ボクの名前はシフォン!
Ailes Flammeでドラムを担当している可愛い男の娘だ!
そう、ボクは男の娘なのだ。
本名は井上 遊太!高校2年生!
昔から引込み思案で、人前に出るのが苦手だったボク。
それなのに中学のある日、幼馴染みの栞ちゃんに同人即売会の売り子を手伝って欲しいと脅さ……頼まれた。
やむをえ……快く引き受けたボクは栞ちゃんに無理矢理男の娘にされたんだけど、その時に自分じゃないみたいな感じ…新しい自分になれた気がした。
その翌日、思い切って自分で男の娘になって、ファントムまでお出掛けした。
おっちゃんもたか兄もトシ兄も、そんなボクを変な目で見たりする事もなく受け入れてくれた。それからボクは学校が終わると男の娘になるようになった。
ボクはこの格好が、シフォンが大好きだ。
だけど、Ailes Flammeのみんなには、ボクが本当は男の娘で井上 遊太なんだと伝えたいと思っている。
……何度かそれとなく言ってるけど信じてもらえないんだよね。
「シフォン、まさか君と同じグループになれるとはね」
「あ、イオリ」
このイオリが最初にボクを男の娘にした小松 栞ちゃん。
生まれた時から家が隣同士の幼馴染みだ。
「シフォン!イオリ!」
ボク達に声を掛けて来たのはまどか姉。
「まどか姉。今度の旅行ではよろしく頼むよ」
「いや~…もう2年もイオリを見てるけど、イオリの喋り方って馴れないなぁ~」
「だよね。ボクもだよ」
「う、うるさいなぁ!」
今ボク達は明日からの旅行、南国DEギグに参加するメンバーでグループ分けが無事に終わり、ホテルの部屋分けの話し合いをする為に同じグループ同士で集まる事になったんだ。
「しかし困ったよな。部屋割りってどうしたらいいんだ?」
「ああ、江口の言う通りだな。なかなか難しい問題だ」
ん?渉くんに奏さん?
どうしたんだろう?
「渉くんどうしたの?何か問題?」
「ほら、イオリさんの代わりに小松が俺達のグループになるだろ?」
「え?う、うん。そうだね」
そっか。渉くんはイオリの正体が栞ちゃんって知らないもんね。
何を隠そう栞ちゃんとボクらは同じ学校で1年の時は同じクラスメートだったのだ!
「そうなると男女3人ずつになるからさ?誰かの部屋は男女で1部屋になっちまう」
「え?男女3人?」
「江口 渉。君は何を言っているんだ?男性4人で女性2人だろう?実に分けやすいじゃないか」
「イオリさんも変な事言うんだな?小松は女の子だぞ?友達なんじゃないのか?」
「え?いや、だから…」
あ、そうか…。
渉くんの中じゃボクは女の子だからまどか姉と栞ちゃんとボクで女の子3人になると思ってるんだ…。
「あ~…そっか。なるほどね。渉くんの言いたい事はわかったよ」
「ん?まどか姉?どういう事だ?」
「イオリ。私にはイオリの喋り方禁止ね」
「無茶言わないで…」
そしてまどか姉はイオリに耳打ちをした。
「ふぇ!?そ、そうなの!?」
あ、栞ちゃんに戻った。
「ゆーちゃんが悪い」
え?ボクのせい!?
「あはは、まどかさん、イオリごめんね。話は聞かせてもらったよ」
そう言ってやってきたのはCanoro Feliceの一瀬 春太くんだ。
「一瀬 春太!盗み聞きとはいい度胸だな!」
「部屋分けの事は俺に案があるからそれで勘弁してよ」
「いい案?一瀬くん、ほんとにいい案があるの?」
まどか姉が春太くんに話し掛けた。
あれ?2人って知り合い?
「ええ、まぁ…。シフォン……って呼ばせてもらっていいかな?ちょっといい?」
そして春太くんはボクを連れてみんなから少し離れて話し掛けてきた。
「シフォンは男の娘って事みんなには内緒にしたい?あ、ごめんね。いきなり変な事聞いて」
「ううん、全然いいよ!
質問の答えはボクは内緒にしたいわけじゃないよ。みんなには一応それとなくボクは男の娘だって言ってるし。信じてもらえないけど…」
「そうなんだ…なるほどね」
「うん」
「じゃあ逆に言うと打ち明けたいと思ってるのかな?」
「あ、あ~、どっちかと言うとそうかも」
「オッケー。わかったよ。任せて!」
そして春太くんはみんなの元に戻って行った。
「江口くんと豊永さんは初めましてですね。Canoro Feliceのボーカルの一瀬 春太です。8月24日のFABULOUS PERFUMEでのライブもよろしくお願いします」
「おう!俺の事は渉でいいぞ!一瀬さんの事はユイユイに聞いてるしな!俺の方こそよろしく!」
「evokeのボーカル豊永 奏だ。奏って呼んでくれ。今後ともよろしく」
そう言って3人はガッシリと握手をした。
なんか男同士って感じでああいうのいいなぁ~。
……ってまぁ、ボクも男なんだけど。
「一瀬くん、それで部屋割りのいい案ってのなんだけど…」
「あ、ああ、まどかさんすみません。部屋割りなんですけど、まどかさんと栞ちゃんが同じ部屋、シフォンは同じバンド同士だし渉くんと同じ部屋で、俺と奏さんが同じ部屋ってのが妥当じゃないかな?」
「え!?ちょ、ちょっと待ってくれよ!いくら同じバンドだからってシフォンと同じ部屋なんて……!
………ほら、こんなに離れてるのに亮からのプレッシャーが半端ねぇし!」
「だが、江口。一瀬の言う案が一番妥当だとは思うぞ。少なくとも俺か江口、一瀬の内誰かは女の子と同じ部屋になる訳だしな」
「うん、シフォンも同じバンドの渉くんと一緒なら問題ないよね?」
「え?え?う、うん!渉くんと同じ部屋で大丈夫だよ!」
<<<バターン>>>
「え!?秦野くんどうしたの!?」
「いきなり血を吐いて倒れちゃった~」
「きゅ、救急車呼んだ方がいいかな!?」
「え?亮くんどうしたんだろう?大丈夫かな?」
「亮、お前の事は忘れないぜ…」
「そんな訳だからさ。渉くんもそれでよろしく頼むよ」
「まぁ、しょうがないか…シフォン、よろしく頼むな」
「う、うん、ボクの方こそよろしくね!」
「う~ん……」
「栞?どしたの?」
「まどか姉、栞って呼ばないで……。
ゆーちゃん大丈夫かな?って思ってさ」
「大丈夫だよ。遊太も色々変わって来てる。いい方向にね。あんたも学校での遊太も見てるでしょ?」
「うん、ちょっと前まではずっと一人だったけど、今は江口 渉とか秦野 亮とかと一緒に居る事が多くなってきたかな…」
「きっとさ。この旅行でまた遊太も色々考えて変わると思うよ。私達はソッと見守ってたらいいよ」
「……うん」
そうしてボク達ノースアイランドホテルの部屋割りが決まった。
渉くんと同じ部屋…。
この旅行でボクは渉くんに男の娘だと打ち明けようと誓った。
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「は?姫咲…お前頭沸いてんの?」
「ここは私のホテルですわ。誰がどの部屋に泊まるかの権限は私にありますわ」
私の名前は佐倉 美緒。
私達は今はホテルイーストブルーに泊まるメンバーで集まって、部屋分けをしています。
私達の泊まるホテルイーストブルーにはシングルの部屋が1つ空いていて、そこに誰が泊まるのかと争っている所なのです。主にお義兄さん…じゃなかった。
お兄さんと姫咲さんで。
「あのな?よく聞け姫咲。このホテルに泊まる男は俺しかいねぇ。つまり、シングルの部屋には俺が泊まって女の子同士で泊まるのが妥当だろう?俺はまだ捕まりたくねぇんだよ」
「あら?女の子と同じ部屋になったら逮捕されるような事をなさるつもりですか?」
「あ?い、いや、しないけども…」
「なら問題無いではありませんか」
「そうじゃなくてだな……」
「お兄さんと姫咲さん…まだやってますね…」
「まぁ、普通に考えたら貴さんがシングルに泊まるべきだとは思うのだけれど…」
「どうでもいいから早く帰って明日の準備したい…」
「私達だけでも先に決めとこうか?」
「それだと私と花音、同じバンド同士で渚ちゃんと理奈ちゃん?そうなると美緒ちゃんが貴兄と一緒になっちゃうよ?」
「それはダメよ。美緒ちゃんの身が危険だわ」
私達は簡単に決まるはずだったホテルの部屋分けに頭を悩ませていた。
姫咲さんが折れてくれたら話は早いんだけど、シングルに泊まりたいって気持ちはわからなくもないんですよね…。
「あ~、でも正直あたしもシングルがいいっちゃシングルがいいんだよね…」
「え!?花音、私とじゃ嫌なの!?」
「あ、いや、綾乃さんが嫌とかそういう訳じゃないんですけど、シングルの方が気楽じゃないですか?」
確かに花音さんの言う通り。
誰とが嫌という事はないけれど、やっぱりシングルの方が気楽ですもんね。
「わかった。姫咲、俺の負けだ」
え?
「先輩が…負けを認めた…だと…!?」
「これはまずいわね。このままだと貴さんと女の子の誰かが同じ部屋になってしまうわ」
そ、それは確かにまずい…!
お義兄さん…じゃない。お兄さんが理奈さんと同じ部屋になったりしたら…。
り、理奈さんの身が危ない…!!
「って訳でお前ら…」
「話は聞いていたわ。貴さんと同じ部屋なんて冗談じゃないわね」
「せ、先輩の変態!」
「「で、でも他の女の子を危険な目に合わせる訳にはいかないから、私が同じ部屋になってあげても……」」
「ん?理奈?」
「渚?………あなたはDivalの大事なボーカルよ。貴さんと同じ部屋にして危険な目に合わせる訳にはいかないわ」
「理奈こそ!理奈はDivalの大事なベースだよ!先輩と同じ部屋だとか危険な目に合わせる訳にはいかないよ!」
「あ?お前らさっきから何の話してんの?」
う~ん…お姉ちゃんの為にもお兄さんと他の女の子は出来るだけ同じ部屋にしない方がいいのかな…。なら私が…?
「まぁ、いいや。お前らん中にもシングルルームに泊まりたいってやついるだろ?だからそのみんなでじゃんけんして勝ったやつがシングルルームの権利を貰える事になった」
「「え?」」
「って訳でお前らも立候補しろよ。そんでじゃんけんで勝てたらシングルルームの権利を俺にくれ。それで問題なくなる」
「そ、それは私に不正を働けという事かしら?」
「先輩は!それでも人間ですかっ!?」
「えぇぇぇぇ~……何なのこいつら…」
「私は貴兄と同じ部屋でもいいよ?」
「お前何言ってんの?俺がいきなり襲いかかったらどうすんの?」
「貴兄は自分の身に降りかかるリスクを計算しながら生きてるしそれはないでしょ」
綾乃さんはお兄さんを信じてるんですね。
まぁ、確かにお姉ちゃんから聞いてる感じじゃその心配はないだろうけど…。
「あたしも別に貴さんと一緒でもいいですよ。気を使う事はあっても襲われる心配はないだろうし。それより早く部屋を決めて帰りたいです」
「私もみんなの話を聞いてる感じでは襲われる心配も無さそうですし、お義兄さんと同じ部屋でもいいですよ」
「お前らの貞操観念どうなってるの?お兄ちゃん心配だわ~…。それより美緒ちゃんなんか漢字違ってなかった?」
「話は纏まりましたか?シングルルームを誰が使うか……じゃんけんしましょうか」
「ああ…そうね…じゃあ、シングルルームがいいって人は……」
「「「はい!」」」
お兄さんが言い終わる前に、私と花音さんと綾乃さんが立候補した。
まぁ、私が勝てたらお兄さんに権利を譲ってあげましょうかね。
ラーメン代をお借りした恩もありますし。
「え?実はみんなシングルが良かったの?さっきのやり取りなんなの?」
「渚は参加しないのね?誰か一緒の部屋になりたい人がいるのかしら?」
「……………理奈とだよ」
「今の間は何かしら?」
「理奈こそ誰かと一緒の部屋になりたいの?」
「……………もちろん渚よ」
「うふふ~、ちょっと間が気になるけど同じ部屋になれるといいね」
「そうね。楽しみだわ」
「あ、じゃんけんが始まったみたいだよ!」
「「「「「じゃ~んけ~ん」」」」」
「「「「「ほい!」」」」」
綾乃さんと私がチョキを出し、お兄さん、花音さん、姫咲さんがグーを出した。
「あぁ…負けちゃった…」
「……悔しいです」
「「チッ」」
私と綾乃さんが負けたのに何故か理奈さんと渚さんが舌打ちをした。
「ふっ、よかろう。俺は次もグーを出そうと思っている。今は。土壇場でチョキに変えるかも知れんけど」
お兄さんが心理戦に持ち込もうとしている。何て大人気がないんだろう…。
「……貴さん、あたしね。ずっと友達が居なかったんだ…。こうやって信じ合える友達と旅行って初めてだよ。信じるね、貴さん」
「うぐっ……!?」
花音さんがそこに防衛線を張った。
「よろしいですか?それではじゃ~んけ~ん………」
「「「ほい!」」」
「くっ、バ、バカな……!」
全員がグーを出した。
「か、花音……お前…俺を信じた手がグーか…?」
「いや~、貴さんの事だからチョキ出すと思って…」
「大人は!大人は汚い!!僕の心を裏切ったんだ!!」
この中で一番の歳上が何か言っています。
「もうこんな茶番もさっさと終わらせなくてはいけませんね。では私は左手でパーにします。この左手はグーにもチョキにもしません。パーです」
「は?そんな手には乗らんぞ…」
「構いませんわ。お好きにどうぞ。ただ、私は今、運気に乗っているのです。例えガラスのシャワーが降ってきても傷ひとつ付く事はありませんわ」
「本当にパーか…?」
「私の左手はこの手を変える事はありません」
「よーし、よく言った。それじゃやんぞ!じゃ~んけ~ん……」
「「「ぽい」」」
花音さんがパーを出し、お兄さんはグー、そして姫咲さんはパーを出した。
「「よしっ!!」」
何故か理奈さんと渚さんが喜んだ。
「バカな…何故…何故パーなんだ…」
「パーだと言ったじゃないですか」
「いや!左手って強調してたじゃん!左手でパーって言って油断させておいて右手で別の手を出すと思うじゃん!」
「全く…どうしてここまで捻くれて育ったのでしょう。人は信じるものですわよ?」
「こ……こいつ……!」
「じゃあ姫咲さん、どっちがシングルの部屋に泊まるか決着つけましょうか」
「あ、もう目的は達成したので花音さんがシングルの部屋を使っても構いませんよ?」
「え?マジですか?じゃあお言葉に甘えて、あたしがシングルの部屋の権利を貰いますね」
「はい♪」
「もー!何なの!?こいつマジなんなの!?」
「ってわけで、あたしがシングルの部屋の権利を貰いましたので、その権利を貴さんに譲ります。さ、女の子同士で部屋を決めちゃいましょうか」
「え?」
花音さん…お兄さんにシングルルームの権利を譲る為に参加してたんですね。
「ちょ…ちょっと…花音さん…?」
「まぁ、普通に考えて貴さんがシングルの方がいいでしょ?ちょっと貴さんも可哀相でしたし…」
「ありがとう!ありがとう!!花音…!!」
「あの…手を握るのやめてもらえます?」
お兄さんはよほど嬉しかったのか花音さんの手を握ってお礼を言っていた。
何故かその後、渚さんにリバーブローされて理奈さんにガゼルパンチをされてました。すごく痛そうでした。
そして意気消沈した姫咲さんがあみだくじを作り、私と花音さん、渚さんと理奈さん、綾乃さんと姫咲さんのペアで部屋割りが決まりました。
ほんと……このやり取り何だったんだろう……。
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僕の名前は内山 拓実。
Ailes Flammeのベースをやっている。
将来はパティシエになりたいという夢はあるけど、もっとベースの腕前を上げて今はたくさんライブがやりたいと思っている。
そんな僕が明後日開催される南国DEギグを観に行けるなんて本当に夢のようだ。
ただ…泊り先が民宿で5人で1部屋。
しかも男女混同なんだよね…。
Ailes Flammeのメンバーとは離れちゃったし…。
Divalのギター雨宮さんや、学校の先輩の茅野先輩、evokeの折原さんも一緒だけど、あんまり話した事ないし折原さんってちょっと怖いんだよね…。
「チッ、俺は南国DEギグに行けりゃそれでいい。同じグループだからって、てめぇらと馴れ合う気はねぇ」
ほらね…。
今、僕達は民宿で同じ部屋だから部屋分けをする必要はないけど、他のホテルのみんなは部屋割りの為に集まってるからって、顔合わせという事で集まっている。
「まぁまぁ、そんな事言わずにさ。せっかくなんだし仲良くしようよ」
「志保ちゃんの言う通りですよ。同じ部屋になったんですし仲良くしましょう?」
雨宮さんと茅野先輩が折原さんに話し掛けていった。
FABULOUS PERFUMEのナギさんは体調が悪いとの事で今日は帰ってしまった。
その代わりに茅野先輩に連絡してくれて、茅野先輩がわざわざファントムまで来てくれた。
「別に馴れ合う気がねぇってんなら無理に馴れ合わせる必要もねぇだろ」
Canoro Feliceの松岡くんが話に入っていった。
うぅ…松岡くんも怖そうな人だよ…。
どうして民宿のグループには怖そうな男の人ばっかりなの……。助けて渉…。
「あ、そだ。明後日さっちと買い物に行く約束してたんだけど、ごめんなさいメールしとかなきゃ」
「あ、河野さんと約束してたんだ?」
「うん、あ、もう返事来た。
お詫びにパフェでもご馳走するって言ってんのに『そんなのいいよ。せっかくだから楽しんできて』ってさ。あ~、さっちいい子過ぎる…大好き」
「あはは、そんな事言ってるとまた渉に百合とか言われちゃうよ?」
僕と雨宮さんでそんな話をしていると、折原さんが話し掛けて来た。
「おい、てめぇら。さっきから河野さんとか、さっちとか……。もしかしててめぇの友達の名前は河野 沙智か?」
「え?そうだけど?」
「お、折原さんって河野さんとお知り合いなんですか?」
「ああ、知り合いっていうか……うちのドラムの河野 鳴海の妹だ」
「え?河野 鳴海さんってあの妹好きの…?」
「まぁ、否定はしねぇ」
「へぇ~、さっちのお兄さんってバンドマンだったんだ…」
そうだったんだ…。
河野さん…妹の沙智さんの方とは雨宮さんを通じて最近はよく話すけど、お兄さんがバンドをやっているとか聞いた事ないや。
「あ、あれか。それで沙智はこないだの俺らのライブに来てたのか…」
「こないだのって僕らが前座をやらせてもらったライブですか?」
「ああ…。あいつは妹を溺愛しているが妹の方はうざったがってるしな。お前らの応援に来たんだろ…」
そうなんだ…。僕は兄弟とかいないし、わからないなぁ…。どんな感じなんだろ。
「あ、そだ。自己紹介しとこうか。あたしは雨宮 志保。evokeのえっと………」
「あ?俺は馴れ合う気は………チッ、折原 結弦だ」
「あはは、よろしくね!」
雨宮さんはすごいなぁ…。
僕もこれくらいコミュ力があればなぁ…。
「ってか、雨宮…か…」
「ん?どしたの?あたしに惚れた?」
「いや、俺のいつか倒すと決めてるギタリストに雨宮って人がいるからな…」
それってもしかして……。
「その人って雨宮 大志って人?」
「あ?知ってんのか?」
「まぁ、ちょっとね……。その人を倒すって…。折原もその人に何かされたの?恨んでるの?」
「あ?呼び捨てかよ……ま、いいか。別に恨んでるとかねぇよ。お前が言いたいのは、あの人がクリムゾン以外のバンドを潰していってる事を言ってるのか?」
「う…うん」
「まぁ、そんな奴らもいるだろうけどな。デュエルで負けて潰れてしまうような弱小バンドの事なんか知ったこっちゃねぇ」
「じゃあ何で…?」
「あの人はすげぇギタリストだ。あの人の演奏技術は尊敬している。だが、俺がナンバーワンのギタリストになる為には雨宮 大志もDESTIRAREのセイジも倒さなきゃならねぇ。もちろん四響のラファエルもな」
「そっか…」
「チッ、喋りすぎた……」
そう言って折原さんは僕達から離れていった。
「そっか…お父さんの事……まだそういう風に見てくれている人もいるんだ…」
「雨宮さん…」
「でも残念!お父さんを倒すのはあたしだし!最高のギタリストになるのもあたしだからね!」
「はは、雨宮さんらしいって言えばいいのかな?1年前じゃ考えられなかったけど、今の雨宮さん方がずっといいよ」
「内山……。気持ちは嬉しいけどごめんね。あたし好きな人いるから」
「何で告白してないのにフラれた感じになってるの!?」
ここでこんな話をしている時は思ってもみなかった。
この旅行で…僕達は…雨宮さんは…。
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私の名前は藤川 麻衣。
元気が取り柄の美少女女子高生!
gamutのキーボード担当なのだよ!!
私達gamutは実はファントムでライブをした事がないんだけど、うちのボーカルちゃん、佐倉 美緒が姉である奈緒さんの所属しているバンド、Blaze Futureの葉川 貴さんと知り合いになり、私達は11月に開催されるファントムギグというギグイベントに参加出来る事になった。
それだけでも最高に楽しみなのに、なんとファントムギグに参加するバンドのみんなで南国DEギグという日本ではかなり大きなギグイベントを見に行ける事になったのだ!
参加メンバーみんなでグループ分けをして、残念ながら美緒とは別のグループになっちゃったけど、奈緒さんもいるしみんなとも仲良くなりたいし楽しめそうかな!
「秦野っち大丈夫?」
「いきなり吐血して倒れたと思ったら、今度は真っ白になっちゃいましたね」
「シフォンちゃんと渉ちゃんが同じ部屋になったのがショックだったんだね~」
「あたしらも部屋を決めないといけないのに……どうしよっか?」
そうなのです。
私達のグループも男性が1人しかいないから、誰かが秦野くんと同じ部屋になるのは必然!私達のグループにはシングルの部屋はないしね。
「まぁ、シフォンちゃんにベタ惚れみたいですし、秦野くんにも襲われる心配はなさそうですけどね」
「奈緒~、良かったね~。貴ちゃんが渚や理奈と同じ部屋にならなくて~」
「べ、別にそんなの心配してなかったし!」
「でもあたしらの中から誰かは秦野くんと同じ部屋になるもんね」
「秦野っちが起きたら誰と泊まりたいか聞く?」
う~ん、でも秦野くんはこんな状態だしな~。
「秦野っち~。大丈夫?」
「………燃え尽きたぜ。真っ白にな」
ダメだ。もう完全に燃え尽きてる。
「う~ん、あたしが秦野くんと同じ部屋になろうか?」
「え?香菜ぽんは秦野っちと同じ部屋がいいの?」
「違う違う。このままだと部屋割り決まらないでしょ?明日からの準備もあるし早く帰りたいし」
「まぁ確かにそうだけど…」
「じゃあさ!私が秦野っちと同じ部屋でもいいかな!?私秦野っちとがいい!」
「「「「え?」」」」
みんなの時が止まった気がした…。
ゆ、結衣さん…秦野くんと同じ部屋がいいって…。
あの…その……そういう事ですか!?
「え?あれ? みんなどうしたの?私が秦野っちと一緒の部屋はダメかな?」
「えっと……結衣は秦野くんと一緒の部屋がいいの…かな?」
「うん!」
「私としてはありがたいけど…ね、盛夏」
「うん、そうだね~。自分から一緒がいいって言ってくれるなら助かるよね~」
「ま、まぁ、秦野くんイケメンですしね…。いきなり吐血した時はびっくりしましたけど…」
こ、これはこのまま結衣さんと秦野くんを一緒にしていい感じなんだろうか?
い、いや、別にいいとは思うんだけど…。
「あたしとしては結衣が秦野くんと一緒に…って希望してくれるならありがたいんだけどさ?どうして秦野くんと一緒がいいのかな~?って気になったりもするんだよね…」
お、香菜さんが結衣さんに理由を聞いちゃいました。
でもこれで秦野くんの事が好きだからとか言われたら私達明日から気を遣わないですかね…?
あ、他のグループの一瀬さんと松岡さん、姫咲さんもめちゃこっち見てる…。
「あ、うんとね!こないだみんなで遊園地に行ったみたいなんだけどさ!
あ、 みんなっていうのは私以外のCanoro Feliceメンバーとあそこにいる双葉とで!」
え?結衣さんって遊園地に誘ってもらえなかったの?
「その時に秦野っちも遊園地に居たみたいでね。みんなで演奏したんだって!」
「遊園地で演奏…?」
「うん、その話は話すと長くなるから省くけど、その時に秦野っちが私達Canoro Feliceの曲も聞いて少しスコア見ただけで完コピしたみたいでさ。あはは、私自身はまだまだミスも多いのに…」
結衣さん…。
「それでね。秦野っちと同じ部屋になったら、色々ギターの事教えてもらおうと思って。私へたっぴだからさ?まだまだ練習が必要だからね!」
結衣さん…。そうだったんだ…。
それで自分と同じギターの秦野くんと…。
「結衣ちゃん…」
奈緒さんが目をうるうるさせている。
「結衣!」
「わっ!?何!?」
香菜さんも感動したのか結衣さんに抱きついた。
「ほんにええ話やなぁ~」
盛夏さんと会うのは今日が初めてだけど、なんかいつも通りな気がする…。
ふと、気になったのでCanoro Feliceのメンバーに目をやると……3人とも泣いてた。あ、葉川さんと中原さんも泣いてる。
「完コピなんか出来てないすよ。難しい所は適当にアレンジ加えましたし」
あ、秦野くん起きたんだ?
「おー!秦野っち起きたんだね!」
「誰が完コピなんて言ったんすか?松岡?」
「ううん、完コピとは確かに言ってないかな…?バッチリだったみたいな感じ?」
「はぁ……。まぁ、いいすよ。オレで良ければギター教えます。シフォンにもオレも人とセッションした方がいいって言われてますし……。でも、オレ一応男すよ?いいんすか?」
「え?何か問題?」
「いえ……特には…」
う~ん、結衣さんは本当にわかってない感じなのかな?
こうして秦野くんと結衣さんが同じ部屋に決まり、私と香菜さん、奈緒さんと盛夏さんが同じ部屋に決まった。
ふぅ、一段落したしこれで明日の準備しに帰れるかな?
時計を見るとちょうど21時をさしていた。
葉川さんと雨宮さんが来たのが18時半くらいだし、まだ2時間ちょっとしか経ってないのか。なんだか濃い時間だったなぁ~。
「みんなホテルの部屋も決まったみたいだな。まだまだ三咲と晴香の作った料理もあるしゆっくり食べて行ってくれ」
ファントムのオーナーである中原 英治さんはそう叫んだ。
私ももう少し戴いてから帰ろうかな?
美味しそうな料理もいっぱいあるもんね!
「あ、そうそう明日の待ち合わせ時間だけど、朝の5時にファントム前な?参加者は遅れるなよ?」
<<<<<は!?>>>>>>
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8月17日4時40分。
まだ朝日も昇りきっていない時間。
俺、中原 英治はライブハウス『ファントム』の前に立っている。
「先輩、めちゃ眠そうですね?」
「眠いわ。スーパー眠いわ…。結局あの後1時前まで宴会付き合わされたしな。お前らも一緒だったろ?何でそんな元気なの?」
「私達は若いからかしらね」
「志保も美緒ちゃんも藤川さんもめちゃ眠そうだし若いからってのは多分違うな」
「喧嘩を売ってるのかしら?」
ああ、タカ止めとけって…。
渚さんと理奈さんにはあんまり逆らわない方がいいって……。
おっと、昨日しばかれたトラウマのせいでうっかり『さん付け』になっちゃったぜ。
「でも本当に渚も理奈も元気だよね…。私達ここ数日ほとんど寝てないじゃん?」
「あはは、私は行きの飛行機の中でゆっくり寝るよ。奈緒もしっかり元気そうじゃん?」
「私は昨日は美緒も居たしみんなより少し早く帰ったしね~」
俺達はファントムの前でゆっくり会話をして過ごしていた。
もう少ししたら姫咲ちゃんの所の執事さんが大型バスで迎えに来てくれるらしい。
「ほら!もうみんな来てるじゃん!ゆーちゃんが遅いから!」
「ボクは朝の仕度に時間がかかるの!文句言うなら栞ちゃんが先に行ってくれてたら良かったのに!」
「うるさい!ゆーちゃんが悪い!!」
「おはようシフォン。今日は一段と可愛いな」
「あ、亮くんおはよー!」
「シフォンおはよー!それよりシフォンって小松に『ゆーちゃん』って呼ばれてんだな!」
「あ、江口 渉…!あれだぞ!あれだ…!えっと……」
「なんだ?」
「シフォンの頭文字を取ってゆーちゃんだ!だからボクはシフォンをゆーちゃんって呼んでるだけだ!」
「シフォンの頭文字……なるほどな!だからゆーちゃんか!」
「え?何で!?」
遊太と栞も来たみたいだな。
「もうみんな揃ったか?そろそろバス来るぞ?」
そろそろ待ち合わせ時間の5時だ。
俺はみんなに声をかけた。だが…。
「盛夏が来てないね…」
「晴香さんもまだだね…」
「香菜も来ていないわ…」
え?マジか?
あいつら本当に何やってんだ…?
それから少しして大型バスが到着した。
「皆様、お待たせしましたわ。それでは行きましょうか」
バスのドアが開き、そこから姫咲ちゃんが出てきた。……何でバスの添乗員さんのコスしてるの?
「ごっめ~ん!遅れたっ!!」
お、どうやら香菜が到着したようだ。
「香菜、遅いわよ。何をしてたのかしら?」
「ほんとごめん。電車が遅延しててさ…」
「まぁ、それならしゃーねーわな。後は盛夏と晴香か」
「俺とタカで待ってるから渚さん達は先にバスに乗っててもいいぞ?」
「英治さん?何で私の事さん付けなんですか?」
「もう5時10分だよ?盛夏どうしたんだろう……」
「あたしもさっきからLINEしてるけど既読すら付かないよ…」
「盛夏はあたし達に寝起きドッキリ仕掛けるくらいだし朝は弱くないと思うんだけどなぁ……」
「ヘェー、寝起きドッキリね……」
あいつら本当に何やってるんだろう?
俺とタカ、そしてDivalのメンバーと奈緒さんとまどかでバスの前で盛夏ちゃん達を待っていた。
<<<ドドドドドド……>>>
それから少しするとバイクの爆音が近付いて来た。
「あ?あの音、晴香のバイクじゃねぇか?」
「あいつまだアレ乗ってんのか」
二人乗りしたバイクが俺達の方に近付いて来て、そして目の前で止まった。
そこから降りて来たのは晴香と盛夏だった。
「みんな~…遅れてごめんなさい~…」
「いや、マジでごめん!でも盛夏は悪くないよ!私のバイクに乗らなかったら間に合ってたはずだし!」
「あ?なんか渋滞でもしてたのか?」
「ううん、盛夏を後ろに乗せて走ってたらさ。風になりたくなったんだよね」
「30分以上ツーリングに付き合わされちゃって~…」
「あっそ。じゃあさっさとバス乗って出発すっか」
「盛夏ちゃんも災難だったな…」
みんながバスに乗り込もうとした時だった。
-ポン
タカが先頭に居た奈緒さんの頭に手を置いた。
「ふぇ!?た、貴?ど、どうしたんですか!?」
そしてDivalのメンバーとBlaze Futureのメンバーの顔をそれぞれ見て…。
「楽しい旅行にしような…」
そう言って笑いかけた。
「な、な、な、あ、当たり前ですよ!」
奈緒ちゃんが照れながら貴に応えた。
あ、さん付けするの忘れた。
「あ~、奈緒だけずるい~」
盛夏ちゃんが不満を漏らしている。
「あんた何フラグ立ててんの?」
まどからしいな…。
「奈緒にいきなりセクハラですか?」
渚ちゃんに腹パンをされていた。
「貴!あたしも!」
「あ~…はいはい」
-ポンポン
タカって志保に甘いよな?
「本当にとんだロリコン野郎ね」
理奈からも腹パンをされていた。
「タカ兄!あたしも!」
「はいよ」
-ポンポン
「なんかタカ兄に頭をポンポンってされると昔思い出すなぁ~」
「あ?そういやそうだな…。昔はお前らの頭をよく撫でてやってたよな。そのせいでこれ癖になってんだよなぁ…自重せんとな…」
「タカ兄はこのままのがいいと思うよ」
「………そっか」
タカ……お前……。
「よし、俺らもバス乗るか」
「……」
「英治?どした?………え?まさかお前も頭撫でてほしいの?」
「ちげーよ。お前…夕べの事気にしてんのか?」
夕べ。
みんながグループ分けのくじを引いている時の事。
『そういや英治。HONEY TIMBREの誰から招待されたんだ?』
『あ?別に誰からって訳じゃねぇぞ?今朝ここの郵便受けにあいつらからチケットと再活動するって手紙が届いてたんだよ』
『ここに?お前ん家じゃなくてファントムにか?』
『おお、色々段取り大変だったぞ?ほら、秋月グループも今度のファントムギグの融資してくれるだろ?その話を姫咲ちゃんと今日する予定だったしタイミングが良かったぜ』
『そこはお疲れ様だな………お前、HONEY TIMBREの奴らとBREEZE解散後も連絡取ったりしてたの?』
『あ?いや、あいつら俺らより早く解散しただろ?それ以来連絡なんか取ってねぇぞ?』
『じゃあ何であいつらがファントムの存在を知ってるんだ?』
『あ…そういや……そうだな…』
『まぁファントムのサイトもあるわけだしオーナーの名前も英治だし、調べようと思えば調べられるしな』
『……タカ…お前』
『悪い。変な事聞いた。とりあえずお前は家族サービス頑張れ。俺はライブ以外の時間はホテルでだらだら過ごす』
『お前ほんと頭いいな?俺は懐かしいな~って思っただけで、そんなの気にならなかったぜ………もしこれが罠だったとしたらどっちの罠だと思う?』
『………お前もいい性格してるな。その可能性もあると思ってたわけか。だから晴香も呼んだのね』
『ただの楽しいイベントって可能性の方が高いだろ?』
『そりゃな』
『だったら見せてやりてぇだろ。あいつらに…ニュージェネレーションに……』
『ああ……そうだな…でも万が一もある。初音ちゃんは…しっかり守れよ…』
『ああ、約束する。お前の未来の嫁だもんな』
『いや、違うけど?』
「あ?夕べの事?」
-ブロロロロ……
「はは、何でもねぇよ。悪い。ただ奈緒ちゃんを触りたかっただけだよな?」
-ブォ~ン………
「は?人聞きの悪いこと言わないでくれます?てか、さっきからブロロロとかこの音何なの?」
「………バスが発車した音だな」
「………そうか。俺達まだ乗ってないのにな」
「「………」」
「「………何で発車してんの!?」」
俺達はバスを必死に追い掛けた。
だが、追い付けるわけもなく、やむを得ず俺達はタクシーを使った。
そして、俺達は南国DEギグが開催される地に降り立った。
この話はほんの序章に過ぎなかった。
そよ風の残響は…俺達に鳴り響く。