バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第5章 飲み会しようぜ!

「ふぅ、今日の講義も終わりね」

 

「理奈ち、今日も渚のとこ行くの?」

 

「ええ、そのつもりよ。香菜はどうするの?」

 

「あたしも今日はお邪魔しようかな?って思ってさ」

 

私は氷川 理奈。

数週間前まで私はcharm symphonyというバンドでメジャーデビューをしていた。

でも、自分が最高と思うライブと、最高と思う音楽がやりたいという身勝手な理由で脱退した。でも今は最高のメンバーにも出逢え、バンドをやりながら大学生活を楽しんでいる。

 

「理奈ちも香菜もお疲れ様~」

 

「あら、盛夏お疲れ様」

 

この子は蓮見 盛夏。

大学に復学した時に香菜と一緒に私に声をかけてくれた。と…友達…なのかしらね。

 

「盛夏もお疲れ!」

 

「ほんとに疲れたよ~。でもやっと金曜日!あたしは今日は飲み会なのだ~」

 

「へぇ?いいね。合コン?」

 

「ちっちっち、盛夏ちゃんは合コンなんか行かないのだ。何故なら男の人とは趣味が合わないから!あ、でもうちのボスとは趣味が合うかも?」

 

「ボス?」

 

「あ、じゃあ、盛夏がやってるバンドのメンバーと?」

 

「うん。ボスは来ないけどね。ぼっちのボスは放置して女子会なのだよ」

 

「いいなぁ、ねぇ理奈ち。あたしらも飲みに行こうよ。親睦会も大事だよ!」

 

「私達はまだまだ話し合いも必要な事もあるから親睦会とかは賛成だけれど、志保はまだ未成年。飲みになんか連れていけないわよ。行くのならサイゼとかかしらね」

 

「大丈夫だって。今時は居酒屋に行く高校生も増えてるし。あ、もちろんお酒はNGだけどね。ノンアル飲み会とかやってるらしいよ」

 

「それでもダメよ」

 

「あたしらが目を光らせとけば大丈夫だって~」

 

「ふぅん、残念だね。今日は駅前の『そよ風』って飲み屋が飲み放題も含めて半額セールなんだよ?ほらチラシ」

 

「そよ風って安くて美味しい居酒屋じゃん?あたしもたまに行くけど今日半額なんだ?」

 

「飲み放題もなんと通常2時間のとこを倍の4時間!予約不可だから早いもの勝ちなんだけどね」

 

「あそこの漬け物も最高だよね。あたしはあんまり漬け物食べないけど、そよ風に行ったら必ず注文するもん」

 

「あたしも!あそこの漬け物は最強だ!今日も絶対食べる!!」

 

「香菜。夕飯までお邪魔するのは志保と渚に迷惑だわ。だから2人でなら付き合ってもいいわよ。しょうがなくよ」

 

「え?何で急に?」

 

最高最強の漬け物…。これを聞いて食べてみないわけにはいかないわ。そして盛夏の渡してきたチラシの飲み放題メニューに私の大好きな日本酒『戦乙女』があった。戦乙女と最高の漬け物。至福の時間になるに違いないわ。

 

「しょうがなくよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私と香菜は渚の家のインターホンを押した。

 

「は~い」

 

少しして渚の同居人、志保がドアを開けてくれた。

 

「やっほ志保」

 

「こんにちは、志保」

 

「いらっしゃい。あがって」

 

 

 

 

「あら?今日は夕飯の準備はしてないのね」

 

「あ、うん。今日はちょっと学校で疲れちゃってね。渚が帰ってきたらどこか食べに行こうかと思って」

 

「へぇ、そうなんだ?実はあたし達もこのあと飲みに行こうって事になってんだよ。渚と志保も来る?」

 

「ちょっ!香菜!」

 

「ほんと!?いいの!?」

 

「ダメよ。未成年は連れて行けないわ」

 

「もう!あたし達がしっかり志保がアルコールを飲まないように見とけば大丈夫だって」

 

「うん!あたし絶対飲まない!約束する!ね?こないだの飲み会もあたし飲まなかったじゃん!」

 

「え?前に飲み会したの?」

 

「そ、そうね…。確かに志保は飲まなかったけど、あれは家飲みじゃない」

 

「一度行ってみたかったんだよ!居酒屋!居酒屋料理ってやつ?うちじゃ作れないしさ」

 

ああ…、志保が食いついて来てしまったわ…。この子こうなると聞かないから困ったものね…。

 

「お願い!ね!理奈!!」

 

「ダメよ。今日はファミレスとかにしましょ」

 

「え~、理奈ち~いいじゃんか~!あたし今日はがっつり飲みたい!お願い!」

 

「ファミレスでもお酒はあるじゃない」

 

わ、私も戦乙女飲みたかったのよ。

でも、もう私もいい大人。これだけは譲れないわ。

 

「た、ただいまぁぁぁぁ!!」

 

そんな話をしていると渚が帰ってきた。

 

「お、お帰りなさい、渚。今日は早いわね?」

 

「ハァ…ハァ…た、ただいま…」

 

「どしたの渚?あ、それよりさ、今日の夕飯なんだけど…!」

 

「志保…!大事な話だよ。よく聞いて!ゆ…夕飯の準備は!?」

 

「えと…まだだけど…今日は外で食べようかと思って……」

 

「……良かった」

 

渚?何があったのかしら?私と香菜は場所を外した方がいいかしら?

 

「理奈と香菜も…聞いて…」

 

渚…。わかったわ。聞くわ。

 

「みんな居てくれたならちょうど良かったよ。後でみんなにも連絡しようと思ってたからさ」

 

「話して頂戴。聞くわ」

 

「あたしもちゃんと聞く」

 

「あたしも聞くよ。話の流れ的に予想ついてるけどね…」

 

香菜?あなたエスパーにでもなったのかしら?

 

「んとね。先輩が言ってたんだけどね。今日はそよ風って居酒屋が半額デーなんだよ。だから志保!約束して!お酒は飲まないって!」

 

渚…?何を言ってるのかしら?

 

「やっぱりね…」

 

「約束する!絶対飲まない!!だから…渚、あたしを…居酒屋に連れて行って……ぐすん」

 

あ、いつものが始まったわ。今日はどんな茶番になるのかしら?

 

そう思っていたら渚が自分の部屋に入り、3分程してから麦わら帽子を持って出てきた。

渚の部屋らしき所にはいつも鍵がかかっていて『渚ちゃんルーム☆関係者以外立ち入り禁止』とプレートがかかっている。あの部屋には何があるのかしら?

 

私がそんな事を考えていると渚が志保に麦わら帽子をかぶせた。

私、このシーンある海賊漫画で見たことあるわね。

 

「スウウウウ………当たり前だ!!!」

 

ああ、やっぱりね…。

 

「行くぞ」

 

「「おう!」」

 

ダメだわ…。私以外ノリノリだもの……。

ちゃんと志保には飲ませないようにしなきゃ…。

 

 

 

 

 

------------------------------------

 

 

 

私は雨宮 志保。

最高のバンドでギターをやっている。

 

そして今日はバンドメンバーと居酒屋に行く事になった。あたしはまだ未成年だから理奈は反対していたけど、何だかんだで居酒屋に行く事を了承してくれた。

 

居酒屋とか行くの初めてだからすっごく楽しみ!うちじゃ大きなほっけとか焼けないし、焼鳥とかも炭火とか無理だしね。

 

「志保。絶対にお酒はダメよ?」

 

「大丈夫!あたしが目を光らせとくから」

 

「私、行きたい行きたいと思ってて行けてなかった店だから楽しみ!」

 

「そうなのね?そんなに有名なお店なの?」

 

「ん~…、この辺じゃ有名なのかな?チェーン店とかじゃないけど、料理もお酒もすごく美味しいし。でもネットとかではあんまり聞かないんだよね。隠れ家みたいな感じ?」

 

そんなお店なんだ…。へへ、すごく楽しみになってきた。

 

「あ、ここだよ!そよ風って居酒屋!」

 

「ここまで来たのだし、席が空いてるといいわね」

 

「え?そんなヤバいの?」

 

「先輩もここは絶賛してたしね。今日は半額デーだし確かに心配かな?」

 

「ここの席がいっぱいならファミレスね」

 

「え!?あたし飲む気満々なんだけど!?」

 

あ、あたしも居酒屋ご飯とか食べたいし!お願い!席空いてて!!

 

「取り合えず入ろうよ。ダメだったらそれから考えよ」

 

そして渚がお店の扉を開けてくれた。

 

 

 

「え~、そうなんですね…もう満席ですかぁ…」

 

「大変申し訳ございません。大部屋なら空いてるのですが、こちら10名様用になっておりまして…」

 

「あちゃ~…とても残念~」

 

「あはは、ご、ごめんね、あたしがちょっと遅れちゃったから…」

 

「まどか先輩のせいとかじゃないですよ。今日は別のお店行きましょう!」

 

「あれ?奈緒?」

 

「あー!渚ー!久しぶりー!」

 

「ほんと久しぶりー!こないだご飯行ったのいつだっけ?」

 

「もう2週間くらい前だよ!会いたかったよ渚ー!」

 

「私も私もー!」

 

そう言って2人は抱き合った。よし、あたしは百合じゃない。わかったか、江口!

 

「あら?盛夏?」

 

「およ?理奈ちに香菜?結局飲みに来たんだ?」

 

「うん。でももう席ないみたいだね…」

 

「そうなの…超残念~」

 

え?みんな知り合いなの?大学の友達?

 

「あはは、店員さん、あたし達7人になりましたけど大部屋ダメ…ですかね…?」

 

「あっれー?まどか姉?」

 

「あ、香菜か。めちゃ久しぶりじゃん」

 

え?この2人も知り合いなの?

 

「ちょっと店長に聞いてきますね。しばらくお待ち下さい」

 

そう言って店員さんが奥に入って行った。でも、あれ?あの店員さんに話掛けたお姉さんって…。

 

「あ、みんなちょっと待ってね。みんななんか知り合いみたいだしさ。店員さんに7人でも大丈夫か聞いてみたから」

 

「お!ナイスです、まどか先輩!」

 

「わ、すみません、ありがとうございます!」

 

聞いてみても大丈夫かな?

 

「あの、お姉さんって遊太の…」

 

「ん、そだよ。志保ちゃんだっけ?ライブ参加してくれてありがとね。一緒に居る子達が志保ちゃんのバンドメンバー?」

 

「ふぇ?はぇ?も、もしかして渚もバンドやってるとか?」

 

「え?奈緒も?」

 

「うん!私はBlaze Futureってバンドでギターやるんだよ!」

 

「そうなの!?今度のイベント!それに参加させてもらうバンドのDivalのボーカルが私だよ!」

 

「うっそ!まじ!?」

 

「まじまじ!」

 

「「キャー!」」

 

そう言って2人はまた抱き合った。これが百合だよ江口!!

 

「まさか盛夏のやってるバンドと一緒にライブする事になってたとはね…」

 

「世界って狭いよねー」

 

「それを言うなら世間じゃないの?あたしもびっくりだよ。今度のイベント余計楽しみになってきた!しかもまどか姉のバンドかぁ」

 

そんな話をみんなでしてると店員さんが申し訳なさそうに戻ってきた。やっぱりダメだったのかな…。

 

「大変申し訳ございません。大部屋はやはり団体様用でして…」

 

「あ、いえ、無理をお願いしてすみませんでした。また今度来ますね」

 

「あ、あの店長がそのまま帰ってもらうのは申し訳ないからと…次回の割引券を…」

 

「わ、すみません。気を使わせたみたいで…」

 

んー、ここのお店は残念だけど、出来れば居酒屋行きたいなぁ。大きなほっけのあるところ。あとたまご焼き!

 

あたし達が諦めて店を出ようとした時だった。

 

 

 

「え?何?居酒屋の扉を開いたはずなのに地獄が待ってたんだけど?俺いつ死んだの?」

 

誰かが入って来たと思って目をやると貴がいた。何なのこのご都合主義。

 

「あ、先輩」

 

「え?貴?こんばんはです」

 

「およ~、貴ちゃんだ。こんばんは~」

 

「いえ、人違いです。おい、店いっぱいみたいだわ。別の店に行こう。あれ?身体が動かないぞ?恐怖空間の扉開いて金縛りになっちゃった?」

 

渚が左腕を。奈緒って子が右腕を。まどかさんが首根っこを。そして香菜が腰をホールドしていた。

 

「タカ兄も久しぶり~」

 

「何で香菜までいるの?」

 

貴と香菜も知り合いなの?何なのこの世界。

 

「お?香菜もいんのか?久しぶりだな」

 

「英治先生!お久しぶりです!英治先生も飲み会すか?」

 

「わ、香菜ちゃんだ。久しぶりだねー」

 

この場にBREEZEのTAKA、TOSHIKI、EIJI。貴を好きであろう渚に、TAKAが好きな理奈、そして何となく貴の事を好きそうな感じの奈緒って子に、BREEZEのメンバーと知り合いらしき香菜、そしてまどかさんとあたし。

 

そんなメンツが揃った。何なのこの面白空間。

 

「あ、店員さん。割引券は申し訳ないので結構です。10人になりましたし大部屋大丈夫ですか?」

 

「はい!ご案内しますね」

 

「え?まじで?まどかお前何言ってんの?」

 

 

 

 

 

そして店員さんに少し広目の部屋に案内してもらった。おおー!ここが居酒屋の個室ってやつなんだね!しかも掘炬燵!!

 

「まぁ、飲めたらいいか。俺は端っこでちびちびやっとくわ…」

 

「俺もそれで…あはは」

 

「んじゃ、席はあたしが決めちゃうね!」

 

「は?」

 

「え?」

 

まどかさんがそんな事を言うものだから、貴もトシキさんもびっくりしている。

 

「タカもトシキもここはまどかに任せようぜ。俺達は後から来たんだ。ここは従うべきだろ?」

 

「え?なんで?」

 

「貴はいつも文句ばっかりですね」

 

「そうだよ~。はじめましての人もいるんだしさ~」

 

「え?はじめまして?誰が?」

 

あれ?奈緒って子と盛夏って子とまどかさんは貴のバンドメンバーだからいいとして、渚は同じ職場、あたしはこないだから知り合い。香菜も何だか知り合いみたいだけど、理奈ははじめましてじゃないの?

 

「もう!先輩!この子うちのベースの子です!はじめましてじゃないんですか?」

 

「……あの、はじめまして」

 

「ああ、そだったな。はじめまして。ほら、こないだ水瀬と志保とライブ来てたろ?それでな…」

 

あ、あの時のか。あたしの事も覚えてたみたいだしね。

 

「あの…失礼ですけど、渚の事は水瀬って苗字呼びなのに、志保は名前呼びなのですね。ロリコンなのかしら?」

 

「「「「「「うん」」」」」」

 

「いや、何でお前らが答えるの?違うから。全然違うから」

 

あたしと理奈以外が返事した。貴はロリコンだったんだ……

 

「いや、違う言うてるやん」

 

え?あたし口に出してないよ?

 

「とにかく!店員さんも忙しい中ここで注文待ってくれてるし!!さっさと1杯目のドリンクと席決めるよ!」

 

あたしはオレンジジュースを頼み、あたし以外はみんなビールを頼んだ。

そしてまどかさんが席を決め始めた。

 

「貴と英治はタバコ組だしね。横はタバコも大丈夫な人がいいと思うし、せっかくのこういう場なんだから親睦を深めるのもいいと思うの!」

 

という建前の元。多分まどかさん的に悪意のある席になった。席順はこうだ。

 

奥側

盛夏・奈緒・貴・渚・香菜

トシキ・まどか・理奈・志保・英治

通路側

 

「え?お前アホなの?何でこの並び?タバコ組の俺がなんで真ん中?志保とか未成年なのにタバコ吸う英治の横とかありえなくない?てか何で居酒屋にいるのJK」

 

「え?あたしはタバコの煙も平気だよ?英治さんなら話やすいし、Dival集まってるから遠慮もいらなさそうだし」

 

あたしがそう言った後にまどかさんが、

 

「それに渚ちゃんと理奈ちゃんで、志保ちゃんがお酒とか飲みそうになったら止める人役ってのもあるしね」

 

「いやいや、なら俺が席順考え…」

 

「タカ、せっかくの場だぞ?男同士で並ぶのは無しな?」

 

「で?タカは誰の隣を選ぶの?隣に座りたい女の子がいるの?」

 

「このままでいいです…」

 

さすが師弟コンビ。見事なコンビネーションだ。理奈が貴の前ってのも面白くなりそうだしね!

 

そして店員さんがドリンクを持ってきて、まどかさんの乾杯の音頭と共にあたし達の飲み会が始まった。

そう、この時まではあんな血の惨劇が待ってるとはあたしも思ってなかった…。

 

「じゃ。食べ物適当に注文しちゃうね?何か食べたいのある?」

 

「あ!あたしほっけとたまご焼き食べたいです!」

 

まどかさんが、注文をまとめてくれるようだ。あたしはすかさずほっけとたまご焼きを注文した。

 

「そうね、漬け物を取り合えず10人いるし10人前かしら?」

 

「え?理奈ち漬け物好きだったん?」

 

「俺、ビールおかわり」

 

え!?貴もう飲んだの!?早すぎない!?

 

それからあたしの夢見てた居酒屋メニューが並び、軽く自己紹介をはさみ、みんな楽しく談笑していた。

 

渚と奈緒が貴を挟んで、貴を放置しながら談笑し、まどかさんとトシキさんと盛夏で談笑し、あたしは英治さんと香菜と談笑し、貴は一人でビールをぐびぐび飲んでいる。

そして理奈も黙って日本酒を飲んでいる。この2人いったい何杯目なんだろ…。

 

「ねぇ?そろそろ席替えしませんかね?水瀬も奈緒も俺挟むより直接隣同士のが話しやすいだろ?」

 

「え?別に貴なんか気にしてないし私は平気ですよ?」

 

「私も全然大丈夫ですよ」

 

「いや、でもな?」

 

「貴は…私の隣じゃ…嫌?」

 

「先輩…私とじゃ嫌…ですか?」

 

「い…いいけど…」

 

「「チョロいですねー!」」

 

あはは、いいように扱われてるなぁ。貴は。あたしがそう思った時だった。

 

「渚と奈緒の隣は良くて席替えをしたいというのは、正面が私だから嫌なのかしら?」

 

「え?いや、そんな事ないですけど…」

 

「それにいつまで私には敬語なのかしら?これは親睦を深める意味もあるのでしょう?正面にいるのに全然話もしないし」

 

「え?いや、その…悪い。あれだ、あんまり可愛いからつい緊張しちまってな…」

 

「「は?」」

 

渚、奈緒、目にハイライトが入ってないよ。怖いよ…。

 

「か、かわ!?…まぁ、そうね。私は可愛いもの。確かに緊張して話せなくなるというのはわからなくもないわ」

 

「り、理奈?」

 

え?理奈何を言ってるの?酔ってるの?

 

「でも遠慮はいらないわ。話しなさい」

 

「は?えっ…とあれだ」

 

「お見合いじゃあるまいし趣味とか特技を聞いて来たりとかしないわよね?」

 

「………。俺はキラークイーンが好きなんだけど…」

 

「ごめんなさい。ジョジョはわからないの」

 

「いや、それですぐジョジョってわかるあたりあれだよな?」

 

「すみません、私ちょっとお花摘み行ってきますね」

 

そう言って奈緒が立ち上がった。

 

「トイレをお花摘みとか言うあたりあざといな」

 

「む、何ですかそれ!」

 

「女の子相手にトイレとか本当にデリカシーのない男ね」

 

「はぁ、すみませんねぇ。あ、俺タバコ買ってくるわ」

 

「あ、それなら私がお花摘みのついでに買ってきましょうか?」

 

「いや、いいよ。悪いし。ちょっと行ってくるわ」

 

え?何で理奈は貴に喧嘩腰なの?本当に酔ってるの?これは席替えした方がいいのかな?

 

「貴~。お花畑まで行くのしんどいです。手を引いて下さい~」

 

「何?脳内お花畑のくせして何言ってんの?バカなの?」

 

そう言いつつもちゃんと手を引いてあげてるあたり貴らしいなぁ。

 

「なるほど、その手があったか…」

 

渚?

 

「ふぅ……参ったわね」

 

理奈?やっぱり貴のこと嫌なのかな?

 

「やっぱりイケメン過ぎるわ。緊張して全然話せなかったわ…」

 

「「「は?」」」

 

「イケメン?どこに?」

 

「渚は何を言っているのかしら?貴さんに決まってるじゃない」

 

「「「は?」」」

 

「さっきは頑張って話してみたけれど、どこか変じゃなかったかしら?」

 

「え?理奈…貴に喧嘩売ってたんじゃないの?」

 

あたしは理奈に聞いてみた。

 

「何故?」

 

「え?だって…」

 

え~…。どう見ても喧嘩売ってるような感じしたんだけど…。

 

「あの頃より少し痩せた感じだから、この前に見かけた時はわからなかったけど、やっぱりかっこいいわね…」

 

あの頃?理奈やっぱり…。

 

「痩せた?いつ?誰が?」

 

「貴さんに決まってるじゃない」

 

「あれ?理奈ちゃんってタカに会った事あんの?」

 

まどかさんが理奈に聞いた。

 

「ええ、子供の頃に何度か。ライブもよく行ってたわけだしね」

 

「え?理奈って先輩がBREEZEのTAKAってわかってたの?」

 

「そりゃわかるわよ。トシキさんも英治さんもいるわけだし。それより渚。やっぱりあなたも貴さんがBREEZEのTAKAって知ってたのね?」

 

「あっ、ヤバ…」

 

「ほぇ?何何?何の話?」

 

奈緒がお花摘みから戻ってきた。って、あの子本当にお花持ってるんだけど何でなの!?

 

「あ、あはは。おかえり奈緒。何でもないよ。それよりそのお花どうしたの?」

 

うん。わかるよ渚。あたしもお花が気になる。

 

「え?お花摘み行ってくるって言ったじゃない?それより何の話?」

 

「ああ、実は理奈ちゃんも昔にBREEZEのライブに行った事あるんだって」

 

「わぁ!そうなんだね!私も昔によく行ってたんだよ!BREEZEの曲なら何が好き?」

 

「そうね。Futureとか好きよ」

 

「一緒だ!私もFuture好き!!」

 

「なんか俺らの前でそんな話されてると照れちゃうな」

 

「あ、それで何でBREEZEの話に?」

 

「ああ、この子がタカの事イケメンだって言うから」

 

「へぇー。やっぱりわかる人にはわかるんだなぁ。あ、理奈。貴には私がBREEZEのTAKAって気付いてるの内緒にしててね」

 

「え?なぜかしら?」

 

「ん~、まぁ今なら貴も居ないしいっかな?ぶっちゃけね、私の初恋の人なんだよね~」

 

「わ、私もよ。私も初恋が貴さんなの」

 

来た!?来たの!?これから修羅場が始まるの!? あたしが目をキラキラさせて理奈の方を向くと、理奈を挟んで目をキラキラさせてるまどかさんと目が合った。……なんかごめんなさい。

 

「へ、へぇー、そうなんだね。理奈は今も貴の事好きなの?」

 

「ええ、好きよ。奈緒はどうなのかしら?」

 

「う、う~ん…正直好きなのかもって思うけど、それが恋か~とかなったら微妙なんだよね。だから、こんな中途半端な気持ちじゃさ?貴に好きとか言えないし、理奈が本気で好きなら今なら応援できるよ。でも、今だけだよ。もしかしたらこれが恋って自覚しちゃったらさ。応援なんか出来ないかもしれないし」

 

奈緒…。いつもポケポケしてる女の子って思ってたけどやっぱり色々考えてるんだね。

 

「それを聞いて安心したわ。私もあなたと同じよ。貴さんと久しぶりに会って、昔はよく話もしてくれたのに、今日は全然話してくれなくてイライラした。ってのはあるわ。一緒に居たい。もっとお話したい。とは思うけれど……これが今も恋なのかどうかはわからない。ってのが今の私の意見かしらね」

 

「あは、あはははは。あははははは。いきなりタカフラれてる!あははは」

 

え?まどかさん……?爆笑なの?

 

「だから奈緒。奈緒が貴さんをBREEZEのTAKAだった事を知っている事は内緒にしてっていうなら内緒にするわ。安心してちょうだい」

 

「う、うん。ありがとう…」

 

「それに私は抜け駆けはしないからそれも安心して。もし恋だと気付いて、本気で好きになったらちゃんと言うわ」

 

「わ、私も恋だと気付いたらちゃんと言うよ!だ、だからその時は応援してくれたら嬉しいかな~?なんて…」

 

「そうね。その時もこれは恋じゃないと思ってたら応援するわ。でも恋だと気付いた後なら負けないわよ」

 

「そ、それは私も…だから…」

 

あれ?血の惨劇になるかな?とか思ったけど、そうならなかったな…。なら、あたしもまだチャンスは……。ん?チャンスって何?

 

「「で?渚は?」」

 

理奈と奈緒が渚に聞いた。渚はなんて答えるんだろう?

 

「ふぁ!?私!?私は先輩の事好きとかじゃないよ!?」

 

「そっか。なら良かった。信じていい?」

 

「渚。私達はちゃんと話したわよ?」

 

「う……うぅ……わかんない…。先輩の事好きとかじゃないと思ってるけど…でも、嫌。先輩が誰かと付き合うとかなんか嫌。だからって邪魔とかもしないけどさ。先輩も早く結婚出来たらいいな。とは思ってるし」

 

渚…。

 

「どうしても先輩が誰かと付き合うなら…」

 

「マイリーとならいいか?」

 

「「「「「ふぁ!?」」」」」

 

「ただいま。何の話しとるん?」

 

こ、このタイミング!このタイミングで帰って来るとかなんなの!?

 

「お、遅かったわね。私に恐れをなして逃げたのかと思ったわ」

 

「は?なんで?」

 

「先輩いつ戻ってきたんですか?」

 

「いや、今だけど?」

 

「そうじゃなくてどこから話を聞いてのかって聞いてるんです!」

 

「あ?なんかあれだな?字面だけだと水瀬が話してんのか奈緒が話してんのかわからねぇな?」

 

「いやいや、何言ってんですか?」

 

 

 

 

 

 

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おお~おお~!

いいね!若いね!青春だね!!

渚も理奈ちも奈緒も、もちろんタカ兄もあたしより歳上だけどね!

 

あたしの名前は雪村 香菜。

初めてのモノローグがこんなおまけ編みたいな話になるとは思ってなかったなぁ。あ、おまけ編とか言っちゃった。てへり!

 

でもまさか渚と理奈ちからあんな爆弾発言を聞けるなんてね~。飲み会ってのはこういうのがあるから楽しいね!

 

「で?何の話してたの?俺の悪口?」

 

「貴の悪口なんて言うわけないじゃないですかぁ?あ、あれですか?悪口言われて興奮したかったとかですか?気持ち悪いです」

 

「先輩の悪口とか言ったら、何かセクハラで仕返しされそうだし言うわけないじゃないですか」

 

「私達の話題に自分が入ると思ってたのかしら?自意識過剰にも程があるわね」

 

「今リアルタイムで悪口言われてないか?」

 

「あ、タカまだ何か飲む?」

 

「ああ、ビールよろ」

 

「それよりお前遅かったよな?何かあったか?可愛い子でも居た?」

 

うん!英治先生はいつも通りだね!

それよりさっきから全然喋らないトシ兄はチャーハンをオカズにお茶漬けをばくばく食べてるし、盛夏はもくもくとデザートメニューを端から食べていってるし、もうシメに入ってるの?まだ2時間経ってないよ?

 

「ああ、タバコ買ったついでにコンビニでタバコ吸ってたらな。宮野に会った」

 

「ブホッ!」

 

英治先生がビールを吹き出した。汚いなぁ…。

 

「え!?はーちゃん宮ちゃんに会ったの!?」

 

「ちょちょちょちょ…宮野ってもしかしてTAKUTOさんですか!?」

 

「え?TAKUTO?誰それ?」

 

宮野…聞いた事はある。

宮野 拓斗。英治先生達のBREEZEのベースをやっていた人だ。あたしもまどか姉も会った事ない人。

 

「え?だって…宮野に会ったって…。あ、ごめん、まどかちゃん。ご飯セット大盛り注文してもらっていい?」

 

「え?あ、ああ、うん」

 

トシ兄まだご飯食べるの?

 

「お前、拓斗に会ったってマジか?呼べよ俺を!」

 

「さっきからお前ら何言ってんの?拓斗って誰だよ。宮野ったら晴香の事だけど?」

 

「なんだよ、晴香かよ…びびらせんなよ。5滴ほどチビったじゃねぇか。それにもう晴香は宮野じゃねーし」

 

え?チビったの?どうしよう英治先生の近くに居たくない。

 

「俺もびっくりしたよ。おかげでご飯セット来る前にチャーハン全部食べちゃったじゃん。あ、まどかちゃん、石焼ビビンバ注文してもらっていい?」

 

トシ兄…石焼ビビンバはオカズなの?

 

「あ、私、このドーナッツおかわりしたい~」

 

盛夏!?久しぶりに喋ったと思ったらおかわり!?

 

「あの、晴香って誰です?」

 

「いや、私も知らない」

 

「ああ、晴香ってのは拓斗の妹だ。そしてこの店のオーナーでもある」

 

奈緒ちゃんの問いにタカ兄がそう答えた。

 

「や、はーちゃん、宮ちゃんの事やっぱり覚えてるよね」

 

「チ、誘導尋問とはやるな…」

 

「え?え?え?ここってTAKUTOさんの妹さんのお店なんですか!?」

 

「うん、そうだよ。ここは宮ちゃんの妹さんのお店なんだよ。だからそよ風」

 

「いや、晴香でも呼べよ。久しぶりに会いたかったのによ」

 

「厨房行ったら会えんじゃね?」

 

「TAKUTOさんに妹さんが居たなんて知らなかったです…」

 

「私も知らなかったわ」

 

「は?理奈は昔晴香にめちゃ可愛がってもらってたろ?忘れたのか?」

 

「え?」

 

「昔?」

 

「あっ……」

 

それから誰も一言も発さなかった。

これはあたしでもかなり気まずい。タカ兄って理奈ちと昔に会ってたの覚えてたの?

 

「よし、せっかくの飲み会だ。みんなでしりとりでもするか」

 

いや、何でよタカ兄…。いくらなんでも強引過ぎるよ。

 

「お待たせしましたー」

 

ナイス!店員さん!このタイミングはありがたい!!そう!ここだ!このタイミングこそがこの面子の中で、唯一のパリピうぇいうぇい勢であるあたしの出番だ!

 

「みんな飲み物も行き渡った?タカ兄も戻ってきた事だしさ。チビった英治先生の近くにいるのも嫌だし席替えタイムにしよ~!」

 

「え?チビったっての冗談だぞ?」

 

「はい!ここに番号の書かれた紙を用意しました!奥側から1番2番って席番号決めたので、みんなでこの紙を引いていきます!」

 

「そ、そだね。もうすぐ2時間になるし同じメンバーで話してても親睦会にならないしね!席替えしよっか!あたしもチビった英治の近くとか嫌だけど!」

 

「そうだね。俺もみんなと色々話してみたいし。俺は英ちゃんがチビってても近くでもいいよ」

 

まどか姉とトシ兄のフォローもあり、席替えタイムに入った。よし、席替えしたらどんな席になっても場の流れは変えれる…!!

 

そして席が決まった。

 

奥側

理奈・貴・志保・奈緒・香菜

英治・盛夏・渚・まどか・トシキ

通路側

 

な、何ぃぃぃぃ!?

そ、そんなバカな…!何故こうなった!?

タカ兄と理奈ちをサポートしようと思ったのにあたし遠い!遠いよ!!

 

しかもタカ兄と理奈ちの近くにいるのは空気を読めるくせに敢えて読まない英治先生に、空気の読めないフリーダム盛夏!何か、何か手を考えないと…。

 

「う~…またはーちゃんとも英ちゃんとも離れちゃった…」

 

「まぁまぁ、近くにあたしと香菜いるしまだ話しやすいでしょ?」

 

「あ、まどかさんとはちゃんとお話するの初めてですよね。先輩から色々お話聞いてるので話してみたいって思ってたんですよ」

 

「タカから話ってろくな事じゃないでしょ?」

 

「あはは、私も欲望に向かう純粋なる乙女でして…」

 

「同志よ!!」

 

まどか姉が渚に抱きついた。まどか姉が同志って呼ぶって事は渚はそっちか…。ハッ、ヤバい!それって盛夏もじゃん!

 

「ほうほう、まどかさんも渚さんもそうだったのかー。実は何を隠そうあたしもなのだー」

 

くっ、まぁ最初からあてにはしていなかったけど、盛夏はダメだね。こうなったら志保!頼んだよ!

 

「貴、どうよ?JKの隣って。嬉しいでしょ?」

 

「は?ちょっと肩が触れただけで高額請求が来そうで怖いんだけど?」

 

「あ、そいや奈緒ってギターなんだよね?」

 

「うん、そうだよ。まだまだ練習中だけどね」

 

「あたしもギターだしさ。仲良くしようよ」

 

志保も奈緒に行ったぁぁぁ!!

くっ、もうこうなったら英治先生に任せるしかない。そう思い英治先生を見るとあたしの方を見て笑顔で親指を立ててくれた。

 

終わった。もう無理だ。詰んだ。

ごめんね。理奈ち。あたしにはもう打つ手はないよ…。

 

「それにしても理奈って綺麗になったよな。小さかったから、俺達の事なんか覚えてないと思ってたけどよ。な?タカ」

 

はい。いきなり爆弾投下しましたね。

理奈ち、頑張ってね。あたしにはもう無理だよ。

 

「香菜ちゃん」

 

「トシ兄……何?」

 

「英ちゃんなら心配しなくても大丈夫だよ。はーちゃんもね」

 

ほんとかな…。でもトシ兄もちゃんとまわり見てるんだなぁ。

 

「あの、英治さんも私の事覚えてるのかしら?」

 

「そりゃな」

 

「貴さんもやっぱり覚えてたのよね?」

 

「まぁな。水瀬んとこのベースが理奈ってのは今日初めて知ったけどな」

 

「そう。子供の頃はよく話してくれてたのに、大人になったら話してこなくなるなんて……本当にとんだロリコンね」

 

「昔はあんな可愛かったのになぁ」

 

「私は今でも可愛いわ。そしてその発言は自分がロリコンだと認めてるようなものよ?わかっているのかしら?」

 

「いや、 見た目とかの話じゃないからね?」

 

「ふぅ…2人共私の事を覚えてるなら、改めて挨拶するわね。貴さん、英治さん、お久しぶりです」

 

「おう、久しぶり」

 

「ははは、久しぶり」

 

本当だ。普通に話せてる。あたしの心配って何だったんだろ。うん、もう大丈夫そうだね。

 

「まぁ、どうでもいいとは思うのだけれど、父も元気にしているわ」

 

「「知ってるよ」」

 

「え?」

 

「今でも氷川さんとは俺と英治と3人で飲みに行くしな。トシキは平日は20時には寝ちゃうから来ないけど」

 

「ああ、だから理奈の事は写真も見せてもらってたしcharm symphonyのCDも写真集も買わされたぞ?なぁタカ」

 

「あ、あの男は何をしているのかしら…。って写真集も!?」

 

「ああ、まぁね」

 

「まさか私の写真を見ながら毎晩毎晩如何わしい事を……」

 

「するわけないだろ。そもそも如何わしい事って何ですかね?」

 

「そう…してないの…」

 

何で理奈ち残念そうなの!?

あら?よく見たらみんな会話止まってるね?渚は相変わらず目にハイライトが無いし、奈緒ったらほっぺたぷくーと膨らませちゃって!いやん可愛いわね!

 

「でね~、あたしはあのアニメのカプはね…」

 

「そうだよね!そうだよね!なのに制作側ときたらさー……」

 

あ、まどか姉と盛夏は平常運転だわ。

 

「そ、それで私の事も見ただけでわかったって事かしらね?」

 

「まぁな。理奈がcharm symphony辞めたって時かな?氷川さんが泣きついて来たの。こないだ会ったのはそん時だわ」

 

「め、迷惑かけたわね…」

 

「おお、あん時な!あん時大変だったよな。タカに理奈を嫁にとか言ってて。………あっ」

 

英治先生ぃぃぃぃぃ!!『あっ』じゃないよ!?何をぶちこんでるの!!?

さっきまでカプがどうとか話してたまどか姉と盛夏もそっちの話に食い付いてるじゃない!

 

「え!?痛い!痛いよ奈緒?あたしの左腕に爪…爪が食い込んでる!渚も!なんで正面にいるあたしの右腕を掴んでるの!?隣にまどかさんも盛夏もいるじゃん!あ、あの、すみません。まじ痛いです」

 

志保…不憫な子…。

 

「な、何を言ってるのかしら。あの父親は……」

 

「ただの冗談だろ?真に受けんなよ」

 

「何を言ってるのかしらね?そんなの本気にするわけないじゃない。仮に貴さんが承諾したとしても私が断るわ」

 

「承諾するわけないだろ」

 

「私が断るわ」

 

「何?大事な事だから2回言ったの?」

 

それを聞いて安心したのか渚と奈緒は志保の腕を離した。

 

「た、助かった…痛かった…うぅ…なんであたしがいつもこんな目に…」

 

志保…ガンバ!

 

「そうそう!ちゃんとタカも断ってたから安心していいぞ!」

 

「それはそれで私がフラれたみたいでムカつくわね。そうね、だったら…」

 

「でさ!貴は何て言って断ったの!!?」

 

志保…そんなに大きな声出して…。よっぽど痛かったのね?もう掴まれるような話は回避したいのね?

 

「あ?お前俺らの話聞こえてたの?」

 

聞いてる!聞いてるよタカ兄!この場にいるみんなに聞こえちゃってるよ!

 

「えっと確か氷川さんに気を使って無理難題ふっかけたんだよな?」

 

「そうそう、理由なく断るのは『うちの娘がそんなに嫌かー』とか言われそうだし」

 

「俺ら昔から氷川さんにはお世話になってるからな」

 

「それで?何て言ったの?」

 

「確か…タカはJDが好きだからJDと結婚したいそうなので無理です。とか言ったんだっけ?英治が。いきなり大学生になるとかいくらなんでも無理だしな」

 

「ははは、そうそう!JKとか言ったら犯罪っぽいからな。そしたらタカが理奈がJDだったら考えたんですけどね。JDマジ天使とか言ったんだよな」

 

「え?あれ?理奈って確かお父さんに無理矢理大学に復学させられたんじゃなかったっけ?………あっ」

 

「「は?」」

 

志保ぉぉぉぉぉ!!!『あっ』じゃないよ!?それ理奈ちのお父さん本気にしてるって感じじゃん!!何自爆してんの!?もう!あたしが助けなきゃ…!

 

あっ、志保が渚と奈緒に掴まれた。

 

「痛っ!痛い!ちょっ…待っ…いだだだだだ…………」

 

ごめんね。志保。あたしと志保は遠すぎたよ……。

 

「もしもし?お父さん?私よ

…………え?もう私私詐欺の下りはいいわ。時間の無駄よ。

…………え?本当の娘ならゴリラの物真似をしろ?私がいつゴリラの物真似をしたのかしら?

…………毎日?そう、この世にもう未練はないのね?

………そうよ。最初から素直に答えてたら良かったのよ。それで、私を大学に復学させたのはどういう理由かしら?

……………ええ、ええ、大学くらいは卒業しとけって事なのね?本当にそれだけなのね?

…………わかったわ。信じるわ。それより今、貴さんと英治さんといるのだけれど

……あっ、……いきなり電話を切られたわ」

 

「おい、英治やばい。氷川さんからLINE来たよ。旅に出るってよ」

 

「え?マジでか………おい、俺はもっとヤバい。初音からLINE来てる。どうやら俺には盗聴器が仕込まれてるようだ…」

 

「……父に着信拒否されてLINEもブロックされたわ」

 

こ、こうなったら…トシ兄!なんとかして!お願い!わぁー!結局他人頼り!

 

「あ、まどかちゃん、卵かけご飯頼んでもらってもいい?」

 

ダメだね…。あたしにはこの世界は荷が重かったよ…。

 

「いだだだだだ…!!マジ…マジで痛い!!」

 

ごめんね。志保……。

ううん、まだだ。あたしには…まだやれる事が残ってるはず…考えろ。あたしは…パリピうぇいうぇい勢だ……!!!

 

「せ、席替えタ~イム」

 

あたしには…これが精一杯だよ…。

 

そして何とか席替えをする事に成功した…。

 

奥側

志保・香菜・トシキ・理奈・英治

貴・盛夏・まどか・奈緒・渚

通路側

 

 

 

------------------------------------

 

 

私の名前は水瀬 渚。

今日は先輩達のBlaze Future、私達のDival。そして、先輩の昔のバンドBREEZEの皆さんと飲みに来ている。

 

今度11月12日に私達は一緒にライブイベントをやる。まぁ、もちろん先輩は今はBREEZEじゃないし、Blaze Futureとして参加なんだけど…。

 

先輩は……怖くないのかな?

また声が出なくなったら……。そう思ってたら…。私は…。

 

「う…うぅ……ひっく…ひっく…ぐすっ」

 

「てかさ?何で志保泣いてんの?」

 

あれ?ほんとだ。志保、何で泣いてるの?

 

「よしよし、もう大丈夫だからね」

 

香菜が志保を慰めている。いいなぁ。私も志保をヨシヨシしたい。

 

「え?てかマジで何で?また俺の近くになったから?」

 

「ぐすっ…貴のせいだよ」

 

え!?志保、先輩に何かされたの!?

 

「え?いや、すまん?え?ほんと俺のせいなの?」

 

「貴に…傷物にされた…。責任取ってよね」

 

ガタタタッ

 

「エ?志保それどういう事?た…貴に傷物にされタ…?」

 

「ヘェー?センパ~イどういう事ですか?志保にそんな事……シたんですか?」

 

「二人共落ち着きない。取り合えず警察を呼ぶわ。二度と出てこれないように完全に抹殺するわ」

 

「ちょっ…ちょっと待って!奈緒ちゃん、渚ちゃん、俺の髪の毛引っ張らないで!俺のこれ地毛だから!どこかのマスターとは違うから……!痛い…!禿げる……!!あと理奈!お前が掴んでるのもスマホじゃない!俺の髪の毛!まずお前が落ち着け!!」

 

「まどかさん!ドーナッツおかわり!」

 

「はいよ~。盛夏はドーナッツ好きだねぇ」

 

「盛夏!まどか!落ち着くのお前らじゃない!こいつらを落ち着かせて!!」

 

「あ、ついでに俺ビール」

 

「貴はまたビールですか?飲みすぎ良くないですよ?あ、まどか先輩私もビールで」

 

「あ、私もビールお願いします。でもちょっとツマミが足りないかな?」

 

「私は戦乙女を……。ツマミなら漬け物を10人前頼んではどうかしら?」

 

「あはは、理奈ちほんと漬け物好きだね」

 

「もう!みんなバラバラに頼まないで!一人ずつゆっくり注文して!ほら、まず奥から聞いていくよ。志保は何かいる?あ、お酒はダメだよ?」

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!落ち着き方が違う!違うから!ゆっくりしてる場合じゃないから!抜ける!抜ける…!!」

 

「お前あれだよ?女の子いっぱいいるのに抜ける連呼とか下ネタかよ。変態の極みだよ?グビッ」

 

「ちょっ…タカ、てめぇ!わざわざ俺の横まで来たなら助けろよ!俺を!しかも俺のビール取ってんじゃねぇ!いだだだだだ…マジで痛い!」

 

「貴…」

 

「あ?」

 

「あたし…ほんとに痛かったんだからねっ!」

 

「「「フン!」」」

 

ブチブチブチ

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「てか志保さっきから何言ってんの?ジュースで酔ったの?」

 

「ううん、ほらこれ見てよ手」

 

「お前、血ぃ出てんじゃん。大丈夫?え?それ俺のせいなの?舐めようか?」

 

「うわ、きも…」

 

「うわ~痛そう~まさに血の惨劇だね~……」

 

何だ…手か…びっくりした。もう!志保ったら変な事言って!

 

「ふぅ、どうやら通報せずに済みそうね…」

 

「ほんとだよね。まぁ、貴にはそんな度胸ないとは思ってましたよ~」

 

「先輩って肝心なとこヘタレだもんね」

 

「お前ら何で俺ディスってんの?てか、志保、ほんとに大丈夫か?」

 

「うん、大丈夫。あたしだけじゃないとわかって、ちょっとだけスッキリしたから」

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

「おこんばんは~!!」

 

そんな奇声と共に私達の個室の扉が開かれた。え?誰?

 

「おっす!来たよ!」

 

「は?誰も呼んでないけど?」

 

すごく可愛い子だ。私と同い年くらいかな?

 

「わざわざ元カノが会いに来たのにその反応って何なの?」

 

え?元カノ?誰の…?先輩の…?

 

「は?お前誰かと付き合ってたの?まさか英治?」

 

あ、先輩のじゃないのか良かった…

ん?良かったって何でだろ…?

 

「え?私って貴の付き合ってた人にカウントされてないの?身体の関係なだけ?」

 

あれ?英治さんと志保が部屋から出ていった。どうしたんだろう?

 

「いつ俺とお前が身体の関係になったの?」

 

「いや知らないけどね」

 

「お前あれだよ?コンビニで言ったやん?俺バンドまた始めたって。俺のバンドメンバーの前で変な事言わないでくれる?」

 

「いや、トシキはツッコミもなくおろおろするだけだろうし、英治にするとあいつ妻帯者だし色々あんじゃん?で、消去法で貴」

 

「それ言ったらお前も旦那も子供もおるやん?」

 

「晴香ちゃん久しぶり~」

 

「トシキはほんと久しぶりよね!」

 

あ、さっき言ってた拓斗さんの妹さんかな?

 

「あ!あんたが理奈!?ほんとにすごく綺麗になってるね!!」

 

「え、え、あの…どうも…」

 

「懐かしいなー!理奈にはめっちゃ私のおっぱい揉まれまくったしね!」

 

「え!?」

 

晴香さんおっぱい大きいもんね~……。え?待って、歳いくつ?理奈の子供の頃にそれって…私よりかなり歳上!?

 

「それより何しに来たの?」

 

「ああ、英治に話したい事あってね。貴、タバコ1本頂戴」

 

「あ?自分の吸えよ」

 

そう言いつつも普通にタバコ渡すもんね。文句言わないで素直に渡せばいいのに。

 

「ほら、私今は仕事中だし?タバコは持ってきてないのよ。あ、タバコ代は身体で払おうか?」

 

「お願いしますって言ったらどうする?」

 

「私の今後の一生が貴を奴隷に出来ると思ったら奮えてくる」

 

「俺の一生ってタバコより安いの?」

 

「あ、それより英治は?」

 

「さぁ?さっきまでは居たんだけどな」

 

「そか、ならまた今度でいいかな。あ、お客さんそろそろラストオーダーなんですけど注文どうします?今ならお友達特別価格で+1,000円で1時間追加もオッケーすよ?」

 

「いや、じゃあそろそろ…」

 

「「「「「追加で」」」」」

 

「お前らまだ飲むの?」

 

「ありゃぁす!じゃあ私行くね」

 

「あ、待てよ。英治多分トイレとかじゃねぇの?ちょっと見てくるわ」

 

「あ、別に今度でいいって」

 

晴香さんの静止も聞かずに先輩は英治さんを探しに行った。先輩は相変わらず先輩だなぁ。

 

そんな事を考えてると私は晴香さんと目が合い、そして晴香さんが私に近付いて来た。

 

「あなたが貴の彼女さん?」

 

「え?」

 

え?え?え?

 

「ありゃ?ごめん。違った?」

 

「は、はい。そうです」

 

え?私何言ってんだろ…。

 

「「は?」」

 

「あは、あはははははは…!!!」

 

「そっか、やっぱりね!」

 

そして晴香さんは私の頭に手を乗せて

 

「貴の事お願いね。あのバカ誰かの為にしか生きれないから…。助けてあげてね」

 

え?何?どういうこと?

ダメだ…ちゃんと言わなきゃ…。

ちゃんと…言わなきゃ…。

 

「はい。守ります。絶対に一人にはしません」

 

「ありがと」

 

そう言って晴香さんは部屋から出て行った。嵐みたいな人だったなぁ。

 

ハッ!?私なんかヤバい事言ってない!?

 

「な…渚…?」

 

「そう?そういう事?」

 

奈緒!?理奈!?

 

「え!?あ、違う!違うから!なんか晴香さんの雰囲気に飲まれちゃって!」

 

ううぅ…私ほんと何言ってるんだろ…

 

何で『一人にはしません』って思ったんだろう……

 

 

 

 

 

それから先輩と英治さんと志保が戻ってきて、アニメやゲームの話しとか、バンドの話とかをして、私達の親睦会は終わった。

 

なんか色々あったけど終わりよければ全て良しってね!

 

「じゃあみんな気を付けて帰れよ」

 

「お疲れ様~」

 

なんか話足りないな…

 

「先輩…」

 

「ん?何だ?」

 

「…先輩、ライブしたいです」

 

「は?いきなりどした?」

 

「デビューライブが11月なんて遠すぎです」

 

「ん?ならみんなと話合ってライブしてみたらいいんじゃねぇか?」

 

「先輩と…Blaze Futureと対バンしたいです」

 

「は?何だいきなり…どうかしたか?」

 

「ダメですか?」

 

「……ほんとどした?」

 

「困らせちゃいましたか……ひぐ…」

 

あれ?何で泣いてるの私?これじゃ余計先輩を困らせちゃう…!

 

「水瀬?」

 

「ちが…ちがくて…あれ?何だろ?なんか…あれ?」

 

あれ?あれ?涙が…止まらない…

 

「ごめん…なさ…い…うぅ……」

 

「はぁ……。めんどくせぇ…」

 

そう言って先輩は私の頭に手を置いて撫でてくれた。

 

「落ち着いたか?」

 

「せ…せんぱ…」

 

「水瀬を泣かしたとかなったらまたどんだけディスられるかわからんしな。それなら酔った勢いで水瀬にセクハラした変態ってディスられた方がマシだわ。え?これどっちにしろ俺ディスられんじゃん」

 

先輩…先輩…

 

「もう…大丈夫です」

 

「おう。そか」

 

「はい」

 

「誰にも見られてないよな?大丈夫かな…」

 

もう、先輩は…

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「私、Blaze Futureと対バンしたいよ。そこでDivalのデビューライブやりたい。やろうよ。貴…」

 

「水瀬…?」

 

「今は仕事中じゃないよ」

 

「は?名前呼びとか無理だけど?てか、水瀬って俺の名前知ってたの?」

 

「は?私以外みんな名前呼びやん」

 

「そだけどさ?あれじゃね?なんか照れくさい?」

 

「え?何?今までは苗字で呼んでたけど、改まって名前で呼ぶの照れちゃうとか?女子か!」

 

「え?何言ってるのん?」

 

「うわ、最悪や!私、男の人にあんな事されたの初めてやったんに!」

 

「……そういうのやめてくれませんかね?」

 

「だったら男らしく仕事中以外は渚って呼んだらええやん」

 

「はぁ…わかったよ。んで、対バンの事だけどな」

 

「渚」

 

「は?知っとるわ。だから対バンだけどな」

 

「な・ぎ・さ」

 

「はぁ…わかったよ渚。対バンの事だけどな」

 

「うん」

 

「英治に聞いてみてやれそうな日あったら連絡するわ」

 

「ありがと、貴。楽しみにしてる」

 

「おう」

 

えい!

 

〈〈〈ギュ〉〉〉

 

「お願いね。今日はありがとう。貴」

 

「おおお…おう」

 

私は貴に抱きついて、少ししてから離れた。

うわー!私何やってんの何やってんのー!!!ヤバい!月曜から仕事行けない!!

 

「今からラーメン行く人ー!?」

 

「「はーい!」」

 

まどかさんがラーメンを食べに行く人を募集かけて、志保とトシキさんが賛同した。

 

「今から飲み直し行く人ー!?」

 

「「はーい!」」

 

英治さんが二次会の募集をかけて、盛夏と香菜が賛同した。

 

志保もラーメン食べに行くみたいだし私もラーメンに行こうかなぁ?貴はどうするんだろ?

 

「ねぇ?貴はどっち行くの?ラーメン?飲み会?それとも私と二人でどっか行っちゃうとか?」

 

「お前何言ってんの?じゃあ2人でどっか行くか?とか言ったらどうするの?」

 

「ん…初めてだから優しくしてね…」

 

「え?え?は?」

 

「って言うと思った?まじきもいよ?そういうの。そういうのは私を惚れさせて彼氏になってからにしてくれる?結婚前提でなら私の初めても捧げてあげようじゃないか」

 

「惚れさせてってのが無理じゃね?可能性あんの?」

 

「世の中ある事は証明出来ても、ない事は証明出来ないんだよ?」

 

「あ、ダメだ。これ可能性ない時の台詞だもの」

 

「え?そんなに私としたいの?」

 

「……バカじゃねぇの?」

 

「それよりほんとどうする?ラーメン?飲み会?」

 

「あー、もうちょい飲んでくかな。みな…渚は?」

 

「志保はラーメンみたいだしラーメンかな!」

 

「はいはい。百合百合」

 

そしてじゃあなって言って、貴が英治さんの方に歩いて行った。いや~!焦ったね!ヤバかったね!ほんと色々ヤバかったね!うん。私かなり飲み過ぎちゃってるね!

 

私はラーメン食べに行こうと思った時にふと思った。そして背中に冷たいものが走ったような感覚。

 

まどかさんの募集したラーメン。

まどかさんと志保とトシキさんの3人だ。

 

英治さんの募集した飲み会。

英治さんと盛夏と香菜と貴で4人。

 

そして今私がここに居て合計8人。

 

ヤバい。あの2人が居ない!?

 

私は早くラーメンに参加しなければと動いた。いや、動いたように思っただけだ。

 

な…なんだ!?体の動きが…に、鈍いぞ!?ち…違う、動きが鈍いのではない…、う…動けんッ!ば…ばかな!?

 

「渚、志保は今日は自宅に帰るそうよ?」

 

「たまには家に帰って掃除したいんだって~」

 

私は両肩を奈緒と理奈に捕まれていた。ば…ばかな!?これが女の子の握力とでもいうの!?それに今まで志保はそんな事を言った事はない。そう1度も…1度もだ…!何で今日に限って…!

 

「私も飲み足りないと思って、飲み会に行こうかとも思ったのだけれど、どうせ飲むなら戦乙女のある渚の家とかいいかな?と思って」

 

「それでね!私と理奈で渚ん家に泊まっていい?って聞いたらね?志保がいいよ。って!でも志保は自宅に帰るとか言ってさ。残念」

 

「あ、あはは、う、うん。それはいいんだけどね?」

 

「それに色々聞きたい事もあるしね」

 

「聞きたい事?」

 

「うん、渚が泣いてた事」

 

奈緒…

 

「そしてその後に貴に頭撫でられてた事とか…」

 

え?奈緒…?目のハイライトが仕事してないよ?

 

「私も聞きたい事あるのよ」

 

「な、何かな?」

 

「対バンの事よ。私達とBlaze Futureの」

 

うん、そうだね。わぁぁ、ほんとに私達ライブやるんだね。楽しみになってきた!

 

「そしてその後に貴さんに抱きついていた事とか…」

 

理奈?そんな綺麗なお顔でハイライトないとね?ガチで怖いよ?中に誰もいないですよ。とか止めてね?ほんとにいないからね?

 

「渚の家とか楽しみ!早く行こう!」

 

「そうね。楽しい時間はすぐに過ぎちゃうものね。急いで帰りましょう?」

 

私の家に帰宅後、3人で色々話し合った。うん、ほんとに色々…。

 

そんな中、貴からLINEが来て、ライブが来週の土曜日に決まった。思ってたより早い日程だ。明日からしっかり練習しなくちゃ!

 

でもそれよりも…私達3人は他の心配事もあった。

 

それは私達が帰宅中の事……。

 

 

 

『ほら!早く!渚!!』

 

『嫌じゃ…わしはまだ死にとうない死にとうない…』

 

『渚は何の心配をしているの?』

 

〈〈〈ドン〉〉〉

 

『キャッ』

 

いたたたた。下向いて歩いてたら人とぶつかっちゃった。取り合えず謝らな…きゃ……

 

私はぶつかった人を見て恐怖した。

 

すごく冷たい目。この世の全てを壊してしまいそうな。そんな目をした人だった…。

 

『あ、ごめんね。俺、この辺久しぶりでね。ちょっとよそ見してたから』

 

その人はさっきとはうってかわり、すごくばつの悪そうな顔で笑いながら私に手を差し出してくれた。優しそうな笑顔と声…。でも私は手を差し出す事はせず、一人で起き上がった。

 

『わ、私の方こそごめんなさい。大丈夫ですか?』

 

『俺は大丈夫だよ。じゃあ、俺は行くね。ほんとにごめんね』

 

そしてその人は私達の前から去って行った。

 

『あはは、ごめんね。さ、帰ろうか……理奈?奈緒?』

 

『そんな…何でこんな所にいるの…?』

 

『今の…TAKUTOさん…だよね…?』

 

『え?』

 

『多分…他人の空似じゃなければね…』

 

『今は連絡も取れないって言ってたのに…』

 

『それよりもよ…あんなに優しそうな人だったのに』

 

『うん、すごく…怖かったね…』

 

『もしかしたら本当に他人の空似かもじゃない?』

 

『うん。だといいけど…』

 

 

------------------------------------

 

 

「フゥー、やっぱり仕事終わりのタバコはうめ~。……やっぱり貴には言えないかなぁ…。兄貴が…この街に帰って来てる事は……」

 


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