「う~…ん!やっと着いた!」
今は会社が夏休みという事で
8月13日から16日までの3泊4日で実家に帰ってきたのだ。
ソロモンよ!私は帰ってきたー!
まぁ、うちはソロモンじゃないけど。
「空気も澄んでるしすごくいい所ね」
「あはは、この辺はバスも少ないから車がないと不便だけどね」
Divalのベーシスト理奈。
Blaze Futureのギタリスト奈緒。
Blaze Futureのドラマーまどかさん。
そしてDivalのボーカリストの私こと水瀬 渚。
この4人で私の実家に遊びに来てるのだ。
「それよりほんとに私まで来て良かったの?」
「はい。まどかさんにも色々お世話になってますし、うちに遊びに来たいって言ってくれるなら是非是非ですよ!」
「あんまりお世話した覚えもないけどありがとね。あ、ちゃんと例のブツも持って来てあるから」
「楽しみです!」
例のブツとは私の会社の先輩であり、Blaze Futureのボーカリスト葉川 貴の恥ずかしい写真集だ。
今夜は大好きなお酒を呑みながら先輩の恥ずかしい写真を堪能しましょうかね。
別に先輩の事が大好きとかないからね?
「それよりさ。こないだ言ってた夏祭りの本祭のライブイベント?あれって私達も参加するの?一応ギターは持って来たけど」
「私も一応ベースを持ってきているわ。まどかさんもいるし参加しようと思えば出来るわね」
「え?それ何の話?さすがにドラム持ってきてないよ?」
「あ、えとですね」
奈緒がまどかさんに説明してくれている。
夏祭りの本祭ライブイベントとは、私の地元の夏祭りの本祭でやっているライブイベントだ。うん、そのままだね!
昔は地元の住人だけでカラオケをやったり、ちょっとした楽器で演奏したりとか子供達の合唱会などをやっていたのだ。
私もカラオケで参加した事もあるし、梓お姉ちゃん達Artemisはバンドとして参加した事がある。私はこの時の記憶がないんだけど…。
そんなイベントだったのだが、数年前から自治体で本物の芸能人バンドさんをゲストに迎えたり、地元の参加したいバンドさんを迎えたりして本格的なライブイベントを実施している。
私もせっかくバンドを組んだんだし、今度はバンドとして参加したいと思ってたんだけど…。
「なるほどね~。それなら記念に参加してみるのもいいんじゃない?ドラムも自治体から借りれるんでしょ?」
「わ!まどかさんいいんですか!?」
「全然いいよ。何曲くらいやるの?」
「確かいつもは一組15分くらいで、2、3曲だったような?」
「問題はまだ参加出来る枠が残っているのかどうかって所かしらね」
「まどか先輩も参加オッケーなら参加してみたいよねー」
うん、参加したい。
こないだのBlaze FutureとDivalの対バンには地元の友達は来れなかったしね。
私はバンドを始めたんだよ!ってみんなの前で歌いたい。
そんな話をしながら歩いていると私の家が見えてきた。
「あそこが私の家だよ」
「へー、ほんと大きい家だね」
私達が家に近付くと玄関前でお父さんが立っていた。
お父さん…。私が帰ってくるの待っててくれたのかな?
するとお父さんは私を見つけたのか手を上げてくれた。お父さん…。
「行ってきなさい。渚」
「そうだよ。久しぶりの再会なんだし甘えてきなよ」
「いいねー!久しぶりの帰省で感動の再会!」
「う、うん…行ってくる………
お父さーーん!」
私は泣きそうになるのを我慢しながらお父さんの元へ走った。
一歩、また一歩とお父さんに近付く。
まだ一人暮らしを始めて半年も経っていないのにすごく懐かしい感じがする。
そして私はお父さんの元へと辿り着き、
「このバカ娘がぁぁぁぁ!!!」
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殴られた。え?何で?
「な…殴ったね!」
「殴って何が悪いか!」
そしてもう1発殴られた。
「2度もぶった!親父にもぶたれた事ないのに!」
「いや、何度か殴った記憶あるんだけど?」
た、確かに何度かある…。
家の窓ガラス割っちゃった時とか…。
「っていうか!何で久しぶりの再会で私は殴られたわけ!?」
「わからんのかこのバカ娘がっ!!せっかくここまで育ててやったのに…!地元で就職しろと言うのに関東の就職先を決めて来て、しぶしぶ送り出してやったらバンドやってますだと!?大概にしやがれってんだ!」
「は?はぁ!?仕事もちゃんとしとるしバンドの何が悪いねん!!」
「悪いわこのたわけ者がっ!」
こ、このくそ親父ぃぃぃ!
せっかく感動の再会だと思ったのに!
「あ、あの…」
そう言って理奈と奈緒とまどかさんが私達の間に入ってくれた。
「あ、お友達さん、すんません。お恥ずかしい所を…。さ、遠慮せずにあがってやって下さい」
「あ、えっ……と」
「こんなシーン見せられて。はいお邪魔します。って入れるわけないやろ!てか何でサラリーマンのくせに農作業の服着てるのよ!」
「この格好の方が田舎のお父さんって感じがするやろがっ!」
「そんなん知らへんわっ!生まれてきて始めてお父さんのそんな姿見たわっ!」
「お前ばらしてんじゃねーよ!恥ずかしいやろがっ!」
「な、なんなの一体…」
---------------------------------
取り合えず私達は家に入って2階の客間に荷物を置き、1階の茶の間で座っている。
「渚のお父さんってバンドとか音楽嫌いなの?」
奈緒が私に聞いてきた。
昔、歌を教えてくれたのはお父さんだったような気がするんだけど、そう言えばお父さんが音楽を聴いているのを見た事がない。
「知らない…。あんまりそういう話した事ないかも…」
「さっきの感じだと渚のお父さんってバンド活動には反対って感じだよね~」
まどかさんの言う通りだ。
確かにそんな話なんかした事なかったからバンドやるのを反対されるなんて思ってもみなかった。でも……。
「でもね。私には妹がいるんだけど、あの子は音楽関係の仕事に就いてるんだよ。地元の小さい事務所の事務員なんだけど…。だから音楽関係だから反対ってわけじゃないと思うんだけど…」
「音楽事務所の仕事と言っても事務ならバンドとは違うんじゃないかしら?でも安心して。私がきっと説得してみせるわ。渚の歌は私達に必要だもの」
「うん、ありがとう理奈。でも大丈夫。反対されようが関係ないよ」
私達がそんな話をしているとお母さんがお茶とお茶菓子を持ってきてくれた。
「みなさん、ごめんなさいね。恥ずかしい所を見せちゃったみたいで…」
「あ、お母さん!ただいま!」
「お帰りなさい、渚」
そう言ってお母さんはみんなに挨拶しながら冷たい麦茶を配ってくれた。
「皆さんは渚のバンドのメンバーさんかしら?」
「あ、私はそうですけど…」
「私とこの子は別のバンドで…。音楽仲間って感じです」
理奈とまどかさんが応えてくれた。
「そうなのね。
渚、お母さんは渚の味方だからね?バンド活動も応援してるから」
「ありがとう…お母さん」
「それより今日は渚の彼氏の先輩さんは連れて来なかったのね。女子旅ってやつかしら?会ってみたかったんだけどねぇ」
なっ!?彼氏じゃないし!
確かに先輩の事話した事あるけど何で彼氏と思ったの!?
てか、このメンバーの前でそんな爆弾投げ込まないで!!
「へぇ~……渚の彼氏の…?(ニコッ」
「先輩さんね…どこの先輩なのかしら?(ニコッ」
ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!
笑顔が…!笑顔が黒い…!!
ち、違うから!お母さんの勘違いだから!
まどかさんめちゃ笑いこらえて肩がピクピクしてるしっ!
「お母さん!先輩は私の彼氏なんかじゃないし!お母さんの勝手な勘違いだよ!」
「え?そうなの?就職してすぐの頃仕事辞めて帰りたいって言ってたのに、急に辞めたいって言わなくなったし、その頃から『今日は先輩がね』『今日は先輩がね』ってしょっちゅう言ってくるもんだから、その先輩さんと離れたくないから帰りたくなくなったんだと思ってたわ」
おおう…!母上様お願いですからそれ以上は止めて下さい。
「それにほら酔って帰れなく…」
「ほんと違うから!!マジ違うから!!
お母さん!ちゃんと彼氏出来たら紹介するからっ!」
取り合えずこれ以上変な事言われる前に話を終わらせよう…。
「酔って?」
「帰れなく……なって?かしらね?」
「まさかそのまま勢いで…?タカにそんな度胸あるかな?」
だから違うから!ほんとに!
「ワシは許さへんぞ渚ー!」
-バーン
客間の扉が思いっきり開かれ、そこからお父さんが登場した。
「お父さん!?」
「渚!ワシはそんな見た目だけかっこいいだけの男なんて許さん!」
「見た目か…う~ん…(ボソッ」
「確かにかっこよくはあるのだけど…うぅん……(ボソッ」
「どうすればもっと面白くなるかな?(ボソッ」
まどかさん…?
「だからそんなんちゃう言うてるやろ!それに何で一人称がワシやねん!いつもワシなんて言うてへんやん!それに何で着物?和服?着てんの?いつもTシャツと短パンやん!」
「こ、こんな感じのがお父さんって感じがするやろが!てかばらしてんじゃねーよ!お前!」
いつもいつも形に拘りやがってぇ…!!
いつもの普通のお父さんでいいじゃん!
「大体な!渚の彼氏になるような男なんてろくな奴じゃない!頭悪そうだし。ワシはそんな奴との結婚なんか許さん!」
「は!?意味わからんし!私の彼氏はろくな奴じゃないとか私にどうしろって言うねん!あれか?結婚すんなってか?」
「いや、早く結婚はしてほしい。孫を甘やかすおじいちゃんに早くなりたい」
「甘やかす宣言とか…彼氏と結婚ダメって誰と結婚しろ言うねん!」
「渚も大変ね…」
「うちは結婚しろとか言われないしなぁ~。むしろお父さんには夢女子で良かったって言われてる」
「まどか先輩はいいですね~。うちのお父さんも早く結婚しろって言ってくるなぁ。早くお母さんと二人で暮らしたいからみたいだけど…」
「それなら結婚しなくても奈緒と美緒ちゃんで家を出たら済む話じゃないかしら?」
「あ、そっか。でもそれお父さんに言ったら本当に家から出されそうだなぁ…」
くっ、私もみんなとの話に混ざりたい…。
何でお父さんなんかとこんな話を友達の前でしなきゃあかんねん。
おっと、モノローグでも関西弁になっちゃった。気を付けなきゃ。
「そうだな渚。お前の結婚相手に許す条件はまず酒が呑める事だな。ワシを相手に呑めるような酒に強い奴じゃないと話にならん!」
「お酒強い人……あ、貴(ボソッ」
奈緒!?何言ってるの!?
確かに先輩は呑めるけどさ!お父さんより絶対お酒も強いだろうし…!
「そしてワシは若い奴は好かん。男と女は精神年齢どうたらこうたらってのあるし年の差があった方がいい!と、こないだテレビで聞いた。渚より10歳以上は歳上じゃないと認めん!」
「貴さんなら私達より10歳以上歳上ね…(ボソッ」
理奈も何言ってるの!?確かに先輩はそうだけど…!てか、お父さんも自分がお母さんと年の差婚だったからってそんなの条件に入れないでよ!!
「後はあれだな。渚と趣味がちゃんと被るようにクソヲタなら問題はないな。夫婦の趣味が合うってのも大事だ。なんならギャルゲーも好きならワシとも話が合う!」
「ギャルゲーも好きなクソヲタ…タカだね」
まどかさん!?何でまどかさんはそんなハッキリと言っちゃってるの?
しかもお父さん!さりげに私の友達の前でギャルゲー好きって暴露していいの!?
てか、ほんと……先輩なら全部当てはまるじゃん…。
「渚~?何をそんなにニヤけてるの?」
ひぃ!?奈緒の目のハイライトが!
「何か嬉しそうね……渚?」
う、嬉しいとかないから!
「後はあれだ。バンドをやってないってのが条件だな」
「「「あ……」」」
バンドをやってない事…。
お父さん、何でそんなにバンドを嫌ってるの?
それと奈緒も理奈もまどかさんも『あ……』じゃないよ?私と先輩に結婚してほしいの?
「てかさ!お父さんは何でそんなにバンドを嫌ってるわけ?私もだけどここにいる友達もバンドやってんやけど?失礼じゃない?」
「確かにな。お前のお友達さんには悪いと思っとる。でもな、別にバンドを嫌ってるわけやない。お前がバンドと関わるのが嫌なだけや」
「は?何でよ!意味わからんし!お父さんが反対しようが何しようが私はバンドをやるからっ!」
「だったらもう水瀬家から出ていけ!お前の事なんか知らん!マンションも引っ越してもらうからなっ!」
「はぁ!?何よそれ!何でダメなのかハッキリ言ってよ!」
「バンドだけは……ダメだ」
何でバンドはダメなの?
そんな頭ごなしにダメって言われて納得出来るわけないじゃん!
「あ、親父、自治体の会長さんから電話。夏祭りの事で相談したいんだとさ」
そう言って私の弟が茶の間に入って来た。
「………わかった。今行く」
「なんかイベントで呼んでるcharm symphonyが大変なんだとよ」
「charm symphony!?」
え?charm symphonyって…。
理奈の元バンドのcharm symphonyの事?
イベントで…呼んだ?
「そうか。……すみません、皆さん。ちょっと出てきますね。皆さんはゆっくり休んでて下さい。………渚。バンドだけは絶対に許さんからな」
そう言ってお父さんは部屋を出ていった。
何でよ…。何でバンドはダメなの…。
「ちゃ…charm symphonyで大変な事って…あの子達に何かあったの…?」
私も理奈も混乱したまま。
私達は茶の間でゆっくりお茶を飲みながら雑談をしていた。
奈緒もまどかさんも気遣って話をしてくれたんだろうけど、正直私と理奈は会話の内容は入って来なかった……。
---------------------------------
その夜。お父さんはあの電話の後自治体の会長さんに呼ばれて帰って来なかった。
お父さんが何故バンドを許してくれないのか、charm symphonyはどうなっているのか。
私達は悶々としながらも、みんなで近所の温泉施設にお風呂に入りに行き私の地元を楽しんでもらった。
「もう少ししたら娘も帰ってくると思うから、そしたら晩御飯にしましょう」
「はい!あ、何かお手伝いしますよ!」
そう言って奈緒はお母さんと台所に向かった。理奈とまどかさんも手伝うと言ってくれたが、奈緒に全力で止められていた。
「ただいま~」
「あ、お帰りなさい」
妹が帰って来たようだ。
なんか久しぶりって感じするな~。
「あ、お姉ちゃん。そか。お姉ちゃんが帰ってくるの今日か」
え?あれ?『会いたかったよお姉ちゃん!』とかないの?
「お母さんの煮物すごく美味しいですね。すごく味も染み込んでて…。私ももっと料理上手くならないと…」
「奈緒ちゃんもすごく手際良かったじゃない。今度この煮物のレシピ教えてあげようか?」
「え!?いいんですか!?是非是非!」
お母さんと奈緒が料理を運びながら台所から出てきた。
「あ~…娘っていいわねぇ~。こうやって一緒に料理出来るのって楽しいわ~。
私も娘が欲しかった…。
あら?来夢お帰りなさい。ご飯にするからおばあちゃん呼んできて」
「は~い」
お母さん。私も来夢も娘ですよ?
テーブルには出前で取ってくれたお寿司とお母さんの手料理。そしてビールと地元のお酒、戦乙女とジュース等が所狭しと並んでいた。
「え?すごいやん!めちゃご馳走やん!お姉ちゃんいつも帰ってきたらいいのに」
「いつもだったらいつも通りのご飯になるんじゃない?たまにだからでしょ」
「あ、そっか」
「もう。恥ずかしい事言わないの。それじゃ食べましょうか。渚、お帰りなさい。お友達さんも水瀬家へいらっしゃいませ」
お母さんのそんな言葉と共に乾杯して楽しい晩御飯が始まった。
「それじゃ渚。改めてみんなを紹介して頂戴」
「あ、うん。えっとまずは水瀬家から紹介しよっか。まずは私のおばあちゃん、水瀬 千鶴。お父さんの会社の会長をやってる現役バリバリのサラリーマン!」
「渚。ばっちゃはサラリーマンやない。女の子やからOLや」
「え?ばあちゃん会社行ってへんやん。オフィスレディちゃうやん?」
妹の来夢がつっこみを入れた。
まぁ、おばあちゃんは自室でパソコンで仕事してるからなぁ…。会議もネット動画でやってるみたいだし…。あ、紹介紹介。
「そして私のお母さん。水瀬 明子。バリバリの専業主婦だよ!」
「いつもうちの渚がお世話になっております。これからも仲良くしてあげて下さいね」
もう…お母さんったら…。
「えっと、そして妹の水瀬 来夢!私の3歳下の20歳!高校卒業してから働いてるし社会人としては私より先輩かな」
「そうなんだよね~…。もう2年以上勤めてるのに名前が水瀬 来夢だからって略して見習いちゃんとか未だに言われてるし…。改名するか仕事辞めたい…」
ははは、来夢も何だかんだと頑張ってるよね。
「そして弟の水瀬 京介。今はまだ高校2年かな?」
「うす」
「後はお父さんの水瀬 龍馬とおじいちゃんの水瀬 五右衛門の7人家族だよ!お父さんは今は自治体の集まりに行ってるみたいだし、おじいちゃんはもうずっと昔から世界中を飛び回る旅人やってるんだけどね!」
「たまに手紙は来るからおじいさんも生きてるとは思うんだけどねぇ…」
「あはは、きっと元気だよ」
そして今度は理奈達を紹介した。
「それじゃ次は友達を紹介するね!まずは私のバンドのベースをやってくれている氷川 理奈さん」
「いつも渚には助けて頂いています。よろしくお願いします」
いやいや!理奈!私の方こそ助けてもらってるからね!
「え!?ちょー待って!理奈さんってもしかしてcharm symphonyのRina?」
「ええ、元…ですけどね」
さすが来夢!音楽業界の事務所で働いてるだけあって理奈の事知ってるんだね!
「そして私とはバンドは違うんだけど、仲良くしてもらってるギタリストの佐倉 奈緒さん」
「渚とは音楽の事以外でもお買い物とか一緒に行ったりと仲良くしてもらってます。皆さんよろしくお願いしますね」
奈緒!ほんとに可愛いよねぇ~。
私が男だったら惚れて口説いてるね!うん!
「奈緒ちゃん私からもこれからもよろしくね。料理のレシピも色々教えてあげるからね」
「はい!よろしくお願いします!」
「あぁ…奈緒ちゃん可愛いわぁ…やっぱり私も娘を産みたかった…」
お母さん?だから私も来夢も娘ですよ?
「んん…!そして奈緒と同じバンドのドラマーの柚木 まどかさん!」
「はじめまして。柚木 まどかと申します。本日はお邪魔させて頂きありがとうございます。ご迷惑をお掛けすると思いますがよろしくお願い致します」
そう言ってまどかさんは深々と頭を下げた。さすがまどかさん…こういう挨拶はしっかりしてるなぁ…。
「ほぁ~…若いのにしっかりした娘さんじゃねぇ。こちらこそよろしく。気兼ねせずに楽しんで行ってな?」
「はい!お言葉に甘えさせて頂きます(ニコッ」
まどかさんって普段からちゃんとしてたら絶対モテるよね……。
「さ!自己紹介も終わったしじゃんじゃん食べよう!」
私達は美味しいご飯とお酒の力からか…。
お父さんがバンドを許してくれてない事、charm symphonyの事を忘れて晩御飯を楽しんでいた。
「あ!なるほどです!それで人参も大根もこんなに柔らかくなってるんですね!」
「そうなのよー!さすが奈緒ちゃん!これだけでそれがわかるってすごいわ!」
「いえいえ!私なんてまだレパートリーも少ないですし…。明子さんに教えてもらった料理とか早く作ってみたいです!」
奈緒はお母さんと仲良く料理の話をしている。
「あら?来夢さんは音楽は苦手なの?」
「そうなんですよ~。勉強と運動ならお姉ちゃんにも勝ってるんですけど、音楽はお姉ちゃんには…」
「でも音楽が好きって気持ちがあるのなら今のお仕事は天職なのかもね」
「あはは、まぁ辛いなって思う時もあるんですけどね。楽しいから頑張れてる感じです。あ、それでお姉ちゃんって……」
理奈は来夢と音楽関係の話を楽しんでいるようだ。
「へー、京介くんは明後日のお祭りは彼女ちゃんと行くんだ?」
「はぁ…まぁ…。明日の前夜祭は俺は準備の手伝いもありますし本祭くらいはと…」
「いいねー!青春!今の時間を大切に楽しんでね。もちろん将来も考えながら」
「うす。ありがとうございます」
まどかさんは京介と恋話?を楽しんでいるようだ。京介?お姉ちゃん彼女出来たとか聞いてないよ?
そして私はというとビールを片手にお寿司を美味しく頂いている。
あ、もちろんお母さんの料理も美味しく頂いているよ?
「渚…」
「ん?おばあちゃん?何?」
「お前…バンドやっとるってのはほんまか?」
急にそんな事を言われたものだからドキッとした。
さっきまで話を楽しんでいたみんなも話を止めておばあちゃんと私を見ていた。
「う、うん…まぁ、バンドやってるよ」
「そか。血は争えんっちゅーこっちゃな。ばっちゃは何もしてやれんと思うが頑張れ」
「う、うん。ありがとう…それより血って?」
「なんや?龍馬から……お父さんから聞いとらんのか?もしかしてあれか?お父さんからバンド反対されたりしとるんか?」
「お、お義母さん。その事はきっと龍馬さんから渚に話すと思いますから…」
え?お母さん?どういう事…?
お父さんがバンドを嫌ってる理由?
やっぱり何かあるの…?
「やっぱりあのアホは渚の事反対しとるんか…」
「お姉ちゃん…お父さんにバンドの事反対されとるん?」
「う、うん…バンドだけは許さないって…」
「渚。よう聞き」
「お義母さん!」
「明子さんもあのアホの事はよーわかっとるやろ?あいつは一度反対しよったらなかなか意見は変えへん。なら渚にはちゃんと理由も話したるべきや」
「お義母さん……わかりました」
え?まさかここに来てバンドを反対されてる理由が聞けるなんて…。
「渚。お父さんはな。バンドが嫌いとかやない。元々夏祭りで音楽イベントをやろう言い出してバンドとして参加した第一号がお父さんやからな。もう30年も前の事やがの」
お父さんが…?バンドとして参加?
「そして今の夏祭りの活性化の為にプロのミュージシャン呼んだり地元以外のミュージシャンも参加出来るイベントにしよ言うたんもお父さんや」
待ってよ。……それじゃお父さんは何で私がバンドをやる事に反対なの?
「待っておばあちゃん。お父さんってバンドやってたの…?」
「まぁ、結局メジャーデビューは出来んかったけどな」
「お母さんもね。お父さんのバンドのファンだったの。追っかけやってたのよ」
「え?じゃあもしかして明子さんってそれで熱烈アプローチして渚のお父さんを落としたって感じですか?」
「あはは、子供たちの前でこんな事話すのも恥ずかしいけどね。お父さんの…龍馬さんの事は好きだったけど、敢えて表には出さずに引っ付きすぎず離れすぎずを繰り返してね。私が居なきゃダメってくらいお父さんに惚れさせて告白させたの」
「おぉ~!さすがです!………なるほど。その手でいこうか(ボソッ」
奈緒?
「どうしようかしら?今更ファンだったのとか言うのも変よね…(ボソッ」
理奈?
「これは面白くなりそうだ…!」
まどかさん?
「て、てか!それで何で私がバンドやるの反対なん!?いいじゃん!自分もやってたんじゃん!」
「………あのアホは木原さんとこの娘さんの事思い出すんやろ」
「え?梓お姉ちゃんの事?」
「それってArtemisのボーカルの木原 梓さんの事ですか?」
「あら?理奈ちゃんも梓ちゃんの事知っているの?」
「話を少し…記憶にはないのですけど昔にお逢いした事もあるみたいでして…」
「そう…」
「梓お姉ちゃんがどうしたの?」
「木原さんとこの娘さんが事故で亡くなったじゃろ?それを今でも自分のせいと思っておるんじゃろ」
「は!?意味わかんないんだけど?」
何で梓お姉ちゃんが死んじゃった事が自分のせいなのよ…!!
「木原さんとこの娘さんにギターを教えてバンドを勧めたのは龍馬じゃからな」
え?お父さんが…?
梓お姉ちゃんにギターを…?
「自分が勧めたからバンドを始めた。バンドを始めたから関東に行った。関東に行ったから事故にあった。あのアホはそう考えとるんじゃろ」
そんな…そんなのって…。
「お父さんは渚と梓ちゃんを重ねてしまってるのね」
お父さん…。そうだったんだ…。
でも私は…。
「渚。よう聞き」
「おばあちゃん?」
「明後日の本祭でお前ら出場せい」
「しゅ、出場出来たらしたいけど…」
「そんでお前の歌をあのアホに聞かせたれ」
「お義母さん。そのお話はそれくらいにして。さ、楽しくご飯食べましょ」
その後もご飯は続いた。
私は…色んな事で頭がごちゃごちゃして…。
「え!?そんな事があったんですか!?」「そうなのよー」「それじゃ渚ってもしかして…」「じゃあお父さんのバンドダメってのも、その時のお姉ちゃんの事を話せば納得するんじゃない?」「あは!あはははは!」
みんな何かを話して楽しんでるみたいだったけど……。
私には何も頭に入ってこず、何が聞きたいのか、何を話したいのかもわからず。時間は過ぎていった。
---------------------------------
私は今、2階の客間に理奈と渚とまどかさんと4人で寝る準備をしていた。
「でも本当に面白いよね!良かったね!渚!」
「え?あ、う、うん…」
何の事だろう?
まどかさんがそんな事を言ってくれたけど私には何の事だかさっぱりだった。
みんなに…ちゃんと謝らなきゃ…。
「みんな…せっかくこんな所にまで遊びに来てもらったのに……こんな事になってごめんね…」
「「「何が(かしら)?」」」
「え…?何がって…明後日の本祭のライブイベントの事とか…」
「渚~?明後日の本祭の事なら何も問題ないよ?私達はいつも通り楽しくライブするだけだよ」
「奈緒…」
「ぶっちゃけね~。渚がお父さんに反対されてるって事なら何とでもなると思うし」
「な、何とでもって…」
「そうね。私達のこれからにとって今回の事なんて些細な問題だわ。渚はいつも通り歌えば問題ないわ」
「理奈まで…」
「まぁ、最悪はタカに頼めば何とかなりそだしね」
「そうね…。でも…その案は…」
え?何でここで先輩が出てくるの?
確かに先輩なら口八丁で何とかしてくれそうだけど…。
「私もあんまりその案は使いたくないし、明後日の本祭でお父さんの心を動かそうよ。ね?渚」
「う、うん…」
「それより今はcharm symphonyの方が問題じゃない?」
「え?charm symphony?理奈何かあったの?」
まどかさんが急にcharm symphonyの話題に入るもんだからびっくりする。
「やっぱり上の空だったのね。大した事ないわ。明日の関西で開催されるファッションショーでcharm symphonyの2代目ボーカルが決定する。そしてcharm symphonyは改名してバンドとしての音楽活動も積極的にやっていくらしいわ」
「え!?何それ!?そもそも理奈って音楽活動がちゃんとやれないからcharm symphony辞めたんでしょ!?何でそれが今になって?」
「今年のこの町のお祭りのゲストはcharm symphonyだったみたいなんだけどさ。急遽そんな事になってお祭りで新生charm symphonyのお披露目ライブをするらしいんだよ。それで渚のお父さんが今自治体に呼ばれてスケジュールとかの変更で忙しいらしい」
まどかさんが説明してくれた。
これは町興しにもなるし私達地元衆にはありがたい話だけど…。
でも理奈にとっては…。
「何か言いたそうね?渚」
「え?いや…あの…う~ん…」
「charm symphonyが本格的に音楽をやりだすから私が辞めた事を後悔してるんじゃないか?とか思ってるのかしら?」
「いや…んと…う、うん…」
「そう…。渚、今度そんな事言ったら思いっきりぶつわよ?」
「え!?」
「何であれだけ音楽はビジネスと言っていたのに今更?って気持ちはあるけれど後悔は一切していないわ。私が最高のバンドになりたくて。最高のバンドに渚達とならなれると思ったから私は今Divalなの」
「理奈…うん、ごめんね」
「次はないわよ?クスクス」
「よし!今日はもう寝るだけだしさ!せっかく持ってきたんだしタカの恥ずかしい写真集でも見ようか!」
「待っていたわ。この時を」
「私、お母さんにビールと戦乙女もらってくる!待ってて!」
「ふぇ?へ?貴の恥ずかしい写真集って何ですか?」
「私が色んなルートから入手したタカの昔の写真だよ。もちろんBREEZE時代の時のもある!」
「ちょっ!それっていくら出せば買えるんですか!?」
そして私と奈緒がビール、理奈とまどかさんが戦乙女を飲みながら、先輩の恥ずかしい写真集を開く。
「まずはタカの幼少期だよ」
「わぁ~…。貴こんなに可愛かったんですね~」
「本当に…。時の流れとは残酷なものね…」
「帰ったら先輩にもうちょっと優しくしてあげようかな…」
私達は思い思いの感想を言いながらゆっくり写真を見ていった。
「あ、この写真。この2人が志保のご両親だよ」
「昔はアルテミスの矢の一員として…今はクリムゾングループのミュージシャンとしてやってるんだね…」
「貴も志保も正直複雑だよね…」
「私達もこのままバンドをやっていけばいつかはクリムゾングループとぶつかるだろうしね」
「私達も出来るだけ貴さんと志保をサポートしていきましょう」
「「「うん」」」
「あら?まどかさん、この写真戴けないかしら?」
「え?どれ?今日持って来たのは全部焼き増ししたやつだから欲しいならあげるよ?」
え?マジで?私はどれを貰おうかな…。
てか、焼き増しって…。ネガから持ってるって事?
「この貴さんが……その…女の子を抱っこしてる写真……」
「ああ、これか。いいよ。はい」
まどかさんはそう言ってアルバムから1枚の写真を抜いて理奈に渡した。
先輩が泣きそうになってる女の子を抱っこしてる写真だ。
「あ、ありがとうございます…」
「もしかしてさ?さっきの貴が抱っこしてた女の子って理奈?」
「え?ええ…まぁ…」
「あ、そうだったんだ?いや~、それならその写真持って来て良かったよ~」
「理奈いいな~。私も貴と写ってる写真ないかなぁ?あれだけライブも行ってたのに…」
「いや、その気になればタカとならいくらでも写真撮れるじゃん?」
「憧れのTAKAさんとの写真が欲しいんです!」
そっか。奈緒の気持ちもわからなくはないかな。私も音楽の憧れってわけじゃないけど、梓お姉ちゃんとの写真は今でも飾ってるくらいだもんね。
そして次のページを開いた時、そこには梓お姉ちゃんと先輩の写真があった。
「梓お姉ちゃん…」
「へ~、この人がArtemisのボーカルさんなんだ~。や、やけに貴にベタベタしていませんかね?」
うん、梓お姉ちゃん……。ちょっと先輩に引っ付き過ぎじゃないかな?
もうちょっと離れなきゃだよ?
「ん?そりゃそうでしょ?タカの元カノでしょ?この人」
「「「は?」」」
「ヒィ!?」
「まどかさ~ん、言っていい事と悪い事があるって知ってまス?アハッ、私の梓お姉ちゃんが先輩なんかの元カノなわけないじゃないですカ~?」
「まどかせんぱ~い。貴ですよ?貴にこんな可愛い人が彼女になってくれるわけないじゃないですか?どうしちゃったんですか?あ、飲み過ぎて頭おかしくなっちゃいましたか?」
「晴香さんから貴さんと梓さんは付き合っていないと聞いたわ。まどかさんもおかしな事を言うのね。もし仮に付き合ってたとしたら貴さんは今頃通報されてこの世にいないと思うわ」
「え?いや、でも…英治がさ…?」
「「「英治さんが?」」」
「英治がそう言えって私に無理矢理ね!
わ、私もそんな事ないと思ってたよ?
あはは、くっそ~!英治のやつめっ!」
「へぇ~、英治さんがそんな事を…」
「そんな貴が可哀想になる冗談…。いくら尊敬する英治さんでも許せないです」
「これは帰ったら英治さんとゆっくり話す必要があるわね。帰ったらすぐにファントムに行くわ」
「よし!みんなで行こう!先輩と梓お姉ちゃんが付き合ってたとか…ないから!」
-----------------------------------------------
--中原家リビング
「ヘックシッ!」
「あれ?お父さんどうしたの?風邪?」
「いや、初音知ってたか?バカは風邪引いたりしないんだ。これは可愛い女の子が俺の事かっこいいと噂してるんだな」
「お父さんも知ってた?夏風邪はバカが引くんだよ」
「だから風邪なんかじゃねーって」
「うわっ!?お父さん!?」
「ん?どうした?」
「お、お父さんの顔に死相が出てるよ?」
「え?マジで?俺死ぬの?」
-----------------------------------------------
--翌朝
「う~~ん!よく寝た!……まだ8時か。
せっかくの関西旅行だし寝て過ごすのももったいないよね。奈緒達も起こしてあげよう」
私はあの後自室に戻り就寝した。
みんなと一緒に寝ても良かったんだけど、せっかくだから客間を広々と使ってもらいたいしね。
「おっはよー!」
私は勢いよく客間を開けた。
「だがそこには誰も居なかった」
え?え?あれ?
バ、バカな…何故誰も居ない!?
それどころか布団すらもない。
ま、まさか昨日の事は夢?
理奈と奈緒とまどかさんと実家に遊びに来たというのは私の幻想?
いや、違う…私達は確かにここに居た。
これは新手のスタンド攻撃か!?
そんな事を考えながら下に降りると
「あら、渚おはよう」
そこには理奈が居た。
良かった。どうやらスタンド攻撃でも夢でもなかったみたいだ。
しかし、何故理奈はこんな早朝から?
いや、理奈だけじゃない。この感じだと奈緒とまどかさんもか…。
「おはよう理奈!てか、こんな朝早くからみんなどうしたの?」
「朝早く…?もう8時よ?」
「え?まだ8時だよ?」
「え?」
「え?」
奈緒と理奈とまどかさんはいつも通り6時頃には起きたらしい。
そして散歩がてらおばあちゃんと近所の養鶏所に行って生みたての卵を貰いに行って来たそうだ。
奈緒はお母さんと朝食を作っているらしく、まどかさんはおばあちゃんとお茶をしながら朝食が出来るのを待っている。
そして理奈は私をそろそろ起こそうと私の部屋に来ようとしてくれてたらしい。
え?みんな休日なのにそんな時間に起きてるの?
「ねぇ、渚。今日はどこに連れて行ってくれるの?」
私達は朝食をいただきながら今日の予定を考えている。
しまったなぁ。どこに連れて行くとか全然考えてなかった…。
「みんなは行きたい所とかある?」
よし、ここはみんなの意見を聞いて行けそうな所に案内しよう。
「私は来る前まではUSJとか道頓堀とか?行きたいとは思ってたけど~…」
う~ん、さすがにユニバは厳しいかな?
なら道頓堀もいいかなぁ?
食べ歩きもいいだろうし、そのままアメ村や心斎橋商店街でお買い物。
それか日本橋に行くってもありかな?
「でもせっかく渚の実家に来てるんだから、ゆっくりこの辺を散策したりしたいかな~って思ってるかな?」
待って!ここ本当に田舎だよ!?
散策も何も本当に何もないよ!?
道頓堀は!?いいの!?
「私もそうかな~。自然の中でゆっくりするって事もそんな無いし」
まどかさんまで!?
「私もそうね。こういう所でゆっくり曲作りもいいと思ってたわ」
え、えぇ~…理奈までそうなの?
「う、う~ん……でも正直さ?この辺で連れて行ってあげれるような所ないんだよね…。これと言った観光スポットもないし…」
「渚」
「何?おばあちゃん」
「だったらほれ。戦乙女の酒蔵とか連れて行ってやればええんちゃうか?この時期は試飲会とかもやっとるし」
「戦乙女の試飲ですって!?」
「あ、そっか。今ならあそこも入れるし、ついでに理奈の家にも通販してもらえるように頼んでみよっか?」
「行きましょう。そこは必ず行くべきだわ」
「でもそれだと奈緒とまどかさんが暇になっちゃうかなぁ?」
「私は何処でもいいよ?」
「私も大丈夫だよ。それに渚と理奈が飲み過ぎないように見張っとく保護者も必要でしょ」
「とか言ってまどか先輩も飲み過ぎるんじゃないですか?」
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私達は色んな日本酒の試飲を楽しんだ。
理奈はこの酒造からの直販をしてもらえるようになり大喜び。
奈緒は日本酒に合う料理のレシピ本をいっぱい買っていた。
酒造もお祭りで出店するらしく、まどかさんはその準備のお手伝いをしていた。
そして私は……。
「う~…ちょっとフラフラする…」
「試飲だからって飲み過ぎだよ渚…」
「渚がお酒でフラフラになるなんて珍しいわね」
「ずっと日本酒だったからかも…。ほら私はビールの方が得意だし」
「得意って…」
少し飲み過ぎていた。
ちょっと頭がボーッとする…。
そんな私は奈緒に肩を借りて歩いているんだけど、奈緒って何でこんないい匂いするの?
「あ、車だ。渚、気を付けてね」
「大丈夫だよ~。ちょっとフラフラするだけでそこまでじゃないから~」
正面から車が来たので私達は道の端に避けた。
私達の横を通り過ぎた所でその車が止まり女の子が降りてきた。
「Rina!」
その女の子が理奈の名前を呼んだ。
あの子は…charm symphonyの…
「Luna?」
charm symphonyのLunaちゃんだ。
あわわわ、芸能人様だ…。
その後、車からRanaさん、Renaさん、見たことのない綺麗な女の子が降りてきた。
「Rina。久しぶりだな。渚さんもご無沙汰してます」
Ranaさんが理奈どころか私にも挨拶をしてくれた。
わ、私も挨拶をしなきゃ…。
「お、お久しぶりでござんす!」
ダメだ。芸能人様を目の前にすると緊張する。
「あなた達なんでこんな所に?明日のお祭りのゲストとは聞いていたけれど、今日はファッションショーじゃなかったのかしら?」
さすが理奈だ。
芸能人様を目の前にして普通に話せるとは…。いや、まぁ、元同じバンドのメンバーだからだろうけど。
「あなたが元charm symphonyのRina?」
「ええ、そうよ。あなたが2代目のボーカルなのかしら?」
「2代目?charm symphonyはもう今日で終わったの。私達はKiss Symphonyよ」
「……そう。私には関係ないわ」
「私の名前はRiona。Kiss Symphonyのベースボーカルよ。ま、覚えておく必要はないわ。いずれ名前を聞かない日がないって事になるでしょうし」
「そのいずれって日がやってくる事を祈ってるわ」
「……あんたがRinaで私がRiona。名前が似ているけど、『お』が付いてる分私の方が上ね」
「は?あなた…何を言ってるの?」
「この『お』があなたには追い越せない私との差だと言ってるの」
ん?このRionaって人は何を言ってるんだろう?
私が頭を悩ませていると…
「くっ…!」
「どうやら気付いたようね」
理奈は何かに気付いたんだろうか?
そしてまどかさんも顔を伏せて肩をプルプル震わせている。どうしたんだろう?
「む、胸の大きさと音楽は関係ないわっ!」
「私は胸でもオーディエンスを魅了出来ると言ってるのよ」
胸…?あっ!おっぱいの『お』か!
確かにこのRionaって子大きいもんね。
でも、理奈大丈夫だよ!
先輩も小さい方が好きとか言ってたし!あ、先輩はロリコンか。あてにならないね。
でも、私はちょっとだけ理奈よりは大きいよ。えへ。
思いっきり理奈に睨まれた。
あれ?私、口に出してないよ?
なんで?どうしよう。怖いわぁ……。
あ、フォローしとこう。
「乳なんて飾りです!エロい人にはそれがわからんのです!」
「……」
「……渚」
うわ!滑った!?
ちょ、理奈!その哀れむような目はやめて!
「ふん、でも足があればジオングでガンダムを落とせたかも知れないわ」
「あら?ジオングは現状で100%の性能が出せると言っていたじゃない」
「ただの気休めじゃないの?」
おおう!私か?私の台詞のせいですか!?
何でこの状況でガンダム談義!?
「お、おい、Rionaももう止めとけって。Rinaも渚さんも、奈緒さんもまどかさんもほんとすみません」
「ふぇ!?ら、Ranaさん、私達の事も知ってるんですか!?」
奈緒がびっくりしている。
そっか、こないだの対バンにcharm symphonyのみなさんも来てくれたんだもんね。
「ええ、先日のDivalとBlaze Futureの対バンに行かせて頂いたもので」
「そ、そうだったんですね!ありがとうございますー!」
「ほら~、RionaもRanaももう行こう~。私は早く帰って彼氏に電話したいし~」
「そうだな。それじゃ失礼します」
そう言ってRanaさんはRionaさんの手を引いて車内に戻っていった。
その後を追ってLunaさんも車内に戻ろうとしたけど
「えぇ~!?Lunaってば久しぶりにRinaに会えたからってもっと話していきたいって~!?」
「え?は?」
「しょうがないな~!ホテルの場所はわかるよね?私達先に行ってるから後でね~!」
何故かRenaさんがわざとらしく大声を出している。
「ちょ!Rena!あんた何言って…」
「ちゃんとRinaに話してあげなきゃ。私達の事」
そして真面目な顔をして静かにそう言った。
「……悪い。先にホテルに帰ってて」
「うん!じゃあね~。Rinaも渚さん達もまったね~!
………それにしても何でRinaがここにいるの?」
Renaさんはそう言って車内に戻ると車は再び発進した。
私達とLunaさんを残して。
「Luna?何かしら?charm symphonyの事は私は何も気にしてないわよ」
「わかってるよ。あんたがそんなの気にしてウジウジするような奴だったら事務所を辞めるよう言ったりしないわよ。
………って本当に何であんたがこんな所にいるの?」
「こんな所とは失礼ね。ここは渚の地元なのよ。それで夏休みを利用して遊びに来ただけよ」
「そっか…」
そう言って少し黙りこむLunaさん。
どう話そうか悩んでるのかな?
「話がないなら私達はもう行くわよ?あなたもホテルまで戻らないといけないのでしょう?」
「わかってる……。あんたさ?おかしいと思わない?急にうちの事務所が音楽をやりだすって…」
「そうね。それは少し思ったけれど、あなた達もバラエティ番組に出たり露出も多くなってきたわ。それなりに楽器も出来るのだし音楽でも儲けようって所じゃないかしら?」
「違うんだよ」
「違う?」
「私達は露出も多くなって人気も上がった。Ranaはドラマや映画のオファーも増えてきたし、私もモデルの仕事も増えてきた。Renaはレポーターとかそういった仕事も増えてきたしね。私達は順調だったよ」
「そうね。私もたまにRenaが一人で番組出てるのを観て驚いたわ」
「だけど順調だったからこそ…。私達はクリムゾングループに目を付けられた」
「「「「クリムゾン!?」」」」
理奈だけじゃない。
私も奈緒もまどかさんも驚きを隠せなかった。
でも、クリムゾンに目を付けられたから音楽活動に力を入れるのって…。
「ちょっと待ってちょうだい。charm symphonyはクリムゾンに目を付けられたのでしょう?だったらRanaがドラマを、Lunaがモデルの仕事を頑張っていった方が……」
「違うんだよRina。クリムゾンはRionaを売り込むつもりでcharm symphonyに入れたんだ」
「…!?そ、それって」
「Rionaはクリムゾングループの事務所の人間なんだよ。敵対したくないならRionaをcharm symphonyに入れて音楽活動を幅広くやっていけって…」
「そう…だったのね…」
「Rina。もしあんた達も明日の音楽イベントに出るつもりなら辞退しな」
え?
「どうせあんたの事だから手を抜くなんて出来ないでしょ?今、Rionaに…クリムゾンに目を付けられたらDivalは終わる。ここにいるみんな終わってしまう」
確かにクリムゾングループに目を付けられたらただじゃすまないかも知れない。
でも、今クリムゾンから逃げたからって…。
「そうね。Lunaの言う通りだわ」
理奈……。
「音楽の世界はクリムゾングループだけじゃない。私達もいるとクリムゾンに見せつけるいい機会ね」
「は、はぁ!?あんた何言ってんのよ!」
「そうだよね~。私達別にクリムゾンから逃げながら音楽するつもりもないし」
「な、奈緒さんまで!?」
「私は俄然やる気出てきたかなぁ!私達4人はBlaze FutureとDivalの混合ユニットだけどさ。クリムゾンに私達を見せるいい機会だよ」
「ほ、本気なの…?」
そうだね。それが私達の音楽だから。
きっと先輩も渉くんや亮くん、志保も香菜もそうすると思う。
「うん、私達は相手がクリムゾングループだろうが何だろうが関係ないよ。私達は私達の音楽を楽しくやるだけ!」
「そうね。それに事務所を辞める時にも言ったでしょう?私の…私達の前に立ちはだかるなら潰して行くだけだわ」
私達4人の決心は固い。
私達は音楽イベントを辞退もしない。
私達の戦いが今始まろうとしている。
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その夜、夕飯とお風呂を終えた私達は客間で明日の事を話し合っていた。
「それにしても困った事になったわね…」
理奈が頭を悩ませている。
「でもこうなった以上はしょうがないよ。腹を括ろう」
「まどか先輩の言う通りだよ。確かに…こんな事になるなんて思ってなかったけど…」
クリムゾングループが相手でも、誰が相手でも私達は演奏をするつもりだった。
イベントのエントリーも済ませた私達は、イベントのトリをするcharm symphony……ううん、Kiss Symphonyの前に出演する事、曲は2曲演奏する事も決まったのだけど…。
「私達4人で演奏出来る曲…ないね…」
私達は行き詰まっていた…。
「渚はDivalの歌しか歌詞覚えてないし、奈緒はBlaze FutureとBREEZEの曲しか弾けないもんね~。私も偉そうには言えないけどさ……」
「さすがに私もBlaze Futureの曲は無理ね。かと言ってBREEZEの曲をやるっていうのもね……」
「BREEZEだと私が歌詞覚えてないし…」
「でも渚のお父さんの事、charm symphonyの事もあるからさ…。
……うん!よし!まどか先輩!決めました!」
「ん?どしたの?何かいい案浮かんだ?」
「まどか先輩はBREEZEの英治さんの正当後継者です!」
「は?いや、まぁ…今はそうだけどさ?」
「一晩あればDivalの曲もやれるようになりますよね?」
「は?」
「ってわけでぇ。ドラムは大丈夫ですね!
理奈。私今からDivalの曲覚える!付き合って!」
「ちょ…奈緒?」
「私は志保じゃないし、まどか先輩も香菜とは違いますけど…。私達はDivalの曲をやらないといけないと思うんです。渚の歌と理奈のリズムじゃないとダメだと思うんです」
奈緒……。
「オッケー。わかった。私も香菜の音はずっと聞いてきてたしね。やってみるよ」
「はい!」
「奈緒…わかったわ。もう時間もないし厳しくいくわよ。アレンジが入れれそうな所は奈緒のやりやすいようにカバーしてちょうだい。後は私が上手くリズムを合わせるわ」
「よろしくね、理奈!早速練習しよう!」
奈緒…まどかさん……。
「奈緒、まどかさん、ありがとう。私も最高のパフォーマンスで歌う。もうバテたりなんかしない!」
「よし!みんなで明日のイベントは最高に盛り上げるよ!Kiss Symphonyの演奏が霞むくらいにね!」
「「「おー!」」」
そして私達は徹夜で練習をした。
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~~~♪
「な…何とかミスせずに出来た…」
「奈緒もやるじゃない。けど成功したのはさっきの1度だけ。少し休憩にしてもう一度みんなで合わせましょうか」
私達は夜通し練習して、何とかミスせずにやれるようになっていた。
「う~…眠い…」
「渚もさっきの動き良かったと思うよ。私のスマホで動画録ってたしチェックする?」
「そうですね。まだやれる事もあるかも知れないですし」
「はい。再生の仕方はわかるよね?」
そう言ってまどかさんは私にスマホを渡してくれた。ちゃんと動けてるかチェックしないと……。
-ライ~ン
スマホで動画を再生しようとしたら、ラインの通知が来てそのまま開いてしまった。
「あ、まどかさん、遊太くんからライン来たの勝手に開けちゃ……」
私はその遊太くんからのラインを見て固まってしまった。
「ん?こんな朝早くに遊太から?何だろ?」
こここここ……これって……!!!!
遊太くんからベッドで寝ている先輩と、先輩に抱き付くように寝ている志保の写真が送られて来た。
「どうしたの?渚?」
「まどかさん、遊太くんから写真が送られて来たンですけド…私のラインにも送っていいデスカ?」
「え。写真?別にいいけど…?」
「アハッ、ありがとうございマス」
「え?何?どうしたの?」
「あ、間違えて香菜に送っちゃった。落ち着かないとネ…ウフ、ウフフフ…」
「な、渚?何か怖いんだけど…?」
「渚、まどかさん、どうしたのかしら?何かあったの?」
「何?何で渚ヤミモードになってんの?」
「遊太くんからネ~。センパイの寝てる写真が送られて来たからまどかさんにその写真転送してもらったノ。それより奈緒?ヤミモードってナニ?(ニコッ」
「ひぃ!?」
「貴さんの寝顔の写真?ちょっと朝から気分が悪くなりそうね。でも夏と言えば肝試しの時期でもあるわね。いいわ、渚、私にも見せてちょうだい」
「スナオに見たいって言えばいいのに…。まどかさんいいかナ?」
「え?いや、いいんじゃないかな?うん」
「あ、まどかさんにもスマホお返ししますネ。
………でも本当に見たい?後悔するかもだよ?見なきゃ良かったと思うかもだよ?」
「そこまで言われたら気になるじゃない。見ない後悔より見て後悔した方がいいわ」
「私は別に貴の寝顔とかどうでもいいんだけどね!うん!貴がかわいそうだし見てあげようかな」
私はまどかさんにスマホを返し、理奈と奈緒に写真を見せようとしたけど…
「ごめ…ごめん…やっぱり2人には…見せ…れな……」
「「渚?」」
「うぇ……うわぁぁぁぁん、うわぁぁぁぁぁん」
「ちょっと…渚どうしたの!?」
「ふぇ!?え?渚!?」
何でかわからない。
何でかわからないけど私は泣き出してしまった。
「あちゃー…マジかこれ…」
「渚がダメならまどか先輩!見せて下さい」
「ま、隠しても無駄か…」
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「って事らしいよ。タカにそんな度胸あるわけないでしょ?
……志保もまだ死にたくないだろうし(ボソッ」
まどかさんが奈緒と理奈に写真を見せた後、遊太くんに電話して聞き出してくれた。
どうやら遊太くんを襲った先輩から遊太くんを守る為に、志保が先輩と同じ部屋に寝る事になったらしい。
そして別々のベッドで寝ていたのだけど、志保が夜中にトイレに行って部屋に戻った時に寝惚けて間違えて先輩のベッドに入ってしまったらしい。
盛夏と遊太くんで先輩に寝起きドッキリを仕掛けようとして、部屋に忍び込んだ時にこの写真を撮っちゃったそうだ。
志保がその写真を消そうと遊太くんと揉み合った際にまどかさんに写真が送信されちゃったらしい。
なんじゃそりゃ。
「いや~…でもまさか3人共あの写真見て泣き出すとはね。3人共よっぽどタカが好きなんだね!」
「「「ないです!」」」
「いや、ないって言われても…渚はギャン泣きだし、理奈は怒りながら涙ポロポロ流してたし、奈緒も信じられないとか言いながら泣いてたじゃん?」
「違います!私は私のハニーである志保が先輩なんかに汚されたと思って泣いただけです!」
「まどか先輩何言ってるんですか~。せっかくBlaze Future楽しかったのに、これで貴が捕まっちゃってバンド解散になるのかと思って泣いてただけですよ?」
「わ、私は泣いてないわよ?私は怒っていただけだわ。涙はあれよ。徹夜したせいで目が疲れてるだけなの!」
「タカのどこがいいんだろ?はは、うける」
「別にそんなのじゃないと言ってるじゃない。それに香菜から聞いてるわよ?まどかさんに言われたくないわね」
「な、何が?」
ん?香菜から?
あ、そう言えば私も理奈もさっきからDivalのグループLINEで志保に連絡してるのに香菜からのLINEに返事してないや。
「みんな練習の調子はどう?」
お母さんと来夢が朝食を作って私達に持ってきてくれた。
まぁ、来夢は運んだだけだろうけど。
「わわ、明子さんすみません!今朝はお手伝い出来ませんで…」
「いいのよ、奈緒ちゃん。はぁ~…やっぱり女の子欲しいわぁ」
だからお母さん。私も来夢も娘です。
「じゃあちょっと変なアクシデントもあったけど、朝食をいただいてからもう一度合わせましょうか。その後は少し寝てからもう一度合わせましょう」
「「「うん!」」」
---------------------------------
-ガヤガヤ
「へー、ほんと本格的なお祭りだね。屋台もいっぱい出てるし」
「まさか渚のお婆ちゃんが私達みんなの浴衣を用意してくれてるなんて。感謝だね」
私達はお婆ちゃんが用意してくれていた浴衣を着て夏祭の会場に来ている。
もちろんLIVEイベントに参加する為に。
「逃げずによく来たわね」
そこにはKiss SymphonyのRionaさんが居た。
「あの…どなたかしら?」
え?理奈!?
「は?私の事を忘れた…ということかしら?」
「……?ごめんなさい。どこかで逢ったかしら?私、眼中にない人間はすぐ忘れちゃうのよ」
「な、なんですってぇぇぇ」
うお!?何でそんな喧嘩腰なの理奈!?
私が心配になって理奈の顔を見てみるとキョトンとしている。
可愛いなぁその顔。
「あの、私達はこれからイベントの準備で忙しいの。悪いのだけれどもう行ってもいいかしら?」
「くっ…!上等じゃない!なら今日のイベントで忘れられないようにしてやるわ!」
Rionaさんはそれだけを言うとこの場から去っていった。
「いやー、理奈も言うねぇ」
まどかさんが理奈の肩をバンバン叩きながら笑っている。
「あの…まどかさん、痛いわ……」
「渚!」
ん?私は名前を呼ばれた方を見ると、地元の友達が居た。
「わ~!英子!美依子!志乃!久しぶり!」
「ほんま久しぶりー!バンド始めたんやって?」
「そやねん!今日のイベントにも出るで!」
「渚昔から歌上手かったもんなぁ。こないだのデビューライブは行けへんかったけど今日は応援しとるから!」
「うん!見ててな!」
う~ん!やっぱり地元の友達はいいなぁ。よーし!今日のイベントも気合い入れて歌うよー!
「あ、渚の関東のお友達さんですか?」
「え、ええ」
「そうですよ。よろしくお願いしますね」
「この2人は渚と同じ歳だよ。私は1つ上だけどね」
「うわ~、関東の女の子って綺麗な人多いなぁ~」
えへ、地元の友達と関東の友達が触れ合うのって何か嬉しいなぁ~。
「あ、それよりさ。噂の渚の彼氏さんは来てへんの?」
は?彼氏?
「そうそう。私ら渚の彼氏さんに会えるかもって楽しみにしてたんやけど」
英子も志乃も何言ってるの?
彼氏なんかいないよ?
うお!?何か変な視線感じると思ったら理奈と奈緒がものすごく冷たい視線を私に向けていた。
「あの…もしかしてなのだけど、渚の彼氏というのは会社の先輩さんの事かしら?」
理奈!?
「うん!そうですよ!何かめちゃ面白い人って聞いてます!」
えぇ!?何でこっちでは先輩が私の彼氏って事になってるの!?
うわっ!理奈と奈緒がまるで信じられないものを見るような目で私を見てる!
「ちょ、ちょっと待って!私彼氏なんかいないよ!?先輩はそんな人ちゃうし!」
「え?そうなん?」
「何かたまに連絡取り合う度に、先輩さんとの事聞かされるから彼氏やと思ってたわ」
「ちが!違うから!」
え!?私そんなに先輩の話してる!?
「その先輩との話っての詳しく聞きたいわね」
「だよね~。気になるよね~、渚の彼氏の話…」
「これは面白くなってきた!」
まどかさん?
「だ、だから違うってば!彼氏出来たらちゃんと彼氏出来たって連絡するよ!
あ、それより私達イベントの準備あるからもう行くね!みんな楽しんでね!また後で!」
私は強引に話を打ち切り、理奈と奈緒の手を引っ張ってその場をあとにした。
くぅ~…久しぶりにゆっくり話したかったけど変な事言われたら堪らないしね…!
「渚?どうしたのかしら?まだ少し時間には余裕あるわよ?」
「そうだよ~。久しぶりの地元の友達じゃん?ゆっくりお話したら良かったのに」
何でこの2人こんな声低いの?怖いんだけど…。
私達はイベント会場の控え室にいる。
もっと色んなバンドさんがいると思ってたけど、私達を含めて3組くらいしか居なかった。
「お祭り自体は本格的なのに参加バンドって少ないんだね。そう言えば昨日のエントリーの時はどれくらいのバンドが参加するのか聞いてなかったしね」
まどかさんはそう言ったけど、そんな事はない。
例年は10組以上のバンドが参加している。何で今年に限って…。
「渚。やっぱり参加しよったか」
「お父さん…」
私が声の方に目を向けるとお父さんが居た。何だかすごく疲れてる顔をしている。
「今年は参加バンドが少ないからな。お前がバンドをやるのは気にいらんが…。祭の為にはありがたいか…」
「お父さん。どういう事?何で今年は参加バンドが少ないの?」
お父さんは少し理奈の顔を見て申し訳なさそうな顔をした。
「なるほどね。charm symphonyのせい。いえ、今はKiss Symphonyかしら?昨日急にクリムゾングループの息のかかったメンバーが加入したから。他のバンドはクリムゾンの名前に怖じ気づいて辞退したってところかしらね」
あ、そうか…。このイベントで目立つような音楽をしちゃったらクリムゾングループに目を付けられる。
だから…みんな辞退しちゃったんだ…。
「それだけやない。このイベントはプロのゲスト以外の参加バンドで人気投票を行ない優勝バンドを決めるって事もやってたんやけど、今回はKiss Symphonyも含めての人気投票になったんや」
「え?」
「Kiss Symphonyの販促の為にテレビも来とるからな。そしてその人気投票はKiss Symphonyが優勝する事に決まっとる。出来レースや」
「そんな!?」
何で…?クリムゾングループって何でそこまでするの?
ううん、わかってた。わかってたはずなんだ。クリムゾングループのやり方は。
でも、私の地元の…大切な地元のお祭りでそんなの…!
「なら好都合じゃん?テレビも来てるんでしょ?イベント自体が出来レースでも、私達の音楽の方が最高に楽しいってみんなに伝えるチャンスじゃん」
「それ!それですよまどか先輩!」
「残念ながらそれは無理や。テレビが映すのはKiss Symphonyのライブ中だけ。それ以外のバンドの演奏は撮影されない事になっとる。クリムゾングループもそれを危惧したんやろ…」
「そんな…私の…私達の地元のお祭りなのに…」
「そう。ならそれはそれでしょうがないわね。それでもここの会場に来てくれているお客様には私達の音楽が届くのでしょう?だったら私達はいつも通り音楽をやるだけだわ。最高の音楽を」
理奈…。うん。そうだよ。そうだよね!
「それだけは大丈夫や。クリムゾングループの関係者はもうこの町には居てへん。みんなこのイベントの台本だけ置いて帰りよったからな。今おるんはcharm symphonyの事務所の関係者だけや」
そうか。Kiss Symphonyって名前が変わっても事務所はクリムゾングループじゃないもんね。クリムゾンに関係あるのはRionaさんだけで…。
ん?でも待って。それってもしかして…。
「Rionaは捨て石にされたようなものね」
だよね?理奈の言う通りだ。
多分本気でRionaさんを売り出そうとしているわけじゃない。charm symphonyへの…charm symphonyの事務所へのただの圧力の為の捨て石なんだ…。
そう思うとRionaさんって…。
「渚、だからって同情とかしちゃダメよ?」
「え?うん、わかってるよ」
「まぁ、こればっかりはしゃーないか。Riona自身も何をどう考えてるのか。その事に気付いているのかどうなのかわからないしね」
「そうですね…。私達は私達の音楽をやりましょう」
「すみませんね。みなさん。ほな、ワシはこの後も仕事が残ってるので失礼します」
「待ってお父さん」
「なんや?」
「お父さん、見てて。私の…私達の音楽を。最高の演奏をしてみせるから」
「渚!?」
『おっちゃん、見ててな。あたしの、Artemisの音楽!最高の演奏をするからっ!』
「……頑張れ」
そう言ってお父さんは控え室から出ていった。
---------------------------------
次はいよいよ私達の演奏だ。
不思議と緊張はない。
すごく落ち着いた感じがしている。
「B&Dのみなさーん。そろそろステージに来て下さい」
「よし、行こうか」
B&Dってバンド名は単にBlaze FutureとDivalの頭文字を取って付けただけの名前だ。
一応バンド名も必要だったみたいだから、みんなでパッと決めた。
<<<ワァァァァァァ!>>>
「渚ー!」「渚ちゃ~ん!」「お姉ちゃーん」
私達はステージに立った。
さすが地元のお祭だ。
子供の頃から見知った顔が多い。
梓お姉ちゃんも、Artemisも昔このステージに立ったんだね。
でもステージに立った今も不思議と緊張はない。
よし……。
「みんなー!こんばん……」
「そこまでよ!!」
私がみんなに挨拶をしようと声をあげると別の声に掻き消された。
そして、Kiss Symphonyの4人が水着姿でステージに上がってきた。何で水着なの?
<<<ざわざわ>>>
会場もざわざわしだしている。
それはそうだろう。こんな事予定に無かった。
「どういうつもりかしら?私達に演奏をさせないつもり?(ボソッ」
理奈も困惑している。
「私はKiss SymphonyのRiona。あなた達B&Dにデュエルを申し込むわ!」
「え?」
<<<ざわざわ>>>
デュエル?何で?
Rionaさんの後ろにいるRanaさん、Lunaさん、Renaさんはすごくばつの悪そうな顔をしている。
周りのスタッフさん達もざわめきだしている。
そっか、これRionaさんが勝手に…。
「どう?このデュエル、受けるの?受けないの?」
うっ…どうしよう?どうしたらいいんだろう?
こんなの勝手に受けたら町の自治体にも、charm symphonyの事務所にも迷惑が…。
そんな事を考えていると
「渚!」
観客席の方からお父さんの声がした。
-コクリ
私と目の合ったお父さんはそのまま黙って頷いた。
再びステージに目をやるとRenaさんと目が合い。申し訳なさそうな笑顔で頷いてくれた。
お父さん…Renaさん…。
自治体も事務所も大丈夫って事だね。
わかったよ。
私は理奈、奈緒、まどかさんの方を見る。
「うん!」
奈緒が力強く頷いてくれた。
「上等じゃない。私達にデュエルを挑んだ事後悔させるわよ」
理奈がそう言ってRionaさんを……と、思ったけどRionaさんのおっぱいを睨んでいた。
「ん!」
まどかさんは親指を立てて合図してくれた。みんなの気持ちは同じだね。
私はRionaさんの方を見て
「いいよ!このデュエル!受ける!!」
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Kiss Symphonyは以前理奈がcharm symphonyにいた頃の曲『vampire mode』『spirare』『明日の光』の3曲を演奏した。
理奈はcharm symphonyのみんながこの3曲を出来るくらい演奏が上達していた事に驚いていたけどどこか嬉しそうだった。
デュエルギグの結果は私達の演奏の方がオーディエンスも盛り上がりをみせたけど、Kiss Symphonyの勝利で幕を閉じた。
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「あはは、負けちゃったね」
「まぁ、元々出来レースだったわけだしこんなデュエルはノーカンだわ」
そうだ。元々優勝はKiss Symphonyに決まってた。
でも、それでもやっぱり悔しいな…。
「そうだよ渚。オーディエンスは私達のライブの方が盛り上がってたんだしね。渚としては地元のデュエルで…ってのがあるかもだけどさ…」
まどかさんも慰めてくれてるけどやっぱり悔しい。
「渚」
「奈緒?」
「私達いい演奏だったよ。きっとお父さんにも、梓さんにも届いてるよ」
奈緒……うぅ…そうだよね。
きっと梓お姉ちゃんにも届いてるよね…。
そんな事を考えていると急に頭に重い物が乗っかった。
「わ!?え?何!?」
私は頭の上に乗った重い物を取ってみた。
え?これって…。
イベントの優勝バンドのボーカルが貰う冠?
「Riona…」
理奈が私の後ろの方を見ながらそう言った。
「どうやら…私の名前は覚えたようね」
え?Rionaさん…?
「この冠はあなた達の物よ。どう贔屓目に見ても優勝はあなた達でしょ」
「え?え?」
「まったく……デュエルギグ形式にして演奏すればこんな茶番の出来レースも何か変わるかもと期待したのに…やっぱりクリムゾングループの圧力はこんなもんじゃ覆せないか…」
「あなた。出来レースってわかってたの?」
「まぁね…」
そしてRionaさんは話を続けた。
「クリムゾングループは私を売り出す為にcharm symphonyに入れた。それは嘘よ」
「え?」
「私の父親がクリムゾングループの会社の重役なの。私にはパーフェクトスコアを歌う才能はなかった。でも父さんに気に入られたい連中は私をクビにする事は出来ない」
え?それって…。
「なるほどね~。それであんたをcharm symphonyの事務所への牽制の為に使うってわけだ。胸くそ悪くなる話だね」
まどかさんの言う通りだ。それってすごく酷い…!
「それだけならそうね。実際は少し違うのだけれど」
「違う?どういう事ですか?そんなのってRionaさんもcharm symphonyのみんなもクリムゾンに利用されてるだけじゃないですか!」
「奈緒の言う通りですよ!そんなのって!」
「クリムゾングループはcharm symphonyの事務所を傘下に入れるつもりでいた。でもそうなるとあの子達は自分のやりたい事がやれなくなる。だから私が提案したのよ。傘下に入れるのではなく、クリムゾングループ所属の私がcharm symphonyに入れば問題無くなるんじゃないの?ってね」
「それはどういう事かしら?そもそもあなたがcharm symphonyに入った事自体がクリムゾングループの傘下に入るようなものじゃない」
「クリムゾングループは厄介者の私をcharm symphonyの事務所に押しつける事が出来た。そしてクリムゾングループである私がcharm symphonyの事務所のバンドに入る事でcharm symphonyが敵対する事はないから面目は立つ。それに私がいる以上charm symphonyには手を出される事はない。これであの子達の夢の邪魔はされないで済むわ」
「そっか。Rionaさんがcharm symphonyに入った事でクリムゾングループがcharm symphonyに手を出す心配はなくなったわけなんだ…」
「でもわからないわね。どうしてあなたがそこまでcharm symphonyの事を?」
「私は正直クリムゾングループは好きじゃない。父さんがクリムゾングループの社員だから入っただけ。それに私には夢があるわ。だから夢のあるあの子達にはこんなつまらない事で潰されてほしくなかった」
「あんたの夢って?」
「私の夢は…大きなステージで私のファンの前で歌う事。パーフェクトスコアの歌えない私にはそんなステージをクリムゾングループで用意される事はないわ。だから、私にとってもcharm……いえ、Kiss Symphonyはラストチャンスなのよ」
「そう…。その夢叶うといいわね」
「必ず叶えてみせるわ。Rinaあなたも私のライバルとして頑張りなさい」
「あの…。どういう事かしら?私のライバルはあなたではないのだけれど?」
「は?ちょ、ちょっと…?」
「あなたのベースも歌も確かに上手いと思うわ。でも……ごめんなさい」
「いや、待ちなさい、待ちなさいよ。素でそんな風に謝られると私すごく恥ずかしいんだけど…」
「本当に申し訳ないと思うわ。それにcharm symphonyの事を守る結果になった事には感謝しているわ。あの子達も一応元だけどバンドメンバーだったわけだし。でも、私のライバルとなると……やっぱりごめんなさい」
「わ、私のライバルとしてとか言ってしまった…恥ずかしい…恥ずかしい…」
Rionaさんが頭を抱えながら悶えている。
こう見るとこの人も可愛い人だな。
「だったらさ?理奈にはライバルって相手がいるわけ?」
「ええ、まぁ……」
理奈はそう言って奈緒を見た。
え?奈緒なの?奈緒ギターなのに?
あ、先輩を巡る恋のライバル的な?
「違うわよ」
やはり私の心は読まれている…。
「奈緒の妹の美緒ちゃん。彼女が私のライバルかしらね」
「ふぇ?美緒?何で?」
「先日、美緒ちゃんのライブに行かせてもらったのだけど…。あの子のベースも歌声も、正直震えたわ。」
「え?嘘。それって美緒は知ってるの?」
「多分……知らないわね…」
「へー、そうなんだ?美緒が知ったら大喜びしそうだよね。それより多分ってどういう事?てか、誰と行ったの?」
「………誰とでもいいじゃない」
「先輩か」
「貴だね」
「ち、違うの!たまたまなのよ!本当は貴さんと英治さんが行く予定だったのだけれど、英治さんが都合悪くなって…」
「それで?」
「そ、それで貴さんが『ほら、美緒ちゃんは理奈に憧れてんだろ?理奈も美緒ちゃんの演奏見とくのがよくねーか?』とか言って…!」
「あれ?おっかし~な。タカと英治の話だと『美緒ちゃんのライブがあるのね。私も憧れの対象でいたいし。美緒ちゃんのライブ見ておきたいわね』って理奈が言ってたから行きたいのかな?って誘ったって言ってたけど?」
「貴さんがそう言ってきたからよ!」
「で?ライブだけ行って帰ったの?」
「………帰りにそよ風でご飯を…少し」
「奈緒!どうやら今夜も眠れそうにないね!」
「うん!その話聞きたいよね!白目剥くくらい話そうよ。私なんか2回も……くっ!」
「ちょ、昨日も徹夜だったじゃない?今夜は早く休んだ方が……ね?」
「これは面白くなってきた…!」
そして私達は夜通し理奈に尋問……じゃなかった。
美緒ちゃんのライブの話を聞いたのであった。
ん?あ、Rionaさんの事忘れてた!?
「あの……私完全に空気?」
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翌朝
「ん…朝か……。いつの間にか寝ちゃったのかな」
「あ、おはよ、渚」
「おはよう奈緒!」
夕べは私も客間で寝ることにした。
理奈はうつ伏せになったまま、まだ寝てるし、まどかさんは何故か部屋の隅っこで小さくなって寝ている。
「よし、私は明子さんのお手伝いでもしてこようかな~」
「私は……」
そうだ。お父さんと話さなきゃいけない。私はバンドをやるって。私の歌どうだった?って…。
私と奈緒が客間のある2階から1階に降りるとお父さんがいた。
「渚、起きたか」
「お父さん…」
どうしよう。私は何てお父さんに声をかけたらいいんだろう?
「私は明子さんのお手伝いしてくるね。
………渚、頑張ってね(ボソッ」
う、やっぱり奈緒には助けてもらえないか…。
「どうした?座らんのか?」
「う、うん…」
私はお父さんの正面に座ったけど…。
うぅ…何て言えばいいんだろう。
「渚」
「な、何!?」
「昨日の演奏は良かった。最高のライブやった」
お父さん…。
「お、お父さん!私…!」
「でも駄目や。関東でバンドをするのは許さん」
「何でよ…やっぱり梓お姉ちゃんの事があるから?」
「婆さんか母さんに聞いたんか?」
「うん…」
それからお父さんは何も言わなかった。
私も何も言えなかった。
でもこのままじゃダメだ。
お父さんは昨日のライブを最高だと言ってくれた。だから、ちゃんとバンドを認めてもらってバンドをやりたい。
「お父さん。お願いします。私のバンド活動を許して下さい」
「……」
「私は歌が、音楽が好きです。ずっと聴く専門でしたが、ステージに立ってみんなの前で歌って…楽しいって!私の場所だって思いました!」
「……」
「私は…志保のギター、理奈のベース、香菜のドラム……そして、私の歌。Divalを続けたいです!これ以上の我が儘は言いません!お願いします!許して下さい!!」
私は頭を下げて想いを伝えた。
今までいっぱい我が儘を言ってきたとは思うけど…。
「わかった」
「お父さん…!」
「ならこっちに帰ってこい。こっちでバンド活動をするってんなら許したる…」
……!?何で…!!
「それじゃダメなの!私は…Divalでバンドがやりたいのっ!!」
顔を上げた私はお父さんの顔を見て…
それ以上は言えなかった…。
あんな寂しそうな…悲しそうなお父さんの顔は見た事がなかった…。
どれくらいの時間が経ったんだろう。
もう数時間?それとも数秒?
私には時間の感覚がなくなるくらいの…。
「渚…」
「は、はい!」
「………お前の気持ちはよくわかる。ワシ……俺もな。昨日の渚のライブを見て、胸に熱いものを久しぶりに感じた」
「うん…」
「夕べは一晩中悩んだ。渚にこのままバンドをやらせたいって気持ちと、渚がバンドをやり続けたらどうなるのかって怖い気持ちとな…」
「お父さん…!」
「ん?なんや?」
「私は絶対にお父さんを悲しませるような事にはならない。私には守ってくれるたくさんの仲間も……先輩…先輩がいるからっ!」
「その先輩って誰やねんな……。渚。俺もお前が死ぬとかそんなん思ってへんよ。梓はたまたまの偶然の事故や。それはわかっとる」
「うん…」
「………はぁ」
「お父さん?」
「梓はクリムゾングループに殺された」
「……………え?お父さん今、何って…?」
梓お姉ちゃんが……?
クリムゾングループに………殺された?
「って噂も立った時期がある」
「は!?噂!?びっくりしたやん!何やねん!」
びっくりした!びっくりした!!
そんな事さすがにないよね…!
「でもな。そんな噂が立つくらいにはクリムゾングループは危険なんや。
翔子も澄香も日奈子も…まだあっちにおるけどな。それでもクリムゾングループからは隠れて生活しとるらしい」
え?
翔子お姉ちゃんも澄香お姉ちゃんも日奈子お姉ちゃんも…?まだ関東にいるの?今何をやってるの…?
「翔子さん達は…まだクリムゾングループに狙われてるの?だから梓お姉ちゃんはクリムゾングループに殺されたって噂が立ったの?」
「わからん。もし梓が本当にクリムゾングループに殺されたのなら翔子達もあっちに住んだりしないやろ…」
そ、それもそうか…。
でも…今でも狙われてるって…。
何で?翔子さんも澄香さんも日奈子さんも今は音楽をやってるなんて話は聞かない。
まぁ、私がその辺疎いからかもだけど。
それでもまだ音楽やってるのなら噂くらいは………。噂は噂か…。
「だから俺はお前があっちでバンドをやるのは許されへん。お前を守ってくれる人がおらん。
……こっちでなら俺も…来夢もおる」
お父さんの気持ちもわかる…。
私はお父さんに愛されてるんだ。
だからお父さんは私を心配して…。
もう…お父さんを説得するのは無理かな…。
志保…理奈…香菜………。
お父さん…ごめん…ごめんなさい……。
私は…私はDivalの水瀬 渚なの…。
「うぅ…う……おと…お父さ…ん」
「渚…すまん…」
ごめんな…さい…。
「わた…私…私は…」
「はい、そこまでで~す」
私がお父さんに謝ろうとした時だった。
「明子さん…これ絶対もっと早く出てくるべきでしたよ…?」
「奈緒ちゃんごめんなさいね。でもちゃんと話さないとこの2人はダメだと思うから」
「はぁ……ま、しょうがないんですかね~?」
奈緒とお母さんが私達の横に座った。
「じゃ、奈緒ちゃん、お願い出来るかしら?」
「わ、私が言うんですか!?わ…私の気持ちも話しましたよね?」
「私は奈緒ちゃんの味方をする。この約束でどう?」
「くっ……わかりました…。絶対の約束ですよ?」
え?お母さん?奈緒の味方なの?
ってか何の味方?
「渚は取り合えず黙って聞いててね?面倒くさいから」
え?面倒くさい?
私が喋ると面倒くさいの?
「お父さん!」
「……可愛い」
「あなた?」
「ヒッ!?すまん!
……な、何かね?」
「お父さんは~?16年前?ですかね?ここのお祭でArtemisが出場した時の事覚えてますか?あ、わざとらし過ぎましたかね。覚えてますよね?」
「あ、ああ…もちろん覚えとる…」
「その日って~。すっごい大事件ありましたよね?渚の事で」
え?私!?16年前…?
私7歳?
Artemisが…梓お姉ちゃん達がイベントに出場した記憶ないんだよね…。なのに何で奈緒が知ってるの?
「あ、ああ、あの日は渚が梓の晴れ舞台やからって花を取りに行って…」
「そうです!それです!渚は梓さんに花を贈ろうして裏山の花を摘もうとして崖から落ちたんですよ!」
え?私崖から落ちたの?大丈夫なの?
あれ?私生きてるよ?生きてるよね?
「その時に……渚を探しだして助けてくれた…渚の命の恩人さん…。お父さんも知ってますよね?」
「ん?タカちゃんの事か?」
「はいー………そうですぅ…。タカちゃんです。梓さんの関東の友達の…BREEZEのタカちゃんです……」
え?タカちゃん…?BREEZEのタカ…?
貴…?先輩の事?
先輩が…私の命の恩人…?どういう事?
「タカちゃんの事ならよく知っとるよ。こないだも梓のお墓参りのついでに家に寄ってくれたしな。そのタカちゃんがどうしたの?」
「な…渚の…渚のいつも言ってる先輩さんがそのBREEZEのタカちゃんなんですぅ…」
「……はい?」
え?は?ちょっと待って。頭が追いつかないんだけど?
「だから~。昔渚を助けてくれた貴が、渚の先輩さんなんです!だから貴が渚の事をこれからも守ってくれると思うんですよ。
………なんで私がこんな事…(ボソッ」
「ほんまか?渚の彼氏ってBREEZEのタカちゃんの事やったんか?」
ちょっ!お父さんも何言ってるの!?
先輩は彼氏じゃないし!
って、それより命の恩人ってどういう事?
「あ、あの、貴は渚の彼氏とかじゃないので…ただの会社の先輩なので……ね?渚?」
黙ってろって言われたから喋りません。黙秘します。
「ね?渚(ニコッ」
「そうだよ。先輩ってBREEZEのTAKAの事だけど私の彼氏じゃないよ。マジ違うから」
おおう。奈緒の笑顔が怖いぜ。
「そ、それより奈緒が何でそんな事知ってるの?私ですら知らなかったのに…」
「やっぱりこないだの晩御飯の時…上の空だったんだね…」
「あのね、渚。16年前の事なんだけどね……」
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16年前の夏祭。
あの時は梓ちゃん達が初めて地元のステージで歌うという事で、関東の友達であるBREEZEの4人を招待していた。
『ちょっ!タカ大変!』
『ん?澄香?どした?』
『ほら、昨日一緒に遊んであげた梓ん家の近所の女の子!あの子が行方不明になったって!』
『ああ…あの子か。え?まじで?』
『うん、そうみたい。今、梓達も一緒にみんなで探してるみたいだけど…』
『タカ。どうする?俺らも一緒に探してみるか?』
『誰だ貴様!?』
『お前…過去編でも俺の事忘れてんの?』
『ん?ああ、拓斗か。久しぶりだな』
『は?久しぶり?』
『う~む、昨日のあの子なら俺らも顔はわかるしな。英治と拓斗と俺で探すか。トシキは一応ここに残って、もしあの女の子が見つかったら俺らに連絡くれ。どっちにしろ祭のイベント前にはここに集まろう』
『わかったよ、はーちゃん』
そして自治体の数人とArtemisとBREEZEのメンバーで渚の捜索が始まった。
けれど、渚は一向に見つかる事はなかった。
『ダメだ。こっちもいねぇ…』
『うぅ…なっちゃんどこ行ったの…』
『泣くな梓…大丈夫だから』
『英治くぅん~…』
『あ!おい!テメェ英治!何梓に抱きつかれてんだ!三咲にチクるぞ!』
『宮ちゃん、まぁまぁ…』
もう少しでイベントライブの時間。
渚が見つからないままその時間は近付いてきていた。
『それよりタカちゃんは?』
『あたしは見てないな。日奈子の方にもいなかったのか?』
『翔子ちゃんも?ありゃ?澄香ちゃんは?タカちゃんと一緒だった?』
『いや、私も見てへんよ。どこ行ったんだろう?』
『英治、トシキ…これってヤバくないか?』
『ああ、タカがその女の子を誘拐したと疑われかねないな』
『はーちゃんがその女の子見つけても一緒に歩いてる所を警察に見られたら…』
『タカくん射殺されちゃう!?』
『くそ!俺達BREEZEもこれまでか!』
『いやいや、さすがにそれはないでしょ』
『あたしらはイベントの準備をしとこう。このままだと参加出来なくなる』
『うん、そうだね。運良くタカちゃんが見つけてくれてるかも知れないし』
『梓、行こう。タカとなっちゃんがもしイベントに間に合って私達が出場してなかったら悲しむよ?』
『うん…』
『澄香の言う通りだぞ。俺らももうちょっと探してみるからお前らはイベントに集中して優勝してこい』
『英治くん…』
『ほら、梓ちゃんもはーちゃんと優勝するって約束したでしょ?後は俺達に任せて』
『うん。トシキくんありがとう…』
その頃………
『まずいな。迷子になった。この時代スマホないしな。かー!GPSのありがたさが身に染みるわ~』
町から少し離れた林道をタカさんは歩いていた。
『う~…う~…』
『ヒッ!?何事!?何かうめき声が聞こえる?』
林の奥の方から何か声が聞こえる。
タカさんは不気味に思いながらも、もしかしたら…と思い、声のする方へ近付いて行った。
『くそ…私にもっと力があれば…いや、この背中の漆黒の翼が封印されてさえいなければ……無念…!』
『ピーピー泣いてると思ったら中二病拗らせた事言ってるとか余裕あるな』
『ヒッ!?誰!?私が可愛いから誘拐するつもりね!』
『ほんとに余裕あるな』
そこには横たわりながら中二病を拗らせた事を言っている渚が居た。
『なんだ…誰かと思ったら昨日のお兄ちゃんか…』
『お前こんな所で何してんの?』
『あそこ……』
渚は崖の上を指差した。
『あそこに梓お姉ちゃんが好きなお花が咲いてるの』
『ほぉ……。まさかそれを取りに行こうとして落ちたのか?』
『それを取ったら落ちた!』
『ドヤ顔で言う事じゃないな』
『せっかくお花取れたのに…。これからどうしようかな?って…考えてたの』
『お前…まさか動けないのか?』
『うん…』
渚が動けないと聞いたタカさんは急いで渚の元に向かった。
『お前…これ…』
『痛っ!』
『これ…折れてるかもしんねーぞ?』
『私の心は折れてない!少し…泣きそうにはなったけど…』
『心の話じゃねーよ。足だ足』
『足…?折れたらどうなるの?』
『ん、超痛い。足痛いだろ?』
『うん…超痛い…』
『ちょっと…我慢しろな…』
タカさんは渚をおぶった。
『大丈夫か?』
『うん…』
『よし、帰るぞ。あ~、帰り道とかわかるか?』
『わかんない。私は上から来たし』
『そか。さすがにおぶったまま登れねぇな。ま、来た道戻ってりゃそのうち着くか』
タカさんは渚をおぶったまま来た道を戻った。
渚の足も心配だから救急車を呼ぶ事も考えたようだけど、それだと渚はArtemisのライブを見れなくなるし、救急車に正確な場所を伝える事も出来ない。
幸い渚は泣いていないし、それほど痛がってもなかったから骨折まではしてないかな?と安心していた。
『それよりお前が泣いてなくて助かったわ』
『泣かないよ。強いもん』
『そか』
『それに梓お姉ちゃんが涙はここぞと言う時の女の武器だから簡単に流しちゃいけないって』
『は?あいつ幼女に何教えてんの?アホなの?………あ、もしかしてあれか?さっきの漆黒の翼とかも梓から教わったのか?』
『うん』
『あいつほんっっっっと何教えてんの!?』
『お兄ちゃんって梓お姉ちゃんの彼氏さん?』
『いや、違う』
『そっかぁ…』
『あれ?こっちだったかな?ヤバイな。このままじゃ、この子イベントライブに間に合わせてやれねぇ…。チ、いつもなら一度通った道には迷わないんだが、こんだけ似た景色ばっかだとわかんなくなるな…』
『お兄ちゃん』
『ん?なんだ?』
『ありがとう…。このままもうお父さんにもお母さんにも会えないかと思ってた…。このまま死んじゃうのかもって本当に怖かった…』
『大丈夫だ。もうすぐお父さんにもお母さんにも会える』
『うん……お兄ちゃん』
『ん?』
『好き…』
『あ?ああ、ありがとうな。俺も好きだぞ』
『ほんまに?』
『おう、俺は餅はついても嘘はつかねぇ』
『じゃあ、私大きくなったらお兄ちゃんと結婚する!』
『そか。そん時も俺が結婚してなくて可愛くなってたらな』
『ブスになったら?』
『ごめんなさい』
『は!?普通子供にそんな事言う!?』
『さっき嘘はつかねぇって言っただろ?』
『あ、そっか。う~む……
……じゃあ私可愛くなる!』
『おう、それはいいこっちゃな。頑張ってくれ』
『だからお兄ちゃんも結婚しちゃダメだよ?』
『え?嫌だけど?結婚したいし』
『なんでやねん!私可愛くなるから!』
『はぁ…わかったわかった。善処する』
『ぜんしょ?』
『おう。善処』
『うん、よくわかんないけどわかった。絶対可愛くなってお兄ちゃんと結婚してあげるからね』
『ああ、そん時は頼むわ』
それから少し歩くと町が見えてきた。
『あ、町見えてきたぞ。もうすぐだからな?』
『すぅ~すぅ~』
『ん?寝てんのか。………それでも梓への花はしっかり握ってんだな。何とかArtemisのライブに間に合えばいいけど…さすがに無理か。それより警察とかに見つからないように移動しなきゃな…。誘拐とか思われたら大変だし』
そしてタカさんはイベント会場に到着し、BREEZEのみんなと合流して自治体のテントに居るお父さんの元へ渚を連れて行った。
渚は打ち身と捻挫はしていたが、骨折しているわけでもなく救護テントの応急措置で済んだ。
『ん……あれ?知らない天井だ…』
『うわぁぁぁぁん!なっちゃぁぁぁん!』
『あれ?梓お姉ちゃん?』
『起きてそうそうエヴァの台詞ぶっこむとか本当に末恐ろしいな』
『あ、お兄ちゃん』
『なっちゃん、大丈夫?痛くない?』
『お母さん…お父さんも……う、うぅ…うわぁぁぁぁん!』
渚は安心したのか泣き出してしまった。
目を覚ました渚をお父さんがおぶって帰ろうとしたけど、お兄ちゃんがいいと駄々をこねたのでタカさんがおぶって家まで帰ってくれた。
『タカくん!なっちゃん見つけてくれて本当にありがとうね!』
『ああ…でもすまんな。俺もこの子もArtemisのライブに間に合わなかった』
『いいよ。別に。なっちゃんが無事だったから』
『そか。あ~、あれだ。優勝おめでとう』
『へへ、ありがとう』
『あ、そうだ…梓お姉ちゃんにお花…』
『うん、なっちゃんありがとうね。貰ったよ。押し花にして御守りにするね』
『うん!』
『へへ…でも…。タカくんと結婚して子供が産まれたら…こんな感じ…なのかな?』
『バッ!お前何言ってんの。ほんとに何言ってんの?そして何でなっちゃんは俺の頭をペシペシ叩いてんの?』
『お兄ちゃん…もう浮気?』
『安心しろ。梓のいつもの冗談だ』
『ちゃうのに…(ボソッ』
『梓お姉ちゃんでもダメだよ?お兄ちゃんは私と結婚するの!』
『へ?タカくん……やっぱりロ…』
『大きくなって可愛くなったらな』
『むぅ…』
『良かったわねぇ、なっちゃん。素敵な旦那が見つかって』
『娘をよろしくお願いします』
『あの…ああ…はい。善処します…』
『タカくんのバカ』
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「と、まぁ、そんな事があったのよ」
「本当にとんだロリコン野郎ね」
「まぁ、タカは昔からタカだったんだねぇ~」
いつの間にか理奈とまどかさんも起きてきていた。
「そうかぁ。まさかタカちゃんが渚の先輩やったとはなぁ。で?いつ結婚するんや?」
「は!?いや!だから先輩はそんなんちゃうし!そんなん子供の頃のはな……」
私が全てを言いきる前に奈緒に口を塞がれた。
「あ、あははは。だからお父さんも安心じゃないですか?貴とはバンドは違いますけど、会社も一緒だしよくご飯も行ったりするくらい仲良しさんですよ」
「奈緒も大変ね」
「ほんとにね~」
「そっか…確かにタカちゃんが居てくれるなら大丈夫か…」
「ですです!事故とかそういうのは関東でも関西でも渚がちゃんと気を付けないといけないのは一緒ですしね」
「そうやなぁ…バンドのメンバーも仕事もあっちやしなぁ…」
「もう一押しといった所かしらね?」
「もう大丈夫でしょ」
「ね?クリムゾンだけじゃなくて、貴はきっと……」
奈緒が急に黙り込んだ。
え?どうしたの?
「貴はあんなんですから…きっとじゃなくて絶対守ってくれます。渚も私も理奈もまどか先輩も…他のみんなも…」
奈緒…。
そうだ。先輩はいつもそうだ。
私が仕事を辞めようと悩んでた時も…
こないだの対バンの時も…。
私は私の口を塞いでいる奈緒の手をどけた。
「私も!守られてばかりじゃない!私も先輩を…貴を守るもん!」
「渚……タカちゃんを守る……タカちゃんの家庭は私が守る……タカちゃんと結婚して家庭を支える主婦になる………。
な、なんやて!?渚にはその覚悟が…」
「とんでもない脳内変換がきたわね」
「とんだ茶番だよね?」
「うん、私にはその覚悟がある!」
「渚も自分で何を言ってるのかわかってるのかしら?」
「帰りの電車の時間何時だっけ?」
「わかった。渚。関東でバンド活動をするのを許してやる」
「ほんと!?」
「条件は2つ」
「は、はい!守ります!」
「1つは事故とかもそうやけど体調にも気を付ける事」
「はい…」
「後はまた…タカちゃんと飲みに行きたいしいつか二人でこっちに遊びに来い」
「う…うん!約束する!」
「二人で……ね…」
「多分渚は意味わかってないね」
「お父さん…本当にいいの?」
「ええよ。渚のバンド活動を…応援する」
「お、お父さん…!!」
「良かったね!渚!」
「うん!うん…!奈緒…本当にありがとう…!」
私は奈緒と抱き合って喜んだ。
そして奈緒は私の耳元で
「この貸しは高いからね~?いつか返してね?(ボソッ」
「え?」
「えへ♪」
な、なんて低い声が出るの奈緒ちゃんったら。
あ、危なくチビりかけたからね?
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私達は今帰りの新幹線の中にいる。
本当に長い。色々な事があった帰省だった。
そんな物思いにふけっていた時、英治さんからLINEがきた。
「あれ?英治さんからLINE?」
「あ、渚にもきたんだ?私にもきたよ」
「みんなに送ってるのかしらね。私にもきたわ」
「う~ん、今夜ファントムに集合か…。なんだろ?」
私だけじゃなく奈緒、理奈、まどかさんにもきたようだ。
これが大事件の幕開けとなった。
私達の夏はまだ終わってなかった。
そしてこの夏……私達とクリムゾングループとの戦いが始まる。