バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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Dival編
第1章 バンドやろうぜ!


『ピピピピ……

ピピピピピ……』

 

もう朝か……。

せっかくの休みだけど起きないと…。

 

「んー……!!!」

 

思いっきり伸びをする。

 

「溜まってる洗濯しないとなぁ」

 

私、水瀬 渚(みなせ なぎさ)は現在一人暮らしをしている。

就職の為に都会に出てきて数ヶ月、毎日があっという間に過ぎ去っていく。

 

「実家だと休みは昼まで寝れたのになぁ~…。お母さんのありがたみを実感する…」

 

朝起きて、仕事行って、帰って来てご飯作って食べて、お風呂入って寝る。

 

それだけで1日が終わっちゃう。

 

まぁ、最近はコンビニご飯だし、夜はゲームしたりドラマ観たりしてるけど…。

 

「友達もこっちにはあんまりいないし…。お一人様が上手になっちゃったよね」

 

実家に居た頃は友達も多かったし、休みの日は買い物行ったり、カフェの開拓したり…。

 

毎日があっという間なのは変わらないけど楽しかったのになぁ…。

 

ハッ、せっかくの休みなのに暗い気持ちになってちゃいけない!

大好きなCure2tron(キュアキュアトロン)の曲でも聴いて楽しい気分になろう!

 

♪~~

 

仕事始めたての頃、毎日がしんどくてへこたれてた時。

仕事の帰りになんとなく立ち寄ったライブハウス。

 

そこで初めてCure2tronを見て、曲を聴いて、すごく元気になった。

 

元気で可愛い女の子!って思ってたのに、まさか男の娘だって知った時はびっくりしちゃったな。あはは。

 

「うん!やっぱりキュアトロの曲は元気になる!テンション上がる~!」

 

洗濯終わるまで時間あるし、せっかくの休みだし!

朝からビールでも飲んじゃいましょうかね!ダメ人間最高~♪

 

「あれ?」

 

一旦冷蔵庫を閉めてと……。

そして素早く冷蔵庫を開ける!

ザ・無意味!!

 

「うそ…」

 

なんて事でしょう…。冷蔵庫を開けたらそこには…。

 

「ビールどころか何も入ってなかったのです。あ、焼肉のたれはあった」

 

そういや今週コンビニばっかりで全然買い物行ってなかったっけ……。

 

「しょうがない。洗濯終わったら買い物行くか」

 

 

 

 

「んー!いい天気!!」

 

外に出て正解だったかな!

天気がいいと心まで晴れやかになる!

こんな日は何かいい事起きそうな予感するよね!

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「え?」

 

「くそ!覚えてろよ……!!」

 

〈〈ドン〉〉

 

「痛っ!」

 

いきなり走ってきた男達にぶつかられて私は転びそうになった。

男達は何も気にする事もなくそのまま走って行った。

 

「ちょ…謝りもせずに行くとか…!さいってい!!」

 

男達の走って来た方に目を向けるとそこには天から舞い降りてきた天使のような。

もしくは魔界から人を誘う為に現世にやってきた妖艶の悪魔のような。

すごく幻想的な雰囲気を纏った女の子が一人立っていた。

 

「綺麗……」

 

「フン…!雑魚が」

 

やっぱり悪魔の方かな?

 

そして女の子が私に近付いてくる。

 

「ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 

やっぱり天使かな?

 

「あ、大丈夫です」

 

「すみません。本当に…。お怪我とかされてませんか?」

 

「本当に大丈夫ですよ。ありがとうございます。えっと…さっきのは…?」

 

「あ、全然知らない人です。デュエルギグを申し込まれたから受けて立っただけで…」

 

「デュエルギグ…?」

 

「ええ、たまにあるんですよ」

 

デュエルギグを街中で……。

そんな事たまにあるものなの?

お母さん。やっぱり都会は怖い所です…。

 

「あ、あはは。デュエルギグって事は、音楽好きなんですね。バンドされてるんですか?」

 

「いえ、バンドはやってません。それに…今は音楽なんて…」

 

そう言ってその子の目はすごく悲しそうな色をしていた。

 

「ヒャッハー!!」

 

「見つけたぜ!雨宮…!!」

 

「お前の親父にやられた恨み!ここで晴らさせてもらおうか!!」

 

「え?え?」

 

何この世紀末救世主伝説に出てきそうな風貌の人達…。この格好で街中歩いて来たの?

 

「チ、またデュエルギグ野盗か…」

 

「デュエルギグ野盗!?」

 

「お姉さん、下がってて」

 

「ヒャッハー!雨宮ぁ!!今日こそお前のタマ取ったるぁぁぁ!!!」

 

「生憎だけどあたし一応女の子なの。タマなんか付いてないから」

 

「命取ったるって意味じゃゴラァ!」

 

「上等!!関係ないお姉さんがいるってのに……あんた達!絶対許さないから!!」

 

そう言って女の子はギターを取り出して演奏を始めた…。

男達も負けじと演奏を始める。

けど…女の子のギターも歌声もはるかにレベルが違う…凄い…。

このデュエルは圧倒的に女の子の勝ちだ…。

 

って、女の子どこからギター出したの?

 

「チ、このままじゃ…」

 

「くらいやがれ!!」

 

そう言って男が足下の砂を蹴って女の子にぶつけた!ずるいっ!!

 

「クッ……!!」

 

「へへへ、これで俺達の勝ちだ!」

 

ずるいっ!ずるいっ!

なんなのこの男の人達!!

女の子相手にこんな卑怯な事を…!!

 

「このままじゃ…!!」

 

私は怒った!

こんなのデュエルじゃない!

音楽じゃない!!

私は堪らず飛び出していた。

 

「え!?お姉さん!?」

 

「大丈夫。この曲なら知ってるから」

 

「へ!素人が増えた所で……!!」

 

私は女の子のギターに合わせて歌い始めた。

 

「クッ…こいつの歌……!」

 

「素人じゃねぇってのか!?」

 

「お姉さん…。この歌声……いける!!」

 

「このっ!お前もくらいやがれ!!」

 

男はそう言ってまた砂を蹴りかけてきた。

だけど、私はそれを華麗に避ける。

当たらなければどうということはない!!

 

「くっ!?かわしただと!?」

 

負けられない!負けたくない!!

何よりこんな連中にこの女の子が負ける所なんて見たくないっ!!

 

「クッ…もうダメか…」

 

「くそっ……!!」

 

「「「ぐわぁぁぁぁ!!!」」」

 

「ハァ…ハァ…」

 

「くそ!」

 

「覚えてやがれ!!!」

 

そう言って男達は逃げて行った。

 

「お姉さん、ありがと」

 

「ううん、それよりギターも歌もすごく上手いね!びっくりしちゃった!」

 

「お姉さんと一緒にデュエルして、本当に久しぶりに音楽って楽しいって思えたよ。あ、あたし志保。雨宮 志保(あまみや しほ)っていうの」

 

「志保ちゃん。私は渚!水瀬 渚だよ!」

 

「渚……ね。渚って呼ばせてもらうね。あたしの事も志保でいいから」

 

そう言って志保はすごくいい笑顔で笑った。

 

「うん、了解だよ!よろしくね!志保!!」

 

だから私も思いっきりの笑顔で応えた。

 

 

 

 

「へ~、この春にこっち出てきて一人暮らしなんだ?」

 

「そうなんだよ~。それまでずっと実家暮らしだったから、毎日大変で……。一人暮らしに憧れてたけど、やっぱり実家が一番だよ」

 

「あたしは親が留守がちだからさ。小さい頃から一人暮らしみたいなもんだったから」

 

「あ……そうなんだ」

 

「気にしなくていいよ。そんなつもりじゃなかったしさ。これでも幸せだったし、親の仕事に誇りも持ってたから。寂しいとかそんなのなかったよ」

 

「うん……」

 

志保……。

 

「でもさ、志保ってギターも歌もすごく上手いよね」

 

「父親の影響……かな?でも渚も歌すごかったじゃん!昔バンドやってたとかそんな感じ?」

 

「いやいや!私なんて全然だよ!バンドとかした事もないよ。地元のお祭りとかで歌った事ある程度だよ。あはは」

 

「正直さ。あたし歌にもギターにも割と自信あったんだけど渚の歌…。ほんと凄いと思ったよ。一緒に演奏しててすごく楽しかった」

 

「え?ほんと?あはは、なんか照れちゃうね」

 

「渚、ありがとうね」

 

「え?う…うん?私も志保の演奏に歌合わせられてすごく楽しかったよ?」

 

「ふふ、ありがと」

 

志保……。

今は…音楽は……。

 

「ねぇ…」

 

「何?」

 

「さっきさ、今は音楽は……。って言ってたよね?」

 

「うん」

 

「ギターも歌もそんなに上手いのにさ……。今は…音楽好きじゃないの?」

 

聞いてしまった。

何も事情も知らないのに……。

でも、志保の歌もギターも本当に凄い。

さっきのデュエルも本当に楽しかった。

だから……聞かずにいれなかった。

 

「……うん。今は…音楽は好きじゃない」

 

「理由とか…聞いてもいい感じかな?」

 

「は?初めて会ったあんたになんでそんな事言わなきゃいけないの?」

 

「あ、ごめ…ごめん……。ちょっと勿体ないって寂しいって思っちゃったから……。本当に…ごめんね」

 

やっぱり怒らせてしまった。

そうだよね。こんな事ずけずけと……

 

「ぷっ…」

 

???

 

「ぷぷっ…くくく……」

 

志保?

 

「あは…あはははは。ごめ…ごめん、渚……あははは」

 

え?え?

 

「ふー……ごめんね。ちょっとからかってやろうと思ってさ。あははははは」

 

「志保…?」

 

「うん、ごめん!ごめんなさい!別に人に話すような事じゃないけど、聞かれて隠すような事でもないしさ。渚の事、会ってちょっとしか経ってないけど大好きだよ。そういう事普通に聞いてくるとこにも、あたしは好感を持てる」

 

「もう……!ほんとにびっくりしたんだから!いきなりこんな事聞いて悪かったかな?とか、やっぱり怒らせちゃったかな?とか…」

 

「本当にごめん。だから、ちゃんと話すね」

 

「う…うん」

 

「さっき渚とデュエルした時、久しぶりに楽しかったって言ったじゃん?」

 

「うん」

 

そして志保は色んな事を話してくれた。

 

「昔は音楽大好きだったんだよ。だから歌も毎日歌ってたし、ギターも毎日練習した。それこそ友達と遊ぶ時間とか、みんなが観てるようなテレビを観る時間も惜しむ程に」

 

私は志保の言葉を真剣に聞いた。

 

「さっきさ。親が留守がちだって言ったでしょ?あたしの父親はすごいギタリストで、母親はすごいボーカリストだった。あたしはそんな両親に憧れて歌もギターも頑張ってたし、巡業とかで両親が家に帰ってこない日も多かったけど、誇りに思ってた」

 

「うん」

 

「特に父親は天使のギタリストって呼ばれるくらい凄かった。その曲を聞いた人はみんな笑顔になる。みんな幸せな顔になる。そんな噂が出るようなすごいギタリストだったんだ」

 

そっか。だから私も志保のギターを聞いて……。

 

「でもね。ある地方での巡業の時に母親が事故で死んじゃったの。私はもちろんすごく泣いた。大好きだったお母さんに…もう会えないんだって。もう歌を聞かせてもらう事も出来なくなったんだ。って」

 

そうだったんだ…

 

「だからね。私は思った。お父さんのギターに合わせて私が歌おうって。私がお母さんの代わりに歌おうって思った。大好きだったお母さんの歌を」

 

なのに…なんで…。

 

「でもダメだった。ううん、ダメだったのは……お母さんを失ったお父さんだった。お父さんはそれからしばらくの間、ギターを触る事すらしなかった」

 

お父さんが…。

 

「それでもね。私が歌っていれば、頑張ってたらお父さんはまたギターを弾いてくれる。そう思ってたんだ」

 

「……」

 

「そんなある日、お父さんがギターを持って出掛けたんだよ。どこに行ったのかは知らない。でも、お父さんがまたギターを弾くんだと思って嬉しかった」

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

『志保、ダメなお父さんで今まで悪かったな。お父さんはやっぱりギターだけだ。お母さんとはもう演奏は出来ないけど、お父さんまたギター弾くから応援してくれな』

 

『うん!あたしお父さんのギター大好きだから!ずっとずっと応援するよ!』

 

『ははは、ありがとう志保』

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

「そしてまたお父さんは巡業生活が多くなった。でも、お父さんがまたギターを弾いてる。みんなを笑顔にしてる。そう思ってあたしは幸せだった。お父さんの……バンドの曲を聞くまでは」

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

『お父さん……?』

 

『どうした?巡業ばかりで寂しかったか?』

 

『ううん、お父さんのバンド、ネット配信で観たけど…お母さんとやってた時と雰囲気が違うね』

 

『そりゃ、お母さんとは違うからな。事務所の作った曲を完璧に弾くのが、今のお父さんの仕事だからな』

 

『お仕事……なんだね』

 

『だけど今までとは違ってお給料はいいぞ!志保にもいっぱい贅沢させてやるからな!』

 

『いいよ、そんなの……。お父さん……今ギター弾いてて楽しい?今やってる音楽好き?』

 

『………楽しくないよ。お父さんな。今やってる音楽は大嫌いだ』

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

「……!」

 

「多分、お父さんが一番聞かれたくなかった事をあたしは聞いたんだと思う。それからもお父さんはそのバンドでギターを弾いてる。そしてそれから……その日から……お父さんの音楽はもっと酷くなった」

 

「志保」

 

「あたしはそれからお父さんのバンドを見る度、曲を聴く度に怖かったし悲しかった。たまに泣いたりもした」

 

「……」

 

「そしてお父さんは…。デュエルで対戦して負かしたバンドを……潰していくようになった。天使のギタリストって呼ばれてたのにさ。今では死神って呼ばれてるんだよ」

 

「そんな…」

 

「あたしは大好きだったお父さんをあんなにしたクリムゾングループを絶対に許せない。そして、そんな音楽をやってるお父さんを絶対に許せない…」

 

「クリムゾン!?」

 

「そ、お父さんはクリムゾングループのバンドやってるの。だからあたしはクリムゾングループを潰す為に。お父さんのバンドを倒す為だけに今は音楽を…ギターをやってる。だから……あたしは音楽が……嫌い」

 

「志保……」

 

そんなの……

そんなの絶対間違ってるよ…。

でも、私には何も言えないし出来なかった……。

 

「だからね、ごめん。さっきのデュエルギグ野盗もさ。お父さんに潰されたバンドグループの人なんだよ。巻き込んでごめんね。あたしって有名だからね~。あはは」

 

「そんなの…」

 

ダメだ…。私には…何も……。

 

「あ、もうこんな時間か。そろそろ帰らないと…」

 

「あ…、もうこんな時間なんだね」

 

「久しぶりに楽しい音楽もやれたし、こんな事話したのも実は初めてだし。

渚、今日は本当にありがとうね。でも、あたしと居たらまたデュエルギグ野盗に狙われるかもしれない。だから……もうお別れ」

 

「志保!?」

 

「バイバイ♪」

 

そう言って志保は走って去っていった。

引き止めなきゃもう会えない。

追いかけないともう会えない。

わかってるのに……

私は志保を追うことが出来なかった……。

 

 

 

 

志保と別れてからスーパーで買い物だけ済ませて帰ってきた。

 

それから何もやる気が起きず部屋でゴロゴロしている。

 

私は志保に何も言えなかった。

お母さんが亡くなって、

お父さんが好きな音楽を止めて、

そのお父さんがバンドで他のグループを潰していってて、

志保は潰されたバンドのメンバーに恨まれて、

クリムゾングループとお父さんを倒す為に音楽をやって………。

 

私は両親とも健在だ。

お父さんは普通のサラリーマンで

お母さんは専業主婦。

地元では友達にも恵まれてたし、

普通に青春して、普通に大学も卒業して、普通に就職して今に至る。

 

か……彼氏とか出来た事ないけど立派に青春してたもんね。うん!

 

そして普通にいつか恋もして結婚して

子供も生まれて、普通の生活を送る。

 

ずっとそう思ってた。

私は特別に何か素敵な事が起こる毎日を過ごしてたわけじゃないけど、普通の生活を送ってると思ってた。

でも私は……すごく恵まれてたんだ……。

 

「……お腹空いたな。今何時だろう?」

 

時計を見た後、私はそっと目を閉じた。

そして素早く目を開いて、素早く時計を見る!!

ザ・無意味!!

 

「なんで!?もう23時!!?志保と別れたの18時くらいとして……軽く買い物して帰ってきたとしても19時ちょっとくらいでしょ?もう4時間近くゴロゴロしてるの!?」

 

ハッ!?

いや、違う……。

これは時間を消し飛ばすスタンド能力に違いない……!!

キングクリムゾン……ディアボロが……近くにいる!!?

 

「クリムゾングループの事考えてただけにな!」

 

ってバカな事考えてないでお風呂入って寝よう。

この時間に食べちゃうと太っちゃうしね……。明日が日曜日で良かった……。

 

 

 

眠れない……。

私はベッドの上で眠れずに、また色んな事を考えていた。

そして私は……もう一度志保に会いたいと。会わなくちゃいけないと思った。

 

 

「キングクリムゾン!!我以外のすべての時間は消し飛ぶ!!」

 

 

ふぅ、もう朝になった。

 

ヤバい。全然寝てない…。

考えがうまくまとまらなかった。

いや、キングクリムゾンとか使えないしね……。

 

時間が経つのが早すぎる…。

でも……

 

「よし、今から志保を探す!タイムリミットは17時!それまでに見つけだす!!」

 

私は目の下の隈を消すために念入りにメイクをして家を出た。

 

 

 

 

「いない…」

 

もうすぐタイムリミットの17時になる。

このままじゃ……。

 

「同じニュータイプ同士ならひかれ合うはず……。まだ行ってない所……。いや、もう一度行ってみた方がいい所……。どっちに向かえば…」

 

もう時間がない……

 

「ララァ、私を導いてくれ……」

 

そんな事を考えていると、

志保が向こうの通りを歩いてるのを見つけた!

ありがとうララァ!!

 

「志保!!」

 

「渚…?」

 

「やっと見つけた!」

 

「ちょっと!昨日もうお別れって言ったじゃん!」

 

「うん!昨日バイバイしたから、今日はこんにちはだね!」

 

「そういう意味じゃなくて…!またデュエルに巻き込まれたりしたら!!」

 

「大丈夫。その時は志保のギターと私の歌で蹴散らせる」

 

「……!!?だ…だからって……」

 

「とにかく時間ないから行くよ!付いてきて!!」

 

「行くってどこに…!?」

 

「ヒャッハー!!」

 

「見つけたぜ!雨宮…!!」

 

「お前の親父にやられ……」

 

「うるっっっさい!!!!!」

 

「!!?」

 

「な……渚!?」

 

「今すっごく急いでんの。お願いだから今度にしてくれないかな?」

 

「ふ……ふざけんな!!」

 

「は?ふざけてんのはどっち?志保のお父さんに負けたからって志保に八つ当り?大体、志保関係ないじゃない。あんた達が仮に志保に勝てたとしても、それでどうなんの?何か変わるの?」

 

「いや…それは……」

 

「そこのモヒカン」

 

「お…俺っすか……?」

 

「他にモヒカンなんていないでしょう?急いでんの。早く答えて」

 

「えっと……スッキリ…すると思います…」

 

「思いますぅぅぅ!!?」

 

「ヒッ!?」

 

「スッキリしたかったらカラオケでも行っとけよ!次、そこの金髪オールバック」

 

「お…俺ですね。は、はい!」

 

「そもそも志保はあんた達の敵であるクリムゾングループを倒す為に音楽やってんの。それなのに潰しあってどうすんの?」

 

「あ、えっと…潰しあってちゃいけないと思います……」

 

「その通りだな。よし。では回れ右して帰れ!

次!お前……特徴ないしモブな。モブ。なら次にあんたらのする事は何?」

 

「え?俺モブですか……?」

 

「急いでるって言ってるでしょ?余計な事喋らないで!!」

 

「は、はい!急いでるようですので道をあける事です!」

 

ニコッ

 

「うん!正解!!」

 

「は、はい……!お気を付けて!」

 

「行くよ。志保!」

 

「え?え?え?あ……うん」

 

「そうだあんた達!」

 

「「「は、はい!」」」

 

「さっきも言ったけど、志保はクリムゾンを倒すの。戦うの。だからあんた達とは戦う理由なんてないの。つまらない音楽を志保にやらせないで……!」

 

「渚……」

 

「「「わかりました!」」」

 

「次もし志保に街中でデュエル申し込んできたら……。全力で叩き潰すよ……?

………あんた達のタマをね」

 

「「「は、はい!わかりました!もうしません!すみませんでした!!」」」

 

そう言って私は志保を引っ張って行った。

 

「ここまで来たらもう大丈夫かな」

 

「渚……あの……ありがとね」

 

「志保……」

 

そう言って志保の方を見る。

 

「え?渚……?あんた泣いてんの?」

 

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇ……、怖かったよ怖かったよ怖かったよ~~~」

 

「え?え?」

 

「逆ギレされたり殴られたりしたらどうしようかと思ったぁぁぁ」

 

「あ、怒らせたらヤバいタイプなんだと思ったけど違うんだ?」

 

「も、もちろん怒ってたよ!言った事のように思ってるのは本当!でもあんな啖呵切るとか初めてだし……。内心ドキドキしてたし……本当に怖かった……」

 

「ぷっ……あは、あははは。ほんっと、渚って最高ね!」

 

「笑わないでよ……。もう……」

 

「ごめんごめん。もう笑わないよ。ありがとう。本当に嬉しかった」

 

「あ……、そうだ時間!志保!急ぐよ!」

 

「ちょっと、渚!どこに行くの!?」

 

「エデンっていうライブハウス!今日はCure2tronのライブがあるの!!」

 

「Cure2tron………?」

 

 

 

 

 

 

Cure2tronのライブが終わって、

私達は公園で熱くなった身体を冷ましていた。

 

「どうだった?Cure2tronのライブは?楽しかったでしょ?」

 

「うん……最高だった。すごく可愛くて、すごくかっこよくて…。ステージもオーディエンスも1つになったような…そんなライブで……」

 

「うん!うん!でしょでしょ!」

 

「本当に……楽しいライブだった。これが音楽なんだな。って改めて思ったよ」

 

そして志保は綺麗な顔をくしゃくしゃにして……。

 

「……しんどいよ。渚」

 

そう言って志保は泣き出した。

 

「あたしも……音楽が好き……ギターが好き……歌が好き……!好きな音楽を……あたしが楽しいって思える音楽を思いっきりやりたい…!!」

 

「やろうよ。志保」

 

「でも…ダメなの…!!大好きだったお父さんに戻って来てほしいし、まだ他にもお父さんに恨みを持ってるバンドもたくさんいる…!あたしと居たらみんな狙われる……!」

 

「うん。だから、志保のやりたい音楽でお父さんを取り戻そう。志保の楽しいって思える演奏でデュエルギグ野盗を蹴散らしていこう。私と一緒に志保の大好きな音楽をやっていこうよ」

 

「なぎ…さ……」

 

「志保、私も一緒に戦うよ。私も一緒に楽しむよ。一緒にバンドやろうぜ!」

 

「渚……私なんかでいいの?渚の歌ほんと凄いよ?私なんかよりすっごくいいギターが他にもいっぱいいるよ?」

 

「私は志保としかバンドはやらない。志保のギターが好き。志保のギターでしか歌わない。歌いたくない」

 

そして志保を優しく抱き締めた。

 

「バンドやろうぜ!」

 

 

 

 

 

 

『ピピピピ……

ピピピピピ……』

 

もう……朝か……。

今日は月曜日か……仕事行かなきゃ……。

 

「渚!起きた?起こしても起こしても起きないし焦ったよ!」

 

「あ、志保おはよ~」

 

「おはよ。……って、あたし学校行かなきゃだからもう行くからね!朝御飯はテーブルに置いてるから、ちゃんと食べて行きなさいよ?

あ、弁当も一緒に置いてるからね!」

 

「行ってらっしゃ~い」

 

「もう…!行ってきます!!」

 

そう言って志保は家を出た。

もちろん朝チュンしたわけではない。

 

『バンドやろうぜ!』

 

『………うん!』

 

その後、私達は夜の公園で歌った。

志保のギターに私の歌を合わせて……。

 

そして……

 

『ねぇ、渚…』

 

『何?』

 

『渚に会えて良かった。あたしは…お父さんを必ず元のお父さんに戻してみせる。そして……、そんな音楽を強要してるクリムゾンを潰す。その気持ちは変わらない。

でも、これからは……。あたしの…あたしのやりたい好きな音楽で…』

 

『うん』

 

『それでさ……良かったら、あたし達一緒に暮らさない?』

 

『え!?』

 

『あたしも実質一人暮らしだし、渚も一人暮らしでしょ?毎日ご飯一人分作るのって面倒じゃない?』

 

『そ…そですね……』

 

ここ最近コンビニで済ませてますとか言えない…。

 

『あ、もちろん無理にとは言わないけど…』

 

『私は…志保がよければ大丈夫だよ。部屋もそれなりに広いとこ借りてるし』

 

『ほんとに!?なら早速今日から!』

 

『ふふ、いいよ。じゃあ私の…これからは私達の家に帰ろっか』

 

『うん!あ、でもその前に着替えだけ取りに帰るよ』

 

『今日はもう遅いし明日とかでもいいんじゃない?私の服くらい貸すよ?』

 

『うん、私服はそれでもいいけどさ。制服は取りに帰らなきゃじゃん?明日は学校もあるし』

 

『が…学校……?制服……?』

 

『うん、いくらなんでもちゃんと学校は行ってるよ?』

 

『志保……?いくつ?』

 

『言ってなかったっけ?17だよ。華のJKってやつ』

 

『え………えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』

 

そうして私は志保とバンドをやる事になり、華のJKと一緒に暮らす事になった。


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