の職業とスキルとやらを視てくれた。

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