バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第○章 8周年

「ソワソワソワソワ…」

 

「母さんは何をさっきからソワソワしてんの?」

 

「結月…!?これがソワソワせずに居られる訳ないでしょう!!今日は三咲との約束通り…じゃない。

あなたのお世話になっているファントムの企画アイドルグループの番組の為、私達のお寺に体験修行に来て撮影をする日なのよ!?イケメン達の前で…じゃない。

結月のお世話になってる事務所にご迷惑を掛けない為にも、粗相をする訳にはいかないでしょう!?何でも8周年記念らしいし…」

 

うん、状況の説明ありがとう母さん。

なるほどね。今日は何で(あたしのいえ)からのスタートなんだろ?って思ってたけど、そういう事だったのか。

あたし達、今は魔界に居るはずなのに、何で母さんが居るんだろう?とか、何であたしは家に居るんだろうとか思ってたけど…。

 

あれ?ちょっと待って。

あたしまだ魔界には登場してないんじゃなかったっけ?あ、さりげなくネタバレしちゃってるわ。

あたしの名前は寺川 結月。

自己紹介はいいよね?何年か前の周年記念でやったし。

 

まぁ、そんな訳で、何年か前の周年記念でやったタカさんと澄香さんの企画番組みたいな感じで、今日はうちの寺に体験修行って事で、拓斗さんと晴香さんの企画バンドである、アイドルのQUINTET FUSION(クインテット フュージョン)だっけ?

取り敢えずファントムのアイドルグループが撮影に来るのだ。確か正月特番とか言ってたっけ?

 

「あぁ、早くこないかしら。みんなの到着が待ち遠しい

わ」

 

早くこないかしら。って、撮影開始が10時からで、準備とか打ち合わせとかでスタッフさんの到着が8時、QUINTET FUSIONの皆さんが来るのは9時でしょ?

まだ6時過ぎだよ?あたしは何のためにこんなに早く起こされたの?あたしの朝ごはんは?

 

「結月ママの気持ちはわかるわ。もう居ても立ってもいられないもの」

 

と、何故かあたしの隣で仁王立ちをしている、Break Bell(あたしら)のバンドでベース担当をしているあゆみ。

あゆみはこんな早朝から何で人ん家で仁王立ちしてるの?

 

「あら?あゆみちゃんいつの間に…」

 

「フッ、愚問ですよ結月ママ。QUINTET FUSIONは拓斗さんの企画バンド。きっと拓斗さんもいらっしゃるはずだわ」

 

あたしらの自己紹介の周年記念の撮影では、タカさんと澄香さんの企画バンドの撮影だったのに、タカさんいなかったけど?

 

「気持ちはわかるわ、あゆみちゃん」

 

「こちらこそ。こんな素敵な撮影にお招きいただいて、ありがとうございます」

 

え?母さんがあゆみを呼んだの?

 

「え?私、あゆみちゃんに撮影の日程も何も連絡してないし、招いてないわよね?」

 

「フッ」

 

母さんが呼んだんじゃないの!?

じゃあホントにあゆみは何しに来たの!?

 

「お母さ~ん、お姉ちゃ~ん、何してるの?朝ごはんだよー!ってあれ?あゆみちゃん?」

 

あ、妹に呼ばれた。

朝ごはんの準備が出来たのかな?

って事は今日は父さんが作ったのか。

 

「お構いなく!あたしはいらないわ!」

 

「ええ、私も必要ないわ!お父さんとお兄ちゃんとあなたで食べちゃいなさい!」

 

「え?あたしは!?」

 

「はーい。お父さんにはそう言っておくー」

 

いや、待ってよ。あたしも食べるよ朝ごはん!

 

「結月!どこに行くつもり!?」

 

「もうすぐ拓斗さんが来るのよ!?あんた何処に行くつもりなのよ!」

 

「いや…普通に朝ごはんを…」

 

その後、母さんとあゆみにグダグダと文句を言われたけど、何とかあたしは朝ごはんに逃げる事が出来たのだった。

 

 

 

 

「パリボリ…」

 

-ブロロロロ…

 

「ポリッ、車の音?」

 

朝ごはんを食べ終えたあたしは、母さん達の所に戻らず、煎餅を食べながらテレビを観ていた。

 

そんな時、庭の方から聞こえる車の音。

うちのお寺は階段で登ってくるしか本殿には来れないのな…。

だからお寺の建つこの丘みたいな所の麓には大きな駐車場があり、こないだタカさんと英治さんが来た時も、車は麓の駐車場に停めてたのに、何で庭から車の音がするんだろう?

 

不思議に思ったあたしが庭に行くと、そこには2台のバンが停まっていた。どうやってここまで登ってきたの?

 

するとそのうち1台のバンのドアが開かれた。

 

「ここが修行の場か。面白い。俺も地上最強へとまた近付けるな」

 

「ああ!あれはマッチョアイドルの豊永 奏くんっ…!いつもパワフルなダンスで会場を盛り上げているわ!」

 

え?パワフルなダンスで会場を盛り上げてるって何?

QUINTET FUSIONの人達ってもうライブやってたりするの?

 

「このお寺…。ははは、もしかして昔兄貴が素行が悪いとかで、無理矢理修行させれてた所じゃ…」

 

「あ!今度はインテリ系アイドルの東山 達也くんっ!彼のクイズ番組での正答率はかなり高いっ!先日のクイズ大会ももう少しで優勝だったのにっ!」

 

はぁ!?クイズ番組?そんなのまで出てるの!?

 

「懐かしいな、このお寺。確か澄香さんを尾行してた時に来た以来かな」

 

「きゃぁぁぁ!正統派アイドルの一瀬 春太くん!彼のダンスやMCは周りを笑顔にするキラキラがあるっ!隠密で出された写真集が発行部数300部突破したのも頷けるわ!」

 

写真集も出してんの!?しかも隠密って。

危なく聞き逃しそうだったけど、そんだけ露出あるのに発行部数が300部ってちょっと地味過ぎない!?

 

「1泊2日の寺修行か。何か面白そうスよね。…お、結月、オッス」

 

「あ、ども」

 

「はふん……わ、私の最推しの秦野 亮きゅん…。何てカッコいいの…その亮きゅんに挨拶をしてもらえた結月…万死に値するわ!」

 

はぁ!?何でよ!?あたしだって一応研究生だけどファントムのバンドだし!挨拶なんて普通じゃん!てか、秦野先輩だけ"くん"じゃなくて"きゅん"!?我が母親ながらドン引きなんだけど!

 

「はぁ…わかってんのか秦野。1泊2日というこの長期間を紗智に会えなくなるんだぞ…。クッ、紗智がお寺で修行系兄好きでなければ、参加を辞退したのに…!」

 

「はわわわ、妹好きアイドルの河野 鳴海くん。妹好きに関しては右に出るものはいない。至高の存在だわ」

 

河野さんだけ何か変じゃない!?

 

「あ、寺川さんの…えっと、結月さんのお母様ですよね。この度はお忙しい中、撮影の許可をご了承くださいましてありがとうございます。本日よりよろしくお願い致します」

 

「…!?達也くんが私に挨拶を!?そんなお母様だなんて…どうか真奈美と気軽に呼んでください!」

 

母さん早口で何言ってんの?東山先生の距離でも聞き取れないんじゃない?

 

「あの…?」

 

「ハッ!?…コホン。いえ、至らない事もあると思いますが、こちらこそよろしくお願いします。番組の企画たはいえ、手心を加えるつもりはございませんので(キリッ」

 

「は、ははは、お手柔らかにお願いします(ニコッ」

 

「…トゥンク!お手柔らかにしたい!手心を加えたい!でも手心を加える事で、やらせ番組とか疑われる訳にはっっっ!」

 

ホントに母さんは早口で何言ってるの?

 

「東山さん、スタッフさんが呼んでますよ」

 

「ああ、一瀬くんありがとう。それではまた後程(ぺこり」

 

「俺もよろしくお願いしますね(ぺこり」

 

「いいいいい…一瀬くんまで!!?」

 

 

 

「あの人が結月のお母さんか。確かタカさんやトシキさん、英治さんと三咲さんの中学ん時の同級なんだよな?」

 

「まぁ、中学の時の同級って言うか。タカさんの初恋の人みたいですけどね。結月ママ自身は気付いてんのか気付いてないのか知りませんけど」

 

「…あゆみ、お前な。あんまそういう危険な発言はファントムではするなよ?」

 

「は?危険な発言…?ってより秦野先輩!何で拓斗さんはいらっしゃらないんですか!?」

 

「あ?拓斗さんは今日バイトだからな。それよりあゆみってオレには敬語で先輩呼びなのな。拓実の事を意識してるみたいだし、Ailes Flammeを嫌ってんのかと思ってたぜ」

 

「べ、別にAiles Flammeは関係ありませんし!内山 拓実は拓斗さんにIrisベースを託されたくせに…あんなに…」

 

「あんなに?何だ?」

 

「……前は下手くそって思ってましたけど、最近はそれなりには弾けてるみたいですし。いつか倒してやろうと思ってるだけですよ」

 

「そっか。それ聞いて安心したよ。渉は結月をライバル視してるし、あゆみは拓実をライバル視してるし」

 

「は!?べ、別にライバルって訳じゃ…。って、何で江口先輩は結月をライバル視してるんですか?」

 

「ん?ああ、結月の大好物って牛丼だって言ってたろ?渉の大好物はカツ丼だからな。渉いわくカツ丼と牛丼はライバル関係にあるらしいからな」

 

「しょ…しょーもな…」

 

さっきからあゆみと秦野先輩は何の話してんだろ?

あたしの名前が聞こえたような…。

あんまり秦野先輩と仲良くしてると、母さんに謂れのない暴力を奮われちゃうよ?

 

 

 

 

 

その後、秦野先輩も河野さんに呼ばれ、QUINTET FUSIONの皆さんはうちの客間の方へと向かっていった。

 

今回の撮影は母さんが付きっきりで、みんなの修行ってのに付き合うみたいだし、あたしの出番もここまでかな?

 

「はぁぁぁぁ…まさか拓斗さんがバイトだなんて…。ま、しょうがないわね。勤労者である拓斗さんも爆裂推せるわ。って訳で結月、あたしは帰るわよ」

 

「え?まぁ、いいんじゃない?別に母さんに呼ばれた訳じゃなくて勝手に来たんでしょ?」

 

「まぁそうなんだけどね。拓斗さんが来ないのなら、最初から来ないって教えて欲しかったわ」

 

いや、勝手に来たのに?

 

「て言うかさ?拓斗さんがそよ風でバイトって教えてもらえたんだし、そよ風にランチでも行けばいいじゃん。そしたら逢えるでしょ」

 

「はぁ!?あんたホントに馬鹿なの!?」

 

何で馬鹿呼ばわり!?

 

「拓斗さんがお仕事なさってるのよ!?そこにずけずけと乗り込んで…。更に注文を取りに来てくれるのが、拓斗さんだったらどうするのよ!注文内容が少なかったら『あ?こいつこんだけしか注文しねぇのかよ』とか思われたり、だからって大量に注文したら『こいつこんな大食いなのかよ』とか思われたら大変じゃない!」

 

いや、あゆみの妄想の方が本当に大変だと思うよ。

 

「だいたいね!あーだこーだ…」

 

あー、めんどくさ。

声掛けずにそのまま帰らせとけば良かったよ。

 

「あ、いたいた。結月、あゆみちゃん」

 

ん?母さん?

 

「それにね結月、あんたはー…って結月ママ?」

 

「はいこれ」

 

「え?何これ?作務衣?」

 

「は?あたしもですか?」

 

何故か母さんに渡された作務衣。

そういやしばらく着てないな。

 

「さ、2人とも早く着替えてらっしゃい。QUINTET FUSIONの皆さんや、撮影スタッフさん達を待たせても迷惑でしょうし」

 

「いやいやいや、何であたし達が作務衣に着替えるの?」

 

「そうですよ、あたしはもう帰ろうと思ってましたし、朝早かったから眠いですし、拓斗さんがいらっしゃらないなら意味ないですし」

 

「2人とも勘が悪いわね」

 

「いや、わかってるよ。どうせあたしとあゆみにも、修行って名目で出演させようってんでしょ?普通に嫌だし」

 

「そんな…!?バンドをする事も、ファントムに所属する事も許してあげたというのに…!?」

 

それってあたしの為とかじゃなくて、自分がQUINTET FUSIONの皆さんと仲良くなりたいからじゃん。

あたしはそこまで付き合うつもりないし。

 

「しょうがないわね。だったらはーちゃんに結月のおねしょした時の写真を見せるまでだわ」

 

「なっ!?何その脅し!?」

 

「あたしも嫌ですよ。結月ママの修行厳しくて割りとトラウマになってる事もありますし」

 

「自己紹介とはいえ、はーちゃんの企画番組には出たのに、宮野くんの企画番組には出ない。そういう訳ね?」

 

「ぐっ…で、出ますよ。出ればいいんでしょ…」

 

あゆみ本気!?

父さんの修行ならまだしも母さんの修行だよ!?

 

「って訳で結月。着替えにいくわよ」

 

「は?だから嫌だって。タカさんにおねしょの写真見せられるって言っても、小さい頃の話だし」

 

「果たしてそうかしら?」

 

そう言って母さんがあたしに見せてきた写真は、布団に大きなおねしょの染みがあり、その布団の横で下半身にタオルを巻いて泣いている最近のあたし。

 

「え?結月…あんた…嘘でしょ、高校生にもなって」

 

「いやいやいや、ありえないって!高校生にもなってそんな粗相する訳ないじゃん!何よこの写真!」

 

「デジタルって便利だわぁ~。改心の出来でしょう?」

 

「な!?模造したっていうの!?実の娘の恥ずかしい写真を!」

 

「これはーちゃんに見せたら、はーちゃんはどう思うかな?あ、そうだ。天音ちゃんにも見せてみましょうか?(ニコッ」

 

ニコッじゃないよ!そんなデタラメな写真…。

 

「本当によく出来てるわね。合成っていわれてもわかんないですもん」

 

「でしょう?久しぶりに努力というものをしてみたわ」

 

何でよ!努力する所間違ってるよ!何でそんな変な事を頑張るの!?

 

「結月、諦めなさい。デジタルって事は量産も出来るでしょうし、力ずくでは敵わないから、写真を奪う事も出来ないでしょ」

 

「はーちゃんの連絡先知らないし、先に天音ちゃんと三咲に送ろうかしら?」

 

「わ、わかったよ!出るよ出る!出ますよ!」

 

「結月ならそう言ってくれると思ってたわ」

 

そうして、QUINTET FUSIONの番組に、あたしとあゆみも出演する事になったのだった。

 

 

 

 

「って訳でうちのお寺での作法のレクチャーは以上です。まずは坐禅をしてもらうのですが、これはあゆみから説明してもらいます」

 

「はい。坐禅の説明はあたしからさせてもらいますね。まずは……」

 

はぁ、ただ説明しただけなのに疲れた。

前の自己紹介の時の生放送とは違って、ロケだからって気楽にやれると思ってたけど、失敗したりしたらそれだけ時間も押しちゃうし、みんなに迷惑かけちゃうもんね。そりゃ緊張で疲れるよ。

 

「それでですね」

 

あゆみってカメラの前だし、これは拓斗さんも観るだろうからって、かなりいい子ぶってる感じするけど、しっかり喋れてるし凄いな。

 

「説明は以上です。それでは坐禅を始めましょうか」

 

『はい!カット!』

 

「はぁ…疲れたわ」

 

「いや、しっかり喋れてたと思うよ」

 

「ああ、2人ともさすが生放送経験者だな」

 

「あ、秦野先輩。あざっす」

 

「秦野先輩も疲れたんじゃないですか?」

 

「いや?オレ達はただ説明聞いてただけだしな。後で個人個人に修行に関する意気込みとかインタビューの撮影もあんだけどな。それは緊張してるけど」

 

『オッケーです。撮影再開します』

 

「お、始まるみたいだな」

 

「この坐禅…あたしらもやるんだよね?」

 

「でしょうね。さっきの説明の台本にあたし達も一緒にとか書いてあったし」

 

はぁ、坐禅すんのか。警策は母さんがやるんだよね?

母さんの警策痛いんだよなぁ…。

 

 

 

 

 

-シーン…

 

え?本当に普通に坐禅してるだけなんだけど。

これって動きも何もないし、ある意味放送事故じゃない?

だいたいこんな坐禅だけしてるのを見て、誰が喜…

 

-バシンッ!!

 

「いぃっっった!」

 

あ、ヤバいヤバい。早速叩かれちゃったよ。

相変わらずめちゃくちゃ痛いし。

あ、また叩かれても嫌だし無になっておこう。

 

 

-シーン…

 

 

本当に静かだ。

これ絶対撮れ高ないよね。

みんなはどんな感じなんだろ?

 

えっと、秦野先輩は…(チラッ

 

「……」

 

お、凄い。さすが秦野先輩。

完全に無になって……ん?あれ?

 

「…(ハァ…シフォンは今頃なにをしているんだろう?…まさか可愛さを磨いている?いや、バカなっ!シフォンがあれ以上可愛くなったら、せっかくライブに来てくれた客が音楽そっちのけでシフォンの可愛さに夢中になってしまうじゃないか!いかん…やはりシフォンはオレが守らなくては)」

 

え?何か変な事考えてるのが見えるんだけど。あれ?あたしがおかしいのかな?

他の人…一瀬さんはどんな感じだろ?(チラッ

 

「……」

 

さすがだ。完全に無になってる。

やっぱり秦野先輩に見えたのは……ん?あれ?

 

「…(夕べは姫咲に呼び出されたせいで寝不足だし、正直めちゃくちゃ眠い。こんな静かだと寝ちゃいそうだ。けどさっき叩かれた結月ちゃん見た感じだとめちゃくちゃ痛そうだったし…。ああ、何年か前の周年記念を思い出す。お尻が痛くなってきたよ)」

 

え?何?一瀬さんも?

こ、河野さんは…?

 

「……」

 

…もう騙されないよ。河野さんもどうせ何か考えてるんでしょ。

 

 

「…(紗智紗智紗智紗智紗智紗智紗智紗智紗智紗智紗智紗智紗智紗智紗智紗智紗智紗智…)」

 

怖っ!紗智先輩の事しか考えてないじゃん!

ってなると豊永さんも…(チラッ

 

「…(バナナバナナバナナバナナバナナバナナバナナバナナバナナバナナウホッいいバナナウホッウホッ)」

 

こっちも怖いよ!

バナナバナナって考えてんのかと思ってたらウホッとか言っちゃってるし!いや、考えてるだけだから言ってはないんだけれども!

最初の『……』の部分もないままバナナの思考が見えちゃってるしね…!

 

「く…と…さ…」

 

ん?あゆみ?(チラッ

 

「拓斗さん拓斗さん拓斗さん拓斗さん拓斗さん拓斗さん拓斗さん拓斗さん拓斗さん拓斗さん…」

 

「いや!声に出しちゃってるし!」

 

-バシン!

 

「いっっっったい!」

 

「はぁ…情けないわよ結月。みんな静かに集中しているというのに貴女は…」

 

いやいやいや!何であたしばっかり叩かれるの!?

みんな雑念ばっかだし、あゆみに至っては声に出しちゃってるまであるじゃん!

 

くぅぅぅ…、あ、そうだ東山先生。

東山先生はどんな感じなんだろ…。やっぱりみんなと同じように雑念だらけなんだろうか?(チラッ

 

「……」

 

…まだ安心は出来ないよね(ジィー

 

「……」

 

お、さすが東山先生、教職者!

この中で一番の年長者なだけあって……ん、あれ?

 

「…(チッ、んで俺がこんなこと…。でも兄貴も昔やってたんだよな。あ~、ただでさえ修学旅行の準備で忙しいってにマジかったりぃな。何とかバックレる隙とかねぇかな。…いや、ダメか。この撮影は晴香姉さんの企画でもあるもんな。逃げたら骨のに2、3本じゃすまねぇだろし。ハァ…帰ってベース触りてぇ)」

 

え!?何かいつもと口調違うくない!?東山先生って普段はこんな感じの口調なの!?

 

「皆さんなかなか素晴らしいですね。雑念も何もない様子」

 

母さんの目は節穴なの?

いや違うか。どちらかというとみんなの思考が見えるあたしがおかしいのか。

 

-バシン!

 

「うぐっ……い、痛…い」

 

「それなのに結月ときたら…」

 

だから何であたしだけ!?

 

「さすがですね。では少しレベルを上げましょうか」

 

ちょ、ちょっと待って。坐禅でレベルを上げるって何?

もうそれは坐禅じゃなくない?

 

-ガラガラガラ…

 

そう言って母さんが持ってきたのは大きなテレビとビデオデッキ。これは新しく檀家さんになった人達に、うちのお寺の信仰を教えてる為だったり、うちと檀家さん達とでやるイベントの記録をみんなで観たりする時にしか出してこないのに。

 

-パチ

 

『いくぜBREEZE!暴れろ!!』

 

母さんがテレビを点けるとBREEZEのライブビデオが流れ出した。え?何で!

 

-シーン

 

さっきのあたしへの警策を見て、みんなビビっているのか、一瞬驚きの顔を見せたけど、誰も微動だにしなかった。

 

「あ、ここの宮野くんカッコいい」

 

「拓斗さんはいつもカッコいいですよ!……あ」

 

-バシン

 

「イギッ…」

 

「あゆみちゃんもまだまだね」

 

「ちょ…今のは卑怯じゃない?」

 

うん、確かに卑怯だとは思うけど、どうせずっと拓斗さんの事ばかり考えて雑念だらけだったじゃん。

 

「すごいわね。BREEZEのライブは。あら?この観客席に居るのは浅井さんご夫妻じゃないかしら?」

 

-ピクッ

 

ん?秦野先輩が一瞬反応したような?

気のせいかな?

 

-ジィー

 

いや、気のせいじゃなかった!

母さんめちゃくちゃ秦野先輩の前に座り込んでガン見してるし!

今のは秦野先輩をはめる為だったの!?秦野先輩と浅井さんって人に何か関係が!?

 

「ふぅ、残念だわ」

 

母さんはそう言ってまた歩き始めた。

残念って何!?

 

「あら!この客席にいるのは宮野くんの妹の晴香ちゃん?この頃から大きなおっぱ…おっと、とんでもない事を言ってしまうところだったわ。ああ!ダメよ!そんなに暴れたらタンクトップから溢れちゃう!」

 

-チラッ

 

「あ、達也くん動いちゃいましたね」

 

「え!?いや、あの、その…これは」

 

今のは東山先生狙いだったのか。

母さん東山先生の前に座り込んでガン見してるし。

東山先生御愁傷様です。

 

「それでは」

 

「こ、こんなのずるいだろ…」

 

-ペチン

 

「え?」

 

「あ、警策されたら一礼してくださいね」

 

「今のが?あ…えと(ペコリ」

 

-ペコリ

 

「いや!ちょっと待ってよ!今のが警策!?あたしとあゆみの時と全然威力が違うじゃん!」

 

「…結月、あなたはまた」

 

「え?あ…」

 

-バシン

 

「いっっっったい!今日1痛い!!」

 

 

 

 

それからも母さんのトラップはあれよこれよと仕掛けられ、みんな相応に警策を受ける形になった。

あたしとあゆみもトラップに引っ掛かりまくり、何度も何度も警策されて鎖骨が折れたんじゃないだろうか?と思うくらい痛かったのだけど、QUINTET FUSIONの皆さんはみんなペチン程度の威力で、さほどダメージは受けていないようだった。

 

そして坐禅の時間が終わり、次回は境内の掃除から始まるのであった。

ん?え?次回?

この周年記念ってのハロウィン編に無理矢理ねじ込んできたくせに、まだ次回もあるの?

 

大したギャグ回でもないのに、理不尽な周年記念が開始され、あたしはげんなりとするのだった。

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