バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第2章 バンドやりたい!

僕の名前は内山 拓実。

パティシエを夢見る高校生だ。

 

今日、僕はBLASTっていうバンドのライブに行ってきた。

 

ライブに行ったのは初めてだったけど、初めての僕でもすごく楽しめたし、ライブってすごいものなんだな。って思った。

 

今日のライブは渉と亮と僕の3人で行ったんだけど…。

ライブの後に3人で話してから、ずっとモヤモヤしている。

 

 

『バンドやろうぜ!』

 

 

渉はそう言った。

 

 

『ああ!バンド……やろうぜ!理由とか動機とかそんなのどうでもいい!オレは渉とバンドをやりたい!』

 

 

亮はそう応えた。

 

 

『拓実もどうだ?』

 

『今日のライブ凄かったろ?拓実もバンドやろうぜ!』

 

 

渉も亮も僕を誘ってくれたけど…

 

 

『ぼ…僕はいいよ。楽器も出来ないし、パティシエになる為の勉強もしなくちゃだし!』

 

『そっか』

 

 

残念そうな顔をしてくれた渉。

 

 

『楽器の事は練習すりゃいいじゃねぇか!……まぁ、パティシエは拓実の夢だからな…。その邪魔はしたくねぇけど』

 

 

僕の夢の為に遠慮してくれた亮。

 

 

渉はバンドとして東雲大和に勝つ夢。

亮は渉とバンドを組む夢。

それぞれの夢に向かって頑張るんだ。

 

亮はバンドを組んでたご両親の事もあるから、そのままメジャーデビューもしたいのかもしれない。

きっと渉も東雲大和に勝ったら、歌で次の目標を探すと思う。

 

そうなったら……

僕のパティシエになりたいって夢は2人の邪魔になる。

僕のパティシエになる夢を1番に応援してくれた渉と亮の…夢の邪魔に…。

 

 

 

 

 

あれは高校に入ってすぐの自己紹介の日。あの頃は3人とも同じクラスで……

 

『えっと…出席番号3番、赤星中から来ました。内山 拓実です。スイーツが好きでたまに自分で作ったりしてます。将来の夢はパティシエになる事です』

 

『パティシエだってよ』『男のくせに』『スイーツが好きって』『自分で作ってるだってー』『くすくす』

 

あぁ…わかってたのに。

中学の時の親しい友達にも笑われた。男のくせにって。

高校に入ったら何か変わるかなって思ってたのに…。

 

そして僕はへらへらと愛想笑いを浮かべて座るしかなかった。

 

でも…

 

『えー、出席番号4番江口 渉です。海星中から来ました。俺は夢も希望もありませ~ん。さっき内山くんのパティシエの夢を聞いて、俺は立派な夢だと思ったんですが、それを笑ってた奴らがいました。そいつらに内山くんより立派な夢ってのがあるんなら教えて欲しいです。以上です』

 

びっくりした。

まさか僕の事を言われるとは思ってなかったし……。

それからしばらくして亮の番になった。

 

『どーも、海星中から来ました。出席番号17番秦野 亮です。オレの夢はこのクラスの江口くんとバンドを組む事です。幼稚園の頃からそう思ってます。趣味はもちろんギターって言いたいとこですが、蕎麦を蕎麦粉から打って、友達に振る舞う事が俺の趣味です。もしオレの趣味や夢を笑うやつが居たら是非仲良くしたいので後でゆっくりお話しましょう。以上です』

 

亮の自己紹介にもびっくりした。

 

自己紹介が終わった後、2人共僕の席に来てくれて……

 

『なぁ!俺、江口渉!渉でいいぜ?内山ってどんなスイーツ作るんだ?今度食いに行っていいか?』

 

『え?え?』

 

『ほら、渉…内山が困ってんだろ。オレは秦野 亮だ。亮って呼んでくれ。それより蕎麦好きか?今度オレん家で蕎麦打つから食いに来ないか?そんで内山はスイーツを披露してくれよ』

 

『お!それいいな!亮の蕎麦食って、デザートに内山のスイーツをいただく。そして俺はその酷評をすりゃいいんだな』

 

『お前は材料費係とかどうだ?』

 

『まじかよ……』

 

『ははは、僕の事も拓実でいいよ。これからよろしくね』

 

『おう!拓実!』

 

『あ、そうだ拓実。同じクラスになったのも何かの縁だしさ。音楽に興味ないか?メンバーまだオレと渉しかいないしさ。一緒にバンドやらね?』

 

『亮!俺はバンドやるなんてひと言も言ってねぇだろ!』

 

 

 

 

そういや初めて会った日にも亮は僕をバンドに誘ってくれたんだっけ…。

 

それから3人で居る事が多くなって、もちろん他にもそれぞれ友達もたくさん出来た。

僕が夢の話をして笑われて、孤立しなかったのは渉と亮のおかげなのも大きいと思う。

 

だから僕は2人の夢の邪魔になるわけにはいかない。

 

でも…

本当は……

 

僕も渉と、亮とバンドがやりたい…

バンドがやりたいんだ……!!

 

 

 

 

 

「おはようー」

 

僕は元気にドアを開けて教室に入った。

渉の席には亮が居た。

 

「お、拓実おはよう」

 

「おう、オレ達より遅いって珍しいな?」

 

「ははは、ちょっと寝坊しちゃて」

 

いつもは僕の方が早く教室にいるもんね。

 

「まじか。まぁ、昨日は遅かったしな」

 

「昨日の新作スイーツはパティシエ拓実としては再現出来そうか?」

 

「う~ん、あのふわふわ感はなかなか難しいかも…」

 

「そっか、拓実でも難しいとなるとなかなかのスイーツだったんだな。俺も少し貰えば良かった」

 

「オレは渉が来る前に注文してしっかり食ったからな。なかなか美味かったぞ」

 

「まじかよ、俺も食っとくべきだった…」

 

2人共…バンドの話しないのかな?

僕に気を遣ってるのかな?

 

「ねぇ、昨日の今日だけどさ。バンドの方はどう?なんとかなりそう?」

 

「ん?」

 

「ああ、バンドの事な」

 

「うん、メンバーとかもだけど、ライブするなら僕も見に行きたいし!」

 

「それがな……」

 

「ああ、夕べも誰か心当たりいないかと渉と話してたんだけどな」

 

「女の子だけど、このクラスの雨宮さんとか誘ってみたら?音楽詳しくてやってるって聞くよ?」

 

「雨宮か。あんまり話した事ないな」

 

渉と雨宮さんって、たまに話したりしてる感じするんだけどなぁ?

 

「あいつはダメだ。ギターだもん。オレと被る」

 

「そうなんだ…」

 

「でもメンバーより重要な事が発覚してな」

 

「ああ…オレも渉とバンドを組むって事ばかり考えて失念していた」

 

メンバーよりも大事な事?

 

「あ、曲がないとか?」

 

「ふっ、オレを甘く見るなよ拓実。調整とか歌詞を作るとか、色々あるっちゃあるが、オレは渉の歌をずっと聴いてきてんだぜ?曲作りはぬかりはねぇよ」

 

「じゃあ何が問題なの?」

 

「バンド名がない」

 

そう言って渉は悔しそうに机を叩いた。

 

「まさかこんな落とし穴があるとはな……クッ」

 

そう言って亮は『ちくしょう』って言って壁にパンチしていた。

 

え?バンド名なの?

 

「あはは、そりゃバンド名は大事だけどさ」

 

「そうなんだ…くそっ、俺にネーミングセンスがあれば!!」

 

「ガキの頃から渉とバンドをやろうと夢見てたのに……やっとバンドを組めてこれからって時に…!うぅ……」

 

あ、あはは。確かにバンド名も大事だけど……う~ん…。

 

「何か候補とかないの」

 

「ああ、俺らのセンスじゃさっぱりだ」

 

「かっこいい英単語並べすぎて逆にかっこ悪くなるっつーか…渉とオレとじゃ限界がな…」

 

「な!拓実!何かいいのないかな?」

 

「そうだな。多分オレ達よりセンスあると思うし」

 

そう言って何か候補はないかと尋ねてくる渉と亮だけど…

 

「うん……でもこれはバンドの話だから、さすがに2人が決めないとさ」

 

ごめんね。渉、亮。

 

「そうだよなぁ。なんかいいのないかなぁ…」

 

「…」

 

亮……?

 

「あ、なんかいいの思い付かないならさ、こういうのがいいとかイメージないの?」

 

「俺はこう!BLASTみたいな!かっこよくてぶわーって感じの!」

 

「オレは何か夢が叶うとか、希望とかそういうのがいいな」

 

「ははは、2人のイメージ合わせると難しいね」

 

「だろ?夕べも俺と亮で考えてみたんだけどな……」

 

「お、そろそろ朝礼が始まるな。また続きは昼休みだな。オレは教室に戻るわ」

 

「おう!また後でな」

 

「亮、またね」

 

そう言って亮は自分の教室に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

昼休み。

僕らはいつも屋上で弁当を食べている。

この学校の屋上はお昼休みや放課後なら自由に出入り出来る。芝生も敷かれてるエリアもあって、みんなのお気に入りの場所だ。

 

「ダメだ…授業中も考えてたけど全く思い付かない」

 

「もう!ちゃんと授業聞いてなきゃダメだよ!」

 

「ははは、昨日みたいに居眠りするよりはマシじゃないか?」

 

いつもの通り楽しいお昼の時間だ。

弁当を食べた後もいつもこうやって昨日観たテレビの話とか、読んでる漫画の話とかをして過ごしている。

 

「何かいいバンド名ないかな?」

 

渉はそう言って横になった。

 

「そんなすぐ思い付くなら昨日の時点で決まってるだろ」

 

「ねぇ、バンド名はさ。最悪他のメンバー決まってからでもいいんじゃない?他のメンバーから何かいい案出るかも知れないしさ」

 

「それもありっちゃありなんだけどな」

 

「でしょ?まずはメンバーから募集してみたら?」

 

「悪い、オレちょっとトイレ行ってくるわ」

 

そう言って亮は立ち上がる。

 

「拓実、ちょっとツラ貸せ。連れションしようぜ」

 

「え?」

 

「いいだろ?な?」

 

亮?どうしたんだろう?

 

「う……うん。渉も行く?」

 

「俺はここでもう少し考えてから行く」

 

「すぐ戻るわ。行くぞ拓実」

 

そう言って僕は亮とトイレへと向かった。何か話があるのかと思っていたけど、トイレへ向かっている間、亮はずっと無言だった。

 

「なぁ、拓実」

 

トイレに着き、用を足してる時に亮が話し掛けてきた。

 

「ん?何?」

 

「お前…なんかオレ達に遠慮してるか?」

 

「え?なんのこと?」

 

「バンドの事。お前、本当はオレ達とバンドしたいんじゃないか?」

 

一瞬ドキッとした。何でそんな事思われたんだろう…。

 

「そ、そんな事ないよ。何でそんな風に思ったの?」

 

「なんとなくだ。お前、自分がパティシエを目指してるからって言い訳を作って、バンドやらないって言ってるんじゃないか?」

 

「何言ってるんだよ!僕は本気でパティシエを目指してるんだよ!?言い訳なんかにするわけないじゃん!」

 

「本気でパティシエを目指してるから、本気でバンドをやるオレ達に迷惑が掛かる。だからバンドはやれない。そう思ってんじゃないのか?」

 

「!?」

 

鋭いな…亮は…。

 

「そんな訳ないじゃないか…」

 

「そうか?ならいいんだけどな。もしそうなら、ちゃんとハッキリ言ってやらないと…って思ってたからな」

 

そして亮は続けてこう言った。

 

「ハッキリ言って迷惑だ」

 

……やっぱり。

そうだよね。渉も亮も本気でバンドをやろうとしてるんだもん。

僕もバンドはしたいけど、パティシエになりたい。どっちかを選べって言われたら……

 

「そんな事でオレ達に迷惑が掛かると思われてるのがな」

 

え?

 

「そりゃオレ達は本気でバンドをやろうと思ってる。そして、拓実が本気でパティシエを目指してるのも知ってる。その上でオレも渉も拓実をバンドに誘ったんだ」

 

「……」

 

「オレ達がバンドに誘った事は拓実の夢の邪魔で迷惑だったか?」

 

そんな事…そんな事ない……

 

「渉とバンドを組めて、オレの夢は1つ叶った。次のオレの夢はオレ達のバンドでBLASTに勝つことだ」

 

うん…

 

「でも先はわかんねぇだろ。メジャーデビューしたくなるかもしれねぇ。次の勝ちたい目標のバンドが見つかるかもしれねぇ。もうバンドはいいか。って、普通に就職するとか、他の夢が見つかるかもしれねぇ」

 

亮…

 

「オレがバンドに渉を巻き込んでながら、拓実を誘って巻き込んでながら、オレが真っ先にバンド辞めるかもしれねぇ。

そうならないって言い切れるか?」

 

言い切れないけど…

きっと亮は辞めないよ……

 

「今、亮はバンド辞めないよとか思ったか?」

 

「え!?」

 

「はははは、お前はほんとわかりやすいな」

 

僕そんなにわかりやすい!?

むしろ亮がエスパーなんじゃないかって疑うくらいなんだけど!

 

「拓実、オレの趣味知ってるよな」

 

「うん、お蕎麦作り」

 

「そうだ!蕎麦はいい!

今じゃ十割蕎麦とか流行らないし、作ってもパサパサしてたり好き嫌いもはっきりする。でもオレは流行りに乗らず蕎麦の……蕎麦だけの味を出して、みんなに美味いと言わせる…そんな事もオレの夢には入ってるんだ」

 

「…」

 

「幻の蕎麦粉『ヤオトメ』でオレは蕎麦を打ってみたいと思ってる」

 

ふふ、亮が言うと冗談に聞こえないや…

 

「オレがバンドを頑張ったら、メジャーデビューしたら、その夢は叶わないと、その夢は諦めるべきだと思うか?」

 

「!?」

 

「芸能人にも居酒屋を経営しながらやってる人もいれば、バラエティやドラマで役者しながらバンドをやってる人もいる。ようはな、自分のやりたい事をやりたいと叫べるかどうかだと思う」

 

「でも!」

 

「デモもクソもねぇだろ?」

 

「僕が……渉と亮のバンドに入ったとして、メジャーデビューもして、日本一の……ううん、世界一のバンドに手が届きそうって時に…僕がやっぱりパティシエになりたいからバンド辞めるって言ったらどうするの?」

 

「応援するけど?」

 

「!?」

 

「まぁ、応援はするな。オレが他の道を選ぶって言ってもお前らには応援して欲しいし。………まぁ、パティシエとバンドを両立出来る方法とか手段を、まずは考えるだろうけどな」

 

そう言って亮はすごくいい笑顔で僕に応えてくれた…

僕は……僕は…!

 

「亮!!」

 

「うわっ!お前小便してる時にこっち向くんじゃねーよ!!」

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「おう、おかえり」

 

僕達は渉の居る屋上に戻ってきた。

 

「あれ?亮、何でジャージ着てんだ?お前のクラス次は体育か?」

 

「聞くな……オレは今全てを忘れたい……」

 

「あは、あはははは……」

 

ご、ごめんね。亮…。

 

「拓実、もしかして間に合わなかったのか?」

 

「え?」

 

「亮のやつこの歳になって……」

 

「いや!漏らしてねぇよ!!」

 

 

 

 

 

亮には悪い事しちゃったな…

あの後、漏らした漏らしたわけじゃない談義でバンドの話どころじゃなかったし……

 

今はもう下校時間も過ぎて家でゆっくりしている。

 

僕は亮に…何を言おうとしたんだろう?

 

バンドがやりたい?

パティシエになりたい?

 

違う。多分どっちも違うんだ……。

そして、どっちも合ってるんだ…。

 

 

 

 

 

 

「おはようー!」

 

僕は今日も元気にドアを開けて教室に入った。

そしたら今日も渉の席には亮が居た。

 

「お、拓実おはよう」

 

「おう、今日もオレ達より遅いって珍しいな?2日連続で寝坊か?」

 

「ははは、夕べは考える事多かったからさ」

 

「考える事……エロい事か?」

 

いや、エロい事って……。

 

「いや、拓実に限ってそれはねぇだろ」

 

「ちょっと!亮!僕に限ってって何!?僕も男の子なんだからね!」

 

「え?マジでエロい事考えてたのか?」

 

「いや……違うけど……」

 

「ほらな、拓実はオレ達とは違うんだ。エロい事なんか考えねぇよ」

 

「亮……、ならさ、エッチな可愛いお姉さんとデートと、蕎麦打ち名人大会の観戦チケットどっちが欲し…」

 

「蕎麦打ち名人大会!」

 

「蕎麦で即答だよね」

 

「亮はガキの頃から変人だからな」

 

「お前、蕎麦打ち名人大会だぞ!?わかってんのかこのレア感!」

 

熱くなる亮。ごめんね、亮。僕にはわからないよ。

 

「エッチな可愛いお姉さんとデートはレアじゃねぇのか?」

 

「なんかそれなら将来叶いそうな気もするじゃん?オレ、イケメンだし」

 

「亮は今日も幸せそうでいいね」

 

「拓実、俺達はああならないでいような?まともな男の子でいような?」

 

「なら渉はエッチな可愛いお姉さんとデートと、BLASTの大和とデュエルギグ参加権ならどっちが欲し…」

 

「東雲大和とデュエルギグ!」

 

「渉も大概だからね?」

 

「なら拓実はエッチな可愛いお姉さんとデートと、世界スイーツ…」

 

「世界スイーツ!」

 

「……を食べてる渉の写真どっちが欲しい?って聞こうと思ったんだが」

 

「そ!そんなのズルいよ!お姉さんとのデートに決まってるじゃん!」

 

「なっ!?まじでか拓実!!俺めちゃ傷ついたんだけど…!!」

 

「え!?これで渉の写真とか選んだ方が色んな意味でショックじゃない!?」

 

「ダメだ、亮……今日の俺はハートブレイクで授業どころじゃねぇわ」

 

「わかるぞ渉。オレも同じ立場ならそこの窓から飛び降りてるところだ」

 

「俺は……愛されてないんだ!うわぁぁぁぁ!!!」

 

「ちょっとちょっと!2人共何言ってるんだよ!」

 

こうやっていつものバカな話で今日が始まった。やっぱり僕はこの場所が、2人の側が心地いい…。

 

「こうなったら今日の朝礼で拓実がエッチな可愛いお姉さんが好きって暴露してやる…」

 

「わかるぞ渉。オレも今日の朝礼でそれ発表する!」

 

「やめてよね!本気で!」

 

もう…ほんとにこの2人は…

 

「それよりさ!バンド名は決まったの!?」

 

「「うっ……」」

 

2人共わかりやすいぐらい顔を歪ませる。

昨日の亮からしたら僕もこうだったのかな?

 

「やっぱりね…」

 

「ふっ、こいつめ……朝からおかしな事を言いやがる」

 

「そうだぞ。オレと渉の語彙力をなめんなよ?」

 

なんで2人共ドヤ顔なのさ……

 

「やっぱりね。だから夕べ僕なりに考えてみたよ」

 

「え?まじでか!?かっこいいのか!?」

 

「拓実……」

 

「渉の燃え上がるような…ってイメージで火とか炎とか考えて、亮の言ってた自由とか希望とかで翼とかそんな風に考えてみたんだ」

 

そして僕は2人にノートを見せて

 

Ailes Flamm(エル フラム)とかどうかな?フランス語だしちょっと発音は違うんだけど、わかりやすくエルフラム。Ailesは翼って意味で自由とかにピッタリだと思うし、Flammeは炎とかそういう意味なんだ」

 

「…」

 

「…」

 

う……2人共だんまりだ…

やっぱり変かな……?

 

「いいじゃん!いいじゃん!エルフラ!!」

 

席から立ち上がって目をキラキラさせている渉。

 

「おお!オレ達のイメージにもピッタリだな!フランス語ってとこがさすがパティシエ拓実!」

 

嬉しそうに笑ってくれる亮。

 

「もう…茶化さないでよ」

 

本当にこの2人と一緒に居るのは心地いい。

 

「亮!俺はいいと思うぜ!Ailes Flamme!!炎の翼とかかっこいいしな!」

 

「オレもそう思うよ。炎を翼にして燃え上がるとか、自由を手に入れる為に翼で羽ばたくとか!まさに今のオレ達にぴったりだよな!」

 

「ほんと!?この名前気に入ってくれた!?」

 

「おう!ありがとうな拓実!」

 

「よし、今日からオレ達はAiles Flammeだ!」

 

「良かったぁ~。発表するのドキドキだったよ」

 

2人共この名前を気に入ってくれて良かった。

 

「次は…やっとメンバー集めだな!」

 

「そうだな。せめてベースとドラムは欲しいよな」

 

「あ、それでなんだけどさ」

 

ここからが本番だ……

 

「僕、あんまり楽器も詳しくないし、運動神経もよくないんだけど」

 

「ん?」

 

渉が僕の言葉に反応する。

亮はずっと僕を見てくれてる。

 

「色々調べてみたけど僕は手先が器用だから、ベースなら死ぬ程練習したらそれなりには弾けるようになると思うんだよ。あはは、ベースやってる人には失礼かも知れないけど…」

 

「…」

 

「…」

 

「僕もバンドやりたい。Ailes Flammeでバンドがやりたい。渉と亮とバンドがやりたい」

 

「…」

 

「…」

 

「僕はパティシエにもなりたいって思ってる。だから、バンドが上手くいってるのに急に辞めるとか言い出すかも知れない。

でも、今はバンドがやりたいんだ。出来れば…BLASTに勝った後も。ずっと。

パティシエベーシストってかっこよくない?」

 

「…」

 

「…」

 

2人は何も言ってくれない。

でも、僕は…

 

「ダメかな?」

 

「もちろんいいさ!一緒にバンドやろう!今から俺と亮と拓実でAiles Flammeだ!」

 

渉はそう言ってくれた。

でも亮は何も言ってくれない。

 

僕は亮の方を見た。

 

「うぇっぐ、うぅ……うっうっうっ…ひぃぃぃん……」

 

マジ泣き!?

 

亮を見たらここが朝の教室って事も忘れているのかマジ泣きしていた……

 

「あり……あでぃがどうな……だぐみ……オレ……本気でうでじぃ……。おでだちで……でるぶらぶだ……!!」

 

泣きすぎて何言ってるかわからない!?

 

「拓実!なろうな!俺は最高のボーカリストになる!だから拓実は、最高のパティシエベーシストになってくれ!」

 

ふふ、どっかの海賊漫画みたい…。

うん、なるよ。2人が僕を受け入れてくれたように。

これから先、渉も亮もバンドを急に辞めるって言い出して他の夢を追いかけるかも知れない。

 

でも、僕はずっとこの先もAiles Flammeでベースをやっていく。

 

「渉!亮!」

 

「ん?」

 

「ぶぁい?」

 

亮まだ泣き止まないの!?

 

「これからも…よろしくね!!」


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