バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第3章 4人目は可愛い女の子?

「俺は江口 渉。

Ailes Flamme(エル フラム)ってバンドでボーカルをやっているナイスガイだ。

バンドをやっていると言っても、メンバーも揃ってないし、練習すらしてないけどな!」

 

「渉、そういうのは心の中で思ってたらいいんだよ?誰に語りかけてるの?」

 

「そう俺に語りかけて来たのは同級生の内山 拓実。パティシエを目指す高校生だ。俺達Ailes Flammeのベースを担当している。

って言ってもベース持ってないし弾いた事もないんだけどな!」

 

「弾いてるよ!?練習してるよ!?」

 

「え?そうなのか?ベース買ったのか?」

 

「そう拓実に話し掛けたのは秦野 亮。蕎麦が好きだ」

 

「なぁ?なんかオレの紹介雑じゃないか?」

 

「あはは…自分のベースは持ってないけど軽音楽部から借りてるんだ。先生に聞いたら部員もほとんどいないから貸してくれるって言ってたし」

 

「え?この学校軽音楽部あったのか?俺は疑問に思い、拓実にそう質問してみた」

 

「知らなかったの?」

 

「じゃあ、今からやる事は決まったな。そう、この学校に軽音楽部が存在するならやることは1つだ。俺はそう思った」

 

「拓実、そういう事は早く言えよな」

 

「どうやら亮も俺と同じ気持ちらしい」

 

「え?え?どうするの?」

 

「とりあえず殴り込みだ!そしていいドラマーが居たらAiles Flammeに入ってもらう!」

 

「オレ達のデュエルギグデビュー戦だ。必ず勝つぞ。もし負けても勝つまでノーカンだ」

 

「いや、意味がわからないよ!それに今行っても多分部員なんていないよ?」

 

「そんな拓実の制止を振り切り、俺達は軽音楽部へと向かった。なんだかんだ言って拓実もやる気満々だった。なかなか好戦的な男だ」

 

「やる気満々じゃないよ!?好戦的でもないし!そして変なモノローグを口に出さないで!?」

 

 

 

 

 

「なんだよ、結局ついて来てるじゃないか」

 

「渉も亮も軽音楽部の存在も知らなかったのに部室わからないでしょ。それに変な事しないか心配だし」

 

「そういう拓実だが獲物を狙う獣の目をしていた。手には鈍器が握られている。これは軽音楽部の連中もひとたまりもないだろう。俺はそんな拓実の方が心配だった」

 

「渉…もうそろそろやめよ…?ね?」

 

「で、軽音楽部ってこっちでいいのか?」

 

「え?いや、逆だよ?あっちだよ」

 

「「先に言えよ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして俺達は軽音楽部の部室の前に来た。俺は扉に手をかけた。緊張する。この扉の向こうにはどんな猛者がいるのか。心臓の鼓動がはんぱない。あれがあれでドキドキしてる」

 

「雑になってきたね」

 

「飽きてきたんだろ」

 

「たのもー!俺は勢いよく部室のドアを開けた」

 

「開いてないよ?それに扉とかドアとか全然統一性もないし…」

 

「ああ…鍵がかかってるみたいだ。勢いよく開けようとしたから指が……指が……」

 

「あー、本当に部員いないのな」

 

「うん、僕も会った事ないし。何人かはいるみたいなんだけどね」

 

「俺達に恐れをなして逃げたか…いや、違うな。これは罠だ」

 

「罠?」

 

「ああ、こうして俺は指に絶大なダメージを受けた。俺がボーカルで良かったぜ。これが拓実か亮だったら楽器の演奏に支障が出てるところだったろ?」

 

「思いっきり自爆だからね?」

 

「でも誰もいないんじゃしょうがないな。また明日にでも出直すか?」

 

「いや、放課後に来たらいいんじゃない?今昼休みだよ?」

 

「拓実、そういう事は早く言えよな」

 

「だな、貴重な昼休みの時間が減ったじゃないか」

 

「僕が悪いの?もう、教室帰ろ」

 

「いや、2人は先に帰っててくれ」

 

「渉はどうするの?」

 

「先に保健室行ってから帰る」

 

「そんなに痛かったの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと放課後だな」

 

「渉の左手すごい包帯だね…大丈夫?」

 

「ああ、あまりにも痛くてペンを握る事すら出来なかった。今度ノートコピーさせてくれ」

 

「渉、右利きだよね?」

 

「おう、渉、拓実、待たせたな。軽音楽部行くか?」

 

「そうだな。そろそろ殴り込むか。俺は左手の痛みに耐えながら、軽音楽部の部室へと向かうのであった」

 

「ん?あんたら軽音楽部入るの?」

 

「俺達が軽音楽へ向かおうと席を立った時、同じクラスの雨宮 志保が話し掛けて来た。滅多にクラスメイトに話し掛ける事はないし、友達はいないが気は優しいクールビューティーだ」

 

「ク…クールビューティーって…!そ、それに友達くらいいるし!」

 

「そう言って雨宮は顔を紅潮させていた」

 

「なんなの?江口、頭でも打ったの?」

 

「ごめんね、雨宮さん。なんか今日はモノローグっぽい事を口走ったりしてるんだ。飽きてきたら雑になるんだけどね」

 

「ふぅん…。さすが我が校の三馬鹿の一人ね」

 

「ぷっ、マジか。渉のやつ三馬鹿とか言われてんのか?」

 

「残り2人は秦野と内山だけどね」

 

「なんで僕も!?」

 

「まじかよ…これから生活態度改めよ…」

 

「で、あんたら軽音楽部に入るの?」

 

「いや、入部するつもりはないよ」

 

「今から殴り込みだ。俺は雨宮に力強く答えた」

 

「は!?」

 

「違うでしょ!僕達バンド組んだんだけどまだドラムがいないからさ。ドラムやってくれる人いないかな?と思って」

 

「そうだったか?」

 

「殴り込んでデュエルギグデビューするんじゃなかったのか?」

 

「あんたらね…まぁいいか」

 

「なんだよ?軽音楽部になんかあんのか?俺は雨宮に聞いてみた」

 

「いや、軽音なんて今の時代どこの学校にもあるような部活だし、割と活動的な部活じゃない?うちは別に進学校ってわけでもないし、それなりに部員がいる方が普通じゃない?」

 

「そういやそうだな。オレも拓実に聞くまで存在すら知らなかったもんな」

 

「まぁ、噂なんだけどね。あたしらが1年の時。入学したての頃はそれなりに活気のある部活で、結構な部員も居たらしいのよ」

 

「そうなのか?なら何で今は人がいないんだ?」

 

「最後まで聞きなって。それで、ある日を境に部員がみんな辞めていった。どうもね。一人の女の子に全員デュエルギグで負けたらしいのよ」

 

「なるほど」

 

「一人の女の子に」

 

「全員デュエルギグで負けた」

 

「何よ。みんなしてじっとあたしの顔を見て」

 

「確か雨宮ギターやってたよな?かなり上手いって聞いてるし」

 

「あたしじゃないわよ」

 

「あれだけデュエルギグ野盗蹴散らしてんだし、この学校の連中なんて余裕だろ?」

 

「は!?何であんたそんな事知ってんの!?あたしのストーカー!?こわっ!きもっ!!」

 

「亮、拓実、俺はもうダメだ。華のJKにキモいって言われた…」

 

「メタ発言するからこんな事になるんだよ?もうやめようね?ね?」

 

「うん、もう止める……ぐすっ」

 

「メタ発言……?まぁ、いいわ。それで不思議なのが、その女の子はこの学校の生徒じゃないみたいなんだって。あたしもそんな女の子がいるんだったらデュエルしてみたかったんだけどね」

 

「それでオレ達が軽音楽部に入ったらまたその女の子が現れるかもしれないと思って声掛けてきたのか?」

 

「そゆこと。軽音楽部に行ってそんな女の子と会えたら教えてよ。仇は討ってあげるから」

 

そう言って雨宮は帰っていった。

そして俺はもうモノローグっぽい事を口に出すのは止めた。

だってキモいとか言われたくないから。

 

「渉?どうしたの?黙りこんで」

 

「脳内でモノローグでも流してるんじゃないか?さっき雨宮からのキモいの一言が堪えたんだろ」

 

「ああ…、雨宮さんには感謝しなくちゃね。それで?どうするの?軽音楽部行く?」

 

「ああ、当たり前だろ。もしそんな女の子がいるなら会ってみたいし」

 

「でもこの学校の女子じゃないんなら行っても意味なくねぇか?」

 

「でもまだ数人の部員はいるって聞くよ?その中にドラマーもいるかもだよ?」

 

「その残ってる部員に聞いてみるのもいいしな。とりあえず行っても損はないだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺達は軽音楽部の部室前へとやってきた。

扉を少し開けてみる。

よし、今度は鍵が開いてる。

 

「たのもー!」

 

俺は勢いよく扉を開いた。

 

「あ…誰もいないのか…?」

 

亮が俺の後ろから部室を覗いてそう言った。

 

「鍵は開いてるのにね?」

 

「え?お前ら何言ってんだ?そこにいるじゃねーか」

 

俺は部室の隅を指差してそう言った。

 

「あ、ほんとだ。ごめん、ちょっと陰になってて気付かなかったよ」

 

「あれ?お前、井上か?」

 

「あ、ほんとだ。1年の時同じクラスだったよね!」

 

「久しぶりだな!今は亮と同じクラスだっけ?」

 

「あ…あの……ひ、久しぶり」

 

こいつの名前は井上 遊太(いのうえ ゆうた)

去年同じクラスだったやつだ。

あんまり話した事はないけど、大人しい感じのやつだ。

 

「井上くんって軽音楽部だったんだね」

 

「今日は井上一人しかいないのか?」

 

「あ、あの…うん…きょ…今日は…」

 

どうも今日は井上しか居ないらしい。

せっかくだから雨宮の言ってた女の子の事聞いてみるか。

 

「なぁ、軽音楽部の部員全員をデュエルギグで倒した女の子って井上知らないか?」

 

「なんかそんな噂があるんだって!」

 

「あ、あの…その…」

 

「やっぱ、知らないか。悪かったな変な事聞いて」

 

「え、いや……」

 

うーむ、やっぱり雨宮が言ってた女の子って、ただの噂話なのかな?

 

「そうだ!井上くん!この軽音楽部にドラムやってる人いないかな?」

 

そう拓実が切り出した。

 

「ドラム…?」

 

「ああ、オレと渉と拓実でバンドを組む事にしてな。今、ドラムを探してるんだ」

 

そして俺達は井上に俺達の事、Ailes Flammeの事、BLASTの事を話した。

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

「いるよ……ドラム…お、女の子だけど…」

 

「え?本当に!?」

 

「なぁ、良かったら紹介してくれないか?」

 

「う…うん…この学校の子じゃないけど……ダメかな?」

 

「いや、全然いいぞ!同じような気持ちでバンドやれるなら男でも女でも、同じ学校でも別の学校でも問題ねぇよ」

 

おお!いきなりドラムやってる人と知り合えるチャンスがきた!!

 

「井上、向こうの都合でいいから紹介頼むよ」

 

「あ…あの、今日でも……いいよ」

 

「お、まじでか!?」

 

「すまん、井上助かる」

 

「井上くん!ありがとう!!」

 

「ぼ…僕は、行けないから…3人で18時に…『ミルフィーユ』ってスタジオに…」

 

そう言って井上はスマホを見せてくれた。どうやらミルフィーユってスタジオまでの地図らしい。

 

「お、オレ、ここならわかるぞ」

 

「18時か、もう少し時間があるね」

 

「その子には連絡しとく…ね」

 

「おお、ありがとうな。スタジオならオレ達も演奏した方がいいのか?」

 

「あ、そうだね。バンドに入ってもらうなら演奏を見てもらった方がいいかな?」

 

「う…うん、その方がいい……かも…」

 

「オレ達も楽器取りに帰ってから、また集まるか」

 

「ああ、そうだな。井上!ありがとうな!」

 

そう言って俺達が部室から出ようとした時だった

 

「え…江口くん…」

 

「なんだ?」

 

「一緒に…バンドやれるといいね…」

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがミルフィーユってスタジオか」

 

「あ、でも僕達その子の名前も顔も知らないよ?」

 

「そ、そういやそうか…スタジオに入れるのか?井上が着いてきてくれてたら良かったんだけどな」

 

「キミ達がAiles Flammeだね!!」

 

「「「え?」」」

 

俺達が声のする方を見ると可愛い女の子が立っていた。

 

「わぁ、すごい可愛い女の子だね…」

 

「なんか亮が好きなタイプの女の子だな。な?亮」

 

亮の立っていた場所を見ると亮は居なかった

 

「オレ、秦野 亮ってんだ。君の名前を聞かせてくれないか?よかったら電話番号とかLINEとか」

 

亮はいつの間にかその女の子の前に立っていた。

 

「早いよ亮…」

 

「遊太に聞いてるよ!ギターの秦野 亮くんでしょ!そしてボーカルの江口 渉くん!ベースの内山 拓実くん!」

 

「よ、よろしく」

 

「よろしくな!」

 

「ボクはシフォン!よろしくね!」

 

「シフォン?外人さんなのか?」

 

「ボクっ娘か…いいな」

 

「まぁまぁ、それより早速演奏聞かせてもらおうかなっ!それともいきなりボクとデュエルギグしちゃう?3対1でいいよ!」

 

「いいな!デュエルギグやろうぜ!」

 

「え!?いきなり!?」

 

「オレ達3人相手って…大丈夫か?」

 

「大丈夫大丈夫!絶対負けないよ!」

 

「すげー自信だな!」

 

「ふふん、君達の学校の軽音楽部潰しちゃったのはボクだからね!その繋りで遊太と知り合いなんだよ!」

 

「雨宮の言ってた女の子って…」

 

「シフォンさんの事だったんだ…」

 

「俺達のデビュー戦にはもってこいの相手だな。やろうぜ!デュエル!」

 

「それを聞いて挑んでくるなんてバカだよね。それとも自信があるのかな?」

 

「俺達には達成させるべき目標があるからな。その為にはレベルをもっと上げないといけない。今の自分達のレベルを知る為には実戦が手っ取り早いだろ」

 

「いいね!熱いね!そういうの大好きだよ!」

 

「渉……」

 

「お前、ちゃんと考えてんだな…」

 

「じゃあ早速スタジオに入ろうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺達はシフォンにボコボコにやられた。

惜しい事もなく、圧倒的だった。

これが今の俺達のレベルか。

 

「うん!でも思ってたよりは良かったかな」

 

「思ってたよりは良かったって、俺達そんなダメだと思ってたのか?」

 

「そりゃそうでしょ。拓実くんはまだベースやりはじめたばかりで技術が全然ない。だからまだいいとしてー」

 

「え?いいの?」

 

「うん。まずは練習!弾きまくる!ベースの技術を磨いていけばいい。次の課題はそれからかな?って思うよ!」

 

「あ、うん。そうだよね。まずはちゃんと弾けるようにならないと…」

 

「うんうん!次は渉くんかな。歌が上手いけどそれだけだよね?」

 

「え?それじゃダメなのか?」

 

「全然ダメダメ!ちゃんとまわりの音を聴いて歌わなきゃ!この歌知ってるから。って思いっきり歌ってるだけじゃダメだよ。ちゃんとメンバーの出すメロディを聴いて、それに合わせて歌わなきゃ」

 

「な、なんだか難しいな。俺は割と合わせるつもりなんだけど…」

 

「つもりじゃダメだね。まぁ、これはメンバーの音を聴きまくるとかかなぁ?次に亮くん」

 

「あ、ああ」

 

「昔からギターやってるだけあって技術は高いよね!」

 

「おお、サンキューな」

 

「だからダメだね」

 

「え?」

 

「ずっと一人でギター弾いてたんじゃない?セッションとかした事ないでしょ?」

 

「あ、ああ。ないな…」

 

「今は一番の経験者なんだからまわりの音に合わせるようにしないとね。まぁ、完璧過ぎる故の…ってやつかな?(ニコッ」

 

「か…可愛い…」

 

亮のやつ、シフォンの話聞いてるかな?

 

「う~ん、ほんとは渉くんについてた方がいいかもだけど、亮くんの方が問題かな。よし!ボク、ギターも出来るからね!亮くんは私と一緒にセッションしながら練習しよう!」

 

「ああ、結婚しよう」

 

「ほえ?」

 

「いや、な、何でもない!悪い!助かる!」

 

「ねぇ、渉…」

 

「ああ、亮がこうなったのは小学校以来だ。懐かしいな。あの時は血の雨が降ったっけな」

 

「血の雨!?」

 

「拓実くん、しばらくは放置しちゃう事になるけどごめんね。わからないところとかあったら聞いてくれたらいいからさ!」

 

「う、うん!ありがとう!」

 

シフォンは俺達に色々教えてくれるみたいだ。ありがたいな。

 

「シフォン、ありがとうな。俺達こんな下手なのにバンドに入ってくれて」

 

俺は感謝の気持ちをシフォンに伝えた。

 

「え?ボクAiles Flammeに入るなんて一言も言ってないよ?」

 

「「「え?」」」

 

「ボクも憧れてるバンドとドラマーがいるからドラムやってるし、いつかはバンド組みたいとは思ってるよ?でもボクより圧倒的に下手なバンドに入ってもボクにメリットないでしょ?」

 

「あ、いや、そうだけど…」

 

バンドに入ってくれるから俺達に色々教えてくれるんじゃなかったのか…

 

「じゃ、じゃあ、何で僕達に色々教えてくれるの?」

 

「んー、一応遊太に頼まれたし、暇つぶしかな?」

 

その後も俺達はシフォンに色々と教えてもらった。

初めてのデュエルギグは散々だったけど、初めてのバンドの練習はすげー楽しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シフォンにバンド入ってほしいな…」

 

朝からずっとシフォンの話をしている。

もう放課後だ。今は亮が来るのを待っている。

 

「ああ、ほんとにね。教え方も上手だったしドラムもすごかったし…」

 

今日も色々教えてもらいたかったな。

 

「お、おい!渉!拓実!」

 

亮が俺達の教室にやってきた。

 

「ああ、遅かったな」

 

「そんなに慌ててどうしたの?」

 

「さっき井上に話掛けられてさ。シフォンが今日もオレ達に来ていいって言ってくれてるらしいぞ」

 

「まじか?朝、井上に昨日の礼を言った時は何も言ってなかったのにな。放課後までに連絡してくれたのかな?」

 

俺は登校してから自分の教室に行く前に、井上にシフォンを紹介してくれた礼を言いに行った。

 

シフォンに色々教えてもらえて楽しかった事、助かった事、それらの報告も兼ねて。井上のおかげで俺達はシフォンに出逢えたんだしな。

 

「やったね!今日も色々教えてもらおう!」

 

「ほんとにやったな!今日も会える!」

 

「「え?」」

 

俺達の騒がしい声を聞いたのか、雨宮がまた俺達の席にやってきた。

 

「よう、クールビューティー」

 

「よう、ストーカーきも男」

 

「亮、拓実。俺もうダメ。もうお家帰る」

 

「で、どしたの?朝から死んだ顔してたのに今はやけに元気じゃない」

 

「ああ、え~っと……話しても大丈夫だよな?」

 

「うん、大丈夫だと思うよ」

 

そして俺はクールビューティー雨宮に昨日の経緯とシフォンの事を話した。

 

「へー、実在したんだ?その女の子」

 

「みたいだな。でもただ上手いだけじゃないぞ?すごく可愛いぞ」

 

「はいはい。今日も会うんならさ、あたしも連れてってよ」

 

「は?ダメに決まってんだろ」

 

「そんなすごい女の子ならあたしもデュエルしたいしさ。それにうちもドラム探してるしね」

 

「尚更ダメに決まってんだろ。シフォンはオレと結こ…Ailes Flammeに入ってもらいてぇんだからな」

 

「けっこ?

ねぇ、いいじゃんか?ね?お願い!」

 

さすがにいきなり連れて行くわけにはなぁ。

 

「ダメだ。明日とかにしろよ。また今日聞いててやるから」

 

「あたし明日バイトなんだよ。お願い!ね!」

 

「ダメだ。諦めろ」

 

「わかったよ。ケチ」

 

「雨宮さん、ごめんね」

 

「じゃあね、あたしは職員室に行って帰るよ」

 

「職員室に呼び出しか?雨宮にしては珍しいな」

 

「いや、あたし優等生だし。呼び出しなんかくらうわけないじゃん」

 

「そっか、じゃあな」

 

「ただ、先生に同じクラスの江口くんにストーカーされて怖いですって泣きついてくるだけだよ」

 

「は!?」

 

何言ってんだこいつ!

自分と俺の生活態度考えろよ!?

ダメだ。俺の人生詰んだ…。

さようなら楽しい学園生活…。

 

「渉…」

 

「渉。お前との学園生活楽しかったよ。出来れば一緒に卒業したかったな」

 

お前ら助けてくれないの!?

くそ、こうなったら…

 

「わかったよ。連れてってやる。そのかわりその事忘れろ」

 

「へへ、りょ~かい!ありがとうね、江口」

 

そうして今日は雨宮も連れて行く事になった。

井上にその事を連絡してもらおうと思ったけど、教室にも部室にもいなかった。

シフォンには会った時に謝ろう…

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ?」

 

「ん?」

 

スタジオに向かう道中、雨宮が話し掛けてきた。

 

「秦野のやつ何でスキップしてんの?」

 

「ああ、シフォンに会えるからだろ」

 

「え、ガチのやつ?」

 

「あはは、うん、そうみたい…」

 

「へー、そんなに可愛い子なんだ?秦野って女に興味ないんだと思ってた」

 

「いや、そんな事ねぇだろ?」

 

いくらいつも俺達と一緒に居るっていっても、俺達そんな関係じゃないからな?

 

「いや、あいつモテてるよ?さりげなく優しいし、黙ってればイケメンだって女子の中じゃ人気だよ?」

 

え?そうなの?

 

「そうなんだ…亮は確かにかっこいいもんね」

 

「で?それで何で女に興味ないってなるんだ?本人がモテてる事に気付いてないだけじゃねーの?」

 

「いや、秦野に告ってフラれたって子多いし」

 

は!?告られたりしてんのあいつ!

 

「そんな話聞いた事ねぇけど……」

 

「亮…さすがだよね…」

 

え?何で?幼馴染が遠くに感じるよ?

俺ですら告られた事なんて幼稚園以来ねぇってのに……!

亮…後ろから刺されないように気を付けろよ。俺に。

 

「どうしたんだ?渉、拓実、やたら怖い顔してんぞ?」

 

「そ、そうかな?」

 

「なんでもねーよ」

 

「わかりやすいね、あんたら」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな話をしているとスタジオミルフィーユの前に着いた。

少し早く着きすぎたかな?

いつもより歩くペースの早いやつが居たしな。

 

「へー、こんな所にスタジオなんてあったんだ。今度渚と来てみようかな」

 

ハイハイ百合百合。

 

おっと、こんな事言ったらまた学園生活のピンチになっちゃう。自重しよう。

 

「わぁ!みんな早いね!」

 

スタジオの中に入ろうとするとシフォンもちょうど到着したようだった。

 

「お、シフォン、今日もよろしくな」

 

「シフォン、こんばんは!」

 

「ねぇ、江口。あの子?」

 

「ん、ああ」

 

「ふぅん、確かに可愛いね」

 

「シフォン、悪い。今日はクラスメイトもついて来てんだ…」

 

「ほえ?」

 

そう言ってシフォンが俺達の後ろに目をやる。

 

「やっほ!よろしくね」

 

雨宮がシフォンに挨拶をした。

 

「女の子…?よろしくね!」

 

そう言ってシフォンも雨宮に挨拶をした。

悪い印象はなかったか。心配しすぎたかな。

 

「ねぇ、その子、渉くんか、亮くんか、拓実くんの彼女さん?」

 

「ないわね」

 

雨宮が即答する。

 

「違うよ!」

 

拓実が即答する。

 

「こいつは百合だ」

 

俺が即答する。

 

「百合?」

 

雨宮が聞いてきた。やばい。

 

「可愛いクラスメイトって意味」

 

「ふぅん」

 

興味をなくしてくれた。良かった。

 

「シフォン、こいつはただの同級生だ。オレの隣は…あいているぞ」

 

亮がおかしな事を言ってる。

聞かなかった事にしよう。

 

「そうなんだね。雨宮さん、よろしくね!」

 

そして雨宮がシフォンの前まで歩いて行った。百合!?百合が始まるのか!?

 

「あたしがこんなやつらの彼女のわけないでしょ?で、何やってるの井上」

 

「ふぁ!?な、何言ってるの雨宮さん!」

 

「あいつらには内緒なんだ?別に言うつもりなんてないけど詰めが甘いよ?今日初めて会ったのに、あたしが雨宮って名前だと知ってるはずないでしょ?あいつらバカだから気付いてないけど」

 

「う…あ…あの…ごめん…」

 

「なんで謝るの?あはは。言ったでしょ。言うつもりはないって。男の娘してるって事はもしかしてキュアトロ好きだったりする?」

 

雨宮とシフォンが何か内緒話っぽいのをしている。

そしてなんかシフォンは嬉しそうだ。

 

「もちろんだよ!ボクが憧れてるバンドはCure2tronだし、ミントに憧れてドラムもやってるんだもん!」

 

「そうなんだ?あたしもキュアトロ好きだよ」

 

「Cure2tronいいよね!元気になるっていうか、勇気を貰えるっていうか!」

 

「あはは、あたしもそう思う。また学校でも色々話そうよ」

 

「う、うん!」

 

「あいつらには内緒でね」

 

「ご、ごめんね」

 

「じゃあさ、デュエルしようよ!うちの軽音楽部潰した女の子がいるって聞いてさ。演奏()ってみたかったんだよね」

 

「あ、でも…」

 

「いいよね?江口?あたしちなみに百合の意味知ってるから!」

 

「思う存分デュエルをお楽しみ下さいませ」

 

俺は深々と頭を下げた。だってもう少し学生生活楽しみたいもん。

 

「渉!?」

 

「あ、雨宮さん…え、江口くんと仲良いの?」

 

「え?あんたそっち?」

 

「違う!!それはない!!」

 

「あはは、どっちでもいいけど。安心して。あたし別に好きな人とかいないし、江口もそんな対象じゃないから」

 

「だから違うって~…」

 

「秦野も大変だね。ししし」

 

 

 

そして雨宮とシフォンのデュエルが始まろうとしていた。

 

「シフォン、本気で来てね。あたしも本気でやる」

 

「うん!ボクも本気でやるよ!」

 

俺も亮も拓実も昨日とは違う緊張感。

シフォンの本気が伝わってくるような…。

そんな雰囲気に飲まれていた。

 

鍾愛(しょうあい)させてあげる!あたしの最高の音楽!」

 

「ボクの本気を翼に乗せて!」

 

♪~

 

すげぇ……すげぇって言葉しか出て来ねぇ。

なんだよ…これ。雨宮もシフォンも全然次元が違う…。

シフォンも昨日は俺達のレベルに合わせてデュエルしてくれてたんだ…。

 

バンドをやる。

ライブをやる。

BLASTを越える。

 

俺達は…全然ダメだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁぁぁぁ!負けちゃったよぉぉぉ!」

 

「ハァ…ハァ…最高だったよシフォン!」

 

本当にすごいデュエルだった。

俺も、亮も、拓実も何も言えなかった。

 

「さて、あたしは帰ろかな。渚も待ってるしね」

 

「雨宮さん!また!また絶対デュエルやろうね!」

 

「うん、絶対やろ!次も負けないから!」

 

何も言葉が出ない…。

俺は…俺達は…。

 

「凄かったな。ほんとそんな言葉しか出ねぇよ」

 

亮が最初に口を開いた。

 

「渉、拓実。俺はシフォンにAiles Flammeのドラムになって欲しい。けど、シフォンはそれじゃダメだ」

 

「うん…そうだね」

 

亮の言う通りだ。シフォンは雨宮みたいなやつとバンドを組むべきだと思う。

 

「雨宮、ちょっと待ってくれないか?」

 

亮が雨宮を呼び止めた。

すまん、亮任せた。

 

「何?渚が待ってんだけど?」

 

「いや、すまん。シフォンはさ。バンドをやりたくて最高のバンドを探してんだ。お前、ドラム探してるって言ってたろ?シフォンをお前らのバンドに入れるって事、考えてみてくれないか?」

 

亮、嫌な役任せちまったな。すまん。

 

「は?秦野、本気で言ってんの?それでいいんだ?」

 

「……くっ」

 

「ふぅ…はいはい。あんたのその顔で十分だわ」

 

「亮くん?」

 

「あんたのその頼みはお断り。じゃ、あたし帰るね」

 

「なっ!なんでだよ雨宮!お前…」

 

「そんな人生の終わりみたいな顔でお願いされて、はいそうですか。ってシフォンをバンドに勧誘する程あたし強くないから。かよわい女の子なもんでね」

 

「は?誰が?」

 

あ、思わず声を出してしまった。

 

「江口…あんたそんなに学校卒業したくないんだ?」

 

「大変申し訳ございません」

 

これからの学園生活の為なら土下座なんて安いもんだ。あれ?目から汗が。

 

「それにさ」

 

そう言って雨宮はシフォンの前まで行って

 

「シフォンがやりたいバンド。ほんとは決まってるもんね?江口達とやりたいんでしょ?」

 

「え!?な!なんのこと!?」

 

雨宮がシフォンに何かを言った後シフォンは顔を真っ赤にして何か言い出した。

 

そして雨宮は俺達の方を向いて

 

「全く……この男共は…しょうがない…」

 

そしてまたシフォンの方を見て

 

「シフォン、またデュエルしよって言ったよね?」

 

「え…うん」

 

「じゃあ次あたしとやるまでにこいつら強くしてなさいよ?」

 

「雨宮さん…」

 

「あたしのバンド最高のバンドだからね!次はあたし達のバンドとAiles Flammeのデュエル!よっぽど鍛えないと勝負にもなんないよ!」

 

「う…うん!ボク負けないからね!」

 

「期待してる。じゃあね。あ、渚がお腹空かせてるかも!アイス買って行ってあげよ」

 

そして雨宮は帰っていった。

え?どういう事なんだ?

 

「……渉くん、亮くん、拓実くん」

 

「ん?」

 

「なんだ?」

 

「何かな?」

 

「ボーっとしてる場合じゃないよ!すぐ練習するよ!」

 

「え?あ、ああ…」

 

「お、おう…」

 

「え?え?」

 

「雨宮さんに次は勝つんだから!Ailes Flammeとして!だからこれからもよろしくね!」

 

え?どういう事だ?

それってシフォンはAiles Flammeに入ってくれるって事か…?

 

「シ…シフォン。それってオレ達とバンドをやってくれるって事か…?」

 

「もう!嫌なの!?さっきからそう言ってるじゃん!これからは厳しくいくからね!!」

 

「「「お…おう!」」」

 

こうして俺達Ailes Flammeにボーカル、ギター、ペース、ドラムが揃った。

シフォン以外まだまだだけど、俺達は…これからバンドとして同じ道を歩んで行く。

 

 

 

 

最終回じゃないからな!

まだまだ俺達の話は続くぜ!


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