バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第2章 目指すのは最高のバンド

「さぁ!今夜の放送もいよいよ大詰めです。次は『新人さんいらっしゃい!』のコーナー!今夜のゲストはcharm symphony(チャーム シンフォニー)のみなさんです。デビューしてからまだ半年というアイドルグループ…」

 

「あの、私達はアイドルグループではなくて……」

 

「きゃはっ!みなさーん!よろしくお願いしますね!」

 

そう言って私の発言は掻き消された。

 

「お、元気いいね!ドラムのLuna(ルナ)ちゃんだっけ?」

 

「はいぃ~!今日は番組に呼んで頂いてありがとうございますぅ~」

 

「こちらこそ来てくれてありがとう」

 

「一生懸命頑張りますんでぇ応援して下さいねぇ」

 

「もちろんだよ。それじゃ他のメンバーにも意気込みを聞いてみようかな。君はベースしながらボーカルやってるRina(リナ)ちゃんだよね」

 

「はい」

 

「意気込みを聞かせてくれるかな?」

 

「私達の音楽を一生懸命やるだけです」

 

「あはは、期待してるよ。じゃあ、早速いってみようか。charm symphonyで『私だけのナンバー』」

 

「え?」

 

曲目が違う…。今日演奏()るのは『spirare(スパイア)』の予定だったはず。

 

「ほらぁ行くよぉRina。

……………急に本番で曲が変わるとかよくある事でしょ?それともあんたには無理?(ボソッ」

 

くっ…それにしてもこんな直前で変更なんてあるわけないじゃない…!!

 

「ほら、多少は失敗した方が可愛いって」

 

「冗談じゃないわ!やるからには完璧にやりきってみせる」

 

そう…私ならやれる。

こんなのアクシデントでもなんでもないわ。

 

「じゃあ、今日も元気にきゃるんと行くよぉ~」

 

Lunaの掛け声と共に演奏が始まる。

 

♪~

 

 

 

 

 

 

よし!ここまでは完璧だわ。

このまま最後まで……

私がそう思った時だった。

 

『カラ~ン』

 

そんな音と共にドラムの演奏が止まった。

私が後ろを振り向くと…

 

「えへ、やっちゃった」

 

Lunaがドラムスティックを落としていた。

なんで…こんな何でもないとこで…くっ、演奏に集中しなくちゃ!

 

ドラムの音がないまま、私達は最後まで曲をやりきった。

 

「うぅ……ぐすっ」

 

わざとらしく泣いてみせているLuna。

 

「いやー、残念だったね。最後にドラムスティックを落としちゃうなんてね」

 

「えぇ~ん、私のせいで、大事な所で……」

 

「Luna、あんたは頑張ってたよ。緊張してたんだよね」

 

そう言ってギター兼リーダーのRana(ラナ)がLunaを慰める。わざとらしいポイント稼ぎ…。

 

「らなぁ、えぇ~ん」

 

「よしよし」

 

「けど、すごく上手な演奏だったよ。さて、今夜の放送もここまで!またお会いしましょう。さよならー」

 

とんだ茶番…もう誰も私達の演奏なんて覚えてるわけないじゃない…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でしたー」「しゃ~した~」「はーい、おつかれ~」

 

みんなそれぞれ挨拶を交わし私達は楽屋に戻った。

 

「Luna、あなたどういうつもり?」

 

「は?あんたこそどういうつもりなの?失敗した方が可愛いって言ったよね?何を完璧にやりきってんの?」

 

「言ったはずよ。やりきってみせるって」

 

「何のために直前に曲を変更させてあんたに言わなかったと思ってんの?おかげで私が失敗する羽目になったじゃん」

 

やっぱり…こいつ…!!

 

「Rina、Lunaやめな。止めるのも面倒くさいから。あたしは早く帰って寝たいの。明日はドラマの撮影があんの」

 

Ranaが私達の仲裁に入る。

 

「お疲れ様!私は帰るね!彼氏が待ってるし!」

 

そう言ってキーボードのRena(レナ)はさっさと着替えて帰ろうとした。

 

「待ちな。Rena!あんた絶対フライデーされんじゃないよ?」

 

「大丈夫ー。わざわざ彼氏と同じマンションに引っ越したんだし!どっちかの部屋にずっといるだろうから問題な~し!」

 

そう言ってRenaは帰って行った。

私も帰ろう。もう…全部が嫌になる…。

 

「待ちな、Rina」

 

「何?私も帰りたいのだけど?」

 

「あんたさ。本気でバンドやりたいんなら事務所辞めちゃえば?私は止めないよ」

 

「おい!Luna!お前何を言って…」

 

「Ranaもほんとはその方がいいって思ってんでしょ?Rinaに音楽の才能があったからバンドとしてスカウトされた。私達は名前がたまたま、愛菜(らな)理奈(りな)瑠奈(るな)玲奈(れな)だっただけで組まされただけ。私達は音楽がやりたくて事務所に入ったんじゃない。仕事だから仕方なくやってんの」

 

「だからってだな。今、Rinaが抜けたらcharm symphonyは…」

 

「私達はなんとでもなるでしょ。逆にメンバー変えるなら今のうちじゃないの?Rinaの変わりならいくらでもいるでしょ」

 

「そうね。私もそれがいいとは常々思ってたわ」

 

「おいRinaまで…」

 

「あんたは今の音楽業界を舐めすぎてんのよ。うちの事務所が求めてるのは売れる芸能グループ。音楽をやるバンドじゃない」

 

「私が…舐めてるですって?」

 

「私達のいるような小さい事務所じゃクリムゾングループにすぐに潰される。クリムゾンに歯向かうわけにはいかないのよ。Blue Tearの事務所もクリムゾンに潰されたじゃない」

 

「それは…」

 

「Ranaは女優になる夢がある。私はモデルになりたいって夢がある。その夢の為なら音楽でもバラエティでもグラビアでも何でもやる。でも、事務所を潰されるわけにはいかないのよ。私達は人気の出るグループでいなくちゃいけないの」

 

「あなたの言ってる事も…わかるわ。でも…」

 

「わかってない。音楽が上手いバンド。そうクリムゾンに目をつけられたら私達は終わる」

 

「…」

 

「音楽がやりたいんならそういう人達とバンドを組んで勝手に潰されて。私達の夢を巻き込まないで」

 

私は間違えてない。

音楽をやる以上は音楽をしっかりやり通して、オーディエンスも私達も楽しめるような。そんな最高の音楽を1曲1曲やらないと意味がない。

でもそれは私の夢だ。Luna達の夢じゃない。

私は…何も言い返せなかった。

 

「Luna落ち着け。Rinaもそんな風に言われたんじゃ何も言えないだろ」

 

「わかってるよ。そしてそんな私や事務所のやり方じゃRinaの夢の邪魔にもなってるって事もわかってる。だからRina、あんた事務所辞めな」

 

「そうね。Lunaの言う通りだわ。私は事務所を辞めてやりたいバンドをやるのが1番いいと思う」

 

「おい!Rina!」

 

「Ranaごめん。私もう帰るわ。大丈夫いきなり辞めたりはしないから」

 

「フン、明日にでも辞めてしまえばいいのに」

 

私はこれ以上何も言わず退室した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は帰宅する気にもなれず、コンビニで缶ビールを買って公園に来た。

 

私の名前は氷川 理奈(ひかわ りな)

charm symphonyというバンドでベースボーカルをやっている。

最高のバンドになる。そう夢見て……。

 

ベンチに腰を下ろし、缶ビールをあける。

 

「今日も1日お疲れ様でした。乾杯」

 

一人でそんな事を言ってビールを口にする。う~…苦い。

ビールは好きでも嫌いでもない。

どちらかというと日本酒の方が好きだ。

でも乾杯の時にはいつもビールと決めている。

まだ陽も沈みきってないのに、公園で一人缶ビールを呑む女。バカみたい。

 

いつも一人で考えたい時はこうだ。

家に帰ればお父さんもお母さんもいる。

今日の放送も観てただろう。

あんな無様な演奏をした後に会わす顔なんてない。

 

私のお父さんはバンドを趣味でやっていた。私もお父さんに教えてもらいながらベースを弾いていた。お父さんのベースを真似するのが好きだった。

 

お父さんがバンドを辞めるきっかけになったデュエルギグ。相手はメジャーデビューしてるわけじゃないのにすごいバンドだった。

負けたお父さん達も、バンドを辞めるいいきっかけになったと絶賛する程の。

ずっとベースが好きだった私がボーカルに憧れを抱く程のバンドだった。

 

私の憧れのバンドBREEZE。

 

BREEZEがドリーミン・ギグを直前に解散したと聞いた時はお父さんも私も泣いた。

 

私はお父さんの意志を継いでベースを弾き、私は私の憧れの為に歌を歌った。

 

私の歌は上手いと思う。実際私より下手なボーカルのバンドはたくさん居た。

でも私の歌は上手いだけだ。人気だけはある。

私にボーカルになってほしいと言ってきたバンドも多かった。でも、誰かに響くような、感動させるような、ドキドキするような歌声はしていない。

 

実際に私の歌ではRanaもLunaもRenaも魅了する事は出来なかった。

あの子達に私とバンドをやりたいと思わせる魅力は私の歌声には無かった。

 

「一人で呑んでると冷静に物事は考えられるけど…ネガティブになっちゃうわね」

 

そんな事を考えてたら涙が出てきた。

 

何よこれ。カッコ悪い。私…なんで…泣いてるの…流れるな涙…!!

 

バンドを辞めたい。

事務所を辞めたい。

そう言ったのはデビューしてから1ヶ月程経った時だった。

 

『私がやりたいのは本気の音楽です!人気の為とかそういうのじゃありません!』

 

『君の言ってる事もわかるけどね。事務所の方針としては、人気のあるグループでいてもらわなくちゃ困るんだよ』

 

『そんな…!』

 

『君もずっと一人で路上ライブしてたろ?それを拾ってあげたのはうちだ。それは君が可愛いし歌も上手い。大衆の人気を得れると思ったからだ。君もたくさんの人の前で歌って、たくさんの人に歌を聞いてもらいたいんだろう?何か問題があるのかい?』

 

『やりたい好きな音楽を。みんなが聞いて最高と思う音楽をやりたいから歌ってるんです!』

 

『だったらうちを辞めて他の事務所に移ればいい。最高の音楽がやりたいならクリムゾンにでも行けばいいじゃないか』

 

『クリムゾンには自由な音楽なんて…!』

 

『プロになるという事はねビジネスなんだよ!1人の心に響く音楽より、2人が買ってくれる音楽!

1,000人の心に響いて1枚しか売れない音楽より、1人の心にしか響かなくても1,000枚売れる音楽が必要なんだよ!』

 

それを聞いた時、全てが真っ黒になった感じがした。

 

『ふぅ、うちの方針が合わないなら辞めてくれて構わない。ただし、charm symphonyの名前も、spirare、明日の光、vampire mode(バンパイア モード)の3曲も、もううちの名前と曲だ。名乗る事も、今後歌う事も出来ないよ。その覚悟があるのならいつでも辞めたまえ』

 

『!?』

 

charm symphonyってバンド名も私が考えた、spirareも明日の光もvampire modeも私が作った曲だ。それを全て奪われるのいうの!?

 

『バンド名は…未練はありません。ですが曲は作詞も作曲も私じゃないですか!それにいつも公共の場で歌うのはこの3曲じゃない、別の曲じゃないですか!あなた方には必要ないでしょう!?』

 

そうだ。テレビ番組でも、ラジオでも、イベントでも歌うのはいつも別の曲。

だったら私に返してくれても…!

 

『CDにもどこにも作詞も作曲も君の名前は使っていない。charm symphonyとして表記している。つまり権利はcharm symphonyにある。いつも他の曲にするのはまだ君以外のメンバーの腕がそこまで達していないのもあるし、あの3曲はロックだからね。ロックは選り好みも多い。他の曲の方が大衆受けはいいんだよ』

 

『だったら…!』

 

『でも曲のダウンロード数が多いのはあの3曲だ。我々はあれを手放すわけにはいかない。あの3曲が大事ならこの事務所で頑張ればいいじゃないか。いつかはあの3曲も大衆の前で歌える日もくるだろう』

 

『そんな…』

 

『もういいかな?僕も忙しいんだ。音楽はね。ビジネスだよビジネス』

 

そう言って笑ったあの男の顔を、私は2度と見たくないと思った。

なのに私はまだcharm symphonyとしてあの事務所で厄介になっている。

 

『あんたさ。本気でバンドやりたいんなら事務所辞めちゃえば?私は止めないよ』

 

Lunaの言う通りだ。

私はあの事務所にいたら、やりたい音楽なんてやれない。

 

でも辞めてどうなるの?

辞めてどうするの?

また一人路上ライブをする?

どこかのオーディションを受ける?

 

「あ…ビールなくなっちゃったわね」

 

もう1本追加で買いに行こうかしら。

次は日本酒にしようかしら?

夕暮れ時の公園でワンカップ片手に悩む女。シュールだわ。

 

そう思いながらコンビニに向かっている時だった。

 

〈〈ドン〉〉

 

人とぶつかってしまった。

酔ってるわけでもないのに…。

 

「あ、ごめんなさい」

 

「…」

 

「私は大丈夫です。少し考え事しながら歩いていたものですから」

 

「絶望は歩みを止める理由にはならない」

 

「え?」

 

「…」

 

「ライブを見て行けって?どうしようかしら」

 

「…」

 

そう言ってその少年…いや、女の子かしら?

私に今日のライブの参加バンドのフライヤーを渡してきた。

 

Cure2tron…?

へぇ、ガールズバンドなのね。

みんな可愛い…。

 

「私も一応バンドをやってるし、他のガールズバンドを観るってのもいいかもしれないわね」

 

「…」

 

「え?ガールズバンドじゃない?男の娘?」

 

男の娘?男?娘?どういう意味かしら?

 

「とにかく可愛くてかっこいいバンドだから見てみてって?そうね、せっかくだから寄らせてもらうわ」

 

その…男の娘?ってのも気になるしね。

 

そして私はCure2tronのライブを観る事にした。

 

 

 

「魅せるよ!キュアキュアトロン!」

 

 

 

すごい…!可愛いだけじゃない。

演奏の技術も、パフォーマンスもすごくかっこいい。

Cure2tronのメンバーも、オーディエンスの私達も元気になる。笑顔になる。

今、ここに居る事が幸せと思える。

演者もオーディエンスも1つになったようなライブ。

私のやりたい音楽は、目指す音楽は……。

 

 

 

 

 

ライブが終わって私は公園に居た。

そして泣いていた。

 

 

『仕事だから仕方なくやってんの』

 

『音楽はね。ビジネスだよビジネス』

 

悔しい。

 

情けない。

 

苦しい。

 

『魅せるよ!キュアキュアトロン』

 

羨ましい。

 

かっこいい。

 

あんな音楽がやりたい。

 

私は…私は…!!

 

『絶望は歩みを止める理由にはならない』

 

歩みを止めてなんかいられない。

私が目指すのは、最高のバンド。

もう…迷わない。

 

私がそう思った時だった。

女の子の話声が聞こえてきた。

 

「私は志保としかバンドはやらない。志保のギターが好き。志保のギターでしか歌わない。歌いたくない。

……………バンドやろうぜ!」

 

「………うん!」

 

あんまりよくないと思いつつ私は彼女達を見ていた。

 

そして女の子はギターを取り出し、2人は演奏を始めた。

あの女の子どこからギターを出したのかしら?

 

すごい。楽しそうに歌ってる。

それだけじゃない。

ボーカルの女の子の歌声はすごく胸に入ってくる。作詞した人の想いがこの女の子の歌声に乗って響いてくるような…。

そしてギターの女の子。かなり高い技術を持っている。ただ弾いているだけじゃない。

この2人の中に私のベースが加われば…。

 

想像しただけでゾクゾクした。

私の求めてた最高のバンドを、最高の音楽をやれるかもしれない。

 

私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

「Rana、Luna、Rena。悪いわね。急に集まってもらって」

 

「あたしは撮影も終わったしな。大丈夫だ」

 

「うー、まだ彼氏とイチャイチャしてたかったのにー」

 

「別に。それより何?事務所辞めるって決めたの?」

 

「ええ、そうよ。話が早くて助かるわ」

 

「ちょ!Rina!本気か!?」

 

「ごめんなさい。もう決めたから」

 

「それだけだったら帰っていい?せっかくのオフだし彼氏とイチャイチャしてたいんだけど?」

 

「ええ、別に構わないわ。筋を通してちゃんとメンバーには直接言っておきたかっただけだから。Rena、世話になったわね」

 

「別にいいよ。私こそお世話になりましたー。事務所辞めても元気でね。じゃあ私帰るね!」

 

そう言ってRenaは帰って行った。

そもそもあの子は芸能界に入りたいわけじゃなくて、うちの事務所に事務員として入ってきたのだものね。

 

「…」

 

「あら?どうしたのLuna。あなたは一番喜ぶと思ったのに。引き止めたいのかしら?」

 

「冗談じゃないわよ。いきなりだったからびっくりしただけ。これで私は私の夢を追いかけられる。まぁ、ストレス発散の為の喧嘩相手がいなくなるのは寂しいけどね」

 

「そっか、Rina本気なんだな」

 

「ええ、申し訳ないとは思ってるわ」

 

「いや、正直あたしらは互いの夢の足の引っ張り合いをしてただけだからな。これで良かったのかもってホッとしてる」

 

「そう言ってもらえて助かるわ」

 

「事務所辞めてどうするんだ?他の事務所に移るのか?音楽は続けるつもりなんだろ?」

 

「ええ、音楽はこれからも続けるわ。私の夢だもの。事務所はまだ決まってないし、これからどうするのかも決まっていない。でも、前に進み続けるわ」

 

「そっか、ははは、頑張れよ。応援してる」

 

「ありがとう。世話になったわね。あなたのドラマが始まったら観てみるわ」

 

「あたしも世話になった。ありがとうな」

 

「じゃあ、事務所に行って社長と話してくるから失礼するわね」

 

「私には挨拶なしかよ」

 

「あら?あなたにはお世話になってないもの」

 

「~~!チッ、ほんと嫌なやつ」

 

「それはお互い様じゃないかしら?」

 

「フン!」

 

「……Luna。楽しかったわ。あなたのドラムは本当に上手いと思っていた。だからわざと失敗する度に失望していたのだけれど。あなたの夢が叶う事を祈っているわ」

 

「……私もあんたの歌とベースは凄いと思ってた。クリムゾンに潰されたら笑ってやるから」

 

「私は潰されない。私の前に立ち塞がるようだったら逆に潰してやるわよ。クリムゾンなんて」

 

そして私は事務所へ向かった。

 

 

------------------------------------------

 

「あー、精々した。でも事務所の事だからcharm symphonyは私達だけで続けるんだろうな。待てよ、私がボーカルやればもっと人気出るんじゃないか?私の!」

 

そしてRanaが後ろから抱き付いてきた。

何だよ暑苦しい。

 

「Luna。寂しいんだろ?泣いてもいいんだぞ?」

 

「はぁ?バカじゃないの?カメラが入ってたら、『辞めちゃやだよぅ』とか泣いてやるけど?」

 

「お前…ほんとはRinaの歌大好きだったもんな。Rinaが路上ライブしてた頃からのファンで、社長にRinaの事話したのお前なんだってな?」

 

「は!?はぁ!?そんな訳ないじゃない!もっとリアリティーある話題出してきなさいよね!」

 

「うちのグループには当時の情報通の事務員がいるんだけど?」

 

「チッあのおしゃべりバカが…」

 

「Rinaが自分の音楽をやれないから。

この事務所にRinaを紹介してしまったのが自分だったから、事務所辞めるように言ってたのか?このツンデレさんめっ!」

 

「キモい。ウザい。女優の顔でも殴るよ?」

 

「ははは、でもRinaもあんたのその気持ちわかってくれてるさ」

 

「はぁ!?あのバカRinaにまでそんな話したの!?いつ!?」

 

「いや、その事をあたしが知ったのもさっきだよ」

 

「さっき?」

 

「ああ、RenaからグループLINEできたから」

 

「は!!?」

 

私は急いでLINEを開いた。

 

『Rina!さっきはごめんね(;>_<;)

ダーリンパワーが不足してると早く帰りたい病になっちゃうからヽ(д`ヽ彡ノ´д)ノ

でもほんと残念だよー。特にLunaなんか泣いてたりして(*/ω\*)

LunaはRinaが路上ライブやってた頃からのファンで、モデルの仕事が上手くいかない時とかよく聞きに行ってたらしいよ(σ*´∀`)

うちの事務所にRinaの事紹介したのもLunaだしね\(^o^)/

でもうちじゃRinaのやりたい音楽やれないもんね(´・c_・`)

Lunaもその事ずっと気にして、ドラムも人一倍練習してたし、たまに社長にも文句言ってたみたいだよ(*ゝω・*)

私もこれからのRinaを応援してるから頑張ってね(*゚▽゚)ノ』

 

あ……あのクソバカ能天気彼氏脳女…!

顔文字も絵文字も多いし読みにくいし!

 

「ドラムも人一倍練習してたんだってな?良かったな、最後にRinaにドラム上手かったって褒めてもらえて。あははは」

 

ぐぐぐ……殴りたい。

 

ライ~ン

『そうだったのね。Lunaありがとう。

ライブがやれるようになったら必ず連絡するわ。よかったら聴きに来て』

 

ぎゃあああああああ…!!!!

 

------------------------------------------

 

私は事務所への道中で足を止めてLINEを見ていた。

 

あのバカ…最後の最後に。

ありがとうLuna。

……私はもう迷わない。

 

そして事務所に着いた。

 

 

 

 

 

「事務所を辞める?」

 

「はい。charm symphonyの名前も曲も事務所に提供します。ですので辞めさせて下さい」

 

「え?ほんとに?ならいいよ?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「で?うちを辞めた後はどうするの?音楽は続けるの?」

 

「はい、事務所なども決まってませんが、音楽は続けていくつもりです」

 

「そうか。音楽はビジネス。その事を覆すつもりはないが、君のやりたい音楽をやれるよう祈っているよ」

 

「ありがとうございます。では、失礼します」

 

そして私は事務局に行き契約解除の手続きを済ませた。そこには今後の私の芸能活動を邪魔したり口出ししたりしない旨と、私がcharm symphonyの楽曲を歌わない事の誓約が書かれていた。

正直、これからの事を邪魔されるとか、そういう事も考えていたから拍子抜けだ。

 

そして私はcharm symphonyのRinaではなくなった。

 

次は…私のバンドを探す。

昨日の子達と組めたら最高なのだけれど…。

たまたま出逢う事なんてないだろう。

なら、私は自分でメンバーを探すしかない。

 

そんな時だった。

 

「どいてよ、あんた達」

 

女の子が全身タイツの変な人に囲まれているのが見えた。

警察でも呼んだ方がいいかしら?

それよりもあの人達ここまでこの格好で歩いて来たのかしら?

 

「ホ~ホッホッホ。やっと見つけましたよ、雨宮さん」

 

「あなたのお父上にやられた恨み。ここで晴らさせてもらいます」

 

「では、デュエルを始めましょうか!」

 

デュエル?こんな所で?

 

「はじめてですよ。わたし達をここまでコケにしたおバカさんは」

 

「はぁ…渚に怒られるからもうこんなデュエルなんかしたくないんだけど」

 

そう言って女の子がギターを出した。

どこからギターを出したのかしら?

なんだか昨日のデジャビュみたいね。

あ…あの女の子は昨日の子だわ。

なんてご都合主義なのかしら?

 

「蹴散らしてあげる。あたしの楽しい音楽で!」

 

そしてデュエルが始まった。

あの女の子のギター。本当にすごい。

でも……。

 

「さすがですねぇ、雨宮さん」

 

「ですが、わたし達4人を相手にするにはいささか戦闘力が足りませんでしたね」

 

「くっ……」

 

「フッフッフ、私の所持金は53円です」

 

なんで所持金の話なんかしたのかしら?

それよりいい歳した大人が53円しか持ってないって恥ずかしくないのかしら?

 

そんな事を考えている間に女の子が押され気味になっていた。

 

「こいつら…強い…!今までのデュエルギグ野盗とは違う…!」

 

「ホ~ホッホッホ!フルパワーです!」

 

「ハァァァァァァァ!!!」

 

デュ…デュエルギグ野盗?

正直着いていけないわ…。

でもこのままじゃあの女の子…。

 

私は持っていたケースからベースを取り出して女の子に加勢した。

 

「え?誰?」

 

「私は氷川 理奈。加勢するわ」

 

「ありがとう。私は雨宮 志保。頼むわね」

 

「ええ、蹴散らしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

私が加わった事により、デュエルはあっという間に勝負はついた。

 

「ありがとう。助かりました。歌もベースもお上手ですね」

 

「いえ、それよりあなたもギターだけじゃなく歌も上手いのね。雨宮さん昨日Cure2tronのライブの後、公園で演奏してなかったかしら?」

 

「え!?」

 

そして私は昨日の事、自分の事、これからの事を話した。

 

「それでどうかしら。是非あなた達のバンドに私をベースとして入れてほしいのだけれど」

 

雨宮さんは一頻り悩んだ後、お父さんの事、クリムゾングループの事、デュエルギグ野盗の事を話してくれた。

 

「あたしとしてはさっきの氷川さんのベースを聞いて問題ないと思いますし、是非一緒にやりたいと思います。渚も多分…ってか絶対一緒にやろうって言うと思いますし」

 

そして続けてこう言った

 

「ですが、あたしの話を聞いてどう思いましたか?それでも一緒にバンドをやりたいと思いますか?これからもデュエルギグ野盗にも襲われるかもしれない。まともにバンド活動なんか出来ないかもしれません」

 

だから私は

 

「関係ないわね。私達の前に立ち塞がるなら野盗もクリムゾンも蹴散らして行けばいい。私が目指すのは最高のバンドよ。クリムゾンもいつかは倒す相手であるのに変わりはないわ」

 

そう。私が目指すのは最高のバンド。

立ち塞がる敵は全て倒すまでよ。

 

「渚といい氷川さんといい、ほんとに…。

一応渚にも聞いてみないとだし、返事は保留って形になるけどいいかな?あの子今仕事行ってるから帰りは夜になると思うけど」

 

「ええ、構わないわ。雨宮さん、よろしくお願いするわね」

 

「あ、あたしの事は志保でいいよ。あたしも理奈って呼ばせてもらう」

 

「クス、ええ、よろしくね、志保」

 

そして連絡先を交換して私達は別れた。

その夜、志保から『やっぱり渚もOKだって。今度ご飯でもしながらゆっくりお話しようってさw』って連絡が来た。

 

このwってなんなのかしら?

 

私は最高と思うバンドに入る事が出来た。

私は、私達は最高のバンドになってみせる。


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