バンやろ外伝 -another gig-   作:高瀬あきと

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第5話 美来

南の島だー!南国だー!

 

私は水瀬 渚。

南国DEギグというイベントの為に、ライブハウス『ファントム』の仲間と共にこの地にやって来た。

 

でも、この南の島ってどこにあるんだろう?

そう思った私は飛行機の中で会社の先輩でもありBlaze Futureのボーカルでもある葉川 貴に聞いてみた。

 

 

 

 

『先輩先輩。南の島ですよ!南国ですよ!楽しみですよね!』

 

『あの…すみません、僕寝たいんですけど?ちょっと静かにしてもらえませんかね?』

 

『うふふ!先輩もテンション高いですね!やっぱり南の島とかテンション上がりますもんね!』

 

『あの……俺の話聞いてる?俺は寝たいんだけど?お前何で飛行機の中でウロウロしてんの?CAさんに迷惑だからお前も寝ときなさい』

 

『でも南の島ってどこにあるんだろ?

沖縄?九州?先輩は知ってます?』

 

『どこでもいいよそんなもん。俺は寝たいんだよ。お願い、寝させて?』

 

『あ、実は私って沖縄には行った事ないんですよ!』

 

『うん、良かったね。それより俺は眠いの。もう羊さんも1万匹以上数えてんの。

なのにお前がうるさいから眠れないの。わかる?羊さんのメェ~メェ~鳴く声よりお前がうるさいんだよ』

 

『もう!先輩はノリが悪いなぁ。

だったら羊じゃなくてマイリーちゃんでも数えてたらいいんじゃないですか?』

 

『お前バカなの?マイリー一人でも興奮するのに何人もマイリー居たら余計寝れなくなるじゃん』

 

『はいはい、私は席に戻りますー。

先輩はマイリーちゃんを数えて静かに寝て下さい。永久に』

 

『はいはい、はよ帰れ。

俺はマイリー数えて寝るわ。

ああ…マイリーに囲まれて永眠したい…おやすみ』

 

そして私が自席に戻ってちょっとした後、先輩が急に『ふぁぁぁぁ、マ、マイリー!』とか叫ぶもんだから若干どころかドン引きした。

あ、あんまり関係ない話だった。

 

 

 

 

「わぁ…結構大きなホテルですね」

 

この子はBlaze Futureのギター、佐倉 奈緒の妹の美緒ちゃん。

私達のバンドDivalのベース、氷川 理奈の大ファンだ。

 

「皆様、長旅お疲れ様でしたわ。

チェックインの手続きはじいや……私の執事がやってくれましたので、それぞれカードキーをじいやから受け取って下さいな」

 

この子はCanoro Feliceのベース、秋月 姫咲ちゃん。

ほとんど話した事ないけど、この機会に仲良くなれるといいなぁ。

 

「さあ、じいや。みなさんにカードキーをお渡しして下さいな」

 

「ハッ!畏まりました。

では、姫咲お嬢様と北条 綾乃様は603号室でございます」

 

「ありがとうございます、じいやさん」

 

「綾乃様、私の事はフレンドリーにセバスちゃんとお呼び下さいませ」

 

綾乃さんがセバスさんからカードキーを受け取った後、美緒ちゃんと大西 花音ちゃんがカードキーを受け取っていた。

 

大西 花音ちゃんというのは、バンド名はまだないみたいだけど、綾乃さんとバンドを組んでいるボーカルさんだ。

 

「では……水瀬 渚様、氷川 理奈様」

 

「は~い!」

 

「はい」

 

私と理奈は同じ部屋になれた。

うふふ、夜は部屋飲みしようって言ってるし楽しみだな。

 

「あの、はじめまして。よろしくお願いします」

 

理奈がセバスさんに挨拶をした。

私もちゃんと挨拶しなきゃ!

 

「セバスさん、はじめまして。よろしくお願いしますね」

 

「大きくなったね…」

 

え?

 

「大きく?」

 

「あ、いや、何でもございませぬ!

さ、カードキーをどうぞ!」

 

「え?え?あ、ありがとう…ございます」

 

大きくなったね?

セバスさん…今のは誰に向けて言った言葉なんだろう?私?理奈?

 

「さぁ、それでは。皆様カードキーを受け取られましたかな?

私は仕事がございますのでこれで…」

 

「あの…俺がまだ受け取ってないんですけど…」

 

「ほら、じいや。タカさんにもちゃんとカードキーを手渡しして下さいな」

 

「そ、そうでしたな。うっかりしておりました。葉川 貴様、816号室でございます」

 

「ああ、どうも…」

 

そして先輩がセバスさんの元へカードキーを受け取りに行った。

その様子を姫咲ちゃんがジッと見つめている。

 

「あ?姫咲?どした?」

 

先輩も姫咲ちゃんがずっと見つめてくるのが気になったようだ。

 

「いえ、別に何でもありませんわ。ジー」

 

姫咲ちゃんがわざとらしくジーって言っている。どうしたんだろう?

 

「ハハハ…た、タカ様。お、お久しぶりでございますな」

 

久しぶり?

セバスさんと先輩って知り合い?

 

「…………ああ…久しぶりだな。元気そうで良かったわ」

 

「タカ様こそ…お元気そうで何よりでございます」

 

「やはり!」

 

「ん?どした姫咲」

 

「タカさんとじいやはお知り合いでしたのね!どういう関係ですの!?」

 

「お、お嬢様……」

 

「は?ただの昔馴染だ」

 

「どんな繋りでしたの?昔のバンド仲間とか?Artemisは関係ありますの?」

 

Artemis!?

嘘……。まさか姫咲ちゃんの口からArtemisの名前が出るなんて…。

 

「お嬢様、もうそれくらいで…」

 

「まぁ、色々だ」

 

「色々……ですか。わかりましたわ」

 

「ん?もっと食い付いてくるかと思ったけどやけに素直だな」

 

「……ええ、私はいつでも素直ですわ」

 

「お嬢様…」

 

姫咲ちゃんが何も言わないからか先輩はそのまま何も言わずホテルの中に入って行った。

セバスさんも『それでは仕事に戻りますので』と言ってその場から去っていった。

 

「今のがあなたが貴さんと同じホテルになりたかった理由かしら?」

 

「理奈さん……。ええ、そうですわ。

じいやとタカさんを会わせてみてどうなるのか…知りたかっただけです」

 

ん~?

セバスさんと先輩を会わせてみたかったから、姫咲ちゃんは先輩と同じホテルになりたかったの?

 

「ま、どんな理由で2人を会わせたかったのかは知らないけれど、さっきのやり取りだと失敗といった所かしらね」

 

「そうですわね」

 

「あ~、なるほどですね。それであたしがくじを引いた時には3枚あるはずなのに2枚しかくじが入ってなかったんですね」

 

「花音さんにも気付かれてましたか」

 

「でもさ?何で姫咲ちゃんは先輩とセバスさんを会わせたかったの?」

 

「そうね。それも気になるわね。

あなた、さっきArtemisの名前を出したわよね?貴さんはBREEZEの事があるからわからなくもないけど、セバスさんも関係あるのかしら?」

 

「理奈さんもArtemisを知ってますの?」

 

姫咲ちゃんは話してくれた。

 

ベースはセバスさんから教わった事。

セバスさんがファントムには入らない事。

セバスさんが梓お姉ちゃんのお墓参りをしていた事。

セバスさんが本当は女性なんじゃないかって事。何で女性って思ったんだろう?

 

セバスさん自身の過去は、いつかセバスさんから話してくれるのを待ってるつもりだったらしい。

だからさっきもはぐらかされたからすぐに諦めたそうだ。

 

でもどうしてもファントムに入らない事だけは気になっていたらしい。

何故ファントムには入らないのか。

先輩や英治さんに会いたくないのだろうか?と…。

 

「だから貴さんとの関係を知りたかったわけね」

 

「ええ、そうですわ」

 

確かにさっきの感じだと久しぶりとか昔馴染って言ってたわけだし、知り合いではあるんだよね。

 

「まぁ、タカさんとじいやは顔見知りだったという事で納得しておきます。

みなさまはこれからどうなさるおつもりですの?」

 

あ、そうだね。

今日の予定って何も決まってないもんなぁ。どうしよっか?

 

「私は適当に繁華街あたりをウロウロしようかな?って思ってるよ。お土産とかも買いたいし」

 

「あ~、お土産か。綾乃さん、あたしも着いて行っていいかな?」

 

「うん、もちろんだよ」

 

綾乃さんと花音ちゃんは繁華街をぶらぶらしに行くのか~。

私はどうしよっかな?

 

「り、理奈さんはどうなさるんですか?」

 

「そうね。特にこれといった予定もないし、私も繁華街あたりに行こうかしら?」

 

「わ、私もご一緒していいですか!?」

 

「クス、もちろんいいわよ。渚も予定がないなら一緒にどうかしら?」

 

理奈と美緒ちゃんと繁華街か~。

…うん!それもいいね!

 

「あ、ならみんな目的地も一緒だしみんなで行こうか。姫咲ちゃんもいいかな?」

 

「ええ、是非」

 

綾乃さんがそう言ってどこかに電話を掛けた。

 

「あ、もしもし貴兄?今から繁華街行くよ。ロビーで待ってるね。

…………え?寝たい?うん、わかった。ロビーで待ってるね。

………うん?聞いてるよ?ロビーで待ってるからね」

 

そう言って綾乃さんは電話を切った。

 

「さ、貴兄が来るまでに私達も荷物を部屋に置きに行こうか」

 

おおう…!先輩にすぐロビーに来るように言っておきながら、荷物は部屋に置きに行くとは…!

綾乃さん……さすがまどかさんの幼馴染だ…!

 

 

 

 

 

それから私達は部屋に荷物を置きに行き、ホテルのロビーへと向かった。

そこにはしっかり先輩が居た。

 

「あの…ロビーに来たら誰も居ないし泣きそうだったんだけど…」

 

「じゃあ貴兄、引率よろしくね」

 

「え?今の俺の台詞無視なの?」

 

そして私、理奈、美緒ちゃん、綾乃さん、花音ちゃん、姫咲ちゃん、先輩の7人で繁華街へと向かった。

先輩ってこれすごいハーレムだよね。

良かったですね。先輩。

 

「何が良かったんだよ。俺は部屋で寝ときたかったっつーの」

 

先輩に私の心が読まれてるだと!?

 

「まぁいいか。腹も減ったしな。繁華街で適当にメシでも食うか」

 

「「「「「「ごちそうさまです」」」」」」

 

「いや、奢らないよ?」

 

 

 

 

 

「本当にお腹空いたよね!この辺のご当地料理とか食べたいかな~」

 

「うん、そうだね。姫咲ちゃん、この辺の名物とかってわかる?」

 

「ん~、私も頻繁に来るわけではないので…あんまり詳しくないですわ」

 

私達は談笑しながら繁華街を歩いていた。

先輩ってさっきから迷いもせずサクサク歩いてるけどこの辺詳しいのかな?

 

そんな事を思っていると先輩が動きを止めて一軒のお店を見た。

 

「おー、ここだここだ。俺はここで飯を食らう」

 

え、ここって…。

 

「さすがです。お兄さん。一生着いていきます」

 

「お、美緒ちゃんもここでいいのか?」

 

「はい。ここ以外の選択肢はないと言っても過言ではないでしょう」

 

「ラ、ラーメン……かしら?」

 

「え?タカさん、せっかく南の島まで来てラーメンなの…?」

 

花音ちゃんの言う通りですよ先輩 …。

せっかくの南の島ですよ?

 

「貴兄がここがいいなら私もラーメンでいいよ。貴兄の事だからすごい調べてここのお店選んだんでしょ?」

 

え?そうなの?

 

「ああ、まぁな。でもラーメン以外がいいなら後でどこかに適当に待ち合わせたらいいんじゃね?」

 

「ま、まぁ私もラーメンなんて滅多に食べないしここでもいいわよ」

 

「り、理奈さんラーメンあんまり食べないんですか!?」

 

「家ではたまに食べるけれど、外でってなるとあんまり機会がないわね」

 

「も、勿体ないです!ラーメンってすっごく尊い食べ物ですよ!」

 

「さすが美緒ちゃんはわかってるな」

 

私もラーメン好きだし先輩とも食べに行くけど…。

まぁ、ラーメン大好きの先輩が行きたいってお店だから期待は出来るのかな?

 

「ま、入るか」

 

結局私達7人みんなでラーメン屋に入る事にした。

 

「お兄さん……見て下さい…」

 

「ああ…超特盛ラーメン…30分以内に食べれたら無料か…。食費が浮くな…」

 

「ラーメン5玉って書いてますわよ?食べれますの?」

 

「あ、あたしは普通のラーメンでいいかな…」

 

「貴兄…30分以内に食べれなかったら3,000円だよ?」

 

「ああ!お、お兄さん!見て下さい!」

 

「な、何だと…!?トッピングも好きなだけ入れれるだと……」

 

「ここは……天国ですか…!?」

 

先輩と美緒ちゃんは超特盛ラーメンに挑戦し、見事に30分以内に食べきってみせた。

美緒ちゃんに至ってはさらに替玉まで頼んでいた。あの二人の胃袋どうなってるの?

 

 

 

 

 

「ふー!美味しかったです!大満足です!」

 

「ラーメンって外で食べるとすごく美味しいわね。たまに食べに行くようにしようかしら?」

 

「ほ、ほんとですか!?よ、良かったら一緒に行きませんか?美味しいラーメン屋紹介しますよ!」

 

「ええ、そうね。たまに一緒にラーメン屋に行きましょうか」

 

「ぴぎぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そう言って美緒ちゃんは倒れた。

よっぽど嬉しかったんだね。

ああ、でもこの光景も見馴れてきたなぁ。

 

「ま、まさか理奈さんにOKしてもらえるとは…ラーメンを一緒に食べに行く人なんてお兄さんくらいしかいないから幸せ過ぎて倒れてしまいそうです…」

 

うん、実際倒れてたけどね?

それより先輩とラーメン屋によく行くの?

 

「このロリコンは美緒ちゃんとよくラーメンを食べに行くのかしら?」

 

「あ?ああ、なんか週1でラーメン食いに行ってるな。たまたま会うって事もあるけど」

 

「麻衣達はラーメンはカロリーが高いとか言って一緒に行ってくれないんですよ。ずっと一人ラーメンだったんですけど、お兄さんという便利な……お兄さんというラーメン仲間が出来まして」

 

え?まじで?

奈緒はその事を知ってるんだろうか?

それより美緒ちゃん今先輩の事便利って言おうとしなかった?

 

「そうだな。んじゃこれからは美緒ちゃんとラーメン食いに行く時は理奈も誘うか」

 

「ええ!是非呼んで頂戴!楽しみにしているわ!」

 

理奈……ずるい……。私もラーメン好きなのに…。

後で奈緒にLINEしておこう…。

 

「ねぇねぇ、貴兄。この辺におすすめのお土産屋とかある?」

 

「ああ、今向かってる」

 

「さすが貴兄!頼れる~」

 

「タカさんってそんなにこの辺詳しいの?」

 

「貴兄は旅行とかお出掛けになると、すごく調べてくれるから。

みんなで遊びに行った時なんか旅のしおりとかよく作ってくれてたよね」

 

「旅行とかって時間が限られてるからな。想定外の事もよくあるし」

 

へぇ~、やっぱり先輩ってそういうとこマメだなぁ。

 

………ん?待ってよ。

それって先輩は今日の事も私達を色々連れて行ってくれようと調べてくれてたって事?

眠いとか寝たいとか言ってたくせに…。

ちゃんと私達に付き合ってくれるつもりだったんだ…。

 

「おお、見えてきた。あの店だ。あそこの店は総合店みたいな感じでこの辺のご当地アイテムがしこたま売ってるらしいわ。色んな店まわるより1つの店で揃えられる方がいいだろ」

 

「ありがとう貴兄」

 

結構大きなお店だなぁ。

お店に入ってから綾乃さんと花音ちゃんと姫咲ちゃんは食べ物のコーナーに。

理奈と美緒ちゃんは置物とかそういった雑貨のコーナーへと向かって行った。

 

「渚はお土産見ないのか?」

 

「わ、私は友達もここに来てるメンバーだけですし…。先輩こそお土産買わないんですか?」

 

「まぁ適当に親の分だけ買うかな。帰りに空港とかで」

 

先輩も友達ってここに来てるメンバーだけだもんね…。

 

「あれ?葉川と水瀬さん?」

 

私と先輩が話をしていると誰かに声をかけられた。

え?待って。先輩を葉川、私を水瀬って呼ぶ人なんて…。

 

「え? 木南…?え?何でこんな所にいるの?

……あ!南国DEギグか!?」

 

木南さん!?

この人の名前は木南 真希(きなみ まき)さん。

私と先輩と同じ会社の経理部の人だ。

木南さんも南国DEギグ見に来たの?

え?バンド好き?

 

「うん、私は南国DEギグにね。

それにしても……へぇ~、2人ってそんな関係だったんだ?」

 

「バカちげぇよ。あれだ…俺らも南国DEギグにな…」

 

「2人で?ニヤニヤ」

 

どどどどどどうしよう!?

ヤバい!まずい!先輩と付き合ってるとか思われたら大変じゃん!

 

「2人じゃないわよ」

 

「え?」

 

り、理奈ぁぁぁぁ!

助かった!助かった…!

 

「あれ?真希さん?」

 

「お?美緒ちゃん?」

 

「え?お前ら知り合いなの?」

 

木南さんと美緒ちゃんがお知り合い?

 

「はい。何度か一緒にLIVEした事がありまして」

 

「あはは、私達は解散しちゃったけどね」

 

「え?お前らバンド解散したのか?」

 

「うん、ボーカルの子が結婚しちゃったからさ。そのまま解散」

 

ええ!?木南さんってバンドやってたの!?

ってか先輩って木南さんがバンドやってた事知ってたんだ…。

 

「あ、そうだ。葉川って昔バンドやってたよね?私とバンド組まない?」

 

「あ?悪いな。実は俺もうバンドやってんだわ」

 

「はぁ!?ちょっと聞いてないんだけど!」

 

「いや、言ってないしな」

 

「教えてよ~。そういう事は~…」

 

「あの…木南さんってバンドされてたんですか?」

 

「あ、水瀬さんは知らなかったんだ?」

 

知らない知らない!

そんな事聞いた事ありませんよ!

 

「まぁうちの会社でも知ってる人は限られてたしな。

んで、またバンドやりたいって思ってんのか?ベースとドラムの子はどうしたんだよ」

 

「あの子達もボーカルの子が結婚したのをいい機会だって音楽辞めちゃってさ。

私はまだまだ演奏したいから…。ま、だから南国DEギグも一人参加なんだけどね」

 

ボーカルとベースとドラムの子が抜けたなら……木南さんはギターなのかな?

 

「……そっか。俺を誘ったって事はバンドメンバーに男が居てもいいの?」

 

「え?ギター探してるバンドに心当たりある!?男の子が居ても全然いいよ!

紹介するだけ紹介してよ!」

 

「そうだな。紹介くらいなら…」

 

ギターを探してるバンド…。

先輩、木南さんに綾乃さん達を紹介するつもりなのかな?

 

「待って貴兄」

 

「ん?綾乃?」

 

綾乃さん達が食べ物のコーナーから戻ってきた。

 

「え……っと、はじめまして。

私、貴兄の…葉川 貴さんの友達の北条 綾乃と申します」

 

「え?あ、はじめまして。

木南 真希と申します」

 

「えっと、どう言えばいいかな……。

私達バンドを始めようって段階なのですが、ボーカル、ベース、ドラムは居るんですけどギターを探していまして。

もしよければ私達のバンドに入ってもらう事考えていただけませんか?」

 

「え!?本当ですか!?

私なんかでよければ是非!」

 

おお?これはまさか綾乃さんのバンドメンバーが決まる流れですか!?

 

「あの、すみません。はじめまして。

あたし、綾乃さんのバンドでボーカルさせてもらう大西 花音っていいます」

 

「あ、はじめまして」

 

「あたしとしても木南さんに是非って気持ちはあるんですけど、木南さんってどうしてバンドやってるんですか?

もし、メジャーデビューしたいとかあったら…って思いまして」

 

あ、そっか。そういった意識も大切だもんね。

 

「あ~…メジャーデビューかぁ。

昔はそう思ってた事もあったけど、もう仕事もあるしね。今はライブがしたいってのがバンドやり続けたい理由かな。

ステージの上で思いっきり演奏したい」

 

「そうなんですね。良かった。

それならあたしも綾乃さんも同じ感じですから、是非あたし達とバンドやって欲しいって思います」

 

「ありがとう!あ、そうだ。北条さんも大西さんも今から時間ある?」

 

「?

特に予定はないですけど…。綾乃さん大丈夫ですよね?」

 

「あ、私も大丈夫だよ。いいかな?貴兄」

 

「ああ、いいんじゃない?」

 

「良かったー!じゃあさ、今からカラオケ行こうカラオケ!

大西さんの歌も聴いてみたいし、私のギターも2人のイメージに合うか聴いてもらいたいし!」

 

「え!?カラオケ!?」

 

「よし!行こうー!」

 

そう言って綾乃さんと花音ちゃんは木南さんに強引に連れて行かれてしまった。

木南さんってこんな感じの人だったんだ…。

仕事中は物静かな感じだったのに…。

 

「行ってしまわれましたね」

 

「嵐のような人だったわね」

 

「お兄さん、私達はこれからどうします?」

 

そうだね。お昼ご飯も食べたしお土産もみんな買えたみたいだし。

先輩は次はどこを考えてくれてるのかな?

 

「あ~…そうだな。その辺ぶらぶらすっか」

 

え?ノープラン?

 

そして私達がお土産屋さんから出た時だった。

 

「どーーーーん!」

 

「グハッ」

 

先輩がいきなり吹っ飛んだ…。

え!?何事!?何が起こったの!?

 

「……こないだとは違う女を連れてる。

やはりタカくんは軽薄な男……」

 

「は!?え!?何で!?美来!?

何でこんな所にいんの!?」

 

え?先輩の知り合い?

 

………え?

 

………私はその女の子の顔を見て驚いた。

 

…………梓…お姉ちゃん。

 

「あたしは仕事…。

だったけど、タカくんがたくさんの女の子連れてるから気分悪くなって早退した」

 

「は?何だそれ?」

 

似てる……梓お姉ちゃんに…。

 

「渚…」

 

「え?うん、何?理奈」

 

「似てるわねこの子…。Artemisの梓さんに…」

 

「……うん。理奈もそう思ったんだ…?」

 

「理奈さんと渚のお知り合いですか?

私もどこかで会ったような気がするんですけど…」

 

え?美緒ちゃんも?

美緒ちゃんって梓お姉ちゃんの事知ってるの?

 

って、いやいや、美緒ちゃんまだ高校生じゃん。梓お姉ちゃんの事知ってるわけないよね。

 

「それで?タカくんは何でこんな所にいるの?何でハーレム作ってんの?」

 

「ハーレムって……。俺は旅行だ旅行。

てか、何なの?ヤキモチ?」

 

「は?ヤキモチなんて妬くわけないでしょ?

あれがあれであれだからなだけだし」

 

「いや、わかんねーし。気分悪いならホテルとか戻れよ」

 

「は、白昼堂々とホテルに誘ってくるとは…。やはりタカくんは変態…。助けてお母さん…」

 

「相変わらずお前の耳どうなってるの?」

 

え~…何だろうこの置いてけぼり感…。

あ、多分理奈もそんな感じなんだね。前髪で目が隠れてるよ?なんか怖いよ?

 

「あの…お二人はお知り合いとかですか?」

 

姫咲ちゃんが先輩と女の子の間に入ってくれた。さすが姫咲ちゃんだ。

 

「ああ、こないだ盛夏と志保とシフォンと旅行に行ってな。そん時に知り合った」

 

「タカくんが命懸けであたしを守ってくれた。ただそれだけの関係」

 

先輩が!?命懸けで!?

 

「いや、デュエルギグ野盗に荷物取られて困ってたみたいだから俺らで取り返しただけだ」

 

へぇ、そうなんだ…。

だったらこの子は志保とも会った事あるんだね。

 

「それよりタカくん。あたし仕事早退したから暇になった。責任取って」

 

「何で俺が責任取らなきゃいけないの?」

 

「いやー、ちょうど良かったわー。

せっかく南の島まで来たのにずっと仕事ばかりで、まじ社畜だわーって思ってたところだったし。そんな訳でよろしく」

 

な、何だろう。この子の発言って先輩に似てる…。

 

「まぁ、いいんじゃないですか?

お兄さんのお友達なのでしょう?」

 

み、美緒ちゃん!?

 

「えぇぇ~」

 

「美来はタカくんのハーレムに加わった。いえ~い。ドンドンパフパフ」

 

でもこの子…すごく懐かしい感じがする…。

 

「あは、はじめまして!

私は渚だよ。水瀬 渚。美来ちゃんだっけ?よろしくね」

 

「渚……?………なっちゃん」

 

「!?」

 

ドキッとした。

梓お姉ちゃんに似てる子から…なっちゃんって呼ばれるなんて……。梓お姉ちゃん…。

 

「わ、私は氷川 理奈よ。よろしくね美来ちゃん」

 

「ん、理奈……。りっちゃん」

 

理奈はりっちゃんなんだ…。

 

「美来がなっちゃんとかりっちゃんとか言ってると…ほんま梓思い出すわ…」

 

先輩!?

先輩も…やっぱり美来ちゃんを見て梓お姉ちゃんを思い出してたんだ…。

そしてなっちゃんの事も思い出してくれたんですね、先輩♪

 

「あの…渚さん?どうしましたの?すごくニヤけてますけど…?」

 

「あは、何でもないよ!何でも!」

 

ヤバいヤバい、私ニヤけちゃってましたか!

 

「あの…貴さん、梓さんっていうのは?」

 

「あ?理奈は覚えてないのか。昔いたバンドのボーカルの女の子だけどな。

理奈も可愛がってもらってて『りっちゃん』って呼ばれてたんだぞ」

 

「そ、そうなのね…。

それじゃ、なっちゃんっていうのは?」

 

「なっちゃんか。

なっちゃんは梓ん家の近所の女の子だ。会った事は2回くらいしかねぇけどな」

 

「会った事が…2回しかない…?」

 

「ん?ああ。梓の地元のお祭りに遊びに行った時にな」

 

え?先輩?

その梓お姉ちゃんの家の近所のなっちゃんって私ですよ?

私の事思い出してくれたんじゃないんですか?

 

「そ、そうなのね…」

 

それから美緒ちゃんと姫咲ちゃんが挨拶を交わして、私達は一緒に行動する事になった。

取り合えず何かイラッとしたので先輩を蹴っておいた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、りっちゃん」

 

「……何かしら?なっちゃん」

 

「私達が美来ちゃんとも一緒に行動するのもいいんだけどさ?可愛いし」

 

「ええ、それで?」

 

「何で美来ちゃんは先輩の服の裾を握って歩いてるの?」

 

「すごく自然にそう歩いてるわよね。不思議だわ。貴さんにあんなにくっついて…気持ち悪くないのかしら?」

 

「だよね?美来ちゃん大丈夫かな?」

 

「ええ、心配ね」

 

「あ、あの…理奈さんも渚さんも何でそんな怖い顔をしてるんですか…?」

 

「しっ!美緒さん、静かに。

これは面白くなってきましたわ」

 

姫咲ちゃん?聞こえてるよ?

 

その後私達はショッピングモールでお買い物したりして過ごしていた。

 

「あら?」

 

「どうした姫咲?行きたい店でもあったか?」

 

「お店…というわけではありませんが、久しぶりにゲームセンターに行きたいかな?と…」

 

「へぇ、姫咲ちゃんってゲーム好きなの?」

 

「ええ、まぁ…」

 

「ま、ここならみんなも楽しめるだろうしな。いいんじゃね?」

 

そして私達はゲーセンで遊ぶ事にした。

 

「私はこんな所に来るのも初めてね」

 

「理奈さんもですか?私も麻衣達とプリクラとかは撮りに来ますけどゲームはあんまり…。家ではお姉ちゃんとたまにやりますけど…」

 

「あたしもゲームはソシャゲしかしない」

 

「理奈さんと美緒さん、美来さんはほぼ初心者ですのね。そうですわ。でしたら2人ずつチームに別れて勝負しませんか?」

 

「ふっ、姫咲め。俺にゲームで勝てるとでも思っているのか?」

 

「先輩こそ私に勝てると思ってるんですか?」

 

「では、私と貴さんと渚さんのチームに別れて勝負しましょうか♪」

 

私と先輩と姫咲ちゃんでじゃんけんをして、グーチーム、チョキチーム、パーチームと別れて、

理奈、美緒ちゃん、美来ちゃんで同じようにグーチーム、チョキチーム、パーチームと別れた。

 

「私がパーチームですわ」

 

「私がパーよ」

 

姫咲ちゃんと理奈が同じチームかぁ。

 

「さぁ!チョキは誰?私がチョキチームだよ!」

 

「チョッキチョキ~」

 

お、どうやら美来ちゃんが同じチームのようだ。

 

「はぁ…お兄さんと同じチームか…」

 

「え?嫌なの?」

 

「なんか…負けちゃいそうで…」

 

先輩と美緒ちゃんが同じチーム!

理奈のゲームの実力は未知数だし、姫咲ちゃんもゲーセン好きみたいだし上手そうだよね。

美来ちゃんもゲームはあんまりしないみたいだし私が頑張らないと…。

 

「なっちゃん」

 

「ん?何?」

 

「一緒に勝とうね」

 

そう言って美来ちゃんは少し笑った。

未来ちゃんってずっと無表情だったけど、こうやって笑うと余計に梓お姉ちゃんに似てる…。似すぎだよ……。

 

「うん!美来ちゃん頑張ろうね!」

 

なんか…久しぶりに梓お姉ちゃんと遊んでるみたいだ…。

 

「でも3チームでやれるゲームなんて限られてるよな」

 

「では、このレースゲームとかいかがですか?」

 

姫咲ちゃんが選んできたのはレースゲーム。これならシンプルだしゲームをあんまりやらない理奈達も大丈夫かな。

 

「1位の人から5ポイント、4ポイント、3ポイントとポイントを振っていき最終的にポイントの高いチームが優勝にしましょう」

 

なるほど。って事はドベだと0ポイントって事だね。

1位を取っても相方がドベだと5ポイントしか入らないけど、2位と3位を取れば7ポイントか…。

 

「まぁやってみるか…」

 

 

結果は姫咲ちゃんが1位、なんと美来ちゃんが2位、美緒ちゃんが3位で先輩が4位、理奈が5位で私がドベだった…。

 

「せ、先輩があんな所で亀の甲羅を投げてくるから私がドベになっちゃったじゃないですか!」

 

「いや、だって俺の前に居たから邪魔だったし…」

 

「ポイントは私のチームが6ポイント、タカさんのチームが5ポイント、渚さんのチームが4ポイントですわね」

 

「なっちゃん、大丈夫。あたしが次のゲームでタカくんを葬ってあげる」

 

「美来ちゃ~ん……」

 

「では、次はリズムゲームをやりますか。この太鼓のゲームで協力プレイをしてスコアの高いチームから3ポイント、2ポイント、1ポイントという事で♪」

 

「リズムゲームか…リズム隊2人のチームが優勢じゃねぇか?」

 

 

結果はやっぱりというか姫咲ちゃんのチームが1位、先輩のチームが2位、私のチームが3位だった…。

 

「なっちゃん、ごめん…」

 

「あはは、私もボロボロだったから…」

 

「しゃあねぇな。姫咲、次は俺がゲーム選んでいいか?」

 

「何でも構いませんわよ」

 

「じゃあ次はこれだ」

 

先輩が選んだのは球体ドーム型のロボット対戦ゲーム。

その中で擬似的にロボットを操縦して戦うゲームだ。なんか説明するの難しい…。

 

「どうやって勝敗を決めますの?」

 

「ああ、チーム毎に正規軍、反乱軍、革命軍に別れて純粋に勝ったチームのポイントが3ポイント。2位と3位は被害の大きさで決めればいいんじゃないか?」

 

「わかりましたわ」

 

 

「ま、まさか…私がゲームで大敗を……理奈さん…申し訳ありません…」

 

「まぁ、しょうがないんじゃないかしら?私もそんなに動けたわけではないし……貴さんと渚と美来ちゃんの動きが異常だったわ……」

 

「いえ~い。やったね、なっちゃん」

 

「クッ…まさか美来があんなに動けるとはな…誤算だった…」

 

そうなのだ。私と先輩はたまに仕事の帰りにこのゲームをやっているので馴れたものだったけど、美来ちゃんがあんなに動けるとは思わなかった。

まさか美来ちゃんはニュータイプとでもいうのか!?

 

「これで姫咲さんのチームが10ポイント、渚さんのチームが8ポイント、私達のチームが9ポイントか…」

 

「そろそろラストにすっか。何のゲームにする?」

 

そうだなぁ。何のゲームだと勝てるだろうか?

 

「これ。あたしこれがいい」

 

美来ちゃんが選んだのはクレーンゲーム。

え?クレーンゲームでどうやって勝敗を決めるの?

 

「クレーンゲームでどうやって勝敗を決めるんだ?」

 

「タカくんは愚か。チーム毎に別れて一番大きい景品を取って来たチームの勝ち。もちろん制限時間を決めて時間内に取れなくてもダメ」

 

「まぁいいけどな。クレーンゲームは俺の最も得意とするゲームだしな」

 

うっ…確かにそうだ。

先輩はよくゲーセンで景品取ってるもんね…。

 

「わかってる?多く取ったチームの勝ちじゃないよ?大きい景品を取ったチームの勝ちだよ?」

 

「ふっ、余裕だな」

 

「では簡単にルールを決めましょうか。制限時間…15分程度にしましょう。

制限時間内に一番大きい景品を取って来たチームの勝ち。使用金額は…好きなだけで」

 

使用金額好きなだけって…!

それって姫咲ちゃんに有利じゃん!?

あ、でも制限時間あるからそうでもないか…?

 

「ついでにもう1つ追加いいか?

今6時40分だ。6時45分になったらここから同時にスタート。7時にゲーセンの入り口に到着出来なかったチームも負けにしよう。じゃないとバラバラでゲームやってたら時間内に取れたのかどうかもわからないしな」

 

「つまり実質景品を取る時間に掛けられるのは10分ちょっとってところかしら?」

 

「確かにそれで曖昧さは回避出来ますね」

 

「いいですわ。それでいきましょう」

 

そして私達はチーム毎に別れて作戦会議に入った。

 

 

 

--姫咲チーム

 

「理奈さんはクレーンゲームとかされますか?」

 

「いえ、ほとんどやった事ないわね」

 

「では私がやりますわね。一緒に一番大きいぬいぐるみを狙いましょう。私達がその台に居れば『一番大きい景品』という点で負ける事はありませんわ」

 

「悪いわね、任せっ放しになってしまって……」

 

「いえ、そんな事ありませんわ。

先程のリズムゲーム…。悔しいですが私のスコアより理奈さんのスコアの方が高かったですし、ロボットゲームの時は私が速攻で落とされてしまいましたしね」

 

「ロボットゲームはしょうがないんじゃないかしら?貴さんと渚に集中的に狙われてたわけだし…」

 

 

 

--貴チーム

 

「美緒ちゃんはクレーンゲームした事ある?」

 

「あるにはありますけど…ほとんど取れた事はありません…」

 

「そっか。なら俺がやるから美緒ちゃんは見ててくれ」

 

「お兄さん……。俺を見てろって……ちょっと年齢考えてくれませんか?ごめんなさい」

 

「うん、間違いなく美緒ちゃんは奈緒の妹だな。今すごく納得したわ」

 

 

 

--渚チーム

 

「美来ちゃんはクレーンゲーム得意なの?」

 

「それなり…。

ゲーセンではクレーンゲームしかした事ない。でも推しのグッズが出たら必ずゲットしてる」

 

推しのグッズが出たら…?

そういえばさっきゲームはソシャゲしかしないって…。

 

そ、そうか!美来ちゃん!

美来ちゃんもこっち側の住人なんだね!

うわっ!更に親近感!!

 

 

 

「そろそろ45分ですわ。

それでは……スタートです!」

 

姫咲ちゃんのスタートの声と共にクレーンゲーム勝負が始まった。

 

先輩チームと姫咲ちゃんチームは何か狙ってたの?って思うくらいな感じで走って行った。

わ、私達も急がないと…!

 

ぐいっ

 

私は何か引っ張られたような感じがしてその方向に目をやった。

 

「なっちゃんそっちじゃない。こっち」

 

え?美来ちゃん…?

 

「秘策があるから大丈夫」

 

大きなぬいぐるみコーナーがあるのは先輩や姫咲ちゃん達が走って行った方だ。

美来ちゃんは私の手を引いて逆方向に歩きだした。

 

 

「これを取る」

 

こ、これは…!?

 

美来ちゃんが私を連れて来た場所は乙女ゲーやギャルゲーのアミューズメントグッズが景品になっているコーナーだった。

ぐふふ、いいなぁ、この空間。

アレもコレも欲しい…なんかヨダレが出てくるよ。ジュルリ。

 

って!違う違う!

何でこんなコーナーに来たの美来ちゃん!?

 

「み、美来ちゃん?何でこのコーナーに…?」

 

「ああ…アレもコレも欲しくなってくる…。ジュルリ」

 

!?

やはり…!美来ちゃんはこっち側の住人!

よし、聞いてみよう…。

 

「み、美来ちゃんさ…」

 

「ハッ!?

……なっちゃん。あたしの出した勝負の条件覚えてる?」

 

「え?勝負…?もちろんだよ?

一番大きな景品を取って来たチームの勝ちって……」

 

「そう。一番大きな景品。

あたしはこんなコーナーよく知らないし興味もないんだけど。いや、全然興味なんかないよ?うん、マジで」

 

え?え?え?

興味ない振りが下手すぎるよ?

 

「ここならアレがあると思って…」

 

アレ?アレって何だろう…?

 

「あ、あった。あたしはコレを取る」

 

「え?美来ちゃん……コレって……」

 

 

 

 

今時間は6時58分。

タイムリミットである7時まで後2分。

 

ゴールであるゲームセンターの入り口には私と美来ちゃん、姫咲ちゃんと大きな犬のぬいぐるみを抱きながら光悦の表情をしている理奈が居た。

 

先輩と美緒ちゃんはまだ戻って来ていない。

 

「制限時間まで後2分…。

タカさん達は間に合わなそうですわね」

 

「先輩…クレーンゲームは得意なはずなのに…」

 

「私達の勝ちかしらね。渚達は……その景品で良かったの?」

 

そうなのだ。

私達が…美来ちゃんが取った景品は大きくない。

美来ちゃんが片手で持てる程度の大きさの景品。

 

「大丈夫。問題ない。

それよりタカくんの景品が怖い。このままタイムオーバーになってくれたらいいけど…」

 

え?で、でも姫咲ちゃん達の景品って理奈が両手で抱っこする程大きいんだよ?

 

「あ、タカくん達だ」

 

本当だ。

先輩と美緒ちゃんが走ってこっちに向かって来てる。

でも何か景品を持ってるように見えない。

今はまだ6時59分。これなら先輩達も間に合うかな。

 

……あれ?

美緒ちゃんが急に動きを止めた。

どうしたんだろう?

 

 

 

 

--貴チーム

 

「え!?どうした美緒ちゃん!?」

 

「……」

 

「美緒ちゃん……?」

 

「……」

 

「ん?あ?これって…」

 

「……」

 

「美緒ちゃん」

 

「……あ、ご、ごめんなさいお兄さん。

ちょっと…あ、時間ですね。急ぎましょう!」

 

「……このマスコットが欲しいのか?」

 

「い、いえ!そんなのじゃないです!

変な人形だなーって思って…。それより時間です!急ぎましょう!」

 

「………このピンクの熊?」

 

「何言ってるんですか!?急ぎませんと!」

 

「ちょっと待ってろ…。このピンクの熊、なんか何かを思い出すな」

 

「お兄さん。それは危険です。思い出さない方がいいです…って時間!お兄さん!」

 

「もう間に合わないだろ………ほれ、取れた」

 

「お、お兄さん……何で…」

 

「ん?え!?まさかそれじゃなかった!?」

 

「いえ……これです…。これが欲しかったんです…」

 

「はぁ~……良かった…。違ってたらどうしようかと思ったわ」

 

「これ…私の好きなキャラのマスコットで…ピンク色は限定カラーで……どこにもなくて…」

 

「そか。見つかって良かったな」

 

「時間ですわね」

 

「チッ、間に合わなかったか…」

 

「お兄さん…このマスコット…私が見つけなかったら…」

 

「このまま勝敗決まって、はい終わりってなったらそのマスコット取る時間無くなったかもだろ?

勝負に勝つより美緒ちゃんの欲しいマスコット取れた方がよっぽど良かったわ」

 

「お義兄さん……」

 

「え?なんか漢字違わない?」

 

 

 

 

そして先輩のチームは制限時間までに間に合わず、私達と姫咲チームの勝負になった。

 

「さ、さすが姫咲さんですね…。理奈さんの持ってるぬいぐるみ、すごく大きいです…」

 

「………渚が選んだのか美来が選んだのか。この勝負、渚チームの勝ちだな」

 

「え?」

 

「私達の取ってきたぬいぐるみは縦70cm、幅40cm、厚さ15cm。

単辺では70cmですが、大きさ的には70+40+15の125cm。って事ですわね♪」

 

125cm…!?

わ、私達の取ってきた景品は…。

 

「あたし達の勝ち。いえ~い」

 

え?

 

「え?ど、どういう事かしら…?美来ちゃんの持ってるそれが景品なのよね?」

 

そ、そうだよ。私達の取ってきた景品は…。

 

「これ。ここ見て」

 

ここ?

 

「……!?そ、それは!?」

 

美来ちゃんが私達の景品を見せて指を指した所。

そこにはその景品のサイズが記されていた。

 

『大型ブランケット 120cm×100cm』

 

「え?これって…」

 

「これを広げたら220cm。あたし達の勝ち。いえ~い」

 

「ま、負けましたわ…大きさ…って言葉に惑わされた私の…完全敗北ですわ…」

 

「そうだな。単辺でだけでの勝負でもお前らの負けだったな」

 

「クッ……せ、制限時間に間に合わなかったタカさんには言われたくありませんわ…」

 

「そーでっか」

 

私達のゲーセン勝負は、姫咲さんチームが12ポイント、私達のチームが11ポイント、先輩のチームが10ポイント。

姫咲ちゃんのチームが優勝で先輩のチームが最下位で終わった。

 

「勝った気がしませんわ…」

 

「私もよ」

 

「でも楽しかったよね!ね、美来ちゃん」

 

「うん。楽しかった。でもお腹空いた」

 

本当に…楽しかった。

美来ちゃんとも仲良くなれたし…。

れ、連絡先の交換とかお願いしたら引かれるかな?うぅ…もっと仲良くなりたい…。

 

「お兄さん…ごめんなさい…」

 

「ん?何が?」

 

「私が…このマスコットを……そしたら優勝は…お兄さんが取った景品だったら…」

 

「そんなんどうでもいい。

勝ち負けよりそのマスコットのが大事だと思ったんだしな。結果俺的には勝利したと言っても過言ではない」

 

「お兄さん…」

 

「だから気にすんな。マスコット喜んでくれた方がずっといいぞ?」

 

「………お兄さん、あのバンドのボーカルちゃん好きでしたよね?」

 

「あ?好きってわけじゃねぇよ。大好きってレベルだ」

 

「また変な事言って…お姉ちゃんが苦労するわけですね…」

 

「そりゃすみませんねぇ」

 

「お兄さん、ちゃんと聞いて下さいね?」

 

「あ?」

 

「タカさん、これ大事にするね」

 

「う?」

 

「取ってくれて…ありがとう」

 

「ぴぎぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「え!?ちょ……お兄さん!?」

 

え?先輩?ど、どうしたの?

 

「我が生涯に一片の悔いなし…」

 

「お兄さん!?お兄さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

「あ~…俺…生きてたか…」

 

「もうお兄さんの前ではあの子のモノマネしません」

 

「え?土下座してもしてくれない?ならラーメン奢ろうか?」

 

私達はホテルに戻る道中を歩いていた。

 

「それにしてもいい時間になったな。綾乃達はカラオケから帰ってきてるかな?」

 

うん、私もちょっとお腹空いたかな。

あ、美来ちゃんのホテルってどこなんだろう?出来ればもうちょっと一緒に居たいなぁ…。

 

「あ、あたしのホテルこっちだ。

タカくん、なっちゃん、みんなありがとう。あたしは帰る」

 

「ん?もう帰るのか?

よかったらこのまま晩飯も一緒にって思ってたんだけど…」

 

「……ん、帰る」

 

美来ちゃん…帰っちゃうのか…。

よ、よし、連絡先の交換を…。

 

「今日は…本当に楽しかった」

 

「私も楽しかったわ。また一緒に遊びましょう」

 

「私もですわ。また一緒にゲームで勝負して下さいね」

 

「私も楽しかったです。美来さん、ありがとうございました」

 

みんな美来ちゃんにお別れの挨拶をした。私も…楽しかった。別れたくないよ…。

 

「お姉ちゃ…ん…」

 

「ん?なっちゃん?」

 

……ハッ!?

ヤバイ。ついお姉ちゃんって言っちゃった。な、何でだろう…。

 

「なっちゃん……いくつ?」

 

「え?わ、私?22だけど……」

 

「そ。ならお姉ちゃんで合ってる。

あたし25だし」

 

え?え…?えええええええええ!?

み、未来ちゃん25!?にじゅうご!?

こ、こんなちっちゃいのに!?

ま、まどかさんより歳上だと…!?

 

「なっちゃん…人の胸見てちっちゃいとか思わないでくれる?まだ発展途上中だから」

 

ちが…!いや、ちっちゃいとは思ったけど胸のお話じゃないですよ!

胸の話なら……え?私より美来ちゃんの方が大きくないですかね?

 

「なっちゃん…」

 

え?

 

私は美来ちゃんに抱き締められた。

わ、私のお顔が美来ちゃんのお胸に…!!

 

「なっちゃん…ありがとうね。

今日はすごく楽しかった…大好きだよ、なっちゃん」

 

み、美来……

……お姉ちゃん。

お姉ちゃん……!

 

「な、なっちゃん…痛い。おっぱいが痛い」

 

あ、つい思いっきり抱きついちゃった。

は、離れないと。

 

「あ、あははは、ご、ごめんね美来ちゃん」

 

「ん?お姉ちゃんでいいよ?」

 

私は急いで美来お姉ちゃんから離れようとした。

 

ブチッ

 

「あ…」

 

美来お姉ちゃんの胸に着けていた何かが私が離れた拍子に千切れて飛んでいってしまった。

 

「あ、あたしのお守り…」

 

おおう!

美来お姉ちゃんのお守りでしたか!?

ご、ごめんなさい。

 

「お前ら何やってんの?」

 

美来お姉ちゃんのお守りは先輩の所に飛んでいったみたいで、先輩がそれを拾ってくれた。

良かったぁ。遠くに飛んでいかなくて。

 

「あ、あはは。先輩、ごめんなさいです。美来お姉ちゃんのお守りを私が引きちぎったみたいでして…」

 

「美来お姉ちゃん?お前いつから美来の事、美来お姉ちゃんって呼ぶようになったの?」

 

最後に失敗しちゃったなぁ…。

私は先輩の元に駆け寄りお守りを受け取ろうとした。

だけど…。

 

「………このお守り」

 

先輩はお守りを受け取ろうとした私を無視して美来お姉ちゃんの方に歩いて行った。

先輩…?どうしたのかな?

 

「このお守り…美来のか?」

 

「うん、あたしの大切なお守り」

 

「そう……か」

 

先輩?どうしたのかな?

 

「……うん。タカくん、拾ってくれてありがとう」

 

「いや…別に…」

 

そして先輩は美来お姉ちゃんにお守りを返した。

 

「……随分年季の入ったお守りだな」

 

「何?汚いって言いたいの?」

 

「………ちげぇよ。

よっぽど大事なお守りなんだなって思っただけだ」

 

「ずっと昔に…お母さんから貰ったお守りだから……」

 

「そっか」

 

「じゃあね。タカくんバイバイ」

 

美来お姉ちゃんはそう言って走って去っていった。

 

「せ、先輩…?」

 

美来お姉ちゃんが走って去っていった方向を見つめたまま、先輩は動かなかった。

 

まるで……時間が止まったような。

 

そして私には…何故か先輩が泣いているように見えた…。


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