バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第3章 歌姫と戦乙女

「渚!ほら!起きなって!渚!!」

 

志保の声で私の朝が始まる。

 

「う~…ん、おはよ、志保」

 

「はいはい、おはよ。朝ごはん出来てるからちゃんと食べて行きなさいよ?」

 

「うん!志保のご飯は美味しいからね!ちゃんと残さず食べるよ!」

 

「はいはい、ありがと!じゃあ、あたし学校行ってくるから!」

 

「行ってらっしゃ~い」

 

志保と暮らし始めてまだ1週間も経っていない。でも、もう昔からずっと一緒だったかのように馴染んでいる。

 

先週の土曜日に初めて志保と会って、

その翌日に志保とバンドを組む事にして一緒に暮らし始めた。

 

そしてその翌日には私達のバンドに入ってくれるって人と志保が出会って…。

グループLINEでは何度も話しているけど、まだ会った事はない。今日、私の仕事が終わったら私の家でお泊まり会なのだ。

 

私の職場は家からそう遠くない。

多少残業になってもそんなに遅くならないはずだ。

 

「おはようございますー」

 

「おう、水瀬か。おはようございますー」

 

「やっと金曜日ですね!明日はお休みですし、今夜は楽しみもあるのでお仕事頑張れます!」

 

「あ、そ。良かったね。じゃあ、しっかり頑張ってくれたまえ」

 

「お断りします」

 

「え?何で?さっき頑張る言うたやん」

 

「さ、お仕事の準備しなきゃ」

 

朝から先輩の事からかうと楽しいな。

頑張ったら褒めてくれるかな…?

 

 

 

 

「お昼だー!」

 

「ああ、お昼だな。俺はラーメンを食べなければならない。達者でな水瀬」

 

「あ、先輩。ちょっと聞きたい事とかあるので後で時間くれません?もぐもぐ」

 

「話聞いてた?俺はラーメン食べなきゃいけないんだけど?」

 

「今日くらいラーメン食べなくても死にませんよ?」

 

「いや、わかんねぇだろ?」

 

「いやいや、わかりますよ。もぐもぐ」

 

「はぁ…で?仕事の話か?」

 

「もぐもぐ」

 

「ねぇ?話聞いてる?」

 

「聞いてますよ?前にご飯を美味しそうに食べる女の子が好きって言ってたから美味しそうに食べてました。もぐもぐ。仕事の話なら仕事中に聞きます。もぐもぐ」

 

「よくそんなの覚えてるな?何?俺に好きになって欲しいの?」

 

「もぐもぐ。食欲が失くなるような事言わないで下さい。もぐもぐ」

 

「って、水瀬もう弁当なくなりそうじゃん。早くね?」

 

「もぐり」

 

「はぁ…わかったよ。で、何?」

 

「んぐ!?」

 

「ふぁ!?何!?どうしたの!?」

 

そう言って先輩は水を渡してくれた。

あ、先輩の水だ。って思ったけど未開封だった。

 

「美味し過ぎでやばかったです。心配おかけしました」

 

「俺。お昼。食べてない。お腹。空いた」

 

わかってるよ!

 

「あれ?ラーメン食べに行かないんですか?」

 

「いやいや、今からラーメン食べて一服してたら水瀬の話聞く時間なくなるからね?」

 

「いえ!それはさすがに悪いので何か食べて来て下さいよ!」

 

「大丈夫。渚と一緒に居る時間の方が俺には大切だから」

 

……!?

こ、こんな事言うから先輩は!先輩は!!いつか刺されたらいいのに……

 

「これセクハラで訴えれますかね?やだ、先輩が捕まったら仕事が忙しくなっちゃう!」

 

「うん、まぁ…とりあえず話してみ」

 

「何か食べて来て下さい」

 

「こんな問答が時間の無駄だから話せよ」

 

…この先輩はほんとこんなとこズルいよね

 

「あ、あのですね…」

 

「うん」

 

「た、たまご焼き食べる!?」

 

「は?」

 

「あ、いらない…よね?」

 

あ、思わずタメ口になっちゃった。

ただバンドの事聞きたいだけなのに何緊張してるの私!?

 

「はぁ…じゃあいただくか。華のJKの手料理なんて食える機会ないからな」

 

え?いただくの!?ちょ…ちょっと待って!

 

「は、はい!じゃあたまご焼き…!」

 

そう言って私はたまご焼きを箸で摘まんで先輩に差し出した。

ごめんね志保。本当は全部私が食べたかったんだよ…!?

 

「あの……何やってんの?」

 

「は?先輩がたまご焼きいただくって言うからやん!ほら!はよ!あ~ん!」

 

「……あの、勘違いしちゃうんであ~んとか止めてくれませんかね?」

 

「飲み会ん時はたまにしてるやん!はよ!」

 

「あぁ…今は飲み会じゃないですけどね?」

 

そんな先輩の口に無理矢理たまご焼きを突っ込んだ。ふぅ、ミッションコンプリート…!

 

「美味しいやろ?」

 

「ああ、うん、大変美味しいですね。嫁に欲しいレベル」

 

「し、志保は私のハニーです!貴…先輩には渡しません!」

 

「ああ、はいはい百合百合。てか、今俺の名前呼ぼうとした?水瀬って俺の名前知ってたの?」

 

「何言ってんですか?セクハラですか?明日、社長に相談します」

 

「えぇ~…明日は土曜日だけど休日出勤するんだ?頑張ってね」

 

「……命拾いしましたね」

 

ヤバ…ヤバい…私何やってんの!?

これじゃ先輩の事好きみたいじゃん!?

先輩にバンドの事…BREEZEの時の事聞きたかっただけなのに…。

 

BREEZEの時の事…。

そか…先輩にBREEZEの時の事聞くの…何だか申し訳ないから…。聞きたいけど、こんな事やって先輩が照れて逃げてくれたらいいとか思ってたんだ…。

 

志保に一緒に闘うとか言っておきながら……

 

「先輩」

 

「心配すんな。勘違いとかしてねぇよ。こんなんで勘違いとかしてたら今頃結婚出来てるわ」

 

「は?妄想の中でですか?」

 

「で、BREEZEの時の事か?何聞きたいんだ?」

 

先輩…。ほんと…だから彼女出来ないんじゃないですかね?顔もあれだけど。

 

「えっとー。私、バンドやるって話しましたよね?今、ボーカル、ギター、ベースは揃いました。他にどんなメンバーがいたらいいのかな?ってのと、インディーズってんですかね?私達はこれからどうしたらいいのかな?って…」

 

「それが聞きたい事か?」

 

「今日、メンバーで集まるんですけど煮詰まってて…あはは」

 

「まぁ、その質問なら他のメンバーなんかいらないまである。なんならその3人でもいい」

 

「え?」

 

「水瀬のバンドがどういう音楽をやりたいかによるからな。例えば…そうだな。俺らBREEZEみたいなんが良かったら、ボーカル、ギター、ベース、ドラムでやってたけど、コーラス入れたいとかなら追加でボーカルもいるだろ?もっと激しい音楽とかなったらギターもダブルのがいいし、他のパートが集まらないならヘルプとか他のバンドに頼むとかって手もあるし」

 

なるほど…確かにそれはそうかも…

 

「曲調によってはどこかのパートは、いらないとか増やしたいとかもあるし、そこは水瀬ら次第じゃねぇかな?」

 

そうか…私の…私達のやりたい音楽か…

 

「で、次どうするかもそれぞれに寄るんだよな。俺らはぶっちゃけるとメジャーになるつもりは無かった。武道館でライブやりたいとはいつも言ってたけどな。メジャーデビューするつもりなら曲を作りまくって事務所なりに応募するとか、インディーズ系のCD置いてくれる店に無料配布でもCDなりDVDなり置いてもらって認知度上げるとか。俺らみたいにライブがしたいってだけならコピーでもオリジナルでもいいから空いてるライブハウスに予約入れたりイベント参加の申し込みしてライブやりまくる。とかかな」

 

ほうほう。なるほど。

ってBREEZEってメジャーデビューするつもりなかったんだ…。

 

「んー、つまりは私達次第って事ですかね。やりたい曲とかやりたい事に向けてどうするかは…決まった型はないと言うか…」

 

「だから音楽って楽しいんじゃねぇの?」

 

そっか。そうだよね。

私達のやりたい事は決まってるけど、私達がやりたい曲は違うかもしれない。

そこは今夜3人で話し合うか…。

 

「ありがとうございます。ちょっと先輩の話思い出しながら話し合ってみます」

 

「ん、それがいいやな」

 

そうして昼休みが終わった。

先輩は結局昼ごはん食べず終いだ。

すみません、先輩。ちゃんと今度お礼もしますので。

 

 

 

「そして仕事は終わった!」

 

「おう、お疲れ。今夜は楽しんでな」

 

「あれ?先輩、いつも金曜日は仕事終わるとさっさと帰るのに今日は残業ですか?」

 

「いや、もう終わってる。明日、女の子と遊びに行く約束してるからな。楽しみは楽しみなんだけど、ちゃんと楽しんでもらえるかどうかで緊張してるだけ……俺ももう帰るよ」

 

は?女の子と遊びに行く?

あ、妄想か。いつもお疲れ様です先輩。

 

「先輩、妄想も大概にしとかないとその…捕まりますよ?」

 

「安心しろ。ちゃんとリアルの話だ。しかも見た目は超可愛い。見た目は!」

 

「え?それって…デート?ガチの?」

 

「まぁ、そういう事になるんですかね。じゃあな。お疲れ様」

 

「は~い!お疲れ様です!明日は楽しんで来て下さいね!」

 

「まぁそれなりにな」

 

先輩がデートかぁ。

早く結婚してくれるような人と出会えたらいいのにね。

 

そんな事を考えてたら家の前だった。

え!?なんで!?先輩の事考えてたら家の前とか…!

あれだ。今日は玄関を開けたら志保だけじゃない。理奈もいるんだ。

だから緊張と楽しみとうれしみで私のキングクリムゾンが暴走しただけだ。うん。

 

「た、ただいま~」

 

私は玄関を開けてそう言った。

そしたら奥から志保とすごく可愛い女の子が出迎えてくれた。何?ここは天国?

 

「おかえり渚、今日もご苦労様」

 

「え…と、はじめまして。って言えばいいのかしらね?LINEでは何度もお話してるから不思議な感じだけど。お邪魔しています」

 

「志保、ただいま。えっと、何だか不思議な感じだよね!じゃあ私もはじめまして、理奈」

 

そして私達の顔合わせ会という名の話し合いが始まった。私と理奈は缶ビール。志保はジュースだ。未成年の飲酒ダメ絶対。

 

「「「乾杯」」」

 

くー!やっぱ仕事終わりのビールは最高だね!

そしてテーブルには志保が頑張って作ってくれたご馳走が所狭しと並んでいる。

 

「でもいいのかしらね。大事なバンドの話をするのにお酒を飲みながらだなんて」

 

「うん、大丈夫。私の会社の先輩もいつも言ってるよ。『大事な話をする時だからこそ酒を飲むんだ。飲んだ時の方が冷静に色々考えたりみんな腹の中を割って話せるようになる。俺なんか仕事中でも飲んでいたいまであるな』って!」

 

「素敵な先輩ね」

 

「え?それ素敵なの?」

 

「まぁ、仕事中でも…ってのはどうかと思うのだけれど、私もゆっくり考えたいとかって時にはよく一人で飲むもの」

 

「お、理奈はいける口なんだね!美味しい料理もあるしじゃんじゃん飲んで話し合ってこー!」

 

「そうね」

 

「あ、それでね、その先輩ってのが昔バンドやってたんだけど…」

 

そして私は今日、先輩に聞いた話を志保と理奈に話した。

 

「なるほどね、あたし達のやりたい音楽か」

 

「私は最高のバンドになりたい。とは、言っても、何をもって最高というのか。ってのもあるものね」

 

「私達の共通点。そこは最高のバンドって一緒だけど、見据える先は違うかもしれないしさ。そこも話しとこうと思って」

 

「あたしはお父さんとクリムゾンを倒す!って事しか目標にしてなかったからなぁ…今はとりあえずみんなでライブがしたい」

 

「私は…そうね。私の最高と思えるライブをやる。メジャーデビューはしていたけど事務所の方針でやりたい音楽をやれなかったわけだし、今となってはメジャーだから何?とも思ってる所もあるわね」

 

「私はキュアトロみたいなライブがやりたい。ってところかなぁ?」

 

「じゃあ、あたし達は3人共ライブがやりたい。ってのが今の目標だね。で、音楽性か」

 

「私もキュアトロが好きだし、志保も理奈もキュアトロのライブで…ってのはあるけど、自分達の音楽に合ってるかってのもあるしね」

 

「あたしは作曲する時とかはロックが多いかな。激しい感じのやつ」

 

なるほど。志保は激しいロック系かぁ~。

 

「私はOSIRISっぽいのが多いかしらね。影響を受けてるのもあるかもしれないけど」

 

理奈はOSIRISっぽい曲かー。

うんうん!いいねいいね!

 

「私は歌いやすいのはやっぱりキュアトロかなぁ。激しいロック系もいけるけど」

 

「まぁ、方向性はロックかしらね。志保も作曲出来るなら助かるわ」

 

「そこは他のメンバーが集まってからも色々考えたい所だね」

 

「って事はやっぱ後はドラムとキーボードは欲しい所かな?」

 

「あたしが教えてもいいし、渚もギター少しやってみたら?」

 

こうやって私達の話は順調に進んで行き、ある程度の私達の型は見えてきた。

 

「とりあえず!まずはキーボードとドラム!そしてメンバー集まり次第ライブだね!」

 

「私と志保でいつでもライブ出来るように曲も作っておくわ」

 

「うん、それよりさ。2人共まだ飲むの?」

 

「もちろんだよ!」

 

「私はあまりビールは得意ではないのでそろそろ…」

 

「そうなんだ?秘蔵の日本酒もあるよ?」

 

「日本酒!?秘蔵!?」

 

理奈の目が光った気がした。

 

「あ、あの良かったらその日本酒いただけるかしら?」

 

「うん、いいよ。うちの地元の地酒なんだけどね。すごく美味しいんだぁ~」

 

そして私は地元の地酒『戦乙女』を取り出した。

 

「いくさおとめ…確かに聞いた事のない日本酒ね」

 

「うちの地元には売ってるけどこの辺じゃ見ないね~」

 

そう言って理奈のコップに波々と注ぐ

 

「さあ!おあがりよ!」

 

「いただきます………ん、美味しい!」

 

「でしょでしょ?」

 

「すごく飲みやすいし気に入ったわ」

 

そう言って一気に飲み干す理奈。

そしておかわりを注ぐ。

地元のお酒が誉められるのって嬉しいなぁ~。

 

「そんなに美味しいんだ?あたしにも頂戴よ」

 

「うん……って言うと思った?まだ志保はダメだよ。20歳になってからね」

 

「そうね。お酒は20歳になってから。これは若さを失った私達へのご褒美なのよ…」

 

「えぇー…あたしも早く20歳になりたい…」

 

「志保のバカ!」

 

「え?なんで?」

 

「今が一番いい時だよ!20歳になったら年月なんてほんとあっという間だよ!」

 

「そうね」

 

「あぁ…私も高校時代に戻りたい…」

 

「そうね」

 

「え?なんで?テストはあるしお酒は飲めないしそんないい事ないじゃん?」

 

「大人になったらたくさん辛いこともあるし、若い頃には若い頃にしか作れない青春もあんのよ?わかるかJK」

 

「そうね」

 

「まぁ、そりゃ色々あるんだろうけどさ。それより理奈、さっきから『そうね』しか言わないけど大丈夫?」

 

「そうね」

 

理奈はいつの間にか自分でお酌しながら『戦乙女』を飲んでいる。

今度お父さんにダースで送ってもらおう。

 

「てかさ、JKの青春って何よ。お洒落なカフェ行って写真撮ってインスタにあげるとか?バンドもしっかり青春じゃない?」

 

「そういうの!そういうのじゃないの!」

 

「そうね」

 

「あるでしょ!ス、ス、ス、スクール…ラブとか…!!」

 

「そうね」

 

「え?何これ?女子会なの?」

 

「べ、別にそんなわけじゃないけどさ!」

 

「ん?あたしの恋愛事情とか気になる?」

 

「え?彼氏いたりされるのですか?もう卒業なさってたりされますか?」

 

「何で敬語?あぁ、渚まだなんだ?」

 

まだ!?何がまだ!?

 

「何を言ってるの志保ったら!地元に居た時だけど私だって彼氏いた時あるんだからね!」

 

「へぇ、いつ?何で別れたの?」

 

「キ…キンダーガーテン時代に……」

 

「幼稚園じゃない」

 

理奈!そこはつっこまなくていいとこだよ!

 

「大丈夫。あたしも彼氏居た事なんかないしまだシた事もないよ。渚と一緒」

 

「な…何を言ってるの志保ちゃんは!先輩の前でそんな事言っちゃダメだからね!」

 

「その先輩って誰なの?それより…」

 

そして志保は理奈の方を見た。

私もつられて理奈を見る。

 

「何を見てるのかしら?」

 

「いや、理奈はどうなのかな?って思って」

 

「確かに理奈は落ち着いてるし大人っぽいもんね」

 

「ふぅ、何を言ってるのかしら?私は最高のバンドをやるの。彼氏とか恋愛とか必要ないわ!」

 

「ああ、良かった…」

 

「必要ないわ!」

 

大事な事だから2回言ったんだね。

 

「って事は理奈もまだなんだ?渚も理奈ももういい歳なのにね」

 

「「!?」」

 

志保が爆弾発言をした。いい歳?歳にいいも悪いもないのよ?あ、この言いまわしなんか先輩っぽい

 

「志保、さっきも言ったけど、私は最高のバンドをやるの。だから……」

 

「そうだよ!私も最高のバンドをやるの!彼氏とかいらない!」

 

「渚、さっきと言ってる事違わない?」

 

違うけど…なんか…ね?

 

「まぁ、正直ずっと片想いしてる人がいるのだけどね」

 

ふぁ!?え!?そうなの!?

 

「え?マジで?聞きたい聞きたい。せっかくだしその話聞かせてよ」

 

「ま、いいわよ。私昔からずっと片想いしてる人がいるの。その人の事を忘れられないから恋もする気はない。そんなとこよ」

 

「へぇ、そんな事ってほんとにあるんだ?あたしはそんな人にも出会えた事ないしなぁ」

 

「渚は?私が話したのだから渚にも聞きたいわね。今好きな人はいないのかしら?地元の人とか…」

 

「う~…ん、いないかなぁ。優しいなぁって思う人はいるけど、お兄ちゃんとかお父さんって感じだし」

 

「さっきからよく話に出てる先輩の事を好きなのだと思ってたわ。クスクス」

 

「な!?無いよ!無い!」

 

わぁ、先輩の事好きなのかと思われちゃってたよ。先輩の話するの自重しよう…。

 

「でも理奈くらい可愛くても片想いとかあるんだね。その人どんな人?バンドやってた時に会った芸能人とか?」

 

「芸能人って感じではあるのかしら?難しいところね」

 

「え!?ならテレビにも出てたりする?私も知ってるかも?」

 

「多分知らないと思うわよ。BREEZEって昔居たバンドのボーカル。TAKAさんっていうのよ」

 

「ぶふぉぉぉぉぉぉ」

 

「きゃ!」

 

私は思いっきりビールを吹き出してしまった。志保の顔に私のビールが……。

 

「ど、どうしたのかしら?」

 

「あたし…ベトベトなんだけど…」

 

え?は?BREEZEのTAKA?

わぁ、どっかで聞いた事のある名前だ…

 

「いや、なんか、なんとなく?先輩っぽく言えば、あれがあれであれだから。な?」

 

おおう、早速先輩の話しちゃったよ。

 

「いや、わかんないよ…。あたしタオル取ってくる」

 

「???渚?もしかしてBREEZEを知ってるとかかしら?」

 

うん、ごめんね。知ってますね。

いや、曲とかは知らないけど、そこのボーカルさんとは週5で会ってたりします。

 

「いや、名前はよく聞くバンドだけど曲は知らないかな?」

 

「そうなのね。なら聴いてみる?」

 

え?BREEZEの曲?

 

「あるの?」

 

「ええ、音楽プレイヤーに入れてるわ。近所迷惑になっても申し訳ないし小さめの音量でかけるわね」

 

え?え?昔の先輩の曲!?

まさか聴ける時がくるなんて…

 

「だ、大丈夫!このマンション防音完備だし多少は大きな音出しても大丈夫だよ!かけてみて!聴きたい!!」

 

「ええ、かけるわね」

 

そう言って理奈が音楽プレイヤーを再生してくれた。

思ってたよりも激しめの、思ってたよりもキーの高めの曲が流れる。

 

「あれ?音楽かけてるの?」

 

「あら、遅かったわね?」

 

「ちょっとシャワーも浴びてきた。へぇ、なかなかいい曲じゃん」

 

そしてイントロが終わり…先輩の声が聞こえてきた。

ふふ、今の声より少し高い声だ。こんな声だったんですね。先輩…。

 

「渚…?泣いてるの?」

 

「声が出なくなるってさ。好きだった歌が歌えなくなるってどんな気持ちなのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

『チュンチュン…』

 

う~…ん!朝?

朝チュン!!?………あれ?私いつの間にか寝ちゃってたんだ?

 

起きようと思って身体を起こそうとしたけど身体が重い…。あれ?ほんとに身体が動かない…。これが噂に聞く二日酔い?

 

そう思って私の横を見ると右側から志保に抱きつかれてた。そして左側からは理奈に抱きつかれてた。

え?何この状況?天国はここにあったよお母さん。

 

「あれ?渚?おはよ…」

 

志保が起きて私に挨拶をした。

 

「あら?私…いつの間にか寝ちゃってたのかしら?」

 

そして理奈も起きた。

 

二人共、私がBREEZEの曲聞いて…先輩の昔の声を聞いて泣いちゃったから…。

ありがとうね。志保、理奈。

 

「二人共おっはよー!いやー、夕べは飲み過ぎちゃったね!あはは」

 

「渚、暑い。抱きつかないで」

 

「あの、出来れば離れてほしいのだけれど?」

 

二人共…大好きだよ。

 

「あ、それでさ渚。渚が寝ちゃってから勝手に決めた事が2つあんだけどさ」

 

「ほえ?何?」

 

「まずは1つ目ね。明日ライブ行くよ」

 

「明日は日曜だから大丈夫だけど…誰の?」

 

「なんとOSIRISとキュアトロの対バン!ギリギリの整理番号だけどチケット取れたからさ!」

 

「え?マジで!?ヤバいやん!!明日とかめちゃ楽しみやねんけど!」

 

「渚の地元って関西の方かしら?」

 

「そんで2つ目ね。理奈お願い」

 

「わかったわ。なら私から話すわね。私達のバンド名を決めたわ」

 

え?え?私が寝てる間にそんな話してたの!?

 

「志保はクリムゾンを倒す為に。渚はそんな志保が楽しい音楽をやる為に戦う。そして私は私達の最高の音楽をやる為に邪魔な者は全て蹴散らしていく。昨日話したライブをやりたい目標とは別にこの志しが私達の根元なのよ」

 

そして理奈は『戦乙女』を出してきた。

 

「この渚の地元のお酒を見て思ったのだけれどね。私達はまさに戦う乙女ってぴったりだなって。valkyrie(ヴァルキリー)とかいいんじゃないかしら?って思ったのよ」

 

ああ、聞いた事あるね。他にはワルキューレともいうんだっけ。

 

「そして私も志保も歌をやっていたわ。私はBREEZEのTAKAに憧れて。志保はお母様に憧れて。そんな私達が憧れた歌声の渚。渚も私達も歌姫でもあるの。それでDiva(ディーバ)

 

「Divaはね。歌姫って意味なんだって」

 

「それでDivaとvalkyrieを重ねて『Dival(ディヴァル)』それが私達のバンド名よ」

 

おお!かっこいい!

Dival…私達は今日からDivalだ…!!

 

「うん!いいね!Dival!!」

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

私達はOSIRISとキュアトロの神ライブに並んでいる。た…楽しみ過ぎる…!!

 

「あたしはOSIRISのライブって初めてだから楽しみだよ」

 

「あら?そうなのね。OSIRISの曲もとても素晴らしいわよ。志保にも良い刺激になると思うわ」

 

「私は単独は何度も来てるけどOSIRISとキュアトロのライブとか楽しみ過ぎてヤバいよ…!神過ぎる…!!」

 

そして私は前方にあるキュアトロのポスターに目をやっ……あっ!?

私は急いで志保の後ろに身を隠した。

 

「どしたの渚?」

 

「知り合いでもいたのかしら?」

 

「せ…先輩がいる……」

 

「先輩?あの渚がいつも言ってる?どの人?」

 

私そんなに先輩の話してる?うん、してるね。

 

「あ…あの人…」

 

そう言って先輩を指した

 

「あの人…どこかで会った事あるような?どこだったかしら?」

 

理奈!思い出さなくていいよ!思い出って大切だからねっ!

 

「へぇ、あの人が渚の愛しの人か」

 

「違うからね。全然違うからね。それは小さなミステイク」

 

「小さいの?」

 

「でもさ?あの人すっごく可愛い女の子といるよ?いいの?」

 

は?え?志保ちゃんったら何を言ってるの?

 

私はそう思って先輩の方を見た。

 

「ヘェー、ホントダ」

 

「「渚!?」」

 

「どうしたノ?てかさぁ?いつもマイリーマイリーって言ってるくせに可愛い女の子2人も連れてるとか…アハ、先輩のくせにネ…マジウケル」

 

「な…渚?本当に大丈夫かしら?目の…目のハイライトが仕事してないわよ……?」

 

「……チャオウカナ?」

 

「何!?渚!何て言ったの!?」

 

「渚、よく聞いて。あの人は女の子を2人連れているわ。だから彼女とかそういう関係って事はないと思うのよ。ただのライブ好きのお友達。お友達じゃないかしら?」

 

「あ、そうだよねー。先輩だしね!あんな可愛い彼女居たら冷やかしてやろうと思ったのに!残念」

 

「そうだよ。心配ならさ?声かけてきたら?」

 

「シンパイ?何を?私が何を心配するの?ネェ、シホ?」

 

「痛い!痛いよ渚!爪!爪があたしの肩に食い込んでる!!」

 

「同じ会社の人なんだし、見掛けて声をかけないのは後輩としてはどうかと思うわ。挨拶でもして来た方がいいんじゃないかしら?」

 

「エ?」

 

「だ、だからね。もしその先輩さんも渚に気付いてたら『チ、この後輩俺に気付いてるのに声掛けて来ねぇのかよ。ま、俺なんてそんなもんだしな。むしろ嫌われてるまである』とか思われても困るのではないかしら?」

 

「ハッ!そうだよね!ちゃんと後輩らしく挨拶はしとかないとね。ごめん、私ちょっと行ってくるね!」

 

「助かったよ理奈」

 

「夕べの渚の話であの先輩さんの言いそうな事を言ってみたのだけれど…正解だったようね」

 

「それよりさ?」

 

「「渚!?」」

 

「理奈すごく先輩の真似上手かったよね!今度またやってみてね!」

 

私はそうして先輩の方に向かった。

 

「せ~んぱい!」

 

私は先輩に声をかけた。

 

「ん?水瀬?どしたん?今日ライブ?」

 

「うん、そですよ。ぼっちの先輩が可愛い女の子2人も連れてるとか贅沢ですね?どっちか彼女さんですか?」

 

「いや?2人共ただの友達だけど?え?友達だよな?フォロワ様?」

 

「なんだー。彼女さんかと思って明日の会社での話題にしようと思ってたのに!」

 

やっぱり友達かぁ。あれ?私なんでホッとしてるんだろ?

 

先輩といつものように話してると、お友達?の女の子達が何か話してるようだった。う…やっぱり私感じ悪い女かな…?

 

「あの~…」

 

私は女の子に声をかけた。

先輩の方を少し見たらポスターのマイリーをスマホで連写していた。だから彼女が出来ないんですよ。先輩。

 

「はい?何ですか?」

 

そしたら私と歳の近そうなすごく可愛い子が返事をしてくれた。え?何この子可愛すぎるんだけど…天使か何かなの?

 

「すみません。ライブに来たらたまたま先輩…葉川さんを見かけたので、せっかくだから声を掛けとこうと思いまして…。あ、私、葉川さんの会社の部下みたいなもんでして…あはは」

 

「いえいえ、全然気になさらないで下さい」

 

女の子はそう言ってくれたけど次の瞬間。

 

「あの……貴さんの事好きなんですか?」

 

「はい!?」

 

思いがけない事を聞かれた。ないよ!ないですよ!!

 

「ないですよ。ないです。優しい先輩とは思ってますけどそれだけです」

 

あ、もしかしたらこの子先輩の事…

 

「あの…もしかして葉川さんの事好きなんですか?」

 

「ふぁ!?」

 

女の子はびっくりしていた。やっぱりそうなのかな?

 

「もしそうだったら声を掛けて申し訳なかったなと……今更ですけど」

 

「ないですよ。ないです。楽しい人とは思ってますけどそれだけです」

 

あ、そうなんだ。うん、そうだよねー。こんな可愛すぎる子が先輩の事なんて…ん?なんで安心してるの私。

 

「あ、私、水瀬 渚っていいます」

 

「私は佐倉 奈緒っていいます」

 

そして私は奈緒と友達になれた。

うぅ…先輩!感謝です!!

こんな可愛すぎる子とお友達になれるなんて…!

志保、理奈、奈緒。

私の友達何でこんな可愛すぎる子が多いんだろう。そして私は志保と理奈の元に戻った。

 

「やっぱりただの友達なんだってさ。残念だよ…」

 

「うん?うん、残念だったね」

 

「彼女が出来たと思ってからかってやろうと思ってたのになー」

 

「そ…そうね」

 

そして私は今日のライブを思いっきり楽しんだ。

 

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「ぐはっ!でござる!」

 

「な、何なんだよお前!でござる!」

 

「デュエルギグ野盗なんかに名乗る名前なんかないよ」

 

「に、逃げるでござる!」

 

「撤退でござる!」

 

「逃がさないよ」

 

「ひっ!?でござる!」

 

「あ~あ…ネイル…剥がれちゃったじゃん…」

 

「お、俺達が悪かった…!でござる!」

 

「頼む…ゆ、許してくれ!でござる!」

 

「ダ~メ」

 

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あんな事件が起こってた事も知らずに……

 


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