バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第13章 王と魔王の過去

「ごめんね、こんな物しか用意できないんだけど…」

 

私達の前に出されるお茶を口にする。

うぅ~…ほとんど水だ。全然味がしない。

 

「えっと…それとお粥…くらいしか今は…」

 

お粥と聞いて『久しぶりにお米が食べられる!』と、思ったけど、そこに出されたのは、ただ濁っただけのお湯って感じだった。

スプーンで掬ってみたけど、お米なんてちょっとしか見えないくらい。

 

せっかく出してもらえたんだから、と思い、少しだけ口に入れてみる。

う…これも味が全然しない…。

 

私の名前は夏野 結衣。

今、かなぽんとさとみん、マッキーと私は、さっき私達を助けてくれたトッシーに似てる人の自宅に招かれている。

 

 

 

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少し前の時間。

 

「この方達は勇者様です!皆さん攻撃を止めて下さい!」

 

「トシキさん!何でここに!?」

 

「え?えっと…俺達どこかでお会いしましたっけ?」

 

「どこかでお会いしましたっけ?って、私達だよ!?トッシーは私達を忘れちゃったの!?」

 

「え?ト、トッシー?」

 

「結衣、真希さん待って下さい。きっとこの人、トシ兄にそっくりだけど、あたし達が知るトシ兄じゃないんじゃないかな?こないだも綾小路さんに似てる人が居たわけだし」

 

「「あ…」」

 

「似てる人…?」

 

「あ、私達の世界の知人に似てらっしゃる方が居まして…」

 

「シッキーも物凄く似てたもんね。トッシーもただのそっくりさんなのかな?」

 

「私達の世界…?やはり貴女方は異世界からの…。

皆さん!この方達は敵じゃありません!どうか、俺の事を信じて攻撃を止めて下さい!!」

 

トッシーのそっくりさんが、私達に攻撃していた人達に訴えかけてくれて、攻撃の矢は止み、私達に攻撃をしていた町の人達に事情を説明し、私達にもこの町の人達が何故、私達を敵視して攻撃をしていたのかを説明してくれた。

 

彼の名前はトシキング。

元人間国ファントムみたいな名前の所?

今私達が目指してる国なんだけど、その国のなんとか騎士団にいた、なんちゃら将軍と呼ばれていた人らしい。

うぅ~ん、なんちゃら将軍ってのも呼びにくいし、トシキングさんってのも呼びにくいよね。

何か呼びやすい呼び方ないかな?

 

まぁ、今は呼び方とかはどうでもいっかな?

あ、そうだ!トシキンって呼ぼうかな!

トシキンってなんか可愛いよね!?

 

あ、それでトシキンは、元々はエィジィ王ってのに仕えてて、人間を脅かす魔物や魔族がたくさん居るってこの町に、魔族討伐に派遣されたらしい。

でも、この町に来たトシキンの騎士団は、エィジィ王の話とは違って、人間や魔族、魔物達が手を取り合って仲良く暮らしている現状を見て驚いた。

 

トシキンの騎士団は昔のように手を取り合って暮らしている魔族達を討伐する事なんか出来ない。と、エィジィ王に報告する為に国に戻った。

 

だけど、トシキン達の騎士団が国に戻っている間に、他の騎士団に寄って、この町の魔族や魔物は討伐され、人間達は魔族と仲良くしていた事をスパイだとか言われ、この町は壊滅させられたとの事だった。

 

それを知ったトシキンとトシキンの騎士団の一部の人は、騎士団を辞めて人間国を離れ、この町の復興の為に尽力していたらしい。

そんな時に私達が来たもんだから、私達はエィジィ王が送った刺客だと思って攻撃してきたみたいだった。

 

 

 

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「あの…トシキングさん…でしたっけ?おかげで助かりました。ですが、先ほどの話って…」

 

「あたしらが向かっていたファントムニア王国が、まさかそんな国だったなんて…」

 

「酷すぎる!酷すぎるよ!魔王の前にエィジィ王って人をやっつけなきゃ!」

 

「ユイユイちゃんもちょっと落ち着き。くぅ~、ただの水と白湯みたいなもんやのに、魔力が枯渇したうちの身にはめちゃくちゃ沁みるわぁ~」

 

「はい、本当の話です。信じられないでしょうし、信じたくない話だと思いますが…。でも、皆さんがもしファントムニア王国に向かっていたというのでしたら、その前にこの町に来てくれたのは本当に良かったと思います」

 

本当にそうだよ。

私達がそのファントム?に向かってたら、どうなっちゃってたかわかんないもん。

 

「本当に信じたく…ないですけど、本当の話なんでしょうね」

 

「エィジィ王って事は、多分だけどあたしらの世界の英治先生の事っぽいですよね?英治先生がそんな事するかな?って疑わしくはあるけど、トシ兄に言われたら信じるしかないですよね」

 

「かなぽんってえーちゃんのお弟子さんだよね?えーちゃんよりトッシーのが信じられるんだ?

まぁ、私もえーちゃんの事よりトッシーの方が信用出来そうって思うけど」

 

「香菜ちゃんもユイユイちゃんも辛辣やな…。まぁ、うちも拓斗くんから色々聞いてるし、やっぱ英治くんよりはトシキくんとは思うなぁ~…」

 

「あの…信じてほしくて話した俺が言うのもなんですけど、そちらの世界の俺とエィジィ王じゃ、俺の方を信じられる感じなんですか?」

 

あー、そういう風にトッシーとえーちゃんってなると、やっぱトッシーを信じられるって思うけど、それでもそのエィジィ王ってのが、私達の世界のえーちゃんだったとしたら…。絶対にそんな事はしないと思うんだけどね。

 

「あ、えっと私達の世界で、トシキングさんとエィジィ王が別々の事を言ってたら、トシキングさんの言い分を信じられるって話なだけで…」

 

「英治先生…えっと、こちらの世界じゃエィジィ王ですかね?その人もあたしらの世界ではバカみたいに良い人ですし、正直、そんな事をする人とは全然思わないんですけど」

 

「そやなぁ~。英治くんって人がいいし、取っつきやすい感じやもんな。むしろ、トシキくんからそんな報告を受けたら、戦うのかすぐに止めそうやのに」

 

「だよね。えーちゃんならそんな事はしないと思いはするよね」

 

「………本当に皆さんそう思われますか?」

 

「え?それってどういう…?」

 

「そう思われますか?って、あたしらの世界のエィジィ王ならそんな事しないと思うって事に対してですか?」

 

「なんかきな臭いな…。もしかしてトシキングさんも何か変に思っとるんですか?」

 

「うん!私はそう思うよ!えーちゃんもたぁくんと一緒で色々適当だけど、そんな事はしないと思う!」

 

「たぁくん…それってもしかして…タカーという名前の方では?」

 

私達はトシキンの言葉を聞いてギョッとした。

そうだった。魔王タカー。

この世界に今君臨している魔王だ。

 

古の魔物さんや村の人達が言っていた魔王。

古の魔物さんや村の人達の話では、そんなに悪い人じゃないっぽい感じだったけど、私達が元の世界に戻るのなら、いつか倒さなくてはいけない存在。

 

それに人間の人達には、魔王が悪で魔王を討伐しなきゃっぽい人が多数っぽいから、私達は人間の前ではたぁくんの事は話題に出さないように気をつけようって言ってたのに…。

 

私達の世界のたぁくんはこの世界のタカーなのかと問うトシキンに、肯定も否定も出来ずにいた。

でも肯定も否定もしないって事は、トシキンにはわかっちゃうよね。

 

「なるほど…そうですか。

…そちらの世界の魔王も、いや、そのたぁくんって人も、いつもは適当に生きるって感じで、ぐーたらに毎日を過ごし、強気でいられる人には強気なくせに、自分より強そうな人にはびっくりするくらいチキンになる卑屈野郎なのでしょうか?」

 

「「「「!?」」」」

 

私達はびっくりしてお互いな顔を見合せてしまった。

何それめちゃくちゃたぁくんじゃん。

もしかして魔王もそんな感じなのかな?

 

「ふふ、やっぱり魔王タカーは魔王タカーのままなんだね」

 

「!?…トシキングさんそれって」

 

「もうトシキングさんには、バレちゃってると思いますから言っちゃいますけど、そのさっきトシキングさんが仰られた人物像、まさにあたしらの世界のタカ兄とそっくりです」

 

「まぁたまに真面目な所もあるみたいやけどな。うちはそんな所見たことって1回か2回くらいしかないんやけど。いつも拓斗くんと架純から絶賛されとるしなぁ」

 

「たぁくんって面白いしいい人だけど、たまに失礼だよね。あ、それでトシキンってもしかしてさ?こっちのたぁくん。魔王タカーに会った事あるの?」

 

「ははは、ならやっぱり変わったのは…エィジィ王なんですね。魔王とはずっと昔ですけど、会った事…ありますよ。皆さん、これから話す事は、出来れば皆さんの心の中にとどめておいて欲しいんですけど…」

 

 

 

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-数十年前

 

「ハァ!!」

 

-バシーンッ

 

「痛っ…」

 

「あ、だ、大丈夫ですか?王子」

 

「だ、大丈夫だこれくらい!次だトシキング!」

 

「王子、そろそろ休憩にしましょう。もう木剣を握る力も入ってないじゃないですか」

 

「木剣を握る力がなければ、拳を握って戦う!クッ、今も民達は魔王軍に脅かされているかと思うと、いてもたってもいられないっ!」

 

「ですが王子。体をお休めになる事も大事な事でございます。疲れきったお体では、いざという時に戦えなくなりますよ」

 

「し、しかしっ!」

 

「今なら王子お付きの侍女達と一緒に休憩時間を過ごせますが?」

 

「まことか!?よし、休憩しようそうしよう。うん、休憩しないといけないまであるな。あ、もしかしたらその侍女のうちの誰かと…ぐふふ、よし、今日の特訓はおしまいだ。また明日頼むぞトシキング」

 

「あの…ワタシは休憩と進言しただけで、今日の特訓を終わりとは…」

 

「バッカ!終わりだ終わり!今から侍女達とゆっくり休憩するぜー!ヒャッホー!!」

 

俺とエィジィ王はその時10歳。

当時は先代の王の人間軍とと先代魔王の魔王軍とで、毎日毎日この世界のどこかで戦闘が起きていた。

どちらの軍も単純に、人間を滅ぼす事、魔族や魔物を滅ぼす事という理由で、熾烈な争いが各地であった。

 

そんな戦争を何とか自分の代には終わらせたいと、エィジィ王は剣の修行や魔法の修練にあけくれ、子供なのに大人に負けない剣技を持つ俺は、剣聖として崇められ、エィジィ王の師匠として、付き人の任務に就いていた。

 

さっきの話でもわかるように、エィジィ王は残念ながら昔から女好きで、たまに修練をサボったりもしてたけど、このくだらない戦争を終わらせる事を夢見ていた。

 

ある修練の休みの日のこと。

俺とエィジィ王は…当時はエィジィ王子だけど、この戦争で亡くなった兵士達を祀る石碑へと、参拝にきていた。

 

「……必ず俺がこの争いを終わらせてみせます」

 

「………」

 

俺達が石碑の前で手を合わせていると…。

 

「は…腹減った…ばたり」

 

とか言いながら、俺達の横に倒れる人がいた。

見た感じ服装はボロボロで、所々に怪我をしている様子。

 

「ト、トシキング!」

 

「はい、わかっております」

 

俺達はその人のボロボロの様子を見て、もしかしたら魔族か魔物にやられたのかもしれない。もし、そうなら敗残兵か逃亡してきた兵士なのかも。

 

この時の王はエィジィ王子のお父上様でもあるけど、とても非情だったから、王の発令した決まりで、逃亡兵は死刑となっていた。

 

このままじゃこの人も死刑にされるかもしれない。

そう思い、エィジィ王と俺だけが知る秘密の隠れ家へと連れ帰り、水と食料を与えて介抱した。

 

 

 

「ふぅ~、食った食った!おかげで助かったぜ!」

 

「本当にめちゃくちゃ食ったな」

 

「一般兵の食料3日分ですよ…。どんな胃袋してんだか…」

 

「いや、悪い悪い。もう何日も食えてなくて。ありがとうなボウズ達」

 

「なっ!ボウズだと!?不敬だぞ!この方は…」

 

「いいよ、トシキング。取り敢えずおっさんラッキーだったな。見つけたのが俺達でよ」

 

「おっさん…か、まぁ、まだお兄さんってつもりなんだが、命の恩人だしおっさん呼びでも許してやろう。

ってか、不敬ってなんだ?もしかしていい所のお坊っちゃんなの?」

 

「この方はこのファントムニア王国の次期国王!エィジィ王子であらせられますよ!」

 

「やめろよトシキング。俺が偉いって事がバレてしまうじゃないか」

 

「は?お前が次期国王?」

 

エィジィ王子はこの歳には正式に次期国王として選ばれていました。これは各国に既に通達されている事柄だったので、この世界で知らない人は居ないと思っていた。なのに、この人はピンときていない様子。

 

「…もしかして俺の事知らない感じ?」

 

「エィジィ王子の事を知らないなんて…。この事は各国でも周知のはず。あなたは…その、見た感じ逃亡兵か敗残兵だと思っているのですが、所属の国と部隊を言ってもらえますか?」

 

「所属の国と部隊?」

 

「あ、あの安心して下さい!今の国の情勢じゃ、立場次第では危ないと思いますので…」

 

「ああ、トシキングの言う通り。俺も他言はしないって約束するし、せめて名前だけでも聞かせてくれないか?」

 

「…」

 

俺達の問いにその人は少し躊躇いを見せていたけど、少ししてからニヤリと笑い、俺達に名乗ってくれた。

 

-ボウッ…

 

「見えるか?この手に宿る炎が。俺の名前はタカー。お前ら人間軍と敵対している魔族のタカーだ!」

 

「「魔族!?」」

 

俺もエィジィ王子も驚いた。

だけど、タカーと名乗る人が出した炎。

その炎は俺達の知る炎魔法なんかではなく、どす黒く禍々しい雰囲気を宿す炎だった。

 

「バカだなお前ら。せっかく死にかけの俺を介抱したんだもんな。俺がこの国を滅ぼしにきた魔族と知らずによ」

 

この国を滅ぼしにきた!?

 

俺とエィジィ王子は腰の剣を抜き、魔族タカーへと斬りかかった。

 

「「うわぁぁぁぁぁ!」」

 

-ガキーン、ガチーン

 

「はい、残念。お前らガキにやられる俺じゃねぇんだわ」

 

俺の渾身の一撃はタカーの左手に防がれ、エィジィ王子の渾身の一撃はタカーの右手の指2本に掴まれていた。

 

「ぐぅぅぅ…!」

 

「がぁぁぁ…!」

 

「こんなもんか」

 

タカーはそう言った後、自分の手を少し捻り、俺とエィジィ王子は吹っ飛ばされてしまった。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「クソ…魔族なんかに…ハァ…ハァ」

 

「ほれ」

 

ガチャンガチャン

 

「剣を返してやるよ。もっかい俺に挑んでくるか?」

 

「ハァ…ハァ…くそ!なめんなっ!」

 

エィジィ王子は剣を拾い、再びタカーへと斬りかかった。そんなエィジィ王子に続くように俺も剣を拾い、タカーへと斬りかかった。

 

 

 

 

「お前らめちゃくちゃ弱いな…」

 

「ハァ…ハァ…くっ…俺はともかく…トシキングは剣聖と呼ばれてん…だぞ…ハァ…」

 

「まるで…歯が立たない…ハァ…ハァ、エィジィ王子が…逃げる時間だけでも…」

 

俺はヨロヨロと立ち上がり、再び剣を構えた。

俺がタカーに斬りかかった所で、無様に吹っ飛ばされてしまうのはわかっていたけど、何とか次期国王であるエィジィ王子が逃げる時間を稼がないと。

俺はその時はそんな思いでいっぱいだった。

 

「よし、今日はここまでだな。お前らももう帰れよ。あ、でも明日も挑んでくるなら、また飯と水を持って来いな。あ、出来れば水より酒の方が嬉しいかも」

 

「ハァ…ハァ、この魔族め…何言ってやがる…」

 

「そ、そんな言葉に騙される…ものか。ハァハァ…」

 

「いいか?お前らはめっちゃ鍛練を積んだんだろうが、俺には傷一つ付ける事が出来ない雑魚なの。俺なんか他の魔族と比べたら全然だぞ?俺、下級魔族だし」

 

「…下級…魔族だと…?」

 

「そんな…下級魔族でこんな力が…」

 

タカーは自身の事を下級魔族だと言った。

俺にしてもエィジィ王子にしても、まだ子供とはいえ、それなりに剣の腕は、そこらの一般兵よりも上だったし、模擬戦でも負ける事なんてなかった。

それなのに、下級魔族のタカーに俺達は太刀打ち出来なかった。

 

「…でも、今のうちにやっちまわないと、この国を…」

 

「いや、お前らが俺に挑む度胸があんなら、飯と水持ってきたらこの国には手を出さないでいてやるぞ?さっきも言ったけど、酒があった方が嬉しいけど」

 

「絶対…か?明日も飯と…酒を持ってきてやる。だから、この国の民には絶対に手を出さないと約束出来るか?」

 

「エ、エィジィ王子!魔族なんかとそんな約束しても…」

 

「約束してやる。でもよ?この国に手を出さないって言ってんのに、この国の民に手を出すなって…。お前、それでいいの?国の民に手を出さなけりゃ国は滅ぼしてもいい系?」

 

「国の民が無事なら!こんな国の1つや2つ滅ぼされて構うもんかよ!民さえ無事なら国はいくらでも復興出来る!国ってのは民が居てこそのものだ!」

 

「…そうか!約束してやる。国にも民にも俺は手を出さない。いや、ちゃんと飯持ってくるなら、他の魔族や魔物からもこの国を守ってやるよ」

 

「他の魔族や魔物からも…?よし!約束だぞ!トシキング!明日からもこいつに挑むぞ!勝つまで挑む!飯の調達と酒の調達は任せたからな!」

 

「え?は!?マジですか!?…タカーとかいいましたっけ?本当に約束してくれるんですか?」

 

「ああ、約束だ。ケケケケケ、んだよ、この国守るだけで、ずっとタダ飯とタダ酒を貰えんじゃねぇか。ここに永住しちゃおうかな?こんないい所、他になさそうだしよ」

 

タカーが不穏な事を言った気はしたけど、俺もエィジィ王子も、魔族は憎むべき相手のはずなのに、何故かこの魔族は信じられると、確信に近いような想いがあった。

 

 

 

-翌日

 

 

 

「お~い、バカー。飯と酒持って来てやったぞー」

 

「エィジィ王子、バカーじゃありません。タカーです」

 

俺とエィジィ王子は、用意出来るだけの食料と水、そして酒を持参し、タカーを匿っている秘密の小屋にやってきた。

 

「お~い、タカ…バカー?」

 

「エィジィ王子。わかってて言ってますよね?タカーって言いかけてましたし」

 

「あー、やっと来たか。こっちだこっち」

 

小屋の裏から聞こえるタカーの声。

俺とエィジィ王子が小屋の裏に向かうと。

 

「取り敢えず勝手にここに魔法陣書いたからよ。お前ら魔法陣の中に立ってろ」

 

「は!?魔法陣?」

 

「エィジィ王子危険です。こんな見たこともない術式の魔法陣…。いったい何が起こるか…」

 

「いいから立ってろって。悪いようにはなんねぇよ。多分、きっと」

 

俺達はタカーに魔法陣の中に蹴り入れられてしまった。

 

「よし、2人とも魔法陣に入ったな。始めるか」

 

「こ、この王子である俺に蹴りを…」

 

「って、まんまと魔法陣の中に入れらてしまいましたよ!は、早く逃げてください!」

 

俺はエィジィ王子を魔法陣の外に押し出そうとしたけど、魔法陣は淡く光り出し、魔法陣の内側から外に出れなくなっていた。

 

タカーの方に目を向けると、今思い出しても笑いそうになるくらいの、変なダンスをしていた。

 

「お前、何やってんの?」

 

「何と面妖な踊りなんだ…エィジィ王子!これは夢に出そうです!見てはなりません!」

 

「いや、まぁ、別にこの儀式の舞は見てなくてもいいけど、あれだぞ?変な踊りだからって、笑ったりしたら、呪い殺されちゃうから気を付けろよ?」

 

「呪い殺され!?」

 

「キサマ!エィジィ王子をそんな危険な魔法陣に入れたというのか!?」

 

「あ?いや、魔法陣は関係ないぞ?笑われたら単にムカつくから俺がお前らに呪いかけるだけで」

 

「「なんて理不尽な…」」

 

それから20分程、変な踊りを踊っていたタカーは『キェェェェェェイ!』と叫んで変なポーズを取った。

 

「あっぶねぇ…せっかく今まで我慢してたのに、ラストで笑いかけたわ」

 

「これで魔法陣から出られるようになるんでしょうか?」

 

「え?あれ?お前ら何も変わった感じしないの?」

 

「「???」」

 

「あら?失敗かな?」

 

「は!?失敗だと!?」

 

「全く…何をしたかったのか…。俺もエィジィ王子も無事みたいだし、取り敢えず魔法陣から出ますか」

 

魔法陣に入って変な踊りを見させられて、俺達には何も異変はなかったし、とんだ時間の無駄をさせられたもんだ。と、何も起こらなかった事を内心安堵しながら、俺とエィジィ王子は魔法陣から出た。

 

-パパパパパッパーパッパーン

 

「んあ?何だこの音?」

 

「おお!良かった!成功したみてぇだな!」

 

「成功…?」

 

-ドウッ

 

「ん?え?は!?何だこれ!?」

 

「す、すごい…力が…溢れてくる…」

 

変な音が聞こえた後、俺とエィジィ王子は淡く光り、力がどんどん溢れてくるような感覚。

一気にレベルアップしたように、身体中から力が溢れてくる感覚に陥っていた。

 

「お、おい!バカ…タカー!これって何だよ!」

 

「お、さっすがお前ら!ちゃんと酒も持って来てくれてんじゃねーか。おお!チーズに肉もある!最高かよ!

いただきます。………もぐもぐ、うっめぇ~~!」

 

「タカー!俺達に何をした!?もしエィジィ王子にもしもの事があるなら…」

 

「んあ?もぐもぐ…。もしもの事なんてねぇよ、成功したみたいだしな。めちゃくちゃレベルアップしただろ?さっきのはそういう禁呪だ」

 

「禁呪…だと?」

 

「おのれタカー!エィジィ王子に禁呪を…!」

 

「グビッグビッ…ぷはー!だから、何も副作用とかないって。さっきのは潜在能力を一気に解放させて、無理矢理レベルアップさせる魔法なの。努力もクソもなしにレベルアップすっから、禁呪扱いにされたサービス魔法だ」

 

「努力もクソもなしに…?何だよそのすげぇ魔法!もっとやってくれよ!魔王や魔族も余裕で倒せるくらいになるまで!」

 

「エィジィ王子!楽してレベルアップなんか出来る訳ないでしょう!!これ絶対何か裏がありますって!」

 

エィジィ王子を守らなくてはならない。

そういう気持ちがあったから、こんな短時間に、それも簡単な魔法でレベルアップした事象。

今までそんな魔法なんか聞いた事もないし、魔族であるタカーも"禁呪"と言っている。

 

俺はレベルアップして嬉しい気持ちと、タカーをまだ信用出来きれないでいる気持ちと、エィジィ王子を守らないといけないという気持ちで、冷静に物事を考えられずにいた。

 

「ふぅ、食った食った、もうちょい酒があった方が良かったけどな。

よし来いお前!レベルアップしたんだから、昨日より楽しませてもらえるだろ?2人同時でいいから、かかってこい!」

 

「かかって来いって…」

 

「エィジィ王子!きっと罠ですよ罠!」

 

「あ?いいのか?お前らがかかってこねぇなら、このままこの国やっちまうぞ?いいんだな?」

 

「この国には手出しさせない!うわぁぁぁぁ!」

 

「エィジィ王子!お待ちください!俺も一緒に!」

 

 

 

 

 

俺達はあっという間にタカーに敗れてしまった。

だけど、あの魔法陣のおかげでレベルが本当に上がったのか、先日よりは戦う事が出来た。

 

「レベルアップっても今の潜在能力引き出した程度じゃこんなもんか。よし、続きは明日だな。明日も飯と酒をよろしくな」

 

 

 

 

その次の日もタカーに敗れ、そのまた次の日もタカーに敗れ…。そんな日々が数ヶ月続いた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

「エィジィもそれなりに俺と戦えるようになってきたけどまだまだだな。俺に魔法を使わせる事も出来てないし」

 

「う、うるせー!」

 

「ん~、そのまま素振り千回。終わったら帰っていいぞ。明日も飯と酒持って来いな」

 

「ち、ちくしょ~!絶対お前を倒してやるからなっ!」

 

「ああ、楽しみにしてるわ。てか、早く素振りやれよ。サボッたら電撃魔法撃ち込むからな」

 

「た、戦ってる時は魔法使わねぇくせに、何で素振りでズルしたら魔法なんだよっ!」

 

エィジィ王子はグチグチと文句を言いながら素振りを開始する。俺はエィジィ王子が素振りに夢中になっているのを確認してから、タカーの隣に座った。

 

「あ?トシキング何?あ、そっか。お前のメニュー考えてなかったな。剣技は大したもんだし、何をさせっかな?ブツブツ」

 

「俺は今から休憩です」

 

「は?休憩?誰に断りを得て休憩とか言ってんの?特別メニューでもやらせてやろうか?」

 

「…何を考えているんです?この数ヶ月、明らかに俺達を鍛える為に特訓してくれてましたよね?おかげでこの国では俺達に敵うヤツがいなくなりましたし…。

あなたは俺達の敵でしょう?」

 

この数ヶ月の間、タカーが俺とエィジィ王子を鍛えてくれていたのは、誰の目にも明らかだった。

いつもは女の子と会う時間を優先するエィジィ王子でさえ、女の子と会える予定があっても、文句を言わずにタカーに会いにくる程だった。

俺もいつの間にかタカーには敬語になってたしね。

 

ただ、わからなかったのが、魔族のタカーにとっては、俺達人間は敵のはず。

俺達を鍛えてもデメリットしかないはずなのに、何故俺達を鍛えてくれているのか…。

 

「ああ…まぁなんつーの?俺の求めてる世界っていうか、俺の理想か。それにはお前らが必要だって思ってな」

 

「求めてる世界…?理想?」

 

「俺の理想は、昔みたいに魔族と人間が手を取り合って生きる世界だ。まぁ、昔も色々と小さかったり大きかったりな争いもあったみたいだけど。それは魔族同士でも人間同士でも、主張や何やかんやの違いで起こったりするもんだろ」

 

「人間と魔族が手を取り合う世界…。俺はそんな時代は話でしか聞いた事ないんですけど…」

 

「そっか…俺のガキの頃の話だもんな。お前らが生まれた時にはもう戦争になってたか」

 

俺達人間と魔族の寿命は違う。

俺やエィジィ王子はもちろん、俺達の親やその親の世代だって、そんな平和な世界の話なんか、おとぎ話としてしか聞いた事はないだろう。

 

俺もおとぎ話として聞いた、魔族や人間とか種族の壁なんかなく、みんなが手を取り合って生活していた時代の事は、子供心になんて素敵な世界なんだろうと思っていた。まぁ、当時もまだ子供だったんだけど。

 

「この戦争だってどっちに正義があるのかもわかりゃしねぇしな」

 

「正義…?正義というなら、それは俺達人間側でしょう!」

 

「何でそう思う?」

 

「何でって…そりゃ、魔族は俺達人間より力も魔力も強いですし、その力をもって人間を蹂躙して世界を征服しようと…」

 

「そりゃ今の魔族だろ?元々は人間達が大人しい魔族を奴隷のように扱っていたから、魔族としては奴隷から解放されたいが為の…」

 

「そ、その言い分も確かに歴史書には載ってますけど、今は魔族を奴隷として扱っている人間の国はありませんし、今は魔族の方が人間を…」

 

俺はここまで言って言葉を飲み込んだ。

確かに今のこの戦争は、魔族が人間達を淘汰しようとしているから、俺達はそれに抗う為に戦っている。

でもそれは人間の言い分だ。

 

確かに魔族と人間が手を取り合っていた時代はあると歴史書には記載されているし、文献によっては平和な時代を壊したのは人間達と記載されているし、人間が数の力で魔族を奴隷にし、魔族達はそれに抗う為の解放戦争をしかけただけ。と、発表した学者達もいる。

 

…現に戦地にはまだ行った事はないから、事実かどうかはわからないけど、近隣国の中には奴隷にした魔族を使役して、人間軍として魔族と同士討ちをさせているという噂も聞いた事はある。

 

もし真実が魔族が奴隷にされない為の解放戦争なのだとしたら、もし俺が逆の立場だったとしたら、俺が魔族なら人間を滅ぼそうとしていたかもしれない。

 

でも今は…。

 

「お前は真面目だな。ハハハ」

 

「な、何を…」

 

「昔はそうだった。だから魔族側が正義だったのかもしれない。でも今は魔族が武力で人間を支配しようとしている。その支配から逃れようと人間が抵抗しているだけだ。それなら正義は人間側だろ」

 

「…でも人間が勝利して、また魔族を支配しようとしたら」

 

「ってなるよな?つまり、どっちが正義とか何もなくて、だったらお互いが譲歩して手を取り合っていくのが一番いいだろ」

 

それを聞いた俺は、このタカーという魔族は、エィジィ王子や俺と同じで、ただみんながみんな、楽しく争いのない世界を目指してるんだな。って…。

 

それから数日後、タカーは書き置き1つだけ残して、姿を消しました。

 

書き置きには

 

『俺が魔王になってみせるから、エィジィは王になれ。そしたらきっとみんな笑って暮らせる。トシキングは俺達を支えてくれ』

 

それだけが書かれていました。

エィジィ王はタカーが姿を消してからは、政治の勉強も頑張り、王として恥ずかしくない人になってくれました。それからしばらくしてタカーが魔王になったと報告を聞き、これでこの争いが終わる。そう思っていました。

 

 

ですが。

 

 

「こないだ俺達が支配した国あったろ?なんだっけ?クリィムゾーンカンパニー?そこの兵達に、エルフゥラム国を攻め落とせと通達してくれ。すぐに、今すぐ、3秒以内に」

 

「…は?エィジィ王?何を仰られてるんですか?クリィムゾーンカンパニーは確かに、友好国ではありませんでしたが、そのクリィムゾーンカンパニーを攻め落とした事でも国民は懸念していたのに!なのに、人間と魔族が手を取り合っているエルフゥラム国に攻撃するというのですか!?」

 

「うん、やっちゃって。人間のくせに魔族と手を取り合うとか、人間の裏切り者やん。やっちゃおうぜ」

 

エィジィ王は人が変わったように、人を襲う魔族だけでなく、反魔族の国、人間の国までも支配していきました。

 

そしてとうとうこの町にも攻めいるよう、俺に命令がきて……。俺は騎士団を辞め、俺に同調してくれる騎士達と、この町を守る為に…。

でも遅かった。俺達がこの町に着く前に、エィジィ王の命令でこの町は…。

 

何とか俺達でエィジィ王の軍を追い払い、この町の全滅たけは免れましたが、被害者も町の被害も大きく…。

 

 

 

 

「そんな時に、皆さんがこの町に来てくれたのです!」

 

「グー」

 

「zzz…」

 

「えへへぇ、もう食べられにゃいよう…むにゅむにゅ」

 

「こくりこくり…」

 

「み、みんな寝てるぅぅぅぅ!?」

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