俺の名前は松岡 冬馬。
今回も俺のモノローグから物語は始まる。
俺達はバンド名も決り曲も出来た。
俺達Canoro Feliceはこれからだと思ってた。
でも現実ってのは漫画やアニメ、ゲームの世界とは違う。そんな簡単なものじゃなかった。
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『ねぇ!ねぇ!私達もさ、バンド名も決まったし曲も出来た!そろそろライブやろうよライブ』
『は?曲も出来たっても1曲しか出来てないだろ』
『そうですわよ。結衣。私達はまだまだです。もっと曲を作って、もっと上手くならないと』
『うー、それはそうだけどさ…』
『俺も曲作るの頑張ってんだ。もうちょっと待ってろよ』
『そうだよ結衣。冬馬も頑張ってくれてる。俺達は今の俺達の出来る事をやろう?』
『だから!それはわかってるの!でもね、私達が私達だけで練習してても良くなりっこないと思うんだよ』
『ん?どういう事だ?』
『ほら、私もね。アイドルやってたじゃん?みんなボイトレしたり、ダンスのレッスンしたり色々頑張ってたよ?それもメンバーのみんな一人一人が』
『うん、Blue Tearのみんな凄かったよ。俺も覚えてる』
『ああ、俺もユイユイの事一目見てわかったろ?俺もBlue Tearみんな凄いと思ってたぞ』
『じゃあさ?春くんの推しは誰だった?まっちゃんの推しは誰だったの?』
『俺はみんな好きだったよ。箱推しってやつかな』
『俺はセンターのユウカちゃんだ』
『へぇー、松岡くんってあんなタイプの女の子が好きなのですね』
『え?ちが、違うぞ秋月!Blue Tearの中でなら!って話だからな!』
『私はBlue Tearならヒナちゃんが好きでしたわ。あの闇をもった黒さ。同じ女として見習いたいものです』
『姫咲…姫咲は今のままが一番だよ』
『俺も今のままの秋月がいいと思うぞ。そんなの見習わなくていいからな?な?頼むから』
『んとね、私達Blue Tearの中で一番頑張ってたのはメグミちゃんなんだ。って、私が思ってるだけだけど…あはは。みんなBlue Tearにメグミちゃんって居たの知ってた?』
『ごめん…俺は知らないかな…』
『俺も知らないな。秋月はどうだ?』
『いつもバックにいた子ですわね。ソロパートとかもなかったように記憶してますけど』
『『『あ、知ってるんだ?』』』
『じいやの推しですわ』
『あ、でね。そのメグミちゃんだけどさ。ずっと努力はしてたんだよ。でも才能がなかったわけじゃない。セバスちゃんみたいに見てくれてる人もいるにはいたからBlue Tearでいれたんだと思う』
『はぁ、で?ユイユイは何が言いたいんだ?』
『その子はね、見てもらう機会がなかったんだよ』
『見てもらう機会…ですか?』
『うん。やっぱり冠番組でもバラエティでも歌でもさ。センターのユウカが一番出てた。私もギターやりだしたからってのでテレビに出るようになったから、それなりに知名度があったんだと思う』
『なるほどな。スタジオで一生懸命練習しててもそれだけじゃ誰にも見てもらえない。だから俺達もライブなりやってみんなに見てもらうべきだ。って言いたいのか?』
『そう!それ!そうじゃなきゃさ?私達もどこが悪いかとか、どこがいいかとかもわかんないじゃん?』
『そうですわね。確かに今の練習法や伸ばそうとしてる所が必ずしもオーディエンスの望む姿。とは限りませんものね』
『だからって曲もないのにライブってのはな…』
『うん、ならさ、路上ライブとかどうかな?』
『路上ライブか……』
『あ!それいい!私達も研究生時代とかよくやったもん!』
『路上ライブもいい練習になると思うよ。オーディエンスの意見も見え聞き出来ると思うし』
『そうですわね。路上ライブでしたら1曲だけでもいいでしょうし』
『冬馬、やってみるのもありじゃない?』
『そうだな。やってみるのもありか…』
『うん!やろうよ!路上ライブ!!』
『それよりな。路上ライブやるのはいいが、その為にそのメグミちゃんの話題出すってのはな…どうかと思うぞ。ユイユイ』
『え?なんで?』
『え?いや、努力家だったのに報われませんでした。みたいな例に出されても可哀相だろ…』
『え?メグミちゃんの努力は報われたよ?最近テレビでもよく見るしオリコンも2曲連続トップテン入りしてるよ?』
『は?いや、俺はしらないぞメグミちゃんって子』
『ごめん結衣、俺も知らないかな』
『ん?
『『メグミって苗字だったのかよ』』
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そんなやり取りから数日後、俺達は路上ライブデビューをした。
最初は誰も立ち止まってくれる事はなかったが、日々やっていくにつれ。立ち止まって見てくれる人達も増えていった。
そう、聴いてくれる人達じゃなく、見てくれる人達が……。
「キャー!春太くんかっこいー!」「松岡くーん!こっち向いてー!」「結衣ちゃん可愛いよー!」「姫咲様ー!罵ってくださいー!」
な、なんか秋月のファン層だけ違う気がするが、みんな俺達の曲を聴いてくれてるわけじゃない。
俺達はこれでいいんだろうか…。
「うっす」
「冬馬こんにちは」
「今日も路上ライブ頑張ろうね」
「ええ、頑張りましょう」
「「「「……」」」」
しばらくの沈黙。俺達は黙ったまま路上ライブの準備をしていた。
「ねぇ、今日はさ。私達の曲。ちゃんと聴いていってもらいたいね」
ユイユイのその一言が俺達には重かった。
「みんなー!今日もありがとう!聴いて下さい!俺達、Canoro FeliceのFriend Ship!」
そして俺達の演奏が始まる。
「結衣ちゃん可愛いよー!こっち向いてー!」「冬馬さ~ん!今日もかっこいいですー!」「春太くん!春太くん!!」「姫咲様ー!どうかこの憐れな豚を踏んで下さいー!」
やっぱり秋月のファン層だけ……。いや、演奏に集中しろ。演奏をしっかりやれば……きっと…。
「ハァ、ハァ。Canoro FeliceでFriend Shipでした!みんな聴いてくれてありがとう!!」
「キャー!春太くーん!握手して下さいー!」
「え?うん、ありがとう」
「結衣ちゃ~ん!一緒に写真撮って下さい!」
「え?あ、うん、いいよ」
「姫咲様。どうかこの鞭で私のお尻をぶって下さい」
「あ、あの、ごめんなさい。それはちょっと…」
「松岡さん、私と握手して下さいー!」
「あ、ああ。いいぜ」
「ありがとうございます!」
「お、俺達の曲どうだったかな?」
「え?かっこよかったです」
「そ、そうか、ありがとう」
感情のこもってない『かっこよかった』か…。やっぱりこの子も俺達の曲を聴いてくれてるわけじゃない。
「みんな、今日もお疲れ様。結衣も姫咲も気を付けて帰ってね」
「あはは、私は姫咲と一緒にセバスちゃんに送ってもらうから」
「ハッ、このセバス。必ずや結衣様もお嬢様も無事に送り届けてみせます。一瀬様も松岡様もお気をつけて。いくら我が私設部隊を各所に配備させてますとはいえ、こうも遅い時刻ですと何があるかわかりませんので…」
「あはは、セバスさん、ありがとう」
私設部隊って何だ…?
「では、春くん、松岡くん。ごきげんよう」
「俺達も帰るか」
「うん、そうだね」
「…」
「…」
帰り道俺達はずっと無言だった。
春太も色々考えてるんだろう。
「あ、冬馬。じゃあ、また明日」
「ああ、また明日な」
無言のまま駅前に着き、俺達は別れた。
ダメだ、このままじゃCanoro Feliceはダメだ。
だからと言って現状を打破する方法なんて思い付かない。
ん?LINE?お袋からか。
『ごめんねヽ(・∀・)ノ
パパとママで冬馬の分のご飯も食べちゃったv( ̄Д ̄)v』
なんだよこの顔文字のチョイス!!
食べちゃったじゃねぇよ!
しょうがねぇ、いつものカフェで食ってくか…。
そう思い、飯がない時とかによくお世話になるカフェへと足を向けた。
しかし、そのカフェはいつもと様子が違う。なんだあの人集り……。
「チヒロ様ー!今日のギターも最高でしたー!」「イオリ様のドラムかっこよかったです!!」
たくさんの女の子に囲まれてイケメンの4人組が居た。なんなんだあいつら…。
「シグレ様の今日の声も素敵でした!」「ナギ様ー!ナギ様のベース聴きながら寝たいですー!そしてナギ様に起こされたい!」
俺はふとカフェの壁に貼られたフライヤーへと目をやった。
『
え!?ここってライブハウスだったのか!?
俺がずっとカフェだと思い込んでいたファントムはどうやらライブハウスのようだった。そうか、普段はライブハウスでライブのない日はカフェをやってるのか…。
店外はイケメン4人組と若い女の子だらけだが、店内はそんなに人はいないな。ライブ終わった後に店内で飯を食ってる人もいるみたいだし、俺も飯にありつけるだろうか?そう思い俺は店内に入った。
「いらっしゃい」
俺が店に入るといつものおっちゃんが俺を迎えてくれた。
「あ、あの俺もここで飯をと思ったんですが大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ」
どうやら大丈夫なようだ。俺は空いてる席に座ると今度はいつもの女の子が俺の席に水を持ってきた。
「いらっしゃいませ。ご注文が決まりましたらお呼び下さい」
「あ、あの今日の定食ってのは?」
「本日のメニューはほっけ定食です」
「え?ほっけ?」
「はい。身がぷりぷりしてて最高ですよ」
え?カフェで?ほっけ?
いや、まぁそれはいい。でもここライブハウスで今日はライブあったんだよな?魚なんか焼いて大丈夫なのか…?
「あ、じゃあそれを…」
「いつもパスタとかにされるのに珍しいですね」
「え?」
「私はよく来てくれるお客様の顔は覚えてますから」
そう言ってその子はすごくいい笑顔を向けてくれた。か、可愛い…。
ハッ、いかんいかん。俺には秋月がいる。
そしてその子はおっちゃんの元に戻って行き、俺は改めて店内を見渡してみた。
今日はライブがあったからか、フライヤーやポスターが多いけど、いつもはこんなのないもんな。
そう思ってフライヤーを見て回っていると、1枚のフライヤーに目が止まった。
『
開催日11月12日。
参加バンド1組募集中。
参加バンドBlaze Future/Dival/Ailes Flamme。
詳細は支配人まで。
どれも聞いた事のないバンドだな。
「ほいよ。今日の定食お待ち!」
「あ、ありがとうございます」
「どうした?店内を妙にキョロキョロして。今日は女性客が多いからな。どの子ナンパしようかって品定めでもしてたか?」
「ち、違いますよ。俺、たまにここ来るんですけど、ライブハウスって初めて知ったな。と思って」
「まぁ、あんまり流行ってないからな」
そう言っておっちゃんは笑った。
初めて会話したけど、なかなか話しやすい人だな。
「あの、それでそのフライヤーが気になったんですけど…」
「ん?ああ、このPhantom Gigのやつか?君、バンドやってるのか?興味ある?」
「ええ、まぁ一応…」
「このイベントはBlaze Futureってバンドの主催でな。このライブハウスで15年前の伝説のライブ、ドリーミン・ギグみたいにみんなで自由にライブをやろう。って企画だ。参加条件はバンドを組んでいる事って以外には特にないが、どれも聞いた事ないバンドだろ?」
「ええ、まぁ…」
「どのバンドも最近結成したバンドでな。でも3組とも熱いものを持ってるバンドだ。メジャーデビューとかそんなのを狙ってるわけじゃない。自分達で楽しいライブをしたい。そう思ってるバンド達だよ」
「じ、実は俺達も最近バンドを結成したばかりで…」
「そうなのか?今ならまだ枠もあるぞ。昨日募集かけたばかりだしな」
俺は何を言ってるんだ。路上ライブではあんな感じなのに。今の俺達がライブなんて出来るのか……
「どうした?なんか困り事か?」
そう言っておっちゃんはそのフライヤーの前に行き、そのフライヤーを剥がして俺の所に持ってきた。
「持っていきな。そんでメンバーと話し合って参加するかどうか決めたらいいさ。ただし3、4日くらいで決めてくれな。君達がダメだったらまた募集しなきゃだしな。あ、大事な参加費だけど1バンド………」
俺は飯を食い終わりフライヤーを眺めながら帰路についていた。
「みんな結成したてのバンド…か」
俺はこのライブの事をみんなに話すべきか?それとも……。
俺自身の気持ちとしては参加してみたい。
だが、今の俺達が参加したところで…。
〈〈〈ドン〉〉〉
「キャッ」
「イテッ」
「ご、ごめんなさい。急いでたものだから…」
「俺こそ悪い…ちょっとボーっとしてたから…大丈夫か?」
フライヤーを見ながら歩いてたら女の子とぶつかってしまった。
「……」
ん?女の子が俺の顔をじっと見てる。ヤバイな。どこかぶつけちゃったか?
「あの、ほんとすまん…」
「運命……」
「え?」
「あ、いや、なんでもないです!大丈夫です!」
「そっか、それなら良かった」
ぶつかった拍子に転ばせてしまった女の子のキャリーを立たせてやる。う、意外と重い…。
「ほんとごめんな。ほら、キャリー」
俺が女の子にキャリーを渡そうとすると、女の子は俺がぶつかった時に落としたであろうフライヤーを見ていた。
「あ、すみません。重ね重ねありがとうございます。このフライヤーって…」
「ああ、ここの近くのライブハウスでやるイベントらしくてな。俺もバンドやってるんだけど参加するか悩んでたらオーナーがそのフライヤーをくれたんだよ」
「残り1組募集かぁ。面白そうだけど、お兄さん達が参加するなら私達は無理かな」
「あ、いや、まだ参加すると決めたわけじゃないけどな」
「私もバンドやってるんですけどライブはやるべきだと思いますよ。はい、フライヤー」
「ああ、サンキュな」
「そのイベントの日程覚えましたし!きっと見に行きますんで参加して下さいね」
「え?あ、ああ。きっと…」
「あ、よかったら連絡先交換しませんか?同じバンドやってるもの同士悩みとか色々相談出来るかもですし」
彼女の名前は
そして帰宅した俺に早速茅野からLINEが入ってた。最初は他愛ない会話だったが、バンドの話になった。茅野達のバンドはそれなりにライブもやっているらしい。最初は全然オーディエンスが入らなかった事。CDを自主制作しても無料でも受け取って貰えなかった事。
そして俺は俺のバンドも今は同じような感じだと茅野に相談していた。
今日も俺達は挨拶だけ交わし、無言で路上ライブの準備をしていた。
俺は結局Phantom Gigの事をこいつらに話せないでいた。
そしていつものように路上ライブをし、いつものように解散する。
結局今日になっても何も変わらない。
明日もきっと何も変わらない…。
俺達が楽器の片付けに入ろうとした時だった。
「ふぅん、君達か。最近この辺で路上ライブをやっているというバンドは」
「なかなかつまらない演奏をしているじゃないか」
俺達は片付けの手を止めて声のする方へと目を向けた。
「デュエルギグ野盗が往来するこのご時世に路上ライブをやっているというから、期待して見に来てみればこれだ」
こいつら…昨日の…
「まぁ、用は済んだ。邪魔したね。こいつらはボク達の敵じゃない」
「ナギもう行こうぜ」
「待ってよ。オレはこいつらに本当の演奏を見せてやりたい」
「は?お前ドSかよ。こいつら二度と演奏出来なくなるぜ?」
「オレは優しいの。こんな奴らはここで終わらせてやるのが一番だろ?」
「な、何こいつら…感じ悪い…」
「FABULOUS PERFUME……確かそんな名前のバンドだ」
「俺は気が進まないな。可愛い女の子がいるバンドだぜ?」
「ボクも。こんな奴ら相手にしてもボクらの品が落ちるだけさ」
「私は構いませんよ。ナギ。やりましょう」
「まじかよ。シグレ…」
「可愛いお嬢さん、オレにベースを貸してくれるかな?」
「は、はい。私のベースでよければいくらでも…」
「秋月!?」
「チ、しゃーねーな。シグレがやんなら俺もやらねぇとな」
そしてその男はユイユイに近づいていった。
「君、見たことあるよ。Blue Tearのユイユイ…だよね?」
「は、はい…」
「俺にギター。貸してくれないかな?」
「え、え?あの、あの…」
「やれやれ、困った女の子だな…chu」
「「!?」」
その男はあろうことかユイユイの頬にキスを…キスをした!
俺ですらスコア渡す時に指先が触れた事しかないのに!!
「これは前払いのレンタル料…ほら、貸して」
「はい、いくらでも使ってくだしゃい」
「ゆ、結衣!?」
「ヤバいぞ春太…」
「うん、結衣はともかく姫咲までもが…。これが、イケメンとフツメンの差か…」
「安心しろ春太。俺のドラムはあんな奴らに貸さねぇ……」
「ふぅん、君はボクに貸してくれないんだ?」
「ったりめーだろ。誰が貸すかよ」
「いいの?シグレとチヒロとナギだけでも十分勝てるレベルだけど?ボクのドラムが参加しないのに負けたとあったら最悪だよね?君達」
「なっ!?」
「春太、挑発に乗んな」
「へぇ?本当にボクには貸してくれないんだ?怖い?自分のドラムが誰かに負けるのは」
こいつ…。
「イオリ。安っぽい挑発すんな。オレとシグレが居りゃ負けねぇよ」
「あ?ナギてめぇ俺の事忘れてんのか?」
「チヒロが居たら圧勝になっちまうだろ?手加減してやれよ?」
「バ~カ、お前こそ手加減してやれよ」
「「か、かっこいい~」」
秋月!?ユイユイ!?
「ダメだ、冬馬…あの2人は完全に落ちてる……」
そしてドラムの居ないまま演奏が始まった。この曲……これは…俺達のFriend Ship……。
「まぁ、完コピとまではいかないけどね?どうよ?うちのギターとベースは?」
な、何だってんだよ……。
「ひひひ、ドラム君青ざめてるねぇ?ボクがドラムやってなくて良かったねぇ?」
「お?路上ライブか?」「え?何何?なんかいいじゃんこの曲」
なっ…なんだと…!?俺達と同じ楽器で同じ曲で…しかもドラム無しで……オーディエンスが曲に興味を持って…
「これが音楽だよ。そしてシグレの声を聞いて……絶望しな」
「一輪の蕾を持ちし華達よ…私の歌を聞いて!狂い咲け!!」
「すげーぞにーちゃん!」「さ、最高!!」「ねぇねぇ、この曲なんて言ってた?あたしこの曲欲しい」「あ、なんかどっかのバンドさんのコピーらしいよ」「もう1回歌ってくれ~」
完敗だ…。俺の…俺達の今までやって来た事は…。
その後、FABULOUS PERFUMEは2曲のアンコールに応え、オーディエンスは解散し、その場は俺達だけになった。
「ボーカルくんもドラムくんも今すごい顔をしてるよ?どう?これが音楽なんだよ」
「そんな…完敗だ…俺達の…」
「チヒロ様かっこいいよぉ」
「ああん、ナギ様。ユキホ様の次に素敵な方ですわ…」
「ユイユイ…秋月……。くそっ!」
「お嬢さん、ベースありがとう。なかなかいいベースだったよ。楽器は持ち手を選ぶのかな?君が素敵だから…ベースも素敵な音を奏でるね」
「は、はぅ~~。ユキホ様ごめんなさい。姫咲は…姫咲は……」
何だよこの秋月は…!何でこんなに可愛いんだっ!
いや、違う。いや、秋月は可愛いから違わないけど違う…!
「さてと」
ベースのナギって男が俺に近づいて来た。
「ライブを怯えて路上ライブばっかりしてるからこんな事になるんだよ。オーディエンスに応えてもらえないのがそんなに怖いかよ?」
そしてナギは俺の荷物を漁り始めた。
こ、こいつ何やってんだ!
「おー、あったあった。シグレ、チヒロ、イオリ。オレ達このイベント参加しようぜ。Phantom Gig。
オレ達が昨日ライブやった所でやる15年前のドリーミン・ギグのようなイベントらしいぜ?」
なっ!こいつ!
「ちょっと…ナギ。いくらなんでもそれはやり過ぎじゃねぇか?」
「こんな奴らが参加したって他のバンドに迷惑なだけだろ?だったらオレらが参加してよ。最高のライブにしようぜ!」
「ナギ…。ボクもそれはやり過ぎだとおも…」
「て、てめぇ!いい加減にしろよ!!お前らに俺達の何がわかんだよ!!返せよそれ!!」
「わかるさ。怖いんだろ?自分達の演奏が誰にも聴いてもらえないんじゃないかって。やりたくてもやりたいって声もあげられない」
「ナギ……」
俺はナギに向かって走った。
「いけません!!松岡様!!その方は!!」
「セバスさん!?」
そして俺はナギの胸倉を掴み…
(((ぷにょん)))
「え?」
「ひ!?」
モミモミ…
あれ?何だこの柔らかくて素敵な感触は?俺はこれを触る為に生まれて来たのかもしれない。そう思える幸せな感触……。
「キ……キャーーー!!!!」
そして俺の頬にはとてつもない衝撃が走った…。え?なんだこれ?
「う、うぅ…うぇぇぇぇん…」
ナギが泣いている……
「うわあああああん!やっぱり男の人怖いよぉぉぉぉ!だからボクほんとは嫌だったんだよぉぉぉ!」
イオリが泣いている…
「やっぱり男は獣ね…!!」
シグレに思いっきり睨まれている…
「まぁ、あのな…泣くなよ。ナギ、イオリ。ごめんな。ちゃんと俺が守ってやるべきだったな?ごめん…ね…うぅ」
おろおろしてたチヒロも泣き出した…
「……」
春太は( ゚□゚)こんな顔をしている。
「まっちゃん…最低…ほんっと最低…」
ユイユイにも思いっきり睨まれている…。
「エロ岡くん。あ、間違えましたわ。モミ岡くん。あら?何てお名前でしたっけ?」
秋月には名前を忘れられている…。
え?なんだこれ???
「あ、あの…」
俺は思いきってナギに声を掛けてみた。
「冬馬酷いよ…確かに挑発したのは私だけど…。あんだけしたのに私って気付かないし…。怒らせ過ぎてどうしよう。って思ってたら殴られそうになって…やり過ぎたし殴られてもしょうがないって思ってたら…胸を…思いっきり…揉ま…揉ま……うわぁぁぁぁぁん」
「え?ちょっと待って!ほんっとちょっと待って!俺の事、冬馬って呼ぶって事は…茅野か…?」
「そだよ…茅野 双葉だよ…」
そう言って茅野はウィッグとウィッグネットを外した。
「結衣、私達も気をつけませんと…いつかあの変態に襲われそうですわ…私、あの人怖いです」
秋月!?
「私もまっちゃんはそんな事しないと思ってたのにね…幻滅だよ…」
ユイユイ!?
「( ゚□゚)」
春太頼む!早くこっちに帰ってきてくれ!弁護してくれ!!
「と、取り合えず話を聞いてくれ!俺はナギを双葉だと思ってなかったし、男だと本気で思ってたんだ!本当だ!」
「この変態は何を言ってるのでしょう?どう見ても男装女子の方々ですのに」
「普通気付くよね?」
普通気付くの!?
「やはりあの変態は気付かない振りをして虎視眈々と胸を揉む事を企んでたんですわ。おっぱい星人に違いありませんわ」
「本当に最低だね松岡くん!」
まっちゃんから松岡くんに格下げ!?
「本当だって!信じてくれ!」
「男はいつだってそう。身体だけが目的なのよ。双葉に頼まれたからってやっぱりこんな事するべきじゃなかったわ」
どうしたら信じてくれるんだ…。
「ボク…怖いよぉぉぉぉ。もうお家帰りたいよぉぉぉぉ!うわぁぁぁぁぁん!」
「わかった!もうわかった!!もういい!!」
俺が叫んで泣き声や罵倒は収まった。
かに、見えたが……
「あの男…今度は居直りましたわ…」
「ここまで最低な男だったなんて…」
「( ゚□゚)」
「初めては…結婚する人って決めてたのに…うぇぇぇぇん…」
「やっぱり男なんて…」
「あ、あのさ?みんなちょっと落ちつこう?このドラムくんの話聞こう?ね?」
「怖いよぉぉぉぉ!うわぁぁぁぁぁん!」
ああ、さっきまでチヒロさんって嫌な奴だと思ってたのに今は天使に見える。
そして頼む。春太、帰ってきてくれ…。
「これはもう見てられませんな」
セバス!居てくれてたのか!!
「これはバンド同士の話ゆえ、私如きが口を挟むのは…と思っておりましたが…」
「じいや。居たのですね。では、命令します。ナギ様とイオリ様を泣かせたあの男を抹殺しなさい。この世から」
この世から!?秋月マジでか!!?
「お嬢様、大変申し訳ございません。その命令は私の話を聞いてから…。に、して頂けますでしょうか。じいやのお願いでございます」
「………よいでしょう。それで気が変わる事がなければ、抹殺してくれると受け取ってもよろしいですか?」
「ハッ、その時は証拠も残さずに抹殺してごらんにいれます」
え?怖いよセバス。俺が泣きそうだよ。
「では、私が松岡様がナギ様をFABULOUS PERFUMEの皆様を男性と思っていた証拠を提出させて頂きます」
そ、そんか証拠があるのか!?ありがとう!セバス!!
「この写真をご覧下さい。松岡様がお嬢様と会話をされている時、結衣様と会話をされている時、そして夕べそちらの茅野様と会話をしている時の写真でございます」
え?何でそんな写真あるんだ?
「うわー、顔真っ赤だぁ。しかも目線反らしてるし」
「とんだ変態ですわね」
「あぅ、冬馬とのツーショだ。あの、じいやさん、この写真は被害者の私が証拠品として押収します」
「ハッ、ではこの写真は証拠品としてお納め下さいませ。あと私の事はフレンドリーにセバスちゃんとお呼び下さいませ」
「ありがとうございます。セバスさん」
「そして次にこちらが一瀬様と会話をされている時、私と会話をされている時、学校のご友人と会話をされている時、そしてFABULOUS PERFUMEの皆様と会話をされている時の写真でございます」
「あ、ボク達と会話してる時は顔が赤くない」
「ちゃんと俺達の目を見てるな」
「ナ…ナギの時の私と冬馬のツーショ…。セバスさん、この写真も被害者の私が証拠品として押収します」
「ハッ、どうぞ」
俺これとんでもない事暴露されてないか?
「なるほどですね。そこの…エロムをやってる胸岡くんだったかしら?」
「いや、ドラムをやってる松岡だ…」
「あなたが私達を男だと思っていたのは信じましょう。でも、あなたが双ば……ナギの胸を獣のように揉みしだいた事実は事実なの。去せ…どう責任を取るの?」
今、去勢って言い掛けなかったか?
「そうだな。あんたの言う通りだ。茅野。本当に悪かった」
そう思って俺は頭を下げた。
「頭の下げ方が足りませんわ」
え?何で秋月がダメ出し?
「茅野。本当に悪かった。俺に出来る事なら何でもする。だから、許してくれとは言わないが、俺の謝りたいって気持ちだけはわかってくれ」
「本当に何でもしてくれるの?」
「ああ、俺に出来る限りは何でも!」
「じゃあ、私…オレ達とデュエルをしてもらおうか?」
「「「ナギ!?」」」
「オレ達がデュエルに勝ったら…」
「勝ったら何だ?」
「オ…オレのおっ…おっぱ…」
「おっぱ?」
「おっぱい!……を、揉んだ責任として、茅野 双葉とこ…こここ恋人になってもらう!」
「は?」
「そ、その、かわりお前らが勝ったら…えっと、どうしよう…」
「ナギ様!いけませんわ!そんな事を言ってはまた胸を揉ませろとか言ってきますわよ!その男は!!いえ、もしかしたらもっとすごいことも……」
あ、あの秋月?ほんと許して下さい。お願いします。
「よし、お前らが勝ったらPhantom Gigはオレ達は参加しない。お前らが出ろ」
「え?そ、それでいいのか?」
「~!?お前!オレ達に勝てる気でいるのかよ!恋人って事はあれだぞ?休みの日に一緒にお買い物行ったりカフェ行ったり…毎日メールしあったり…」
「デュエルで負けたら……ナギ様の恋人があの男に……!?ま…負けるわけにはいきませんわ……」
よし。頑張れ俺。きっと今の秋月の台詞は俺が他の女の子の恋人になるのが嫌って事なんだ。きっとそうだ。
「よし!日程と場所はオレ達が決めてまた連絡する!」
「お、おう!望むところだぜ!!」
「( ゚□゚)」
春太…結局帰って来れなかったか…。
そうして俺達のライブデビュー。
FABULOUS PERFUMEとのデュエルが決まった。俺達は新曲を作り万全の準備を整えた。
ファントムのおっちゃんには事情を説明して、Phantom Gigの参加は俺達のデュエルの後まで待ってもらえるように交渉した。
俺達はこのデュエルに負けたら俺は茅野の彼氏にならなきゃいけない。
確かに茅野は可愛いし元気だしすごくいい子だ。
あの日の後もLINEや直接会ったりして、曲作りのアドバイスや、ライブをやる時なんかの注意なんかを教えてくれた。
俺はバンドのヘルプでライブやる事もあったが、その辺は全然知らなかったからな…。
そして俺のLINEから路上ライブをやってる事を聞いて見に行こうと思ってくれたらしい。だけど俺達の演奏は苦しそうに寂しそうに見えたから、俺達を挑発して楽しい演奏を見せてや、やりたい演奏を思い出させる為にやった事らしい。
バンドのメンバーにも必死で頼み込んで一芝居うってくれたようだ。
茅野は優しいし、正直あんないい子の彼氏になれるとか最高だと思う。なんならお付き合いしたいくらいだ。デュエルに負けるのは嫌だけど…。
でも茅野は俺が好きだから恋人になりたいとかじゃない。俺が事故とはいえ胸を触ってしまったから、その責任からだ。
茅野はいい子だから、こんな交際はダメだ。
だから俺は、俺達は負けるわけにはいかない。
「私達はやるだけはやりましたわ。だから、必ず勝ちますわよ!ナギ様を守るのです!もし負けるような事があれば、春くんと松岡くんは去勢します」
「「え!?」」
「うん!私も楽しみだよ!勝つように頑張ろうね!」
「な、何で俺まで…まぁ、勝てばいいか」
そして俺達Canoro FeliceとFABULOUS PERFUMEのデュエルの日がやってきた。