バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

36 / 146
第4話 interlude

着いたー!!

ここがノースアイランドホテルか~。

さすが秋月グループのホテルなだけあって大きなホテルだね!

 

ボクの名前は井上 遊太。

ううん、今はシフォンかな!

 

ボク達は無事に南国DEギグが開催される地に着いて、グループ毎に分かれていた。

 

ボク達の泊まるホテル、ノースアイランドホテルのメンバーは、

Ailes Flammeのボーカル江口 渉くん、

evokeのボーカル豊永 奏さん、

Canoro Feliceのボーカル一瀬 春太くん、

Blaze Futureのドラムの柚木 まどか姉、

FABULOUS PERFUMEのドラムのイオリこと小松 栞ちゃんの6人だ。

 

ボク達グループの大人の責任者。

引率をしてくれるのは、なんとボクと渉くんと栞ちゃんの学校の先生である東山 達也先生だ。

 

東山先生はボクの部活の軽音楽部の顧問でもあるし、話しやすいんだけど学校の先生が一緒とか……。

あんまりハメも外せないかなぁ。

 

「じゃあ、みんなホテルに荷物を預けてまたここに集合しましょうか」

 

東山先生がみんなにそう声を掛けた。

南国DEギグは明日の8月18日に開催される。1日目の今日は自由時間だ。

 

「うぅ…これじゃまるで学校の行事みたいだぜ…」

 

「ほんとに…まどか姉とかゆーちゃんと一緒なのは嬉しいけど、これじゃ先生に監視されてるみたいでハメ外せないじゃん…」

 

「江口、小松聞こえてるぞ。まぁ、教師と生徒ってのもあるが今日は同じバンドマン同士って事でな」

 

「え?同じバンドマン?小松もバンドやってるのか?」

 

「あ、いや、そ、そうだな!ほら、小松は英治さんに昔ドラムを習ってたから…ついな!」

 

「へぇー、そうなのか。小松もドラムやってたんだな!」

 

「ま、まぁね…」

 

栞ちゃんも大変だなぁ…。

そういえば今の東山先生の感じだと、栞ちゃんがFABULOUS PERFUMEのイオリだって知ってる感じかな?

 

「東山さん」

 

ボクは東山先生に敢えて先生とは呼ばずに話し掛けてみた。

 

「何だい?シフォンさん」

 

シフォンさん……か?よし…。

 

「東山さんはボクの正体を知ってますか?」

 

ストレートに聞いてみよう。

これが一番わかりやすいし。

 

「まぁ……な。お前のその格好は初めて見たけどな」

 

やっぱり知ってるんだ。

 

「変…ですよね?教え子がこんな格好して」

 

「ん?そんな事ないぞ?自分の好きな格好をしているだけだろ?ファッションの一環だろ」

 

「東山先生……」

 

「ただ1つ気になる事はあるけどな…」

 

「ん?な、何ですか?」

 

「お前らが入学して来た時くらいに他校の女の子がうちの軽音楽部に乗り込んで来て、デュエルでうちの部員を倒してしまってな。軽音部の部員のほとんどが自信をなくして退部していったという事件があるんだが…」

 

「あ!ボ、ボクも荷物置いて来ま~す!先生また後でね!」

 

うわぁ…危ない危ない…。

その他校の女の子ってボクの事じゃん…。

 

実際は入部してもみんなと話せなかったからシフォンの格好で部活に出ただけなんだけど…。

 

先輩達がしつこくナンパして来たからデュエルで勝てたらLINEの交換してあげるって条件でデュエルしただけだったのにね。

 

みんなボクに負けて自信なくして辞めちゃうもんだから、ボクが軽音楽部に殴り込んで軽音楽部を潰したとか変な噂が立っちゃったし……。

 

「シフォンこっちだよ」

 

「ほぇ?」

 

まどか姉に呼ばれたので、まどか姉の方に向かった。

 

「まどか姉どしたの?」

 

「ホテルにチェックイン出来る時間はまだだから荷物はフロントで預かってもらうんだよ」

 

「ほぇ~。そうなんだ?」

 

ホテルにはチェックインの時間とかあるんだね。

こないだの旅行の時はたか兄に任せっきりだったからなぁ~。

そしてボクは旅行カバンから水着を取り出して、旅行カバンをフロントに預けた。

 

「楽しみだよね!海!」

 

そう。ボク達の泊まるノースアイランドホテルは海水浴場から近いという事で、1日目は海水浴を楽しむ事にしたんだ。

 

「でもボク……どこで着替えようかな…」

 

「あたしにいい考えがあるから任せな」

 

まどか姉のいい考えか……。

ダメだ。不安が隠しきれない…。

 

 

 

 

 

 

「海だー!」

 

「海だな」

 

「海だね」

 

「江口、泳ぐならちゃんと準備運動しろよ?」

 

ボク達は海水浴場にやって来た。

 

渉くんと奏さんと春太くん、東山先生は水着に着替えて待ってくれていた。

 

ボクはいうとシフォンの格好だから男子更衣室に入る訳にもいかず、当然女子更衣室にも入るわけにもいかないので岩影で着替える事にした。

まどか姉と栞ちゃんが人が来ないように見張りをしてくれたけど…。

 

見られた…。栞ちゃんに…ボクの遊太を…。

 

「まどか姉…ボクもう気分が悪いよ…ゆーちゃんのゆーちゃんが……昔と全然違ってた……」

 

「あはははははは!」

 

「まどか姉も笑いごとじゃないよ…。ボクの方がショックなんだからね!」

 

「ゆーちゃんが悪い!」

 

「だから何でボクが悪いんだよ!」

 

「女の子にあんなモノ見せるなんて!変態!!」

 

「栞ちゃんがこっちを振り向くからでしょ!」

 

「あはははははは!」

 

ぐぅ~…。ほんと散々だよ…。

泳ぐ前から疲れた…。

 

「一瀬、なかなかいい腹筋をしているな」

 

「そんな奏さんこそすごい腹筋じゃないですか」

 

「おー!春さんも奏さんもすげーな!俺も野球やってた時はそれなりに割れてたんだけどな!」

 

「よし!一瀬!江口!あそこの岩場までどっちが早いか泳ごうぜ!」

 

「あはは、いいですね。奏さん、渉くん負けないからね!」

 

「よし、久しぶりにホンキで泳ごうかな…!」

 

そう言って渉くんと奏さんと春太くんが海に飛び込んだ。

 

「ゆーちゃんは行かないの?」

 

「ボクがあんな所まで泳げるわけないでしょ…」

 

「あはは、僕もさすがにあそこまでは無理かな」

 

「東山さんもあんまり泳げないんですか?」

 

「晴香義姉さんに昔に色々されてね…海は少し苦手で…あはは」

 

泳げないってわけじゃないけど、さすがにあんなに遠い所までは泳げないよ…。

 

ボク達は波打ち際で水のかけあいをしたり、砂でお城を作ったりして時間を過ごした。

まどか姉のお城のクオリティは凄かった…。さすが幼稚園の先生だね。

ん?関係ないかな?

 

それから少しして…。

 

「やったー!いっちばーん!」

 

春太くんが1番に帰ってきた。

 

「ハァ…ハァ…やるな、一瀬。俺の完敗だ。ハァ…ハァ…だが、音楽では負けないからな」

 

「ははは、奏さんもすごく速かったじゃないですか。次やったらわからないですよ。でも、音楽でも俺達は負けませんから」

 

次に戻って来たのは奏さん。

春太くんと奏さんはガッチリと握手をしていた。

なんか男同士っていいな~。

まぁ、ボクも男なんだけど…。

 

それより2人共すごく速かったよね!

渉くんなんてまだあんな所でバシャバシャやってるのに…。

 

………ん?バシャバシャ?

 

「ね、ねぇ…渉くんってもしかして溺れてるんじゃない?」

 

ボクはみんなに渉くんの方を指して言ってみた。

 

「え?渉くん!?」

 

「くっ、江口って運動が得意じゃなかったのか!?」

 

「これってマジやばくない!?ど、どうしたらいいの!?」

 

「柚木さん落ち着いて!僕がライフセーバーの方に連絡します!」

 

「せ、先生そんな余裕ないよ!」

 

ど、どどどどどうしよう!?

東山先生は走ってライフセーバーさんを探しに行った。

 

「俺、助けて来ます!」

 

「一瀬!溺れてる人を助けるのは……。

くっ、言ってる場合じゃないか…!」

 

春太くんと奏さんはそのまま海に飛び込もうとした。

けど…

 

「一瀬春太!豊永奏!泳いで来て疲れてる2人は足手まとい!江口渉はボクが助けて来る!」

 

そう言って栞ちゃんが海に飛び込んだ。

 

「え!?栞ちゃん!?」

 

「何!?何だあの速さは…!」

 

栞ちゃんは物凄いスピードで泳いで渉くんに近付いて行った。

 

「栞ちゃんって泳ぐのすごく速くない!?俺や奏さんよりずっと…」

 

「何者なんだ…あの女子は!?」

 

春太くんも奏さんも栞ちゃんの泳ぎを見てびっくりしている。

そうなんだ。栞ちゃんは泳ぎがすごく上手いんだ。

 

「栞はさ。トシキやタカや英治に海釣りに連れて行ってもらってた時に、釣りをせずに銛を持ってトシキと潜ったり泳いだりしてたからね……。それに…」

 

まどか姉がボクの方を見て

 

「海で溺れてるシフォンをよく助けてたからね…。ふざけてシフォンを船から海に落としてたのも栞だけど…」

 

そうなんだよね…。

栞ちゃんは釣りをしているボクの後ろから体当たりしたりして来て、よく海に突き落としてきてたからね…。

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして渉くんを担いだ栞ちゃんが戻って来た。

 

「ど、どうなってるのこの海…」

 

栞ちゃんは担いでいた渉くんを降ろして、渉くんの足元を見てそう言った。

 

ボク達が渉くんの足元を見ると、そこには巨大なタコの足が足に絡み付くように巻き付いている。え?何これ?

 

「あ、ありがとうな……小松…し、死ぬかと思った…」

 

渉くんは何とか大丈夫なようだ。

良かったぁ。安心したぁ~…。

 

「江口渉の足に巨大なタコが絡み付いてたからぶっ倒してやろうと思ったけど、なかなか強敵だったよ…。

だから足を引きちぎって来た!」

 

それから少ししてライフセーバーを連れて来てくれて東山先生も戻って来た。

 

ライフセーバーの話だと、渉くん達が競争した岩場の近くに潜んでるこの辺りの主のタコだろうとの事だった。

 

春太くんと奏さんがその付近を通った時に攻撃されてると思って反撃してきたんだろうと話してくれた。

渉くんは運が悪かったんだね…。

 

「すまん、江口。僕の監督不行き届きだ」

 

「先生が謝る事じゃねーぞ?確かに死ぬかと思ったけど、こんなの誰にも予想出来ないしな?」

 

「それでもだ。僕はみんなの保護者だからな」

 

東山先生は本当にいい先生だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「ん?なんや?なんか騒がしいから野次馬に来てみたら、Blaze Futureの柚木まどかとevokeの豊永奏やんけ」

 

「え?」

 

声がした方に目を向けるとツンツン頭のお兄さんが居た。

奏さんとまどか姉の知り合いかな?

 

「柚木まどか…なんて美しい女性デショウ…ワタシの嫁に相応しい…」

 

「は?誰?」

 

そしてその横には金髪ロン毛の男の人。

目が青いしすごく白い肌の美形だ。

外国の人かな?

 

そしてその横にはボクと同じ歳くらいの小柄の男の子とすごくガタイのいい男の人。4人の男の人達が居た。

 

「え~………っと…あんたら誰?」

 

ん?まどか姉の知り合いじゃないのかな?

 

「ワタシはあなたの未来の旦那様デス」

 

「は?」

 

金髪の男の人がそう言ってまどか姉に近付いて来た。

 

「待って」

 

小柄な男の子が金髪の男の人を止めた。

何なんだろうこの人達…。

 

「帰るよ」

 

「oh…ヒバリ~…。何故止めるデスか?ワタシはまどかと結婚式について話し合わなくては……」

 

「そやで。何で止めるんや?結婚うんぬんはええとして、せっかくBlaze Futureとevokeのメンバーに会えたんやで?ここで潰しとった方がええやろ?」

 

Blaze Futureとevokeを潰す……?

 

「ちょっと……私達を潰すって何?」

 

「言葉のまま受け取れや。Blaze Futureもevokeも…ファントムのバンドマンはワイらクリムゾンの邪魔やって事や。だから潰す」

 

「「「クリムゾン!!?」」」

 

「虎次郎……喋りすぎだよ」

 

「そうよ~。虎次郎ちゃん。ダメよぅ~」

 

小柄な男の子とガタイのいい男の人がツンツン頭の人をそう呼んだ。

って…あのガタイのいい男の人の喋り方って……。

 

「遅かれ早かれすぐにわかる事やろ。今更隠さんでええやん。ここにはDivalはおらんし怒られる程の事やないやろ」

 

Dival!?

Divalの事も知ってるの…!?

 

「しょうがないな…。怒られたら虎次郎が責任取ってよね」

 

「その前に自己紹介しとったろか。ワイがボーカルの白石 虎次郎(しらいし こじろう)

そこの金髪がギターの青木 リュート(あおき りゅーと)

そこのガキがベースの朱坂 雲雀(あけさか ひばり)

んで、そこのおっさんがドラムの玄田 武(げんだ たけし)。この4人でクリムゾンのバンドマン、interlude(インタールード)や」

 

interlude?

聞いた事のないバンドだ…。

ってそれもそうか。ボク、クリムゾンの曲なんて聴かないしね!

 

「interlude…?聞いた事あるぞ…」

 

「え?奏さんは知ってるんですか?」

 

「……クリムゾンに属さないバンドを潰していっているバンドだ」

 

え?

 

「奏さん、それってまさか…」

 

渉くんもきっと同じ事を思ったんだろう。

志保のお父さんの事を…。

 

「さて、お喋りはここまでや。

デュエル…やろか?」

 

そう言ってinterludeのメンバーが楽器を構えた。クリムゾンのアーティストと…デュエルなんて…。

 

「いや、ちょっと待ってよ」

 

春太くんが慌てて止めに入ってくれる。

 

「ん?なんや?」

 

「君たちボーカル、ギター、ベースにドラム。ほぼフルメンバーじゃないか。

こっちはボーカルとドラムしかいないんだよ?デュエルなんか出来ないよ」

 

そう言って春太くんは東山先生の近くに歩いて行った。

 

「東山さん、こいつらヤバいです…。

目の前にいるだけなのに震えが…。

だから、東山さんがベースやれるのは内緒にしてて下さい(ボソッ」

 

「一瀬くん……。わかってます。曲を聴いたわけでもないのにすごいプレッシャーを感じます。一瀬くんもCanoro Feliceの事は内緒に…(ボソッ」

 

「ええ…、その方がいいですね…(ボソッ」

 

春太くんと東山先生の会話が聞こえた。

そっか。なるほど。

相手はクリムゾングループのバンドマン。

そして志保のお父さんのように、他のバンドを潰していってるようなバンドだもんね。関わらない方がいいよね。

 

「そんなの関係あらへんわ」

 

「「!?」」

 

「だったらボーカルのワイとドラムの武だけで相手したる。お前らはevokeの豊永とBlaze Futureの柚木。ボーカル&ドラム同士でちょうどええやろ」

 

「こいつ…ずいぶん余裕じゃん…」

 

ま、まどか姉……。

 

「ま、待ってよ!それでも奏さんとまどかさんは別のバンドだし、いきなり合わせるなんて…!」

 

「なんやこのイケメン君ごっつめんどくさいのぅ……。そんなん関係あらへんねや。クリムゾンに属さないバンドマンがここでワイらと出会った。それを不運や思って諦めろや」

 

そう言って白石 虎次郎と玄田 武って人が、近付いて来た。

ど、どうしよう…。

 

「ちょっっっと待った!!」

 

渉くんがそう叫んでボク達の間に入ってきた。

 

「なんやお前?」

 

「お前らさっきから聞いてたらさ?

Blaze FutureとかevokeとかDivalとかってよ?ここにもファントムのバンドマンがいるだろ?」

 

「あん?」

 

「ちょ…江口!」

 

わ、渉くん…!?

まさかボク達の事を言うつもり!?

 

「俺はファントムのバンド、Ailes Flammeの江口 渉!ここにいるこいつはAiles Flammeのドラムのシフォンだ!」

 

ええええええええ!?

ボクの事も言っちゃうの!?

 

「わ、渉くん!何を…!」

 

ほら!春太くんもびっくりしてるよ!?

 

「Ailes Flamme……?知らんのう…」

 

「ンー、ワタシも聞いた事ないデス」

 

「あたしも知らないわねぇ」

 

「僕は聞いた事あるよ」

 

「お!お前は俺達の事知ってるのか!」

 

「evokeのライブで前座をやってBLASTの曲を歌ったっていうバンドでしょ?」

 

「おぉ!あいつらか!そういや居たのぅそんなバンドも!」

 

「はっはっは。俺達有名だな!」

 

も、もう!渉くん!

どういうつもりなんだよ…!

 

「んで?そのAiles Flammeがなんや?」

 

「奏さんとまどかねーちゃんは違うバンド同士だしな!いきなり合わせるなんて出来ねぇ!」

 

「あん?お前もめんどいやっちゃな」

 

「だから!お前らもボーカルとドラムだけなら、Ailes Flammeのボーカルの俺とドラムのシフォンでお前らとデュエルしてやる!やろうぜ、デュエル!」

 

わ、渉くん!?何を言ってるの!?

 

「ぷっ、あは、あはははは。いいじゃん虎次郎!やってやりなよ、デュエル!」

 

「こ、こいつ…ワイらの事なめてんのか?」

 

「こないだちょっと聞いたんだけどな。お前らクリムゾンはデュエルを申し込まれたら断る事は出来ないんだろ?」

 

あ、そういや昔におっちゃんがそんな事言ってたっけ?

どうして渉くんがそんな事知ってるんだろう?

 

「おい!江口!」

 

奏さんが渉くんの肩を掴んで話し掛けた。

 

「お前、何を考えている?

あいつらは普通のバンドマンじゃないんだぞ!もしデュエルで負けたりしたら…!」

 

「ああ、そうだな。奏さん、すみません。

でも、奏さんとまどかねーちゃんをこのままデュエルさせるわけにはいかねーからな」

 

「江口……」

 

「俺はまだ奏さんみたいに歌えないし、亮も拓実も居ないけど……。

ただじゃ負けたりしねぇから。

奏さんはまどかねーちゃんとやれそうな曲の打合せでもしててくれ」

 

「江口…お前まさか…」

 

「あはは、俺もまだAiles Flammeでバンドやりたいしな!勝つつもりでやるさ!」

 

渉くん……。

 

「渉くん!待って!あたしと豊永くんでやるからあんた達は下がってて!」

 

「まどかねーちゃん……悪いな。

このまままどかねーちゃん達にデュエルさせて、もしあいつらに負けちゃったら、俺にーちゃんに合わせる顔ねぇからさ」

 

「そっ…そんなのあたしだって一緒だよ?

あんた達に何かあったらタカに合わせる顔なくなっちゃうじゃん!」

 

「悪い…」

 

「お願いだから…!あたし達にやらせて…」

 

「まどか姉…ごめんね。ボクも渉くんと同じ気持ちだよ」

 

そうだよ。奏さんとまどか姉もすごいバンドマンだけど、いくらなんでもいきなり合わせるなんて無理だ。

ここはボクと渉くんで何とかしないと…。

 

「シフォンまで……」

 

「大丈夫!ボク達は負けないよ!

ね!渉くん!」

 

「おう!」

 

そしてボク達はinterludeの前に立った。

 

「ん?もうええんか?」

 

「待たせたな!やろうぜ、デュエル!」

 

「お前ら……クリムゾンにデュエルで負けるって事はどうなるかわかって挑んできとるんやろな?」

 

「お前らこそクリムゾンのバンドマンがデュエルで負けたらどうなるかわかってるんだよな?」

 

「面白いやんけ…いくで…武!」

 

「いつでもオッケ~よ」

 

そう言って玄田 武がドラムを叩き始めた。すごく力強いドラムだ…!

 

「いくで…!『破壊者(はかいしゃ)』!」

 

「俺達も!打っ放すぜ!シフォン!」

 

「うん!渉くん!いっくよぉぉぉぉ!」

 

「いくぜ!『Challenger(チャレンジャー)』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ……やるじゃん」

 

「ハァ…ハァ…このガキ…なかなかやりよるやんけ…」

 

「ハァ…な、なんとか負けずにすんだ…ハァ…ハァ」

 

「江口のやつ…いつの間にこんな…」

 

「すごい!渉くん!全然負けてなかったよ!」

 

みんなの言う通りだ…。

渉くん、いつの間にこんなに力強い声に…。ううん、声だけじゃない。

リズムもパフォーマンスも全然前とは違う…!

 

「ゆーちゃんもだよ…。いつの間にあんなテクを…」

 

「あははー、こりゃあたしもうかうかしてられないなぁ」

 

「虎次郎、このまま終わりじゃないよね?手伝おうか?」

 

「やかましい!引っ込んどれ!本番はこれからじゃ!」

 

「ハァ…ハァ…ま、まだやんのかよ」

 

うっ、ど、どうしよう…。

Challengerしかボク達の曲ないのに…。

BLASTの曲なら渉くんも出来るだろうけど、ボク達の曲じゃない。

それだと渉くんの歌は…。

 

「いくで!Ailes Flamme!」

 

「シフォン!亮の曲!No15のやつだ!出来るか!?」

 

「え?」

 

亮くんの曲?No15?

 

「俺が亮の曲で好きだって言ってたやつだ!」

 

あ、あれか!

渉くんがいつかこの曲に合わせた歌詞を書きたいって言ってたやつ!

 

「だ、大丈夫!あの曲なら出来るよ!」

 

「よし!任せた!」

 

ま、任せたって…!

大丈夫なのかな?

でも……考えてる時間なんかないか!!

 

ボクは亮くんの作り溜めしていた曲のNo15の演奏を始めた。

 

「覚悟せいAiles Flamme!『リボルバー(リボルバー)』!!」

 

「行くぜ!『SUMMER DAYS(サマーデイズ) 』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

わ、渉くんすごい…!

いつの間にこんな歌詞を…。

まだ修正や編曲はしないといけないだろうけど…最高だよ!渉くん!!

 

「ハァ…ハァ…また決着つかなかったな…ハァ…ハァ…」

 

「な、なんやねん…こいつ……!ハァ…ハァ…」

 

「江口も……シフォンさんもすごいですね…。クリムゾンのアーティストに全然負けてない…」

 

また決着が着かなかった。

渉くんは本当にすごい…。

でも…これ以上は…。

 

「つ、次でケリ着けたるわ…!ハァ…ハァ…」

 

ボク達には……次の曲がない……!

 

 

 

 

「そこまでだ」

 

 

 

 

「あ?誰じゃ?」

 

「なかなか面白いデュエルを見せてもらった。だが、そこまでにしてもらおうか」

 

誰だろう?

すごく綺麗なお姉さんがボク達の間に入って来た。

 

「邪魔すんねやったら女でも容赦せぇへんぞ?わかったらさっさと居ねや!」

 

「自己紹介……とまでは言わないが、私は反クリムゾングループ『SCARLET(スカーレット)』の者だ。

これ以上Ailes Flammeとデュエルをやると言うのなら私が相手になろう」

 

「な、なんやて!?」

 

反クリムゾングループ…?

SCARLET……?

 

「虎次郎、今度こそ帰るよ。SCARLETが相手じゃ怒られるだけじゃ済まない」

 

「ふ、ふざけんなや!まだAiles Flammeとの決着は…!」

 

「僕の言うことが聞けないの?」

 

「うっ……しゃ、しゃーないな。ここは退いたるわ…」

 

「SCARLETのお姉さんも。そういう事だから。僕達は帰らせてもらうよ?」

 

「いいだろう」

 

「Ailes Flammeのボーカル!

ワレ……確か江口とかいうたな!」

 

「あ?お、おう!」

 

「お前は絶対ワイが潰す!それまで他の奴らに潰されたりすんなよ!」

 

「当たり前だ。俺達Ailes Flammeは誰が相手でも負けねぇ!」

 

そう言って白石 虎次郎達は、interludeはこの場から去って行った。

 

 

 

 

「すごい!すごいよ渉くん!」

 

「ああ、やるな江口。まさかクリムゾンのアーティストを追い払うとはな」

 

「あはは、でも俺は勝てたわけじゃねーからな。止めに入ってくれたそのねーちゃんのおかげだな」

 

「シフォン…良かった。あんた達が無事で…」

 

まどか姉…。

心配させちゃったよね…。

 

「フフン!どーよまどか姉!ボクのドラムは!

そろそろおっちゃんの正統後継者の座はボクが貰っちゃおうかな!」

 

「江口 渉もゆーちゃんもなかなかやるじゃん。でも、まだまだ荒い部分が目立ってたよ」

 

みんな…無事で良かった。

 

「あの、すみません。助かりました」

 

東山先生がお姉さんにお礼を言っていた。

そうだよ。ボク達もあのお姉さんにお礼を言わないと…。

 

「いや、気にしなくていい。

それでは私も行かせてもらうよ」

 

「ま、待ってくれねーちゃん。俺もお礼を…」

 

「待って下さい!」

 

渉くんがお姉さんに駆け寄ろうとしたけど、その前に春太くんが駆け寄った。

 

「あの…助けて頂いてありがとうございます」

 

「気にしなくていいと言った。礼には及ばないさ」

 

「すみません、助けてもらっておきながらこんな事聞くのもどうかと思いますが…。

反クリムゾングループって…SCARLETって何ですか?」

 

「……今はまだ君達は知らなくていい。

いつか知る時がくるだろうしな」

 

今は?まだ?

 

「それでも…」

 

「私達は君達の敵ではない。

……だからといって味方というわけでもない。今はそれで十分だろう?」

 

敵ではないけど味方でもない?

敵じゃないから助けてくれた…?

 

「また近い内に会う事になるさ。

話の続きはその時に……いいね?」

 

「……はい、わかりました」

 

「いい子だ」

 

お姉さんはそのまま振り返る事もなく去って行った。

なんだかわからない事だらけだけど、

今日は…みんな無事で良かった。

 

 

 

 

 

 

あの後ボク達は海水浴場からホテルに戻り、ホテルのレストランで夕食を摂った。

その時、東山先生がボクにだけこっそり言ってくれた。

 

『江口と井上を見てたら、昔のタカさんと英治さんを思い出したよ。歌い方やパフォーマンスは全然違うんだけどな。

何て言うか……雰囲気がな』

 

ボクと渉くんが昔のおっちゃんやたか兄と雰囲気が似てるかぁ~。

 

そういえば少し前に渉くんがたか兄みたいだな。って思った事がある。

渉くんはスーパーポジティブ人間だし、たか兄はスーパーネガティブ人間だしで性格は全く反対な感じもするんだけど…。

 

よくよく思い出してみると渉くんとたか兄ってすごく仲がいいよね。

あの二人…何かお互いに感じる事があるのかな?

 

「シフォン、先に風呂入らせてもらって悪いな。

覗いたりしないならゆっくり入って来てくれ!」

 

渉くん…。

ボク達は夕食を済ませた後ホテルの部屋に戻ってゆっくりしていた。

 

ボクと渉くんが同じ部屋で、先に渉くんにお風呂に入ってもらっていた。

 

ボクは今から渉くんに打ち明ける。

 

ボクは女の子じゃなくて男の娘で…

同じ学校の井上 遊太なんだよ。って…。

 

「わ、渉くん…ちょっといいかな?」

 

「ん?なんだ?」

 

「真面目な話なんだ。ちゃんと聞いて欲しい…」

 

「真面目な話…?わかった」

 

そしてボクはウィッグを外し、メイクを落とし、渉くんの方を向いた。

 

僕はシフォンから遊太になった。

 

「ごめん。僕…女の子じゃないんだ。

シフォンは……仮の姿で…僕…」

 

渉くんは僕の顔を見てびっくりしている。

そりゃそうだよね。

ずっと女の子だと思ってたバンドメンバーが…同級生の男の子だったんだもんね…。

 

「僕、井上 遊太なんだ」

 

あはは、嫌われ……ちゃった…かな?

 

「なぁ?もしかしてそれが真面目な話か?」

 

「う…うん。ごめん…変…だよね?」

 

「いや、シフォンの正体が井上だっての知ってたぞ?

亮と拓実ももちろん知ってるぞ?」

 

やっぱり知ってたよね…。

こうなるって事はわかってたのに…。

 

……

………え?知ってた?

 

 

「ちょ、渉くん!?知ってた!?」

 

「え?ああ、知ってたけど?」

 

えええええええええ!?

いつ!?いつから知ってたの!?

今までの僕の苦労は何!?

 

「い、いつから知ってたの…?」

 

「ん?evokeの前座やらせてもらうちょっと前くらいかな?」

 

そんなに前から!?

 

「シフォンが井上だって事は内緒にしときたいのかな?って思って知らない振りしてたんだよ。

色々事情もあるかも知れないしな。シフォンが…井上が打ち明けてくれるまで俺達は待ってようぜって」

 

「そ、そうだったんだ…ごめん……。

ってちょっと待って!ボク何度か打ち明けてたんだけど!?」

 

「え?そうだったか?

何か井上の姿でシフォンの喋り方って新鮮だな!」

 

あ、そうだ…。

僕…今は遊太なのに渉くんにはシフォンの時と変わりなく話せてる…。

 

「まぁ、最初は驚いたけど井上は井上だし、シフォンはシフォンだ。俺達の仲間である事には変わりねぇよ」

 

渉くん…。

 

「亮のやつは最初はショックだったみたいだけどな。翌日にはケロッとしてたぞ?」

 

「ああ…やっぱりショックだったんだ……」

 

「ん?でもな。シフォンが井上って知った日の翌日の登校中に…」

 

 

 

『渉。お前、四響のアダムを知ってるか?』

 

『四響のアダム?もちろん知ってるぞ?』

 

『四響のアダムはな、キュアトロのマイリーが好きなんだ。結婚したいらしい』

 

『ああ、何かちょっと前にそんな事やってたな。にーちゃんは絶対認めないって暴れてたけど』

 

『そうだ。貴さんもキュアトロのマイリーが結婚したいくら好きだ』

 

『お、おう、そうだな。亮、だからどうしたんだ?』

 

『キュアトロのマイリーは男の娘だ。

つまり、男が男の娘を好きになってもいいんじゃないかな?オレはそう思うんだ』

 

『え?まぁいいんじゃねーか?』

 

『やっぱりお前もそう思うよな。

ははは、学校に行くのが楽しみになってきたな!』

 

 

 

「………ってな事があったんだ」

 

え?

 

「だから心配する事ねぇぞ?俺達はAiles Flammeだ!」

 

「う、うん!」

 

でもちょっと待って?

何かわからないけど、急に何かが不安になってきたんだけど……。

なんだろうこの胸のざわめきは…。

 

「それで?何で急に打ち明ける気になったんだ?

これからAiles Flammeで演奏する時は井上でやるのか?」

 

「あ、いや、そんなわけじゃないけど…。ドラムの演奏もシフォンの格好の方が上手く叩けるし…。遊太のままだと緊張したりしちゃうからさ…ダメかな?」

 

「そっか。俺としてはどっちも井上だしシフォンだからな。構わないぞ」

 

渉くんも…Ailes Flammeのみんな…。

僕が遊太でもシフォンでも…僕を受け入れてくれるんだね。

 

たか兄、おっちゃん…。

僕、バンドやっててドラムやってて良かったよ。

 

「よし!渉くん!聞いてくれてありがとう!

僕お風呂入ってくるね!覗かないでよ?」

 

「あはは、俺もまだ死にたくねーからな!覗いたりしないから安心してくれ!」

 

 

 

 

渉くんに打ち明けて良かった。

まぁ、みんな知ってたみたいだけど…。

 

僕はこれからも井上 遊太として、シフォンとしてAiles Flammeで頑張っていきたい。

出来ればずっとこの4人で…。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。