バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第4章 最高のバンド

『あはは、しーちゃんそれほんと?』

 

『ほんとほんと!もう凄かったんだから!』

 

『いいなー。私もギター欲しい~』

 

何だろうこれ…この子達は小学校の時に仲の良かった…せっちゃんとすーちゃん?

 

『グへヘヘ、見つけたぁ。お前が雨宮 志保だなぁ?』

 

『ヒッ!?何この人達!?』

 

『しーちゃん、怖いよー』

 

『な、なんですかあなた達!何で私の名前知ってるんですか!?警察に通報しますよ!?』

 

『グへ、お前の親父、雨宮 大志にやられた恨みを晴らしにきたんだぁ』

 

『お父さんに…?』

 

『お前の親父のせいで俺達の人生は目茶苦茶だぁ。だからお前の人生も目茶苦茶にしてやるぅ』

 

『何する気!?恨みがあるのはあたしだけでしょ!?この子達は関係ない!帰してあげてよ!』

 

『そうはいかないなぁ。誰も逃がさねぇよぉ』

 

『せっちゃん、すーちゃん逃げて!』

 

『グへヘ、安心しなぁ。お前がもし俺達にデュエルで勝てたら何もせずに帰してやるよぉ』

 

『デュエル?』

 

『そのかわり俺達がお前に勝ったら…わかってるよなぁ?グへヘヘ』

 

『な、何する気!?』

 

『雨宮 志保ぉ…まずはお前の額に『肉』って書いてやるぅ』

 

『なっ!?』

 

『そしてお前の友達の額には『骨』と『中』って書いてやるぜぇ…油性ペンでなぁグへヘヘ』

 

『あんた達それでも男なの!?いいえ、人間なの!!?』

 

『しーちゃん怖いよー』

 

『油性ペンで額に文字書かれたら恥ずかしくて街歩けないよぉ、え~ん…』

 

せっちゃん泣かないで…大丈夫だから…

 

『大丈夫。あたしがあいつらをデュエルでやっつけてあげるから』

 

『俺達に勝てるつもりかよぉ。グへヘ』

 

『やってやるわよ!あんた達なんか!』

 

『『しーちゃん…!!』』

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ」

 

あ、夢…か。今何時だろ……?

 

久しぶりに中学の時の夢なんか見たな…。

あの時はあたしが勝ってみんな無事に済んだ…。けど、あの日を境にあたしはデュエルを申し込まれる事が多くなった。

 

『シャッシャッシャッー!俺達がデュエルで勝ったらお前の友達がさっき買った推理小説の犯人を赤丸で囲ってやるぜ!』

 

『ヌハハハ!俺達が勝ったら貴様らのシャーペンのシンを全てBからHに変えてやるぜぇ!』

 

『ムハハハ!俺達が勝ったらお前らの消しゴムの角を全部使ってやるぜ!』

 

デュエルギグ野盗の奴らは卑劣だった。

あたしは負けられない。負けたらせっちゃんとすーちゃんも酷い目に合う…。

あたしはデュエルで勝ち続けるしかなかった…。

 

あたしは孤独である事を望んだ。

せっちゃんとすーちゃんとも別れ、それからの中学生活は一人で居た。今の学校もうちの中学から進学する人が居ないという事で選んだようなものだ。あたしはそんな音楽を、好きだった音楽を憎むようになった。

 

 

 

あたしは渚の寝室を開けた。

 

「すー、すー…」

 

渚はまだ寝ている。

 

「もう、またお腹出して寝て…」

 

あたしはソッと渚にタオルケットを掛けた。

 

「むにゅ……すー…すー」

 

起こしちゃったかと思った。

 

渚には感謝してる。こんなあたしを救ってくれた。また音楽を好きな気持ちを思い出させてくれた。一人でいる事を望み、一人で戦うしかなかったあたしと一緒に戦ってくれた。今は理奈もいる。あたしは一人じゃない。

 

ありがとうね。渚。

 

「さ、朝ごはん作って学校の準備しようかな」

 

 

 

 

 

 

そしてあたしは学校でも変われた。

 

「お、クールビューティー雨宮!おっす!」

 

「おはよ。あのね?あたし別にクールってわけじゃないから。ビューティーである事は認めるけどさ?」

 

「さすがクールビューティー。自意識過剰だな」

 

「あんたぶたれたいの?」

 

「おう、クールビューティー。ちょっとギターの事で聞きたい事があるんだけどよ」

 

「秦野…あんたまで…」

 

「あ、志保ちゃん、おはよ~」

 

「さっち、おはよ!」

 

学校で話すのは江口や秦野、内山、井上だけじゃない。同性の友達も出来た。まだ1人だけだけど…。秦野とよく話すもんだからどちらかというと同性には嫌われてる気もする。

 

まだメンバーが揃ってるわけじゃないけど、大好きな音楽のバンドを組めて、それなりに学生生活も楽しんでる。

あたしは今、すごく充実した毎日を過ごせている。

 

もちろんお父さんを…クリムゾングループを倒すという目的も忘れていない。

 

なのに、何で今更あの時の夢を見たんだろう…。

 

 

 

 

 

学校も終わり、帰宅して夕飯の準備をしている。

 

「志保。よかったら私も手伝うわ。何でも言ってちょうだい」

 

「大丈夫。理奈はゆっくりテレビ見るなり作曲するなりしててよ。だから食材には触らないで。絶対に」

 

「そう?悪いわね」

 

渚は料理はどちらかというと下手く……出来ない方だ。だから、渚がご飯を作ると言ってもいつも断っている。だって病気になりそうだもん。

でも、理奈の料理の腕はもっと壊滅的と言える。こないだのお泊まり会の時……

……思い出しただけで背筋が凍りそうになる。

 

「それより理奈はいつも夕方にはうちに来るけど仕事とか大丈夫なの?」

 

「いつもお邪魔して迷惑かしら?」

 

「いや、全然。こうやって話せる相手居た方があたしもありがたいし。でも、いつも夕飯の前に帰っちゃうからさ?」

 

「夕飯までお世話になるのも悪いもの。それにうちにも夕飯はあるしね」

 

あ、そっか。理奈はご家族と暮らしてるんだもんね。

 

「夜になったら帰るし、夜のお仕事してるかと思ったかしら?クスクス」

 

「うん、まぁ、ちょっと」

 

「私は今大学に通ってるのよ」

 

「え?理奈って渚と同い歳だよね?」

 

「何が言いたいのかしら…。ええ、そうね。渚と一緒の年齢だからまわりは年下ばかりよ」

 

「そっか。でも何で大学?」

 

「事務所に入った時にモデルとかもやらされたりしてて、あまり講義に出れなかったから私は辞めたつもりでいたのだけれど父が休学扱いにしてたのよ」

 

「あー、それで復学したって感じなんだ?」

 

「私はバンドの事もあるしバイトでも何でも仕事しながら…って思ってたのだけれどね。父が事務所を辞めたなら復学しろってうるさくて…」

 

「いいお父さんじゃん」

 

「そうね。あんな厳格とは思わなかったけれどいい父親だわ」

 

「あ、あれ?マヨネーズがない…」

 

「あら?なら私が買ってくるわよ」

 

「う~ん、どうせなら他のも買っておきたいし、理奈悪いけど留守番お願い出来る?」

 

「それくらい構わないけど」

 

「駅前のスーパーの方が安いからさ。ちょっと遅くなるかもしれないけど…」

 

「OKよ。気をつけてね」

 

「ありがと。行ってきまーす」

 

「行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

あたしは無事にスーパーで買い物を終えて理奈の待つ自宅へと…自宅って言っても渚の家だけど…。あたしは帰路についていた。

 

「ゼハハハハ!見つけたぞ!雨宮 志保!」

 

またデュエルギグ野盗か…。

最近見ないと思ってたのにこれだ。

 

「あたし急いで帰りたいの。邪魔だから消えてくれる?」

 

「ふざけるな!お前の親父のせいで俺達の人生はな…!」

 

ま、これで素直に帰るやつらじゃないか。ごめんね、渚。降りかかる火の粉は払わなきゃいけないから…。

 

「俺達とデュエルギグをし…」

 

「待ちな!」

 

あたしがこいつらを蹴散らす為にギターを取り出そうとした時だった。あたしより少し歳上くらいのお姉さんが割って入ってきた。

 

「そのデュエル。この娘の代わりにあたしが請け負うよ!」

 

「何だとこのアマァ!俺達はお前に用はねーんだよ!」

 

そしてそのお姉さんはあたしの頭を優しく撫でて…

 

「もう大丈夫だよ。怖かったよね?後はあたしに任せて逃げな」

 

「え、あ、あの!」

 

そう言ってお姉さんはドラムセットを出し、デュエルの体勢に入った。

このお姉さんどこからドラムセットを出したんだろう?

 

「そのドラム…。聞いた事あるぜ!最近ここらでデュエルギグ野盗狩りをしてるって女だな!?」

 

デュエルギグ野盗狩り…?

 

「別にあたしはあんたみたいな奴ら相手になんかしたくもないんだけどね。誰かが襲われてるなら見過ごせない!」

 

「ゼハハハハ!ちょうどいい!お前を倒して名を上げてやるぜ!」

 

「絶望の海に沈めてあげる!あたしの音楽で!!」

 

そしてお姉さんとデュエルギグ野盗のデュエルが始まった。

 

凄い…お姉さんのドラムの技術もだけど…。歌声も…ドラムの音に負けてない。でも…このお姉さんの音楽は…音楽からは、怒りや憎しみの感情しか伝わってこない……。このお姉さんの音楽は…ちょっと前のあたしと一緒だ…。

 

「これでトドメ!!」

 

「「「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 

ドラムの技術も歌声も凄いのに……こんなのもったいないよ。

 

渚もあたしと出会った時こんな気持ちだったのかな…。

 

「くそっ!バカな!」

 

「ち、今日の所はこの辺にしといてやる!」

 

デュエルギグ野盗達はその場から逃げようとした。だけど…。

 

「次?あんた達なんかに次があると思ってんの?」

 

「何ぃ!?」

 

「2度とデュエルギグ野盗なんか出来ないように潰してあげる。徹底的にね」

 

「え?ヒッ!?」

 

ダメだ。これ以上はダメだよお姉さん!

 

あたしはそう思ってお姉さんを止める為に後ろからしがみついた。

 

「きゃっ!?何!?」

 

「それ以上はダメだよ!」

 

「びっくりしたぁ。あんたまだ逃げてなかったの?」

 

「い、今のうちだ!逃げるぞ!」

 

そう言ってデュエルギグ野盗達は逃げていった。

 

「あ~あ、あいつら逃げちゃったじゃん。ま、戦意は完全に失くなってたしいっか」

 

「あの!」

 

「ん?お礼はいいよ。じゃね!」

 

そう言ってお姉さんもその場から離れた。あたしは何を言ったらいいかわからなかった。なのにあたしを探して声を掛けてくれた渚は…やっぱりすごいな…。

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

「おかえりなさい。遅かったわね」

 

「うん…ごめん…」

 

「別に謝る必要はないわ。でも、何があったか聞いてもいいかしら?」

 

「え?」

 

「今まで見たことないような暗い顔をしてるわよ。今のあなた」

 

「理奈」

 

「一人で抱え込むよりは誰かに話した方が楽な事もあるわよ。無理にとは言わないけど」

 

あたしはお姉さんの事を話した。

そしてあたしはどうしたら良かったのか。理奈に相談してみた。

 

「デュエルギグ野盗狩りね。少し噂に聞いた事あるわね」

 

「そうなんだ…。あたしは全然知らなかった」

 

「まぁ、無理もないんじゃないかしら?元々は私もデュエルギグ野盗すら知らなかったわけだし、あなたと出会ってから色々調べてみただけだもの」

 

「あたしは渚に救われたのに…あたしはあのお姉さんに何も言えなかった」

 

「その考え方は傲慢ね」

 

「え?」

 

「そもそもその子が救われたいと思っていないかもしれない。救われたいと思っているかもしれないわよ?でも、あなたとその子は違うわ。あなたは降りかかる火の粉を払っていただけ。その子は自らデュエルギグ野盗に挑んでいる」

 

「それもわかってる…それでもあたしは…」

 

「だから救うつもりじゃダメなのよ。その子にはどんな事情があるかわからない。渚もあなたの話を聞いたから救おうとしたのでしょう?」

 

「!?」

 

「まずはその子に話を聞きなさい。救うか救わないかそういうのはその後よ」

 

「ありがとう、理奈。あたしあのお姉さんに会って話してみるよ」

 

「そうね」

 

そして理奈はスマホを取り出してどこかに電話をかけた。

 

「もしもし、お父さん?私よ。……え?私私詐偽?そんなわけないじゃない。娘の声がわからないのかしら?……え?娘なら証拠を見せろ?電話口だから証拠を見せる事は出来ないけれど、家に帰ってからなら地獄を見せてやる事はできるわよ?……ええ、そうよ。わかってもらえて嬉しいわ。お母さんにかわってちょうだい。……え?嫌?そう、わかったわ。覚悟は出来てるのね」

 

そう言って理奈はスマホを置いた。

その後すごい笑顔で

『ちょっと母にメールするわね』

って言ってから、物凄い形相でスマホを弄っていた。理奈の今の形相からは、怒りや憎しみの感情しか伝わってこない……。

まぁ、それはさっきの話聞いてる感じはしょうがないと思うけど…。

 

「待たせたわね。留守は私が預かるわ。行って来なさい」

 

「え?」

 

「その人と話すのでしょう?行きなさい。私は渚とずっとここで待ってるわ」

 

…!?……理奈。

 

「あなたと渚は違う。渚が出来てあなたに出来ない事はいくらでもあるのよ。でも、あなたが出来る事で渚に出来ない事もいくらでもあるわ。だからあなたはあなたのやれる事を、やりたい事をやりなさい。今のあなたなら大丈夫よ」

 

「理奈…」

 

「渚みたいに誰かを救いたいってあなたの気持ちもわかる。でもあなたもとても強いわ。渚みたいに…ではなく、あなたは雨宮 志保である事を思い出しなさい。あなたは雨宮 志保なんだから。それでいいの。それだけでいいのよ」

 

「ありがと……。行ってくる」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

あたしはお姉さんとさっき出会った付近を走り回っていた。何でこんな時に限ってデュエルギグ野盗共はあたしにデュエルを挑んで来ないの…!!

 

「やっぱりあたしには……」

 

そう思って諦めかけた時、理奈の言葉を思い出した。

 

そうだ。あたしはあたしだ。渚みたいになんかなれっこない。渚もあたしにはなれない。だったらあたしはあたしらしく…!!

 

すぅ~……

あたしは思いっきり息を吸い込んだ。そして

 

「ヒャッハー!!見つけたぜ!!雨宮 志保だぁ!!!雨宮 大志の娘を見つけたぞーー!!!!」

 

思いっきり叫んだ。さぁ、来い!あたしはここにいる!

 

「ニョハハハ!ここに居たか雨宮 志保!」

 

「お前が雨宮 大志の娘かぁ!」

 

遅いんだよ。あたしを見つけるのが。

3、4、5……6人か…。多いな…。

 

「あんた達、それなりに強いの?雑魚には用はないんだけど?」

 

「にゃ!にゃんだと!?」

 

「お主!拙者達を愚弄するか!」

 

ボーカル1、ギター2、ベース1、キーボード1、ドラム1……。ほぼフルメンバーじゃない…。

 

「雨宮ぁ!お前の親父にやられた恨みをここで晴らしてやる」

 

ごめんね。それでも今はあんた達なんか眼中にないの…。よし、次は…。

 

すぅ~……

あたしはまた息を思いっきり吸い込んだ。そして

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!デュエルギグ野盗よぉぉぉぉ!!怖いー!!誰か助けてぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「な!?」

 

「ニョハ!?怖くないよ!?ただデュエルで痛い目見せるだけだにょ!」

 

いや、普通の人達からしたら十分怖いからねあんたら。さぁ、来い!あたしはやれるだけやった!

 

「待ちな!」

 

声のする方に目をやるとさっきのお姉さんが居た。よし!ビンゴ!!

 

「あれ?あんたさっきの…?」

 

「またデュエルギグ野盗があたしを…ぐすん」

 

「ぐすん?え?何それ?……う~ん、なんか変だね…」

 

うわ、あたしもしかして演技下手くそ?

 

「ま、デュエルギグ野盗に襲われてるって事実は事実か。このデュエル、あたしが請け負ったよ」

 

「ありがとうございますー!さすがデュエルギグ野盗狩りのお姉さん!」

 

あ~…あたしらしくって言ったのにこのキャラ全然あたしらしくないわ…。

 

「え?何?あたしの事知ってるの?」

 

「デュ…デュエルギグ野盗狩りだと!?」

 

「こやつが噂の……」

 

「相手にとって不足なしでゴワス!」

 

よし、乗ってきた。後は……

 

「何だか付いていけないんだけど…ま、いいか」

 

そしてお姉さんはドラムセットを出してデュエルの体勢に入った。

やっぱりどこからドラムセットを出したのかは確認出来なかった。

 

「魅せてあげる!絶望よりも深い深淵の闇を!あたしの音で!!」

 

そしてデュエルが始まった。

 

すごい…やっぱりお姉さんのドラムも歌も…。でもこの野盗共は…

 

「ニョハハハ!勝てる!勝てるにょ!デュエルギグ野盗狩りを倒したとあれば!」

 

「拙者達の天下も間近!」

 

「深淵を見るのはお前の方だったでゴワスな!」

 

「こいつら…今までの野盗共とは違う……クッ、負ける…!?」

 

あたしはお姉さんの横に行った。

 

「お姉さん!」

 

「あ、あなたまだ居たの!?こいつらちょっとヤバい……。あたしが耐えてる間に逃げて!ね?」

 

「今、ドラム叩いてて、音楽やってて楽しい?」

 

「何言ってんの?こんな時に…!」

 

「それだけドラム叩けるんじゃない!好きだったからドラムやってたんでしょ?」

 

「う~ん……好きだよ。音楽もドラムも…。今もね。大好き!」

 

!?

そっか。やっぱりあたしとは違うんだ…。お姉さんは好きでドラムをやってる。好きでデュエルギグ野盗と戦ってるんだね…。

 

「だから音楽を楽しんでる人達を苦しめるデュエルギグ野盗をあたしは許せない。音楽をこんな事に使うこいつらをあたしは許せない!!」

 

お姉さん…?

 

「誰かが戦わないとさ。みんなが楽しんで自由な音楽やれないっしょ?もういい?あはは…あたしそろそろ限界だわ…早く逃げて…!」

 

お姉さん…。そっか。そういう理由なんだ。みんなの為に…。

 

「お姉さんごめんね。あたしも…戦うよ」

 

「え?あんた…どこからギター出したの?」

 

そしてあたしも演奏に加わった。

このデュエルギグ野盗のレベルは半端じゃない。かなりの技術だ。お姉さんごめんね。あたしの勝手に付き合わせちゃったね。

 

でも、だからこそ、負けられない!

 

「ニョハ!?さすが雨宮 大志の娘!」

 

「やりおるわ…だが!!」

 

「雨宮 大志の娘…?そんなの関係ない!!これは!あたしの力だっ!!」

 

「アハハ、あんたギターすごく上手いんだね。いい。すごくいいよ!」

 

お姉さんの演奏の雰囲気が変わった。

 

さっきまでの怒りや憎しみといった感情じゃない。純粋に音楽を楽しんでる。デュエルギグ野盗と戦っている事も忘れて音楽を楽しんでるような。そんな演奏に…

 

「えっ…と、雨宮ちゃんだっけ?あたしのリズムに付いてこれる?」

 

「もちろん!全然余裕!!」

 

楽しい。このお姉さんとの演奏。

渚や理奈と演奏してる時のような…。

安心感やドキドキや…色んな暖かい感情に包まれたような感じ。

あたしはもっと色んな音を出せる!

 

「ニョハ!?こいつら!」

 

「案ずるな!まだ我らに分がある!」

 

「このまま一気に潰すでゴワス」

 

くっ…やっぱりこいつら…強い…

負けたくない…負けられない…

 

「アハハ…さすがにヤバいかな……雨宮ちゃんごめんね」

 

「お姉さん!?まだ!まだだよ!いける!あたし達ならっ!」

 

「ニョハハハ!無駄な足掻きにょ!」

 

「久しぶりにさ。楽しんで演奏出来たよ。雨宮ちゃん、ありがとうね」

 

ダメ…諦めたら…

でもこいつらは確かに強い…

負けられないのに。負けたくないのに…

悔しい…悔しい…

 

ごめんなさい。お姉さん……。

 

 

 

「大丈夫。この曲なら知ってるから」

 

「そうね」

 

 

 

え…?

 

「すごいね、志保。この短期間にかなりのハザードレベルが上がってるよ」

 

ハザードレベル?

 

「渚…多分そのネタは志保にはわからないと思うわ。それよりよく頑張ったわね。もう大丈夫よ」

 

「渚…理奈……」

 

「いくよ、理奈」

 

「ええ、問題ないわ」

 

あたしとお姉さんのリズムに合わせて理奈のベースが入る。…完全にあたし達のリズムを掴んでる…。

 

そして渚はそのリズムに合わせて歌い始めた。

 

「ニョハ!?なんだにょ!?」

 

「わ、わしらが押されてるでゴワス」

 

「このままでは拙者達は…」

 

すごい。渚の歌と理奈のベースが入って、今までの演奏とは全然違う…。

そうだ。そうだね。これがバンドなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

渚と理奈のおかげであたし達はデュエルに勝てた…。

 

「なんとか勝てたね。雨宮ちゃん、ありがとうね。それに理奈ちとお姉さんも」

 

「え?理奈ち?」

 

「びっくりしたわ。まさかあなたがドラムをやっていたなんてね」

 

「え?二人は知り合いなの?」

 

「うん、あたしと理奈ちは大学の友達だよ」

 

「同じ大学に通ってるだけよ」

 

「えー?あたし達友達っしょ?」

 

「そうね…まず友達という定義はどこからどこまでを…」

 

そっか、お姉さん理奈と同じ大学に通ってるんだ…。

 

「それより志保!心配したじゃんか!」

 

「う、ごめん…」

 

「家に帰ったら理奈しかいないし、晩御飯は作ってる途中だったし!理奈が料理してるのかと思って……志保が私を見捨てて逃げちゃったのかと思ったよ!」

 

「それはどういう意味かしら?」

 

あ、そっか。晩御飯作ってる途中だったっけ…。

 

「よし、お家に帰ろう!お姉さんもおいでよ。色々お話したいさ」

 

「え、でもあたしは…」

 

「そうね。せっかく助けてあげたのだし。色々聞きたい事もあるわ」

 

「あたしもお姉さんと話したい事ある」

 

お姉さんは少し考えた後

 

「ん、じゃあ、お呼ばれしちゃいますかね。あたしは雪村 香菜(ゆきむら かな)。香菜でいいよ」

 

そう言ってくれた。

 

「私は渚。水瀬 渚だよ。私も渚でいいよ」

 

「私は今更自己紹介の必要ないわよね」

 

「香菜。あたしも志保でいいから」

 

 

 

 

 

あたし達は家に戻り、あたしと香菜は正座して対面に座り、渚と理奈は少し離れた所で私達の話を聞いていた。

 

あたしはまずお父さんの事を話し、それからデュエルギグ野盗に襲われるようになった事、そして音楽を嫌いになってた時期があった事、渚や理奈との出会い、あたし達Divalの事、それから……香菜を昔の自分と重ねて自分勝手に救おうとし、あんなデュエルギグに巻き込んだ事を謝った。

 

「アハハ、そうだったのか~。なんか変だな~とは思ってたんだけどね」

 

「本当にごめんなさい」

 

「ううん!全然いいよいいよ!久しぶりに楽しい演奏出来たのは事実だしさ。それにあたしも志保に音楽好きか?って聞かれた時に、みんなが自由な音楽をやる為にって言ったけど、それも似たようなもんじゃん?あたしも誰かに頼まれたわけでもないしさ」

 

「でも…」

 

「それに1つ言ってない事がある。あたしは確かにそう思ってデュエルギグ野盗と戦ってたけど、そう思うようになったのは個人的な私怨があるからだから。………うん、志保も話してくれたし、あたしも話すよ」

 

そう言って香菜は話し始めてくれた。

 

「あたしは昔から音楽が好きで、四響のダンテに憧れてドラムをやっていた。ドラムやってた近所の人に教わりながらね。でも特にバンドとか組みたいとかなくて、自由にドラムを叩ける事、色んなバンドのライブに行く事が好きだった。バイト代もほとんどライブの遠征費とかで消えちゃうくらいね」

 

あたしも渚も理奈も黙って聞いていた。

 

「でも大学に入った頃あたりからかな?バンドやライブより、メイクとかショッピングとか、インスタ映えするようなカフェ巡りとかの方が好きになってね。いつの間にかドラムも辞めてた。あたしは音楽も辞めてそっちの方が楽しくなってたんだよね。アハハ…」

 

うん、ここまではわかる。なら何でデュエルギグ野盗と…。そして香菜は続けた。

 

「あたしには弟がいてさ。ギターをやってんだけど。あいつは本気でギターをやっていて、本気でバンドをやっていた。メジャーデビューする事を夢見てた。でもある日ね。デュエルギグ野盗に襲われたんだ。そして…デュエルギグ野盗に負けた…」

 

そんな…まさか……

 

「弟が家に帰って来た時…弟は血だらけで満身創痍だった…」

 

「そんな…ひどい…!」

 

「渚…香菜の話を聞いていましょう」

 

「う…うん」

 

「あたしはすぐに弟に駆け寄った」

 

 

----------------------------

 

『ね…姉ちゃん…』

 

『良太…!どうしたの…!!?こんな血だらけで…!!』

 

『へへ…デュエルギグ野盗に…さ…』

 

『デュエルギグ野盗!!?誰よ!?誰なのそいつら』

 

『姉ちゃん…俺は…バンドが…バンドがやりたかっただけなのに…。もう、足が……う…うぅ…』

 

----------------------------

 

「あたしは良太の…弟の足を見て…言葉が出なかった。弟がどんな想いでここまで帰ってきたのか…そう思うと涙が出た…デュエルギグ野盗のやつらは…弟の靴の右足と左足の靴紐を固結びで結んでたの……」

 

「なっ…!?」

 

「「え?」」

 

「弟はそのまま…家までの道を歩き…そして転び…大怪我を負った…」

 

「…なんて、なんて卑劣な事を!!」

 

「渚、ちょっと私は付いていけなくなって来たわ」

 

「良かったぁ。私もだよ理奈」

 

「それだけじゃない…。その日はたまたまうちのマンションのエレベーターは点検日で…弟は…8階までその足で階段を登ってきた……足は…パンパンだった……うぅ…」

 

「そんな……」

 

あたしはデュエルギグ野盗を許せなかった。香菜のデュエルギグ野盗を憎む気持ちがわかる…。そんなデュエルギグ野盗は…私のお父さんが……。

 

「渚…私は思うのだけれど…」

 

「わかってるよ理奈。靴を脱げば良かったんじゃない?って思ってるんでしょ?」

 

「え、ええ、そうよね?私がおかしいわけじゃないわよね?」

 

「でもここでそれ言ったら空気読めないやつとか思われそうじゃない?」

 

「そうね…しばらく聞いておきましょう…」

 

「弟の身体の傷は治った…でも、心の傷は治らなかった。今でも弟は…靴紐のある靴を履けないでいるの…!」

 

「そうだったんだ…ごめん…」

 

「アハハ、志保が謝る事じゃないよ」

 

それでも香菜の顔は辛そうだった…。

 

「でね。あたしはそんなデュエルギグ野盗を許せなくて、弟みたいな目に合う人が少しでも減るようにと思って…戦う事にしたの」

 

「渚…肝心な所がはしょられててモヤモヤするわ」

 

「私もだよ。弟さんはギターを辞めたのか続けてるのかってところだよね?」

 

「そこよね?」

 

「でもさ。あたしはバンドやった事もないけど、志保と理奈ちと渚と今日演奏してさ。最高に楽しかったよ。今日みたいな奴らも他にもたくさんいるだろうし、そろそろ潮時かな…」

 

「香菜…」

 

「はい!話はおしまい!あたしは帰るね」

 

そう言って香菜は立ち上り帰ろうとした。

 

「志保、いいのかしら?私は明日も大学で会えるけどあなたはもうそうそうは会えなくなるわよ」

 

「そうだよ志保。それに私もいいと思うよ?」

 

そうだ。このままだともう会えないかもしれない…。

 

「香菜!待って!」

 

「ん?」

 

「あたしと…あたし達と…バンドやろうぜ!」

 

「は?」

 

「よく言ったわ、志保。……香菜、あなたのドラムの技術は最高だと思うわ。一緒にバンドをやらないかしら?」

 

「え?あたしもみんなと演奏してるの楽しかったよ。でもさ…さっきの話じゃDivalは最高のバンドを目指してるって…」

 

「うん。そうだよ。私達が最高のバンドを目指す以上はクリムゾングループともぶつかると思う」

 

「ク、クリムゾングループって…!」

 

「でもね?倒すよ。クリムゾングループも必ず倒す」

 

「そうね。それにクリムゾングループを倒せば、みんなが自由な音楽をやれるようになる。そうすればデュエルギグ野盗もいなくなるわ」

 

「香菜、あたし達と一緒に戦おうよ」

 

「みんなが…自由な音楽を…」

 

「うん、あたしはDivalなら、渚と理奈と香菜となら出来ると思ってる」

 

「一緒に戦おうよ。私達ならなれるよ。最高のバンドに」

 

「ええ、最高のバンドになるわよ。必ずね」

 

「うん、うん…!あたしなんかでいいなら、一緒にバンドやりたい。みんなと一緒に戦わせてほしい…!」

 

「決まりね」

 

「改めてよろしくね!香菜!」

 

「香菜、ありがとう。これからもよろしく」

 

「あたしこそ…ありがとう…。あたしは今日からDivalのドラムだ。もうデュエルギグ野盗狩りは引退だ!」

 

そうしてあたし達Divalは4人揃った。

 

 

 

 

 

その翌日、井上…シフォンに連れられてライブハウス『ファントム』に行き、貴と出逢い、3ヶ月後のライブに参加する事が決まった。

 

貴と知り合った事を渚に話すべきか、理奈にBREEZEのTAKAと知り合った事を話すべきか悩むけど……。

 

あたし達Divalはこれからだ。

 

 


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