バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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このお話は各バンドの8章の次の特別編となります!


特別編
第1話 ファントムの集い


俺の名前は葉川 貴。

今日は8月16日。

 

本来なら会社は夏休みなのだが、俺は休日出勤をしていた。

そんな休日出勤も終わり、家で残りの夏休みをいかにだらだらと過ごすか。

そんな期待と希望に胸を膨らませながらの帰宅中。

 

昔のバンド仲間の中原 英治からあいつの経営するライブハウス『ファントム』に呼び出された。

 

休日出勤した日にファントムに行く。

先日はそれで面倒な事になったので気乗りはしないが、もしかしたら11月に開催するギグイベント『ファントムギグ』の大事な話かも知れない。

 

そう思ったのでやむを得ずファントムに向かうことにした。

 

「あ?貸切?」

 

ファントムに着いた俺は本当に嫌な予感がした。

ファントムではライブの無い日にはカフェをオープンしている。

なのにファントムの入り口には貸切の立て札。そして、中からは大勢のワイワイ話している声が聞こえる。

 

「うぅむ……帰りたい…」

 

俺はそう思いお腹が痛いことにして帰ろうとした時だった。

 

「あれ?貴、入らないの?」

 

そこにはDivalのギタリスト雨宮 志保が居た。

 

「あ?何でお前ここにいんの?」

 

「あたしはバイト終わって今来た所だよ。で?今帰ろうとしてなかった?」

 

「てか、志保も英治から呼び出されたのか?」

 

「うん、渚や理奈も香菜もみたい」

 

「そうか。いい事を聞いた。やはり俺は帰る」

 

俺はそのまま帰ろうとしたが志保に腕を掴まれた。

 

「往生際が悪いよ貴!いつまでも逃げてられないでしょ!もう諦めて二人で一緒にしばかれよう?」

 

「いやいやいや、何でしばかれるとわかってて行かにゃならんのだ。俺は帰る」

 

「いいの?あたしだけだったら自分の身可愛さにある事ない事言うよ?」

 

ぐっ…やむを得んか…。

まぁいい。2、3発殴られる程度で済むだろ。覚悟を決めるか…。

ってか、2、3発殴られる程度ってデュエルギグ野盗より怖いやん……。

 

そして俺は意を決してファントムの扉を開けて中に入った。

 

 

そこには色んな面々がいた。

 

Blaze FutureやDivalだけじゃない。

Ailes FlammeにCanoro Felice、evokeもFABULOUS PERFUMEも居た。

いや、それだけじゃない。

トシキも晴香も、綾乃や美緒ちゃんも居た。

 

これって何の集り?

 

「あ、貴!」

 

俺を見つけた我がBlaze Futureのギタリスト佐倉 奈緒がパタパタと俺の方に走ってきた。

え?何でほんとにパタパタ走る音してるの?

妖怪か何かなの?

 

「おう、奈緒。こんばん…」

 

「フン!」

 

「グホッ…!」

 

俺の元まで走ってきた奈緒にいきなりボディブローをもらった。

 

「な、何で…」

 

「いや~、この夏休みに色々な事がありまして。八つ当りです」

 

「お、おま…あれだろ?BREEZEのTAKAさんに憧れてたんだろ?それって俺の事ですよ?」

 

「やだなぁ貴は~。そんなのわかってますよぅ」

 

「憧れの人にいきなりボディブローなの?」

 

「だから八つ当りです」

 

な、何なのこの子。何で俺殴られたの?

ヤバいな、もしかして本当に2、3発殴られるの?嫌だなぁ。帰りたいなぁ…。

 

「先輩。こんばんはです」

 

俺が床に寝そべりながら苦しんでいると、Divalのボーカル水瀬 渚が俺の目の前にしゃがんで声を掛けてきた。

チ、もう少し丈の短いスカートだったら良かったものを…。

 

「先輩にちょっと聞きたい事があるんですよ」

 

「聞きたい事?何だ?」

 

あぁ~、嫌だなぁ。これ絶対殴られるフラグだよ。もう嫌だよ…帰りたい…。

 

「あ、あのね。あ、いや、あのですね…」

 

………。おっと、いかんいかん。

一瞬可愛いと思ってしまった。

この位置関係…顔面殴られる覚悟もしとかないとな。

 

「あの…私って…男の人の目線で見て可愛いですか?ブスですか?」

 

「は?」

 

「あの…可愛いか…ブスか…どっちかな?って…」

 

え?可愛いよ?可愛いけど……。

これはあれか?可愛いって言ったらセクハラって殴られて、ブスって言ったら罵られながら殴られるパターンか?

ヤバい。殴られる未来しか見えない…。

 

それより志保はどこに行ったの?

俺を置いて逃げたの?

 

「あは、やっぱり…可愛くない…よね…」

 

いや、可愛いか可愛くないかなら可愛いよ?なんか様子が変だな…。

あ!あれか!?好きな人出来て悩んでる的な感じか?

なら、ちゃんと答えてやらないとな。

 

「ん、俺目線で良けりゃだけどな。他の人は知らんぞ?渚はめちゃ可愛い方だと思うぞ?」

 

「え?か、可愛い……って…ほんまに?」

 

「まぁな。自信持ってもいいと思う」

 

「うへ」

 

うへ…?

 

「私…可愛いかぁ…えへへへ」

 

そう言って渚は立ち上り上機嫌で去って行った。

どうやらこの解で合っていたようだ。

セクハラとか言われて殴られなくて良かった…。

 

「むぅ~…」

 

「奈緒は何でほっぺた膨らませてんの?あざとさアピール?」

 

「……何でもないですよ(ニコッ」

 

こ……怖いよママン…。

 

<<<ざわざわ…>>>

 

おっと、ここでこのまま寝そべってる訳にもいかんな。

ってかこのメンツに召集って何の話なんだ?

 

「なぁ奈緒」

 

俺は立ち上り奈緒に話し掛けた。

 

「え?は、はい。何ですか?」

 

「奈緒も英治に呼び出されたのか?」

 

「はい。そうですよ。このメンツってファントムギグに参加するメンツですかね?」

 

「俺もそう思ったんだが晴香とかは関係ないだろ?」

 

「あ、あ~…確かに…」

 

「それで何でみんなを呼び出した英治はあそこで正座しながら泣いてるの?何かあったの?」

 

「あ、あれは私と渚と理奈でちょっと尋も……ちょっとお話してたらあんな感じに…」

 

え?今尋問って言おうとした?

 

「奈緒。英治ってな。お前の憧れのBREEZEのドラマーだったんだぜ?」

 

「し、知ってますよ!」

 

「にーちゃん!」

 

俺が奈緒と話をしていると後ろから思いっきり抱きつかれた。

 

「おう、渉か。久しぶりだな。泊まりでバイトに行ってたんだってな?お、ちょっと背延びたか?」

 

「あはははは、身長は変わってねー!」

 

 

 

 

 

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俺の名前は中原 英治。

昔、BREEZEというバンドでドラムを担当していた。

 

現在は可愛い妻と娘と一緒にライブハウス兼カフェを営んでいる。

 

でも今は渚ちゃんと奈緒ちゃんと理奈に正座をさせられ説教され、謂れのない事で泣かされていた。

 

俺…タカと梓が付き合ってたとか言った覚えないけど?確かに付き合っててもおかしくない二人だったけどさ…。

 

「おい英治」

 

俺が何とか泣き止もうと頑張っているとタカが話し掛けてきた。

 

「おう、タカ」

 

「このメンツに召集って何だ?ファントムギグの事かとも思ったけど晴香もいるし三咲も居るしな。何があった?」

 

「お、三咲と挨拶したか?最近お前がバンド始めた事とか、よくここに来る事話してたら会いたがってたぞ?」

 

「いや、まだ挨拶してねぇな。お前と違って忙しそうだし」

 

タカとトシキは…昔からこうだよな。

周りの事に気を使いまくって…。

そんなお前らとバンドやってたから、俺も拓斗も変われたんだよな。

 

「で?マジで何なの?」

 

「あ、ああ、そうだな。お前と志保で全員揃ったはずだしな」

 

ヤバいヤバい。こんな事している場合じゃなかった。

俺は今からみんなに大事な話をしなきゃいけない。

 

と、その前に…

 

「おい、姫咲ちゃん。いいか?」

 

「あ、はい」

 

俺は立ち上りCanoro Feliceのベーシスト姫咲ちゃんを呼んだ。

そして俺と姫咲ちゃんはフロアから中二階に上がる階段の上に登り…

 

「みんな今日は忙しい中集まってもらってすまん。今から大事な話をするからよく聞いてくれ」

 

みんなに向かって声を掛けた。

 

みんな話をするのを止めて俺の話に耳を傾けてくれている。

 

「まずは…そうだな。俺はここのみんなのほとんどが知っていると思うが、昔BREEZEというバンドでドラムをやっていた。もう15年前の事だ」

 

さて、タカを説得するならここから話さないとな…。

 

「明後日の8月18日の土曜日になんだが。俺達BREEZEの昔馴染みのバンド。HONEY TIMBRE(ハニー タンブル)というバンドが南の島で開催される『南国DEギグ』に参加して再活動をすると連絡をもらった!」

 

「南国DEギグ?」「聞いたことあるぞ…」「ハ、HONEY TIMBREってあのHONEY TIMBRE?」「そか、あいつらまだ生きてたか…」「南国DEギグってクリムゾンも介入出来ないくらいのギグイベントって…」

 

うん、思った通りの反応だな。

バンドを志す者なら噂だけでも南国DEギグは聞いた事があるはずだ。

 

「そしてそのHONEY TIMBREのメンバーから南国DEギグのチケットを15組30人分を貰う事が出来た。そこでここにいるみんなの中から一緒に行くメンバーを決めようと思って呼び出したんだ。明日出発で2泊3日の旅になる」

 

「ここからは私が説明しますわ。英治さんが戴いたのはあくまでもライブのチケットです。旅費まで出して貰ったわけではありません。そこで、ちょうど会場の近くに、私秋月グループのホテルがあります。

この夏休み時期ですが12部屋空きがありましたので、そこに泊まってもらうという事で12組分24名の方を招待しますわ。

あ、ごめんなさい。Canoro Feliceで4人埋まりましたので残り20名です」

 

「え?俺バイトあるんだけど?」「春太諦めろ。秋月が決めた事は絶対だ…」「旅費も出してもらえるなら行きたいよね」「ああ、嫌な予感が当たった…」「そんなイベントなら行きたいよな」

 

うん、みんなざわざわしているな。

 

「俺はここの仕事が忙しくて三咲にも初音にも家族サービスをしてやれなかったからな。いい機会だし家族旅行も兼ねて行こうと思ってる。

ここの会場の近くにはトシキの別荘もあるし、俺と三咲と初音、トシキと晴香と晴香の義弟の達也はライブには参加するが旅費は自分達で出してトシキの別荘に泊めてもらう事にした。だから姫咲ちゃんの…秋月グループの融資で残りの20人を募集したい」

 

「え?俺はトシキのとこ泊まれないの?」「俺は妹と会えなくなるから行きたくないな…」「ねぇ渉…あの達也って人先生じゃない?」「何で東山先生がいるんだ?」「お姉ちゃんどうする?」「あ~、私は行きたいかな。仕事もお休みだし」「ボクも行きたい!」

 

「この中から20人ってなると行きたくても行けない人も出てくると思うし俺が勝手に7人は選ばせてもらった。もちろん用事があるとかなら他の人に権利を譲っても構わない。見たいよな。HONEY TIMBREの再活動…」

 

最後にこれを言った事でタカは参加せざるを得ないよな?俺とトシキも行くわけだし。

 

<<<ざわざわ>>>

 

「まずはAiles Flammeから秦野 亮くん!」

 

「え?お、オレすか?いいんすか?」

 

「次にBlaze Futureのタカ!」

 

「ま、7人って時点でそうだろうとは思ったけどな…HONEY TIMBREか……久しぶりだな…」

 

「次にDivalの水瀬 渚ちゃん」

 

「わ!私!?うわー!めっちゃ嬉しいです!」

 

「evokeの豊永 奏くん!」

 

「ありがとうございます。勉強させていただきます」

 

「まだバンド名は決まってないんだったか?綾乃、お前だ」

 

「え?私?」

 

「FABULOUS PERFUMEからはふた……ナギ!」

 

「待ってくれ、俺はまだ足が…。是非参加したいとは思うんだが…みんなに迷惑かからないか…?」

 

「そして、gamut(ガマット)からは佐倉 美緒ちゃん。お願い出来るかな?」

 

「わ、私…ですか?え、でも……」

 

「このメンバーは各バンドのバンマスって事で決めさせてもらった。残りは13人。各々色々あると思うし、無理な人もいるかも知れん。しばらくみんなで話し合ってくれ。参加したいメンバーが決まったら俺の所に来てくれ。参加メンバーがオーバーするようならくじ引きで決めさせてもらう。以上だ」

 

 

 

 

 

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オレの名前は秦野 亮。

Ailes Flammeでギターをやっている。

 

南国DEギグか…。

昔からよく聞くギグイベント…。

まさかそのイベントを観に行く事が出来る日が来るとは…。

 

「良かったな!亮!そんなすげーイベントに行けるなら俺がバンマスやれば良かったぜ!」

 

「いいなぁ~ボクも行きたいなぁ。残り13人かぁ…行けるかな?』

 

「僕も行きたいよ。南国DEギグって僕でも聞いた事あるもん。これって行けたらすごい勉強になりそうだよね」

 

そうだな。オレ達に足りないモノも何か掴めるかもしれない。

 

渉とシフォンも歌詞を作ってくれたみたいだし、 8月末にはFABULOUS PERFUMEのライブのヘルプもある。

練習も大事だとは思うが、このイベントに参加する事はオレ達にとっていい経験になるだろう。

 

「オレとしては行きたいと思うし、出来ればAiles Flammeのみんなで行きたいと思う。みんなの予定とか希望はどうだ?」

 

「行きたいに決まってるじゃん!南国DEギグなんて最高のイベントだよ?生で観てみたい!」

 

良かった。シフォンも行きたいと思ってくれてるのか。

これはシフォンとお泊まり旅行!?

 

「僕もバイトはまだお盆休み中だし行きたいかな。ベースの練習もしなきゃだけど、ベースもちゃんと持っていくし!」

 

拓実も同じ気持ちで良かった。

 

「ま、渉ももちろん参加だろ?オレ達はAiles Flamme全員で参加したいって英治さんに伝えてくるか」

 

「ああ!もちろんだぜ!てか、東山先生って英治にーちゃんの知り合いだったんだな。びっくりしたぜ…」

 

オレ達Ailes Flammeは、バンマスであるギター担当のオレ、秦野 亮。

ボーカルの江口 渉。

ベースの内山 拓実。

ドラムのシフォン。

この4人で参加を希望する事にした。

全員で行けたらいいけどな。

 

 

 

 

 

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私の名前は柚木 まどか。

Blaze Futureでドラムを担当している。

 

Blaze Futureのボーカル葉川 貴。

ギターの佐倉 奈緒。

ベースの蓮見 盛夏。

 

私達は4人で南国DEギグに参加したいメンバーの話し合いをしている。

ただ意外だったのが……。

 

「タカがぶつくさ言わずに行きたがるとか珍しいね」

 

「HONEY TIMBREの再活動だしな。英治もトシキも行くのに俺が行かないわけにはいかないだろ。それに久しぶりのあいつらの演奏見てみたいしな…」

 

HONEY TIMBREか…。

私は聞いた事ないバンドだなぁ。

 

「あたしも行きたい~。HONEY TIMBREの曲も好きだし、今年の南国DEギグにはあたしの好きなバンドも出場するし~」

 

「へぇ、盛夏はHONEY TIMBREの曲知ってるんだ?他にも好きなバンドが出るなら行きたいよね」

 

「私もHONEY TIMBREの曲知ってますよ。美緒も行けるみたいだし保護者として私も行かせてもらえないかなぁ?」

 

「あ?そっか。美緒ちゃん未成年だしお姉ちゃんとしては心配か」

 

「まぁ、美緒も子供じゃないんですし、貴も英治さんもトシキさんも晴香さんもいますしね。あんまり心配はしてませんけど」

 

タカも奈緒も盛夏も参加したい派か~。

私も南国DEギグは見ておきたいし、南の島でバカンスとか最高なんだけど…。

 

「まどかさんは参加しないの~?」

 

「う~ん…ちょっと悩んでるかな…」

 

「は?まじでか?お前はいの一番に参加したいって言い出すと思ってたんだけど?」

 

「わ、私もまどか先輩は参加したい派だと思ってました…。何か用事があったりするんですか?」

 

「ん?ううん、用事とかじゃないよ。仕事も9月からだしね」

 

「そっか。お前保母さんだもんな。8月いっぱい休みなのか」

 

「え?まどかさんって保母さんだったの?」

 

「うん。まどか先輩は幼稚園で先生やってるんだよ」

 

あ~、そっか。盛夏とはあんまりこんな話しないから知らなかったのか。

 

「ま、それはそれとして~。何で悩んでるの?」

 

「う~ん、南国DEギグは見ておきたいし、南の島でバカンスって最高だと思うけどさ。南国DEギグはシフォンとかイオリに見させてあげたいんだよね。大きなフェスとかあんまり見た事ないだろうしさ。あの子らに参加させてあげたいなぁって…」

 

「よし、ならBlaze Futureからは全員参加希望で英治に伝えてくっか」

 

「ちょっ!タカ!私の話聞いてた!?」

 

「ああ、シフォンかイオリがもし行けなくなって、まどかが参加権利を手に入れたらどっちかにやりゃいいだろ」

 

「で、でも二人共行きたいのに行けなくなったら…どっちかにしか…」

 

「そん時は俺の権利もくれてやる」

 

「は!?だってタカも見ておきたいって」

 

「さっきまどかが言った事な。俺もそう思ったからな。シフォンやイオリだけじゃなくて、Ailes Flammeも志保も美緒ちゃん達もな。高校生組に見せてやりたいと思うからな。ま、その気になりゃ俺は自腹で行けるしな」

 

タカ…。

 

「それにみんな行けるかも知れねぇだろ?仕事とかバイトとか家の用事とかで行けない人もいるだろうし、行きたいならエントリーだけでもしてた方がいい」

 

「そうですよ、まどか先輩。残り13人とはいえ、もしかしたら13人も参加希望いないかも知れませんし」

 

そっか。あはは、みんながみんな参加希望だとか勝手に思っちゃってたよ。

タカと奈緒の言う通りか。

 

「あはは、そうだね。なら……私も行きたい!」

 

「おう、英治にそう伝えてくるわ」

 

私達Blaze Futureは4人で参加希望を出した。みんなで行けるといいな。

 

 

 

 

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俺は一瀬 春太。

Canoro Feliceというバンドでダンサーボーカルをやっている。

 

「南の島でライブとか楽しみだよね~」

 

「ええ、南国DEギグはすごいフェスですわ。一度現地に行ってみたいと思ってましたし楽しみですわ」

 

Canoro Feliceのギターボーカルの夏野 結衣と、ベースの秋月 姫咲は楽しそうに話しをしている。

 

そりゃ俺もバンドをやっているわけだし、そんなすごいフェスには行きたいとは思ってるけど…。はぁ……。

 

「どうした春太。浮かない顔をしてるな」

 

「ああ…冬馬…」

 

俺が溜め息をついているとCanoro Feliceのドラム松岡 冬馬が話し掛けてきた。

 

「秋月に振り回されるって今に始まった事じゃないだろ。いい加減諦めろよ」

 

「それはそうなんだけどね。他にも色々さ」

 

「ん?何だ?良かったら話くらいは聞くぞ?」

 

「ああ……うん。いつもライブの事もスタジオの練習の予約とかもさ。曲作りも冬馬にばっかり任せっきりでしょ?」

 

「ん?まぁ、それは適材適所だろ。俺はユイユイや秋月を纏めるとか無理だしな。そこはお前に任せられるから俺が色々裏方的な仕事もやれてるだけで…」

 

「俺も真剣に考えてみたんだ。このバンドは俺がやりたいと思って結衣とやろうって結成したバンド。そして、姫咲と冬馬をスカウトした」

 

前々から少し考えていた事。

今日の英治さんの話でそうした方がいいと決心出来た事。

 

「俺さ。ダンスばかり得意で歌ってそんなに上手い方じゃない。声はいいとはよく言われるけど」

 

「あ?何が言いたいんだ?」

 

「ネガティブな事じゃないよ。だから俺、もっと歌を上手くなりたい。Canoro Feliceをもっともっとすごいバンドにしたいと思ってさ。最近…こないだのFABULOUS PERFUMEのライブの後からボイトレのスクールに通ってるんだ」

 

「は!?まじかよ。全然知らなかった…」

 

「ボーカルのくせに今更ってのもあるからさ。少し言うの恥ずかしくてね。冬馬にしかまだ言ってない。……セバスさんにはバレてるかも知れないけど」

 

セバスさんはいつも神出鬼没だし、さりげにみんなの色々な事知ってるしね。

 

「それでさ。これからCanoro Feliceのバンドマスターは冬馬にやってほしいんだ」

 

「は?」

 

 

 

「あれ?姫咲どうしたの?」

 

「いえ、何でもありませんわ」

 

 

 

あ、もしかして姫咲には聞こえちゃったかな?

 

「ちょっと待て春太。何で急にそんな…」

 

「もちろんみんなを纏める役とかはこれからも俺がするし、ライブでのMCもしっかりやる。さっき南国DEギグの参加者を英治さんが決めた時、他のバンドはバンマスのみんなが選ばれたろ?」

 

「あ、ああ…」

 

「バイトやスクールの事がなかったら俺はもちろんそんな機会なんてそうそう無いし参加したいとは思うけどさ。Canoro Feliceから参加出来るのは一人だけってなるとさ。俺より冬馬の方が適任だと思う」

 

「バ、バカ言ってんじゃねぇ!俺はお前がバンマスだから安心して裏方の仕事をやってられるんだ!」

 

「よく考えてよ冬馬。今度のファントムギグに関してもそうだけどさ。もしミーティングとかそういう集り。そんな時には冬馬の方が…」

 

「何だそりゃ?そんなの代理って形でも何でもいいだろうが。でもな、ミーティングや打ち合わせ、そんな事の代理は俺に出来てもな!Canoro Feliceのバンドマスターは一瀬 春太しか出来ねぇんだよ!」

 

「冬馬…」

 

「俺もこんな性格だ。ユイユイも少し……いや、かなり抜けてるし、秋月に至ってはすぐ暴走しちまう。そんな俺達を纏める事が出来るのは春太。お前だけなんだよ。もちろん俺も色々サポートはさせてもらう。………俺が…いつも自分勝手に生きてきた俺が。こう思えるようになったのもお前のおかげなんだよ。春太…」

 

「そうですわね。松岡くんはすごく変わったと思います」

 

「姫咲…」

 

「私は今回の事もですが、いつも好き勝手にさせて頂いてます。それが出来るのも春くんが、私が暴走し過ぎないように纏めてくれるからですわ」

 

「そうか…俺のせいだったのか…」

 

「春くん?(ニコッ」

 

「い、いや、何でもないよ姫咲」

 

でもまぁ確かに姫咲の暴走って、やり方はあれだけどCanoro Feliceの為なんだよね…。

こないだの遊園地の尾行も冬馬と双葉ちゃんの為だったし、今回の事も俺達Canoro Feliceに南国DEギグを見せたいって気持ちからだろうし。

 

「春くん春くん、私もCanoro Feliceのリーダーは春くんがいいと思うよ!」

 

「結衣…」

 

「こないだのFABULOUS PERFUMEとのライブの時、みんな緊張してる中でダンスをしてまわりの空気を変えてくれた。そして私達も緊張が解けて演奏する事が出来た。そういう機転がね。春くんには出来るんだよ!」

 

「そうですわ。自信を持って下さい。Canoro Feliceのバンマスは春くんしか出来ないんです」

 

「俺もそう思うぞ、春太」

 

「みんな…」

 

みんな俺の事そんな風に思ってくれてたのか。

 

「うん、ごめん。もうそんな事言わないよ。俺が…Canoro Feliceのバンドマスターだ」

 

「ああ、バンマスとコンマスが別々ってバンドも多いしな」

 

「ありがとう、冬馬。これからもよろしく頼むよ」

 

「ああ、任せろ」

 

「春くん!私もしっかりサポートするからね!」

 

「ありがとう、結衣。………姫咲は暴走も程々にね」

 

「………(ニコッ」

 

え?今の笑顔は何?

 

「そういや、こういう時って真っ先にセバスが春太に物言いしそうなのに今日は居ないんだな」

 

「あれ?そういえばそうだね?どうしたんだろう?」

 

「今日だけじゃないよ。FABULOUS PERFUMEのライブの時もセバスさんはファントムの中には入って来ていない」

 

「やはり…春くんも気付いていましたのね」

 

そうなんだ。いつも俺達の側で見守ってくれているセバスさん。

何故かファントムの中には入って来ない。自分はアルテミスの矢ではないと言っていたけど、貴さんや英治さんと顔馴染みな言い方だったのに…。

 

「今回の秋月グループからの融資の話。あの話を私とお父様に持ちかけたのもじいやですのよ(ボソッ」

 

姫咲は俺にだけ聞こえるように小声で話し掛けてきた。

 

「じいやは私達の事をよく考えてくれてますわ。今回のこの融資の件も秋月グループにメリットのある提案でもありましたの。ですからお父様はふたつ返事で融資してくれましたわ(ボソッ」

 

なるほど。セバスさんがみんなにはわからない所で策を立ててたわけか。

さすがに姫咲のお願いと言っても24人もの旅費とかなんて出してもらえるわけないしね。

 

「まぁ、じいやの策が無くてもお父様にお願いすれば24人分どころか英治さん達の分もポンと出して貰えたとは思いますが…(ボソッ」

 

え?秋月グループってそんなすごいの?

 

「あ、そういえば旅行って言ってもいいかな?今回はセバスさんは来るの?」

 

「ええ…一応私の執事ですから…」

 

「そっか。それならこの旅行で何か…わかるかも知れないね」

 

貴さんと英治さん…。

あの2人のどっちかに聞けばすぐわかるのかも知れないけど…。セバスさんの口から聞きたいしね。

 

この旅行で……何か……。

 

 

 

 

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あたしの名前は雨宮 志保。

Divalという最高のバンドのギタリストだ。

 

Ailes Flammeのシフォン、Blaze Futureの貴と盛夏、そしてあたし。

この夏休み中に4人で行った旅行の事で、私達Divalのボーカル水瀬 渚と、ベースの氷川 理奈。

この2人にしばかれる覚悟をしていたけど、何故か渚は上機嫌だしあたしの命は助かった。理奈には気をつけなさいと少し怒られたけど…。

ドラムの雪村 香菜もすごく心配してくれていた。あたしの命の。

 

「でも渚はいいよね~。あたしも南国DEギグ行きたいな~」

 

「そうね。南国DEギグは今や日本のトップアーティストが参加をしてきた登竜門とも言えるべきフェスだものね。私も最高のバンドを目指す者として観ておきたいわ」

 

「じゃあ、Divalからは理奈も香菜も参加希望だね!もちろん志保も参加希望だよね?楽しみだね!」

 

「え?あ、うん。もちろんだよ」

 

おかしい…。何で渚はこんなに上機嫌なんだろう?

 

「じゃあ私さっそく英治さんにそう伝えてくるね。えへへ、楽しみ~」

 

渚はそう言って鼻唄を歌いながら英治さんの元へと歩いて行った。

 

「ね、ねぇ、志保。渚どうしたの?」

 

「わかんない…。逆に怖いよ…。しばかれる覚悟してたのに妙に上機嫌だし…。貴も渚には殴られてなかったしさ…」

 

「もしかして今怒りゲージを溜めてるとか?」

 

「え?ちょっと香菜、怖いこと言わないでよ…」

 

「志保」

 

「理奈?何?」

 

「渚は正真正銘上機嫌よ。安心しなさい」

 

「え?理奈は何か知ってるの?」

 

「理奈ちが理由を知ってる?って事は渚の実家で何かあったの?」

 

「ま、そんな所かしらね。貴さんが渚の事を可愛いって言ったのが決め手だとは思うけど……」

 

「え?タカ兄が可愛いって言ってくれたから喜んでるって事?」

 

「その内話してあげるわ」

 

んー、何だろう?

気になるけどしばかれるよりはいいか…。

 

 

 

 

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俺の名前は豊永 奏。

evokeというバンドでボーカルをやっている。

 

「ありがたい話だな。まさか南国DEギグに行ける事になるとは…」

 

「そうだな。DESTIRAREも立ったあのステージ。俺も見に行きたいもんだぜ」

 

俺達evokeのギター折原 結弦(おりはら ゆづる)も参加希望のようだが…。

問題はこの2人か…。

 

evokeのベース日高 響(ひだか ひびき)

ライブになると熱い男なんだが…。

 

「響、お前はどうする?」

 

「………」

 

「おい、響!」

 

「……ぐー」

 

「ダメだ。奏。こいつ立ったまま寝てやがる…」

 

「おい、起きろ響!」

 

俺は響を揺すって起こした。

 

「うにゅ?奏?……ご飯?」

 

「ご飯は後だ。お前は南国DEギグに参加希望か?一緒に行きたいよな?な?」

 

「南国DEギグ…?何それ?何の事?」

 

クッ…まさか響のやつ、英治さんの話の時から寝ていたのか…?

 

俺は響にはじめから説明をした。

 

「ん、無理。俺が旅行とか行けるわけないでしょ?高校の時のスキーの修学旅行で山の上に置き去りにされたの忘れたの?」

 

そう。響は修学旅行のスキーの時にリフトで山の上に登った所で寝ていた。

みんなで滑り終わって人数確認をした時、響が居ないと騒ぎになったのだ。

 

「俺達がライブに出る為の遠征ってんなら起きてられると思うけど、基本的に他のバンドの音楽にもあんまり興味な…………ぐー」

 

また寝た……。

クッ…確かにこんな響を集団の旅行に連れて行くのは英治さんや他のバンドにも迷惑か…。

 

「奏。響は諦めろ。こいつも多分不参加だろうが……」

 

ドラムの河野 鳴海(こうの なるみ)

ああ、こいつの場合は泊まり掛けというのがダメだろうな。

 

「俺はパスだ。妹も連れて行ってくれるなら参加はしたいと思うけどな」

 

「鳴海。南国DEギグだぞ?こんな機会そうそうないぞ?」

 

「奏。よく聞けよ。南国DEギグと妹の沙智。どっちが大事なんだ?」

 

「な、南国DEギグだが…」

 

「ふっ、バカな」

 

やはりダメか。こいつは高校の時の修学旅行も妹に会えなくなるとか言って休んだくらいだしな。

もうすぐ沙智ちゃんも修学旅行。

それに付いていくからバンドの練習もライブも入れるなと言って来たくらいだし……。早く妹離れをしてくれるといいんだが…。

 

「奏。しょうがねぇ。evokeからは俺と奏だけ参加希望で行こうぜ」

 

「そうだな…」

 

俺は英治さんにevokeからの参加希望は俺と結弦の2人が参加希望だと伝えた。

 

 

 

 

 

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私の名前は北条 綾乃。

 

先日のBlaze FutureとDivalの対バン。

 

昔からお世話になっている貴兄、幼馴染のまどか。妹のような存在の香菜。

そして大学の後輩の奈緒。

そのみんなのライブが私には眩しかった。

 

私も子供の頃からドラムをやっていたので、大学の後輩の大西 花音をボーカルに。

居酒屋そよ風の店主でる晴香さんの義理の弟、東山 達也(とうやま たつや)さんをベースに迎え、私達はバンド活動を始めようとしている。

 

達也さんは短い期間だけど晴香さんの兄であるBREEZEの拓斗さんからベースを教わっていたらしい…。15年前までは…。それからは趣味でベースをやっていたそうだ。

実はシフォンちゃんの学校の先生であり軽音楽部の顧問をしている。

シフォンちゃんが井上 遊太だって事は知ってるのかな?

 

「綾乃さん、南国DEギグって大きなフェスイベントなんでしょ?」

 

「うん、そうだよ」

 

「曲作りもメンバー集めもしなきゃだとは思うけど、あたしも行ってみたい」

 

「うん、花音も参加希望だっておっちゃんに言って来ようか。達也さんも参加するみたいだし、親睦を深めるのにもいいだろうしね」

 

「まぁ、こないだ英治さんと貴さんにそよ風に連れられた時に少し顔合わせしたくらいだしね」

 

達也さんの事は貴兄と英治さんが紹介してくれた。

 

Blaze Futureを結成した時は、奈緒がベースをやる予定だったから声は掛けなかったみたいだけど、奈緒がギターをやると言った時に盛夏ちゃんが声を掛けてこなかったら達也さんをスカウトするつもりだったようだ。

 

「綾乃さん、花音さんこんばんは」

 

そんな事を考えていると、達也さんが私達の元へ来て声を掛けてくれた。

 

「あ、こ、こんばんは」

 

「達也さん、こんばんは」

 

「花音さんもせっかくだから参加したらどうかなって思って来てみたんですけど…」

 

「あ、はい。一応参加希望しようと思ってます。あ、後、私の方がずっと年下なんですから呼び捨てで大丈夫ですよ?」

 

「ははは、生徒達には呼び捨ても大丈夫なんですけど、職業柄か生徒以外には敬語が癖になってまして。すみません…」

 

「あ、いえ、謝られるような事じゃないんですけど…」

 

達也さんはすごく話しやすいし良い人だ。紹介してくれた貴兄とおっちゃんに感謝しなくちゃ。

 

「先日は顔合わせだけみたいな感じでしたし、ゆっくり話せませんでしたが、子供の頃からバンドやりたいと思ってましたから、綾乃さんと花音さんが僕を誘ってくれて嬉しかったです」

 

「あの…貴さんと英治さんにも聞いたんですけど、達也さんってベースすごくお上手なんですよね?どうしてバンドをやりたいと思ってたのに今までバンドやらなかったんですか?」

 

「ああ、その事ですか。実は……」

 

達也さんは15年前の事。

BREEZEの拓斗さんが行方不明になった事を花音に話してくれた。

私もBREEZEの事は少し花音に話した事もあるけど…。

 

「それで僕がバンドをやるとお義姉さんがお兄さんの事、拓斗さんの事を思い出すんじゃないかって遠慮してまして」

 

「そ、そうだったんですね。事情も知らずにずけずけとすみません…」

 

「いえ、気にしないで下さい。タカさんもまたバンド活動を始めて、タカさんや英治さんを通じてバンドマンと知り合いになれて、お義姉さんも本当に嬉しそうですし、僕のバンド活動にも大賛成ですから」

 

「晴香さんの事…好きだったんですね」

 

「な、何言ってるんですか!?お義姉さんは兄の彼女でしたし、僕はそんな…」

 

「もう!花音!」

 

「え、いや、は、す、すみません…」

 

「いや、まぁ…昔の事ですよ。ははは」

 

本当に達也さん良い人だなぁ。

 

「あ、それじゃ僕は英治さんに花音さんも参加希望だと伝えて来ますね」

 

「あ、はい。お願いします」

 

そうして私達はメンバー3人。

まぁ、私と達也さんは参加出来る事が決まっているのだけど、全員で参加希望という事になった。

みんなで行けるといいな。

 

 

 

 

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私の名前は茅野 双葉。

今はFABULOUS PERFUMEのナギなんだけど…。

私はFABULOUS PERFUMEという男装バンドでベースを担当している。

 

「ナギ、僕も南国DEギグには参加したいと思っている。だけど…足は大丈夫なのか?」

 

そう言って話し掛けて来たのは小松 栞。

FABULOUS PERFUMEのドラム担当のイオリだ。

 

「まだ少し痛みもあるし松葉杖がないと歩けないけどな。旅行くらいなら大丈夫だろ」

 

とは、言っても……。

うぅ~…正直まだ痛みも酷いんだよね…。

痛み止飲まないとしんどいし…。

こんな状態で行ってもみんなに迷惑掛けそうだしなぁ…。南国DEギグ…観たかったけど…。

 

「無理すんなよナギ。本当はすごく痛いんだろ?さっき中原さんに呼ばれた時、断ろうとしてたじゃねーか」

 

そう言って来たのは明智 弘美(アケチ ヒロミ)

ギター担当のチヒロだ。

 

「大丈夫だ。問題ないよ。せっかくの南国DEギグだぜ?」

 

「それがFABULOUS PERFUMEのバンマスであるナギの責任のある言葉と受け取っていいかい?」

 

私とチヒロの会話に入ってきたのは小暮 沙織(コグレ サオリ)

私達FABULOUS PERFUMEのボーカルのシグレだ。

 

「……すまん。正直無理かもって思ってる。行きたい気持ちもあるが、悪化させて今度のライブに支障があっても困るしな。オレの権利は誰かにやるよ」

 

「そうか。ならFABULOUS PERFUMEからの参加はイオリだけになるね」

 

「え?シグレとチヒロは無理なのか?」

 

「ちょ…FABULOUS PERFUMEから僕だけって…まぁ、タカ兄もおっちゃんもいるし大丈夫だとは思うけど…」

 

「私はあいにくと明日から仕事なんだよ。土日は何とかなるとは思うが夏休み明けいきなり休むわけにはいかないだろう?」

 

「そして俺の仕事は年中無休の接客業だしな。もう今月のシフトは決まってしまってるからな」

 

そっか、シグレもチヒロも社会人だもんね。そうなるとやっぱりFABULOUS PERFUMEからはイオリだけか…。

 

「そっか、寂しいけど仕方がないな。僕がみんなの分も楽しんで来るよ」

 

本当に大丈夫かな?

他のバンドさんの中でイオリは楽しめるかな?後で冬馬達に楽しんでみようかな。

 

「……やっぱりやだ。みんな行かないならボクも行かない」

 

「おい、イオリ、素!素に戻ってる!」

 

「だって…たか兄やまどか姉もBlaze Futureと一緒かもだし、おっちゃんも家族と過ごしたいだろうし…。遊ちゃんもきっとAiles Flammeと遊ぶもん…。綾乃姉や香菜姉もきっと…トシ兄は女の子とは二人きりになれないし…グス」

 

イオリ……。

 

「しょうがないな。FABULOUS PERFUMEからは全員不参加にしよう」

 

「え?シグレ…でも…それは…」

 

「……グス」

 

「私は中原さんと話してくる」

 

「シグレちょっと待っ……」

 

シグレはそのまま英治くんの所に行ってしまった。

 

でも、しょうがないのかな。

私も行きたかったけど、この足じゃみんなに迷惑を掛けちゃうし…。

シグレもチヒロも仕事を休むわけにはいかないし…。

 

「……グス」

 

イオリ…。

やっぱりイオリは行かせてあげたい。

よし!冬馬達になんとかイオリを頼んで…。

 

「オッケーだ。話は済んだ」

 

「シグレ…悪いけどやっぱりイオリは行かせてあげたい。FABULOUS PERFUMEからはイオリだけでも参加させてあげたい」

 

「ナギ…でもボク…」

 

「大丈夫だイオリ。オレがCanoro Feliceのみんなに頼んでくる。オレ達は行けないけど、Canoro Feliceなら結衣も姫咲もいるし大丈夫さ。

Canoro Feliceは私達の正体も知ってるしね(ボソッ」

 

そして私は立ち上りまずは英治くんの所に行こうとした。

 

「ナギ。行かせないよ」

 

「シグレ。頼む。どいてくれ」

 

「最後まで話を聞け。Canoro Feliceに頼むのはイオリの事じゃない」

 

え?どういう事?

 

「松岡!おい!松岡!!」

 

シグレが大きな声で冬馬を呼んだ。

冬馬は最初はオロオロしていたけど、しぶしぶこっちに来てくれた。

 

「な、なんすか?」

 

「ナギ。私は中原さんにFABULOUS PERFUMEからは全員不参加と伝えて来た」

 

冬馬が来てくれたのにシグレは私に話し掛けてきた。

 

「え?あ、ああ…」

 

「その代わりに中原さんのドラム教室の弟子。小松 栞とその盟友である茅野 双葉をエントリーさせて欲しいと頼んできたよ」

 

え?栞と私…?ちょっと待って私は…。

 

「まぁ、中原さんは私達の正体も知ってるしな。OKしてくれたよ」

 

「え?シグレ…?ボク行けるの?双葉も?」

 

「まぁ、ナギの権利は双葉にって事だから栞が行けるかはまだわからないけどな」

 

シグレ…?ちょっと待って。

私はこの足だから…。

 

「待たせたな松岡!呼び出したりして済まない!」

 

シグレは再び大きな声で話し始めた。

 

「ちょ…なんすか急に大きな声出して…!みんな見てるじゃないすか!」

 

シグレは冬馬のそんな抗議の声も聞かず喋り続けた。

 

「私達FABULOUS PERFUMEは8月末にライブを控えている。運命とは残酷なものだ!私達FABULOUS PERFUMEは今回の南国DEギグには参加出来ない!」

 

<<<ざわざわ>>>

 

シグレ?どういう事?

私もイオリもわけがわからないよ…!?

 

「そこで私達は話し合った結果!私達FABULOUS PERFUMEの盟友である茅野 双葉に参加権を譲った!」

 

「え?あ、あの…」

 

冬馬も困るよね?私もわけがわからないもん。

 

「だが!残念な事に我が盟友である茅野 双葉は……。松岡わかっているね!?」

 

「いや、何の事かさっぱりなんですけど…」

 

そうだよね。私もさっぱりだよ?

 

「松岡…。君という男は…。失望したぞ!我が盟友である茅野 双葉をキズ物にしておいてそんな事を言うのか!?」

 

「え?は?」

 

え!?え?え?え?

えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?

 

「双葉は君につけられたキズで…今も歩くのもままにならないくらいに苦しんでいる!相当……痛かったんだろうな…」

 

「ちょ…!待って下さい!人聞きの悪い事を言わないで下さい!」

 

そ!そうだよシグレ!私そんなのまだ…!

いや、まだって何かおかしいけど…!

 

「男として双葉をキズ物にした責任は取るべきじゃないのかい?みんな!そうは思わないか!?」

 

<<<ざわざわ>>>

 

ふぇぇぇぇぇぇ!?何なのシグレ?これって何なのぉぉぉぉ!?

ほら!貴くんも英治くんも顔を真っ赤にしながら私をチラチラ見てくるよ!?

絶対変な想像されてるよ!?

 

「松岡。君は南国DEギグに参加出来るだろう?その間、責任を取って双葉のサポートをしたまえ!それくらいなら出来るだろう?」

 

「いや、あの…」

 

「出来るだろう!?」

 

「は…はい」

 

「よし!よく言ってくれた。帰りたまえ」

 

「え?あの……」

 

「帰りたまえ!」

 

「はい……」

 

そう言って冬馬は肩を落としながら帰って行った。

あ、あの、ごめんね冬馬…!

 

「と、言うわけだ。双葉のサポートは松岡がやってくれる。双葉が参加なら栞も安心だろ?」

 

「シグレ………うん!…うん!!」

 

「シグレ…」

 

「双葉の面倒は松岡が見てくれるさ。だからって無理して悪化はさせるなよ?」

 

私も…私も行ってもいいの?

 

「イオリ…!」

 

「ふた…ナギ!」

 

「一緒に行こうね」

 

「うん!……グス」

 

そうして私達は、茅野 双葉と小松 栞で参加希望を出した。

えへへ、冬馬がずっと私の面倒を見てくれるのか…。

楽しみが少し増えたかな…。

 

 

 

 

 

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私の名前は佐倉 美緒。

Blaze Futureのギター担当佐倉 奈緒の妹であり、gamutというバンドでベースボーカルをしている。

 

私達gamutは高校生バンドだ。

私には憧れている、尊敬しているアーティストがいる。

元charm symphonyのベースボーカル。

現Divalのベースを担当している氷川 理奈さんだ。

 

私は高校入学と同時に軽音楽部に入り、顧問の先生が良かったのか、すぐに軽音楽部に入部したクラスメートとバンドを組む事になった。

今では部活動の一環としてライブハウスでライブをさせてもらっている。

私達、軽音楽部の先生は昔バンドをやっていたそうで色々詳しくて色々教えてもらった。今の私達があるのはその先生のおかげと言っても過言ではないだろう。

 

そして今、私達はあの有名な夏フェス。

南国DEギグを見に行くチャンスをもらった。

南国DEギグは私達バンドマンの憧れとも取れる大きなフェスだ。

 

でも私達はまだ高校生。

本当にそんな所に連れて行ってもらってもいいのだろうか?助けてお姉ちゃん…!

 

「南国DEギグとか最高だよね!出来れば演奏する側で行きたかったけど、見に行けるだけでも幸せ者だよ!」

 

最初にそう言ったのは私達のキーボード担当の藤川 麻衣(ふじかわ まい)

私達gamutのムードメーカーでもある。

 

「麻衣はお気楽でいいよね。私達はまだ高校生だよ?そんな所に連れて行ってもらうって言うのは…」

 

「何言ってるんだよ美緒!南国DEギグだよ南国DEギグ…!」

 

「ごめん、美緒、麻衣。あたしは無理だわ。明日から家族旅行なんだよね…」

 

「えー!?睦月行けないの!?」

 

ギター担当の永田 睦月(ながた むつき)

私達の部活動の顧問の先生のご近所さんで、昔からギターを教えてもらっていたらしい。ギターの腕前はピカイチだけど勉強はとても残念な子だ。

 

「家族との用事ならしょうがないよ。恵美はどう?」

 

私が声を掛けたのは松原 恵美(まつばら えみ)

私達のバンドのドラムを担当している。

少し引っ込み思案な所もあるけど、ライブとなると力強い音を出してくれる。

 

「あ、あのごめんね、美緒ちゃん麻衣ちゃん。あたしも明後日はお婆ちゃんの家に行く用事があって…。あたしも行けるなら行きたかったんだけど…」

 

「えぇぇぇ…!恵美も行けないのぉぉぉ…」

 

「麻衣、しょうがないよ」

 

「美緒も諦め早すぎだよ~!」

 

「い、家の用事ならしょうがないじゃない。私も少し悩んでるし…」

 

「えー!?美緒も悩んでるの!?」

 

「ちょ…麻衣声大きい!」

 

それは悩みもするだろう。

南国DEギグを生で見れるとか最高の時間になりそうだし…。

それにDivalのメンバーも行くなら理奈さんと…お泊まり旅行出来るって事になるし…。

 

行きたいか行きたくないかだと、断然行きたいに決まってる。

 

「さっきも言ったけど私達まだ高校生だよ?大人もたくさんいるとは言え学校や両親にも許可はいるでしょ!」

 

「大丈夫!お父さんとお母さんにも了承を得たし、神原先生も楽しんで来いってLINE来たよ!」

 

「ほんとこういうのだけは行動早いよね…」

 

「ね?行こうよ!きっと奈緒さんも憧れの理奈さんも参加希望だよ?」

 

「そ、そりゃそうかもしれないけど…」

 

「ね!お願い!」

 

確かにお姉ちゃんも参加なら私も行きたいかな。

お姉ちゃんずっと旅行行ってたから、また私だけお留守番ってのも寂しいし。

お父さんとお母さんのイチャラブっぷりをまた一人で見る事になるのもなぁ~。

 

「わかったよ麻衣。私も参加する。gamutからは私と麻衣の2人で参加しよう」

 

「やった!ありがとう!」

 

「美緒、麻衣ごめんね」

 

「いいよ。私達も楽しんでくるし、睦月も家族旅行楽しんで」

 

私達gamutからは私と麻衣の2人の参加と伝えた。

 

 

 

 

 

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そして場面はCanoro Feliceのボーカルである俺。一瀬 春太に戻る。

 

全バンドからの参加希望が揃い、参加出来るメンバーを纏めるという事で、みんなしばらくの間、英治さんの奥さんである三咲さんと娘の初音ちゃん、居酒屋そよ風の店長である晴香さんの作った料理を楽しむ事になった。

 

「春太。秋月を見ろ。すごく悪そうな顔をしている」

 

「うん、気付いてるよ冬馬。ああなった時の姫咲は危険だ」

 

姫咲が暴走しそうになったらすぐに止めに入らなくてはいけない。

俺と冬馬は料理を楽しみながらも、姫咲から目を離さなかった。

 

しかし、俺と冬馬の警戒も虚しく、事態は一変する。


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