-ザッ…ザッ…
あたしの名前は寺川 結月。
前回の続きという事で、あたしとあゆみ、そしてQUINTET FUSIONの皆とで、境内の掃除をしている。
うん、前回の引き通りの展開だね。
って何でまたあたしのモノローグ!?
いつも周年記念の話の時はモノローグ交代あったじゃん!それより大したギャグ回でもないんだし、サッサと本編のハロウィン編に戻ろうよ!
え?大したギャグ回でもないとか言ったあたしへの罰ゲームか何かなの!?
「それにしてもあたしもあんたも災難よね」
「あゆみ?ああ、まぁ、あたしは馴れてるってのもあるけど、あゆみは本当に災難だよね」
「全くよ!せっかく拓斗さんに会えると思って、早起きもして下着もおニューのを穿いてきたってのに!」
そうか。母さんに思いっきりぶたれた事に対してじゃないんだ。なんでそこにあたしも入ってるの?
「なかなか貴重な時間を過ごせましたね」
「ああ、あの坐禅という駆け引きのバトル。紗智にも是非見てもらいたかったぜ」
「まぁ、結月のお袋さんも、オレら相手だから手加減してくれてたんでしょうけどね」
秦野先輩はしっかりわかってる感じだな。
河野さんが紗智先輩に見てほしいって思ってても、きっと紗智先輩は秦野先輩とか東山先生しか見ないと思いますけど。
「どうしたんだい豊永くん。何か震えてるっぽいけど」
「む、東山さん…。フフ、俺の震えは隠しきれていませんでしたか」
「ああ、さっきから落ち着かない様子だったし…あ、もしかして次の修行の事を考えていたのかい?」
「はい。その通りです」
ん?次の修行?
そういやあたしって台本も貰ってないし、坐禅の説明をあゆみとしてくださいとか、この境内を掃除してくださいとか、直前にしか指示も聞いてないから、次の修行が何なのかとか全然知らないんだけど。
一般の方のお寺体験なら次はお昼ご飯で、その後は父さんによる説法とかだったと思うんだけど…。
お昼ご飯は楽しみにしてたとしても、修行なんて言い回しはしないと思うし、この後何をやらされんだろ。
「ねぇ、あゆみ」
「ん?何?」
「この後って何をするのか、あゆみは知ってる?」
「はぁ?知るわけないじゃない。台本すらあたし達は貰ってないんだし」
だよね。
あゆみもやっぱり知らないか。
「東山さん、奏は変態なんだ。次の修行を楽しみにしててもしょうがないですよ」
「む、鳴海。確かに楽しみにはしているが、俺は変態ではないぞ。お前、このQUINTET FUSIONを結成するって話の時も俺をディスってなかったか?もしかして俺の事が嫌いなのか?」
「あぁ!?嫌いな訳ねぇだろ。お前はevokeの地上最強のボーカルだと思ってんよ……だから、そこで頬を赤らめるなよ!頼むから!そういう所だよ!」
「あ~…確かに僕も次の修行は不安でいっぱいかな」
東山先生ですら不安に思うような修行なの?
うちのお寺体験でそんな修行あったっけ?
夜中に胆試しした事あるけど、あれは可愛い天音の反応を見たくて、あたしが提案した事だからお寺修行ではないし、そもそもまだ昼前だし。
「ははは、次の修行は俺も実は不安なんだよね。それを楽しみにしてる奏さんは、らしいっちゃらしいけど」
「ん?春太さんも不安なんスか?オレも割と楽しみにしてんですけどね。滝行なんて滅多にやれるもんじゃないですし」
は?え?待って。滝行?
うちのお寺体験のメニューに滝行なんかないよ?
あたし生まれてこのかたやった事ないし。
「ちょっとあゆみ…」
「ええ、聞こえてたわよ。でも心配ないんじゃないかしら?」
「は?何で心配ないわけ?滝行なんかあたしもした事ないんだけど」
「はぁ…結月は本当にバカね。あたしも滝行なんかした事ないけど、あんたもした事ないんでしょ?」
「バカ呼ばわりされた事に若干カチンときたけど、それが心配ないって事にはならないんじゃない?」
「だからね、そもそも滝行って。ないでしょ、あんたん家の周りに滝が」
「あ……そっか」
そういやそうだよ。
あたし家の近所で滝なんか見たことないや。
滝なんかあったら、天音を連れて行ってあげて…。
『わぁ、すごい滝だね。も、もしかして結月ちゃんも滝行とかしてたりするの?』
『いや、あたしはやんないけどね。でもここいい場所でしょ?あ、そうだ。この滝の下の川ってさ。水冷たくて気持ちいいよ。一緒に泳がない?』
『ふぇ!?泳ぐ!?あ、でも私、水着持ってきてないや…』
『大丈夫大丈夫!ここあたしん家の敷地内だし誰も来ないし!み、水着ないならいっそ裸で…』
『ええ!?は、裸って…あ、でも…結月ちゃんとなら、いいかな…』
いいね!何であたしん家の周りに滝ないの!?
「結月、あんたどうしたの?鼻血出てるわよ?」
「え?だって天音が…」
「天音?何言ってんのあんた」
おっと、危ない危ない。
うっかり変な妄想しちゃったよ。
これじゃまるで涼風みたいじゃん。
「まぁ次の修行は滝行って言っても、QUINTET FUSIONの人達だけで、どっかの滝にでも行って別撮りするんじゃない?あたしらはいつも通り、お昼ご飯食べて結月パパの説法聞くだけでしょ」
あ、そっか。
これって一応ロケだもんね。
別撮りして編集でなんとかするって方法もあるのか、滝行の説明とかも、あたしらはさも今からやりますよ風に、どっかで別撮りするのかもしれないし。
『はいカット!オッケーです!』
あ、そっか。
この掃除のシーンもしっかり撮影してたのか。
なんとなく駄弁りながら掃除してただけだし、撮影してるってのすっかり忘れてた。
『それでは滝の方へ移動お願いしまーす』
「…ねぇ、結月」
「いや、あたしも知らないよ!?滝なんてこの辺にはないでしょ!?」
「いい質問ね結月」
「「母さん(結月ママ)!?」」
いつの間にあたしらの背後に…。
「あゆみちゃんにはもちろん、結月にも今までは黙っていたけれど、実はこの山の裏には代々このお寺を継ぐ者が修行をする幻の滝があるのよ」
「幻って…」
「このお寺を代々継ぐ者って…父さんと兄さんもそこで修行したっての?」
「ええ、そうよ。ま、最近はお寺修行って見映えの為に、一般の人にも公開してるけど」
一般の人には公開してんのに、そのお寺の娘であるあたしには内緒にしてたの!?何で!?
「百聞は一見にしかずよ。いらっしゃい。フッ、井の中の蛙とはよく言ったものだわ」
今そのことわざ使う所だった!?
そうして、あたしとあゆみ、QUINTET FUSIONの皆さんは母さんに案内されるまま、裏の山へと歩を進めるのだった。
・
・
・
-ザァー…
険しい獣道を歩くこと20分。
そこには確かに幻の滝と言われるだけあると、納得するような幻想的な滝が存在していた。
一般公開されてるはずなのに、何で獣道を歩かされたの?って疑問なんか一瞬で吹き飛ぶような光景。
でも、冷静になったら何で獣道?って思い返しちゃったんだけど。
その後、滝行の為に着替えということで、あたしとあゆみは母さんと共に女子更衣室で着替え、QUINTET FUSIONの皆さんはスタッフと共に男子更衣室へと連れられて行った。
男女別の更衣室があるって事は、本当に一般公開されてて、何人かはここで修行体験とかもしたって事かな?
みんなあの獣道を歩かされたの?
「何であたし達まで着替えさせられんのよ…」
「そりゃあたしとあゆみにも滝行させる為でしょ?案の定母さんは着替えてないし」
そして着替え終えたQUINTET FUSIONの皆さんも滝の前へとやってきた。
「こういう白装束着せられると、本当に滝行するんだって諦め思考になっちゃうね」
「そうスね。しかしオレはノーパンってのがちょっと…スースーするっていうか」
「何を言う秦野。男とは本来野生であるべき者。俺はライブの時もいつもノーパンだぞ」
「奏黙れ。テメェのせいでevokeはライブ中ノーパンだとか思われたらどうするつもりだ」
「ははは、これ滝行するん…ですよね?ポロリしちゃったら撮影どうするつもりなんだろ…」
ポロリ!?何が!?ってナニがか!
あたしとあゆみはインナー着てるから大丈夫だけど、QUINTET FUSIONの皆さんがポロリなんかしちゃったら…。
ウゲェ…あたしまだタカさんのすら見たことないのに。
…ん?待って。タカさんのすらって何!?
今後も見る予定なんかないし!
「じょ、冗談じゃないわよ、あたしまだ拓斗さんのすら見たことないのに」
ヤッバ。あたしあゆみと同レベルの思考になっちゃってたじゃん。
「そんな大惨事を起こす訳にはいかないわ。今からでも結月ママに言って、せめて下着だけでも…。
ねぇ!結月マ……ま?」
ん?どうしたんだろう?
あゆみ、母さんに文句言うんじゃなかったの?
と、思って母さんの方を見ると、いつの間にそんなすごいデジカメ買ったの?ってツッコミたくなるような、大きなデジカメを首から下げていた。
そしてふと母さんの足元に落ちている紙が目に止まり、それを拾って見てみると、とんでもない価格のデジカメを購入したレシートだった。
そして購入日は昨日の日付になっていた。
あたしこの人の娘なんだ…。
『それでは撮影開始しまーす。あゆみさんと結月さんの説明の後、お二人に見本を見せていただいてからの、QUINTET FUSIONの撮影となります』
え?やっぱあたしらも滝行するんだ?
どうやったらいいんだろう?
とか、思ってたけど、作法やなんやかんやは母さんからの説明があり、あたしとあゆみの説明パートは終わった。
はぁ…今から滝に打たれるのか…。
と、思ってはみたものの。
ここの滝はそんな勢いが凄いって訳ではない。
ポロリの心配とかもしていたけど、よく見るとそんなテレビのバラエティで観るような滝ではないし、あんまり心配はいらないかも。
あたし達は母さんに習ったように一礼をして滝に入ろうとした。
『あ、結月さんあゆみさん、お二人はそこじゃないです』
「何をやってるのよ結月もあゆみちゃんも。あんまり私に恥をかかせないでちょうだい」
「へ?あたしら何か作法間違えてました?」
「滝に今から入るだけでしょ?何か問題?」
「問題も何も。そこは初心者用でベテランの結月とあゆみちゃんの打たれる滝はあっちよ」
そう言って上の方に指をやる母さん。
-ズドドドド……
「「はぁ!?」」
「撮影隊はあそこまで登れないけど、ドローンでの撮影はしっかりするから安心して」
「あ、安心してって何を安心しろっていうんですか!?滝の勢いがここの非じゃないじゃないですか!」
「いや、さすがにあたしらはアレ無理でしょ。あたしもあゆみも初心者だし」
「大丈夫よ。私もお兄ちゃんも最初は無理って泣いてたけど、今では克服して必殺技も使えるようになったし」
「そんな問題じゃないですって!」
「必殺技…ちょっと惹かれるけど…」
「結月!あんた正気!?」
必殺技か。あたしまだオリジナルの必殺技持ってないもんね。もし必殺技があれば…。
「考え直しないよバカ結月!」
「あゆみちゃんもそんな心配する事ないわよ。一般公開もしてるって言ったじゃない」
「ゆ、結月ママや結月兄だけじゃなくて、一般の方もあそこで滝行したりもしてるんですか?」
「もちろんよ。希望者にはあそこで滝行をしてもらってるわ」
「な、なら大丈夫なの…かしらね」
「ええ、大怪我をした人はたくさんいるけど、まだ死亡者は出てないわ」
「聞いた!?結月!絶対ダメだって!なんとか辞退しましょ!」
確かに…あたしらにはバンド活動もあるんだし、大怪我なんかしてらんないし、必殺技は惹かれるけど…。
「母さん、悪いけどあたし達は…」
「それはこの番組の企画を無下にするという事かしら?そしてその撮影の貴女達のダダで邪魔をすると?面白いわね、そうなった時の私の怒りの矛先がどこになるのか」
「いくよあゆみ。大怪我ですめば御の字じゃん」
「結月はともかく何であたしまで…」
-ズドドドド……!
あたしとあゆみは少し高台になった所に進み、勢いのある滝を目の前にして恐怖を感じていた。
「ど、どうすんの結月」
「さすがにやるしかないでしょ。目の前の滝も恐怖だけど、逃げたらそれ以上の恐怖が待ってるし」
「クッ…それもそうね…。いいわ、あたしから行く。
……ってやっぱり怖いし!お願い、結月から行って!」
「あたしから?まぁ別にいいけど」
あたしは滝の中に入った。
-ズドドドド……!
「重っ!」
な、何この水の圧と重さ!
ちょっとでも気を抜くとこのまま滝の勢いに流されて、滝壺に落ちちゃいそうなんだけど!
それに足場は濡れてて滑るからふんばれないし。
あかん…これこそ大怪我ですまないかもしれない。
あたしはあゆみの方へ目を向けて、ここから逃げるようにとテレパシーを送ってみた。
「結月…あの顔。なるほど、思ったより大した事ないよって意味ね。安心したわ」
あゆみが何か言ってるようだけど滝の音で何を言ってるのかわかんない。
でも、あの顔を見たらわかる。
あゆみにはあたしの想いが通じて、この場から逃げる道を選んでくれたって事が。
それを証拠に、あゆみはこの滝の中へと歩を進めてきたのだ。
って何でぇぇぇぇぇぇぇぇ!?
逃げてくれるんじゃなかったの!?
「おっふ……」
あゆみも滝の水圧をまともに受け、なんとか流されないようにとゆっくりゆっくりとあたしに近付いて来た。
「ちょっとあゆみ!何で来たの!あたし目で逃げろって訴えかけてたじゃん!」
「は、はぁ!?あの目の訴えって『大丈夫だからあゆみもおいで』じゃなかったの!?」
声は何とかお互いに届く距離には近付く事が出来たけど、そっか。あゆみにはあたしのテレパシーは届いてくれなかったか。
「うぅ…グッ…」
「ちょっとあゆみ。無理しなくていいって」
「む、無理してるわよっ!無理しないと流されちゃいそうだし!それよりあんたは何で平気なのよ!」
「いや…さすがに全然平気じゃないし。あたし結構今必死だよ?あゆみはほら、早めに滝から出た方がいいよ?」
「わ、わかってるわよ!でも方向転換したらそのまま流されてしまいそうで…逃げることも出来ないで…あっ」
「あゆみ!?」
あたしをまくし立てるあゆみだったけど、それでちょっと気が抜けちゃったのか、バランスを崩して滝壺へと落ちていった。
あたしはそんなあゆみを助けるべく、滝壺へと飛び込んだのだけど、先に落ちたあゆみに追い付けるはずがなく、あたしも滝壺へとのみ込まれるのだった。
-ドボーン
-ドボーン
一瞬だけ死を覚悟しちゃったけど、滝壺は相当の深さがあり、岩や何かにぶつかる事もなかったから、幸いにもあたしは無事だった。
「ゴボッ(あたしは無事でもあゆみは!?)」
水中であたしは周りに視界をやる。
「ゴボッ(居た!あゆみ!)」
あゆみはピクリとも動かない。
気を失っているんだろうか?
溺れてる人を助けるのは、めちゃくちゃ大変なんだよね。確か下から上げるように助けるんだっけ?
「ゴボボ…」
うっ…重っ。でも、あゆみは気を失ってるみたいで本当に良かった。パニックになって暴れられたら、あたしまで溺れちゃうところだったし。
「ぷはっ」
あゆみを抱えたまま水面へと上がり、急いで岸へと上がった。
「はぁ…はぁ…あゆみ!」
あゆみは呼吸をしていない。
マジでヤバいんじゃないのこれ。
って、そんなの考えてる場合じゃないよね。取り敢えず人工呼吸かな。
ファ、ファーストキスをあゆみに捧げる事になるのか…。って!今はそんなの考えてる場合じゃないってば!
あたしがタカさんと天音にごめんなさいと何故か想いながら、あゆみと唇を重ねようとしたその時。
「結月。どきなさい」
「え?母さん?」
「フンッ!」
-ドゴッ!
「ぶはあ!ゲホ…ゲホッゲホッ」
「あゆみ!」
母さんがあゆみのボディにとんでもない一撃を放ち、あゆみは無事に水を吐いて呼吸をするようになった。
た、助かった…色んな意味で。
「って母さん!さすがにあの滝はヤバいじゃん!あゆみだって危うく!」
「あの程度の高さなら、ちょっと大きめのプールに行けば飛び込み台として設置されてる程度のレベル。あゆみちゃんが溺れてしまったのは確かにアクシデントだけれど、私がここに居る以上は万が一はないわ」
「で、でもあゆみは実際溺れて…」
「それは貴女が悪いわね結月」
「な、何で!」
「気付かなかったのかしら?貴女があゆみちゃんを助けようと飛び込んだから、あゆみちゃんは結月の頭突きをくらってしまって気を失ったのよ」
え?あ、そういやちょっとおでこが痛い。
「思い切り飛び込んだ結月の頭突き。それがあゆみちゃんを失神させ、さらにはその勢いのまま滝壺に落とされたのよ」
あ、あたしのせいだったの…?
「しかし。それ以外はあゆみちゃんの救助は完璧だったわ。早計だったとはいえ、すぐにあゆみちゃんを助けようとした行動力も褒めてあげる。そうね…8天晴れよ」
8天晴れ…?
……あ、久しぶりに母さんに褒めてもらえて思い出した。そういや母さんって何か褒める事があったら、点数を付けて○天晴れとか言ってたっけ?
母さんに褒められるの久しぶり過ぎだし、その天晴れが貯まったら何かあるのかも知らないし、すっかり忘れてたんだけど…。
「はぁ…はぁ…あれ?あたし何でここに?拓斗さんは?」
あ、あゆみ。
こんな時も拓斗さんの夢見てたんだ。
「あゆみ、あたしわかる?」
「…マウンテンゴリラが何でこんな所に?」
-ゴン
「痛っいわねバキ結月!」
「よし、あたしってわかるみたいだね。安心した」
「大丈夫ですか!?寺川さん、橘さん!無事ですか!?」
「あ、東山先生」
「あ、あたしは大丈夫です!ご、ご心配お掛けしました!」
ん?そういやあゆみって東山先生にはすごく態度がいいよね。あ、そっか。東山先生って一応拓斗さんの弟分みたいなもんだからかな?
「お、どうやら結月もあゆみも無事みたいだな」
「良かったぁ。橘さんが滝壺に落ちた時はどうなる事かと思ったよ」
「2人とも無事で安心したぞ。俺もこっちの滝で修行したかったものだが…寺川女子と橘女子がリタイアしてしまうような修行とはな。俺なんかではひとたまりもなかっただろうな」
「おお、橘が落ちた時は焦っちまったが、そのお掛けで奏が自重してくれるなら俺ら的にはありがたいアクシデントだったな」
秦野先輩に一瀬さん、豊永さんや河野さんまで…。
そっか。みんなあたし達の事を心配して、ここまで来てくれたんだ。
心配して駆け付けて来てくれるなんて、当然で普通の事なんだと思うけど、やっぱりファントムに所属させてもらえる事ななって良かったなって、改めて思った。
-
-
-
その後は昼食となり、お寺修行でお馴染みの精進料理が出てきて、音を立てて食べてはいけませんとか、昼食後は父さんからありがたい説法なんかもあり、これ撮れ高大丈夫?って心配になるくらい撮影は順調だった。
あ、そういえばお風呂。
うちには当然普通の家風呂があるし、お寺の修行体験に来られる方や一般の方にも有料で開放している露天風呂もあるんだけど、何故かお寺の裏にある昔使ってた五右衛門風呂。
その五右衛門風呂を沸かす修行とか、五右衛門風呂の熱さに耐えられかなんて修行もやらされてたみたい。
それに関してはあたしもあゆみもパスさせてもらえたけど、結局みんなで後から露天風呂に入りに行ってたのには驚いたし、夕飯の時も昼と同じように精進料理が出てきたけど、これだけじゃ足りないだろうからと、撮影後にみんなそれぞれの大好物を、スタッフさんから差し入れされて食べたみたいだった。
やっぱり裏側ってこんなもんなのかな?って思ったけど、あたしとあゆみへの差し入れはなかった。
はぁ…お腹空いた…。
「ふぅ、今日はほんっっっと疲れたわ」
「ほんとだよね。でも良かったじゃん。寝るのはあたしの部屋でいいみたいだし」
「ああ…それは本当に助かったわ。QUINTET FUSIONと一緒に本堂で寝るように言われたらどうしようかと思ったわよ」
「まぁQUINTET FUSIONの皆さんは、深夜にも撮影あるみたいだし、あたし達が居ない方が都合もいいんじゃない?」
「それよりあたしお腹空いたんだけど。あれっぽっちじゃ足りないわよ。確かお寺の修行体験の人達も、もう少しいいの食べてなかったかしら?」
「肉や魚は出ないし似たようなもんだと思うけど…。あ、それならあたしもお腹空いてるし、今からお菓子パーティーでもしちゃう?」
「お、それいいわね。賛成よ」
あたしとあゆみは部屋を出て、家のリビングに適当なお菓子とかジュースを取りに行くことにした。
「お菓子もジュースも大量じゃない」
「まぁうちは小春も兄貴もお菓子もジュースも好きだしね」
「そういえば小春も来年は中学だっけ?」
「うん、まぁあたしらももう高校生だし、本当にあっという間だよね…ん?あれ?なんかギターの音しない?」
「ほんとね。誰が弾いてるのかしら?」
「裏庭の方だよね?今うちでギター弾けるのってあたしと秦野先輩しかいなし」
「東山先生も楽器全般出来るわよ?」
大量のお菓子とジュースを抱えたまま、裏庭の方へ回ると秦野先輩が、うちの廊下に腰を掛けながらギターを弾いていた。
「秦野先輩?」
「あら?撮影は終わったのかしら?」
「ん?おお、結月とあゆみか。悪い、うるさかったか?」
「いえ、全然。まだこの時間ですし、うちのみんなも起きてると思いますし」
「そっか。撮影の再開までしばらく自由時間だかな。今日はギター触れてないし、ちょっとだけ弾いておこうとと思ってよ」
…!?
秦野先輩も朝から撮影で疲れてるだろうに。
あたしも今日はギター触れてないし、あゆみもベース触ったないだろうし…。
これがAiles Flammeとあたし達との差か…。
「それでお前らは?その大量のお菓子とジュース…。今からお菓子パーティーかよ?はは、夕飯少なかったもんな」
秦野先輩って割と話しやすいから好きだな。
学校でもモテモテだって志保先輩が言ってたっけ?
「ええ、せっかくですし秦野先輩も食べます?さすがに持って来たのはいいけど、あたしとあゆみじゃ食べきれないと思いますし」
「そうね、お菓子もジュースもいっぱいありますし、話でもしながらどうですか?」
「そうだな。せっかくだからお呼ばれしちゃうか。あゆみも拓実の話を聞きたいだろうしな」
「なっ!?内山 拓実の話なんて別にいらないですし!それより拓斗さんの事とかファントムの事の方が!」
「他のQUINTET FUSIONの皆さんは何をされてるんですか?」
「ん?ああ、一瀬さんは今は下の駐車場でダンスの練習、奏さんは日課のランニングに出てて、鳴海さんは明日の撮影の打ち合わせを東山先生の代わりにスタッフさんとな」
「東山先生の代わりに?その東山先生は?」
「ああ、本業の方がまだ忙しいみたいでな。オレらの修学旅行の資料作りでノートパソコンとにらめっこ中だ」
「ふぅん、みんな今日の撮影で疲れてるだろうによくやるわね」
本当にあゆみの言う通りだ。
天音達に負けたくない、BREEZEを超えたいとな言っておきながら…。あたし達はまだまだだ…。
そして、あたしとあゆみと秦野先輩によるお菓子パーティーは、秦野先輩達の撮影が再開されるまで続くのだった。